271話 待ちに待った手紙と
大目に見て何とか週一更新!!!!
急に忙しくなったり暇になったりで予定がwwwもうwww
採取地から工房へ戻って、その翌日には釣具店へ。
留守をしてくれていた二人には、旅の成果の一部として収穫した薬草はもちろん、釣り上げた魚や貰った釣り道具などについても報告したんだよね。
その時に出会った夫婦と釣具店についての話をして、朝食後に行くつもりだと伝えるとベルとラクサの二人も行きたいと声を上げた。
なんでも、ベルもラクサも釣った魚を使った料理を食べて俄然やる気が出たらしい。
店内に入るや否や、真剣な顔で色とりどりの釣竿やリールという釣り糸を巻き取る専用の道具、手作りだという疑似餌、仕掛け網やたも網各種、すごく高額だけど時間停止の効果が付いた収納袋まで熱心に吟味し始めたのだ。
(リールも釣竿も、なんだかすごかったな。世界中の釣り好きが加入している『釣りギルド』っていうのがあるのも初めて知ったけど)
ちなみにこの『釣りギルド』は、誰でも入会ができるらしい。
銀貨二枚で『釣り師の証』という冒険者カードのようなものをもらうことができた。
これで、各国にある釣具店の商品が一割引きで買える上に、釣り師でなければ入れない場所にも行けるようになるんだとか。
最終的に全員が釣竿を手に入れたので、冬期休暇が明けたら採取がてら釣りをすることに。
場所は、今回行った『彩りの雑木林』でサーモス狙いだ。
釣具店で釣りの話をして盛り上がってから、数日。
私達は普段通りの生活を送っていた。
「ふぅ。これで大体、店の在庫は大丈夫かな? 冬って結構長いから少し心配」
「気持ちはわかるけど、大丈夫だと思うわ。店を開くついでに冬期休暇中の開店時間もお客に伝えたけれど、どの人も『店を開けてくれるのか』なんて言うんだもの。時間を短縮した開店だから文句の一つ二つ言われると思ったのだけれど」
大きな木箱を重ねたベルにうん、と私も頷く。
私の手には在庫表があって、リアンやベルがいない間はしっかり管理できるようにと勉強中。
採取から戻ってきてすぐ、教会裏の雑木林でも採取はさせてもらっているから、少しだけアオ草は集まった。
意外だったのは、シスターたちが乾燥させたアオ草を沢山取っておいてくれたこと。
流石にタダでもらう訳にはいかなかったので【アルミス軟膏】と【初級回復ポーション】【常備薬グミ】と交換してもらった。
アオ草だけじゃ足りないってことで、冒険者ギルドに卸す予定だった【スライムの核】や【聖水】【聖灰】までくれたんだけどね。
大量に色々くれたのは【常備薬グミ】がとても助かるから、という理由らしい。
子供が多いので、季節の変わり目や寒くなってくると風邪をひく。
その時、苦い薬を飲ませるのが大変なんだそうだ。
「冬に錬金術の店が開くことは稀だからな。冒険者はダンジョンへ移動することができるから、回復薬の確保はすでに終わって移動している。だが、騎士はそうはいかないだろう? だから、歓迎される。それに住民にも【トリーシャ液】や【洗濯液】は広がってきている。あかぎれなどになりやすい冬に比較的安く【アルミス軟膏】やそれに類するものが買えるのは助かるんだ」
「なるほど。だから午前中だけ店を開けるって話でも喜んでたんだね。けど、それならもうちょっと在庫ないと大変じゃない?」
「いや、そうでもない。ニーズがあるのは間違いないが、消費が一番激しいのは冒険者だ。それは販売をしているから感覚で分かるだろう? その冒険者たちがここを離れるということは消費量も減る。騎士も一定数いるが、街にいる騎士は危険が少ない。そのうえ冬は物価が上がるから、節約傾向が強まるんだ。ポーションの類より、常備薬グミの備蓄を増やした方がいいのはそういう理由がある。ただ、春はかなり忙しいぞ。地方に散っていた冒険者や旅行者が一気に押し寄せるからな。春の食材を楽しみに訪れる者は多い」
そういうことか、と納得してチェックした在庫表をリアンに渡す。
