219話 グミとゼリーの狭間
……ながいなぁ。
と思いつつ。こ、こんどこそ!今度こそは出ます!!ええ!!で、、、でます……たぶん
閉店後に私たちは調合釜の前に立っていた。
まずは三人でグミを作ることになったんだけど、最初は薬を入れていない普通の物を作ることに。
初めての調合の時は一回分を作って、失敗した時の損を出来るだけ少なくっていうのもあるんだけど……食べ物系は試作して食べてみないと味が分からないし、工夫のしようもないからね。
単純に味が気になるって言うのもあるけど。
「【グミ】は果汁液とハチミツ、ふるるの素だよ。果汁液の味はどうする?」
「何があるんだ? 用意してくれたのは知っているが」
「そういえば昼食を食べてすぐに何か作ってたわね」
用意したのは、アリル・ピーチェ・キップル・ブルップの四種類。
ブルップは汁気が少なかったし甘みも少なめなので甘みを加えて、他のも少しだけ調整した。
「砂糖を入れ過ぎると果物の味がぼやけるから煮詰めて濃度をあげるとか甘みを少し強くする程度にしてるよ。試作を食べてみて薄ければ果汁量と砂糖の量を増やすしかないかなぁ……ちょっと煮詰めたからピーチェの方は色があんまりよくないけど、香りも味もいいんだよね」
どれで作るか、という話になったけどリアンはキップル、ベルはブルップ、私はピーチェで作ることに。
「で、作り方は簡単。計量した材料を調合釜に入れて、温度を70~80度に保つ。全部溶けたら魔力を込めながら混ぜる感じ。溶液を出して型に入れて冷やせば型の形にできるし、魔力を注ぎ続ければ丸い形になって浮かんでくるみたい。魔力量が多くなるのは魔力を注ぎ続けた場合だから、効果はその方が高いって」
魔力を入れずにグミを作ることもできるけど、それだと店に置くことはできない。
調合方法自体は簡単だから、早速調合することに。
「ハチミツも入るから甘さは大丈夫だと思うんだけど」
ひとまず一回分の調合量で調合開始。
意見は多い方がいいからとサフルに頼んでラクサにも試食してもらえないか聞いてもらうことになった。
「でも、どうしてさっきの四種類を選んだの? 他にも色々あるじゃない」
「味と香りが濃いものがいいかなぁって。アリルは安いし手に入りやすいからだけどね」
「なるほどな。柑橘類もいいんじゃないか?」
「だね。あ、それと果汁液だけど果物によっては固まりにくくなるものもあるらしくて、必ず一度加熱するように言われてるから気を付けてね」
分かったという返事を聞きながら調合釜に取り付けた温度計で温度が上がるのを待つ。
かき混ぜても大丈夫との事だったのでかき混ぜながらだ。
「完全に溶けてから魔力注ぐようにって。特に【ふるるの素】が溶け切らないと固まらなかったり、粉っぽさが残ったり品質が下がったりするみたいだから」
溶け切ったかどうかを確認するのがなかなか難しい。
何せ、沸騰させると品質が下がるから温度を保ちながら溶けたかどうか把握するのって見て確かめるしかないんだけど、果汁液には色がついているし、透明じゃないんだよね。
しかも、ふるるの素は白い。しっかり見てないと溶けたかどうか分からないのだ。
「ねぇねぇ、まだ70度になってないでしょ? 70度になったら時間計り始めよう。それで上手に固まったら、目安にすればいいし」
「そうだな。だが、時間を計るのは賛成だが70度になったら、というのは」
「最初からだと果汁液の状態や温度、種類で変わるかなぁって。それなら70度で溶け始めるって話だし、そこから時間計った方が確実かなぁって思って」
「最大量調合の時は【ふるるの素】を使う量も増えるから、時間は少し長めに熱した方がいいかもしれないわね。溶け残って固まらなかったら嫌だし」
今後の方針を話ししつつ、温度と液体の様子を確認していると液体に溶けていない【ふるるの素】がぷつぷつと小さな粒で確認できた。
これがなくなって滑らかな液体になったら魔力を入れて良さそうだと見当をつける。
立ち上る湯気から強い果物の匂いがして美味しそうだなと思っていると、後ろの方からサフルがルヴ達に「食べられないよ」と言い聞かせているのが聞こえて思わず笑ってしまった。
