211話 同時に頭を抱えよう!(不可抗力)
ミントが久々に登場。
ミントって……どんな子だったかなーって思いながら書いてたら、なんかすごい方向に進化した気がします。はて。
たぶん、あれです。
「あえない時間が何かを育んだ」っていうやつです。
なにかを。
久しぶりに自室で目を覚ます。
外でもしっかり眠れるけど、やっぱり自室は違う。
大きく伸びをすると隣で眠っていたボーデンヴォルフのルヴもつられたように欠伸をして、グググっと体を伸ばしはじめる。
その様子を横目で眺めつつ、窓を開けて空気を入れ替えつつ、いつもの服に袖を通す。
「長雨が降ってたとは思えないくらい、いい天気だなぁ」
太陽が遠くに見える山の間から頭を出そうとしているのを少し眺めてから、ルヴと共に部屋を出た。
ルヴは絶対に私の前を歩かない。
嬉しそうに尻尾を左右に振りながら機嫌良さそうについてくるので、台所で水をあげて頭を撫でる。
食事をしている時に撫でても怒らないのはいいことだな、と考えつつ撫でていると玄関から箒を持ったサフルが入ってきた。
「おはようございます、ライム様」
「おはよう。掃除してくれたんだ。ありがとう」
「畑の世話もありますし、より一層励もうかと……いくつかいただいた種を育ててみようと思っているのですが」
困ったように笑うサフルを見てハッと気付いた。
本格的に畑仕事をするならいつもみたいにキッチリした服装だとやりにくいだろうし、道具も必要になる筈。
サフルは自分から欲しいって言いにくいよね、とそこまで考えてから息を吐く。
(リアンに相談だね。とりあえず)
サフルは、三人の奴隷ということになってるから独断であれこれ決めるのはマズいだろうと判断して、サフルには掃除より朝食の手伝いをして欲しいと頼む。
嬉しそうに頷いて身だしなみを整えてくると自室へ戻ったサフルを見送り、食事用のエプロンを身に着けた。
「さてと。久々になれたキッチンで朝食作りだね。何にしようかな」
素材だけなら沢山ある。
とりあえず、食材を見て決めようと地下へ。
ルヴは地下室の入り口でピシッと『待機』している。
誇らしげに座る姿は小さいとはいえ番犬らしく見えたから、頭を撫でると嬉しそうに頭を擦りつけてきた。かわいい。
「ルヴは味付け薄くすれば大丈夫って言ってたし、一緒に作っちゃおうかな。ダメな食材はないみたいだし」
共存士ギルドでは、契約した魔獣やモンスターなどに応じて『食べさせてはいけないもの』を教えてくれる。
帰宅して私たちは荷解きから始めたんだけど、凄い量だったからディルやラクサにも手伝って貰えて本当に助かった。
(あれ、三人じゃ絶対終わってなかったよね)
遠くを見ながら、雫カボチャを籠に入れる。
他にも良さそうなものをバランスよく籠に入れて、少し珍しく朝から魚とマトマのスープをつけることに。
コレ、集落で作り方教えて貰ったんだよね。
臭みが採れる香草の組み合わせも教えて貰えたし!