本当なら全部察して理解する力がいるんだと思う。けど、人数の把握というか『人がたくさんいていつ誰が来るかわからない』っていう状況でお店を開いているっていうのが前提にあって、どうしてもいっぱい作っておかなきゃって思っちゃうんだよね。
一日に売れていく商品の数が一気に減るって経験をまだしていないっていうのも大きい。
リアンの話を聞いて、春を待ち遠しく思いながら頭の片隅に首都の冬についてのメモをつけ足しておく。
ベルもそういう事情を理解したのか、意識が別のところへ向いたようだ。
「それで、これはどうするの?」
「ああ、調合した【常備薬グミ】だが、これから僕がニヴェラ様のところへ持って行く。ライム。何か渡すものがあるなら渡してくれ。ついでに買い出しもしてくるが」
「乾燥果物作っておきたいから、果物が安かったら買ってきてほしいかな。それと、今持ってる麦蜜一瓶と『彩りの雑木林』で採取したキノコ、干した魚を持って行って。乾燥麦とゴロ芋も追加でお願い。麦蜜もうちょっとストック欲しいんだよね。砂糖の代わりになるから食費が安く抑えられるし」
「わかった」
店用の在庫品に関してはこれで問題なし。
次に向かったのは食料を置いている区画。長期間保存出来て、店売り商品の素材になる物は多めに、それ以外もまんべんなく置いてある。
「冬は長いし、とりあえず塩漬け肉をもう少し多めに作っておきたいかな。それと、ジャーキーは肉だけじゃなくて魚のジャーキーにも挑戦したいんだよね。サーモスがもう一匹釣れていれば、間違いなく美味しくなったんだろうけど……うーん、このあたりの魚で試してみようかな」
ペッシ・ペルシュと呼ばれる大型の白身魚である通称:海ペルカと、数が釣れたジャカロを選んだ。
ジャーキーは、錬金術を使わなくてもできる。
でも、前に作ったものは【干し肉】のレシピを少しアレンジしたものだ。
といっても、工程を少し変えただけなんだけどね。
(干し肉は、調味液につけて、魔力を込めながら十分揉みこんで、十分後に香料と肉素材を調合釜で、三十分ぐるぐる混ぜるだけ……だったんだけど、工程を工夫した方がおいしくなったんだよね)
素材を調味料に漬けて魔力を込めるのは変わらないけれど、揉みこむ時間を十分、放置を十分。再び十分間揉みこんでから、両面を炙り焼きに。
それから素材を調合釜に入れて魔力を込め、まぜながら軽く塩を振る。この時間は十分。ここで、胡椒と香料を入れて五分再度魔力を込めて混ぜる。
胡椒と香料を半乾燥状態になったら取り出し、乾燥袋で一気に乾燥。
これで味がしっかりついたジャーキーになるんだよね。
味の調整もしやすいし、品質もいいから私の中でのレシピはこれで決まった。
「ジャーキーを作るの?」
「うん。ベルもリアンも好きだって言ってたし、結構量は作るつもり。あれってよく噛むし、味が濃いからずーっと口に入れていられるじゃない? お腹が空いたの誤魔化せるんだよね」
「軽率に食事を抜くな」
「私達これからというか、今成長期なんだから、しっかり食べないと背も伸びないわよ」
「食べたくても食べられない時の為だってば。今は、沢山素材があるし普通に食べるから大丈夫」
「貴女の大丈夫って、割と大丈夫じゃないのよね。それはまあ、おいておくとしてジャーキーは欲しいわ。家族で移動するから、すぐなくなりそうだけれど」
わかった、とうなずいてベルとリアンには家族分渡すことを決めた。
お肉はベルが時々倒した獲物を血抜きして持って帰ってきてくれるから、沢山あるんだよね。
他にも保存食について話をしてから、地下を出た。
昼食は取り終わっていたから、リアンとベルが店番をするからその間、保存食を作ってほしいと言われた。
なんでも、魚のジャーキーは早めに食べてみたいんだって。
美味しかったら、沢山作ってほしいとお願いもされて苦笑。
とりあえず、手帳を開いて【干し肉】から派生した【ジャーキー】のレシピを見る。
自分で考えた応用レシピもしっかり手帳に載るところは不思議だけど、無駄にはならないからありがたく活用させてもらうつもり。今後もね!