狼系は鼻がいいって聞くし、食べたくもなるだろうなぁ。
暫く加熱すると完全にサラサラした液体に変化したので時間を確認して、魔力を流し始める。
すぐに軽かった液体が粘度をおびた。
変化の速さに驚きつつ、満遍なく魔力が流れるように混ぜていく。
腕にかかる負担は【ふるるの素】を作った時より少し軽い。
魔力を流す量を少しずつ増やしていくと、液体が調合釜の底に沈む。
あれ、と身を乗り出す様に釜を覗き込めば―――まるで水が湧くようにポコポコと丸いグミが浮かんできた。
ザル型のお玉で掬い、ボウルに移していくとあっという間に調合終了。
これからまだ調合をするので弱火に火力を落として覚えた調合時間をメモしておく。
作業テーブルにボウルを置いた所でリアン達も調合が終わったようだ。
時間もほぼ私と変わらなかったので、最大調合量で調合する時の目安時間をおおよそで決めた。
「一回で15粒できるなら、薬は一日分の量にして、朝昼晩5粒食べる方がいいよね。体調悪い時に毎回15粒はキツイよね」
「そうね。一粒ずつが小さいからまだいいけど―――…あら、ラクサ。早かったわね」
三人で真剣にグミを見つめていると、ベルがスッと顔をあげる。
つられて視線をあげるとラクサが部屋から出てきた所だった。
「とりあえず温度を保つように細工はしたッス。他の効果を刻まなければ時間はそれほどかからないっスね。ただ、手元に魔石硝子がないんで低品質の魔石で代用してるッス」
「魔石だと都合が悪いのか?」
「費用が高くつくッス。あと、温度を低温で保つのに魔石じゃコスパ悪すぎておススメはできないっスよ。クズ魔石でも魔力量が多いし、購入額考えると高くつき過ぎる。魔石硝子は値段・消費魔力・耐久性どれをとっても丁度いいんスよね」
「そういうことか。魔石硝子ならこれを使ってくれ」
リアンが道具入れから取り出したのは5つのルース。
スールスの街で『フォレスト・ウォーター』として売られていた魔石硝子だった。
いいんすか、と言われてリアンが頷く。
「鑑定したが魔石を魔石硝子に替えても問題はなさそうだから渡しておく。試作品という事だから、今回は無料で渡すが、もし魔石硝子のツテがないならウォード商会で贔屓にしている硝子工房を紹介するぞ」
「あ、宜しく頼むッス。硝子職人の知り合いはいないというか首都で職人と話すことも知り合うこともあまりないンで」
ラクサが言うには細工に必要な素材の買い付けは一番安い二番街で調達しているから職人の工房に行ったことがないと聞いて、リアンが職人と顔合わせの機会を作ってやると提案。
ラクサも職人同士のつながりは欲しいと思っていたらしくすぐに頷いた。
「で、グミについてなんだけどとりあえず一粒ずつ食べてみましょ。サフル、貴方も食べて感想を言ってちょうだい。意見は多い方がいいわ」
ベルの一言で本来の目的だった味見を思い出す。
全員で一粒づつ、まずはキップルのグミを手に取った。
「色は濃い黄色だね。キップルの香りがする」
「そうね―――……味は、うん。悪くないわね。美味しいわ」
「食べやすい部類に入るし一般受けするだろうな。この味の濃さなら薬を加えても誤魔化せるだろう」
「噛み応えもいいし、味も美味いッスね。具合悪い時でも食いやすいスよ」
「とても美味しいと思います。この大きさだと少々物足りなくなるかもしれませんが、飲み込みやすい大きさでもありますし、小さな子供でも楽に食べられそうです」
四人の意見を聞きながら口の中に入れると、舌にのった瞬間、キップルの味がじゅわっと広がって少し驚いた。
そのまま食べた時みたいな味の広がり方をしないのは、液体じゃないからだろう。
不思議な感覚だったけど、噛むとくにゅっとした食感が伝わって、半分になったことで味を感じる範囲が広がる。
「美味しいねこれ。こっちはどんな味なんだろう」
全員に水を勧めて口の中をサッパリさせた後にブルップをそれぞれ一粒手に取った。
こっちは甘酸っぱさが濃縮されていてかなり美味しい。
続けて、ピーチェを食べたんだけどこっちは香りが特にすごかった。
味が濃いのは果汁を煮詰めてるから当たり前なんだけど、華やかさが一番っていうのかな。
