247話 ホウジュ貝と水底の宝石
うん……日付変わった(遠い目
物は試しだ、と澄んだ水面にそっと銛の先端を沈める。
水面に浮かべることで水の中を覗き見ることができる【水覗き】という道具を使って目視しながらとはいえ、水中―――それも結構な深さのある泉の底から貝を引き上げるのは大変だった。
「これ、慣れるまでちょっと……大変かも」
ぬぐぐ。と盛大に顔を顰めつつ腕を動かす。
まず、貝の向きによって上手く銛の間に挟めない問題。
これにはどの角度ならすっぽりはまるのか挑戦しながら1つ、2つと慎重に引き上げていくしかなかった。
あと、引き上げる速度と魔力の量。
がっちりはまると魔力での補助は要らないけど、油断すると落ちるから出来るだけ魔力を使って素早く引き上げるしかない。
必死に引き上げた貝はベルが受け取ってタライに入れてくれた。鮮度が落ちるからね。
貝を入れたタライの水が温くならないようにベルが定期的に水を入れ替えてくれることにもなっているので、私はひたすら貝を取る。
最初は5分に1個、とかだったのが少しずつ速度が上がっていくのが分かってちょっと楽しくなってきた。
「ライム、楽しい?」
「楽しいよ! ベルもやってみる?」
「そう、ね。ちょっとやってみようかしら」
どうやって採るの、と聞かれたので【貝突き銛】の使い方とコツを教える。
貝の場所が分からないと言っていたので特徴と大きさ、取りやすそうな貝の位置を銛先で指して教えると真剣な顔で採取に取り掛かり始める。
悪戦苦闘しているベルを見ながら、泉の底から引き揚げた手のひら大の二枚貝を手に取ってみる。
大きな涙型の貝殻の外は黒みを帯びた濃い灰色だ。少し藻が付いていてぬるっとしてるけど、かなり綺麗な貝だと思う。
(泉の底にある浄化石が白だからよく見ると分かるけど、上からパッと見ただけじゃ分からないかも。だから沢山あったのかな)
餌は何だろう、と思いつつナイフを取り出して魔力を纏わせ貝の貝柱がどこにあるのか確認する。
二枚貝の開け方はだいたいどれも同じだ。
微かに空いた貝殻の隙間にナイフを押し込みクルッと沿うように滑らせる。
何処にパールがあるのか分からないから魔力を纏わせたのは貝に差し込む所まで。
殻と殻の間に挟むのが一番時間かかるんだよね。私も貝開け沢山してきたわけじゃないし。
「んーっと……貝柱は一つっぽい。この平たい部分にあるのは有難いかも」
カポッという独特の音が聞こえて貝柱が切り離されたのを確認し、貝を開くと美味しそうな貝の身が。
「あ、貝柱大きい! 美味しそう……!」
やった、と思わず喜びつつパールを探すために指先で貝の身の部分を探る。
1個目の貝にはなかったから貝柱と貝の身の部分を分けて取っておく。
貝の身は食べるにはちょっと向かないけど、美味しいスープの出汁が取れるんだよね。
これ、炊き込みご飯にでもしようかな。
「ベル、パールが入ってる確率って結構低いって話だから頑張ろうね。小さい貝は銛に引っかからないとは思うけど、小さ過ぎると判断したら泉に戻すよ」
「分かったわ。ねぇ、パールなんだけど数が取れたら……その、少し欲しいの。ドレスに合わせるアクセサリーに少し使いたくて」
「もちろん! というか、中にモンスターとかがいないなら、いっそ潜って採っちゃうのもありかなぁって。まぁ、皆が飲んだりする水だからしないけどね。一応、浄化石が泉の底に沢山あるからある程度の汚れは分解してくれるけど」
冗談めかして最終手段にしようと笑えば、ベルも気が楽になったのかそうね、と笑って作業に戻った。肩に力が入ってると採り難いんだよね。
私も2つ目、3つ目、と手に取って開けていくけど今のところ収獲は美味しそうな貝柱だけだ。
(最低でも二つは欲しいんだよなぁ。失敗した時の為に)
貝柱の位置が分かってからは開けるスピードが上がって、採取した15個のうち14個目に手をかける。
ちょっと小振りなその貝を開けるとポコッとした大きな膨らみがあった。
反射的に思わず息を呑む。
震えそうになる指先でそっと膨らみを撫ぜ、捲ってみると綺麗な丸く輝くパールが出てきた。
「ッベル! ベル、あったーーー!! パールだぁ! すっごく綺麗」
「え?! 嘘、もうあったの!?」
銛や水覗きを泉側に置いて駆け寄ってきたベルに出てきたパールを見せると、綺麗な赤い瞳がキラキラと輝いた。
まぁ、とどこかうっとりした顔で教えてくれた。
「ライムってホント、凄いわよ。コレ……ラウンド型で9mmはあるんじゃない? 照りもいいし、しっかり厚巻きで色も美しいわ。色の系統はオーロラゴールド系ね。ゴールド系には色々あるけど、オーロラブルー系は涼やかなイメージと清らかなイメージのドレスにもよく合うの」