【ジャーキー】
肉・魚素材+胡椒+調味料+香料
素材を調味料に漬け魔力を込め十分揉み、同じ時間寝かせる。もう一度、魔力を揉みこんで、両面を炙り焼きに。この時、中は生でも問題ない。
焼いたら、調合釜で魔力を込めながら、混ぜて軽く塩を振り、十五分間ぐるぐる混ぜる。
半乾燥状態の素材を、乾燥袋で一気に乾燥させる。
干し肉に比べ、品質が良く、味もいい。無限に食べられるおつまみ。子供のおやつにも!
※下処理として、脂身はできる限り取り除く。脂身部分が少ない部位を使う。魚の場合は油の少ないさっぱりとしたものが向く。また、皮を剥ぐのもあり。
比較的脂身の少ないお肉を選んで脂身をそぎ落としたら、噛み切りやすく、持ちやすい大きさに切る。大体幅広のスティック状にすれば大丈夫。そうならないところもあるけれど、それはそれで問題なしだ。
魚も同じように、と思ったんだけど今回は脂が少ない魚なので、皮は残すことにした。
魚の方は生臭みが強く残ると嫌なので、香草にほんの少しだけ『彩りの雑木林』で見つけた【カルモンの種】を追加したものを使った。
また、放置時間にカルモンの葉を敷いた上に魚の身を乗せ、その上からもカルモンの葉を被せる。
カルモンの香りは私が好きな香りってこともあるけど、カルモン自体に殺菌効果と消臭効果があるとのこと。あ、もちろんリアンの鑑定調べね。
揉みこんだり、寝かせたりしながら味をなじませたら、焼く。
焼くことを踏まえて少し厚めにした魚や肉は、裏庭で火をおこし、そこで焼くことに。
サフルが準備をしてくれたので、ありがたく焼いて、そこでちょっとだけ味見。
あ、味見分はしっかり火を通したよ。
「うん、これはこれで美味しいけど塩っけが少し足りないね」
「美味しいです。とても」
もぐもぐ、と二人で食べているとルヴたちが近づいてきてちょこんとお座り。
流石に無視できなかったので、味付けをしていないお肉を取り出して、二枚焼いた。
塩はかなり控えめだ。
冷ましてからお皿に乗せて差し出すと尻尾がちぎれるんじゃないかと思う位全力で振りながら食べ始めた。
体が大きくなってきたからか、お肉とか食べ応えのあるものを好むようになってきたのだ。朝、すでに外へ行って走って来ただけじゃなく、獲物も持ち帰ってきたのには笑った。
「さっき食べたお肉は、朝、ルヴたちが狩ってきた獲物だよ。美味しかった?」
わふ、と返事をしてスリスリと足のあたりに頭を擦り付ける。
手と上半身に体を擦り付けないのは、私が調合中だからだろう。
配慮がもう、人間より上手いかもしれないなーなんて思いつつ、表面のみを強火で焼いた状態の肉や魚を持って工房へ戻る。
調合釜の前に立ち、素材の魚をまず放り込んで、塩を振った。
この魚は汽水域で釣ったから元々塩分は控えめにする予定。川魚の場合は、肉と同じ塩の量にする。
素材は調合釜の下に沈んでいた。そこから少しずつ小さな泡が出て、調合釜の表面にたまっていく。