「三種類とも美味しい……けど果物の値段考えるとブルップ、だよね」
「そうなるな。あとはアリルが候補に挙がる。アレも通年ほぼ変わらない値段で流通しているから作ってみるか。ただ、薬を入れて作ってみたい。薬自体は手持ちの腹痛薬を使おうと思う。手持ちの薬でいいなら風邪薬と頭痛薬があるから二人もそれで調合して欲しい」
「わかった。じゃあ完成したら鑑定して、それから販売?」
「いや、作ったらニヴェラ様の所へ行くぞ」
「あの方も鑑定ができるのね」
ベルの感心したような声にリアンは首を横に振った。
そして少し考えて“広めないように”と釘を刺し、何故ニヴェラ婆ちゃんの所へ行くのかを話し始める。
「あの方は『薬物限定鑑定士』だ。薬物に関するものであれば効能と効き目、効果が表れるまでの時間が分かる。更に熟練した人は使用した薬草の使用量も分かるというからな……クスリに関することは僕がするよりよほど信用できる。詳細鑑定でも成分や効き目は分かるが効果が表れるまでの時間や使った薬草などの量までは分からないからな」
鑑定士の他にも限定・特定といったある種の分野に特化した人に発行される資格は多いそうだ。
納得した所でラクサは魔石硝子を使った容器、私達はグミの作成に取り掛かった。
二人から頼まれて『アリル』の果汁液を使うことになった。
調合は、一回分。薬は一日分。
薬をどのタイミングで入れるか、という話になったんだけど最初から入れることに。
元々この三種類の薬は苦みがあまりないものらしい。
温度に注意しながら調合釜を混ぜ、滲んだ汗を拭う。
「これ……しんどいからあんまり作りたくないね」
「腕力的にキツイな」
「鍛練には良さそうだし、私は別に問題ないわ。何なら請け負ってもいいわよ?」
鼻歌を歌い始めたベルはいつも通りだったので苦笑しつつ、体調によってはお願いするかもと伝えておいた。
最初に作っていたのもあってグミ自体は簡単にできたがラクサがまだ来ないので、リアンは【吸臭炭】、ベルは【シアブロック】、私は【ゼリー】の作成に取り掛かる。
(ゼリーの調合は簡単なんだよね。グミより)
残ったアリルとピーチェの【果汁液】を合わせて【ふるるの素】と【聖水】を入れる。
折角だから、とコンポートにしたアリルの小さいのも入れておく。
グミよりもゼリーは果汁液を増やして【ふるるの素】を減らすだけなんだよね。
あとは工程が違う。微妙に。
「ゼリーだったかしら? それってグミとどう違うのかイマイチわからないのよね」
材料はほぼ同じでしょう、と言われて材料を入れた調合釜を混ぜながら違う所を口にして、用意した容器を指さした。
全部硝子の器だから、高い。コワイ。
「ゼリーはグミより柔らかいっていうか、うーん、食べたらわかると思う。水分の量が違うんだよね。で、グミみたいに魔力で固めるのは途中までだから魔力量は少なくなると思う。ただ、果肉が色々入れられるからデザートには向いてるんじゃないかな」
「ふぅん。それで硝子製のグラスがあるのね」
「リアンが冷やす工程があるなら金属か硝子がいいだろうって。割りそうで怖い。調合の失敗よりそっちの心配の方があるんだけど」
「安く買いたたいたものだからあまり気にしなくていい。ペアでもなければ半端なバラ売りがされていたり、試作で作られたものばかりだからな」
「そうは言うけど怖いって。あ、でも冷やすんなら金属にしてラクサに冷やす細工をして貰えば売れそうだよね」
冷たい温度を保つことができる容器を作れるのなら、多分出来ると思う。
そこまで考えて何気なく左右を見る。
リアンとベルが真剣に調合釜を眺めながらブツブツ言っているのを聞いて、大事なことに気が付いた。
「ねぇ、さっきラクサに細工して貰おうって話したけど、ラクサにアドバイス貰って別の人に注文ってできるかな」
「出来ると思うが、どうしたんだ急に」
不思議そうな顔でリアンに尋ねられて気付いた一つのことを口にする。
