244話 初日の夕食
ぎりっぎり!!!まにあったーー!!!
ボリュームすごいwww
拾った腕輪とブローチはたった数時間で14個になった。
腕輪もブローチも同じ数ではなく、腕輪が6個でブローチは8個だ。
これらを発見した時に死体はなかった。
あったのは血痕と服や荒らされた荷物だけということが多く、次に体の一部が残っているという状況。綺麗な死体なんて一体も見ていない。
散らかされた荷物や遺品として扱えそうなものは、一応回収しておいた。
「結構脱落者がいるわね。正直、想像以上だわ」
溜め息を吐きながら、石混じりの土の上を歩くベル。
考え込んでいるような声に反応したのはエルで、腕を組んで首を傾げる。
エルだけじゃなくイオもイマイチ納得していない表情をしていた。
「んー、話半分で聞いてくれよ? アッチの方でなんか使ったんじゃねぇかな。さっきの熊、どう考えても変だった。狂暴性と能力が明らかに高くなっていたんだ」
「エルの言う通り、僕も不思議だと思いましたね。ヘビを従えている【リュゼオルソ】は初めて見ました。先輩たちから聞いたこともありませんし、そもそも全ての魔物の様子が妙です」
「ああ、それなら【引き寄せ香】の効果だ。事前に得た情報では、三つほど所有しているようだからその中の一つを試したとみて間違いない。引き寄せ香の品質がC以下だと魔物・モンスターの狂暴性を引き出すというマイナス効果がある。効果が効果だから販売に規制がかかっているが、おおかた金にモノを言わせた―――……というのが妥当なところだろう。使用者は退学に近い処分を受けるんじゃないか」
「一発退学……錬金科では、退学の条件について教わるのか?」
レイの疑問にリアンは表情を変えず淡々と説明を続ける。
視線は周囲へ向けられていて他の仲間たちも全員周囲に視線と意識を向けたまま話をしていた。まぁ、ディルは熊との戦いの後からずっと話さないままなんだけど。
「教わる教わらないではなく、倫理観の問題だ。錬金術師は恩恵が大きい分、一定の倫理観も求められる。特にアイテムの取り扱いについては制限や規制をかけられている物もあるんだ……それだけ強力だからな」
「そういうことか。しょっぱなから裏工作をして手に入れたアイテムを使う時点で資格がない、と判断される……と」
感心したように相槌を打つレイにリアンが続ける。
森の中が異様に静かなのが凄く気になるけれど、お陰で声がしっかり聞こえるんだよね。
「世に放っても害しかないからな。ある程度の処理もされるんじゃないか。才能の剥奪および破棄の可能性が高い」
知った事ではないがと突き放すリアンの言い分も分かる。
私はあんまり頭も良くないし法律とか制度とかはよく分かっていないけど、使い方によっては大変なことになるアイテムが沢山あることは知っている。実際使い方を間違って『正しい』効果を得られなかった実体験もあるもんね。
「危ないもんなぁ、錬金術って。楽しいけどさ」
「……ライムですら知ってることが分からないような相手だ。知能の方も才能も悪だくみの程度もたかが知れている」
「いや、待って。リアン、今のって私のこと褒める流れじゃないの?!」
「ま、まぁまぁ。で、でも、そういう事なら死んだ生徒の数にも納得がいきますね。拾った服の端の中に特徴的な家紋をいくつか見つけました。あれは貴族騎士の――…どちらかといえば問題をよく持ち込んでいる方たちが付けていたものです。実行者が彼らなのかもしれません」
自業自得ですが、とイオは穏やかに笑いながら告げ、エルも頷いていた。
レイだけが一瞬腕輪に視線を向け、何かを話すように口を開けたけれど、結局何も言わずに正面を向いた。
土よりも岩が増えてきて、何カ所かにポマンダーを設置しながら拠点へ。
