250話 カロルパ・レーラルジュ
よっしゃ、日付変更前の更新です!
いええええい!!
戦闘描写は相変わらずです。ライム、頼むから永遠に戦えない主人公でいて欲しい……本当に。
ヤル気に満ち溢れたディルとベルの二人をどうにか押さえて、詳しい状況を聞き出す。
曰く、モンスターは一体のみ。
角があるオスの個体で、角を入れずに高さが四メートルはある大鹿だという。
角を入れると五メートルは越えるだろうとの事だった。
「毛の色は何色だったか覚えていらして?」
ベルの問いかけに彼らは顔を見合わせながら口を開いた。
何故そんなことを聞くのか、と言いたげな表情にベルは肩を竦める。
「【カロルパ・レーラルジュ】は基本的に人間を積極的に食べないの。ただ、繁殖期と進化直後は別。繁殖期なら厄介だけど、進化直後なら勝てるわ。その見分け方が体毛の色なのよね」
ベル曰く、繁殖期は燃える様な赤。
進化直後は暗緑色だという。通常の体毛は焦げ茶色から茶色とのこと。
話を聞いた二人の騎士は顔を見合わせて声を揃えて言った。
「ッ…暗緑色でした!」
「茶色や焦げ茶色だと聞いていた事と、積極的に襲ってこないと聞いていたのですが、進化直後だったから新種だと思っていたんですが、そういう性質があったなんて」
「暗緑色なら餌の調達と進化した新しい体に慣れる為に狂暴になっているのでしょうね。進化すると食欲が増す傾向があるようですわ」
そう言って肩を竦め、周囲にいた人間のおおよその人数を聞いて、ベルは少し考えた後首を横に振った。
「ダメね。恐らく結界外の人間じゃ満腹にはならない筈。攻撃はしていた?」
「は、はい。見た限りでは魔力と爆弾による攻撃はしていました」
「生き残りはどのくらい? ああ、結界内にいる工房組は除外していいわ」
「恐らく、二~三パーティーくらいかと。戻る頃にはどうなっているかは分かりませんが、逃げ道がないというのは早い段階で気付いて、死に物狂いで抵抗していたので」
すいません、と謝罪する騎士科の二人をベルは気にしなくていいと一言告げて、ディルとエルに視線を向けた。
「私は倒せると思っているのだけれど二人はどうかしら」
「問題ない。デカいなら革も取れるし、何より暗緑色の毛皮なら魔力や一般的に売られている爆弾では効果がない筈だ。いい状態の肉食大鹿を手に入れられるなら、いくつか手はある」
「やってみなきゃ分からない、ってのが正直なところだな。デカい獲物相手に戦った経験はあんまりないんだよな、俺ら。ただ、鹿の仕留め方はある程度知ってるし、第三区間に近い場所で進化をして出現した事例が何件か過去にもあったことは聞いてたから、特徴も頭に入ってるぜ」
何処か楽しげな三人を見ていたイオは頭を抱え、レイは天を仰いでいた。
それを眺めながらそっとリアンの様子を窺うと完全に無の顔で立っている。
(あ、これ回避できないやつだ)
そんなことを考える私にエルがグッと親指を立てて笑う。
いつもの笑顔がなんというか、ちょっと怖い。
「ライム! 強力な爆弾があったら大口開けた瞬間に鹿の口に放り込んでくれよ。そうすりゃ胃で爆散してダメージ確実に入るからさ」
「あ、え、うん……うん?!」
「結構動きが速いから、動きが止まった時が一番いいかも知んねぇな。まぁ、ライムが近付くのは危ないから、俺に爆弾渡してくれれば口ん中にぶち込んでくる」
割とコントロールはいいんだ、と笑ったエルの頭は凄い勢いでイオに叩かれた。
頭を押さえつけられたエルが、イオとレイに強制的に頭を下げられているのが何だか妙に板についているのを見ると、日常のやり取りなのだろう。
大変だなぁと同情している間にも話は進んで、最終的にベルが生き生きとした顔で言い切った。