「ベ、ベル、凄く詳しいね。びっくりした」
「母が好きなのよ。私もパールは好き。私の髪って赤でしょ? 宝石だと色味的に合わない物もあるんだけど、パールはどんな髪色にも目の色にも合うのよ。ふふ、沢山取れたらお揃いでネックレスでも作る? 鞣したヴァルケロスの柔革で磨きながら魔力を込めると、魔力でパールがコーティングされてグッと硬度が増すわ。魔力を込めた刃物でも傷付かない位になるのよ」
ヴァルケロスの柔革は持ってないな、と思っているとベルが道具入れから柔らかそうな一枚の革を取り出す。
ギョッとする私にベルが笑う。
「パールが採取できるかもしれないって聞いて、一応持って来たのよ。出来れば、出てきたパールは全部ライムに磨いてほしいの。貴女の魔力は色が無いからパール本来の色味を邪魔しない筈だから。色のある魔力だと、ほんの少しかもしれないけれど影響を受けるのよ」
そういうことなら、と受け取って簡単に汚れを落とすために塩の結晶を乳鉢で細かくすり潰した中で軽く擦り、柔らかい布で拭く。
塩によって余分な汚れ、布で拭くことで水分をしっかり取ったパールは十分綺麗だったけど、魔力を注ぎながらパールを柔革で磨くと輝きが一層増した。
僅かな光を柔らかく、でもしっかりと弾く様な、上品でどこまでも神秘的な輝きにベルと少しの間魅入った。
「って、いっぱい貝採らなきゃ! これ、クッション入りの保管ケースに入れるね。集落で安く売ってたから買ったんだけど役に立ってよかった」
ポーチから取り出したケースにしっかりパールを入れて、残り一つを開けるけどこっちには何もなかった。
ベルに開け方を教え、交代。
7個の貝を採っていたベルと場所を交換し、少し移動しながら採れるだけの貝を採っていく。水底を覗きながら腕を動かす作業は結構疲れるから交代しながらだ。
暫く続けていくと、釣りを終えたらしいレイと様子を見に来たリアンが私たちの所に来たんだけど、この頃には私が4つ、ベルが2つのパールを見つけていた。
ベルの方が見つけた数が少ないのは単純に貝を引き揚げた数が違うからだ。
確率的には同じくらいだからベルは張り切ってる。
「こんなに見つけたのか?! パールが入っている確率はかなり低いと思っていたんだが」
「手つかずだったって言うのもあるかも。あと、ここ浄化石が沢山でしょ? 小さくなったやつが貝の中に入り込む確率が他の所よりも多いんじゃないかな。丸い……ラウンド型って言うの? それが多いのも入り込む浄化石が丸いことが多いからだと思う」
「なるほどな。それにしても品質もかなり高いな。カラーバリエーションもかなりある」
「だよね。ゴールド系が欲しい、って今ベルが頑張ってるよ。私はこれがお気に入り! 綺麗だよね、青緑色がかった水色のやつ。リアンに似合うんじゃない? レイはこれかな。シルバーホワイト系って言うんだって。お守りにもいいって言うし、沢山取れたら一人一個持ってても良さそうだよね」
確かパールにはトラブルや災難から守ってくれる、とか邪気を祓ってくれる効果があるって信じられているみたい。
ついでに女性と男性は装飾品が違うって話を思い出した。
なんでも、女性は華やかな印象の物が好まれて、男性はシンプルだけれど細やかな細工を施された物が好まれるんだとか。
「確か男の人の正装で使われる宝石によくパールが使われるって聞いたんだよね。宝石1つとパール2つ、とか宝石2つにパール1つみたいな感じで組み合わせて」
知ってる? と聞けば、リアンから誰に聞いたのかと聞かれたので、ビトニーさんだと言えば納得していた。
採ったパールを見せるとリアンが普段の不愛想な顔のままじっと何かを考えていたけれど、唐突に「……僕も少し興味があるんだが採取しても?」と口にしたので驚いた。
売るんだろうか、と思いつつ頷く。
興味は無さそうだったんだけどな、と思いつつも残っている貝を手に取った。
「私、釣りもしたかったし交代してくれるのは助かるけど、結構疲れるからベルと交代しながらやってね。で、釣りがしたくなったら声をかけて。数があっても困らないからギリギリまで私も粘りたいし。最悪、貝だけ採って拠点で剥いてもいいからさ。あ、レイはこれ食べてから休んでよ。晩ご飯、張り切って作るから楽しみにしててね」
その前に貝の開け方を教えるから座って、と言えば素直に座ってくれたのでちょっとほっとする。なんか最近リアンが変な時あるんだよね。転んで頭とかぶつけたかな?