「私たちは三人いて色々分担できるけど、ラクサは一人でしょ? 一人で色々やらなきゃいけないのに、次々に注文していいのかなーって。お守りの中身も作らなきゃいけないし、グミの容器もでしょ? いくら細工の腕を鍛えたいからっていってもさ、大変なんじゃないかなぁって……今はまだご飯作らなくて良かったりするからいいかもしれないけど、自分の工房に戻ったら仕事をずーっとしてられるわけでもないし」
倒れたりとかしない? と思わずリアンやベルを見ると二人は驚いたように目を見開いて、それぞれ考え込んでしまった。
暫く二人からの返事がなくて、私は全てが溶けた溶液に魔力を流し始める。
話をしながらでも調合釜の中を見るくらいはできるようになったんだよね。
「―――……ライムに言われるまで気付かなかったけど、そうよね。自分の工房に戻ってからも、夕食の差し入れとかできるかしら? 材料費は貰うって形にすればラクサも頼みやすいんじゃない」
「報酬という形で食事を届けるようにしてもいいかもしれない。掃除なんかも行き届かないだろうし、サフルが問題ないようであれば定休日に掃除を手伝って……いや、いっそ安い奴隷を買うのも手だな」
リアンの呟きに私もベルも唸ってしまった。
どうしたものか、と悩んでいる間にも調合は進む。
私のゼリーはもう容器に移す段階だったのでグラスに静かに注いで、泡がある所は木で作った串で潰していく。
ある程度できたら、一回り大きいバットに予め砕いた氷を敷き詰めて塩をかけ、グラスが乗ったバットごと冷やす。
安定したら、そっと温度の高くない場所へ移動する。
リアンやベルも同じように最後の仕上げへ。
使った道具の後片付けをしながらお茶を淹れる準備をして、夕食のメニューについて考えていると「できたッスよーーー!」と機嫌良さそうなラクサの声が聞こえた。
台所から声のした方へ顔を向けるとラクサは機嫌良さそうに鼻歌を歌っていて、私がティーセットを持っているのを見て口笛を一つ。
丁度喉が渇いていた、との事だったので座るように言って応接ソファにポットとカップを置いておく。
ルヴとロボス、そしてサフルの飲み物とオヤツを準備して渡した。
二頭を撫でてサフルにお礼を言ってから私たちはラクサと共にお茶をすることに。
リアンは既に完成したばかりのグミを入れる容器を鑑定し終えたらしい。
「―――……そうか、コストがそれなら問題ないんじゃないか。買い取る形でもいいし、お守りの中身と同じように委託販売でもこちらは構わない。この量の材料費なら確実に回収して利益を上げることを踏まえると……一つ、この位の値段が妥当だな。将来『資格』が上がることを踏まえて技術料を取ってもいい。なにせ、一度購入すれば半永久的に使えるんだ。充分元は取れると考える客は多い。一般家庭の需要は少し厳しいかもしれないが、冒険者や騎士だけじゃなく商人にも売れるぞ。材料をこれではなくワンランク下げられるなら費用も少し安くできるはずだ」
「一般家庭用に素材を一つ落としてもいいかもしれないっスね。それなら銀貨1枚分は安くなるッスよ。コレ、長期間持ち歩くことを考えて頑丈な素材を選んでるんで材料費を削れるなら助かるッス」
「家庭用は家からあまり持ち歩かないだろうしな。購入時に説明もするし、商品の説明にもきちんと記載すれば問題ないだろう」
私が席に座るとリアンがベルへ容器を渡す。
ベルの手元へ視線を写せば掌に乗るくらいの薄い箱があった。
「へー、綺麗だね。魔石硝子を囲むみたいに模様かいてある」
「相変わらず細かくて丁寧な彫りだわ。魔石硝子は色を選んで作成できるから注文時に個数指定して好きな色の魔石硝子を選べるようにすればいいかもしれないわね。どうせ置くなら、部屋や趣味に合うものがいいじゃない?」
「魔石硝子の色については僕の方から注文時に指定をしておく。どの色ができるかは分からないし、費用を削る為には『弟子』に任せることになるからおおよその色指定しかできないと思うが構わないか?」
「いいんじゃないの。むしろその方がいいわよ。特別感があるじゃない。それに、家庭用の容器はケースじゃなくてシュガーポットみたいな形でもいいと思うのよ」
皆の話に頷きながら私はカップを傾けていつ話を切り出すかタイミングを計っていた。
ラクサには私が自分で聞いてみたいって言ったんだよね。