下処理もしっかりしたし、そもそも時間が止まっていることもあって鮮度はいいままだ。
朝は久しぶりにスコーンにした。
パンばっかりだったから、たまにはこういうのもいいだろうと思ったんだよね。
ジャムもあるし、焼き立てのスコーンにバタルを塗って食べても美味しい。
「サラダはさっぱりしたドレッシングにしようかな。レシナを香りづけにしてっと」
サフルが野菜を千切ったり、下処理を手伝ってくれるのでとても楽だ。
途中で野菜をルヴ用のスープにして、スコーンもルヴ用にちょっと必要なものを足したり抜いたりする。
手作りのご飯は基本的に市販の乾燥フードと同量か少なめがいいと聞いたから、購入した専用フードを別皿に盛っておく。
同じテーブルで食べる訳にはいかないから、ルヴの分は決められた場所に、板を敷いてお皿を並べることになった。
(まぁ、躾のこともあるし、同じテーブルで食べることはできないけど、専用のお皿があるっていいよね。ルヴが真っ先にこのお皿選んで他のには見向きもしなかったのには笑ったけど)
冷ます時間もあるので、とりあえず置いておく。
食事の準備ができ始めテーブルに冷めても問題ないサラダや食器を並べる。
スープが完成した頃に三人が戻ってきた。
ディルも泊るんだと言っていたけど、サフルに聞いたら私が寝た後にディルの家から従者が迎えにきて引きずって帰って行ったそうだ。
まぁ、貴族だもんね。宿屋でもない工房に泊まるのはマズいか。
「おはよー。ご飯丁度できた所だから自分の受け取ってから席に座って」
「おはよう。へぇ、今朝はスコーンにしたのね。ジャムは分かるけど、これってウッドシロップじゃない。ハチミツは?」
「ウッドシロップって独特の癖があるけど、スコーンに合いそうじゃない? ちょっと食べてみようよ。ハチミツも一応出しておくけど」
サフルはスープ、私は主食の森猪の骨付き肉を香草で蒸し焼きにして、特製の甘辛いタレを塗って焼いたものをお皿に乗せて渡す。
スープに魚、主食に肉とメインになる食材が使われているので皆どこか嬉しそうだった。
(お肉の方が喜ぶんじゃないかと思ってたけど、そうでもないのかな)
そんなことを想いながら最後に席につく。
頂きます、と全員で食事の挨拶をしてから料理を半分くらい食べる為、気合を入れた。
狼系の魔物やモンスターを飼っている場合、食事の順番って言うのは大事らしい。
「私、共存士ギルドでルヴの飼い方聞いてなかったら絶対先にご飯あげてた自信ある」
「モンスターや魔物によって食事って変わるから大変ッスよね。オレっちには無理ッス。自分の飯食うのも大変なのに」
「まぁ生き物を飼うのはお金かかるよね。最期まで世話する覚悟はあるし、ある程度蓄えも出来たからドライフードを大量に買い込んでも破産はしないかな。今の所。それに自分の食べ物だけじゃなくてルヴのも稼がなきゃって思うとやる気出るよ!」
ねー、と声をかけるとルヴが話しかけられたのが分かったらしく小さく吠える。
尻尾を振っているけど、興奮して走り回ったりはしない。
いい子だなぁと思いつつ、全ての料理を半分ほど食べた所で取り置きしておいた食事を出す。
子犬だから食事量は少なめ。
指示を出すと少し戸惑っていたけど、直ぐに私の顔と声を聴いて指示に従ってくれた。
チラッとご飯を見たけど私の指示を待っているルヴに声をかける。
「今日は工房で初めてのご飯だから少し豪華だよ。普段はもうちょっと手作りが少なくなる。でも、いっぱい頑張ったらご褒美でご飯も豪華になるからね」
子犬らしい高い鳴き声がすぐさま返ってきて思わず笑いながら、食べてよしと指示を出した。ルヴは匂いを嗅いでそっとスープを舐め、気に入ったらしく一心不乱に食べ始める。
全員でその姿を見て思わず笑った。
「……どこかの召喚師を思い出すな」
ふっと鼻で笑うリアンは優雅にスコーンを割ってウッドシロップをつけている。
一口食べて少し目を見開いた後小さく頷きながら「美味いな」と呟いてたことを踏まえるとかなり気に入ったらしい。
