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【書籍化中!】アルケミスト・アカデミー(旧:双色の錬金術師)  作者: ちゅるぎ
調合釜に入れてグルグル混ぜる。

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228話 情報と宿屋と

 お待たせいたしました!

お休みを頂いたおかげで何とかひと段落。

また忙しくなることもあると思いますが、その時はまたお休みするかもしれません(汗


 やっと登場した新キャラは三人。

懐かしい人も出てきてます。




 先生がいる部屋を出た後、授業が始まったこともあり私たちは購買へ向かった。



 購買のある方向へ向かうにつれて、騎士科の生徒をよく見かけることに気付いて三人で顔を見合わせた。

 なんだろう、と疑問を抱きつつ進むと、購買のある場所には長蛇の列が出来ている。

うっかり顔が引きつった。

一体何の騒ぎだ、と身構える私たちに気付いた騎士科の生徒の一人が「あ」と一言。



「あの『アトリエ・ノートル』の……」


「ええ、そうです。失礼、この行列は一体?」


「購買で手続きをする為に並んでいるんです。授業は『順番に』休みなので」


「手続き? あ、限定でアイテムが買える、とか?」



 我慢できなくなって口を挟むと首を横に振られたので少しがっかりしていると、騎士科の生徒は声を落とした。

一緒に並んでいたらしい友人がわざと少し大きな声で話し始める。



「俺たちも『パーティー申請用紙』と『拒否条件』を出すんだ。今、騎士科の貴族騎士と錬金科の工房生以外が手を組むってパターンが多いんだけどさ、中には俺らみたいな貴族ではない騎士に無理やり護衛をって話しかけてくる貴族もいてさ……騎士科で上に行きたいなら貴族の覚えがいい方が有利なんだけど、相手の条件が理不尽な上に無謀だからこうして届けを出しに来てるってワケ」



 この説明でリアンとベルは理解したらしい。

ああ、と気遣わし気な視線を向けてそういう事なら今日は帰ろうと踵を返したので私は慌てて二人の腕を引いた。



「ど、どういうこと?」


「ここでは話しにくいから離れるぞ。人が少ない所で―――」



 掴んだ腕は直ぐに外され、逆に私の腕をがっしりと掴んだリアンとベルは引きずるようにその場から早足で歩いていく。

 訳も分からないまま歩いていると、背後から聞きなれた声。



「お! いたいた。おーい! ライム!」


「エル。少し声を抑えて。迷惑になる」



 ピタッと足を止めて振り返るとそこにはこちらへ小走りで駆け寄ってくるエルとイオ、そしてレイと――――数人の女子生徒。


 は? と目を瞬かせていると、彼らはあっという間に私たちの前に。

機嫌良さそうなエルがちょっと時間あるか、と話しかけてきたので頷くとたまたま近くを通りがかった教師に「空き教室を少し使いたい」と話し、あっさり鍵を貰ってしまった。

鍵は正面の窓口で返却するだけで良いそうだ。


 慣れた様子で近くの空き教室の施錠を外しその中へ全員が入った。

教室の中には大きな黒板があってその前には教壇が。その前にはずらりと並んだ長椅子と長机。

単純な作りの教室で特別な備え付けの器具などがないのがわかる。



「悪い。こんなところで会えるとは思ってなくってさ。折角だし、礼と紹介しておこうと思ったんだ」


「紹介?」



 訝し気なベルの言葉にエルがおう、と軽く返事をして、背の高いショートヘアの女の子がエルに並ぶ。

 ニコッと微笑んだ彼女は綺麗な空色の目をしていた。



「初めまして。私はマリーローズ・ロスマリン。元々貴女たちと話をしてみたいとエルに相談していたんだ……お陰で、ポットたちと今回チームを組めることになったからお礼を言いたいと思っていて」



