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264話 学院からの手紙

どばーっとかきました!どばー!!!!



 バリッ ザクッサクッ と軽くて歯ごたえのある音が複数、工房内に響く。



 足元を見るとルヴやロボスも良い音を立てて、尻尾を激しく左右に振りながらセンベイを齧っている。味付けはルヴ達用に薄くしてあるからか、ものすごい喰いつきっぷり。

魔力を多く含んでいることもあるし、特に体に悪い成分がある訳じゃないのでおやつとしていくつか作ってみたのだ。



「ルヴ、ロボスも美味しい?」



 そう聞くと即座に短い返事が返って来る。

嬉しそうに私を見上げてくるのが可愛くて、頭を撫でると嬉しそうに擦りつけてきた。

たまらなくなって、しゃがみ込んだ状態でわしゃわしゃ撫でれば、嬉しそうに眼を細めてコロンとお腹を見せる。



「あー……かわいい。強くて可愛くてキリッて顔するのもいいよねぇ! ルヴ達の装備も充実させたいな。薬はいくつか買ったけど、それだけじゃ不安だし」



 青っこいのは何してるかな、と呟くとベルの呆れた様な溜め息。

でも、その表情は優しくて、撫でられ幸せそうに転がっているルヴ達を見ていた。



「ちゃんと親バカしてるわよね。ま、ルヴ達が他の個体に比べてとても賢いっていうのも大きいのかもしれないけれど、ロボスなんて短い期間で懐きすぎじゃない?」


「言われてみるとそうッスね。賢い共存獣って、懐くというか共存主を認めるまで時間がかかるってのが、一般的だった筈なんスけど」


「ロボスの場合は、最初に自分で『選んだ』ようなものだからな。元々賢かったのもあるだろうが」



 わふっとリアンの言葉に返事を返したロボスは、あっという間に食べ終わったセンベイの二枚目をねだる様にクゥーンと可愛らしく鳴く。


 元々二枚あげようと思っていたので「これで最後だよ」と一言添えて渡すと、嬉しそうに私の横に移動しそこで食べ始める。

 ルヴはこのやりとりを見ていたらしく、行儀よく私の前に座ってじっと見上げていたので、慌てて頭を撫でて「最初にあげられなくてごめんね」と伝える。

すると、わかっているのかいないのか、私の手をペロペロ舐めて、頭を擦りつけてからどこか満足そうにセンベイを咥えた。


(……ルヴもロボスも時々、言葉が分かってるんじゃないだろうかってくらい、賢いんだよなぁ)


 サフルが持ってきてくれた濡らした手拭きを使ってから、全員の顔を見回す。



「で、この【センベイ(カレー味)】はどうかな。味とかバランスが悪くないなら、どこかに委託販売って考えてて……販売場所は『緑の酒瓶』あたりがいいかなって思ってるんだよね。あそこには冒険者とか騎士も多いし、観光に来た人もくるでしょ? 宣伝にもなるし、おつまみが似たようなものばかりになるから差別化を図りたいって、前に聞いたことがあって」


「いいんじゃないか。錬金アイテムは基本的に少し高いから、販売するなら二番街の酒場より一番街の酒場の方が適切だろう。食事も出している酒場だから、カレーの匂いも気にせず提供できそうだ」


「価格はどうするんスか? オレっち的にはあんま、高くない方がありがたいんスけど」



 機嫌よくセンベイを食べていたラクサが窺うように私とリアンの顔色を窺う。

ベルは我関せずで激辛カレー味のセンベイを食べていた。

カレーの色って黄色なんだけど、なんか、赤いんだよね。激辛カレーセンベイ。


 価格、と言われて思い出したのは店で売っている商品だ。



「似た商品の【メイズスープの粉】と【ゴロ芋スープの粉】は銅貨五枚で一食分だけど、これ、銅貨五枚じゃきついよ。魔力の消費量は当然多いんだけど、それ以上にカレーを作るのに時間かかるんだよね。まぁ、使う素材は長期保存ができるものだし、香辛料も凄く珍しいものを使っている訳じゃないから原価はそれほど高くないけどさ」



