257話 銀粘土
ギリギリアウト!なんでだ!
書き足したり、書き換えたりが多かったです(苦笑
【銀粘土】部類:金属
銀粉+軽い土+調和薬
【金属粘土】の金属素材を銀粉にしたもの。調合の際に混ぜた魔力量により仕上がりが違う。
完成した粘土は乾きやすいので注意すること。また、使用の際に柔らかさが足りないと感じた際には水を加えて練り、使用する。
この際に水以外のものを使用してはならない(聖水はOK)
形を作り、乾燥させてから焼き、磨いて完成。
彫金と比べてやや脆いという注意点はあるが高濃度の魔力が込められている銀粘土はインゴットから叩いて作られるものと変わらない強度があり、金属着色素材を入れた場合強度はさらに上がる。
レシピの通り、まずは銀粘土の作成に取り掛かる。
銀粘土自体の調合はそれほど難しくないけれど、魔力の消費量が凄まじいことは予想できたのでありったけの魔力回復薬を用意した。
作業机に並ぶのは素材よりも回復薬の方が多くて苦笑する。
「これが終わったら魔力回復薬、沢山作らなくちゃね。初級も中級もだけど。上級はまだ早い、かな?」
「そうだな、材料のこともあるし進級してからでもいいだろう。上級魔力ポーションの素材の中に冬の方が手に入れやすい素材があるからな。トライグル国内でも育てているが、品質のいいものは国に属している小さな島国から入るんだが、冬になると川が凍ってそこを通ることで大量運搬が可能になるんだ」
「川が凍る? そんなことあるの? 初めて聞いたわ」
準備の手を止めたベルにリアンが頷いた。
私も初めて聞く話だし興味があったので視線を向けると目があう。
「特殊な土地なんだ。トライグル王国は大国と言われているだけあって各所に土地があり、属国と呼ばれる小国も多い。まぁ、トライグル王国は友好外交が基本で王族は皆、人格者だ。小国であろうと、小さな集落であろうと必要とあれば足を運び理解を得て双方損のない交渉をしているから信頼も厚い。小国自らが配下に下りたいと申し出てくることも少なくないんだ。ベルはその辺り、僕よりも詳しいだろう」
「王族や政に関しては知識として知ってはいるわ。他国の支配下から助けてほしい、そちらの国の支配に下りたいなどという嘆願書も届く位だもの。それを利用して更に版図を広げるのが国王よ。支配していた国が『害』にしかならないと判断したら他の国も巻き込んで徹底的に潰すこともするし、赤の大国や青の大国もそういった姿勢に理解と敬意を示しているわ。ココだけの話だけれど……王族でも相性があるの。赤と青の相性は最悪で、緑の大国と呼ばれる私たちの国はどちらとも相性がいいから良く仲介をしているみたい。個人的な交友もあってしょっちゅうお忍びで王族が来ているとかいないとか。月に一通は必ず手紙が来るそうよ」
「……私たちの国の王様は人たらしってこと?」
「まぁ、わかりやすくまとめるとそうね。その分、王族の制約や選定はかなり厳しいわ。息抜きを出来るよう配慮はされているけれど求められるものは多いし、その周囲や貴族に関してもかなり査定が厳しいのよ」
へぇ、と相槌を打ちながらふと思い出したのは退学になった貴族のこと。
今回も貴族出身の錬金科や騎士科の生徒が問題を起こしているし、あんまり末端までしっかり掌握っていうのかな、そういうのが出来てないのかも?なんて考えたので聞いてみると驚かれた。
「ライム、貴女そういう考え方ができるくらい成長したのね……! まぁ、今回というか必ず一定数いるの。馬鹿をやらかすのって。王はそういうのもある程度は必要だと思っているみたい。不満や不平を排除する、見せしめとして処分をするといったパフォーマンスに使えるでしょう? 損失が出る前にある程度、国の方で掴んでいるんじゃないかしら。あえて見逃されていて、来るべき時の段階で大々的に処分されるのよ。これに気付けない家は潰れるだけね」
さて、と言葉を区切った事で調合についての会話に戻る。
止まっていた手を動かして、銀粉の分量を量るんだけど出来るだけ粉が飛ばないように気を付けた。
「そういえば上級魔力回復薬って、あまり見かけないわよね」
「言われてみると確かに。初級の回復薬系はまとめて置いてあるけど、中級回復薬はカウンターの奥にある棚に並んでいたり、ケースの中に入っていたりもするよね。ベルの言う通り、確かに上級の魔力回復ポーションって見たことないかも」
