255話 錬金科の惨状
ふっふっふ。一週間以内の更新ですよ!!
前半は後始末。後半はようやく調合の兆し、、、のまえに色々調達です。
材料確認大事ですもんね。
書きたいことがてんやわんやですが、一応調べながら書き進めていきます。
足元にいつの間にか戻ってきていたルヴとロボスが伏せている。
ベルは一瞬、ルヴ達の散歩を終え戻って来たサフルに視線を向けた。
二匹はサフルの横を行儀よく歩いて小さく吠えた後、床に敷いたマットで手足を拭いている。教えていない事なのだけど、サフルが一度教えたら覚えたらしい。
パタン、とドアが閉まる音と共に、ベルは何事もなかったように話を始めた。
「錬金科はクラスごとに演習をしているのだけれど、該当クラスの人数が約半分になったわ。第二区間に入って生きて帰ったのはごく一部。実習を辞退したり第一区間に向かった生徒は無事よ。それらを合わせて半数って所だけど、クラスの内訳で言えば過激派の生徒が半分、残りは保守派と中立派だったのが、今は過激派が一番少なくなって中立派が増えたという所かしら。実行犯に関しては取り調べ中で間違いないでしょうね―――……と言っても、残りの二クラスにも過激派はいるからどうなるかは分からないわ。彼らは試験中最初に演習を行ったグループと接触できないようにしてあるから、他の連中が何かやらかせば数はもっと減るんじゃないかしら」
今のところ知っている情報はこの程度よ、なんてベルは言っていたけれど十分だと思う。
誰から聞いたんだろうという疑問はあるけれど、確かな情報以外は話さないということは分かってるので、ただ頷く。
ま。過激派とやらがいなくなって学院が少しでも過ごしやすい雰囲気になってくれると、私としてはとても助かるんだけどね。
「クラス単位、といえば騎士科も同じです。と言っても、召喚師や錬金術師と組めた人間は少ないので僕らの時とはまた状況が違ってくるとは思うのですが……庶民騎士の中には辞退することを決めた者もいますし」
「でしょうね。貴族騎士にも演習を辞退する人間はいるでしょう。その後の訓練などはかなり厳しいと聞いてはいますが、命を落とす危険は第二区間に足を運ぶよりはるかに低い。指導員として同行する教官に認められれば、今後大きく飛躍することもできる。そうなると辞退を考える人間が増えることは間違いないかと―――それも、来年にはまた対策を練られると思うので今年限りだとは思いますが」
「今年限りって言えば、そういった感じの決まりが多いッスよね。なんつーか、実験的にやってる感がひしひしと」
今まで黙って聞いていたラクサの一言にリアンが頷く。
工房制度が入ってから学院の行事や体制を見直す方向になっていること、そして工房制度自体も手探り状態であることを聞いてラクサは納得した様だった。
「ナルホド。多分、この『アトリエ・ノートル』は大成功例ってことになりそうっスね。エル達も頑張らねぇとマズいんじゃないっスか? 大注目ッスよ~きっと。召喚科のディルとも関りが出来たっつーことで」
「ディルっていえば、アイツもちょっと変わってるよな。召喚師って戦えないものだと思ってたけど、身のこなしが完全に冒険者とかの類いだぜ?」
そう言って呆れているのか感心しているのか分からない顔で呟く姿に、パッと脳裏をよぎったのは槍を振るって積極的に攻撃をしているディルの姿だった。
戦闘が終わると知らない間に獲物をサックリしとめて、私の所に持ってくるんだよね。なんかちょっと、ルヴ達を思い出したのは内緒だ。
怪我の有無を聞いた後に絶対「嬉しいか?」って聞いてくるし。
「ディル、昔は近くにあった棒とか削って手作りの木製槍で獲物を仕留めてたんだよね。私は戦うの苦手だったから穴を掘ったり、あと危なくなったらとりあえず石を持ち上げて潰したり位しかできなかったけど」
「……い、意外にアクティブですよね。普通そこは逃げるんじゃ」
「貴重なたんぱく源だし、お腹空いてたから……つい」
「たくましいな。俺も見習おう」
口元をひきつらせたイオと、腕組をしてうんうんと頷くレイに美味しい虫とか教えるよと笑えば、間髪入れずに「それは要らない」と断られた。むぅ。
ちなみに後でベルとリアンにそれぞれ呼び止められてお金を渡されそうになったけど断った。
昔は虫もちょっと食べていたけど今はちょっとお金あるもんね。
