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210話 末路と未来

 お正月前にギリギリ更新です!!


これでとりあえず旅は終わり。

次回どうしよっかなーとあれこれ妄想中。



 首輪をつけたモンスターや魔物は『所有物』とみなされる。



 その意味を実感したのは、首都モルダスの一番街を歩いている時だ。

今まで気付かなかったけどお店の入り口には『動物・モンスター・魔物持ち込み禁止』の文字が幾つかあった。


 分かりやすいよう、動物の絵がかいてあってバツ印をされた立て札や看板を置いているところもあったんだけど、どうにも飲食店が多い。

 あと、壊れやすいものを扱っている所は軒並み入れないことになっていた。



「大人しいとは限らないし、暴れたら困るから一緒に入っちゃ駄目なんだよね?」


「そういう理由もあるけれど、単純に『苦手』な人間もいるからでもあるわ。どうしても狼系が怖いとか、鼠系は駄目とか見ただけでは判断できないでしょう? 客一人一人に確認する訳にもいかないし。そういう配慮や事情も兼ねてるの。飲食店は貴族が来ることもあるから、余計に気にするでしょうね」


「毛が混入する可能性もあるし、ほぼ無いとはいえ病気の心配もある。掃除の手間も増えるから一番街では基本的に許可していないんだ。観光地でもあるから多方面への配慮がされている」



 ベルとリアンの説明に感心しつつ腕の中のルヴを見た。

小さいしはぐれると大変だってことで抱えているけど嫌がることなく大人しくしている。

 ディルは帰り際、テールさんから受け取った用紙を眺めてから何やら考え込んでいて、ラクサは緊張で強張った表情のニウスとファラーシャに一生懸命あれこれ話していた。


(ルヴは暖かいなぁ。私の物になったってことは、三年経っても一緒にいられるってことだもんね。サフルは三人で所有してる状態だし、一人で家に帰るのは気が重かったからルヴがいてくれてよかった)


 ほっと息を吐いた所でウォード商会が見えてきた。

店先に従業員の人が立っていたこともあって、私達はスムーズに裏口から店内へ。

直接、店の一室に繋がっていたらしくそこにはすでにリアンのお父さんと、弟君がいた。



「リアン。まずは礼を言おう。新しく産出された『フォレスト・ウォーター』の名が貶められる前でよかった。何とか騒ぎは収束。現行犯は犯罪奴隷落ちという刑になった。違法性の高いアイテムを闇ギルドから仕入れ使用していたようだ」


「もしかして、腕に巻かれていたベルト……?」



 どのようなアイテムなのかとリアンが尋ねる前に思い当たるアイテムを口にしていた。

パッと思い浮かぶのは、イミテーションルース(偽物の宝石)を売りさばいていた人たち。

私達を見て逃げたのが頭に残っていた。



「どこでそれを……」



 心底驚いた表情で私を見るお父さんと弟君に慌てる。

犯人の仲間だと思われたら凄く困る!



「いや、あの、中通りを歩いてる時に私っていうか、リアンを見て明らかに逃げた人達がいたんです。その人たち全員が腕にベルトしてて変だなぁって思ったから覚えてて」


「なるほど。そういうことでしたか。リアン、ライムさんは観察眼も優れているようだな」


「――…話を続けて下さい。僕に何を『作れ』と?」



 嫌そうな顔をしたリアンにお父さんは一枚の手紙を差し出した。

めんどくさい、という感情を隠しもせず手紙を受け取ったリアンはその場で封を開け、内容に目を通し眉を顰める。



「なるほど。これを調合しろと……まさか無償で提供しろなんて言いませんよね」


「材料と技術料は国から支払われる。品質はC以上。素材の品質は高いほどいいと伝えてある」


「それだけですか。ならば、断らせていただきます。僕はまだ『学生』ですからこのような調合はとてもじゃないですが出来ませんね」



 いい笑顔で手紙を突き返したリアンに私たち全員が口には出さないけど、リアンはリアンだなと再認識した。

親相手でも容赦ない。


 ただ、そこは流石父親で大きな商会を運営している人物だけあった。



「引き受けてくれれば、縁談話は今後一切持ち込ませないようにしよう」


「……僕は元々、結婚する気はありません。そのような相手と出会えるとも思えない」



 苦虫をかみつぶしたような顔で吐き捨てたリアンに、ベルとファラーシャが目を丸くしていた。結婚云々について私はよく知らないけど、二人の反応を見る限りでは結婚するのは普通のことみたい。