 急に呼び止めてごめん、と申し訳なさそうな顔をしたのを見てイオが溜息を吐きながら説明をしてくれた。

 他の工房生が組む相手を探しているという一報がなければ、彼女たちが工房生と組むような事態にはならなかったらしい。

ここで驚いたのは、マリーローズと名乗った子が女子生徒だけの工房にいるマリーポットと知り合いだったという事。



「本当は一緒に組めたらって思ってたんだけどね。騎士科の女騎士見習いにも『貴族』と『庶民』がいてさ。年々庶民の女騎士志願者は増えてるんだけど、錬金術師や召喚師みたいな貴族籍持ちの相手は『貴族』が割り当てられることが多いんだ。私らもテーブルマナーやらなんやらって面倒な礼儀作法を頑張ってはいるけど、しょせん付け焼刃だしさ。成績があんまりね。もっと頑張らないといけないんだけどさ」



 そう言って肩をすくめ、その横にいた頭が良さそうな女の子が口を開いた。

リアンみたいに細めの眼鏡をかけてるんだけど、小声で『あれは魔道具だな』とリアンが呟く。

視線を向けると、声が聞こえたらしくニコリと微笑まれる。



「お初お目にかかります。私はケイト・トールパーと申します。私達のような貴族籍を持たない女性騎士や三女、四女といった継承権が低い貴族女性も一定数いるのですが、扱いに大きな差があります。例年通りなら、此度の実習のような行事だと錬金術師の相手は貴族騎士が優遇されます。女性だけの工房となれば、なおのこといい身分の女騎士が割り当てられる慣例があります」



 ここまで話を聞いていたベルが息を吐いた。

ウンザリしたのを隠しもしない表情と声で話し始める。



「なるほどね。今回の件は貴女たちにとってもタイミングが良かったみたいね。貴族騎士への風当たりが強い上に、工房生は錬金科からもアレコレ言われているし、庶民が混じった工房の護衛だと貴族騎士の反発もあったと考えるのが普通だし。それはそうと、貴女たちの実力や連携は問題ないのかしら」


「ええ、それに関しては貴族騎士より『実技』の成績は良いので安心して下さい。まぁ、座学やマナーの成績は悪い傾向にあるのですが……腕っぷしには自信があります」



 にこっと微笑んだケイトさんからは、なんだかリアンに似た気配を感じた。

チラッと横に立っているリアンを見ると無言で見下ろされたのでそっと目を逸らしておく。



「私からポットに声をかけようとも思ったんだけど、あの子以外は貴族だから声をかけるかどうか迷っていたから本当にいい切欠になったよ。エルやイオが仲介してくれたおかげでスムーズに組めてさ。その上、あっちの貴族がかなり合わせてくれて拍子抜けしたくらい。もっと高飛車で面倒なお嬢様だと思ってたから」



 肩をすくめてカラカラ笑う彼女の声を聞きながら私たちは顔を見合わせた。

 あれ、と思ったからだ。

戸惑っている私達に他の工房の情報を定期的に得ているらしいエルとイオが苦笑して最近の様子を話してくれた。



「教師が変わってから、過ごしやすくなったみたいだぜ。女子の工房はマリーポットに集中していた負担を分散して、クローブたちの工房では新しく入った奴が前の奴とは正反対だってんで二人とも楽しそうだったぜ。どっちの工房も今は回復薬を最優先で作ってるらしいけどな」


「そっか。調子よくやってるなら良かった」


「あれだけ言って改善がないなら手の打ちようがありませんし、良いんじゃないかしら。工房生と組んだ騎士科の生徒は協力して実習に取り組むのかしら?」



 ベルの言葉にマリーローズと名乗った女の子が頷いた。

他の子たちも頷いているので納得しているようだ。



「庶民出身が多いから、連携は得意だし―――行くのが本来なら二学年で行くはずの第二区間だからね。貴族騎士の連中の嫌がらせも考慮して、組んでいる人間以外にも庶民出身の仲がいい連中に声かけて、ある程度の範囲で不足をカバーできるようにするつもりなんだ。私たちも死にたくはないし」