懐中時計で時間を確認しながら緊張感と焦燥感に追われ、進むのはかなり神経と体力を削るんだなと再認識した。嬉しくないけど。
やっと拠点が見えてきた頃にポツっと今まで沈黙していたディルが口を開く。
オレンジ色に染まった夕陽に照らされて、綺麗な銀髪がキラキラと光って見えた。
「―――……今のところこの周辺に敵はなし。あと、ライムと同じ工房生のグループは無事だ。警備結界を張って、しっかり協力しているな。ただ、襲われたことで怪我人が数名。いずれも軽症で初級回復ポーションで回復済み。素材もいくつか採取しているようだ」
滔々と話すディルにギョッとしていると紫の目が私を見て柔らかく緩んだ。
コクっと頷いて頭に触れる。
「使い魔を喚んで見張らせていた。小型で戦闘能力はないが、見る力と隠れる力はヒト以上だから間違いない。信用してくれ」
「信用も何もディルのことだからちゃんとしてくれてるのは分かるけど、そんなことしてたんだ……喋らないから疲れたのかと思ってたよ」
「話したかったんだが、少し集中力が必要だったんだよ。もう少し召喚師としての力がつけば問題ないんだけどな」
肩を竦めるディルに充分過ぎる気がすると口元が引きつる。
便利なアイテムホイホイ作るだけじゃなくて、知らない間に周辺の状況を偵察してるとかどうなってるんだろうとまじまじと見ると照れたように頬が染まった。
「……う、嬉しいか? 俺は役に立ってるか?」
「嬉しいって言うか、凄いよね。びっくりして……それに、ディルがいないとこんな風に安全に歩けてないよ! ありがとうっ」
「ん。俺頑張ったから、飯多くしてくれ。今日は何を作ってくれるんだ?」
わくわく、といった風に目を輝かせて前のめり気味で尋ねてきたディルに苦笑しながら内緒だよ、と言えばそれはそれで楽しみだと言いながらお腹を鳴らす。
ひとまず、大きな腸詰を挟んだパンを差し出すとあっという間に食べてしまった。
「そういえば、音罠を仕掛けるんじゃなかったか? この辺りがいいと思うんだが」
ディルが足を止めたので全員で周囲の状況を確認。
拠点からも確認しやすい、木々の比較的少ない場所だ。
「……そうね。音も十分聞こえるでしょうし、この辺りに音罠を張るわよ。ディル、他に何かできる? 穴を掘るとか」
「ああ。可能だ。少し魔力を喰うが『増えた』からな。夕飯を腹いっぱい食ってライムと一緒に寝れば問題なく回復する」
「ライムと寝る云々は別として、拠点の周りに深い溝を掘って頂戴。少しでも足止めになればそれでよし。少なくとも獣系の足止めが出来ればそれでいいの。虫やなんかは平気で越えてくるでしょうけど」
「虫って言えば、ポマンダーどのくらい効くと思う? 狂暴になってるんだよね?」
「分からないけれど、品質はSで統一しているし恐らく別の方向に引き返すくらいはするんじゃないかしら。わざわざ嫌な気配がする方向に行かなくても餌は沢山ある訳だし」
「そっかぁ。まぁ、他の工房の所も警備用結界は張ってるみたいだし、そっちの心配はしてないけど……素材ちゃんと集められるといいよね。私たちも頑張らなきゃだけど。特に明日は泉の方に行くでしょ?」
足りない素材というかなくてもいいけど、是非手に入れたい素材はある。
その中の一つが泉でしか採れないので泉に行くのは決定事項だ。
ただ、水のある所はモンスターも魔物も良く集まる。
「一時的に結界を張るのを検討してる。魔力回復ポーションは勿論飲むが、飯を用意してくれると助かる。結界があればある程度は安心して採取ができるだろう。泉の中にもしっかり結界は張るから水の中から攻撃される心配もしなくていい」
「助かるよ、ディル! 何度かしたことのある採取方法なんだけど、地上でやるのとは勝手が違うから慣れるまで時間かかると思うんだ」
