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203話 転がり込んだ、厄介ごと?

 更新です!

ちょろっと出てます。新キャラ。

冒頭に独白ですが。



……ちゃんと、登場させるつもりだったのにな?????




 ――…もう、感情も理想も『ここ』にはない。




 夢すらも霞んで消えかけている。

汗を拭う手の感覚はほぼなく、喉が渇き過ぎて声も出なかった。

水が飲みたい、とか休みたいとか、寝たいという感情に気付かない振りをして必死に集中する。


 昔抱いていた夢はもう暗く、熱く、狭いこの空間で消費されるだけ。

自分が『何をさせられているのか』は勘づいているけれど、逃げるという選択肢がない。


(守るんだ。オレが、今度こそ)


 視界が歪んで、気が遠くなる。

脳裏をよぎるのは売られる前にと飛び出した忌々しい集落。


 あの場所から逃げた時は確かに沢山したいことがあった。

なのに、気付けばもう何も残っていない。


 遠くから聞こえるのは罵声。

オレより先に誰かが倒れたようだ。

何かを引きずる様な音が聞こえた気がするけれど、もう、余計なことを考える余裕がオレには残っていない。



どうか、あの子だけは無事で――…と、姿も見えない誰かに祈った。





◆◆





 翌日、私たちはスールスの街を出発する。


 ので。

今日は準備と原石を安く手に入れる目的で中通りに私たちは足を運んでいた。

 揚げ物を大量に作ってストックもしたので暫くは大人しいと思うけど、と思いつつ朝出したカツを挟んだパンを食べた皆の食欲を考えると、直ぐなくなる予感。



「なんだか昨日より人が沢山いる気がするんだけど」


「石が運ばれてくるのは朝だ。良い石が欲しいならこの時間に来るのが一番いい」


「昨日は種類も少なかったし、質の悪いものが多かったものね。今日はいい石があるといいのだけど……大きめで透明度の高い『フォレスト・ウォーター』が欲しいのよ。できれば三つ。夜会用に」



 めんどくさい、という感情を隠さないベルに私たちは苦笑する。

ベルが夜会や社交に行く日は直ぐにわかる。

行きたくない、と言うことはないけど必ず好きなものを一つ私に頼むから。


 リアンもその時はちょっぴりベルに優しい。

さり気なく調合するアイテムをベルが得意なものにしたり、少し時間に遅れても文句言わなかったり、休憩を多めに入れたりしてるんだよね。



「私も『フォレスト・ウォーター』の色は好きだし、小さいのなら欲しいかな。あとは、赤と青、橙色と紫色……色んな小さい宝石を集めてネックレスにしたいんだよね。腕輪でもいいけど、ジャラジャラしすぎると邪魔だから」


「色んな色の石を使うと統一感なくなるッスよ」



 お薦めはしない、と言うラクサに確かになと頷く。

 色んな色があると賑やかでちょっと落ち着かない、かもしれないと思うけど……ちょっとしたお守りにしたいと思ってるんだよね。



「宝石なら、皆の瞳の色が揃うし……まぁ、ちょっと欲張りな人に見えるだけかなって。私だけ分かってればいいんだ。ずーっと一緒にいられたらいいけど、気軽に会えないってこともあるだろうし、そういう時に手元にそのネックレスがあれば心強いかなって」