体調は悪そうじゃないんだけどな、と思っているとレイが大量にあった貝の殻を覗き込んでいることに気付いた。
「ライムの作る食事は貴族だった頃に食べた食事よりも美味いから楽しみだ。魚も結構釣れたから、鮮度を保つのに〆て網に入れて水の中に沈めてある。ここの水温は低めで一定だ。気になるようなら収納してくれ。内臓と鱗も処理したから少しは調理がしやすいと思うが調理の際は念のため確認して欲しい」
「うわ、凄く助かるよ。ありがとう、レイ」
構わないさ、と片手を上げてテントへ向かって歩く姿を見送ってから、リアンに貝の剥き方を教えておく。
食べられる貝柱や身もしっかり分けてボウルに入れて欲しい、と言えば頷いたので一安心だ。
定期的に水を換える事も伝え、貝の採り方を教える。
ベルも交代目安の数が採れたらしく張り切って貝を剥き始めた。
一通り教えるとリアンは比較的早く要領を掴んだ。
多分だけど、こういう細かい作業というか調整しながらする作業が得意なんだと思う。
それを見てから、私はサフルが釣り竿を持つ釣り場へ向かった。
空を見上げると澄み渡った青空が見えて何だか実習中であることを忘れそうになる。
パンパン、と気合を入れて両頬を叩き小走りでサフルの元へ急ぐ。
ベルには自分で説明するって言っていたから、私は釣りを全力で頑張るだけだね!
なにが釣れるかなぁ。
◆◇◆
最終的な釣果とパールの数は想像以上になった。
色は勿論だけど、形もラウンド型じゃないバロック型やドロップ型というのもあって個性豊か。しっかりと輝く存在感のあるパールの数は充分どころか選ぶほどある。
たくさん取れて満足って言うのもあるけど、調合失敗した時の保険が沢山あるのは単純に嬉しい。
「長い間、ずっと泉の底で育っていたって考えるとすごいよね。こんなに綺麗になるんだもん」
まだいっぱいあるし、稚貝は泉に戻しているから環境にもダメージはない筈だ。
ただ、数か月で出来る訳じゃないから、しょっちゅうは採りに来られないねと話せば全員頷いた。
「魚も多く釣れたみたいだし、安心して移動できるな。俺らもしっかり休ませて貰ったから疲労もないし、護衛は安心してくれ」
「僕らも全力を尽くして皆さんを守ります。ただ、これから行くのは負傷者が多く出ている場所なので気を引き締めて頂ければ」
「今まで通り探索探知能力に長けたイオが先頭、最後尾は視野が広い俺が。エルはライムの横にいるという事に決めた。他のメンバーの位置もこちらで決めたので従って欲しい」
そういって見せられたものを確認して、私達はテントを撤収。
身支度や用を済ませ、気を引き締める。
勿論、泉の水はたっぷり樽に汲んでおいたので暫く持つだろう。
品質のいい水は今後いくらあっても足りない位だし、きちんと樽の底には泉にあった浄化石も一緒に入れている。時間が影響を及ぼさない場所に保管しているとはいえ、一応ね。
「消臭玉も口に入れてね。ご飯食べた後だし」
はい、と毎食後に口に入れるようにした消臭玉だ。
体にも消臭スプレーを振りかけ、一息ついた所で疑問に思ったことを聞いてみる。
チラッと上がっていた情報が気になったんだよね。
「ねぇ、アサシン系の魔物がいるとかって話だったけど……正体は知ってる? そっと近づいてくるのって多分、虫とか獣とかかなぁって考えてはいるけど」
鎧の調整をしていたレイがああ、と頷いた。
それに関しては合流する直前、待ち合わせ場所に向かっている時に騎士に呼び止められて伝えられたそうだ。
「エル達が所属していた騎士団の方が教えてくれたんだが、どうやら虫と魔物の二種類らしい。幸いどちらも『アサシン系』として広く知られている個体だな」
「広く知られているアサシン系で森なんかにいるってことは【ナハトアングリフォ・アラーネア】か【エレフォラモール】とかのクモ系かしら。魔物はヘビ系かしら」
「……クモとヘビ」
レイとベルの会話に思わず呟けばエルがクルッと振りむいた。
純粋に驚いたように目を丸くしてる。
「ん? ライムは苦手か?」
「ううん。毒のある部位ってどこかなぁって。虫の毒って結構毒薬向きだから」
「生け捕りは流石に無理だからなぁ。胴体を切り離して、持って帰るか? 狙うのは胴と頭の所だしな。ヘビに関しては眉間の魔石を砕かないように頭を落とすのが一番楽だし、基本的に牙の根元にあるだろ? 毒って」
「じゃあ、無理しない程度でお願いしていい?」
「おう! 任せとけ。それと、第二区間の毒持ちモンスターや魔物は万能薬か猛毒消し、あとはA品質以上の毒消しがないと死ぬんだ。ま、毒をくらう前に殺せばいいんだけどな。弱点は炎だから、松明を持って移動する手もある」
けどなぁ、とエルが頭を掻いた。
人に見つかる可能性も出てくるから好みで、と言い切られて腕を組んで考えてみる。
(どっちが困るかな……面倒を覚悟で死ぬリスクを減らすか、死ぬリスクを減らして面倒を……いや、面倒が死ぬリスクを連れて来るっていう選択肢もあったりする?)