そう言って肩をすくめた彼女は、そういえばと私たちを見た。

ある程度私たちのことは聞いているけど、と前置きをしてから少しだけ眉尻を下げて微笑む。



「かなりの少人数で実習するって聞いてるんだけど大丈夫? もし不安があるなら私達が野営する所教えておくけど」


「心配して下さって有難うございます。でも、安全を考えるなら私達といない方がいいですわよ」



ベルの言葉に彼女たちだけでなく私もベルの顔を見た。

真剣な顔で真っすぐに彼女たちを見ている。



「錬金科の中でも工房生に対する敵愾心が高まっているようですから。くだらない負け犬どもの視線など普段であれば気にしないのですけれど、世の中にはいろんなアイテムがありますもの。中には故意にモンスターや魔物を引き寄せるものもありますわ。対策はしていますが、そういったものが使われないとも限りません。一応、どのあたりで野営をするのか教えていただいて、出来るだけ離れた所で野営するので安心して下さいませ」


「いやまって。ベル私それ初耳なんだけど」


「ライムに話しても仕方ないじゃない。貴女寝たら起きないし」


「うぐっ」


「出会ったばかりの頃に眠っているライムに殺意を向けたことがあるけれど、一向に気が付かなくて呆れ果てたわ」


「いや、それも初耳なんだけど!?」


「わざわざ報告する必要ないじゃないの、寝てるし」


「そ、それはそうだけど」



にしたってさ、とベルに文句を言おうとしているとポンポンと肩を叩かれた。

何とも言えない表情のエルが私にグッと親指を立てている。



「とりあえず、俺ら寝ずの番なら3日は余裕だから任せてくれていいぜ」


「ちゃんと寝てよ!?」



 思わず声をあげると護衛対象を放って寝るのはちょっとな、と苦笑された。

そこからは情報共有ってことでベルやリアンが詳しい話や戦略を聞き、アドバイスをしたり、アドバイスを受けたりと忙しそうにし始めた。


 私はその光景を眺めながら暇してたんだけど、ふとイオに何で購買にあんなにたくさん並んでいたのかと改めて聞いてみる。



「受付が混んでいたのって『パーティー申請用紙』と『拒否条件』を出すからだって話は聞いたんだけど、どういうことなの? 授業の一環で組むんなら先生に言えばいいんじゃない?」


「ああ、ライムさん達はあまり学園の制度は知らないんでしたね。『パーティー申請』ですが今回の実習限定の申請用紙で、これを出さないと勝手に組み込まれたりします。こっちは誰もが忘れずに出すのですが『拒否条件設定申請用紙』というもので……そうですね、こういう相手とは組めないというのを記載して学院側に意思表示をします。今回この用紙を提出しているのは貴族籍を持たない騎士科の生徒たちです。他にも三男、四男といった継承権のない貴族が提出しているようです―――騎士科の貴族騎士たちは教師を含め『第二区間』での演習を推奨していますから」


「え。なにそれ。どういう状況?」


「難易度が高い場所で実習をし、無事に生き残ることや一定の成果をあげれば実力の証明になります。今年騎士科の――…特に貴族騎士を見る目は厳しいんですよ。錬金科絡みの問題や不祥事が多い。今まで表面化していなかった問題も出てきています。だから、名誉挽回したいのでしょうね。貴族騎士の中でも実力がある人間はいいのですが、中には面倒な輩もいます。そういったものに巻き込まれては困りますからいち早く勝手に組まれないよう、届け出を出しているという状況です」



 成程ね、と頷いた所でベル達の話も終わったらしい、それぞれ握手をしていた。

 あとで聞いたんだけど、マリーローズって女の子が女騎士見習いたちをまとめるリーダー的役割を担っているらしい。男子の方は別の人なんだけど、その人は手続きの関係で今はいないみたい。

 あとでしっかり話をしておくとの事だった。



「でも、ここで会えてよかった。手紙だとどうしても伝えきれないことがありますから」


「確かに直接話す方が色々聞けていいよね」


「ええ。それと森では変異体が確認されやすい周期だとの事なので、強力な魔物除けや警備結界は必須だと思います。もし予備があれば買い取らせて欲しいと僕らの友人から伝言を頼まれていて……」