「ご飯も食べたし、肉食大鹿を倒したらこの森に用はないわ! 逃がす前にヤるわよ!」
「ライム。安心してくれ。雫時で彷徨っていた時に、運よく拘束を得意とする植物系モンスターを服従させたんだ。ざっと十体ほどいるから、全力で拘束して骨を折った後にエルとベルに首を落としてもらうからな」
「あと新作の爆弾の威力を確かめたいってベルが言ってたし、一つ預けてくれないか? 俺、パパッと口ん中に放り込むからさ。あ、中から爆発させても肉食大鹿の革が中々の強度だから内臓とか飛び散らないんだ。爆弾複数個とか爆弾樽とかだと流石に吹っ飛ぶかもしれねぇけどな」
あ、ダメだったわやっぱり、と盛り上がる三人を眺めながら私達は色んな覚悟を決めた。
どうしてこうなるんだ。あとは帰るだけだった筈なのに……と思いつつ、新しい素材に惹かれている自分も実はちょっといる。
ぽかーんとやり取りを聞いていた伝令係二人にベルが声をかけて、現場へ向かう。
走り始めて五分もすればイオやレイ、リアンも吹っ切れたのか「さっさと倒して帰ろう」という結論を出したみたい。サフルは何かを悟ったような笑顔を浮かべていたけれど、私の視線に気づいて慌てて「ライム様の身の安全は盾になってでも守ってみせます」と宣言。
ほどほどにね、と曖昧な笑顔を浮かべた私は多分悪くないと思う。
◆◇◆
ソレは遠く離れた場所からでもよく見えた。
獣の鳴き声はしない。聞こえるのは悲鳴と絶叫と命乞い。
真っ暗な森が橙色の光を帯びているのは、恐らく誰かが火を放ったのだろう。微かに木々や何かが焼ける焦げ臭さが、夜風に乗って運ばれてきた。
「っ、急がなきゃ! 炎が広がったら貴重な素材が燃えちゃうかもしれない!」
「そこなのか?! いや、まぁ錬金術師にとっては大事かもしれねぇけど」
「なに言ってんのエル!それが一番大事だよ! あの方角からするとそれほど希少な素材とかはないかもしれないけど、山火事とかの後って環境が変わって希少な素材が生えなくなったりすることもあるんだから」
基本的には元に戻るけれど、再生には時間がかかる。
走る速度を上げて貰って進んでいく。
木々の間を縫うように走るのには、もうかなり慣れてきたので私たちの移動速度は遅くはないだろう。
それでもソワソワと落ち着かないのは、これから向かう先にいるものが分かっていて、広がっている光景が心躍るものじゃないことが分かっているからだ。
(うう。みんながケガしなければいいんだけど。でっかい生き物ってでっかいだけで強そうに見えるんだよなぁ)
具体的にどのくらいの大きさか、という説明で数値上での大きさは把握している。
でも実際に見た訳じゃないから実感が湧かないのだ。
せめて恐怖で固まって足手まといになる様な真似だけはしないようにしようと気合を入れた所で、先頭を走っていた伝令役の二人が足を止めた。
「――――……あそこにいます。俺たちは気配を消して結界の中にいる仲間に報告しに行きますが中には入れないので、伝えることを伝えたらすぐに報告に来ますから」
「分かったわ。案内有難う。あとはコッチで好きにやるわ」
力強く頷いたベルは舌舐めずりをして手袋を外し、布を巻いてから戦闘用の手袋に付け替える。
いよいよ戦闘に入るのが分かったので私も準備をすることにした。
フード付きマントは素早くアイテムを投げたりするのに邪魔になりかねないし、毒を吹きかけてくるとかそういう攻撃はないと分かっているので脱いだ。
試験ってことで正体特定されても害はないし。
杖は持たなくていいと言われているので、ひとまず片手に爆弾、もう片方の手には回復薬を持った。