 ディルとラクサは、表情が変わってないから男女で結婚に対する考え方が違うのかも? とか、前もってリアンから二人は聞いていたのかもしれない、なんて考えてもみたけど、本人に聞いてみるのが一番早い。

 考えた所で分からないし。



「―――…望みは?」



 リアンのお父さんは、小さく息を吐いて低い声で短く問う。

威圧感たっぷりで多分私なら腰が引けていただろう。




「ウォード商会総代表ガリクス・ウォードに貸し一つで」



 シレっと言い放って、リアンは返事を聞かずに踵を返した。

あっさり父親に背を向けたかと思えば出入り口付近で固まっているニウスとファラーシャに視線を向け、小さく頷いて退室。


 呆然と立ち尽くす私たちに、お父さんは低く喉で笑う。

おかしくてたまらないといった表情だった。



「はぁ、笑った笑った。いや、君たちには本当に感謝している。病弱で頭でっかちだった息子が随分と『人間らしく』変わっているようで何よりだ。各支店からもアレの話は聞いているが、今回のような動きは今まで考えられなかった。そこのお二人、苦労したようだが安心したまえ。我が商会は、誠意をもって労働することをいとわない職人を殊更大切にするという方針でね。騎士団の事情聴取には私も同行しよう」



 こっちは次男で商会の跡継ぎであるアリルだ、と背筋を伸ばし微笑んでいた弟君を紹介。

慌てて頭を下げる二人を眺めているとお父さんが私たちに向き直って頭を下げた。



「不肖の息子だが、宜しく頼む。時折貰う手紙には君たちとの日々に関した事ばかり書いてある。他人に興味も関心もほぼ抱かなかったから心配していたが、杞憂だったようだ」



 言いながら、お父さんは私達に何かを差し出す。

微かに聞こえた音とありきたりな革袋から中身がお金であることは直ぐに予測ができた。



「礼だよ。金はあっても困らないだろう?」



 そう言って笑うお父さんは、受け取るようにと革袋を突き出す。

目は真剣で口元は笑ってるけど何を考えてるかさっぱり分からない、リアンが交渉する時の顔と凄く似ている。



「お金を貰う理由がないから、受け取れません」


「アレの性格は、人を寄せ付けるようなものではないし癖もある。共同生活では何かと息苦しいだろう。これで好きな物を買いなさい。財布はあれが握ってるのだろう?」



 どうにかしてお金を受け取らせたいのかな、とも思ったんだけど……なんだか違う気がする。

だから、差し出された金貨の袋を私は押し返すという行動を選んだ。

 これは、多分受け取っちゃ駄目なお金だと思ったんだよね。



「――…リアンは、大事な仲間だしお財布の管理も経営も凄く頑張ってくれてます。色々教えてくれるし。ね? ベル!」


「え? ええ。そうですわね。庶民生活でかかる費用というのが私はイマイチ分かりませんから、助かってはいますわよ。特に生活に不満もありませんわ」


「だから、受け取れないです。リアンと仲良くするのにお金を貰うのは変だと思うので、これはニウスとファラーシャに使って下さい。たくさん、大変な思いしただろうし、多分今後錬金術の素材を頼むこともあると思うので」



 そうなのだ。

硝子は錬金術でもよく使う。


 容器は勿論、瓶を作って貰ってそこに素材を加え特殊な瓶に調合し直すことだってできる。

イミテーションルースはお店で小さなお守りとして売り出したらいいんじゃないかって、三人で話もしたしね。



「……金は要らないと」


「はい。多少お金に困ってもリアンとなら三人で稼げますから。大丈夫です」



 パッと笑えばガリクスさんがようやく『普通』の笑顔に戻った。

リアンとそっくりだな、と思っていると分かったと酷く優しい声で話す。



「引き留めて悪かったね、リアンは小うるさいが意外と雑な面もある。何をしていたのか聞かれたら私に引き留められたと言ってくれ――…ライム・シトラール嬢。ベルガ・ビーバム・ハーティー嬢。ご学友のディルクス・フォゲット・ミーノット殿。護衛をして下さったラクサ・ピッパリー殿。どうか、私の大事な息子と今後とも宜しくお願い致します」