リアンとベルの意見を受けて粗方、商品の方向性が決まったらしいラクサが小さく息を吐いてカップに手をつける。
一口飲んだのを確認してから名前を呼んだ。
「ねぇ、ラクサ。結構注文増えて忙しいと思うんだけど、大丈夫?」
私の質問に驚いた顔をしていたラクサが一瞬何かに詰まったような、そんな顔をしたのを確かに見た。
こういう時は先に言いたいことを言ってしまうに限る、と今までの付き合いで何となく分かっていたので思っていたことをそのまま続ける。
「私はさ、ベルとリアンがいて三人で役割分担してるから在庫とかも作れるし、ある程度余裕もって工房経営が出来てるけど……ラクサは一人で納品分の細工して、たぶん試験の準備もして、生活もしなきゃいけなくなるでしょ? 流石に手が回らないんじゃないかなって思ってるんだけど」
どう? と聞けばラクサは気まずそうに私から視線を逸らした。
じっとカップの中を見つめて数秒、グッとお酒でも飲むように紅茶を飲み干す。
「割と容量オーバーが近いッス。商品補充・開発・あと試験の準備に集中できるこの環境なら何とかなるし、安心して打ち込めるんス。けど、ココはライム達の工房なんすよね……居心地がいいからつい、居候継続してるんすけど流石に不味いよなーって」
器用だと思ってたんスけど、と項垂れたラクサは確かに疲れていた。
根を詰めてるっていうか追い込まれているようにも見える。
「私はラクサが工房にいるの助かってるよ。色々気を使ってくれてるのも分かるしさ。あと、ご飯作るのは別に負担じゃないってのは覚えておいて―――……で、私なりに色々考えてみたんだけど、ラクサの試験が終わるまで工房専属の護衛としていてもらうことはできないかな。新しく増えた行事で私達は工房を留守にしなきゃいけないし、その時にラクサが店番とか警備をしてくれると凄く助かるんだ。あ、ご飯はちゃんと用意しておく!」
私の言葉にラクサはぽかんと口と目を開けて固まっていた。
呆れてるのかちゃんと聞いているのか分からないけど、言いたいことは言ってしまおうとそのまま話し続けることにした。
言ったもの勝ちだよね。
「ラクサの試験がいつなのかは分からないけど、商品作りが大変なら仕上げの細工の大事な部分だけ彫ればいい段階まで他の職人さんにやってもらう事って出来ないのかなって。勿論、自分で最初から最後までをっていうのは分かるよ、私もアイテム作ってるから。でも、省いてもいい工程は別の人に頼んでもいいんじゃないかなぁって」
「それは……」
「勿論、絶対って訳じゃないよ。それに、ラクサが自分の工房に戻った後のことなんだけど、容器とか作って貰ってる指名料ってことでご飯は私が作ったのサフルに持って行ってもらってもいいし。掃除は自分でやらなきゃいけないだろうから、奴隷を買うとか色々考えた方がいいんじゃないかな。余計なお世話かなーって思ったんだけど、ラクサが手いっぱいになって何もできなくなる前にこの際だから考えてみない? い、今、相談してくれればリアンとベルが何とかいい案を出してくれると思う!」
まかせて!と胸を張ると呆然とした顔のままラクサがぽろっとこぼした。
「そこはライムじゃないんスね、案出すの」
「私は思い付きで色々言うだけだね! 実際出来るかどうかちょっとわからないし」
「―――なん、で……ここまでするんスか。オレっち、ただの隣人っしょ」
この言葉に私が驚いた。
動揺したのが分かったらしくラクサが驚いて、そしてベルが無言でラクサの頭をはたいていた。
「あーと、私、ラクサは『大事な仲間』で『大事な友達』だと思ってたから……えーと迷惑だったらごめんっ」
「大事な……って、ちょっと一緒に旅しただけじゃないっスか。オレっちもその場のノリでそういうことを言ってたんだと思って、だから驚いただけで……迷惑だとは思ってないっス。逆に、他人の『俺』に何でここまですんのか不思議に思ってて」
ラクサの声がどんどん小さく、そして揺れていく。
ほんのちょっぴり湿ったような声に私もベルもリアンも、みんなみんな気付かない振りをして顔を見合わせ苦笑する。