うんうん、と満足そうに頷くディルがスッと手を出したので、ポーチから食べ物を出そうとすると唇を尖らせてポーチに突っ込んでいた手を引き抜かれた。
ごはん要らないの?! と驚く私を余所に満足そうに私の手を握り込む。
ぎゅ、と小さい頃とは違う大きくなった手に驚いているとニコニコと嬉しそうな笑顔が返される。
「―――……周囲には魔物もモンスターも人もいない。だから、俺が転ばないように手を握っててくれ。昔よくこうやって歩いただろ?」
「言われてみると懐かしいね! えへへ。あの頃はディル、体力なかったから良くおんぶして森の中走り回ったっけ」
「……いや、なんかさっきからスゲェ情報ばっかり入ってくるんだけど俺の気のせいだと思うか? イオ、レイ」
「待て、女の子が男を背負って森の中を走り回るってどういう状況だ?! 僕でもできないぞ?!」
「小さい頃とおっしゃってましたが、それにしても……凄いですね」
ギョッとしている騎士科三人を余所にディルは機嫌よく鼻歌を歌っている。
ディルはどちらかというと騎士科の三人とは比較的気安く話をしているらしく、冗談を言い合って笑っているのも何度か見かけた。
「凄いだろう。今は俺の方が背が高いしあの頃より体力はついたから、ライムを抱えて走ることもできるが……昔は筋肉なんてほとんどない骨と皮だったからな。暫く」
「そうなのか?」
「ああ。孤児だったから飯を満足に食えなくて結果的に。動き回って腹を減らすなんてただの自殺行為だったよ。毎日飯が食えるわけでもなかった」
和やかな会話が続く一方でちょうど反対側にいるリアンとベルが妙に静かなのが気になってチラッと視線を向ける。
いたのは無表情なのにどこかイライラしてるリアンと笑いを堪えつつ不可解そうな顔をしているベルの姿。サフルは穏やかに話を聞いているようだ。
色んな意味で不穏だな、と思いつつ私たちは拠点へ戻った。
食事の支度に時間がかかるからってことで私とエル、サフルの三人が残って他のメンバーは外に音罠を仕掛けることに。
ディルは予め必要な設備を作って置いてくれているので楽なものだ。火熾し役がいるだろうと主張していたけれど、エルが火熾しなら俺もできるぞと言い切ったのでこんな感じになった。
「じゃあ、いってらっしゃーい!」
「飯は作っておくから頼んだぜ」
「いってらっしゃいませ」
手を振る私達と頭を下げるサフルに見送られて4人は拠点の外へ。
それを見送って、ポーチから最大の明るさに調整した魔石ランプを複数個所に設置。
エルには火熾しを頼んでトランクに魔物の死体を入れ、代わりに調理器具や鍋を取り出す。
「一品目は、ちょっと時間のかかるスープから」
「ライム様。スープは何を?」
「マトマのスープがベースだよ。最初に沢山作ってある程度したら、半分に取り分けるんだ。片っぽはブラウンシチューにするつもり。ソース代わりにもなるし、今日のメインにかけてもいいと思う」
取り出したのはマタネギ。
みじん切りにしつつ、色々な野菜を賽の目切りやみじん切りにしてもらう。
香味野菜もたっぷり入れるんだけど、ブロックのお肉を入れて、おまけにバタルもたっぷり入れた。これでコクと食べ応えがしっかり出るはずだ。
オリーブオイルとバタルで炒めてある程度になったらマトマを入れて蓋をし、じっくり火を通す。
「ちなみにだけど、明日の夜はカレーにするつもり」
「それは楽しみですっ!」
「カレー? なんだそれ」
火を熾し、予備の薪を持ってきたエルが首を傾げたのを見てサフルが説明を始めた。
その声を聞きながら次の料理へとりかかる。
ゴロ芋は綺麗に洗って予め1mmから3mmの間隔で切れ込みを入れてある。完全に切り落とさず、大体、2mmくらい残して切ったものだ。それを水に晒しておいたものを蓋つきのフライパンに並べる。
たっぷりのオリーブオイルとガーリック、塩胡椒をして火にかけるだけ。