むーん、と悩んでいると黙っていたディルが口を開いた。
「良ければクモかヘビを捕まえたい。偵察に向いているものがいないし、便利そうだ」
「……趣味悪いわよ。もう少し扱いやすいのにしなさい」
「ライムは反対か?」
「ディルが捕まえたいって言うならいいんじゃないかな? 懐くのかは分からないけど」
ベルに即却下されたディルがしょぼんと眉尻を下げて私に聞いてきたので、少し驚いたものの反対する理由がないんだよね。
ベルは虫は嫌だって言っていたけど、特に抵抗はなし。流石にいっぱいいると気持ち悪いなーって思うのもいるんだけどね。
「無難にヘビにしておくか」
「無難なんですね……ヘビ」
イオの引きつった表情と控えめな言葉にディルは頷いて理由を話してくれた。
虫みたいな感情の機微が分かりにくいのは大変、らしい。ヘビであればある程度馴らせば意思疎通ができるそうだ。
それに虫系モンスターより魔物の方が相性がいいんだって。
「魔石がある分扱いやすいんだ。ヘビ・鼠・小鳥あたりは契約をする際の魔力調整や、感覚を掴むためによく授業で取り扱う。まぁ、毒を持った個体はあまり扱わないが」
犬や狼といった古くから共に暮らしている生き物は小動物をクリアしてからだな、と話すディルに工房で作った【抹茶のスコーン】を渡しておく。
ほぼ一口で食べたディルは、咀嚼しながら何かを考えてゴクッと音を立てて飲み込んだ。
「で、結局、どんなのが出るんだ?」
「俺たちが聞いたのは【ナハトアングリフォ・アラーネア】と【ムーテルベネアダラ】が出たそうだ。死体から判断したのと、命を取り留めた冒険者からの証言で分かったとの事だから、ほぼ間違いない」
気を付けることとして、物音が少しでもしたら足を止めろと言われた。
ヘビ独特の這いずる微かな音が聞こえるはずだと。
クモに関しては虫よけポマンダーで大体退けられるはずだが、警戒すべきはクモとヘビが同時に、そして他のモンスターや魔物にも狙われる状況だという。
「今回のヘビは大きいのでまだ分かりやすいのですが、基本的に存在感が薄いものは探知しにくい。今まで以上に気を配りますが、気付かないこともあると思うので少し気にかけて頂けると嬉しいです」
「虫の気配は何となく分かるから大丈夫。家の中に入ってきた虫を殺すの私の仕事みたいなものだったし」
「……俺やオランジェ様が苦手だったデカい虫を、躊躇なく踏み潰して捨ててくれたことが何度もあったな、そういえば」
「おばーちゃんも小さい頃のディルも虫ダメだったから、私が潰して捨てる係だったね」
懐かしいなぁと話しながら、地図でルートを確認する。
これから今まで通っていなかった場所の採取地でいくつか採取をしながら拠点としていた場所に戻るんだけど、かなり遠回りをする予定だ。
理由は騎士科の三人が倒すモンスターを稼ぐため。
私達の採取はほぼ終わっているから、比較的値段が高いものや使用頻度が高い物を中心に片っ端からって感じ。群生地には寄ることにしているけどね。
ただ、それも人の気配があればすぐに離れて、迂回する予定だ。
「魔物除けは外して、虫除けポマンダーだけいい?」
「ああ。悪いな、俺らの成績の為とは言っても……本当なら少しでも危険が増すような事はしたくないんだけどさ」
「エル、気にしなくていいっていうか私達の為でもあるんだよ。ベルが言ってたけど戦闘経験積んでおいた方が助かるし、私だって戦闘中のピリピリした感じに慣れておかないといざって時に上手く動けないと思うから」
「召喚師としても契約できそうなものは契約しておきたいし、特に異論はない。色々な打算も働いて手を組んだんだ」
気にするなとディルが言えば、エルは申し訳なさそうな苦笑をホッとしたようなものに変化させてそういう事なら、と武器を大きく振った。
