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25話 お買い物とアレの話

急に仲が良くなってきている三人です。

別タイトルは「アレな会話が通じる二人と通じない一人」だったり。




 ウォード商会は一番街でもかなり大きなお店だった。



そもそも入口のドアからして大きいし、人はひっきりなしに出入りしていて活気に溢れている。

 店内も広くて冒険者ギルドのホールに引けを取らない規模だ。

壁側やテーブルには多くの商品が並べられていてそれらを楽しそうに見て回る一般庶民や土産物を探しているらしい観光客、真剣な表情で商品を見定める冒険者や騎士、貴族やその使いと思われる人間は別室へ続いているらしい扉の向こうに従業員付きで消えていく。


 想像以上の規模にぽかんと口を開けて店内を見回す私と少し楽しそうに店内を眺めているベルに実家である店の説明をリアン・ウォードがしてくれていた。



「一番の売れ筋は冒険者向けの用品と輸入品だな。うちの商会でしか扱っていないものも多くある―――…貴族が主に買い求めるのはこのあたり、一般市民に人気があるのはこういった小物類だな。規模は小さいしお得意様限定だが種や植物の輸入もしている」


「確か、宝石類なんかも扱っていましたわよね?」


「貴金属や価値もしくは価格の高いものなどの取引は全て別室で行っている。貴族向けの商品の販売も大事だからな―――…このままだとまともに買い物もできないから、奥へ行くぞ」



言うやいなや、近くにいた従業員に声をかけて迷う様子もなくさっさと貴族達が消えていったドアの方へ歩いていく。

 ベルも特に気にした風もなくついていったのは…多分貴族だからなんじゃないかな。



(別室…ってことはやっぱりまたあの高そうなモノだらけの部屋に…?あんまり動かないでいた方がよさそう…なにか壊したら確実に終わる)



緊張でじっとりと手の平に汗をかきつつ、どうにか二人の後を追った。

 ドアの向こうには長く、そこそこの広さがある廊下があった。

絨毯は真紅で両端には金の刺繍が施されたもの。

それがずーっと続いている。



「す、すごいドアの数なんだけど」


「普通だろう。ここは取引の場所としても使われる。中にはソファとテーブル、あとは書類があるだけだからそれ程の広さはない。ああ、それから王族などの対応は特別応接室で行うことになっているから個室は全部で十七部屋だな」


「ここで購入するのは調理器具と調味料だったかしら?」


「そうだ。調理器具などは直接見て選んだほうが早いだろう。倉庫に案内する」



つい一刻程前に学院で調合機材を購入するのを見ていたので金銭感覚がすこしおかしくなっている様な気はするけれど、まぁ息子であるリアン・ウォードがいるんだから大丈夫だろうと判断して大人しく後をついていく。


 ぶっちゃけ、倉庫までの道は覚えていない。

なんか、いろんなドアを通っていろんな人に頭を下げられたような気がする。

 たどり着いた倉庫にはいろいろな調理器具や食器類、小麦や塩、砂糖などの長期保存が効くものなどがたくさん置かれていた。

必要最低限…というか家で使っていたのよりも少し大きい鍋やフライパン、他にも便利そうな大きめの調理器具を選んで、小麦や塩、砂糖、あとは胡椒なんかもまとめて購入した。



「はぁ…なんか、どっと疲れたよ…こんな短時間で銀貨5枚以上使うとか狂気の沙汰…でも、割引も凄かったなぁ。今更だけど、大丈夫なの?お店潰れない?」


「あの程度の割引で潰れてたまるか。全体の収益に何の影響も及ぼさないほどの額だ。まぁ、原価で売ったようなものだが僕の生活にも直結するからな――…他に必要なものはないのか?あまり調味料も買い込んでいないが」



