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204話 追いかけて 追いついて

半端ですが、区切りがいいのでこの辺で!


基本的に大きな事件などは起こりません。事件ホイホイじゃないので(苦笑



 息をするのにも気を使うような緊張感。



 私は息を潜めて、じっと空き倉庫の中から『硝子工房』の出入り口を見張っていた。

隣にはサフルとディル。

建物の正面にはラクサとリアン、裏の出入り口にはベルが隠れている。


 一つ、また一つと周囲の明かりが消えて徐々に闇が深くなっていく。

周囲の工房から灯りが消えてうっすらと工房内が光っているのは、問題の三店舗。



「三店舗同時に入るって言ってたよね。騎士はもう来てるのかな」


「もう配置についているようだな。ほら、あのあたり。こういった場面で態々鎧は着けないから分かりにくいんだ。でも、よく見ると分かる」



 ディル曰く、国に所属している騎士に限らず召喚師も、用途に応じた制服があるらしい。

潜伏用の服もあるっていうから驚きだ。



「サフル、あんまりゆっくりできなかったでしょ。ごめんね」


「いいえ! 色々お手伝いが出来て嬉しかったです。工房に戻りましたら、直ぐに庭の方を整えて栽培を始めさせていただきます」


「うん、庭の方は任せるね。私が育ててるアオ草とかも頼んでもいいかな? 暫く調合漬けになると思うんだ」


「是非お任せください。誠心誠意、お仕えします」



 集落を出てから、サフルが完全にベルの家の執事なんじゃないかと思うことがある。

言葉遣いもだけど所作っていうのかな、小さな動き一つでも何だか優雅だ。


 私達が任されたのは『監視』の役目。

チカッと最低限に光量を落とした魔石ランプが光ったのを確認してそっと倉庫から出た。

音を立てないように気をつけながら、工房出入口に移動。

 扉はあまり丈夫ではない木でできているようだ。

音が鳴らない様、気をつけながらリアンに渡された瓶をポーチから取り出した。

左右にいるディルとサフルを見ると二人とも頷いて口布で鼻と口を覆う。

私も口布を引き上げて―――微かに開けたドアの向こうへ瓶のコルクを抜いて放り込む。


 薄い硝子瓶に移し替えたこともあってカシャンと薄いガラスが割れる音が聞こえる。

入り口はディルが閉め、開かない様にドアの前に座り込んだ。

そのまま懐から時計を出し、きっちり60秒数える。



(瓶が割れた音がしてからきっちり60秒、だっけ。通常の眠り薬より強い効果があるからそれで十分だって言われたけど)



 息を殺して、耳を澄ませるけど音は聞こえない。

そっと扉に耳を押し付けてみるけど何にも聞こえなかったのでゆっくり扉を開けてみた。

眠くならない様に眠気を飛ばす効果がある草を口の中に入れてるし、口布は二枚重ねになってるのは確認済みだ。



「あ。寝てる」



 ポツリと零れた声にディルが扉を大きく開いた。

手には槍。

硝子工房の中をサッと見回してすぐに窓の下へ移動して窓を割った。換気の為だ。

入れ替わる形でリアンとラクサがドアの前に立った。



「大丈夫ッス。完全に寝てるンで」



 全ての窓を割った所でリアンとラクサが突入。

リアンが眠っている職人を縛り上げ、ラクサが地下への入り口を開く。

まず地下へ潜入するのはラクサだ。

武器が小さいのと実力が十分にあるという理由で選ばれた。


 そんな服持ってたの?って言いたくなるくらい頭から足の先まで真っ黒なラクサが地下へ。

見えているのは目元だけだ。

細められた目は真剣で、いつもとは違う雰囲気。


(あ。早速見つけたんだ。入り口)