「これは火が弱いところに置いてじっくり、かな。どのくらいでみんなが戻ってくるかは分からないけど」
「分かった。で、俺は何をしたらいい? 野菜を切るとかそういうのなら手伝えるぜ?」
「んじゃあ、サラダを頼もうかなぁ。これ、色々野菜あると思うんだけど同じ大きさに角切りで! ただ、葉っぱとそれ以外で分けてほしいんだけどできそう?」
「おう。じゃ、葉以外はコッチのボウルに入れるか」
承諾してくれたエルが順調に野菜を切ってくれているのでドレッシングを用意して、私は次の作業に。
米を炊くために大きな鍋を用意する。
ディルがいるし、結構食べる人が多いからご飯とピザを作る。
麺類を作ることも考えたんだけど、今日はなし。
途中で米を研ぐのをサフルにも手伝って貰って、火にかける。
火加減の調整はサフルもできるのでお任せして、私はポーチから取り出したのは四角い金属の型。パウンドケーキを焼く物よりも一回り大きい。
「ライム、それなんだ?」
「これ? 今日のメインが入ってるんだ。じっくり弱火で焼くんだけど、人数より多く作ったから一気に焼いちゃおう。熱いまま濡れタオルとかでグルグル巻きにしてポーチに入れておけば直ぐに食べられるし、アレンジもしやすいから便利なんだ。ボリュームもあるしお腹いっぱいになると思う」
ずらっと並んだ型には蓋がしてあるから肉汁なんかもしっかり閉じ込めて焼けるので美味しいと思う。ちなみにこの型は集落にいた時に買ったものだ。
素材が余ったから作ってみたって言われたんだけど、お得な買い物だったと思う。
「へぇ。こういうのに入った飯、食ったことないから楽しみにしてるぜ。昼はゆっくり食えなかったからさ腹減ってて」
「分かる分かる。でもあの緊張感の中でゆっくり食べられないから、オーツバーで済ませたもんね」
「任務中なら昼飯抜きはざらにあるし、その辺で買うオーツバーと比べると断然ご馳走の部類に入るけどな。俺、騎士になったら遠征任務ある時は買いこめるだけライムんトコのオーツバーを買いこむつもりだし」
そうなの? と言えば他にもエルが好きな商品について熱弁を振るってくれた。
ビックリするぐらい絶賛と感謝されて嬉しいんだけどちょっと恥ずかしくなりながら、ピザの生地を伸ばし、具を散らしていく。
それとは別に、明日の昼用に薄焼きパンを作る。
「ライム、それは何になるんだ?」
「薄焼きパンだよ。小麦粉と塩、水にオリーブオイルで出来るんだけど大きめに焼いて、具とソースを包んでかぶりつくんだよ。温かい状態にして耐熱紙に包んでおくから暖かいまま食べられると思う」
まず、ボウルに小麦粉と塩を入れて、水を2~3回に分けて加えながら手で捏ねる。
ひとまとめになったら濡れ布巾を被せて30分位寝かせなきゃいけないんだけどね。
その後はちぎって丸めて薄く延ばして焼くだけだ。
待ち時間の間は具材の用意。
まず、お肉と買ったエビを取り出す。野菜は新しく新鮮な葉っぱ、甘みのある野菜を準備しておく。
ソースは三種類。
マトマスープを使ったマトマベースのソース、カレーソース、焼肉ソースだ。
マトマソースには唐辛子を足してベル用に辛い物も作っておく。
こまごまとした片づけをしてくれるエルやサフルのお陰で調理はどんどん進み、メインの入った金属型を火にかける。蓋の上にも薪を載せて全方向から加熱。
スープも二種類用意して、薄焼きパンに野菜と具を挟み、食べやすいように包装。温かいままの状態でポーチに収納した所でベル達が戻ってきた。
お帰り、と駆け寄ったのは良いんだけど……なんか、顔が凄く疲れている。
「え、ど、どうしたの? ドロドロだし」
「………後で話すわ。ああ、もうお腹空いた! なんだかすごくいい匂いもするし、もうできてる?」