本当に大丈夫そうだったのであったら嬉しい、という調味料や輸入調味料なんかも購入した。

 結構な量を買ったんだけど全部リアン・ウォードの指示で直接工房へ運ばれることになって私としてはとても楽ちんだ。

ついでに錬金術で使う道具なんかも運んでくれるって言うのでポーチから取り出してお店の人に任せてしまった。



「あと残っているのは…生鮮食品か。さっさと済ませて調合を見せてもらうぞ」



忘れてないだろうな、と探るような視線を向けられる。


 実は、工房に戻ったら調合しているところを見学させることになったんだよね。

なんでも失敗成功に関わらずいい経験になりそうだからって言ってたけど…まぁ、確実に好奇心と興味があるから見てみたいってことなんだと思う。



「いいけど、自分で調合してみたいとか思わないの?」


「思わないわけではないが…」


「そう、ですわね。できることなら授業の前にしてみたいというのはありますわ。でも、素材もないですし」


「そうだな。水素材というのは井戸水で対応できるにしても他の素材に関しては全く手元にない。恐らく、理論から言えば通常口にしているものでも作成はできるのだろうが」


「まぁ、できるけど雰囲気はないよね。うん。裏庭には調合に向いた素材はなかったし。って、そうだ!裏庭でアオ草育ててるから抜かないでね。今、実験中だから」


「?わかりましたわ。そういえば、ライムは素材どうしますの?」



活気のある食品街を歩いているといろんなものが目に入ってくる。

中には調合に使えそうなものもあるけれど、わざわざ購入して調和薬を作るなんてもったいないと思うのは私が金欠だからかもしれない。

 だけど、どんな素材でも出来る上に失敗する可能性のあるものにお金かけるのってどうも気が引けるんだよね。



「到着してからと合格してから時間あったし、その間に集めたよ。アオ草もそうだけど、アルミス草とかマナー違反にならない程度にだけど。…その素材、売ろうか?」



にやりと笑って見ると二人は顔を見合わせて小さくため息をついた。

 勿論、ちょっとした冗談だったし二回分くらいなら素材提供してもいいかなーなんて思ってたんだけど、どうやら金持ち二人には通じなかったらしい。



「いくらだ?何回分までなら提供できる」


「へ?え、ちょっとまって、本気で買い取る気?冗談だよ、二回分くらいならタダでいいって。成功するとは限らないわけだし」


「そうはおっしゃいますけど、アオ草は立派な素材なのでしょう?品質に差はあっても冒険者ギルドで買取をしたり依頼している錬金術師もいると聞いたことがありますし、例え同じ工房生だとしても商品価値を見出したものに金銭を支払うのは当たり前のことではなくて?」


「それに、君の懐事情を知ってしまっている身としては破産されても困るしな。正当な価格でなら買い取るぞ。それこそ、一度や二度で成功するとは限らないのだから素材は多いに越した事がない。採取に行ったようだが、その時に費用もかかったんじゃないのか?仮にかかってなかったとしても労力や探す手間、分別の手間などはかかっているんだ、対価が発生するのは当然だろう」



貴族と商人に買い物の道中散々対価を支払う正当性について懇切丁寧に説教じみた説得をされて、結局アオ草10、アルミス草5を銀貨1枚で二人に売ることになった。

 高いと思うんだけど…手間賃だといって彼らは一向に引かない。

なんでだろう…やっぱり全財産を知られたことが悪かったんだろうか。



「(お金が手に入るのは嬉しいけど、絶対銀貨一枚なんて高すぎる)流石にもらいすぎだと思うんだけど」


「はぁ…君は今までの話を聞いてなかったのか?今、というかこの時期のアオ草やアルミス草の買取価格は上がるんだ。何せ新しく入った錬金術師がよく買うからな。君のように自分の足で素材を採取しに出向く錬金術師は少ない。おそらく君のことだから処理も適切にしているのだろう?冒険者ギルドや学院で依頼を出しても完璧な状態で手に入る確率はかなり低い。条件をつければ話は別だが、条件付きだとどうしても受け手が尻込みするから対価も上がるんだ」


