193話 共同調合は難しい (2)
っしゃああ!更新間にあったぁあ!!
ってことで、次回の調合回が終われば温泉編に突入できます。いえぁ。
瓶の中身も分かったことだし、と私はボウルに材料を入れた。
残る工程は少しだけなので改めて集中する為にパンッと両頬を掌で叩いた。
少し痛いけど気持ちを切り替えるには丁度いい。
「まずはボウルに冷めた粉と【魔石粒】を入れて、混ぜる」
サラサラとしていた粉末は光沢のある滑らかな手触りだけれど、水分を含んでいるというよりも金属に触れているような感覚に近い。
濃灰色にキラキラした赤紫色の魔石粒を混ぜ合わせていく。
私としては、ムラなく混ぜる作業は道具じゃなくて手でやりたい。
(感覚って割と大事だよね、こういうの)
手をヘラのようにして混ぜたり、ボウル自体を揺すってみたりしながら混ぜていけば満足できる混ざり具合になった。
「次は、殻に敷き詰める……両方の殻にみっちり詰めて、エイッ! って合わせるんだろうけど難しそうだな」
合わせる時に力が入り過ぎたら中身がこぼれそうだし、気をつけなきゃ。
見事に赤く染まった固い殻の中にギュッギュッと混ぜ合わせた粉を詰める。
濃灰色からちらりと覗く魔石粒を見ると発掘したくなるけど、集中集中。
混ぜ合わせた粉を全て敷き詰め、鍋蓋で平らにしてからそっと殻同士を合わせてみた。
「流石、もともと一つの木の実だっただけあってぴったり」
欠けもない状態なのでとても美しく見える。
ホッとしつつ、ずれないように紐でしっかり縛っていく。
縛り方は丸いものを縛る時に便利だと言われて覚えた方法だ。
ズレがないか確認したら手袋を外して、調合釜の火が消えているか確認。
温度確認を兼ねて指先を入れたら丁度いい温さだった。
確認が済んだら爆弾を両手に持ってそうっと調合釜の中へ。
(どう考えても調合釜の液体に腕を突っ込んでるんだけど、手を引き上げても何故か濡れてないんだよね)
準備は完了。
あとは魔力を流すだけ、と言い聞かせながら深呼吸をした。
(魔力は足りてる筈だから、後はイメージの問題だね)
手の平からジワリと魔力を放出するんだけど、粘度が高くて泥のような感じを想像する。
コレ、殻の中に染み込んだらマズいらしいのだ。
いつもより扱いにくい、でも確かに固い殻の表層にまとわりつかせるイメージで少しずつ魔力を注ぐ。
出来るだけ腕や指を動かさないよう、息をひそめて調合している理由は、水面が波立つから。
暗い調合釜の中に出来るだけ影ができないように立つ位置を変えて、じっと変化を見逃さないように目を凝らす。
(魔力は中に流れてはいないみたい。ちょっと難しいけど……できなくはないかな)
慣れていないこともあって時々ヒヤッとすることがあったので、魔力操作の鍛え方があれば是非やってみたい。こういうのって慣れなんだよね。
じぃっと、そうっと暗い調合釜の中で自分の魔力を受けて微かに光る赤を見る。
爆弾の表面の触り心地がしっとりと滑らかになってきたので繋ぎ目になる部分を注意していると、少しずつ互いの凹凸がなくなって、一体化してきているのが分かった。
一瞬魔力をもっと流せば……とも考えたけど、今のままで様子を見ることに。
(失敗しそうだしね、急に魔力の流し方やら量を変えると)
爆発して木っ端みじんになるのは嫌だったから、じーっと見ているとある瞬間パッと繋ぎ目がなくなった。
驚いて思わず魔力が切れたんだけど、慌てて引き上げた所でホッと息を吐く。
「よかった……慌ててうっかり魔力流し込まなくて」
ハハ、と乾いた笑いが漏れたけど私の手にはちゃんと【爆弾】があった。
チラッと周りを見るとベルはあと少し、リアンはまだかかりそうだ。
「測定器、測定器~っと」
どうなったかな、とワクワクしながらセンカさんに使ってもいいと言われている測定器の前へ向かう。
魔力はまだあるので問題なし。
そうっと測定器中央に爆弾を乗せ、測定器に魔力を流すとゆっくり光って、やがて文字が浮かび上がった。