サクサクして美味しい虫がいたんだよ。おやつにしてた。
「簡単だけど、今報告できるのはそれだけよ。送り届けたコウルの証言で方針も色々替わるでしょうね。それはそうと、三人はそろそろ戻った方がいいんじゃないかしら。追い出すわけじゃないのだけれど、他の工房組と組んでいたメンツと昼食がてら話すって昨日の夜に話してたわよね?」
「そ、そうだった! 悪い、ライム。俺らそろそろ行くぜ。飯、めっちゃ美味かった。また護衛をする必要がある時は言ってくれよ」
「首都トライグル周囲の事であれば、ある程度情報は集められますので相談して下さいね。手紙を頂ければ情報が集まり次第、返信します」
俺が荷物を持ってくる、とレイが踵を返したのを見てエルもその後を追う。
一礼して二人を追いかけようと足を踏み出したイオの手を慌てて引いた。
「あっ、それならイオ。少し聞きたいんだけどリンカの森以外に似たような感じの採取と適度な討伐ができる場所ってないかな。提出するアイテムを作ったら、ルヴ達を連れて訓練の成果を見せて貰いたいんだ。リンカの森だと、ほら、演習が終わった後だから素材も取れないでしょ? 再生までに時間がかかるし」
「なるほど。そういう事でしたら……リンカの森とは反対の川沿いに進んでいくと、雑木林が見えてきます。さらに川沿いへ進めば、滝があるのでその周辺で採取をするのはどうでしょうか。薬草が生えているのかどうかまでは分かりませんが、秋にはキノコが良く採れると聞いたことがありますし」
「狂暴なモンスターはいる?」
「聞いたことがないので何とも言えませんが、調べてみますね。分かったら手紙を出しますので待っていただければ」
イオにお礼を言った所でエルとレイが荷物を持って戻って来たので、三人を玄関先で見送った。
送り出した後、私達はラクサを加えた四人で【成功の胸飾り】についての相談をしたいと言えば、ラクサは快諾。
新しく紅茶を入れ直し、お茶菓子はスコーンにした。
「相談を受けるのはいいんスけど、何が聞きたいんスか?」
「デザインについてね。三つ作ろうと思っているのよ。それぞれ一つずつ。魔力色が違うからその比較にもなりそうだし、素材はたっぷりあるもの」
「それと報酬を払うからデザインを考えて欲しいんだが、頼めないだろうか。デザインによって効果が変わることもあると聞いているし、採取したパールを選ぶ所まで相談に乗ってもらえると助かるが無理にとは言わない」
「ああ、そういう事なら大丈夫ッスよ。デザイン料貰えるなら俄然やる気も出るンで、やらせて貰うッス。それと、出来上がったアイテムってディルが買い上げるとかって言ってたような……【成功の胸飾り】って召喚師にも効果があるんスか? ぶっちゃけ、どういうアイテムなのか分からないんスけど」
「そうだな【成功の胸飾り】は錬金術師や職人の為のアイテムと言っていい。作成するアイテムの成功率や品質、上位の特性が付きやすくなるといった効果がある。あとは名前に『成功』とあるように、運を上げると言われている。何か勝負事やデビュタントなどの行事や事業がうまくいくように身に着ける貴族や商人も多いな。あとは、運が上がるという事から賭博などを行う人間にも好まれる。要は解釈次第だが、ディルは貴族だ。それを踏まえると無駄にはならないだろう。男性物の胸飾りはシンプルなものが多い。パールを使っても一つか二つだろうし、十分作成可能だ。また、基本的に魔除け、富や長寿、健康を願う思いが込められていることが多く、他の宝石とも相性がいいことから良く社交界でも用いられるな。特に品質のいいものは高値で取引される。僕らが採取したパールの中でも最高品質のものが幾つかあるから、これはもう少し取って置いた方がいいだろう。技術力を上げて、素材も最高のものを用意してから使うべきだ」
これには私もベルも、そしてラクサも賛成した。
品質はA品質のものを使おうとなったが、ラクサはサンプルとして出したパールの中でも歪な物をいくつか手に取る。綺麗な円形でないものも多いんだよね。
「コレ、品質やら特性ってどうなってるッスか?」
「ん? ああ、品質はAだな。特性は【品質維持】【幸運の雫】【魔力適合】の三つだが」
「そんじゃ【成功の胸飾り】以外にカフスやネックレス、ブレスレットってのはあったりしないっスかね」