盾持ちのレイ、近接武器であるベルとエルは前衛に。中衛には走り始めた段階で呪文を唱えるディルとイオ。後衛は言わずもがな私とリアン、そしてサフルだ。
リアンは指示を出す係兼牽制になったんだけど、魔力で強化した鞭の効果が直接的に効きにくいことからこういう役回りになった。
「ライム。基本的に前衛にアイテムを渡すのは僕がしますので、アイテムと使う人間の指示を」
「う、うん。分かった。私も攻撃を避けられる自信ないからお願い。でも、私から見て前衛の誰かが吹っ飛ばされたり死にそうになったらすぐに警備結界を張るからね? 合図したらすぐに前衛の三人は戻ってきて」
「分かってるわ。私だって鹿に喰われるなんて笑い話にしかならなそうな死に方は御免被りたいもの。どうせ死ぬならドラゴンと死闘の果てに、とかの方が格好がつくじゃない?」
「いや、最終的に死んだら駄目だってば。ドラゴンもだけど大きなモンスターとか魔物の素材って扱い難しい代わりに、凄いアイテム作る材料になるし、死んだら調合出来ないじゃん」
全くもう、とベルに怒って見せるとそれはそうだけど、なんて拗ねたように唇を尖らせている。戦闘前だと変な勢いがつくらしいベルに呆れつつ、ポーチから取り出したお茶入りのカップを渡す。
予め入れておいたんだよね。
同じようにディル以外の全員に渡す。ディルは詠唱中で飲めないのが分かっているからか、しょんぼりと眉尻を下げていた。
お茶を飲むベルの横で、カップを受け取ったリアンが深くため息を吐いた。
「ベル、ライム。二人とも、言いたいことは分かるが緊張感を持て。エル、レイ。あまり動きが激しいようであればこの睡眠薬を使ってくれ。顔面にぶつけさえすれば瞬時に気化して体内に入る。【カロルパ・レーラルジュ】に毒・猛毒・麻痺の毒薬は効かないが強力な睡眠薬は効果があった筈だ。動きと知覚を鈍らせることはできるだろう」
過信はするな、とリアンがエルに託したのはぶつけて割ることを前提に作られた特殊瓶だ。
中には少し濁った液体がたっぷり入っている。
分かった、と答えて大事そうに道具入れへ仕舞ったエルが料金について話しているのを眺めていると、ツンツンと肩を突かれる。
顔を向けるとディルが呪文を唱えながら羽織っていたローブを渡してきた。
頷いて、渡されたローブをトランクに収納。他の面々の使わない物や邪魔になりそうな物は、全てトランクへ入れた。
拠点は既に撤去してきたから、トランク持ち歩くしかなかったんだよね。
最初の作戦通り私達にはディルによる隠密の術がかかっている。
だから大声を出さない限りは恐らく気付かれない。なにせ、現場が一番五月蠅い筈だから。
ディルが肉食大鹿を逃がさない様、位置を確認したら囲むように契約した召喚獣を召喚していつでも指示を出せるように待機させる。
耳栓を全員でしてから、私が音爆弾という耳のいい敵に効果のある物凄い破裂音のする爆弾を投げて戦闘開始だ。
少しずつ大鹿の位置を把握して距離を詰めていく。
ある程度近づいた所に着くと私たちは木の陰からそっと顔を覗かせて、ソロソロと夜の暗い木々の間を滑るように隠れながら、小動物みたいに移動する。
大鹿の周りは爛々とした橙色の炎が舐めるように、布製品や枯れ葉を燃やしていた。
炎に照らされた肉食大鹿の体はひどく大きい。
周囲に生えている木々よりは低いけれど、それでも立派でかなり大きかった。
(いや、この場合は周りに生えた木の背が高すぎるんだろうけど)
がっしりとした木々の幹は太く、枝は力強く、そして空に浮かぶ星や月や太陽を指すのが目的みたいにぐんと高い。
そんな深く鬱蒼とした場所で、大きく太く広く広がった角を持つ肉食動物が暴れている。