「高いからな。それに、上級魔力回復ポーションで回復する魔力量はとても多い。中級五本分の魔力が一気に回復するから使う人間はかなり限られる。僕らが卒業する時には必要になっているかもしれないが、今は必要ないだろう」
リアンの言葉に納得。
チマチマ飲めばいいんじゃないかといえば、飲む量を間違えると無駄になるが……と言われて調整するのが難しそうなので当分は見送ろうという話になった。
私達は銀粉、軽い土、調和薬に加えてグルナ虫を選ぶことに。
「……どの虫にする? 色が強すぎると困るから一匹でいいよね」
「そうだな。僕は少し青みがかった色にしたいからコレにする」
「リアンは青ベースの服だし、真珠も青みがかったのが多いからいいかも。あ、ちょっと緑混ぜてみる?」
「潰して粉にしたものを混ぜるなら、量を二倍で作ってもいいかもしれないな。保存瓶に入れれば余った分も使えるんだろう?」
パラパラと白い紙の上にグルナ虫を広げる。
グルナ虫は採取してから乾燥させているから、簡単に粉にすることができるんだよね。
使ったのは乾燥袋。短時間で一気に乾燥させたからか品質がとてもいい。
「私はディルのやつだからちょっと紫色っぽくしようかな。ベルはどうする?赤使うと多分ピンクっぽくなると思うんだけど」
「………虫を楽しそうに選ぶのやめてくれないかしら」
ベルの分は色選びも私たちに任せるといわれ、粉にして渡した。
ありがとう、とお礼を言われたんだけど顔が引きつっていたのを見て、本当に虫が駄目らしい。
慣れれば可愛いし、害虫に至っては駆除し続けると生き物だとは思わなくなってきてただの作業になっちゃうんだよね。
とりとめのないことを考えつつ、調合釜の前へ。
「手順は銀粉と軽い土、グルナ虫の粉末を入れて全体を混ぜながら魔力を注ぐ。ムラなく混ざったら調和薬と魔力を少しずつ入れながら練る様に叩いて、伸ばして、を繰り返す。この時に魔力を出来るだけ注ぐ……艶のある白になったら完成ってことで大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。最初の段階で沢山魔力を注いでおくと完成した時に彫金で作るのと変わらない強度になる、でいいのよね」
「レシピにはそう書いてあったね。ひとまず出来るだけ魔力を注いでみよっか」
「魔力を加えた上で変化があったら報告し合った方が良さそうだな。初めての調合だ。魔力変化によって品質も変わってくるだろう」
「じゃあ、最初に変化があったら報告。無かった場合は……魔力が二回空っぽになるくらい魔力を注いだくらいで次の工程に移る、でいいかな」
無難な提案をしてみると二人とも了承してくれた。
でも、すぐにベルが「ライムの二回分なら私の四回分くらいかしら?」と口にしたので少し驚く。そんなに違うかな、と首を傾げるとリアンの返事。
「今回は金属を使う調合だから四回分でいいが、得意な調合ではない場合は五回分だ。ライムは集落でかなり魔力量が増えている。僕よりも多いしな……僕だと通常なら三回分、今回は四回分といったところか。僕も魔力は多い方だが、今回は相性が悪い。ライムの魔力は錬金術師としてもかなり多い部類に入る」
実感がない私をよそに話は進む。
この回復薬はあくまで『回復限界量を越えない』のが目安なので、正確ではないと念押しされた。魔力量もかなり甘く見積もっているから飲み過ぎても問題はないとのこと。
「それでも目安があるのは助かるよね。何となく感覚でわかってはいるけど」
「魔力回復ポーション以外もそうだけど、回復薬系って調合には時間がかかるから使う量は少ないに限るわよね」
「そうだな。提出用の調合が終わったら今のうちに魔力回復薬の素材を集めに行くことを考えた方がよさそうだ。ライム、この辺りは秋を過ぎると気温が急激に下がるから、採取物があまり採れなくなる。雪が降ると春までは薬草系はほぼ採取できない」
全ての材料を調合釜に入れた所でそんなことを言われたので頷いておく。
やっぱりルヴ達を連れて近々、リンカの森とは反対側の採取地に行くべきだな、と心に決めて調合用のヘラを握った。
調合を始めたのは多分私が最初だ。
温度については記載がなかったので通常通り。最初から遠慮なく魔力を注ぎながら混ぜるんだけど、銀粘土の量は通常でも結構な量だ。