ニッと歯を見せて笑うエルは私の知っているエルで、やっと本来の姿に戻ったような感覚を覚える。
(振り返ってみるとずっと騎士科の三人は緊張してたよね。警戒じゃなくって、こう、気を張ってる感じ。無理をしてるほどまではいかないけど)
エルが調子を取り戻したのを見て、イオやレイも心なしか晴れ晴れとした雰囲気を纏っているし、ベルやリアン、ディルもそんな三人の様子に気付いていたのかどこか安堵しているみたいにも見えた。
「じゃあ、時間も勿体ないし移動しましょう。ひとまず、来た時と同じで走りながら次の目的地に行くわよ。ココで採取する時間は十五分。時間はリアンが計測。私とディル、サフルも採取を手伝うわ」
「うん。採り方は昨日教えた通り簡単だから頑張ろう。採取順は【マキマの実】【ゴロロギ】【メイソウ草】だね。少しずつ採取が難しくなるから、最初に私が採る採り方を確認してくれれば大丈夫だと思う」
役割を確認しながらイオが地図を持って先頭を走る。
私達も続いて道なき道を進む。
まだ、木々の間から日差しが射し込むからいいけど暗くなる前には帰りたい。
柔らかく湿った土と陽が当たって乾燥した土が混在する妙な踏み心地の地面を蹴って、私達はただひたすら走った。
最初の滑り出しは好調で、行く手を阻む小さな木々や背の高い草、棘を持つ木や草もなかったから最初から全力で進めた。
何せ、時間との勝負だ。
リアンはちょっと体力的に厳しいだろうから、採取中にしっかり休んでもらうことになってる。
(暗くなってきた時点で良さそうな場所を探して警備結界を張って、休むって方向だけど……できれば戻りたいな。あの場所過ごしやすかったし)
ここまで読んで下さって有難うございます!引き続き、というか何やら新しいモンスターの名前が……?
色々盛りだくさんだけど流れで見ると楽しい採取旅って感じですね。
誤字脱字変換ミスなどの報告、いつもありがとうございます!そして楽しみにしている、などの感想もとても有難いです。今後も楽しんで頂けるよう週一更新を基本として頑張っていこうと思うのでお付き合いいただけると嬉しいです。
=新モンスター・魔物=
【ナハトアングリフォ・アラーネア】直訳:夜襲蜘蛛。通称:夜鎌グモ/夜襲クモ
分類:虫系モンスター
体長35センチ(足を広げると50センチほど)の大型の虫。音がしない。糸を張り巡らせ、それに絡まった獲物に素早く近づいて鎌状になった鋭い牙で肉を斬りちぎる。
腕や足などの比較的挟みやすい(切りやすい)部分を狙うので、首・腕・足に十分注意すること。また、糸を切らないように燃やすのも手。燃やされた場合は熱を感じ取り逃げていく。弱点は火。毒もちで、毒は出血毒。万能薬・猛毒消しなどで有効。A品質以上の解毒薬でも毒は消せる。
【エレフォラモール】直訳:放浪する死神。通称:放浪グモ。分類:虫系モンスター
体長30センチ(足を広げると45センチほどにも)の大型の虫。
音がしないばかりか、巣を持たないタイプ。歩き回り、獲物を見つけると対象に飛びつき鋭い爪で噛みつく。毒は強い神経毒で激痛に襲われ、直ぐに立てなくなる。最終的に麻痺、呼吸困難などを引き起こし30分以内に解毒薬を飲ませないと死に至る。弱点は火。
甘いものを好むので、おとりとして甘い果物などを置いておけばそちらに行く。
【ムーテルベネアダラ】直訳:黒い口の毒蛇。通称:ムダラ蛇。分類:魔物
黒い口内や黒い体を持つ蛇が魔物化し、毒を持った魔物。臆病でひっそりと暗い森などで生息する蛇が魔物化することで狂暴性を増した結果、毒もちのアサシンのようになった。
不意打ちで襲ってくる。
全長は平均で2~3m。大型になると5mになり、額に魔石がある。