 深々と頭を下げたお父さんの横で、アリル君も慌てて頭を下げている。

戸惑いつつ二人に頭を挙げるようお願いすると口元に人差し指を一本添えて『内密に』と囁かれた。


 何とも言えない温かい気持ちで部屋を出ると眉間に皺を寄せたリアンが腕を組んで壁にもたれ掛かっている。



「あ。リアン」


「――…何を言われたのかは大体想像できる。気にしなくていい。僕は僕のやりたいことをやるだけだ」



 帰るぞ、と私達に声をかけた仲間の耳は赤くなっていて、全員で顔を見合わせる。

誰とでもなく噴き出して、笑いながらリアンの背中を追いかけた。

 ディルもラクサも当然のように私たちの工房に来て、犬小屋を作るのを手伝うから食事をさせてくれと頭を下げたのには驚いたけど、凄く楽しかったから良しとする。


 その日の夜、リアンは誰よりも早く部屋に引き上げた。


 疲れていたんだと思う。

私もいっぱい迷惑かけたし、集落ではかなり気を遣っていたのは知っているから、誰も引き留めなかった。


 欠伸をしながらフラフラと自室へ向かったのを眺めて、ベルがやれやれと息を吐く。



「にしても、今回は提案に乗ってよかったわ。正直、集落についた辺りではかなり疑ってたから。リアンに騙す気がなくっても、集落の人間がどうなのかは分からないもの――…冒険者と手合わせできたのも嬉しかったけど、錬金術に関することも学院や貴族として生きていたら学べないことばかり経験できたと思うし」



 両肘をついてカップを持ってゆっくりと味わっているのはベルだ。

行儀が悪いけどいいわよねーなんて言ってたけど、帰る所に帰ってきたっていう安心感で気が緩むのは分かるから誰も何も言わなかった。


 私もぺしゃっと頬をテーブルにくっつけて目を閉じる。

起きてるけど、お腹いっぱいで丁度いい感じなんだよね。



「最後はバタついたがいい経験にはなったな。今回の旅でライムの飯も食えて前みたいに沢山話せたし同じ時間を過ごせた上に、召喚素材もいくつか手に入った。リアンに関しては、まぁ……あの集落に行かなければ『魔術の才能』を発現できなかったのも確かだ。感謝してやらんこともない」



 ふんっと言いながらもおつまみとして出した、ゴロ芋のパイユをモリモリ食べてるディル。

手には赤ワイン。

 薄く細い千切りにしたゴロ芋を油で揚げて、塩胡椒をサッとしただけの簡単なオヤツだったんだけどかなり好評だった。

サフルも凄い勢いで食べてたしね。


 ルヴには別におやつを作ったけど、沢山食べて今は私の膝の上で寝てる。



「オレっちは感謝しかないっスよ。ずっとしたかった宝石の細工も学べたし、色々土産も貰ったんで。師匠って呼べる存在がいると気持ち的にも楽になるんスね。ほぼ独学みたいな感じだったのもあって悩みも結構あったんスけど――…アンタらに話しかけて、関われてほんと良かったッス。これからもよろしく頼むッス! 往復2週間くらいの護衛なら飯代とチャラでいいっすよ」



 ウイスキーを飲みながら満足そうに笑うラクサは、今日は泊っていくと言って使っていた部屋に荷物を置いていた。

さり気なく朝ご飯も食べたいって言われた時は笑ったけどね。

ちゃっかりしてるわね、ってベルに小突かれてた。



「旅って色んな素材を採れるから好きだけど、今回は錬金術の勉強もできて凄く楽しかったな。ルヴにも出会えたし、サフルも色々教わって頼もしくなってるし、アンデッドの怖い奴に体乗っ取られなくて済む凄いアクセサリーも貰っちゃったし! リアンじゃないけど黒字だね! なにより戦闘になった時にどうしたらいいのか分かったから、すごく楽になったもん」