私は隣に用意してあったメモ用紙に内容を書き写していく。
効果まで書き終えた所でやっと肩の力が抜ける。
ホッとして爆弾を手に持ったところで声がした。背後から。
「できたようだね」
「わっひゃあッ!? び、びっくりした。何とか完成しました。こんな感じなんですけど」
爆弾と一緒に効果や品質を書き写したメモを渡す。
センカさんはとチラッとだけ内容を見て、直ぐに爆弾を慣れた手つきで色々な角度から眺めたり、軽くはじいて音を確かめるような動作をしている。
「随分、魔力の操作が上手いね。アンタくらいの年ならもう少し制御が甘いのが普通だ」
「もしかしたらおばーちゃんに教わった『遊び』が関係あるかも……使い終わった魔石ってありますか? ちょっと色が残ってる位の」
「あるが、どうするつもりだい」
訝し気な表情のセンカさんは不審そうな表情をしながら革袋一つ分の空っぽになった魔石を受け取る。
魔力を使い終わった石は透明に近くなるんだけど、色は若干残っている。
(えーと、黒、白、赤に青……流石だ。全種類ある)
一種類ずつ受けとった魔石を調合釜の中に入れ、持っていた小さな袋に同じように全種類の魔石を一つずつ移動。
釜と私物の袋にはそれぞれ全種類の魔石が入った状態になれば準備完了。
普段通り杖を調合釜に突っ込んで、袋から中身を見ない様適当に一つ、魔石を取り出す。
「こうやって中身を見ないで取り出した魔石と同じ色の魔石にだけ、魔力を注ぐんです。魔力切れになるまで毎日やってました。魔力を込めても私の魔力じゃ色は戻らないんですけどね」
魔石は再利用ができる。
出来るんだけど……一般的な魔道具に使うのと錬金術に使うのでは使い方が違うのだ。
魔道具でも色別の特性が必要なものとそうでないものでは消耗具合が違う。
分かりやすく言えば、赤の魔石で炎を出す道具を使うと赤色が薄くなり、魔力があればいいだけの魔石ランプだと魔力だけが抜ける。
魔石から魔力が抜けると色が曇るんだよね。
使い切っちゃうとただの赤い石コロみたいにになるからそうなる前に魔力を注ぐのだ。
「色付き魔石には適合する魔力の人が魔力を注ぐか、調合や専用の補充道具で魔力を入れるしかないじゃないですか。おばーちゃんは『調合釜充填法』って言ってました。詳しいことは分からないけど、おばーちゃん何故か全種類の魔石の色を戻せたんです。青色の魔力色を持ってるって話だったのに、赤の魔石もちゃんと補充出来てて」
羨ましいと思ったこともある。
魔石に魔力を注ぐのはお金が掛かるからね。
センカさんが興味深そうに釜の中を覗いていたので、私は取り出した魔石と同じ色の魔石にだけ魔力を注いで見せた。
(人によって違うんだろうけど、魔力の扱い方って考え方次第みたいないい加減なところあるよね。感覚っていうのか……ベルやリアンもきっと違うんだろうな)
小さな対象物に的確に魔力を注ぐなら、杖の先から魔力を紐の様に伸ばしていくイメージがやりやすいのでそうしている。
障害物である他の魔石にぶつからないよう、適度に集中しながら必要な分の魔力を入れると魔石が淡く光るのだ。
これ、ちょっと綺麗なんだよね。
「応用編って言ったらあれですけど、慣れてきたらバラバラーって適当に撒いて、該当する一色の魔石複数に一度に魔力を注ぐっていうちょっと難しい方法もあります」
今の私にとっては暇つぶしの遊びだ。
特に難しいとは感じないけど、おばーちゃんから教わったばかりの頃はよく失敗していたっけ。魔力を込めすぎて魔石が砕けたこともあった。
「魔力のコントロールが上手い訳だ。いいかい、ライム。調合釜の中で特定の魔石にだけ魔力を注ぐのはそう簡単にできる事じゃあない。その上、魔石が砕ける程の魔力を注いだって、何日分の魔力を注いだんだい」
確か遊びに使っていた魔石を変えるのが面倒で……五回ほど遊んだ後だったと思う。
朝と夜に魔力切れまで注いでいたから、と説明すると呆れたように溜め息を吐かれる。