 センベイがあった皿の横には【カレースープの粉】というアイテムが一食分入った小瓶。

 どちらも商品として十分な品質に仕上がったという自信はあるんだけど……意外と、というか作るのに手間がかかるのだ。

特に【カレースープの粉】が本当に。



「流石に銅貨五枚での販売は無理だな。かといって、銀貨にするわけにもいかない。少し量を減らして、調整し、銅貨八枚にするか。味や原材料、生産コストを考慮すると妥当だ。あと【カレースープの粉】は冬限定商品にする。作成時間や他に調合しなくてはいけないものを考慮すると、ライムに負担がかかり過ぎるからな。僕やベルが作ると、魔力色が影響して同じものが作れないというのもネックだ」


「そうよね。カレーを作るにも時間がかかるし、儲け的にもそれほどないでしょう?」


「多少の黒字、という所だな。【センベイ】のカレー味については、カレー粉の調合だけで僕らにも問題なく作れる。こちらはある程度の供給が可能だが、作成の手間もかかるし他の味も作らなくてはいけない事を考慮すると数量を決めての納品になりそうだ」



 その後は、話がまとまったので、契約書なんかをリアンが書くことに。

ちなみに断られても、工房限定で販売すればいいので問題はなし。



「んじゃ、あとは……えーっと昨日作れなかった在庫を作っちゃうんだっけ。素材の方は足りてる? 特に回復薬関係ってきっと売れるよね?」


「そう、よねぇ。素材はまだあるけれど、冬の間は中々採取が難しいでしょうし、今のうちに少しでも確保したいわね。朝の鍛錬の時に少しは採ってきているけれど……少し採取の時間を設けた方がいいかもしれないわ。ただ、ライムと一緒に行くわけではないから、収量は多くないでしょうけど―――……って、訳だからラクサと、リアンも明日から行くわよ」



 にっこりと笑うベルに「ひっ」と声を漏らしたのはラクサ、無言で頭を抱えるのはリアン。

私は自分で出来ること、と考えて教会の裏庭しかないかなぁと結論を出した。

ベルに提案をすると少し考えてからサフルとルヴ達をみて、笑う。



「あの場所なら問題ないでしょう。一応、ミントがついてこられるようならついて来てもらって。裏庭を借りる報酬は、そうね【レデュラクリーム】でどうかしら。そろそろ水が冷たくなってくるから、役立つはずよ。品質はDだけれど香りが薄いだけで効果に差はほとんどないわ」

「いいの? 私が何か出そうと思ってたんだけど」


「サフルは私の奴隷でもあるし、薬草の確保は必要だからいいのよ。売り物にはならないし、持て余してたの。自分の分はあるし」


「ありがとう。じゃあ、ありがたく受け取って明日渡すね。多分、結果発表までにまだかかるよね? リンカの森と同じような距離に採取できそうなところがあるみたいなんだけど、一度サフルやルヴ達を連れていきたいなーって思ってるんだ。まだお店も開いてないし、いってきてもいいかな?」



 少しだけワクワクして聞く。

ラクサとミントは、勉強しなくちゃいけないし、リアンやベルも忙しい。

 エルやイオ、レイの三人を誘ってもいいけど……騎士科もいま大変だろうし声をかける気はあんまりないんだよね。

 と、なると……サフルやルヴ達だけになる。

強い魔物やモンスターはいないってことだったから、私でもいけるかなって話したのだ。



「何言ってるの、駄目に決まってるでしょう。私は社交界の打ち合わせだの用意だのが入ってくるから、今回は諦めるけれどリアンかディルを連れて行って。ラクサとミントが一番いいけれど、二人とも試験があるものね」


「リアンかディル……うーん。リアンも忙しいだろうし、ディルを誘ってみ」


「僕が行くから、ディルには声をかけなくていい」


「え? いいの」


「魔術がない事で普段の野営より少々不便になるだろうが、近場ならわざわざ声をかける必要もないだろう。あまり人数が多くても目立つし、ルヴ達の訓練を兼ねていくならいない方がいい」