シルエットはよく見る野生のヴァルケロスに似ているのだけれど、その顔が全くと言っていいほど違う。
口がデカい。
草食動物であるヴァルケロスのような図体と顔のシルエットの癖に、口がガッツリ顔の半分ほどまで裂けるようになっていて鋭い歯が並ぶ。
目玉はぎょろりと時折飛び出しているのだけれど、飛び出している間は魔力によって温度を見ているのだとそっと私と行動しているリアンが囁く。
額には短い角とその間に目玉より一回り小さな魔石があるようだ。
ぐちゃぐちゃと咀嚼をする肉食大鹿の何本かの歯には、襤褸切れになった錬金服が引っ掛かっていた。
(うっわ。牙がびっしり並んでる。ルヴやロボスの口より歯が多いな)
思わず口元を凝視した私の視界がそっと何かで塞がれて肩がビクッと跳ねた。
すぐに耳元で聞こえたのはリアンの声。
「大丈夫か。あれは素早いが主に突進、噛みつき、角での突き上げ等をする際は首を下に下げる。動作を見ていれば備えることもできるだろうが、進行方向に気を付けるんだ。僕の側から離れるな。もし、イオにアイテムを渡しに行くなら僕もついていく」
「ん。じゃあ移動する時は声かける。リアン、そろそろ時間かな?」
懐中時計はベルとリアン、ディルの三人が持っている。
ベルは前衛として動いているし、ディルはイオと動いているので『時間』で爆弾を投げるタイミングは決めてある。
私達は丁度、暴れている肉食大鹿の横にいるんだけど、テントや木の陰に隠れて少しずつ移動を開始。今、目の前で一つのテントが襲われているので、魔物はそちらに注意が向いている。
「―――……そろそろだな。ココからなら届きそうだ」
「だね。じゃあ、耳栓して」
ああ、と聞こえた声を最後に音が消える。
私も耳にしっかり耳栓をしたので、サフルやリアンの顔を見ると頷かれた。
「じゃあ、投げるよ」
時間もぴったりだったのでテントから出て、気付かれる前に狙いを定める。
肉食大鹿は、テントの前で腰を抜かしている錬金術師を食べようと大きく口を開けた所だったので隙だらけだ。
狙いは耳の辺り。しっかり狙って全力で爆弾を投げた。
この爆弾は勿論爆音が鳴る。
でも、人間の耳なら大きい音と衝撃、ちょっと耳が一時的に聞こえなくなる程度だ。
ただ、耳のいいモンスターや魔物への効果は絶大。最低でも十分間は聴覚が使えなくなる。
勿論突然の爆音に目を白黒させている間に攻撃を仕掛けるのだ。
ぶぉんっと思いっきり投げた爆弾は何とか狙い通り肉食大鹿の耳横で破裂。
そのタイミングでベルが食われかけていた生徒の襟首を掴み、こちらへぶん投げてきた。
リアンが思いっきり迷惑そうな顔をしたのを私はしっかり目撃したけど、茶化している場合ではないので爆弾の準備をしつつ耳栓を外す。
大きな、でも意外とかわいい悲鳴を上げる肉食大鹿。
へぇ、と思わず目を瞬かせていると小突かれた。
「呆けていないで、きちんと動きを見ていろ。肉食大鹿は角を使って魔力弾を飛ばしたりもしてくる。もし回復が必要になるならレイだろうからな」
「ご、ゴメン。可愛い声だったから驚いちゃって―――魔力弾って魔力で相殺できる、んだっけ?」
「ああ。僕の鞭で弾けるぞ。魔力を通しているからな」
「私も魔力を杖に込めてブオンッてやればどうにかなったりする?」
「ならない。守りにくいから大人しくしててくれ」
「……はーい」
いつでも逃げられる、というか逃げ回る体力はあるし、周囲に敵はいないとの事だったから集中できるなと肉食大鹿の動きを観察していると、リアンが声を潜めた。
少し先では悲鳴を上げ聴覚へのダメージに悶絶する鹿に向かって、ひとまずベルとエルが武器を振りかぶり大鹿の左前膝のあたりへ同時に武器を振り下ろす。