「……水分、こんな風に抜けるって最初は思わなかったからびっくりしたっけ」
当然、どういう仕組みなのかはさっぱりわからない。
けれど、確かに湧水が地下からコポコポと湧き出すように、少しずつ、少しずつたまっていくので面白い。
以前にも作っていたので、驚きはしないけれど不思議な気持ちでぐるぐる調合釜を混ぜながら満遍なく魔力を注ぐ。
ある程度、生臭い水がたまったら調合釜表面に溜まったものを掬い、ボウルへ。
十五分が経って分かったのは、肉よりも魚のほうが水分が出るということ。
調合釜の真ん中あたりにプカプカ浮いている素材を引き上げて、乾燥袋へ。
完全に水分を抜いても問題ないので遠慮なく全力で乾燥させた。
カラカラになった魚ジャーキーを試しに一口。
「……! うわ、これおいしい。どうしよう、もうちょっと作ろうかな」
パサパサに乾燥した魚の身だけれど、乾物独特の臭みがない。
これは錬金術で作ったことと、消臭殺菌効果のある香草を使っているからだろう。
ほんの少しだけピリッとするのは、胡椒とカルモンの種。
もぐもぐと咀嚼しつつ、完成したジャーキーを一口大にしたら、それを四つ手に店舗スペースへ。
途中でサフルに会ったので口の中に入れる。
「美味しいです。うっかり手が伸びてしまうような味ですね」
「そう思う? 私もこれ結構好きだから、もう一回作るね」
「お手伝いできることがありましたら、ぜひ声をかけて頂けると嬉しいです」
礼儀正しく頭を下げて裏庭へ向かうサフルとすれ違いで、ラクサが現れた。
作業部屋からお守り袋用の在庫を持ってきたのだろう。
ラクサの口にもジャーキーを入れたんだけど、噛んでいくうちに目がキラキラと輝いた。
「うっまいッスね! これ、オレっちに売ってくれないっスか? 肉のジャーキーも好きなんスけど、魚のほうが好みなんスよね。臭みが一切なくていい香りがするのに食べたらしっかりガッツリうま味が濃縮した魚ってところがいいっスねぇ。臭みがあっても、気にはならないんすけど、これだけ臭いが薄ければ夜営の時なんかによさそうッス」
外で食べる場合、場所によって臭いの強いものは駄目、ってことも多い。
美味い、と機嫌よくカウンターへ向かったラクサの後を追って、店舗スペースへ目を向ける。丁度、会計が終わったらしい集団客を見送るとお客が途切れたので、商品補充のために立ち上がったベルの口にジャーキーを入れる。
「……美味しいわね、これ。ライム、これも頼んでいいかしら」
「いいよ。お肉のジャーキーはこれから作るけど、魚はもう一回分くらい作ろうかなぁって思ってるんだよね」
冬期休暇中は、リアンとベルがいないので二人分の食材が余る予定だ。
それを考えるともう一回分作っても問題はない。
(毎日お魚だとあっという間になくなっちゃうけど、お肉もあるし)
釣具屋さんで燻製にした魚を買ったから、それを考えると充分だ。
エビも小さいけどカニもいるしね!