 少しずつ慣らしていくべきだという意見はもっともだったので、納得してリアンとサフル、ルヴとロボスでいくことにした。

出発は、と考えているとルヴとロボスがぴくっと反応。

ゆっくり立ち上がって、ドアの前にすとんと座る。



「手紙が届いたみたいなので、取ってきます」



 何事だろうとドアを見つめる私たちにサフルが一言断って、工房を出て行った。

耳のいい二匹は手紙が届くといつもこうやって教えているのかもしれない。

 感心してルヴ達を呼び寄せ頭を撫でると嬉しそうにスリスリ。

あまり時間をかけずに戻って来たサフルの手には学院の紋が入った手紙。



「!それ」


「はい、学院からの速達です。どうやら全生徒への通達のようですね。少し話を聞いたのですが、予定よりかなり早く実習が終わったとか」



 何かあったんだろうかと顔を見合わせる私たちの横で、ラクサが立ち上がって使っていたカップなどを回収していく。



「学院の話ならオレっち、作業部屋に戻って作業してるッスよ。何かあったらノックしてくれれば、部屋から出るンで―――…サフル、いいところに! 申し訳ないんスけど、洗い物頼んでもいいッスか」


「はい、かまいません。他の皆様の分も洗ってしまいますのでお任せください。申し訳ありませんが庭の点検と店の前の外観整備に行こうと思います。採取をする際に気を付けるべきこと等お聞きしたいので、もし先程の採取に関する話を再開されるようでしたら呼んで頂けないでしょうか」



 申し訳なさそうな顔をしていたので私たちは気にしなくていい事、そしてルヴ達がついていく様子を見せないので話をする時はルヴ達に呼び行ってもらうと話すと一礼して台所へ。私たちの気付かない所や手の回らない所に気付いて、何も言わず片付けてくれるのは凄く有難い。



「サフルもいっぱい働いてくれるし、本人は要らないっていうけど、お休みあげた方がいいのかな」



 常に働いているサフルが心配になって、思わず呟くとベルに名前を呼ばれた。

顔を向けると、割と目が真剣なベルがじっと私を見ている。



「ベル……?」


「ダメよ。寝る時間は最低でも六時間と命令してあるからそれ以外は、サフル自身の決めた仕事。誇りをもってやっていることだから、そこに手を出しては駄目。勿論、ライムが『休め』と言えば従うわ。けれど、サフルの気持ちを無視することがライムとサフルの為になるとは思えない――…奴隷であるサフルは、貴女の為になることがしたいのよ。貴女に死ぬまで仕えたいと思っている。だから主従契約を結んでいるの。私でも、リアンでもなく―――……貴女に『奴隷』で居させてほしいと契約を結んだってこと、ちゃんと覚えておきなさい」



 そういわれてハッとする。

仕事は取り上げるものではないし、やりたいと思ったことを留められるのは、たとえ仕事でも嫌だ。私だって、出来る事を取り上げられるのは嫌だ。



「そっか。そうだよね、ごめん。私の考え方とサフルの考え方は違うもんね。辛いハズだって決めつけるのは、結局サフルが嫌な思いをして終わりになっちゃうし。毎回、忙しくしてるの見るとつい『休みをあげないと』って」


「わかればいいのよ。といっても、こういう事を忘れる貴族は多いわ。奴隷ってのはちょっと特殊だから、使う機会のないライムには馴染みないでしょうけど、そういうものよ。まして、サフルは一般奴隷。借金奴隷とは違って、死ぬまで奴隷なの。貴女が扱いを間違うとサフルにシワ寄せがいく。多少、意に沿わない扱いをしなくてはいけないこともあると思うけれど、仕方がない事だからその辺りは無理にでも飲み下しなさい」