 割った窓から工房内を窺う。


 工房の中は一般的な硝子工房といった感じ。

完成した硝子が砂の中で冷却中だったり、完成したものが仕切りつきの箱に整然と並べられていたりと至って普通。

 床は土で木材は使われておらず、硝子を溶かすための炉の周辺は煉瓦と金属。

木でできたものは炉から遠くに置かれていた。



「見た感じは普通の工房なんだけどな。あ、そういえば縛った人達ってどうするんだっけ?」

「邪魔だろうし、先に引き渡すか―――…サフル。騎士団に話をしてきてくれ。俺はライムの護衛を続ける」


「かしこまりました」



 ペコッと頭を下げたサフルが走って知らせに向かったのでホッと息を吐く。

私達ができることは正面玄関とか窓から工房主が逃げ出さないかどうか、見張るコトだけ。

結構時間がかかると思ってたんだけど、ラクサが突入して10分も経たずにひょっこり隠し扉から顔をのぞかせた。



「親玉見つけたッスよ。とりあえず、サクッと薬かがせて眠らせてるンで、引き上げるの手伝って欲しいんスけど」


「わかった。引きずり出せばいいんだな」



 リアンが近づいて両脇を持ち引き上げる。


 二人がかりだったからか、気を失った男はあっさり姿を現した。

引きずり出した男をリアンは慣れた様子で他の職人と一緒に縛り上げて、地下から出てくる薄汚れ、疲れ切った顔の子供たちを眺めている。



「全部で、7人か。ライム、ディル。そろそろ出るぞ。ここから先は騎士の仕事だ。僕はベル達に声をかけてくる」



 窓越しに目が合って頷いた所で裏口からリアンが出て行ったのを確認。

私達も移動しようと立ち上がった所に、ポツリと大粒の水滴が。

空を見上げるとポツ、ポツっと雨が降ってきた所だった。



「……急ごう、ディル」


「だな。時間も予定通りだし、あとは放っておいても良さそうだ」


「逃げるみたいであれだけど……こういうのに関わったら面倒なんだよね? ディルは」


「まぁな。立場上、領主から直接会って礼がしたいとか言われるのは目に見えてる。そんなことしてたら、首都に戻るのが遅くなるからな。成績は問題ないが出席率も成績に反映されるから出ない訳にもいかないんだ」