地下へ向かったベルと持ってきた在庫品を並べるラクサとは違って、カウンターに座ったまま帳簿に何やら書いているリアンに近づく。
口を開けて、と言えば素直に口を開けてくれたので口の中にジャーキーを入れた。
「ん、美味い。この味で肉のジャーキーも作るのか?」
「お肉には、カルモンの種の代わりに肉の臭み用の香草かな。乾燥したのを粉末にして塩と混ぜるつもり。前に渡したジャーキーと同じ味にするつもりなんだけど」
「ああ、前にラクサに持たせてくれたやつか。あの味なら間違いなくうまいな。すまないが、僕も少し多めに貰っていいか? 両親ともに酒は好きなんだが、母が無類の酒好きで、晩酌用のつまみを良く横取りされるんだ」
パッと脳裏によぎったのは、元気だけれど上品な印象が強いリアンのお母さんの姿。
お酒大好き!って感じには見えないなーと思っていると、リアンは首をすくめる。
「僕が酒に強いのは、母に似たからだ。父も弟も人より少し強い程度で、会合なんかではよく驚かれていたな」
「へぇ。じゃあ、ベルはワインを持って帰って、リアンは清酒を持って行ったらいいんじゃない? どっちも私は料理に使う位しかしないし」
「……いいのか?」
「うん。ベルにも話しとくよ。魚のジャーキーは追加、ってことで作っておくね。店番お願いして申し訳ないけど、後で帳簿も見せて欲しい」
わかった、と頷くのと同時にドアが開いた。
お客さんは新人から漸く冒険者業に慣れ始めた二組のパーティーのようだ。
いらっしゃいませ、ごゆっくりと笑顔で挨拶してから調合スペースへ。
私の髪色を見た彼らがワッと話に花を咲かせたので思わず笑ってしまった。
肉のジャーキーを手順通りに作り、二度目の魚ジャーキーを作り終わったので片付けの後、地下へ。
「んーと、ベルとリアン、ラクサと私とサフルで分けて、残りは予備として大瓶に入れておこうかな」
ベルとリアンの分は中瓶にいれて、名前を書いたタグを下げておく。
次に、麦蜜でも作ろうかと必要な材料を籠に入れて作業台に運び、計量を終わらせたところで名前を呼ばれた。
何だろうと顔を上げて店舗の方を見ると、ベルとリアンがこちらへ向かってくる。
その背後に再び視線を向けるとラクサとサフルが店番をするらしい。
「ライム、今学院から手紙が届いたわ。悪いけれど、少し手を休めてこっちに来て頂戴」
「手紙? あ、そっかもう二週間くらい経つんだっけ」
粉が飛ばないようにそっと布巾をかぶせて、いつものソファへ。
台所まで行くのが面倒だったのでポーチから木の器と作り置きの果実茶を取り出したんだけど、手紙を持ってるリアンを真ん中にして私とベルがその両隣へ。
すかさず目の前にカップを置いたんだけど、全員お茶を飲んでから佇まいを直す。
手紙の封を開けながら、リアンが口を開いた。
「工房生には速達で手紙を、学院では各学科の生徒を数か所に集めて話をしたとワート教授のメモが入っていた。結果発表は明日? ずいぶん急だな。場所は錬金科の大講堂で十時で必ず参加するように、とのことだ」
リアンは、読み終わった手紙をベルへ渡してお茶を一口。
私は場所と時間がわかったので別に読まなくてもいいか、とお茶菓子を取り出して二人の前に置く。
「ねぇねぇ。明日は何時に出るの? 朝ごはん食べてからだよね。お店はどうしようか」
「店か。そうだな、とりあえずこれから来る客に『明日は学院の都合で休み』と話しておくか。閉店後に看板を出してそこにも掲示しておくが」
「なら夜間訓練の時に話しておくわよ。騎士団の何人かに話せば、冒険者にはある程度、広がるもの。冒険者もほとんど残ってないし、大丈夫よ」
「ああ、確かにな。それなら頼む――…出発は、そうだな九時三十分に出るぞ。あまり早く行っても絡まれるだろうし、十分前に到着すればいい。サフルに店番を頼むか」
「そうね。ラクサに任せるわけにはいかないし」