 いい案だと思うんだけど、とラクサに言えば何故か思いきり顔を覆って俯いていた。

ラクサは器用に人が沢山行き交う中通りをスイスイ歩いていく。



「前見ないと転ぶよ」


「ライムのそういう所、ほんっとズルいッス! なんなんすかこれッ」


「いいだろ」


「どうしてディルがそこで自慢するのよ」


「俺が一番ライムと一緒にいた時間が長いから当然だ。俺が育てた」



 ディルがフフンッと鼻で笑う。

胸を張って堂々と歩く姿は貴族っぽさを増していて、チラチラと原石を持った人たちがこちらに注目しているのが分かる。



「いや、どっちかって言うと私が育ててるんじゃない? ご飯作ってるもん」


「……それはそれでいいな」


「ディル。素直に気持ち悪いから止めろ」


「ふん。陰険眼鏡め」


「誰が陰険だ変態貴族」



 楽しそうにリアンとディルが話し始めたので私はそっとポーチの位置を確認する。

フードが外れない様に気をつけつつ、そっと視線だけを周囲に向けてみた。

スリは今のところ見ていない。


 今朝は、窓から差し込む朝日で目が覚めた。

街が白と黄色が混ざったような太陽光に照らされて、思わず見惚れたっけ。

険しい山に囲まれた『スールスの街』だからこそ山の合間からゆっくりと空が明るくなって、ゆっくり街中を照らし出す光を少しだけ眺めた。



(雫時が終わりに近づくと『朝は晴れる』っていうのは本当だったんだ。今もびっくりするくらい晴れてるし)


 昨日の夕食後、お茶やお酒を飲んでいる時に聞いたことを思い出して感心。

でも、歩きながら風向きや雲の様子を見る限り、今日も雨は降る筈だ。

微かにだけど雨の匂いがするから。


(なんか、嫌な予感がするんだよね。早めに帰れないか聞いてみようかな)


 何となくだけど、荒れる気がするので買い付けが終わったらリアンに相談しようと思う。

移動手段とかに詳しいのってリアンなんだよね。馬車の手配とか。

考え事をしながら中通りを進むこと数分。


 路上商の雰囲気が変わった。

私ですら気付く違和感に動揺してキョロキョロしていると、リアンが小さく囁く。



「ここから、商品を見る。中通りの入り口からこの辺りまでは大した石を持っておらず、二束三文で売りたいと思っているような人間が多い。中間からマーケットまでの道にいる路上商がいい石を持っている可能性が高いんだ。長年ここで路上商をしている人が多いからな」


「中通りの初めにいた方が売れそうだけどな……ほら、まだお金使ってない状態って事でしょ? お金が手元にある内に売りたいと思うのが普通じゃない?」


「石を見る目がある人間は最初に金を使わない。見える範囲の石を見たが、本物はほぼ無かった。あっても品質が低い―――……記念に購入するならいいが」


「アンタ、歩きながら一瞬で鑑定したんスか?」


「鑑定しなくても一目見れば分かる。ベルやディルも分かる筈だ。今は魔力を使って鑑定してるが……以前来た時よりイミテーションが多いな。それを知らずに売っている人間も少なくなさそうだ。ルースだけならまだしも、原石まで作っているとは」



 偉ぶるでもなく淡々と話すリアンの視線は常に路上商の手元に向けられている。

時々、乾燥果物を口に入れて「美味いな」とか呟く姿は普段通り。



「宝石に関しては色々見てきたから分からないでもないわね。少し時間がかかるけれど」


「俺の場合は召喚術に宝石を使うことが多いから『分かる』程度だな。魔力の通り方で何となく、だが」


「……ディルって変態の割に器用よね」


「だから始末に負えないんだろう」


「はは。遠慮も配慮もないッスよね! 否定しようがないってのがまた」


「ラクサ。アンタが一番性質悪いと思うわよ、私」



 楽しそうな皆の声を聴きながら、私は周囲の観察を続けていた。

油断すると肩が触れそうなくらい人が多いので私みたいに背が低いとかなり大変だし、はぐれそうになるので必死だ。途中でディルが手を繋いでくれたから何とかなってるけど。


 前を歩くリアンや左右にいるベルとディル、後ろを歩いてくれるラクサ。

改めて有難いな、と思いつつ足を動かしていたんだけど時々、変な動きをする人がいることに気付いた。

 よく見るとその人たちはリアンを見て逃げ出しているようだ。



(同じベルトみたいなのを手首に巻いてたな。なんだろ、アレ)