 そう、逃げるようにこの街を発つ理由はこれだった。

ディルとベルが『この一件に関わるのはいいが、家名は絶対に使わない』と言ったのだ。

だから騎士団の偉い人とは話をつけてあるので表向きの協力者代表は『ウォード商会長男』であるリアンになってる。


 濡れるのを想定してマントを身に着けているので風邪をひく心配はあまりない。

窓から離れ、数歩歩いた所だった。

室内からラクサの珍しく大きな、焦ったような声。



「ちょ、待……ッ!? 正面玄関から一人、出て――――ッ」



 え、と振り返ると同時に私たちの横を駆け抜けた影。


 ギョッと視線を向けると雨の中を走る後ろ姿が見えた。

ぽかんとしているとラクサが慌てた様子で玄関から顔を出す。



「ッリアン達には伝えておくんで追って欲しいッス! 馬車は街の入り口につけとくんでッ! 捕まえたら、ああ、もうめんどくせぇ! 馬車に押し込んでいいンで!」


「わかった。捕まえて街の正面だな」



 行こう、と楽しそうな顔をしたディルが私の腕を引いて走り始める。

降り始めた雨が地面の土を湿らせ、体にあたる大きな雨粒を鬱陶しく思いつつ私たちは足を動かした。

魔石ランプはポーチに入れて、今はディルが魔術で灯した光の球を光源にしている。


 少年の足は速かった。


 姿は見えないけれど、雨の中で微かに聞こえる足音を頼りに進む。

ある程度走ると、暗闇にうっすらと子供の姿が見えた。



「識別用に光をつけておくか」



 ボソッと呟いたディルが懐から小さな杖を取り出して振る。

隣を走ってなかったら見えない動作だったんだけど、杖から凄い勢いで発射された光が前方を走る子供の背中にピタッとくっついた。


 当人はまだ気づいていないようだ。



「―――これでいいな。にしても、こうして並んでなにかを追いかけていると昔を思い出して楽しくなってくる。ほら、よく小動物を追いかけただろ」


「追いかけたね、確かに。捕まえたのは晩御飯に出来たから、割と真剣に追いかけてた記憶があるけど、面白かったなぁ」



 走りながら内緒話をするように足を動かす。

雨音のお陰で聞き取りにくいけど、近くを走っているお陰で互いの声はしっかり聞こえた。


 何度か角を曲がって、そして―――……地面が土から石畳や煉瓦に変わる。

中通りより少し狭い路地は薄暗い。

どうやら店の裏にあたる道を走っているようだ。



「どこに行くのかな」


「この辺りは……硝子や石を売っている店ではなさそうだな」



 硝子工房や石材を扱う店がある区域は店と店の間隔がとても広い。

運搬や作業に音を伴ったり、高温になる炉を使ったりするから万が一、火事になった時に被害を減らす為わざと家と家の距離を開けているそうだ。


 暫くすると前方を走っていた明りが止まる。

ピタッと止まった子供に慌てて走る速度を落としたんだけど、子供は肩を激しく上下させ、よろめきながら一つの扉に縋りつく。

なにか、話をしているらしい。


 雨の音で何を言っているかは分からなかったけど、声を出して話しかけていることだけは分かった。



「ドアが開いた――…何しに来たんだ?」



 訝しげな声のディルに同意しつつ、もう少し近づいてみることにした。

雨が酷くなっているので『慣れてない』人の場合はコッチがどこにいるのか分かりにくいだろうから。

私もディルもフードを被ってるので肌の露出がないって言うのも大きい。


(雨で良かった。足は速いけど、天候に加えて地下に長い間いたみたいだし、体力も落ちてるんだろうな。万全の状態だったら逃げられてたかも。必死に走ってたし)


 近づくと、彼が誰と会話をしているのかが分かった。



「……っ」



 困ったように眉を下げ、躊躇しているのは女の子。

 ふっくらとした優しそうな感じで必死に何かを言い募る男の子に何か話をしている。

行くぞ、というように彼が女の子の腕を引いた所でディルが動いた。



「埒が明かない。リアンが子供を一人首都に連れ帰って、直接父親と話をさせると言っていただろう。逃げ出した『アレ』で手を打つ。ラクサもそういう判断をしている筈だ。誰か連れてきていたとしても、あちらで対処するだろう」



 アレ、と表現したディルに苦笑する。

ディルは『自分』と『仲間・家族』以外はまるで人じゃないみたいに区別する所があった。

それはどうやら今でも現役らしい。



「そう、だね。時間も限られてるし……何より、私が安全だって分からない所に長くいるのはあんまり。だって、ディルやベルに暗殺者をけしかけてきてたんでしょ? だったら、この雨で……しかも道が悪い所で襲われたら凄く不味いと思うんだ。みんな強いけど、馬車ごと崖に落ちたとか意図的に爆破とかで道塞がれたり、上から石が降ってきたらひとたまりもないし」


「心配してくれるのか」


「心配しない方がどうかしてるって。ディルもベルも大事だもん」



「大事……! 暗殺者には感謝しておかなきゃな。ライムの言葉は真っすぐだから勘繰らなくていいのが本当に嬉しい。貴族ってのは面倒でうんざりする」



 吐き捨てるように告げられた言葉にディルも大変だったんだなぁとしみじみ思った。


 それでも、足は動くし時間は進む。

あっという間に私達より少し年下くらいの二人が揉めている扉に辿り着いた。

私達に最初に気付いたのは女の子。

大きな目を丸くしてビクッと肩が跳ねる。



「っ……!」


「おまえら……ッあの場所にいた」



 ギンッと鋭く私たちを睨みつける男の子にディルは淡々と用件を告げた。

声が硬いと言うかとても冷たく聞こえる。

ベルが貴族してるときの声と同じで考えている事が全く伝わってこない話し方だ。


 それに気づいたのは女の子の方だった。

聞いた瞬間にパッと顔色を変えて男の子の腕を引いて耳元で「貴族だよ、この人」と囁いたから間違いない。



「――…なんの用だ。オレは自由になったんだろ!」


「他の奴らは『保護』された。事情を聴くためだ。事情を聴いて硝子工房の経営者を裁く必要がある。ただ、オマエの場合逃げ出したことを踏まえて『首都』で話を聞くことにした。やましいことがなければ逃げ出しはしないだろう。他の奴らは大人しかったぞ? 保護されると知って喜んで泣いている者もいたくらいだからな―――逃走したお前が『自由』を手に入れられる条件は一つ。事実を話し、他の奴らの話とつじつまが合う事だ。嘘をついた場合、最悪騎士団に連行され『共犯者』として犯罪奴隷行きだ」



 どうする、とディルは言わない。

淡々と話しているのを見て、男の子はたじろいだ。


(男の子はいいとして、女の子はどうなんだろう? 嫌がってないなら一緒に行ってもいいんじゃないかな。そうでもしないとココから離れなさそうだし)