一瞬ぐらついたが攻撃に腹を立てた大鹿が、その場で攻撃を振り払うように激しい足踏みをするようなしぐさを見せたんだけど―――力強く大地を蹴って両前足を大きく振り上げた。
危ない、と叫びかけた私の視線の先には攻撃をヒラリヒラリと除けるベル達の姿。
「こっわ。私なら絶対騙されて一撃だった」
「ライム、ベル達が気になるのは分かるが周囲に目を光らせてくれ。ここはある意味、敵地だからな。死んだ奴以外にも―――……ああ、そこの。何人生き残っているか分かるか」
雑な口調と不愛想な表情のまま命からがら助かった錬金科の生徒に声をかける。
学院ではこういう顔を見せることがないので意外だなと思っているとリアンは再度、同じことを聞いたんだけど錬金科の生徒は何も言わず目を白黒させるだけだ。
「……チッ。もういい」
「いや、リアン……優等生どこいったの」
「僕は普段通りだろう。何を言っているんだ」
「そ、そっかー」
絶対違う。
そんなことを想いつつ、私はそっと尻もちをついた状態で惚けている生徒の正面にしゃがみ込む。
薄汚れてボロボロで、疲れ切った顔をしているけれどどこかで見た覚えがあった。
どこだっけ、と考えて、考えて思わず声が出た。
「あああ! 思い出した! 前に、図書館でお勧めの本教えてくれたり、迷った時に助けてくれた人だ。あの時はありがとう。お礼言えなくってモヤモヤしてたんだよね」
「……知り合いか?」
訝し気な声に名前は知らない、と返せばリアンが短く私の名前を呼んだので「これ、怒られるやつ」だと嫌な汗がじわっと滲んだ。
ベルはあんまり怒らないけど、リアンって結構細かい怒り方するんだよね。いや、役に立つことも多いんだけどさ。
「だ、大丈夫だって。この人から悪口聞いたことないし。あの、まだ驚いてると思うんだけど何人くらい無事なのかだけ教えてもらってもいい?」
「あ――――……きみ、は」
「うん。学院で悪口言わなくて、しかも助けてくれる人って少ないから覚えてたんだ。なんか災難だったね。でも、あの大きいのはベルとかが倒してくれるから大丈夫だよ」
すごく強いから、と言えば彼は戸惑いつつ頷いた。
そしてそっと視線を先程いたテントの方へ向けて指を差した先は森。
「自分以外には五、六人です。でも、皆、自分を囮にして逃げました」
「え」
「……武器を取られて、テントから出されて……魔物の前に出た瞬間他の奴らは、テントの裏側から森に逃げたんです。どうなったのか、どうしてるのかなんてわからない」
「な、なんか壮絶な体験したんだね。えっと、とりあえずコレでも飲んでて。ただのお茶だけど」
「は」
驚く彼に木のカップに入ったお茶を持たせてササッとリアンの横へ戻った。
戻りながら他のグループは見ているかどうか聞けば彼は「いえ」と力なく答える。
サフルが警戒を兼ねて彼と私の間に立っているので安心だ。
「武器はもっていなかったし、大丈夫だと思う。それより、レイは大丈夫そう?」
パッと前線に視線を向けるとレイが肉食大鹿の蹴りを盾で受け流して、ベルやエルに声をかけながら連携攻撃をしている。
「攻撃は盾でいなしているな。驚くべきことに、正面からあの巨体の蹴りをくらってもびくともしなかった」
「なにそれこわ」
「才能はあってもそれほど強いとは思わなかったんだが」
少し驚いた、と言うリアンの表情と声が変わらなくて苦笑する。
ほんの少しだけ緩やかな雰囲気に包まれたのだけれど、それが一変したのはもう少し近くにいた方が良さそうだと判断して近づいて、イオや詠唱中のディルと合流してすぐの事だった。
異変に気付いたのはイオとリアン、そしてエル。
