238話 三科合同交流実習
いよいよ始まりましたー!
何処まで、どうやって書こうかなー!ってワクワクしながら書いて、書いて、書いてって感じですが意外と短かった(笑
フードを被る意味はあるのかな、と疑問を抱き周囲をそっと窺う。
一見和やかなのに、所々から感じるピリピリした緊張感と良く分からない大量の視線に杖を握り締めた。
私達は門から少し離れた平原にいる。
周りには多くの『同期生』達がずらり。
学院側の指示で申請したチームごとに分かれていて、リーダーを任された人間が一番前に、副リーダーが一番後ろに立つのが決まりだ。
(私達の班はベルがリーダーで副リーダーがエルに決まったんだよね)
ずらりと並んだ生徒の目の前には教員が並んでいる。
普段は草臥れていることが多いワート先生もピシッとした服を着て立派な先生に見えた。
他にも見知った顔がいることや学院長がいる事にも驚いたけど、面白いのが先生の服装で『職業』が何となく分かるって言う所だと思う。
向かって左側には騎士科の教師が貴族籍を持たない教師から順に並び、次に錬金科。
こっちも、多分貴族としての力が弱い順から並んで、最後に召喚科が並んでいた。
(先生にも色々あるって言ってたのはこういう所にも出る、のかな)
良くは知らないけど、なんて考えながら観察していると私の名前が周囲からチラチラ聞こえてくることに気付く。
なんだろうと顔を向けようとすると後ろに立っているリアンが私の手首を掴んだ。
顔は見えないけど、見るなってことなんだろうと解釈して動かないことを選択したけど、数秒後にはゆっくり手が離れていった。多分、正解だったんだと思う。
『―――では、これより三科合同交流実習についての説明を始めます』
まだ朝日が昇るかどうかという薄暗い中でその声は良く響いた。
聞き逃すと後で説明して貰えないことは分かっていたので、ざわめきが一気に消える。
時折吹く風で揺れる草花の音や鳥の鳴き声が迷惑に感じるくらいには集中していた。
話しているのは副学長だ。
あんまりいい印象はないけど、声はかなり聞き取りやすい。
『まず、今回の試験についてですが三科合同ということで人数が多いため、一ヶ月間という期間を設けています。今週は第一陣、来週、再来週と第二陣、第三陣と順に出発と帰還をしてもらう予定です。最低でも一週間以内に帰還完了の手続きをしなかった場合は【死亡届】を提出しますのでそのつもりで』
ざわめきが大きくなり、私はそっと周囲に視線を走らせる。
人が多いなーとは思ったけれど、これで三分の一なのかという衝撃を受けた。
分けて出発って聞いてはいたけどどれだけ人数が居るんだろう。
『目的地はリンカの森です。これから各自、街道を使用し目的地へ辿り着いてもらいます。教員は付き添いません。実習目的地に到着したらこれから渡す数字入りの腕輪を受け取る様に。この腕輪は『チーム』を認識する為の物ですから無くさないように』
地図などはないのですか、と誰かが声を上げた。
それが聞こえたらしい説明係の教員が厳しい口調で発言したであろう生徒を見据える。
『何のための準備期間だと思っているのですか。教員側から配るのは認識用の腕輪のみです―――……説明を続けます。試験の目安は一週間。スタート地点はここですが最終ゴール地点は学院前の臨時テントになります。死亡した場合は遺体の一部があれば入り口に残っている教員に渡す様に。また、状況によっては報告だけでも構いません。こちらで確認します』
当たり前のように死んだ場合の対応について話が出た。
これによって一気に緊張と動揺が広がるのが分かったけれど、説明は淡々と進む。
『この地点からリンカの森まで一日あれば問題なく辿り着けますが、およそ二日を目途にしています。冒険者や観光客、他にも大勢が行き来をする街道ですので、大型召喚獣などは禁止。馬車に乗ることも禁止とします。馬車に乗った時点で実習放棄とみなしますのでそのつもりで。勿論、問答無用で留年としますので覚えておくように』
移動手段は徒歩のみになるようだ。
私としてはそっちの方が気楽で助かる、と思いつつ忘れないように一応メモを取っておく。
副学長の声は一帯に響いていた。
『リンカの森に到着すると入り口に、教員がいます。そこで人数確認後、通行証のブローチと校章入りのスカーフを身に着けるように。実習完了の手続きの際、腕輪・ブローチ・スカーフは返却してもらいます。第一区間で実習を行う者の場合は審査は一度、第二区間で実習を行う者の場合は第二区間に辿り着くまでの猶予は一日。第二区間に入る前に人数確認後にブローチを受け取る様に。スカーフは第一区間で渡しますので、受け取って検問所を通った時点で交流実習の開始となります』
移動時間などを聞いて、かなり緩めに設定されているのが分かった。
恐らくが学院から出たことがない生徒が多いんだろう。下手するとリンカの森に入ったことがない人もいるのかも。