「一緒にいて楽しいし、これからも仲良くしたいからかなぁ。細工職人としてもラクサは凄いって思ってるけど、職人じゃなくてもラクサはいい所いっぱいあって、今後とも仲良くやりたいなーって。長く付き合うには、無理するのが一番よくないと思う」
「同感ね―――……貴族の私に軽口叩ける庶民なんて貴重だもの」
「商売の話ができるのは僕も助かるし、同性が工房内にいると僕も心強い。色々と」
リアンの言葉を聞いていたかのようにルヴとロボスが小さく吠えてラクサの足に頭を少し擦り付け、私の足元に近づいてきたので許可をもらってから二頭とも横に座らせる。
もふもふだ。
サフルも小さく「私もラクサさんには助けられています」と穏やかに口にする。
それを聞いて、ラクサがニカッと笑った。
ほんの少し目じりに光るものが見えた気がするけど、気のせいだろう。
「……し、仕方ないッスね。オレっちがいた方が上手く行くみたいッスし、これからもよろしく頼むッス。あ、それと今後については今日一日考えさせてほしいッス」
いいよーと全員で返事をした所でゴンゴンというノックの音が聞こえた。
荒々しい音は工房ドアの方からで微かに声も聞こえる。
「え、だれだろ……?」
「ライムは此処にいてくれ。僕が出るか?」
「いいえ、二人で行くわよ。ラクサとサフルはライムの傍にいて頂戴」
「任せろッス」
「承りました」
私はドアと凛とした声で話すベルを交互に見つめる。
ベルの手には、というか全員の手にはいつの間にか室内で使える大きさの武器があった。
二人がドアに近づいていくのを眺めてから、ラクサを見るといつもの様にニッと笑って囁いた。
「大丈夫ッスよ。二人とも強いんで」
それは分かってるけど、とドアへ視線を移す。
ベルがドアから1メートルほど距離を取って声をかけた。
「どちら様かしら。『アトリエ・ノートル』の業務はもう終わっておりますわ。明日、いらして下さいませ」
貴族令嬢としての対応にじっと耳を澄ませて返答を待つ。
どういう返事が返ってくるんだろう、と意識を集中させていたんだけど聞こえてきた声に立ち上がる。
ラクサが私の名前を呼んでいたけど、ベルやリアンがひとまず武器を収めたのをみて警戒を少し解いたらしい。一度名前を呼ばれただけで何も言われなかった。
ベルの手によって開けられたドアの向こうには――― 予想外の人達が居心地悪そうに集まっていた。
ここまで読んで下さって有難うございます。
大体眠気と眠気と眠気で(四六時中眠い)誤字脱字変換ミスが踊っているかもしれませんが、とりあえず更新です。
今回は調合とラクサのお話し。
ライムも当初より少しずつ、かわ…………ってるのかいないのか。
ブック・評価・アクセス、そしていいねも有難うございます!
読んで下さっているのが分かるので、一人ウキウキ。有難いです、ほんと。
そして誤字報告も助かっております!ほんとに!かなり!だいぶ!!!!!!
次回、出すぞ出すぞ詐欺していたキャラがでます。おたのしみに~
=新アイテム=
【常備薬グミ】
果汁液+ふるるの素+ハチミツ+【薬】
下準備
・果汁液を作る。果汁を絞る、砂糖を入れて煮詰め濃縮させる
・ふるるの素は吸臭炭を使って臭いを取ったものを使用
調合
①全ての材料を調合釜に入れ、温度を7~80度に保つ
②全部溶けたら(ぷつぷつとした【ふるるの素】の顆粒が消える)魔力を注ぐ
※全て溶け、魔力を込めながら混ぜて粘度が出てきた所で容器に入れて固めると効果控えめ
魔力を注ぎ続けると高い効果のグミが作れる
《基本効果》
・魔力中回復 ・体力小回復 ・微満腹感
【ゼリー】
果汁液+ふるるの素+ハチミツ+聖水+食材(薬も可)
下準備
・果汁液を作る。
・ふるるの素は吸臭炭を使い臭いを取ったものを使用
・中に果肉を入れる場合は必ず加熱し冷ましたものを使う
調合
①全ての材料を入れ、温度を7~80度に保つ
②全部溶けたら魔力を注ぎ微かにとろみがつくまで混ぜる
③容器に液体を入れて、冷やし固める
※冷やす必要があるので冬若しくは氷などを使用するのがお薦め。
溶液に氷や水が入ると失敗ので注意して冷やすこと
温かいと溶ける
《基本効果》
・魔力小回復 ・体力小回復 ・飲み込みやすい ・浄化