 訝しく思いつつ、周囲を見て歩いているとドンッとリアンの背中にぶつかった。

慌てて足を止めて謝ったけど、リアンは既に猫を被っていたみたいで返事はない。

 足を止めたのは恰幅のいい男性の前だった。



「僕にも石を見せて頂いても?」



 そんな声をかけられた男性は機嫌良さそうな返事を返す。



「ん? ああ、見て行ってくれ。どういう石が欲しいんだ?」


「そう、ですね」



 考える素振りを見せるリアンの後ろからひょいッと覗き込むと男性と目が合った気がした。

私はフード被ってるから相手はギョッとしてたけどね。



「僕は『フォレスト・ウォーター』と宝石として利用できる品質の石を探しています。良い色のものであれば小ぶりでもいいのですが……色は赤・青・橙・紫に……まぁ、そうですね見てみない事には何とも。二色の原石でも構いませんよ。ただ『魔石硝子』以外です」



 ニッコリ笑っているようなリアンの声に男性は考える素振りを見せた。

そしてそっと声を潜め、リアンの耳元に顔を近づける。



「あんた、ウォード商会の倅だろう。なんだってこんなところに」


「ご存じでしたか。それなら話は早い。錬金術で使う素材でいいものがあればと覗きに来ただけですよ―――個人的に『市場』をかき乱すような真似は好ましいとは思えません。多少のイミテーションは経験になるのでいいとして、これはやりすぎです」



 低くなった声に男性は目を丸くして、そしてニヤリと悪い顔で笑った。

それを見たリアンは男性が持っていた小粒の黒に見える石を摘まみ上げ、買いますよと言う。



「まいど。負けておくよ、ウォード商会を敵に回す気はないからな」

「僕は情報料を値切ることはしません。適正価格で支払いましょう――…そうですね、二時間後に『バーズ鉱石販売支店』で」



 そう言ったリアンは金貨を二枚、男の手に乗せ原石を摘まみ上げた。

彼は支払われた金額にギョッとしていたけれど両手を挙げて、笑いながら「分かった」と一言。

後で聞いたんだけど、石の値段は研磨後でも金貨1枚にしかならないみたい。

 品質はSだけど、小さいから値段が付かないんだって。


 ただ、その場にいた路上商から必要な原石を値切って買いまくっていたので、損はしていないと思う。凄まじすぎて、引いた。



「流石にいつか刺されるって。私まだ体に空いた穴とか塞げる回復薬作れないんだから気を付けようよ」


「舌戦で負けて逆恨みで刺殺なんて、商人を名乗る資格もない無能がすることだな」



 気にするな、と平然とマーケットへ向けて歩き出すリアンの背中を追いかけながら私たちはようやく口を開いた。

だって、独壇場って言うか口を挟める雰囲気じゃないんだよ。

リアンの値切り交渉って。



「いや、ガチで交渉中の殺意が凄まじいんスけど。威圧の才能とかないッスよね?」


「あら。市場ではだいたいこんな感じよ。慣れなさい。それに、ほら。商人って意外と物騒だって学べてよかったじゃない」


「大体、値切られ買い叩かれた程度で逆恨みする輩はどのみち大成しない。先に間引いておいた方が良いだろ。この眼鏡の商売敵が増えようと、恨みを買おうとライムさえ巻き込まなければ俺はどうでもいいしな」