 ない訳ではないけれど私が判断するよりリアンに頼んだ方が良さそうなので、それはリアンに、とイオに話すと納得してくれた。


 ただ、その場で他の工房組と組む面々からアイテム購入について相談されたのは想定外だったんだよね。

だって、作れると思うんだよ。ある程度。

そうこっそりベルに言ったら苦笑された。



「私もつい忘れそうになるけれど……一年生で私達みたいにあれこれ作れるのは珍しいのよ。レシピを調べるだけでも結構時間がかかるし、材料を揃えるのも同じ。調合の方法や品質を上げていくのは本来は難しいこと、らしいわ」



 私もちょっと実感は湧かないけれど、とベルは呟く。

言われてみるとベルも最初こそ品質低かったけど、あっという間に初めて作るアイテムでも品質はCで安定してきてる。爆弾とか得意なものに関してはいきなりS品質も結構あったりするし。


 リアンも同じで、最初は苦戦していたものの今ではレシピを理解して私の知らないアイテムのレシピを組み立てているんだよね。

 レシピ帳を見れば載っているものもあるけど、作り方が違ったり、作るとリアンのレシピの方が品質高くなったりするんだから大概だと思う。

 なにより理解して変換するって言うの私割と苦手なんだよね。

ちょっと教えてもらったけどさっぱりだし。


(でも他の工房生は、色々あって調合出来てなかったりするし……分担してレシピ調べたりできてなさそうだから少し遅れてても仕方ないのかも)


 そう思うと私達って結構順調だよね、なんて思っているとリアンにアイテムを出せと言われた。

どうやらお金は既に受け取ったらしい。

持ってきていた商品をいくつか出せば、皆ほっとした顔で息を吐いていた。



「ありがとう。ポットは色々あったし……私たちも何があったのかは粗方分かってるから、至急作ってくれとは言いだしにくくってさ。回復薬は一ついいものを持っていれば安心できるから助かったよ。じゃあ、お互い気をつけながら頑張ろう」



 マリーローズから手を差し出され、握手をして別れた。

別れたんだけど、空き教室から出た瞬間凄く見られて慌てて逃げるように学院から出た。

視線が痛かったんだよね。かなり。

 ポンっと騎士科の人達の中に錬金科の生徒がいれば目立つのは分かるから、問題が起こる前にね。



「えっと、次は『ルージュさんの宿』か。センベイもあるし、他にも渡したいものがあるからいこうっ!」


「確かライムが首都に来た時に宿泊したっていう宿よね。お母様のお知り合いだとか」


「うん。なんか首都にはお母さんやおばーちゃんの知り合いが結構いるみたいなんだよね」



 見慣れてきた首都を歩いて、宿屋へ向かう。

まだ朝と言ってもいい時間帯で職場に向かう人が増えてきている。

門からは沢山の観光客や冒険者が入ってきて、賑やかだ。



「―――……話を聞こうとは思わないの? その、お母様の」



 遠慮がちなベルの言葉にアハハと笑ってしまった。

ベルらしくないというか、気を遣われたのが少し意外だったから。



「話を聞いても生き返る訳じゃないし、記憶もほとんどないから別にいいかな。長生きしてほしいって言ってたってさ。おかーさんたち。だから、私には『錬金術師』の才能を持っていて欲しいってよく言ってたみたい。自分たちは危険な場所に行ったりするの大好きだったくせにって、よくボヤいてたよ」


「そう。でも、良かったじゃない。きちんと才能があって」


「冒険者になるっていうのも楽しそうだけど、やっぱり錬金術師になりたいっておばーちゃんを見ていて思ったから本当に運が良かったよ。今こうやって勉強できるの楽しいしさ」