「うん。イスとテーブルもエルとサフルが設置してくれてるし、まず手を洗って来たらどうかな。警備結界はもう張ったんだよね?」
「ああ。音罠を仕掛けると同時に土を掘り下げて、土で杭を作った。ある程度知能があれば近寄らないだろう。実習が終わったら元に戻すから問題もないだろう」
「警備結界は僕が張った。解除できるのは僕だけだ」
明日朝、拠点を離れる際に解除するという事だったので頷く。
今回使う警備結界は魔力充填式なので、事前に大量の魔力を注いであるから魔力を使うのは起動と解除する時だけ。
「確認なんだけど警備結界を張ってる間は安全、なんだよね?」
「ああ。この辺りにいる魔物では結界は破れない。ひとまず安心していいが、見張りはおくべきだろうな―――これは『実習』だ」
リアンの返答に頷いたのはイオ。
そうですね、と一言呟いて周囲に視線を巡らせ、声量を落とした。
「必ず、誰かが評価の為に監視していると考えた方がいい。結界内外に一人ずつはいるでしょう」
「警戒などは騎士科の俺たちが交互にする。今後、騎士として働く上で必要な技能にもなるからな」
「そうね。評価にも影響するでしょうし、そうして頂戴。とりあえず、話は食べながらしましょう。空腹にライムのご飯の匂いはきついもの」
ベルの言葉に全員が頷いたのに苦笑しつつ、完成した料理を盛り付け、テーブルに並べていくんだけど、その度に歓声が上がるのには笑った。
一番喜ばれたのは型の蓋を外して、お皿にひっくり返した時。
「あ、上手に焼けてる。これ、おばーちゃんから教わった『ミートローフ』っていう料理なんだ。おばーちゃんが作ってくれたのは中に何も入ってなかったからアレンジしたんだけど、気に入ってくれると嬉しいな」
かぽ、という音と共に皿の上に出てきたのは肉の塊。
みじん切りにしたマタネギや叩いてミンチにしたお肉を練り混ぜたものの中に、半熟の卵とチーズ、マッシュしたゴロ芋を包んであるんだけど、こんがり焼けたお肉をパウンドケーキみたいに切ると卵の黄身とチーズがとろっと溢れる。マッシュポテトがいい具合に肉汁を吸ってくれたみたいでしっとりとして美味しそうだ。
「ソースはブラウンシチューか赤ワインソースをかけて食べてね。ショウユでもいいかもしれないから、出しておくねー」
早速食べようか、と食事の挨拶を全員でしたんだけどその後暫く全員が無言で食べ物を詰め込んでいた。
ディルとイオは凄い勢いで食べていて、ミートローフをペロッと二本。
パンは大きいものを5つ、スープは二種類とも飲んで、ピザは二枚食べている。
ディルは想定内だったけどイオの食欲にはエルとレイ以外の全員が驚いて目を丸くした。
「僕の場合、スキルに魔力を使うのもあるんですが沢山食べておけばおくほど多くのスキルが使えるので」
「食費がかかるから苦労してるんだぜ。まぁ、食堂じゃお替り自由のパンがあるからそれでどうにかって感じだな」
「食堂で働く方と仲良くなっているので時々、余ったものを食べさせてもらって何とかって所ですね」
「騎士科では食堂に大食いメニュー対決ってのがあるんだが、無敗なんだ。今のところ」
いやぁ、と照れたように肩をすくめるイオを見て私達はパッと目配せ。
結構私達も食べる方だけど、イオやディルほどじゃない。
こういう風に沢山食べる人が工房で一緒だったら経営破綻してるかもしれないな、なんて思ったのは私だけじゃなかったようで。
就寝時に顔を合わせて「私達、三人で本当に良かった」と話をしたのは内緒だ。
食後にはゆっくり飲み物を飲みながら話を聞いてから、食事の片づけ。
ふと使用した食器類をトランクに入れている時に監視しているという人の事を思い出した。
テントの周りやトイレの周りも確認したけど誰もいなかったのだ。
「……うーん、監視してる人ってどこにいるんだろうね」
「何処って、そりゃあ見つからないように隠れているんでしょ。何言ってるの、ライム」