「小さいころから魔力操作と魔力切れになるまで魔力を使わせてたのか。全く、オランジェは容赦がないね。まぁ、長い目で見れば無駄にはならないからいいのかもしれないが」
懐かしそうな優しくてどこか寂しそうな表情と柔らかい声。
センカさんは割とこういう顔をする。
じっとその様子を眺めていると彼女は徐に私に向き直って告げた。
「合格だよ、ライム・シトラール。【炸裂弾】は無事に完成しているから、後は好きに調合しな。明日は【氷石糖】の調合と―――……【ウパラエッグ】に使う物を加工してもらう。といっても、ウパラエッグの方はケイパーの弟子の指示を受けることになる」
「分かりました。えっと、炸裂弾は何個か作っておいた方が良いですか?」
「……いや、ストックしておくなら爆発粉がいいだろうね。合格祝いに【魔石粒】は全種類中瓶一つづつくれてやる。仲良く使いな。これは使い勝手がいいから魔力量が増えたら自分で作るようにするといい」
「はーい。あ、そうだ。今後『ストックしておいた方が良い材料』ってなにかありますか? 売れるのは回復薬だからそっちの材料はストックしてるし、基本的な素材――……調和薬なんかは一定数暇を見ては作って補充してるんですけど」
「そうさね……調合素材と呼ばれる分類のものは常に十程度保存しておくといい。急な依頼なんかが入った場合、時間のかかる調合素材を一から作る訳にはいかない。そうなると購入する羽目になるが、自分の納得できる品質のものが届くとは限らないからね」
なるほど、と頷いてメモを取る。
リアンやベルは調合中で二人ともかなり難しい顔をしていた。
「他には、そうだね……料理をするなら保存の利くものを多く作っておきな。買い物に行けない状況に陥ることもある……調合中は手を離せなかったりするしね。数時間ぶっ通しで調合はザラだ。生理的なことを後回しにしかねないのが辛いところさ」
「あー……トイレにも行けないですもんね」
「尿意を止めるものもあるし、簡易排泄ってのもあるが……まぁ、そうだね。そっちはベルと一緒に聞きに来な。便利な道具は使うべきだ。リアンは男だからそれほど難しくない」
宜しくお願いします、とベルの分も頭を下げる。
センカさんは変なものでも飲んだように口をへの字に歪ませた。
その後、リアンより先に調合を終わらせ【レデュラクリーム】を完成させたベルが加わったんだけど、正直有難い話がたくさん聞けて助かった。
女の子って大変なんだよ、ホント。
ベルが淹れたアールグレイを飲みながら(センカさんが「ベルは茶を淹れるのが上手い」と素直に褒めてた)私はベルの作ったレデュラクリームを作ることにした。
ベルは私の作った炸裂弾を。
「えーっと【レデュラクリーム】の材料は……」
実は、手帳にレシピが書かれていた。
けどより詳しく品質が高いアイテムが作れるのはセンカさんのレシピみたい。
センカさん曰く「手帳に書いてあるのは『オランジェ』のレシピだ。あの子は薬で、私は美容系の調合に力を入れていたから、クリームについては私のレシピが品質や効果が高い。専門分野ってのがあるからね」らしい。
確かにな、と納得して素材を準備していく。
【レデュラクリーム】
レデュラオイル+シアブロック+聖油
肌にとてもいいクリーム。独特の香り。レデュラの花から抽出したオイルを使用。
野草っぽい香りはするがクリームになると何故かハチミツの匂いに変わる。
オイルを変えると別の効果に変わる。
=効果=
皮膚修復(弱)、抗炎症(弱)、保湿、口角炎・口内炎の治癒
=作り方=
①シアブロックと聖油を弱火で混ぜ、一度液体になったら火を止める
②火を止めた直ぐにオイルを入れて魔力を加えながら練り上げる
③もったりと光沢のある乳白色のクリームになったら完成。
遮光できる容器に入れて保存する
※温度が高すぎる場所などにはおかない
一ヶ月~一ヶ月半で使い切ること。
センカさんのレシピと手順を確認してから、何気なく手帳を開く。