(一回の調合でアクセサリー何個分になるんだろ。保存も効くし一定の需要があるから値段も高いってのが救いだよね。品質が良ければ、って注釈はつくみたいだけど)
今回の調合、学院に出すって以外に、金策として装飾品を作る際に困らないように高品質のものを目指そうって話になったんだよね。
魔力回復薬を大量に使うのもそういう事情があるからだ。
どうせ作るなら品質のいいものを、っていうのもあるけど工房のこともちゃんと考えてアイテムは使っている。
経営が安定してるって言っても、商売はいつ何があるかわからないからある程度は備えておくべきだってリアンがよく口にしていて、私も賛成なんだよね。
(ふとした拍子にヘソクリとか棚の下から小銭出てきたら嬉しいし、そんな感じかなぁ)
最初はそんなことを考える余裕があった。
軽い土も銀粉もグルナ虫を粉末にしたものも重さを感じなかったから、どんどん魔力を注ぎなくなりかけたら回復薬を飲む。
全体をかき混ぜるように、馴染むように料理を作る時に似た感覚で暫く素材を混ぜていたんだけど……一回分の魔力を使って回復薬一本分を注いだあたりから、少し様子が変わり始めたのに気づく。
白い粉の中で銀粉とグルナ虫の粉末が光るようになったのだ。
多分だけど、銀粉とグルナ虫の粉末が結合し始めたんだろう。
ほんのり光る二つの粉末に引き寄せられるみたいに軽い土が少しずつ、減っていくような気がする。
感じたままを言葉にすると少し遅れてベルが。ベルの後にリアンも同じような変化が起こったらしい。
二回魔力を使い切ったら、って話をしていたんだけど急遽変更させて貰って軽い土が「これ以上減らない」って感じる所まで魔力を注ぐことを告げると二人から了承の返事。
そこからは変化を見逃さない様にじっと調合釜の底を覗く。
今日入れた素材が簡単に焦げ付くなんてことはないだろうけれど、加熱しすぎない様に目だけじゃなくて鼻にも頼る。失敗すると変な臭いがすることも多いのだ。
グルグル、ぐるぐる、と混ぜて、混ぜて……三回ほど魔力を使い切って、回復薬を二本飲んだところで変化が止まった。
これは感覚なんだけど「ここだ!」って思ったから魔力を切る。
ふっと息を吐いて減った魔力を回復する為に瓶の中の液体を流し込む。
「とりあえず、これ以上変化しないって思ったのは三回半魔力を使い切った辺りかな。これ以上は変化しないって感覚があったよ―――……次、調和薬入れていくから」
返事を待たず、厳選した調和薬を手に取る。
これは祝福効果がついた品質Sの特別製だ。
片手でヘラを動かしながら魔力を流すと同時に少しずつ、調和薬を入れていく。
しっとりと水分を吸収していく軽い土は徐々にボロボロとした塊になり、銀粉とグルナ虫の粉末を巻き込んで、ゆっくりゆっくり一つの塊へ。
「……クッキーみたい。いや、スコーン?」
思わず呟いた言葉にベルとリアンからすかさず声が上がる。
「ちょっとやめて、食べたくなるっ! ライムの料理は駄目なのよ、美味しすぎて手が止まらない上に聞くだけでお腹空くからっ」
「スコーンは癖になって駄目だ。ウッドシロップとの相性がもう……あれにバタルを足して食べたら本当に止まらなくて困った」
「いや、そんなこと言われても。スコーン食べたいなら食後に食べられるように焼こうか? 晩御飯はラクサの希望で炊き込みご飯だけど」
メインはタレに漬けた魚を焼くよ、といえば二人は完全に沈黙してブツブツ言いながら魔力を込め始めた。怖い。
ベルが先に魔力を切って、調和薬を手にしたのが音で何となくわかった。
一瞬視線を向けると目があったんだけど、その時に笑顔で「ライム。提案なんだけど、これが上手く出来たらまた揚げ物作ってくれないかしら」といったので吹き出しそうになった。危ない。
ゴホゴホと咽ながらも手を動かしている私に、リアンも魔力を切ったらしく真面目な声で続ける。
「それはいいな。全員品質がSで文句のつけようがない出来だったら、祝勝会をしよう。ほら、ミントにも食べさせたいと言っていただろう?」
やけに真剣というか左右から発せられる圧に半笑いで了承の返事を返しつつ、魔力をさらに加えて練り上げていく。
この作業に入ってから腕の疲労感が半端ない。
艶とかもうそれどころじゃなくって、ただ必死に魔力を込めてただ必死に畳んで、広げ、畳んで、広げ、みたいな。