二つ目のスコーンを大皿から確保してるし、そのうちスコーンを朝食に出して欲しいって頼まれるかも? なんて思いながら、私もスコーンを手に取る。
一口食べると表面はさっくり、中はしっとりしてほろほろ崩れる。
ふんわり香る小麦とバタルの香りにウッドシロップは凄く合っていた。
「ディルっぽいわね。確かに! でも、ディルより立派じゃない? どう考えたって、ルヴの方が紳士だもの」
「フォローしようがないッスね。あ、オレっちこのスープ毎日でもいいくらい気に入ったッスよ。こう、抵抗なく内臓に沁みるって言うか……まぁ、魚介系のスープが好きっていうのもデカいんスけど」
賑やかに食事をしながら、ラクサが店を手伝ってくれることになった。
正直どのくらい混むか分からないので全員で感謝しつつ、朝食を終わらせる。
たくさん焼いたスコーンは気付けばなくなっていた。
サフルが洗い物をしてくれるというので任せて、雫カボチャのパイを一切れ台所に置いておく。ルヴには蒸した雫カボチャを少しだけ。
大きなパイを8つに切り分けた所でミントのことを思い出した。
本当は今すぐにでも教会まで走って届けたかったけど、これからお店の準備をしなくちゃいけないんだよね。
(ルヴの散歩のときに持って行こうかな。カネットさんにも食べて貰って……もう一切れはディルに取っておこう)
甘いものは好きだって言っていたから喜ぶはずだ。
そんなことを想いながら私達は開店準備の話し合いを始める。
お茶請けは雫カボチャのパイ。
「でも、開店早くして大丈夫なの? 確か、帰ってきてストックとか作ってからって話だったような気がするんだけど」
「僕も考えたんだが、魔力が増えている事や予定より早く帰ってきたこと、なにより素材が多いから少しでも使いたいんだ。この調子で行くと地下に収納できなくなりかねん。ずっとトランクに入れておくのも心情的に避けたいしな」
「言われてみれば確かに」
「調合自体は、お店を少し閉めるの早めて三人で調合すればいいわ。魔力が増えると調合回数も違うし、色々調合したお陰で前よりは安定した品質で作れるようになったものね」
店について色々話をした後、最後に言われたのは『雫カボチャ』のこと。
美味しいから明日も食べたいとリクエストされたので寝る前に作って地下に置いておくことになった。なんだかなぁ。
◆◆◇
四人で開店準備をして、出入り口のドアを開くとそこには結構な長い列が出来ていた。
思わず顔を見合わせる私達に冒険者たちが「待っていた」と声をかけてくれる。
それを皮切りに並んでいたお客さんから「久しぶり」とか「やっと店に来られた」とか色々聞こえてきて、私達は慌てつつカウンターに座って販売を開始。
そこから昼過ぎまで、ずーっと列が途切れなくてお昼を食べる時間もなく販売、補充、販売、補充、販売、補充……の繰り返し。
サフルも途中から列の整備だけじゃなく、商品補充に回って貰ったくらいだ。
最後の一人が店を出て、サフルが戻ってくる頃には疲れ果て全員がカウンターに突っ伏したり、椅子に座って脱力してる。
「……ひ、久々に販売するとこういう目に合うんだね」
「トリーシャ液がこんなに売れるとは思ってなかったわ……瓶、まだあったかしら。というか、これ、明日もこの状態だなんて言わないわよね?」
「ラクサ。すまないが明日も手伝ってくれないか」
「……いいっスよ……オレっちも商品補充しなきゃならないンで。まさかこんなに売れるとは」
「宝石加工してペンダント作ったって朝に言ってたけど、それは売れたの?」
「実は売れたんすよ。ペアで三セットあったんスけど、恋人がいるって言う騎士とかトリーシャ液を買いに来た旦那さん、あと冒険者が買って行ったッス」
お守り袋の『中身』も作っておいた分が全部なくなった、と遠くを見つめているラクサは午後の販売ができないから、と外の看板に『お守り 売り切れ』と書きに行った。