するとそこには別のクリームの名前も載っていた。
【マジョルカクリーム】
マジョルカオイル(花枝オイル使用)+シアブロック+聖油
美容に特化したクリーム。マジョルカの花枝から抽出したオイルを使用することで適度な優しい甘さと爽やかさを併せ持つ万人受けする香りに。他の香りと喧嘩せず、魅力を引き上げてくれる作用もある。
=効果=
皮膚補修(弱)、保湿、血行促進、美肌、肌の引き締め。
それを見た瞬間にポンっと思い浮かんだのはルージュさんだった。
首都に来たばかりの頃に利用した宿屋のお姉さんで、お母さんの知り合い。
時々買い物してる時に会うんだけど、いつも気にしてくれて……。
宿屋をしているから直接お店には来れないけどって、従業員の人に頼んでトリーシャ液を買ってくれたの。
(色々と細かい気配りを普段からしてるんだろうな。おかーさんの娘だからって理由だけじゃできないだろうし)
トリーシャ液を使った後は、気に入ってくれたみたいで長文の手紙で感想を送ってくれたんだよね。そのお礼と宣伝を兼ねて作ったクリームを送りたいと思った。
まずは【レデュラクリーム】を作って、要領を掴んだら【マジョルカクリーム】を作ることを決めて材料確認だけすることに。
「センカさん、あの……マジョルカオイルってありますか?」
「あるさ。【花】と【枝葉】【花枝】の三種類揃ってるがどれを使うんだい」
「えっと【花枝】のを……お世話になった人に渡したくて。おばーちゃんのルージェを愛用してたみたいなんですけど、今は手に入らないから仕方なく別のを使ってるって聞いたの思い出して。化粧品はまだ作れないけど、こういうクリームなら私でも作れるし」
「なるほどね。そういうことなら最初から【マジョルカクリーム】を作りな。どうせレシピは変わらないんだ。レデュラクリームならベルが作っているし、同じものを作るより違う物を作って比べた方がよほどいい。ベルは【炸裂弾】を作ったらこっちの【ローゼルオイル】で自分の使う物を作ってみな。その後は魔力回復薬を飲んで、ライムに合いそうなオイルを調香するんだね―――……美容系を極めるならまずはそこからだ」
「わかりましたわ。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「……改まって礼をする暇があったら手を動かしな。リアン坊は―――……そろそろだね。わからないことがあったら互いに聞きな。二人ともアイテムは良く出来ている」
フンッと鼻息荒く私たちの元から離れて行ったセンカさんの耳は赤かった。
顔を見合わせて小さく笑ってから、私たちは調合の準備。
「帰ったら【聖油】をいっぱい作らなきゃね」
「シアブロックも、よ。いくつあっても足りないでしょうね……このクリームを工房で取り扱ったら絶対に売れますわ。手だけではなくて全身に使えるのはいいですし」
「私は炸裂弾いっぱい作りたいな。威力は分かってないけど、切り札は多い方が良いよね」
会話をする余裕が肩の力を抜いてくれた。
それに、ちょっぴり自信にもつながったみたいでベルの表情は明るい。
ホッとしながら、私は材料を入れて温度を調整。
作り方は爆弾よりも簡単なので安心だ。
品質が高い素材ばかりなので反応も早く、あっという間にオイルを垂らして魔力を込める工程に。
グルグルといい香りのする釜の中を混ぜていると、リアンも調合を終えていた。
心底ほっとしたような、どこか誇らしいような嬉しそうな顔はちょっと幼く見える。
【薬の素】の作り方も後で聞こうと心に決め、私は調合釜に向き直る。
夕食はセンカさんと協力して作ったからあっという間に終わり、調合をいくつか終えた頃には魔力はすっからかん。
流石に疲れたので先に休ませて貰うことにした。
明日は【氷石糖】と【ウパラエッグ】の装飾調合、明後日には待ちに待った温泉が待っている。楽しい忙しさだなと、思いながら私は潜り込んだベッドの中で目を閉じた。
◆◆◇
side???