 これからもアイテムたくさん作らないとね! と元気に返事を返すとベルはクシャッと笑ってほどほどにしないとまた倒れるわよーなんて言いながら私のおでこをつついた。

 暫く歩くとルージュさんの宿屋が見えてきて、思わず走り出す。

これが終わったら、ウォード商会に寄って、用事が終われば調合が出来る。




◆◇◆




 宿屋に入ると直ぐにルージュさんが私たちを出迎えてくれた。



 話があるって伝えていたのでそのまま流れるように食事ができるスペースへ案内され、紅茶を入れてくれたので有難く飲ませて貰う。

ほっと一息ついた所で、本来の目的のものを取り出した。



「あの、これ味見してみてください」



 差し出したセンベイを不思議そうに眺めつつ、ルージュさんは一口大に割ってから口に入れ咀嚼していく。

三種類全て食べ終わった後、感心したように口元を抑えていた。



「美味しかったわ。これ、センベイだったかしら? 何処で買えるの? こういうのがうちでも置ければお酒の売り上げが良くなりそうなのよね」


「実は、数量限定の条件付きで委託販売先を探しているんです。センベイの塩と甘ショウユは売り先が決まっているので、お願いできるのはショウユだけなんですけど」


「お願いしたいわ。お酒と一緒に出すから塩かショウユのどちらかがあればいいと思っていたから……あと、他にも軽く摘まめるものってないかしら。出来れば子供も食べられるものがいいのだけれど」



 そう言われてパッと思い浮かんだのは『カリカリ豆』だった。

摘まめる分くらいはあったから試食してもらったんだけどルージュさんは即決。



「この二つ、取り扱わせて貰えない? 癖になる味だし、素朴だからいくらでも食べられちゃうもの。価格はどのくらい? 売り方は私の方で工夫してお互い儲かるようにするから任せて」



 にこっと笑ったルージュさんにリアンが苦笑しながら販売価格を伝えると「随分安いのね」と心底驚かれ、お店の宣伝は任せてと契約書にサイン。

限定であったり学校行事の状態によっては納められないこともあると話したんだけど、それらは話す前に大体見当がついたから大丈夫と頼もしい回答。



「それとルージュさん。あの、これ」



 差し出したのは赤い塗料が塗られた掌に乗るサイズの軟膏容器。

ケイパーさんお手製なので頑丈なのに繊細な細工が施されているから凄く高そう。

材料費は大したことねぇぞって言ってたけどね。



「私に? なにかしら」


「まだ【ルージェ】は作れない代わりに【ローデュラクリーム】を作りました。元々は【レデュラクリーム】なんですけど、それだとルージュさんっぽい香りにならなかったから、ローゼルオイルをチョット入れてます。匂い確認して気に入らないようだったら別の用意します」



 お土産だけど、お土産じゃない。

調香作業をやってみたくて作った調香アイテム第一号だ。

気に入ってもらえるかどうかは分からないのでドキドキしていると、蓋を開け、手にクリームを少量塗り込んだルージュさんの顔がパッと輝いた。



「ライムちゃん、こんな素敵な香りのアイテムを貰えるなんて夢みたいよ。ふふ、オランジェ様から贈り物をされた方は多くいるかもしれないけれど、ライムちゃんに美容品を専用で作って貰ったのって私が最初なんじゃなぁい?」


「あ、言われてみると確かに」


「うふふ。錬金術師―――それも二人に特注でアイテムを作って貰えるなんて、私もまだまだ捨てたものじゃないわね。ありがとう、大事に使わせて貰うわ。相談なのだけれど、使い終わったら同じものを注文してもいいかしら? 値段は正規の金額を払わせてね。高くてもいいわ。ただ、この香りは私専用にして欲しい……なんて、我儘よね」