「言われてみると確かに……って、錬金術師が作るアクセサリーは基本的に三点セットであることが多い、って教科書に書いてあった記憶がありますわ」
ベルの発言にレシピ帳を開いて確認すると【成功の胸飾り】の後に【成功の耳飾り】【成功の腕輪】【成功の指輪】の四種類があった。
三人にそれを伝えるとラクサはパッと笑ってサラサラと何かを書いていく。
「じゃあ、それを全部作ればいいんじゃないっスかね? 土台のデザインとかアドバイスはできるッスよ。元々どういう風に作るつもりだったのか聞いても?」
そう言われて私は慌てて、レシピ帳へ視線を向ける。
「主な材料は【エンリの蕾】【パール】かな。金属は市販のインゴットを購入して加工しても評価に影響はないって聞いてるから、前に作ったインゴットで土台を作ればいいと思う。あと金属の加工調合の時に【グルナ虫】で金属に色をつけようと思ってるんだ」
面白そうだし、と言えば二人とも了承してくれたのでそれぞれ何をつけるか、何を作るかについて決めることに。
魔力色の関係もあるし、身に着けるものを決めておいた方が誰が調合するか決めやすいんだよね。
「ディルは買い取るって言ってたし、専用のものを考えた方がいいよね。作っても使えないような装飾品はお金の無駄だし。やっぱり袖で隠せる腕輪が無難かな?」
「社交の場でも普段でも着けられるし、いいんじゃないかしら。魔力で加工すると殆ど傷まなくなるし、パールは他の服にも合わせやすいからあっても困らない筈よ。私は胸飾り……ブローチがいいわ。帽子やリボンのアクセントとして使うこともできるし、腕や耳なんかだと数がね」
耳はあまりたくさんつけると品がないと言われ、腕は服との相性を優先しなくてはいけないし、冒険時もたくさんつけると気が散るらしい。
だから、服に簡単につけられるブローチがいい、とのこと。
「僕は耳飾り以外で。今付けているのは外す気がないんだ」
「それじゃあリアンは指輪ね。私は………いらないかな。三つ作れば提出アイテムとしては問題ないだろうし四つ作るってなるとちょっとね」
パールが嫌いなわけじゃないけど、装飾品の調合はかなり時間がかかる。
出来るだけ早く提出して色々な調合をしたいし、一つ作ればコツも何となくつかめる様な気がするし、今回は要らないと答えると全員納得してくれたので早速、誰が何を作るか話すことになったんだけどこれもあっさり決まった。
「ライムはディルの腕輪、私は自分のブローチ、リアンは自分で指輪を作る……でいいわね? デザインは統一感を持たせたいからラクサに頼みたいのだけれど」
「構わないっスよ。どういう場面で使いたいのかだけ教えて欲しいッス。あ、完成して戻ってきたら追加で細工も出来るンで気軽にどーぞ。勿論、加工賃は貰うッスよ?」
「それは当然だろう。僕の方は、アイテムが戻ってきたら回復系もしくは防御系の加工を頼みたい。商談時や商談に伴う正装時に使用するつもりだ。ある程度品のあるデザインだと助かる」
「私もパーティーで使うから、いっそ統一して社交界用ってことでデザインをしてもらえないかしら。デザインまで自分でやれ、とは書かれていないもの。専門家のアドバイスは貰えるなら貰いたいわ」
返事の代わりに頷いて、ポーチからメモ帳をいくつか取り出す。
まずは、と言いながらラクサは笑みを引っ込め、筆記用具を取り出した。
木を加工し、中に炭を入れたそれはあまり見ない筆記用具だ。
「その書いてるペンみたいなのって」
「ん? ああ、コレおやっさんがくれたス。エンピツっていう」
「へぇ。知ってはいたんだけど、こういう高級な感じの初めて見たから分からなかったよ。私が知ってるのってもっとこう、木って感じだったから」
「安くていい塗料が出来たとかで、塗ったらしいッスよ。元々、オランジェ様から聞いたものの一つでこの練り土で簡単に消せるンで経済的っていう金なし職人に優しい仕様……―――と、まぁ。ブローチはこんな感じでどうっすかね? シンプルで小さめのピンブローチなら邪魔にならないし、この土台にさらに追加したり重ね付けすれば豪華になるッスよ。パールは大きめのものを選んでいけばいいッス」
話しながらラクサはあっという間に三種類のピンブローチを描き、腕輪、指輪をも三種類描いた後、カフスならこんな感じか、と言いながらカフスを二種類。