伏せろ、と叫ぶ声が重なってハッと顔を向けると肉食大鹿が角に魔力を集め、無数の魔力玉を作り出している。
その数は細かく枝分かれした角の先端に最低でも二つという数の多さ。
どうしてこういう攻撃を、と思いつつ体全体に視線を向けると、どうやら集中攻撃を受けた左前膝が完全に破壊されているようだった。
中腰状態で様子を窺う私の腰を引き寄せたのはリアンで、彼の腕には長い鞭。
「一応屈んでおいてくれ」
「ディルさん、少し屈んで詠唱を」
こくっと頷いたディルはずっと詠唱をしてるんだけど大丈夫なんだろうか。
そう思っていると魔力の濃度が濃くなる感覚がしてハッと顔を上げる。
前衛はレイが頭上に盾を掲げてその下にベルとエルが潜り込む形をとっているんだけど、なんだか盾が光って見えた。
「あれ、なんで盾が光ってるの?」
「盾の才能の一つですね。盾を魔力で強化しているんです。必要魔力は極僅かにもかかわらず、強度が数十倍に上がると本人が言っていました。事実かどうかは分かりません。でも、レイの丈夫さと忍耐強さは学年一でしょうね。盾のクラスに入ってから、一目置かれる存在になっています―――…今までは、適性のない剣のクラスだったので下から数えた方が早かったというのもあって注目されているんですよ」
貴族籍を抜かれても尚、きちんと学院に通っている珍しい生徒でもあります、とイオが解説した所でディルが口を開いた。
「―――…貴族籍を抜かれる、ということは貴族同士の関わりがなくなるという事だ。基本的に、貴族の側から声をかけることはない。貴族籍を抜かれることは恥だと言われて育つからな。イオ、設置が終わった。時間はかかったが」
ふぅ、と息を吐いて座り込むディルにそっと中級魔力ポーションを渡す。
嬉しそうに目を細めて渡したものを口にするディルを余所に空気が震え、凄まじい魔力が降り注ぐ。
頭上を見ると無数の魔力の球が地上めがけて降ってくるところだった。
ここまで、というか尻切れトンボです!毎回のように!!!
次、書けるのいつだろう……執筆時間取れたら早めに更新したい……勢いに乗って、どうにかぁああっていう状態。くっ、知らんうちによく分からんのが一人追加されてるし!どうなってるんだこれ。
いつも誤字報告、感想有難うございます!評価やブック、読んで下さるだけでとても有難い。
少しでも楽しんで頂けるよう、末永く頑張りますッ!
=新しい魔物とか忘れかけてるかもしれない用語とか=
【ヴァルケロス】草食の動物。枝分かれした頑丈なツノを持ち、オスの角なら武器に使われ、メスなら装飾品や薬の材料として使うことができる。
尚、個体によって好みの魔力があり契約を交わすと生え変わる時期にツノをくれたり、荷を引いてくれることもある。比較的穏やかな性格だが、会えることは稀。
現世で言う鹿。
【カロルパ・レーラルジュ】通称:肉食大鹿
めっちゃでかい肉食の鹿。角は魔力を通すと金属化する。目玉は強力な召喚素材として人気だが、仕留めにくい、発見が中々難しいというのもあり入手は比較的難しい。
かなり大型の鹿で、全長が6mを越える個体も確認されている。通常時の毛皮は焦げ茶~茶色とよく見る色だが、繁殖期になると赤、進化したてだと暗緑色になる。
繁殖期・進化後は食欲暴走気味。
殺しても毛皮の色は保たれたままなので、暗緑色が一番高い。次に赤、最後に茶となる。
魔物としての特徴として、魔力攻撃に耐性がありほとんど効果がない。毛皮が頑丈であることもあり爆弾はほぼ効かない。聞くとすればフラバンより上の性能を持つ爆弾だが、毛皮により効果は半減する。また、毒・猛毒・麻痺の耐性がある。効果的なのは睡眠。弱点は足。喉。首だが、首は喉側から切らなければ切り落とすのが難しい。