『第一区間なら安全、と考えている者もいるかと思いますが、冒険者や他の利用者とトラブルを起こした場合は減点します。充分に『理性的』且つ『常識的』な振舞いをするように。また、第二区間に行く生徒ですが事前に『死亡承諾書』に記入してもらっていますから、しっかりと気を引き締めてください。我々が手助けすることはありません。グループ分けをした意味をしっかり考え、協力し、より良い成績を残せることを祈っています―――…進学した場合、もっと厳しい環境での実習もあります。どうしても無理だと判断した場合は検問所に逃げ込み脱落と退学する旨を伝え、教員と合流してください』
以上です、と。
今回のルールを説明し終えた副学長は口を噤んだ。
動揺と緊張と混乱が一気に広まって落ち着きがなくなった生徒を見て、パンパンッと学院長が手を叩いた。
注目が集まり、声が鎮まる。
「もし。この場で実習放棄をする場合は言って欲しい。その場合は交流実習と同等になるような訓練や授業を用意した。それらをこなせば成績も通常通りつけよう。人には向き不向きがある。戦闘能力に自信がないもの、運動が苦手なもの、体調が優れないもの、事情がある者は遠慮なく申し出て構わない。止めるのも立派な判断じゃ。死んでしまえば何も残らん。臆病風に吹かれたなどと嗤う度量の小さい者は『一流』には成れん。繰り返す、死んでしまえばそこで仕舞いじゃ」
その声は、不思議な響きを持っていた。
周囲の―――……恐らく運動を苦手とする、どちらかといえば研究職向きだと自負しているであろう錬金科の女子生徒や男子生徒が顔を突き合わせて、やがて―――リーダーが数名手を上げた。
「僕らは、交流実習を放棄します」
「私たちも交流実習を放棄しますわ」
驚くことに、騎士科と召喚科も一定数抜ける者がいた。
召喚科に関しては驚かなかったんだけど、騎士科の生徒が抜けたことにはとても驚いたのだ。
戸惑っていると、リアンが私の腕を引いて耳元で囁く。
「放棄を選択した騎士の服装と同じ班のメンバーを見比べてみろ。装備に差があるだろう」
「あ。本当だ……あの騎士ってもしかして庶民の」
「だろうな。無理やり脅されて、というパターンだろう。他の放棄した面々も同じと見ていい。話に聞いていた通りだとしたら彼らも僕らと同じ第二区間に行く。あの装備だと間違いなく肉盾だ。いざという時、迷いなく囮に使われる。彼らもそれが分かっているから、放棄したのだろう―――……リーダーの男が反対しているのが何よりの証拠だ」
うわぁ、と思わず声を漏らすとリアンが続ける。
全く気付かなかったんだけどベルやリアンから強い警戒が伝わってきて、戸惑う。
「ねぇ、何でそんなに警戒してるの?」
「僕らの班は人数が少ない上に、優秀な人材が揃っている。今後、班員を失った輩が声をかけてくる確率は高い。ライム。君に戦闘能力がないことは、恐らく多くの人間が知っているだろう―――……絶対に、一人になるな。必ず僕の傍にいてくれ。騎士科と錬金科の貴族はベルが、召喚科の対処はディルがする。庶民騎士やその他の騎士関係はイオ達が対応する。僕は最初に騎士科の対応をすることになった。貴族だった場合はベルを引き合いに出す許可も得ている――…君に敵意を一番抱いているのは、恐らく錬金科だからな」
どうして、と聞けば言いにくそうにしながらもはっきりとした声が返ってくる。
それは喧噪の中でもよく聞こえた。
「君が、オランジェ様の孫だからだ」
てっきり私が気に入らないからっていう理由だと思っていたのでびっくりした。
戸惑っているのが分かったらしいリアンが苦い物を思い出したような表情で、後で話すと言ったっきり返事が返ってこなくなったので諦める。
必要なことなら、ベルもリアンもちゃんと話してくれるのを私は知ってるもんね。
一気にざわつきが大きくなった同期生の中で落ち着いているのは工房生のいるチームだけだった。
その理由は入念な打ち合わせやお互いにある程度信用している状態だからだと思う。
みんな涼しい顔で、堂々と顔を上げて前を向いていた。
数名が彼らに近づこうとしていたけれど、人数が定員いっぱいだったのを見て引き返していく。恐らく第二区間に行くということを知っているのもあるんだろう。
棄権者は副学長の所へ行って所属科と名前を、と学院長が伝えてからかなりの人数が離脱した。
「……結構減ったなぁ」
思わず零れた言葉は周りの人には聞こえなかったらしい。
暫くすると副学長に誘導される形で全体の三分の一が門をくぐり学院へ向かって歩き出していた。
大きく数が減ったのは騎士科で錬金科も棄権を選択した人は多いんだけど、チラッと聞こえた理由がなかなか凄かった。
(多くの生徒がいない今、調合釜が利用しやすくなって教師へ質問しに行っても多く時間を割いてもらえる可能性が高い……か。他にも実習に行くのも大事だろうが、そういったことはより多くの、より高品質高性能なアイテムを作れるようになってからでも遅くはない、って言ってたっけ。それに賛同する人があんなにいるなんて)