「……うん。ベルやリアンも迷惑するかもしれないもんね。気を付ける。ルヴもロボスもいるし、青っこいのだっているもんね」



 仕事がなくなると、彼らのご飯が買えない。

 自分のご飯が食べられなくなるのは、自業自得だから仕方ないけど……ルヴ達は違う。

表情が強張っていたらしく、ベルが呆れたように私の頬をつまんだ。ちょっと痛い。



「いひゃい」


「お馬鹿ね。ほんと。何のために私やリアンがいると思ってるの。私も、リアンも、そしてライムも三人で一組なの。分からなかったら、お互いに聞けばいいのよ」


「ん。ありがと」


「……どういたしまして」



 ベルと会話をしている間に、リアンが手紙を読み終わっていたようだ。

話が途切れたのを見計らって小さく咳払いをした。

手紙のことをすっかり忘れていたので謝るといつもの不愛想な顔で、手に持っていた手紙を差し出した。

 手紙をベルが受け取って読み始めたので、私は直接聞くことに。



「手紙には何が書いてあったの?」


「二週間後、各学科同時刻に成績発表をするそうだ。騎士科は訓練場、召喚科は召喚師実習室、錬金科は講堂で執り行い、工房生の僕らも強制参加とのことだ」


「二週間後ってことは、早めに採取に行った方が良さそうだね」



 私の言葉の後に続けたのはベルだった。

ほんの少し眉間に皺が寄っている。



「―――……二週間、ね。恐らくだけど、発表が早くなったのは聴取の事を考えたって所かしら。あとは、身近な所から被害者が出たことで辞退する生徒が急増したのかもしれないわ。特に召喚科は出る必要があまりないもの。成績を補正する術も用意されているようだったし、死ぬ位なら少し成績が下がっても問題ないって判断しそう。騎士科も犠牲者が一番多いから、安全策を取ることもあるでしょう。まして、今回の騒動の発端が貴族にあると知ったら……貴族籍を持たない生徒は、参加を見送る可能性が高いもの」



 救済措置、という事だったけれど実際はどうなのかしらね? なんて口元だけで笑うベルに気圧されていると、リアンも「ああ」と短く同意して淡々と言葉を連ねていく。



「恐らくは計算していただろうな。実力の維持というのもあるが、今回の騒動で貴族が間引かれた。犠牲として庶民も被害を受けたが、粗悪な騎士が増えると国が立ち行かなくなるし、他国との信頼関係に響く」


「錬金術師への批判や苦情が増えるのは困る、って言っていたわね。そういえば。貴族以外を増やそうとしているのはそういう意図もあるとみて間違いないわ。私としてはバランスが大事だと思うけれど、人数が増えると、素材の確保が問題になるわ」



 貴族はあまり自分で採取に行かないもの、そう言ったベルにハッとする。

思わず立ち上がった私の頭の中には、自分と同じように採取をしまくる庶民錬金術師の姿。

きっと、リンカの森は駄目だし、草原もダメだし、その周りだって……って考えてわなわなと震えていたんだけど、そうなるとやらなきゃいけない事はうんと増える。



「増やそう、備蓄。採ろう、素材。失敗、厳禁ってことになるよね! あと、採取できるところいっぱい見つけておかないとお店で売るアイテムも作れなくなっちゃう! 私みたいなのいっぱいってことだよね?! どうしよう、次に生えてくる分は残してとってるけど、他の人のこと考えて残す様に苦渋の決断しなきゃいけないってことになると思うんだけど、私にできると思う?!」


「……あ、採取の事ね」


「ブレないな、流石というかなんというか」



 暢気に紅茶を入れてくる、と席を立ったベルについて行こうとしたら、手を握られて進めなくなった。

何事か振り向けば座ったまま、私の手を掴むリアン。



「座れ。ライム。君が心配しているようなことにはならない。僕らが学生としてここにいる間、貴族籍を持たない錬金術師が『増える』傾向はあるだろうが、始まったばかりで貴族の方が圧倒的に多いだろうからな。なにより、採取に辿り着くまでいくつかの工程を踏むはずだ。工房生であっても、採取方法というのは素材によって違う。それを理解しないと資源が無くなってしまうから、教育してから自由に採取をするよう告げるはずだ」