「気に入って貰えたなら良かったです! 元々、この香りはルージュさんのことを考えて作ったから、他の人に売る気はなくって」


「んまぁ! なんてかわいい子っ! うちに泊まる時はうんとサービスしてあげるから恋愛相談でも愚痴でも言いたくなったらいつでもいらっしゃい」



 ぎゅぅっと抱きしめられて胸に顔が埋まる。

苦しい苦しいと慌ててたらベルが助けてくれた。

機嫌がいいらしいルージュさんはその後、始終ご機嫌で私たちを宿の外まで見送ってくれて、姿が見えなくなるまで手を振っていたらしい。


 てくてく歩きながら、ドッと疲れたなぁと遠くを見ているといつの間にかウォード商会についていた。



「なんか……妙に疲れたね」


「まぁ、ライムはね。なんというか、リアンもだけど本当に歩くだけで物が売れる上に予想外の収獲してくるあたり流石だと思うわ」


「あ、あはは。たまたまだと思うなぁ」



 そう言って苦笑する私の横をリアンが通り抜けて、さっさと行くぞ、と―――店の正面ではない方向へ進んでいく。



「リアン? どこ行くの?」


「正面からだとこの時間は混んでいるからな。直接家にいく」


「家って……え、リアンの家だよね」


「他に何があるって言うんだ」



 呆れたような声に驚きつつ背中を追いかけて足を動かすと、大きな商会の裏側にあたる部分に立派な二階建ての家が現れた。


 お店とは少し違う壁は一目で高品質な錬金煉瓦だと分かる。

でも、それにしてはちょっと光沢が……と壁を観察していると腕を引かれた。



「店より防犯性が高い錬金煉瓦に金属を混ぜてある。魔術を反射する仕様になっているんだ」


「魔術を反射って、あんたの実家は貴族並みの防犯じゃない。普通の家じゃ――――……いや、緑の大国イチの商家だってことを考えると当り前の備えってところね。この位備えておかないとマズいわ。色々と」


「その通り。昔はもう少し緩かったんだが、規模が広がるにつれて色々とな」


 肩をすくめたリアンに引きずられたまま、玄関へ。

玄関もなんだかすごく分かりにくくて、リアンが何もない所に手を伸ばしたように見えた。

なのに、手を伸ばした先にはドアノブがあって何事かと周りを見回す。


(魔道具の類い、なのかな? え、ここが家って……えぇー?)


 ひっそりドン引きしているとリアンは大きくドアを開けて、私とベルを促す。

早く入ってくれ、とぶっきらぼうに言われて慌てて足を踏み入れた私を見たベルは、笑いをかみ殺しながら足を踏み入れる。

 おじゃましまーす、と零れた声に予想外の返事が戻ってきた。



「いらっしゃーい」



 ウキウキと、楽しくて仕方がないというような声にギョッと声の方へ視線を向けるとそこには一人の女性が立っていた。

誰かに似てる、と思いつつ慌てて直立するとドアが閉められて気付く。



「アリルくんのお母さん?」


「いや、そこはリアンのお母さんですかって聞くのが普通でしょう」


「そ、それもそうか。はじめまして」


「お初にお目にかかりますわ。ベルガ・ビーバム・ハーティーと申します」



 自然に貴族の礼をしたベルを見て、私も慌てて頭を下げる。

少し緊張しているのは友達のお母さんに初めて会うからかもしれない。

名乗った方が良いんだよね、とリアンより少し明るい青色の目を見て名前を口にした。



「ライム・シトラールですっ! えーっと、色々お世話になっています」



 軽く頭を下げて顔をあげると……リアンのお母さんはキラキラと目を輝かせていた。

スラッとした長身と均整のとれた体つき、人懐っこくて綺麗な顔立ちにリアンのお母さんて美人だったんだなぁと感心していると彼女は、ドアを閉めたリアンの腕を引いて遠慮なく背中を叩き始める。


 聞いてるだけで痛そうな音が聞こえてきて私はそっと半歩下がった。



「よくやったわ、リアンっ! こんなカワイイ未来の娘候補を二人も連れてくるなんてっ」


「………母さん、同じ工房生で同期生というだけでそういう邪推は止めて下さい。本当に面倒なことになるので」


「んもうっ。いいじゃないの。ごめんなさいねぇ、融通の利かない頑固な息子で。アリルちゃんはもうちょっとアドリブが効くんだけど、リアンったら昔から本の虫で。商談をやらせたらペラペラ口が回るし愛想も良くなるのに、普段がこれだもの。面白くないったらないわ―――……そうだ! 美味しいお菓子と紅茶を取り寄せたから是非ゆっくりしていってね。あ、折角だし、旦那も呼んでくるわ。商談するんでしょう? その方が都合がいいものね」