ライムが寝室に上がって、眠りについた頃。
様子を窺っていたラクサが小さく息を吐いて立ち上がる。
その手元にはカップ。
「ちゃんと眠ったみたいッスね」
「あの子、一度寝たら起きないからもう大丈夫よ」
テーブルを囲むように座っているのはラクサ、ベル、リアンだけではなかった。
サフルとセンカの他にケイパーとミルルク、ディルもいる。
全員の手元にはコップがあり、そこにはトロリとした乳白色の飲み物が入っている。
正体は、ライムの家にあった【酒粕】を使用した甘酒だ。
ライム曰く「おばーちゃん、冬は私に温めたミルの果汁を飲ませてくれたんだけど、おばーちゃんは【酒粕】で作った甘酒にミルの果汁を入れたものを飲んでた」らしい。
本来、清酒を作る過程で出来る酒粕を使って作られた甘酒は、酒気が強いようだ。
本当は清酒を飲んで欲しかったけど持ってきていないから、代わりとしてライムが提供した。
なんでも、半端に余っていた酒粕があったらしい。
清酒が飲めないことにはガッカリしたものの、これはこれで美味しいと全員が機嫌よくコップを傾ける。
「で。俺たちは何をしたらいい」
ディルが唐突に口を開く。
視線の先にいるのはケイパーだ。
名残惜しそうに空になったカップを眺めている。
「あー。今夜はまずデザインと研磨だ。錬金術師はこいつを調合してくれ。魔術師は仕上げた石に魔術を刻む仕事がある。ディルは魔術師として数えて良いんだな?」
「ああ。ライムの為に何かできるなら呼び方はどうでもいい」
潔い声にケイパーはそうかそうか、と頷いて一枚の紙をディルとミルルクに渡す。
それを見て二人が思いきり眉を寄せた。
「錬金術師の仕事だがな、全てS品質で作ってくれ。効果についても指定した効果を必ず付加すること。だから、ベルとリアン坊は気合入れて作ってくれ」
ディル達に渡したものとは異なる紙を指さしたケイパーはなんでもない事のように告げる。
それを見た二人は絶句し、センカは呆れたように息を吐いた。
「この子らにはちょいと荷が重いね」
「なら、手伝ってやってくれ。言っておくがその品質でないと使わん」
黙り込む年若い錬金術師をしっかり見据えたケイパーは『職人』だった。
それを見て、ベルとリアンはグッと顎を引き真剣な面持ちで頷く。
「俺が作るのはチェーンと留め金くらいだな。細かい装飾やなんかは全部ラクサに担当させる。一流の素材を使って装飾を作るなら早い方が良い……宝石加工は奥が深く終わりがない。どの職も同じだが―――……今回作るアイテムは『憑依不能』という効果をつけることを最大の目標にしてる。失敗すると石を見つける所からやり直しだ。適性を持つ石は早々見つからねぇ」
一度ここで言葉を切ったケイパーはニヤリと笑って三枚の紙をテーブルに広げた。
どれも、石の設計図だ。
「カットの方法だ。この三種類なら『憑依不能』の特殊効果をつけられる。一番難しい作業をするのはラクサだろう。少しでも間違うと効果がつかねぇからな」
「……おやっさん、軽率にプレッシャーかけんのやめてくンね?」
「お前ならできる。相談して来た時からずっとコレの練習してんだろうが」
「それは……まぁ。ライムに死なれると飯にも商売にも困るンで」
ガシガシと頭を掻きながら唇を尖らせるラクサに全員が一瞬黙り込む。
確かに、と頷きそうになったベルが小さく咳払いをした。
「リアンから話を聞いた時は血の気が引きましたわ。私、憑りつかれて生き残った人間を初めて見ましたもの。その後の体調不良もなさそうですし……あの子、本当にどうなってるのかしら」
「ライムは特別だ。アンデッド耐性が極端にないのは不安だし、魔法陣は俺が間違いなく書き上げる。魔力も俺一人で賄う」
「暴走するのも大概にしておけ、アホ弟子。魔法陣は書かせてやるが、今現在のお前さんの魔力は攻撃向きだと言っただろう。半端に小器用なせいで勘違いしておるようだがな、本質が防御や浄化には向いておらんのだ。召喚師や魔術師には向き不向きがある。ある程度経験を積んで魔力を整えることができれば向き不向きを気にせず、最大効力を最小魔力で使えるようになるがまだまだ先の話だと言っておろうが」
「うるせぇクソ爺。だから毎晩血反吐はきながら魔力の入れ替えしてんじゃねーか」
「その精神力と執着心だけは評価するがな、お前さん相当重い男だぞ」
自覚あるのか、と呆れた顔でミルルクがディルを見るがディルは何故か得意げだった。
ふんっと胸を張ってすっぱり言い切る。
「重かろうとライムは気にしない。俺には分かる」
「……私にもわかるわ、あの子何も考えてないもの」
「頭が痛くなってきた」
「ディルも相当ッスけど、よくよく考えりゃライムもッスよね。良く生きてたなぁって密かに思ってるんスよ。オレっち」