「なにより銀貨1枚で15回分の調合素材を売ってもらえるなら助かりますわ。幸い、ポケットマネーでどうにでもなる金額ですもの」


「所持金が増えるのは嬉しいからいいけど…なんだかなぁ」



イマイチ納得がいかないまま工房に戻ったら良さそうな素材を選んで渡すことに決めた。

といっても品質の低いのは取って置いてないから選ぶも何もないんだけどね。


 素材の取引が決定した頃、丁度一番街と二番街の間にある日常の食材を扱う露天に差し掛かる。

 実はここ、エルが教えてくれたところなんだけど…農家の人や移動商人なんかが直接ここで運んできたものを売ったりする場所で、新鮮なものが安く手に入るってことで住んでいる人たちがよく利用しているらしい。

一番街にもお店はあるし、鮮度もあるけど規格外の野菜なんかは扱ってないんだとか。

 馬車や木箱を並べ、絨毯を敷いただけの露天には多くの人が足を止めていてかなりの活気がある。



「こういった場所がありますのね。初めて来ましたわ」


「エルが教えてくれたんだけどこういうところは鮮度がよくて安い規格外のモノなんかが多いんだって。どうせ味が一緒なら規格外でも平気だし、食費を抑えるならこういうところで買うのが一番だと思うんだよね。ほら、一応倉庫もあるし貯蔵できるものも多めに買っていこうよ」



 手始めに、私たちは結構な広さのある露天を見て回った。

結構な量を持ち込んでいる農家や商人のところで貯蔵が効くものを大量に買い込んだ。


 値段の交渉は主にリアン・ウォードがしたんだけど…商家出身だけあって、値切り方がキツイ。エグい。

というか、完全に商人相手の時は相手を泣かしにかかってる。

流石に農家相手の時は加減して相手の取り分や運搬費用なんかも考慮しているみたいだけど、それにしたって提示された金額の三割引きくらいで買い取っている。



「リアン・ウォード出入り禁止とかになりそうなんだけど大丈夫?」


「問題ない。流しの商人は地方で安く物を仕入れていかに高く売り払うか算段をつけているものだし、買い叩かれるのを見越して高めに価格設定をしているものだからな」



しれっと言い放つ彼の交渉相手たちは皆青ざめていたり半泣きだったような気がするんだけど、と思わずベルを見ると彼女は値切り交渉自体が珍しいのか感心している様子だった。



「まぁ、いいや。結果として想像以上に安く手に入ったし…買い物するならリアン・ウォードを連れて歩けばいいってわかっただけ収穫かな」


「そうですわね。今度買い物に付き合っていただこうかしら。武器も新しくしたいのよね」


「勘弁してくれ…僕にだって都合ってものがあるんだぞ」



大量の食材などは運搬屋と呼ばれる業者に運んでもらうことになったので私たちは手ぶらで帰ることになった。


 工房に戻ってみると丁度学院で購入した機材が届いたところだったので、二人は品物を点検してから受け取っていた。

私の方は裏庭に植えたアオ草の様子を見てから調合に使うための井戸水を備え付けのバケツに汲んで、釜の傍に置いておく。


 そのまま倉庫に降りて保管していたアオ草やアルミス草を同量取り出して自分の机に並べていく。

勿論、というかついでに二人の分も準備した。

 私が準備を終える頃に、二人の点検作業も終わったので早速調合をすることにする。



「調和薬を作るのに必要なのは釜をかき混ぜる棒状の何か…まぁ、魔力を注ぎながら混ぜるから杖が手軽かな。二人の武器は杖?私は武器が杖だから戦闘後は汚れとか拭いて使わなきゃいけないんだけど」