どれも上品で完成したら凄いんだろうな、なんて他人事のように考えているとエンピツをクルクル回しながらラクサが動きを止める。
「基本的にアクセの作り方は二種類ッス。彫金と金属粘土の二種類。彫金は市販の金属板なんかを熱して、叩いたり切ったり伸ばしたりして作るんス。金属粘土の方が初心者向きッスよ。ただ、この金属粘土は錬金アイテムと調粘師っていう職業の人間が作るんス。だから結構高くて」
そう言って肩をすくめたのを見て手帳を開いてみる。
パラパラとめくっていくと金属粘土という項目を見つけた。
「んーと……基本の素材はあるかな。ただ、金属粉ってのがいるよ。これは買わなくちゃ駄目だね。作業工程自体は大変じゃないけど難易度は高い…―――これ、きっと魔力量のお陰で難易度が高くなってるんだと思う。元々金属系の調合って魔力を喰うから」
「魔力量と質が大事って言うのは調合を重ねて分かるようになったけど、こうして目に見える形で難易度として示されると元々少ない人は苦労するわよね。私も平均より少し高い位だし」
「魔力だけあっても、下処理とかレシピが分からないと意味がないんだけどね」
「それはそうよねぇ」
「金属粉はウォード商会でも取り扱っているから問題はないな。道具はどうなっているんだ? 手だけでいい、なんてことはないだろうし、今後も装飾関係は作るだろうから持っていても無駄にはならない。可能であれば購入したいんだが」
「今回限りってならオレっちの貸してもいいんスけど、買った方がやりやすいッスよね。三人なら資金的にも問題はなさそうだし専門店に案内しましょうか? 職人仲間で細かい道具専門の道具師がいるんスよ。ちなみに提出期限は?」
金属系の調合は疲れるから一週間くらい見た方がいいのではないか、と言われてリアンを見ると呆れた視線を頂戴した。
「ライム、君は覚えておかなくてはいけないだろう。期限は今月中だな。作成時間は演習終了から二週間とされている。第二陣、第三陣も同じ条件だ。発表は来月末。一年の成績はこれで決まるとの事だが、進級できるかどうかに関してはまた別で工房生は特定アイテムの提出、学院生は試験及び実技がある」
「結構忙しいんスねぇ」
「それなりだ。冬期休暇は進級準備に当てられるが、教科書の類いは既に手配済みだしこれと言ってやることはない。二ヶ月は休みになるからその間、店をどうするかだがそれは試験が終わってから決めるさ―――……買い出しに行くならこれから行こう」
立ち上がったリアンに続いて私たちも簡単な身支度をする為に自室へ。
お店は一週間休むことにしたのだ。三日間は完全休暇、残りの四日は用事があればノックをしてくれって言う形にしている。この時販売できるのは回復薬三点セットとトリーシャ液、洗濯液の三つだから混乱もそれほどないと思う。
予め、お客さんには説明して、冒険者ギルドや一番街でお世話になってるお店には張り紙させて貰ったし。
ルヴ達には留守番を頼んで、とりあえず私達は必要な物を買いに商店街へ向かうことになった。
こういう出費が重なっても、学院から借りているお金は返しているから気持ちには余裕がある。返済しなきゃいけないものが早く片付いてるっていいよね。
演習が終わってやっと工房に戻ってきたわけだし、思う存分調合するぞー!
ここまで読んで下さって有難うございます!
工房制度一年目ってことなので学院側も手探り。生徒側にとっては損じゃないか、と思う方もいるかもしれませんが色々と鍛えられそうである意味役得だよなーって思ってます。
評価、ブック、アクセスどれも有難く、読み返しているよーという声も良く頂いていて書いてる側としてはととても有難い上に嬉しいです。ありがとうございます。
今後も楽しんで頂けるよう、早くはないですが確実に書いていければと思っているのでお付き合いいただけると嬉しいです。
=新しいもの・職業=
【調粘師】ちょうねんし。
粘土を調合する人。錬金術師からなる人もいるが、人形師になる過程で必ず取得しなくてはいけない資格。陶器・人形粘度・金属粘土など様々な粘土とそれに関する薬剤などを調合する仕事。
【エンピツ】
オランジェの構想を集落にいる職人たちが再現したもの。
炭を木で包むように包んでいて、木の部分を削ることで紙などに書くことができる。間違えた際は練り粘土で押さえることでエンピツで書いた部分が消せる。