「で、でも……」


「国が必ずそうするだろう。王族は『錬金術』を好んでいるが、その分危うさも理解している。資源は無限ではない。考えて使わなくては回らなくなる。ギルドでも一定の大きさを持つ商会でも、回復薬の備蓄をするよう国の命令があるんだ。それは戦争云々関わらず『絶対に』しなくてはいけないことになっている」



 初めて聞いた、とその場に座り直すとリアンがあれこれ話してくれた。

どうやら、国は錬金術師と錬金術に使用する素材が枯渇しないように価格や流通量を調整しているらしいのだ。



「けど、私達の工房には……」


「僕らは学生だからな。それに、やり過ぎた場合は国から何かしらのアクションがある筈だ。それに、君が採取する素材量は常識よりは多いかもしれないが、採取地を根こそぎという訳ではない。翌日、翌々日には採取できるように残しているのも知っている」

 


 だから大丈夫だ、と言ってくれるリアンには悪いんだけど……私としては『後のことを考えて』残してるんじゃなくて、単に『規格に満たないと売値が下がるから』残してるんだよね。

勿論、採り過ぎがいけない事は分かっているし、採取が二度とできないような事態を避ける為採取してるけど。



「早いもの勝ちなんだ、ああいうのは。それに、万一、そういう事態になったとしても僕らで別の手段を考えればいいだけだ。商売の種はいくらでもある。借金も返し終わっているから、あとは儲けるだけだ」