メモ用紙をもっているリアン・ウォードと物珍しげなベルに何気なく話題を振ってみる。

 よくよく考えてみると同じ工房生の使う武器を知っておくって言うのも大事なことだよね。

戦闘スタイルのバランスみて過不足ないようにバランスよくパーティーを組むのがいいってエルも言ってたし。



「私は斧を使いますわ。騎士の家系なので剣の才能があればよかったのですけど、斧の才能しかありませんでしたの。剣は軽すぎて折ってしまって…」


「…剣って折れるの?」


「折れますわよ?鉱石系のモンスターが相手だと斧でも欠けることがありますけれど」



そんなものなんだ、と納得した私は信じられないようなものを見たような視線をベルに向けているリアン・ウォードに視線を移す。



「リアン・ウォードは?やっぱり杖?」


「先ほどの買い出しから気になっていたんだが、なぜ君は僕をフルネームで呼ぶんだ?リアンでいい。僕の武器は鞭だな」


「……鞭?馬とかピシピシするやつ?」


「君が表現すると武器としての性能を疑うが…まぁ、だいたい合ってるか」



そういうとリアン・ウォードはおもむろに腰につけた革のポーチから長いものを取り出した。

 黒い持ち手の先には金属のような光沢を持つ革紐みたいなのが続いていて、トゲトゲした突起がいくつもついている。

かなり、痛そうだ。



「なんか痛そうなんだけど、それ」


「武器なんだから殺傷能力がなければ意味がないだろう」


「いや、そりゃそうなんだけどさ…下手すると斧や杖より物騒だよね」


「下手しなくても物騒ですわ。イバラ鞭はムチの中でも殺傷能力が高いですし、リーチが長い分敵の攻撃を受けにくい性質もあります。まぁ、非力な女性が使うことが多いので男性が使うというのは初めて聞きましたけれど」



そこまでいってベルは徐に目を細めた。

なんだろう、と首をかしげていると睨みつけるようにぼそっと呟く。



「一応聞いておきますけれど貴方、それ“趣味”ではないですわよね?」


「ッそんなことあってたまるか!どんな目で僕を見てるんだ、一体!?ったく…僕は元々、というか病気がちで成人する少し前までベッドで過ごすことの方が多かったんだ。槍も多少使えるが、あれは体力もいるからな。あまり体力がいらない上にリーチがあって毒なども仕込める武器といえばこれが一番手頃で、まぁ、使い勝手が良かったから使っているだけだ。もう少し体力がついたら槍に切り替える」



趣味が鞭ってどういうことだろう?と不思議に思いつつも槍より鞭の方が使い勝手がいいならそのままでいいのに、と伝えると二人共何故か驚いていた。



「毒とか麻痺薬とかの実験するのにもいいだろうし、鞭のままでいいんじゃない?持ち歩きも楽そうだし使い勝手いいならその方がいいと思うけどなー…買い換えるとお金だって無駄にかかるわけだし。なによりモンスターとの戦いなんて最終的に生きてたもの勝ちな訳でしょ?不慣れな武器使って死んじゃったりしたら元も子もないもん」


「―――…そう言われてしまえば、それまでですわね。まぁ、私たちに害がないのなら貴方が鞭使いでも暗器使いでも拷問器具使いでも文句はありません」


「おい、拷問器具使いってなんだ。まるで僕がそういう趣味の持ち主みたいじゃないか」


「特に深い意味はありませんわ。ええ、ありませんとも。ライム、あまり彼の傍に行ってはいけませんわよ」



うふふ、と優雅に笑いながらリアンを見ているベルと初めて会った時のような高慢さと妙な茶目っ気に溢れているベルに真面目な表情のまま食ってかかるリアンの二人を見てちょっぴり寂しくなりつつ、おーいと声をかける。



「楽しそうなところ悪いんだけど、調合するよー」


私の声が二人の耳に入ることはなくて、時間がもったいなくなった私がベルとリアンの分の井戸水を二回ほど運んだところでようやく二人は私のことを思い出したらしい。


 調合見せるのやめちゃうぞー、なんて考えていた私は慌てて謝罪する二人を見て仕方なく眉尻を下げた。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

随時誤字脱字変換ミスなどのチェックはしていきますので、発見した際はこっそり…活動報告とかそう言ったあたりで教えてくださると一人赤面しながら直します。

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