いつ頃終わるのかは書いてなかったから、お昼過ぎまでかかるのを想定して予定を組むことに。ゆとりある調合予定と休みだからってことで息抜きを兼ねて、商店街を回ってみるという話も出た。
あと、折角学院に行くんだからってことで購買で色々買いこんで置こうってことに。
「……混んでそうだね、購買」
「やめて、言わないで」
「そうだな。確実に混んでるだろうな」
どうする、また今度にする? と聞きかけたんだけど、すぐにリアンが口の端を持ち上げた。その様子にカップに口をつけていたベルと私の目が合う。
「頭おかしくなったの、あんた」
「まさか。ただ、そうだな……思っているより大変ではないかもしれない。少なくとも嫌がらせのようなことはされない筈だ。錬金科の一年が全員そろっているうえに教員も多くいる中で、嫌がらせをしたらどうなるか……貴族のベルなら、言わなくてもわかるだろう」
「そう言われるとそうね。ああ、折角だしワート教授あたりを捕まえて購買に行ってもいいわね。情報も色々聞きたいし」
なんだか二人の間では『比較的楽に行動ができる』確証があるようなので、私はひとまず調合に戻ることにした。楽に行動できなければできなかったで、仕方ないとあきらめもつく。
「じゃ、とりあえず結果発表を聞きに行く前にご飯を食べて軽く調合してからってことで良い?」
「いや待てどうしてそうなった。いつ調合するって話になった?!」
「え。だって一回くらい調合できそうだし、魔力勿体ないかなって」
「………諦めなさい、リアン。時間的に問題がないならそれでいいじゃないの」
二人になんだかんだと言われたけれど、あははと笑っておいた。
私は薬系の調合をしたいのだ。
初めての首都で迎える冬。
どういう風な感じなのかわからないからこそ、できることをしておきたい。
今までとは環境が違うってわかってはいるけれど、備えを万全にしておかないと落ち着かない。
(今の私には、サフルも、ルヴもロボスもいるから)
一人じゃないからね、と小さくつぶやいた声は、錬金釜を温めている薪がパチッと弾ける音に掻き消された。
工房の中を見回して、二頭と一人がもう自分の家族になっていることをくすぐったく思う反面、どうしても募る焦燥に目を背けるように私は錬金釜に向き合う。
「まずは、できることをしなきゃ」
脳裏をよぎるのは、いつだって同じ。
不穏なような、そうでないような(苦笑
ひとまず、短編やらなんやらは次の結果の話を書いてからにしようかと思います。
乾燥させた魚……珍味ですね。あれ、本当に好きです。カンカイが好き。
=素材と調合アイテム=
【干し肉】
肉素材+香料+調味料
肉素材を調味料に漬け、魔力を込めて10分ほど揉み、放置。
10分後に香料と共に漬けこんだ肉素材を釜へ入れ、魔力を込めて30分程グルグル混ぜる。
乾燥した状態で浮いてきたら救い上げ、1時間ほど風に晒せば完成。
※使う香料によって香りが変わってくるので気を付けること
【ジャーキー】
肉・魚素材+胡椒+調味料+香料
素材を調味料に漬け魔力を込め十分揉み、同じ時間寝かせる。もう一度、魔力を揉みこんで、両面を炙り焼きに。この時、中は生でも問題ない。
焼いたら、調合釜で魔力を込めながら、混ぜて軽く塩を振り、十五分間ぐるぐる混ぜる。
半乾燥状態の素材を、乾燥袋で一気に乾燥させる。
干し肉に比べ、品質が良く、味もいい。無限に食べられるおつまみ。子供のおやつにも!
※下処理として、脂身はできる限り取り除く。脂身部分が少ない部位を使う。魚の場合は油の少ないさっぱりとしたものが向く。また、皮を剥ぐのもあり。
【カルモンの種】
カルモンの木になる緑色の小さな種子。強い刺激性の香りを放っているのでわかりやすく、口に含むと爽やかで独特の辛みを感じる。ピリッとしたしびれと、微かな苦み、その後爽やかな香りがするのが特徴。苦みはなく、スパイスとして人気。
現代で言う山椒の実。殺菌効果と消臭効果がある。