 卒業時に売り上げの三分の二は入ってくるからな、と不愛想な顔のままで淡々と話すリアンに紅茶を運んできたベルが呆れたように肩をすくめた。



「とりあえず、お茶でも飲んでゆっくりしましょう。サフルを呼ぶにも少し早いわ」



 カチャッと微かな音を立てて置かれたカップには、濃い目に淹れられた冴えた赤褐色の紅茶。そこにベルがミルの実果汁をプラスしてミルティーにしてくれた。



「ライムはコッチの方が好きでしょ。ストレートでも美味しそうに飲んでるけれど、ミルの実果汁やミルクを淹れた方が進みが早いわ」


「私、話したことないのによく気づいたね」


「まぁね。私はどんなお茶も飲めるけれど、リアンは濃い目のストレートが好きでしょ。ラクサは逆に薄め。お茶の好みを見るのは社交界での癖みたいなものだから」



 有難くカップを手に取り、一口。

じんわり広がる柔らかな口当たりとしっかりした紅茶の味に口元と目元が緩む。

カップ一杯分を飲み干してから、サフルを呼ぼうという話になって私たちはカップを傾けながら少しだけ、調合にも学院にも関係ない好みの話をした。



◇◆◇



 学院から手紙が来た二日後の早朝、私達は宝石草が植えてある花壇の前にいた。



 ワクワクしながら、太陽が顔を出す日の出を待っていると欠伸を一つ零したラクサが隣にしゃがみ込む。

リアンとベルはなんだか難しそうな話をしていたので放っておいた。



「にしても、宝石草の開花なんて滅多に見られるもんじゃないっスもんね」


「みたいだね。種自体があんまり出回らないって聞いたよ。染料にもなるらしいんだけど、量が少ないから種を増やそうって話になったんだ」


「これで染めた布は綺麗だって聞くんで張り切って欲しいッス。布も割と細工に使うンで」


「あはは。種を増やすのはサフルにお任せだから何ともいえないなぁ」


「そうッスよねぇ。で、明日はオレっち本当に行かなくていいんスか?」



 じっと私を見る目は何処か静かで首を傾げつつ頷いた。

ラクサが何を考えているのかは分からなかったけど、納得していることだしね。



「ラクサは試験の勉強があるからね。サフルとルヴ、ロボスの連携とかも見たいって思ってたし、リアンもついて来てくれるから大丈夫」



 移動時間を含めてもせいぜい一週間だ、と言えばラクサは何とも言えない顔。

何かあったのかと聞けば、曖昧な笑顔で誤魔化される。



「色んなストッパー外れなきゃいいんスけどね……いざとなればルヴ達が止めるか」



 ブツブツ言い始めたラクサに首を傾げていると、サフルから声がかかる。

日が沢山当たる様に、正面からズレた所で少しずつ、山際が暖色を帯びた白い明りに照らされていく。

その光景に目を奪われそうになるけれど、花壇へ目を向ける。

雲のない、まだ薄青い曖昧な空の色。清々しい空気にコロンとした印象の薄緑色の蕾が照らされていく。


 やがて、太陽が三分の一ほど顔を出し、射した光が庭全てを照らすと唐突に変化が起こった。

ポンッという軽い炸裂音。

ビクッと肩を震わせるのを見ていたかのように、ポポポポポポンッとあちらこちらから聞こえてくる、開花の音。

弾けるように、薄緑色の蕾から一瞬で姿を現していく色とりどりの花たち。


 綺麗だった。とても。


 咲いた花は光沢を少し放ちながら誇らしげに朝日を浴びている。

言葉もなく、炸裂音が収まりつつある宝石草を眺めていると珍しくサフルが口を開いた。



「宝石草の開花は一瞬で中々見られない事から、友人と共に見れば『祝福された友情』恋人や夫婦でみると『祝福の中で生きる』という意味になるそうです。宝石草は見目も美しいので、是非皆さんに見て頂きたくて……貴重な時間を頂き、ありがとうございます」



 嬉しそうに陽の光に照らされたサフルが笑う。

眩しいものを見るように私たちをみているサフルがなんだかちょっと、違う気がして手を引いて私の近くに立たせる。

一人だけ一歩二歩、離れた場所にいるから。



「私こそありがとう。家族とか仲間で見てもきっといい意味があると思う。少し驚いたけど、楽しかったよ。宝石草ってだけあって綺麗だしね―――……奴隷だっていうのはわかってるけど、こういう時くらいは皆で見ようよ」



 ね、といつの間にか私の左右に位置取りをしたルヴとロボスへ話しかける。

すると二匹は応えるように鳴いてくれた。



「――……はい。ありがとうございます。私は、ライム様たちのような主人に仕えることができてとても幸せです」


「大げさだなぁ、もう。あ、この花の色好きかも。この花から種ってとれるんだよね? 次に咲く花の色ってどうなんだろう。やっぱりバラバラ?」


「いえ、基本的に色は引き継がれるのですが、全体の一割が別の色になると言われています。出来るだけ増やせるよう努力し、お役に立てるよう頑張ります」



 そんなに気合入れなくっても、と思いつつ「ほどほどにね」といえば彼は目をキラキラさせていた。ベル達も興味深そうにそれぞれ花壇の中で咲き誇る花々を見ていた。



 今日はこれから、明日の為の準備をして出発だ。

戻ってきたら結果発表もあるし、ちょっと忙しくなる予感。




 ここまで読んで下さって有難うございます!

とりあえず、どばーっと書いて……じっくりじっくり、わかって来たり、こなかったり。

あくまでライムの視点なので他のキャラから見るとまた違った風に見えるんだろうなーと思ってみたり。続き、短期間の採取を入れるか飛ばすかで迷い中です。

 テンポ的にはサクサクっと発表に移ってもいいかなって思う一方、リアンとサフル(+もふもふ)も書けるといえばかけるなーと。うぬぅ、難しい所です。


=素材=

【宝石草】天気や天候によって花の色が変化する。

現代で言うとホウセンカに似た花を咲かせるが自生しているものは乱獲により希少に。

染料として使用されているが、毒の中和や外用薬としても優れている。

一番珍しいのは漆黒、次いで真紅。

薄緑の蕾から軽い炸裂音と共に花が咲く。開花のタイミングは計りにくいが、植えた時間とほぼ同じなのでそれを目安にする。



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ヤッター!ベルすきだ…… 発表も早く見たい気持ちもあるけどリアンとサフルの話も見たい…欲張りなこの気持ち……
[良い点] もち吉のせんべいが食べたくなりました。缶も使い前があって好きなんですよね。もち吉のいなりあげもちも大好き。 カレーせんべいも好きだけれど、手が黄色くなって逆剥けなどあった日にはヒリヒリが止…
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