 めんどくせぇ、と髪をかき上げるディルの腕をペしぺし叩く。

冒険者の人達から何処で誰が聞いてるか分からないから会話の内容に気をつけろって言われたのを、私は覚えてる。


 反感、とかいうのを買って襲われるのは勘弁してほしい。

ディルはなんだか嬉しそうな顔をして私を見ていたけど、気のせいだろう。


 そんな会話をしながら私たちは昨日訪れた『バーズ鉱石販売支店』へ足を踏み入れた。

路上商の人達より三十分早い到着になったのは、バーズさんに事情を説明する為だ。


 同席する、という条件で昨日使った部屋に通される。

出されたお茶を楽しんでいると、ノック音が聞こえたので顔を上げる。

今日はずーっとフードを被ったままだ。

 ガチャッと重々しい音を立てて開かれたドアの向こうには男性が三人。

 恰幅のいい男性は堂々としているけれど、その後ろにいる二人はビクビクと怯えているのか緊張しているのかひっきりなしに視線を泳がせている。



「―――……ようこそ。彼らは?」


「ああ『協力者』ですよ。あんなに頂いて、俺が知ってる情報だけだと到底足らないんでね。報酬を貰い過ぎて自分の首を絞めたなんて洒落にもならないでしょう」



 私はサッパリ意味が分からなかったんだけど、私以外の人は意味を理解したらしい。

成程ね、なんて頷いてるので私も一応頷いておいた。

ひ、一人だけ知らないってちょっと恥ずかしい気がするし。



「警備結界と盗聴防止の魔道具は既に。この後取引をしていたという事実を作る為にも、お持ちの石を鑑定したという鑑定証も出しましょう」


「そりゃ助かります。じゃあ、まずは――…俺の知っていることから」



 口火を切ったのは恰幅のいい男性だった。

事の発端は新しい宝石『フォレスト・ウォーター』が見つかる数か月前からだったという。

なんでも、三軒の硝子工房が閉店の危機に陥っていたのだとか。



「大口の注文を取り付けたはいいが、その納期に間に合いそうもなかったと聞いています。工房を仕切っていた親父が倒れた所が一店舗。他の二店舗は、世代交代をしたばかりで作業員との不和が生じていたり、人を使う能力がなかったりで少しずつ経営が悪化していた。実は、この大口注文ってのは領主様の配慮だったようで」


「領主様の配慮―――……ああ、なるほど。宝石の街として名高いスールスですが、第二の贋玉産業を作ろうという試みですね。宝石や鉱石の類いは掘り尽くしてしまえばそれで終わる。だから、長く暮らしを安定させる為にも独自の産業を育てて領地の特色にしようとしているという」


「ええ。その通りです。その為の大口注文で、量が量な上に質も重要視された。だから、街中の硝子工房に規模や人数を考慮した発注をされた。が、三つの店舗は報酬に目が眩んだ。工房を立て直すには必要な金が『確実に』手に入る――― だから、作成する権利を譲ってくれと経営が順調だった所に頼み込んで余分に仕事を受けた」



 ここまで聞けば私も流石に理解する。

お店をやる前は分からなかったかもしれないけど、リアンが常々私たちに『実力以上の依頼、備蓄を含めた素材で対処できない依頼は断れ』って言っていたから。



「失敗は……失望と不信につながる」



 ぽつっと呟いた言葉は思った以上に大きく響いて慌てて口を押えた。


 私に注目が集まったんだけど恰幅のいい男性は真剣な顔で頷く。

バーズさんはリアンの言葉だと気づいたのだろう。

子供の成長を喜ぶ親の顔でリアンを見ていた。



「そうです。結果として、手が足りず納品が間に合わない事態になった。これは大変だということで硝子工房全てが協力して何とかなったそうなんですが、働いた職人や協力してもらった工房にはある程度の金を払わなければならない。職人だってタダでは動きませんし、なにより硝子職人としてのプライドがある。その費用を払わなくてはならないが、失敗した原因である工房に仕事を依頼する人間は少ない」


「詰みましたわね」



 ザックリ切り捨てる様なベルの声に男性は頷いた。

が、そこで事態は終わらなかったのだ。



「―――……続きを」



 苦々しさを初めてにじませた男性は、深く息を吐いて居心地悪そうにしている二人の青年に声をかけた。

 口を開いたのは、肩に広い火傷の痕がある青年だった。



「お、俺はその三つの工房の一つで働いていました。その、やっと一人前だって言われるようになってから工房のおやっさんが倒れて、その息子が継いだんです。けど、その……人使いが荒いのと俺たちの仕事をちゃんと理解してない所為でずっと反感を買ってて……領主様の依頼を受けてきたと聞いた時は、給料も半分しかもらえてなかったんです。けど、親父さんには恩があるから」