サフルが気を利かせて淹れてくれた紅茶を飲みながら、昼食後に教会までルヴを散歩に連れていくことを話すとリアンやベルもついて来てくれることになった。
ラクサは商品作りもあるし、留守番をしておいてくれるというので任せることに。
お昼は疲れていたこともあって作り置きの料理を好きに選んで食べた。
その後は久しぶりに教会までの道を全力で走ったんだけど、流石というかルヴは生き生きと楽しそうに走ってついて来る。
私を抜かさないように速度を調整しながら、教会に行くとミントやカネットさんに会ったのでルヴを紹介しつつ戻ってきたことを報告。
指示をしっかり聞いているルヴを見たシスター・カネットが特別だといってシスター長室へ案内してくれた。普通、教会に動物は入れないらしい。
お茶を出してくれたので、二人に雫カボチャのパイを渡す。
私達はお腹いっぱいだからと言えば二人はそっとフォークを入れて一口食べ……そこからはあっという間になくなった。
名残惜しそうな顔を一瞬していたけれど、直ぐにカネットさんがミントに何か指示を出し、戻ってきたミントの手にはいくつかのアイテム。
「これ、どうぞ。パイのお礼です。それと、トリーシャ液を補充したくて」
モジモジと手の指を絡ませて言いにくそうにするミントに私はいいよーと二つ返事でポーチに手を入れた。
教会に行くと決めた時に、あらかじめ用意しておいたんだよね。トリーシャ液。
「でも、結構な量あった筈なのに……使い切るの早かったね」
「儀式の関係で子供達も清潔にしようと言うことになったので、トリーシャ液を使ったんです。そしたら、今までの汚れが全部落ちたみたいで本来の髪に戻って……見違えました! その泡で体をこすっても凄く綺麗になったので……あっという間に一つ使い切ってしまって」
「そっかぁ。でも、大瓶の他に予備で中瓶渡したけどそれもなくなっちゃったんだね。次からはもっと多めに渡すね」
それにしても、かなりの量だった筈なのになーと首を傾げてるとクスクスとカネットさんが笑い始めた。
ただ、その横に控えているミントは何とも言い難い表情で微笑んでいる。
「実は、その中瓶なんですけど……盗まれてしまったんですよ」
「……え?! ぬ、盗まれた?! 教会の中で?!」
「ええ。盗人は直ぐに分かったのですが、その時に瓶が割れてしまって」
盗んだのは、教会の行事で訪れていた別の教会にいたシスター長らしい。
どうやら、カネットさんに一方的な敵愾心を抱いていたらしく、教会にいるシスターだけでなく孤児も綺麗になっていることに驚き、理由を探っていく内に『トリーシャ液』に辿り着いたらしい。
で、最終的には孤児の中で犯行現場を見ていた子がいて明るみになった。
「これは今まで渡せなかった期間分の聖水です。トリーシャ液のお代は何がいいかしら……」
悩むそぶりを見せたカネットさんにリアンがすかさず「聖灰をいただけませんか」と声をかけた。
聖灰は聖水より少し安いらしく驚いていたけれど、リアンも私たちも頷いた。
今回の旅行で『聖灰』が使えることは充分に分かったから。
それなら、と納得したカネットさんは笑顔でミントに指示を出す。
品物を取って来てくれるらしい。
ミントが出て行ったあと、カネットさんは酷く機嫌が良さそうに続けた。
「私たちは聖職者ですが、犯罪者には容赦しません。組織が大きくなるとその分、ほころびが出やすいものでしょう? ただ、今回の一件があったお陰で十年ほどは補修予算に頭を悩ませなくても済むようになったの。だからそのお礼もかねて貰って下さいな」
差し出されたのはお酒のような瓶。
思わず受け取った私はそのままお礼を言ったんだけど左右で固まっていたリアンとベルが慌てて口を開いた。
「こ、このような物を頂くわけにはまいりませんわ! 私たちは、あくまで錬金術師として、ミントの友人として縁があったこの教会に寄付をしただけですものっ」