何とも言えない空気に満ちた室内で、センカは呆れ切った視線を向けた。
ライムがアンバランスな理由を正確に把握しているのは恐らくセンカだけだろう。
「―――……オランジェの方針だからねぇ。昔から妙に不器用で、間が抜けていた上に、思い込むと周りが見えなくなるのは健在だったようだ。ライム自身の性格もあるんだろうが、ある意味『箱入り娘』さ。伴侶になる男は大変だね」
ヒヒッと喉で笑って、錬金術で作り上げなくてはいけないアイテム名を節くれだった皺だらけの手で指さす。
その眼は鋭く『一流錬金術師』のそれだ。
「明日の早朝に素材を取りに行く。丁度いい時期だ。薬効が一番高い時間に揃えちまった方が良いね。こっちのは、心当たりがあるからカルンに連絡しておく。ライムのことはカルンも気に入っているようだから協力する筈だ」
センカの言葉にケイパーが頷く。
ミルルクがここにいても『修行』ができないからとディルと共にミルルク宅へ戻って行ったが、ケイパーとラクサは残っていた。
「これを見て欲しいんス。オレっちなりに『デザイン』をして、おやっさんから合格を貰ったデザイン案なんスけど……まず石の形を三種類から選んで、そこからデザインを固めてく感じッスね。それで―――――……」
ラクサの説明聞いてベルとリアンが頷き、時折質問を口にする。
ケイパーとセンカはその様子を見ながら懐かしそうに目を細めた。
思い出すのは懐かしい友と若かりし頃の大切な思い出たち。
―――……出会うべくして出会う。その出会いを活かすか殺すかは当人たち次第。
ここまで読んで下さって有難うございます。
本編の後にちょっとした視点のお話しを入れました。
愉しんで頂けると嬉しいのですが……。
誤字脱字、変換ミス、怪文章(よく前の文章を消し忘れます)がありましたら誤字報告などで報告してくださると嬉しいです。気づいたら即修正させていただきます!
また、ブックマーク、感想、評価などとても有難く、書くためのモチベーションにもつながっています。読んで下さって感謝……!少しでも、一時でも楽しんで頂けるよう頑張ります。
=素材・アイテム=
【聖油】
聖水(4)+ハチミツ(3)+シアブロック(2)+調和薬(1)
聖水により浄化された神聖な油。
無味無臭の油で、どんな状況下でも“固まらない”性質を持つ。
聖職者に人気。
【シアブロック】
油素材+調和薬+香料
材料を全て入れて溶かす。
全ての素材が混ざったら火を止めて、かき混ぜながら魔力を注ぐ。
白っぽくなったら容器に入れて固め、完成
【レデュラの花】
大きめの鮮やかなオレンジ色の花をつける。花弁の数が多く、花自体も大きい上にオイルの抽出効率が良いのでオイルになっても安価で販売される。栽培は比較的簡単。
昔から傷ついた皮膚や粘膜保護・補修の効果があり、創傷や炎症などにも効果的。
お茶にしたり、花弁をサラダに入れたりすることも。
ただし、妊娠初期の女性が多用するのは避けるよう気を付ける(香りだけ楽しむのは〇)
【レデュラオイル】
レデュラの花から抽出したオイル。
少ない花の量で多くのオイルが抽出できるため、比較的安価。
【マジョルカ】
マジョルカという細長い針状の葉をつける植物。
花は青紫で小指の爪程の大きさ。使用部位は花・枝(葉)。根は使わない。
気持ちをスッキリとさせる爽やかな香りで、香草としても有名。育てやすい。
花のみをオイルにすると穏やかな心地よい甘さのある花の香がする。
枝のみをオイルにすると爽やかでシャキッと目が覚めるようなスゥっとする香りに。
合わせて使用すると程よく、人に不快感を与えない神聖な香りに。
【レデュラクリーム】
レデュラオイル+シアブロック+聖油
肌にとてもいいクリーム。独特の香り。レデュラの花から抽出したオイルを使用。
野草っぽい香りはするがクリームになると何故かハチミツの匂いに変わる。
オイルを変えると別の効果に変わる。
=効果=
皮膚修復(弱)、抗炎症(弱)、保湿、口角炎・口内炎の治癒
=作り方=
①シアブロックと聖油を弱火で混ぜ、一度液体になったら火を止める
②火を止めた直ぐにオイルを入れて魔力を加えながら練り上げる
③もったりと光沢のある乳白色のクリームになったら完成。
遮光できる容器に入れて保存する
※温度が高すぎる場所などにはおかない
一ヶ月~一ヶ月半で使い切ること。
【マジョルカクリーム】
マジョルカオイル(花枝オイル使用)+シアブロック+聖油
美容に特化したクリーム。マジョルカの花枝から抽出したオイルを使用することで適度な優しい甘さと爽やかさを併せ持つ万人受けする香りに。他の香りと喧嘩せず、魅力を引き上げてくれる作用もある。
=効果=
皮膚補修(弱)、保湿、血行促進、美肌、肌の引き締め。
一気に、ふえた…