 話によると、経営者になった息子は負債を返すために職人を酷使したそうだ。

失敗で嫌気が差し、見切りをつけた熟練の職人は工房を去り、残ったのは若手ばかり。

その中でも、上に媚びるのが上手い人間ばかりが『得』をしたそうだ。



「で、その『フォレスト・ウォーター』が発掘されて売り出されるって時に、俺らの工房にイミテーションを作って欲しいって言う依頼が来たんです。まあ、これ自体は時々ある依頼なので気にはしませんでした。貴族の家に売り込みに行く時にフェイクを目に見える形で持っていって、本物は納品の時まで安全な場所に隠しておく為によく使うんで」



 貴族のベルとディルは知っていたらしく頷いている。

本物を見たいときはきちんと宝石商に「本物を持ってきてくれ」っていうんだって。

途中で無くしたり、奪われたら目も当てられないから本物に近い偽物で完成した装飾品を見て貰って、気に入ったら全く同じものを本物の宝石で作るのが一般的なんだとか。



「ただ、そこからイミテーションを作る割合がどんどん増えて行ったんです。で、雫時が始まった段階でほぼ8割がイミテーションづくりでした。異常だと思っていたんですけど、この頃にはようやく給料が払われるようになった」



 これを聞いてあれ、と首を傾げる。

隣に座っていたリアンとベル、中立の立場で話を聞きたいといっていたバーズさんも眉をひそめていた。



「ある日、急にイミテーションづくりをしなくていいって言われたんです。今まで通り硝子製品を作ってくれって言われて……なんだろう、って思ったんですけど給料は支払われてたし、経営状態が良くなったから息子さんがどうにかしたんだろうって安心してたんですけど、でも」



 そこで言い淀んだ青年がチラッともう一人の男性に視線を向けた。

三人の中で一番若く見えた青年は弾けるように悲痛な声を上げる。



「ッ……オレ! オレ、見たんです! 夜に真っ黒な馬車からこの子らよりもう少し小さくて貧しそうな子供を十人工房の地下に閉じ込めてるのを! 奴隷商じゃなかった。だって、営業許可証もなかった……違法奴隷です。そこから多分『硝子職人』の才能がある子供を買ったんです。金を渡してるのを見ましたッ」



 血を吐く様な話し方だった。

懺悔をするみたいな、そんな姿に恰幅のいい男性がポンポンと慰めるように肩を叩く。

心配するような、気の毒そうな色がその眼には滲んでいた。



「硝子職人の才能があったとしても、直ぐになんでも作れるわけではありません。貴方が教えたんですか?」



 リアンの声に青年はとんでもないと顔を青ざめさせて首を横に振った。

ギュっと唇を噛んでから、そっと、小さな声で告げる。



「――…俺たちの、同郷の奴が教えてたんです。あいつ、昔から取り入るのが上手くて、それで、上手いこと金を稼いで故郷の家族に仕送り、してて」



 息を飲む私と呆れたようにラクサが溜息をつくのは同時だったように思う。

ラクサの声が響いた。



「で? 情報を売る代わりに、そいつのことだけは見逃してやってくれってことッスか?」


「違います……せめて、大ごとにはしないで欲しいんです。硝子職人は素晴らしい仕事だ。今、大切な時期でケチが付いたら、業界全体に影響が出るって………皆、凄く気を付けてて……『イミテーションを作るのはもうやめろ』って周りから注意もされてるんです。けど、けど! あいつら、聞かなくて。き、のう……衰弱して死にかけた子供を一人、俺が保護しました」


「その子は? 話ができるなら私が領主様にこの話を持っていきますよ。なに、あちらも売り出したいと思っている事業に影響が出る様な処分はしないでしょうからね」


「そ、それが……喉を、潰されていて」


 話せないんです、と青年は泣いた。

もっと早く話していれば、と泣きながら頭を下げる。



「自分たちの利益を優先して、立場を守ろうとしているオレたちが頼んでいい事じゃないのは分かってます。分かってる、んです……けど、自分の弟達と同じくらいの子供が無理やり働かせられてるのは、どうしても我慢できなくて……ッ!」



 すいません、すいません、と謝る青年二人に私は思わずバーズさんを見た。

彼は無表情で青年二人を眺めていたけれど、徐にリアンへ視線を向ける。



「リアン様。どうなさいますか?」


「―――…そうだな。いい商売にもなりそうだし、ウォード商会にとっても僕らにとっても悪い結果にはならないだろう。まずは、夜間馬車の手配を。大きさは中で商会の人間を使う。口の堅いものを御者にしてくれ」