「僕たちがしていたのは施しではなく、取引ですっ! このような高価なものを頂くわけにはいきません。対価をお支払いいたします。売って頂けるだけで充分、というか正直お目にかかれるだけで充分ですし、まだ僕らには扱えません」
慌てる二人に驚いてカネットさんを見るけどニコニコと満足そうに笑っていて、二人の言葉が途切れるタイミングでパチッと控えめに両手を合わせた。
「いいんですよ。このお酒は一年で三本もタダで貰える、まぁ役職手当のオマケみたいなものですから。年末年始に一人で飲んでしまうので、体のことを考えると少し控えた方がいいんです」
「……500mlで金貨5枚する酒をパーッと、一人で、呑む」
どういうことだ、と動きと思考を止めたらしいリアンの口から零れた値段にギョッとするとカネットさんは私の言いだす次の言葉を見越したように、微笑んで、そっと掌をこちらへ向ける。
「トリーシャ液という素晴らしいアイテムがなければ、私達が10年分の莫大な修理費を得ることはできませんでした。老朽化が激しいこともありますが、この教会は元々色々あって手当が薄かったので丁度良くって――…これ以上のものを色々手に入れることができたのです。このお酒が報酬として少々高いというのでしたら、都合のいい日に何か甘いものを差し入れて頂いてもいいかしら? ライムさんの作るものが美味しいとは聞いていたのですけど、ここまで美味しいとは思っていなくって」
反射的に作ります、と返事をするとよかったわぁと言いながら彼女は仕事があるからと部屋から出て行ってしまった。
いつの間にか戻ってきていたミントはずっと苦笑したままだ。
「シスター・カネットも私たちも全員感謝しているんです。冬までに色々な箇所を直せることになったんですよ! それに、温かいお湯が出る魔道具を『問題のシスター長がいた教会』から譲り受けることが決まって、温かいお湯で体を清めることができるようになりました。冬はお湯を大量に沸かして体を拭いていたので……思わず泣きだすシスターもいたんです。だから、諦めて貰っちゃってくださいね。それと、ライムっ! 私、雫カボチャのパイなんて初めて食べました! 凄く美味しかったです。シスター・カネットも気に入ったみたいなので、お礼はできればそれでお願いします。必要なら私も手伝いますし、カボチャのような固いものを両断するのは得意なんですよっ」
「喜んでくれたならよかった。お腹いっぱいになって起きられなくなるくらい作るね。一人一ホールでいいかな」
「ソレは流石に少し多いわ。ふふ、でもありがとう。今度何処かに行く時は絶対に誘ってね。私、ライムの事何が何でも守って見せるから。色々覚えたの。毎日訓練するようになったからかもしれないけど」
「……そ、そっかぁ。頼もしいけど、怪我しないでね」
その後ベルがかなり興味を示してミントにあれこれ質問。
ミントも楽しそうに訓練内容とか話し始めたので、私達は一度場所を移動することにした。
裏庭にいくと、丁度子供達が畑の世話をしていて私たちを見てパッと表情を明るくする。
他のシスターの掛け声で子供たちは作業を止め、一列に並んでパッと頭を下げ口々にお礼を言い始めた。
「錬金術師のおねーちゃん、おにーちゃん! いつもありがとうっ」
「すっごく綺麗になったんだ! 頭も体もかゆくならないんだよ!」
「あと良い匂いになったの。今度、あったかいお湯が来るってシスターが教えてくれたよ。おねーちゃんたちのお陰なんだってシスター長もいってた」
それから彼らは何かを思い出したみたいで、物置から小さな袋をいくつか持ってきた。
なんだろう、と開いてみると食べられる木の実とスライムの核が沢山入っている。
「一生懸命集めたよ! シスターたちは、葉っぱをたくさん集めてるから足りなくなったらいってね! 私達、一生懸命世話したお野菜も分けてあげるっ」
ニコニコ微笑む子供達にベルやリアンも素直に袋を受け取って礼を言っている。
そのうち私の所にそれを持ってきて、何かないかと聞いてくるので「ジャムがあるよ」と言えばそれを渡していいと言われた。