コツがいる事とこういう風にしているってのをどうにか言葉にしたけど、そこから完成まで工房内は無言でただ早く終わってくれと願いながら銀粘土を練り混ぜ続けた。
◇◆◇
並んだ三つの粘土を見たラクサは、目を丸くしていた。
心なしか頬が紅潮して目がキラキラしているように見えたんだけど、真っ先に銀粘土が入った保存瓶を手に取ってもいいかと聞かれたので頷く。
熱心に三つの粘土を見比べて、リアンに鑑定結果を真っ先に確認していた。
今回、完成したアイテムはこんな感じ。
【銀粘土】品質:S
特性:聖銀、呪い無効、魔力増幅(大)
三人それぞれが作ったものに効果が付加されているけれど、粘土という形ではグルナ虫の粉末に関する効果は出ていないみたい。品質を考えると失敗していたってことはないだろうから、別素材と組み合わせないと効果が出ないんだと思う。
だから出来たっていう達成感しかなかったんだけど、ラクサにとっては違うらしい。
「おおぉお! この品質で色付き銀なんてヤバいっすね?! 色付き銀は錬金術以外でも作れるんスけど、錬金術でないとつかない効果ってのも存在するッス。オレっちは錬金術師じゃないンで聖銀とかを狙う難しさみたいなのは分からないんスけど……聖銀の効果を鍛冶で付けるとなるとかなり難しいって聞いたことがあって」
「ああ、それは私も耳に挟んだことがあるわ。聖銀と魔銀はかなり素材を厳選しなくてはいけないとか」
「そうなんスよ。勿論、錬金術で付けられない特性を鍛冶で付けることも出来なくもないらしいンで、市場にはあるんスけど、装飾品に【聖銀】がついていると価値が跳ねあがるから、狙って付加できるなら付けることをお薦めするッスよ」
他にもまだ錬金術でなければつけられない効果や逆に細工師や鍛冶師でなければつけられない効果も教えてもらってメモをした所でリアンが瓶を一つ取り出してそこに自分が調合した粘土の三分の一を入れる。
「今回の報酬はこれでどうだ。金の方がいいなら金で払うが」
「こっちで!!! 断然というか、これだとオレっちボロ儲けなんスけど、良いんすか?」
「構わない。ラクサの技術力が上がれば僕らにも恩恵はあるし無駄にはならないからな。今回は僕らが作成しなくてはならないが、細工師のラクサならもっといいものが作れるだろ」
「そういう事でしたら私の粘土を半分受け取ってくれないかしら。卒業時に着るドレスの装飾品は貴方に任せたいの。勿論、お金は支払うわ。でも、練習が必要だというならこれで練習して頂戴。お粗末なものは身に着けたくないもの」
私は特に粘土を使う予定はないし、使う場合はまた調合すればいいかなと思っているのもあって今回使わない分を渡しちゃおうかな、と思ったんだけどラクサに止められた。
「リアンとベルの二人から貰ったので十分すぎるッス。ライムは今後何か使う時にその粘土を使わせて貰えればいいというより、明らかに貰い過ぎなンで」
やれやれ、と首を振ってから照れ臭さを隠す様に頭を掻きながらブツブツ言っているのがなんだかおもしろい。
思わず笑うとラクサに睨まれたけどあんまり怖くなかった。
「とりあえず、サクッと作るッスよ。報酬が報酬なのでオレっちが隣で一緒に同じものを作りながら教えた方が分かりやすいと思うンで、まずはリアンから。何気に器用だし指輪は基本なんで割と簡単なんス」
その前に、と全員の道具箱にどんなヤスリが入っているか確認して欲しいと言われた。
箱を開くと棒状のヤスリや紙のヤスリがあったんだけどそれを見てヒュゥッと口笛を吹き、すべすべしたハンカチのような物を三枚見つけて満足げに頷く。
「シルバークロスも入ってるし、完璧ッスね。あの値段でこれだけ入ってるとなると相当サービスされてるッスよ~。期待されまくってるッスねぇ」
話しながらてきぱきと使うものを指示し、並べるように指示を出す。
どこか手馴れた様子にベルと二人で顔を見合わせつつ、観察しやすい場所にそっと移動した。
作業の順番は指輪、腕輪、最後に胸飾りだそうだ。
ひとまず、調合が終わりました!よかった!よかった!!
いろいろ迷った結果、まだチャレンジしたことのない銀粘土を作ってみることに。
まぁ、彫金もやったことないんですけどね(笑
いつも読んで下さって有難うございます!
感想、アクセス、ブック、全て有難く励みになっています。
レビューも書いて下さった方がいて本当にうれしい!
次はアクセサリー造りだけど、どこまで書いたらいいんだろうか……。