「いや、あの、お腹空いてるんじゃないかなぁって」
「………は?」
ちょっと考えて余った一つのパンにソースと野菜、そしてミートローフを切ったものを挟んでみた。
それだけじゃ食べにくいかもしれないと木のカップにスープを入れてみる。
椅子を目立たない場所に一脚おいて、ベルにいいかどうか聞くと呆れた、でも苦笑しながらいいわよと許可してくれた。
メモ紙に『お疲れ様です。食べ終わったカップはここに置いておいてください』と書いておく。後でリアン達にも説明したら呆れながらも許可してくれたのでホッとした。
寝る前にディルが用意してくれたお風呂に入って全員でテントの中へ。
大きなものを買ったから見張りの人を残して寝袋に包まる。
魔石ランプを消した所でベルに聞かれた。
「ねぇ、なんで食事を配ろうと思ったの? 評価には関係ないわよね」
「だよね。お金もかかってるし、凄く申し訳ないとは思ったんだけど……どうも嫌で。他の実習中の人にご飯を配ろうとは思わないんだけど、監視してる人ってご飯食べられないでしょ? 昔、おばーちゃんがお店をやってた時に貴族が来てたんだけど、今思うとサフルと同じ奴隷を連れていたんだと思う」
思い出すのは、豪華な食事を独占する貴族とソレを見ないようにしている簡素な服とボロボロな姿で貴族の指示通りに動く人たち。
お腹を鳴らすと杖で叩かれている人もいた。その人たちのご飯は貴族が食べ残したもの。
どうして、とおばーちゃんに聞くと苦いものを無理やり飲み込んだみたいな顔でゆっくり首を横に振っていたっけ。
「こっそり、パンを分けてたの。貴族に見つからないように。その時、話もしたんだ。普通の人でさ、奴隷になって初めてまともなご飯を食べたって泣いてた」
ご飯が食べられない辛さは、私も分かる。
食料の備蓄が少ない時は雪を溶かしたお湯を飲んで無理やり二日過ごし、三日目に半分のパンと干した果物を一欠けら食べることで一冬を乗り切ったこともある。
「お腹空いてるとさ、色々出来なくなるから仕事とはいえ危ない場所にいる訳でしょ? 万が一にでも、近くで死んじゃったら嫌だなあっていうのと、単純にご飯を食べさせない貴族みたいになりたくないって思って。そりゃ、用意はしてるかもしれないけど、いらなかったら食べないだろうし……ちょっとだけ、気に入ってくれたらお店に色々買いに来てくれるかなぁーなーんて」
難しい仕事を引き受けているってことは、多分、それなりのお金も貰ってるよね? と言えば隣で横になっているディルに頭を撫でられる。
「甘いと思うヤツもいるだろうが、俺はライムのそういう所が好きだ。それによって救われることもあるし、余裕があるなら悪い事じゃないと思う。ライムは必要な分を確保しているだろうしな」
「そりゃそうだよ。自分勝手な行動でみんなが危なくなったりするのは嫌だし。今日は結構な量があったから……つい」
ごめん、と謝罪すると意外にもリアンの声が聞こえる。
ディルは右隣でリアンは左隣に寝ているんだよね。
「―――……実習中は監視者に夕食を一食分取っておいてくれ。十分に準備はしているし、客層は広い方が良い。食事が美味かったと思えば店で色々買ってもくれるだろうさ」
「い、いいの?」
「ああ。無駄にはならないからな」
お財布担当のリアンから許可が下りたことに驚いたものの、ホッとしているとすぐに早く寝なさいよーとベルの声。
慌てて目を閉じたんだけど、想像以上に疲れていたみたいであっという間に意識が遠のいた。
眠る間際に左右から「おやすみ」と声が聞こえた気がするけど気のせいだったかもしれない。
ここまで読んで下さって有難うございます。
罠を仕掛けている間のこと等は、次の話にでも。長くなりそうです。。ハイ。
やっとご飯かけて満足!!!