 女の子の手は凄く荒れていた。

肌もガサガサで髪も汚れている。

ただ、二人とも奴隷ではないことは確かだ。奴隷紋がない。

警戒している二人に私も声をかけてみることにする。



「女の子の方は、ここで働いてるの? それともここの子?」


「わっ、私ですか?! わ、私は……ここで、働かせて貰ってて」


「ッファラーシャ! こんな怪しい奴らと話すなッ! また騙されたらどうするんだよッ! お前だって、こんな……ッ給料だってまともに貰えてないんだろ」


「で、でもニウスより大変じゃないよ! ニウス、いっぱい大変な思いしてるの知ってる。私の所為で」


「オレが頑張れんのは、お前がいるからだって言っただろ」



 訳の分からない喧嘩を始めそうな二人に、私もディルも顔を見合わせる。

ディルは懐中時計を取り出してゆっくり首を振った。時間がないらしい。



「―――……分かった。ねぇ、君は何の仕事してるの?」


「わ、私ですか? えっと……」



 答えていいものかと視線を彷徨わせているので私はフードを取って顔を見せた。

ギョッとディルが目を見開いて、隠す様に私を後ろから抱え込む。



「ふ、双色の……かみ」


「マジか。え、あれ、おとぎ話だって……そ、それ本物か?」


「本物だよ。でも、ほら、目立つから隠してるの。信用してもらえるか分からないけど、働く環境が良くないなら辞めて私達について来たらどうかな。ほら、そっちの子と一緒にさ。首都の方が仕事いっぱいあると思うし」


「え、辞めるって……わ、私みたいにトロいのを雇ってくれるところなんて」


「よく分からないけど、二人で一緒にいたいんでしょ? それなら、そういうどうでもいいコトは気にしちゃ駄目だって! あのね、私たちは『錬金術』を首都で勉強してて、仲間の一人が大きい商会の息子だから事情を話せば働き口は紹介してくれると思う。もちろん、そっちの男の子が素直に質問に答えたりするのが条件って言うだろうけど、私も一緒に頼むからさ」



 どうする?と聞けば二人は顔を見合わせる。

中々答えが出なさそうなことに焦れたディルが舌打ちをして、フードを外す。

半分開いたドアを思いきり開けてズンズンと屋内へ。


 何だかヤバそうだな、と思って私はもう一度フードを被り直したんだけど、この対応は正解だったらしい。

 慌てる私たちを余所に、我が物顔で人様の家(店?)に入って数分後、女主人らしい人達にペコペコ頭を下げられながらディルは再び姿を現したのだ。



「おい、このファラーシャとかいうのはクビだそうだ。此処に仕事はない。首都へ行くぞ。今ならそれと一緒に馬車に乗せてやる。荷物があるなら三分で取って来い」



 呆然としていた女の子だったけれど我に返るのは早かった。

パッと頭を下げてパタパタと室内に入り、直ぐに小さな鞄を持って戻ってきたのだ。



「よろしくお願いいたします。ニウス、行こう。きっとここにいても私達、ずっとこのままだよ……私、ニウスが死んじゃうのだけは絶対イヤなの」



 お願いだから、と女の子に手を握られたニウスという男の子は真剣な顔で何かを考えた後無言で雨の中を歩きだす。



「―――……どこに行けばいいんだ」



 この一言で私たちは雨の中を全力で走ることになった。


 んだけど、驚いたのは女の子の身体能力。

彼女の方が体力があるらしく、ガクッと速度が落ちた男の子をひょいっと背負い私たちの移動速度に必死に食らいついてきた。


 馬車が止まっている街の出入り口についた時は、ぜーぜー苦しそうに息をしていたけれどそれでも表情は明るい。

馬車から顔を覗かせ、驚いた顔をしているベル達を見て私達は苦笑するしかなかった。



「詳しい話は移動しながらするね。とりあえず、出発して貰おう。雨が酷くなってきてる」



 私の言葉にリアンが頷いて御者さんに指示を出す。


馬の嘶きが聞こえ、馬車が動き始めた。

馬車の中では雨音が酷くこもって聞こえた。

壁に背中を預けると雨が板にぶつかる微かな振動を感じ、目を閉じる。

疲れてはいないけど、緊張が解けるとドッと疲れるよね。



肝心の男の子は――――白目を剥いて気を失っていた。



 ここまで読んで下さって有難うございました!

週一更新ですが『最低』週一更新なので調子がいいと日曜日にならなくてもアップしていきます!


誤字脱字などは今回割としっかり見たのですが、なんや、ちょっと不安は残るので発見した場合は誤字報告ってことで教えて下さると嬉しいです。ハイ。


感想・評価・ブックとてもありがたく励みになっています!勿論、読んで頂けているだけでも十分すぎる程。少しでも楽しんで頂けるように、私も楽しく書き続けられたらなぁと思っています。

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