「この木の実もスライムの核も必要だから助かったよ。これ、報酬ね」
皆で仲良く食べて、とポーチから大きなジャムの瓶を三つ取り出す。
私達三人が一瓶ずつ一番大きな子に持たせると小さな子もジャムの周りにわらわら集まって目を輝かせている。
お手伝い頑張る、美味しい野菜作るとやる気を出している子供達と頭を何度も下げているシスターと別れて教会の礼拝堂横へ移動。
見送りに、と来てくれたミントに私は個人的に渡したいと思っていたモノを取り出した。
「これは、ミントへお土産!」
「? これは、薬ですか」
「これは【レデュラクリーム】って言うんだよ。肌にいいからお風呂上りとかに塗ってね。で、こっちは【上級・トリーシャ液】っていうんだけど……ちょっと香りを弄ってミントに合うように調香したんだ。気に入らなかったり、肌に合わなかったら教えてね。調整するから」
「こ……これを、私に? し、シスター・カネットには?」
「? ミントの為に作ったからミントのだよ。一緒に行けなかったから今度は一緒に行こうね。あとこれ、幸運茸っていうキノコだよー。美味しいからスープに入れて食べてみて」
「ら、ライム……っ!! もう、もう大好きですぅうう!! 今からでも遅くないのでっシスターになりませんか?! 私と一緒にお掃除して礼拝して同じ部屋で寝泊まりしてご飯食べて……っそれで、それでぇ」
くねくね体を捩りながら頬に両手を当てているミントを見て、どう声をかけたものかと悩んでいるとベルとリアンにそうっと名前を呼ばれた。
振り返ると二人とも微妙にミントから目を逸らしている。
「たぶん、収まらないと思うからこのまま帰りましょう」
「だな。ライム、ミントはあそこで見てるシスター・カネットが回収してくれるはずだ。今の内に帰るぞ」
「う、うん」
ば、ばいばーい? と小さな声でお別れを言って手を小さく左右に振る。
私達はずっとくねくねしながら赤い顔で何かずっと話し続けるミントを置いて工房に戻る道を走った。割と、懸命に。
お陰で行きより早く到着出来てほっとしつつ、工房のドアを開けたんだけど……そこに、本来いない筈の人が視えた気がした。
思わずドアを閉めた私は背後にいた二人に話しかける。
「……なんでワート先生がいるのかな」
「私、今日は実家に帰りますわ」
「奇遇だな。僕も気になることがあるから商会に泊まろう」
「二人ともずるい! わ、私はエルの所に行く。一番普通そうだし」
「そこでディルを選ばない辺りは合格ね。さ、いきましょ」
クルッと踵を返したベルに続いて割と本気で工房脱出を決め、足を一歩踏み出した。
んだけど。
私の肩に置かれた手と背後から聞こえた声に足を止める。
「おーい。お前ら、何処に行くんだ。学院からの重要なお知らせをもって来たぞー」
生気が抜けきった声にギョッとして振り向けば、顔色がかなり酷いことになったワート先生と目があった。
脳裏をよぎったのは死体の目。
「せんせー……死体と同じ目になってます」
「大丈夫。まだ生きてる。辛うじて。お前たちに説明したら眠れるんだ頼むから聞いてくれホントに頼むから後生だから」
生気がないのに妙に迫力のある声に私たちは諦めて工房に戻った。
一つだけ確かなのは、先生が持ってくる『重要』なお知らせに碌なものがないって事だと思うんだよね。話聞かなくても分かるもん。
新年あけましておめでとうございます!
年明け一発目の更新です。
少しは楽しんで頂けると嬉しいな、とおもいつつ。
いつもの通り誤字脱字・変換ミスや矛盾点などありましたらお気軽に!
というか、誤字脱字変換ミスに関しては是非誤字報告で教えて下さると嬉しいです。ペペっとしゅうせいしますので!!ぺぺっと!!!
=アイテム素材=
【聖酒】
教会で購入すると500mlで金貨5枚になる代物。
教会に属する高位職の人間が一年で3本特別手当としてもらえる。
購入もできるが、本当に高い。
聖水の10倍ほどの浄化力を持つとされ、神の祝福があるとも。