 無駄のない身のこなしであっという間に見えなくなった、リアンのお母さんを呆然と見送る私とベルは思わずいなくなった方向を指さしてリアンを見ていた。



「……ほんとに、リアンのお母さん?」

「あんた、お母様の要素どこにもないじゃない」


「母に似たのはアリル、僕はどちらかといえば父に似たと前に言った気がするんだが」



 もう慣れた、と言わんばかりにため息をついてリアンは私たちを日当たりのいい大きな食卓テーブルへ案内した。

座っているように言われたのでベルと一緒に並んで座る。


 リアンの実家は綺麗に手入れがされていて、高級宿屋みたいにも見える。

どう見ても一般家庭ではない事だけは確かだなと思いながら、周囲を見回す。



(流石に趣味がいいというか統一感があるなぁ。あ。薬草とか吊るすのに丁度良さそうな窓だよね、あそこ。あっちの方は丁度いい日陰になってるし、長期間保存が必要なものとか置いておくと良さそうかも)


 リアンのお家がお洒落すぎて、イマイチ生活感がなかったので自分が住んだらどんな風になるのか考えて遊んでいると賑やかな声が聞こえてきた。



「はぁ……先に謝っておく。すまない」


「へ?」


「大丈夫。大体想像がついたから」



 どういうことと言葉に詰まった私の耳に賑やかな声が二つ。

パッと声の聞こえる方へ顔を向けると機嫌が良さそうなリアンのお母さんとアリル君がいた。

彼らはお父さんを引きずるようにリビングに足を踏み入れる。



「わ、凄い! 本当に『アトリエ・ノートル』のメンバー勢ぞろいって感じ。中々ないよね、今話題の錬金術師がいるなんてさ」


「アリル。僕らはまだ錬金術師にはなってない」


「あれだけのアイテムが作れる時点でその辺の錬金術師より錬金術師していてると思うわよ。ね、アナタ」


「まぁ……そうだな。ああ、騒がしくて済まない。改めて自己紹介をさせて頂こう。私はガリクス・ウォード。ご存じだとは思うがリアンの父だ」


「俺はアリル・ウォードです。アリルと気軽に呼んでください」



 パッと笑うアリル君はお母さんの笑った顔そっくりで、リアンはお父さんに似たんだろう。

四人一緒にいると直ぐに「親子だな」って分かる辺りが面白い。


 苦笑しつつ、私達も改めて自己紹介をするとお母さんが台所へ。

お茶を淹れてきてくれるらしい。



「で、早速だが……相談があると言っていたな。詳しく聞いていないが、どういった内容かね?」



 商売が絡むと判断したらしいお父さんの視線が真剣味を帯びて、真っすぐにリアンを見据える。

あとで分かったんだけど、この時私もベルも『濃い家族だな、色んな意味で』と似たようなことを考えていたみたい。

 商魂たくましい家で育つとリアンみたいになるんだな、としみじみ納得したのは此処だけの話。




 ここまで読んで下さった上に、待っていてくださって有難うございます!!

この後ちょっと息抜きみたいな話があって、そこから本格的な対策調合やらなんやらが書ける筈。

まだ緩ーくしか考えておりませんが、私も楽しみです。どうしてやろうか(←


 誤字脱字変換ミスなど相変わらず元気に存在すると思いますので、発見したら誤字報告などで教えて下さると幸いです。感想は勿論評価ブック、大変励みになっています!

レビューも嬉しい(*ノωノ)

 もし、感想などで伝えるのはちょっと、という場合は活動報告のコメントなどでも大丈夫です。お気軽にどうぞ。

矛盾点などを発見した場合も教えて頂けた場合、修正したり解説したりさせていただきます。

力量が足りない(爆

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 母はともかく、父と弟は雫時に戻ってきた時に会ってるような……? ライムはレシナのタルトを渡しに行ったときにも二人に会ってるし。
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