 今まで黙って固まってるしかできなかった戦闘は、実を言うとちょっと嫌だった。

ちょっとっていうか、結構かな。

一緒に戦ってなんぼ! って小さい頃に聞いたのもあるけど、自分は無傷で仲間だけがケガするのが凄く嫌で。


 戦えないけど、出来ることがあるのは私にとって凄く嬉しい。



「怪我してもいいようにいっぱい回復薬作れるようになりたい」


「ライム。頼むから俺のいない所で怪我はしないでくれ」


「そんな無茶な」


「護衛は永久に引き受ける。押しかけてでも引き受ける。怪我も病気もしないで寿命を全うしてくれ。頼むから」



 余りに真剣なディルの言葉が工房内に響いた。

ただ、ディルは私がいる方向とは違う方を向いている。



「……何でディルは私のフード付きマントに話しかけてるのかな」


「酔ってるんでしょ。面倒になったら適当に気絶させて転がしておくわ。ライムもそろそろ寝たら? 片づけはしておくから」



 ベルの有難い言葉に甘えて、ルヴと一緒に部屋へ。

一階だと便利だ。

明日、ラクサがルヴ専用の小さい扉をつけてくれるらしい。

お金の代わりに昼と夜のご飯も頼まれた。





◆◆◇



 ライムが、部屋に戻った。



 後ろ姿を見送ったベルとディルは、扉が閉まる音が聞こえてから数秒小さく息を吐く。

ラクサは無言で酒を一口飲み苦笑していた。

 まず口を開いたのはベルだった。

気配を消す様に壁際に立っていたサフルを空いた席に座らせる。



「サフル。貴方も聞いておきなさい。ライムに関わることだから」


「! はい」



 ピンっと背筋を伸ばしたサフルにディルが目を細める。

その表情は『召喚師』のそれだった。




「――…あのボーデンヴォルフは恐らく、魔物化するだろう」




 ひゅっと細く息を吸い込む音。

ラクサとベルは反応せず、黙って飲み物を口にしている。



「まもの、か……というのは」


「その名の通りモンスターが魔力を溜め込み、体のどこかに魔石が露出する現象を指す。現在わかっているのは、野生のモンスターも飼われているモンスターも体内に一定量以上の魔力を貯めると『魔獣』という存在に生まれ変わるという点だ」



 ディルの説明は続いた。

ふっと魔石ランプの光が一段階暗くなる。

すかさずベルが魔力を補充し、明るさが戻ったがサフルの表情は硬く、顔色は青白くなっていた。

 唇はわなわなと震えている。



「共存誓約を結んでいるから安心してもいいが、進化先には扱いが厄介なものもある。ボーデンヴォルフの魔物化にはいくつかパターンがあるから、万が一『何か』変わったら俺に連絡を。念のため、この連絡石を渡しておく。これはガラスでできている。何かあれば叩きつけて割ってくれ」


「わ、分かりました!」



 そんな二人の会話を聞いていたラクサはチラッとベルを見て唇を動かす。

声は出ていないが、ベルは正確に内容を読み取ったらしい。

 息を吐いて緩く首を振った。



夜は更ける。

長い旅の終わりの日は、静かな夜になった。






 アップする前に見直しして、変換ミスをてんこ盛りで発見。

とりあえず、治していますが間違っている、修正忘れを発見したら誤字報告にて教えて下さると幸いです。ほんとにたすかります。はい。


 もうすぐ新年ですね!来年もよろしくおねがいしますっ!!

感想・誤字報告・ブック・評価・アクセスなどこの作品や私自身に関わって下さった皆様にお礼と来年が今年よりも良い年であることを全力でお祈りします。ふれーーふれーーー!(多分違う何かが


 ここまで読んで下さって有難うございます。

続きは書き上がり次第upしますので、どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] とても楽しく拝見しています。集落で修行と採取の旅、弟子入りと新たな経験、良いですね。この作品は地道に(?)修行して、調合していくのが熱いと思います。販売も楽しいです。集落の話は、三人で調合修…
[気になる点] ライムが、部屋に戻った。 後ろ姿を見送った三人は、扉が閉まる音が聞こえてから数秒小さく息を吐く。 とありましたが、リアンとライムが自室へ戻ったら、残るのは3人ではなく4人では? ライ…
[気になる点] 苦虫をかみつぶしたような顔で吐き捨てたリアンに私は驚いて、ベルとファラーシャが驚いていた。 上記の文は、ライムが驚いたことに対し、ベルとファラーシャの二人が驚いたということで良いので…
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