「かしこまりました。私の息子と右腕をお貸しいたします。魔力契約書は用意しておきますのでご安心ください。他に必要なものは」


「後で指示を出す。ベル、ライム。すまないが、今夜この街を発つ。まずは、荷物を引き上げてここまで運ぶべきだな」



 突然言われて驚いたんだけど、ベルは左の眉尻を上げてから溜め息を吐いた。

視線を正面に戻して、ハンカチをテーブルに広げる。



「私は赤い石が欲しいわね。極上の」


 突然、ベルがニッコリ微笑んで言った。

驚く私を余所にベルはつらつらと欲しい大きさや品質、特徴を口にして恰幅のいい男性を見据えた。



「用意、出来るわよね?」


「……はい。とっておきを」


「宜しくてよ。ここで見聞きしたことは外に漏らさないと魔力契約を結んで差し上げますわ」


「ならば、俺は紫色の石を。品質はS品質。魔力含有量が多いものがいい」


 視線を泳がせた男性を見ていたバーズさんがすかさず口を挟んだ。

ディルに向かって頭を下げる。



「その石は私が用意しましょう」


「そうか。希望通りの物が届いたら、当主にも話してウォード商会を贔屓にするよう進言しておこう。丁度、いくつか新しい調度品などが欲しいといっていた筈だ」


「有難うございます」



 よく分からない、頭の良さそうな(でもちょっぴり危ない匂いのする)会話を聞いているとリアンに腕を引かれた。



「ラクサ。すまないが、この二人と荷物を取りに行ってくれ。サフルには僕から指示を出す。ライムは目立つから待機だ」


「あー……そうっスね。わかったッス」



 ディルがチラッと私を見たけどよしよし、とフードの上から頭を撫でてから部屋を出て行ってしまった。

いつ警備結界を解除したんだ、という疑問も浮かんだけど私が理解しないまま事態は進む。


 問題の硝子工房の場所や間取りなんかをリアンが事細かく聞き出し、当事者の人相や名前などをメモ。

手慣れたその様子に目を白黒させていると、新しいお茶が私の前に出される。



「後で、説明させていただきますのでもう少し、お待ちください」



 バーズさんが申し訳なさそうな、でも何故か嬉しそうな顔をして遠慮も考慮もせずズバズバ質問をしていくリアンを見た。

 私も出来ることがあれば、って思ったんだけど出る幕がなさそうだ。

大人しくお茶を手にして、伝えようと思っていたことを思い出す。



「あの、用意してもらう馬車って頑丈なものですか?」


「? 頑丈、ですか?」


「はい。多分ですけど今夜は天気が荒れると思うので。雨もですけど、風も強いだろうし、御者さんも温かい格好しておいた方が良いですよ。それと、小回りが利くタイプの方が良いと思います」



 驚いた顔をしていたバーズさんは直ぐに目を細め、そして静かに頭を下げた。

馬車は、用意できる一番頑丈で丈夫なものにするといって貰えたのでひとまずは安心。

 だって、風に煽られて崖から落ちるとか嫌だし、落石とかでぺしゃんこになるのは絶対イヤだもん。




(調合してないものが沢山あるのに、死んでられないもんね。お店も心配だし)



とりあえず、もうすこし引っ張ります。

サクサク解決していきたい。


調合が!調合が!!



ここまで読んで下さって有難うございます。

誤字脱字変換ミスを発見された場合、できれば、その誤字報告してくださると非常に有難いです。もう、どこが誤字なのかさっぱり……(←勢いで書いてる

 続き読んでやるよーって思った方、ブックマークして下さると進捗情報がペロンと届きます。

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矛盾点や「ここどうなってる?」っていう質問があればコメントでも感想でも何でもお気軽に。


なんとなく、でも読んで下さった方、アクセスしてくださっている方全てに感謝を。

有難うございます。お陰で楽しく、書けています!

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