あとでベルに聞いたんだけど、そう発言したのは『中立派』と呼ばれる立ち位置にいる名家の―――……入試では三位の成績を叩き出した錬金術師だったみたい。
いろんな考えの人がいるんだな、と思いつつ見えなくなった同期生たちから学院長へ視線を戻す。
彼は残った面々を見回し、人数が不足している場合は『リンカの森に入るまで』互いに協議し、新しくチームを組むことを全員が了承した場合にのみ『新パーティー』として許可しようと新しいルールを加えた。
メリットやデメリットは説明されなかったけれど、私達が新しく誰かを加えることはないので関係なし。だって、新しく人が入ると大変だもん。装備もだけどアイテムの数だって足りるかどうか分からない。
何だか罠みたいだな、なんて考えながら立っていると学院長が再び手を叩いて注目を集め、質問があれば受け付けると宣言。
ものすごい数の手が上がり、質問が飛び交うのを聞きながらその90%が私でも考えられるような物で戸惑う。
だって、分かっていなきゃいけないような質問ばかりだったのだ。
『最後に! リンカの森入口で名前と預けたアイテムの確認をしますが、モルダスに帰還後学園の受付で三種アイテムを返還するように。その際に各学科の実習期間中の行動などについての指示があります』
次々にもたらされる情報に「えぇ?」と狼狽えているうちに鐘が鳴った。
交流実習開始の鐘だ。
ピタッと動きが止まった生徒を横目にベルが一番初めに足を踏み出した。
真っ赤な髪がサラリと揺れてちょっとした旗みたいにも見える。
「行くわよ。いつまでも馬鹿らしい質問に付き合ってらんないわ」
聞くことは聞いた、と颯爽と飛び出すベルに苦笑して私達はリーダーの背を追いかける。
移動速度は駆け足。
初めは走るわよ、と集合地点間際でベルに言われたことを思い出しながら追いかけると後ろからたくさんの足音。
走って、走って、走って。
何だか面白くなってきて笑っているとフードがずれた。
慌てて被り直して足を速めると後ろに並んでいたエル達が並ぶように追いついて、私みたいに笑っている。
「ははっ! やっぱ、いいなこのチーム! ベル、この調子で半分まで行くぞ! 今のうちに引き離して、面倒な勧誘されない内に『森』に入ろうぜ」
「勿論そのつもりよ! 本当に冗談じゃないわ、私『社交』に来たわけじゃないの。魔物やモンスターと戦って、ついでに素材ゲットして、アイテムをさっさと作って後はいつも通りやりたいのに!」
「同感だ。こっちの動向を窺ってる面倒な連中がかなりいたからな。大型召喚獣が禁止されたのが痛い。禁止されてなければ真っ先に喚んだんだが」
「仕方ありませんよ。冒険者の方や観光客の方々もいますから……元々街道で大型召喚獣は禁止されていますし」
好き勝手話す仲間は頼もしい。
これから死んでしまう可能性が高い場所に行くのに、これだもん。
まあ、こういう仲間がいるから私も思う存分採取と調合ができるんだけどね!
走りながら、私の横に並ぶリアンを見る。
反対側にはディルがいるけどこっちは安心なんだよね。ディルは体力あるし。
「リアンはこの速度で大丈夫? 死にそうになったら背負えるよ。ちょっと引きずるかもだけど」
「そうなるくらいなら死んだほうがましだ。体力が規格外な君たちのお陰で中間地点くらいまでならどうにかする」
真っ直ぐに前を見据えて走るリアンに苦笑しつつ、背負ったトランクを持ち直す。
重さを感じないから嵩張るだけなんだけど多少は走りにくい。
まぁいいか、と走っていると後ろから声がかかった。
「ライム。荷物は俺が持つ。走りにくいだろう」
「平気だよ、レイ。いい運動になるし、結構体力はあるんだ」
「そうか。大変なら言ってくれ。力と持久力と忍耐力には自信があるんだ」
「ありがとー。でも、レイは騎士なんだから体力出来るだけ温存してね」
まだまだいけるよ、と伝えてもし休みたい場合はベルを呼ぶってことで全員が納得した。
そこからは体力温存の為にも無言で走る。
すれ違う人たちは驚いていたり、何かに納得したりしていたのがちょっぴり新鮮で面白かったな。
私達を追い越すパーティーは、そのあと一組もいなかったとだけ伝えておく。
だって、凄く走ったもん。
いつも読んで下さってありがとうございます!
交流実習、いやぁ、不穏スタートって楽しいですね。
いつも以上にノリと勢いが加速しているので…ご、誤変換やら誤字脱字などありましたら報告して下さると助かります。ハイ。
あと、設定についてですが、なんとなーく覚えているのをベースにその時の気分で書いているので(プロットというかあらすじなんてないw)矛盾点などありましたらお気軽に、そぉと教えて下さい。また、感想なども毎回有難く読ませて頂いています。気付くのに遅れてしまうこともあるのですが、必ず返信させて頂いています。
ブック、評価などだけでなく、読んで下さるだけで充分有難く、励みになっています。
良い暇つぶしとして楽しんで頂けると嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします!