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192話 センカさんからの課題

 結構な速度で書き上がりました(笑

すごい……!秋、すごい!!



で、年がら年中眠いです。

 



 【ウパラエッグ】に魔力を注ぎ終えた私たちは、休む間もなく課題に挑んでいた。



 ベルが大量の疑問符を浮かべながら釜の中を混ぜているのが少し面白い。

近くにあるテーブルに向き合っているリアンはブツブツと何かを呟きながら手帳と天秤計りを睨みつけている。

 時々背後からラクサの「これは一体どこを磨けばいいんスかね」と途方に暮れたような声が聞こえてくるし、サフルがいる方からはひっきりなしにペンを走らせる音が。



(ベルは【レデュラクリーム】を作ってて、リアンは【薬の素】だもんね。サフルは文字の練習を兼ねてカルンさんから渡された指南書の写本、ラクサは【ウパラエッグ】の磨き作業)



 忙しそうだなぁ、と思いながら私も手渡されたレシピを確認する。

そこには知りたいとお願いした念願の爆弾レシピが書いてあるんだけど、凄い難易度であることが一目瞭然だ。

 材料をそろえる段階で気が遠くなる。




【爆弾魔の恋人】

 高魔力の砂+魔石核(青)+固い殻+油紙+魔法糸

高出力・高威力・広範囲の爆弾。

一点集中型で激しいのも良し。広範囲で派手にぶちかますも良し。

爆弾魔が頬ずりするほどの威力。

 危ないので人のいる場所や人の暮らす場所、脆い遺跡では絶対に使用しない事。

綺麗さっぱりなくなっちゃうゾ☆

※投下する際は自分や大切な人に被害が及ばない様に防御を固め、遠距離投下できる武器等を使用すること。守らないと(物理的に)飛んじゃうゾ☆


【高魔力の砂】

 魔石粉+強化火薬(火の粉薬+火薬+油)

魔石粉に本来込められない量の魔力を無理やり閉じ込められた砂。

使う魔石の粉によって特定の素材を組み合わせると強力なアイテムになり、中~高難易度の調合によく使用される。


【魔石核】

 魔石+融和薬+液体粘土

①液体粘土に速乾の特性を持たせる為に品質をSにする。

②魔石は品質A以上推奨

③融和薬と魔石を調合釜で調合し浮き上がる直前で液体粘土を釜全体に流し込む

 ※液体粘土は魔石の形を留めるに必要。使用しないと消えるので注意


【融和薬】

調和薬(5)+分解液(1.5)+浸水液(2)+薬効油(1.5)

上記の割合でブレンドし正しい順番で投下。

 魔力を均一に注ぎながら一定の速度で混ぜ、泡立たせない・液体の流れを変えない・魔力を途絶えさせないことで完成。

魔石をあらゆる素材に調和・分解・浸食させる効果を付加する。

液体にも個体にも気体にも変化する。




(色々物騒な癖に説明が軽いってリアンが頭抱えてたっけ。ベルは興味持ってたけど)



 流石にこれは作れない、と正直に自白するとセンカさんがもう一つの爆弾を教えてくれた。

次に教えてもらったアイテムは辛うじて作れそうだ。

 っていっても、殆どの素材をセンカさん用意してくれたんだよね。



【炸裂弾】

 固い殻(なんでも可)+火の粉薬+鉄の雨(小さな鉄の玉・砂等)+爆発粉+赤の魔石粉

魔力を込めて投げ、相手や何かにぶつかることで破裂し、中に入れたものが周囲に飛び散る。

充分に距離をとること。中に入れる物によっては被害は甚大。

過去に爆弾の中に生の果物を入れて、使用するのを忘れ、数年後使用した際に腐った果汁塗れになった人がいるので生ものは避ける事。

 威力を弱めるとチョットしたお祝い道具にもなるとかならないとか。



【爆発粉】

 バクダンキノコ+小麦粉+魔石粉(赤)+調和薬+油+吸水石

 バクダンキノコと小麦粉を調合釜に投下。

ムラなく均一になるように混ぜ合わせたら魔石粉を入れて、混ぜ合わせ、調和薬と油を入れて魔力を加えながら混ぜる。

 均一に混ざり、液体になったら吸水石を加えて水分を全て吸い取り、浮いてきたものを掬い、乾燥させたら完成。



 乾燥させるのは【乾燥袋】を使うことにした。

勿論センカさんにも確認済みなんだけど問題なさそう、って言ってくれたしね。

 どれもサイズが大きいし、粉にするつもりだったから粉になっても外に漏れないように目の細かい袋に入れて【乾燥袋】を使用することに。



「これ、均一になるように混ぜる、まではっ、いい、けどッ……む、りぃっ!」



 もったりと重たい調合中の素材たちは魔力を加えれば加える程量が増えて、ねっとりどっしりと重くなる。


 しかもこの【爆発粉】は材料を全て入れて魔力を注ぐと数倍に膨れ上がるようだ。

一回分で作るなら「ちょっと大変」で済むだろうけど、最大調合量で作ってるから全身を使って必死に混ぜなきゃいけなかった。


 魔力も結構な量を使う。

フラフラになりながら何とか膨張が終わり、液体になった所で吸水石を入れて魔力を注ぐ。

浮いてきたのは濃い灰色の水を含んだ砂のようなもの。


 震える手でお玉を持って何とか袋に移し替えて、乾燥袋へ。

しっかり乾燥袋の口を縛った所で私はその場に寝転んだ。



「もー……無理。腕が動かない」



 天井を見上げたままプルプル震える腕の疲れが癒えるのを待っているとベルも床に寝転んだ。



「くっ、ライム……あなた、よく体力を削って調合出来たわね……これ、かなりきついわよ?」



 ぜーぜーと息を切らすベルは汗を額に浮かべていたけれど、拭う気力もないらしい。

ベルは、調合する時に魔力回復薬を使わないようにと言われていた筈だ。

 何でも回復薬を飲む時に、必ず混ぜ方やかき混ぜる速度が変化するからだそう。

繊細な調合の場合は品質が落ちることが多いんだって。



「倒れなかったんだもん、凄いよ……わたしなんかもう、意地と根性だけで立ってたし」


「貴女は魔力も体力も使い果たしてたから仕方ないわよ。私は体力はまだ半分くらい残ってるのにこのザマよ。疲労が……運動で疲れた時の二倍ってどうなってるの」



 二人で暫くぼーっと天井を見ていると、リアンの大きな溜め息が聞こえて来た。

天秤ばかりの脇には0.1グラム単位で計測された素材が瓶に詰められて並んでいる。



「リアンは、何でそんなに疲れてるの」


「疲れもする。僕の課題はレシピの構築だぞ? 最初から簡単にできる基礎レシピではなく、上級レシピだ。効果も品質もSになる代わりに難易度が上がるんだが―――……上級レシピの解読と素材量の計算は自力。しかも答え合わせなしのまま、調合。……疲れもする」



 はぁあ、と深い息を吐くリアンを床に寝ころんだまま眺める。

薬の調合に力を入れたいといっていたリアンにとっては避けては通れない道、ではあるんだろうけど………たぶん、かなり早い。

 本当なら三年生とかでやるんじゃない? と思った私はきっと間違っていない筈だ。



「上級レシピの解読には時間がかかる簡易レシピの素材やそれらがもたらす効果、魔力を加えた際の変化などを把握し、いくつかある計算式に……」


「やめて。考えただけで頭が痛くなるわ」


「ベルに賛成。聞かなきゃよかった……」


「僕も改めて口にしたことで、色々と実感中だ」



 三人同時にため息を吐いたせいで何とも言えない空気になった。

有難いことだとは思ってるけど……センカさんの指導はかなりキツい。


 大事なのはわかってるし、今後必要になるのも理解してるんだけど、ポンっと無茶だと思えるようなことを提示する。



「魔力を大量に消費してから調合するより、調合してから魔力を大量に使う方が調合失敗の可能性は下がる筈なんだけど、センカさん曰く『訓練』らしいし……仕方ないよ」



 私達じゃ到底思いつかない方法だ、と苦笑すればベルやリアンも小さく笑う。

失敗をしないように、と考えるのは一般的な思考だ。

 失敗すると材料も時間も魔力も無駄になるから。



「そうね。私たちがそう聞いたら『難易度の高い依頼が続いて、魔力を使い果たした直後に断れない依頼が舞い込んだらどうする』って言われた時は驚いたわ」



 考えてもみなかったもの、と呟くベルにリアンも頷いた。



「考えてもいなかったからな。僕らはどういう形であれ、将来一人で複数の調合をしなくてはいけない。苦手だの疲れるから嫌だのと断れる依頼ばかりならいいが、そうはいかないのは分かっていた筈なのに」


「だよねぇ。私もさ、貴族の依頼は絶対に受けないって思ってたけど……ベルやクローブみたいな貴族もいるってわかったし考え直すつもり。嫌いな相手からは絶対依頼は受けないけど。それに、緊急事態に必要なのって大概高難易度の薬やら解毒薬やらでしょ? 作り置きしておくにしても運悪く切らして助けられなかったってなったら後悔しそうだし……もっと頑張らなきゃ」


「魔力とお金はあっても困らないと言うのも、あながち嘘じゃないわね」



 ベルの声を聴きながら立ち上がる。

疲れは少し残っているけど落ち着いてきたから魔力回復ポーションを飲んで魔力を回復させ、気合を入れて道具を準備する。


 これからするのは爆弾の調合だ。

戦闘だって、支援やアイテムによる回復を頑張っていくと決めた。



「私が上手く爆弾投げられるようになれば、隙を作れるでしょ? そうすれば、回復する時間も稼げる……だろうなぁって思うんだけど、問題は使う相手とタイミングだよね」


「お。ライムもそういうの気にするんスね」


「気にするよ? え、気にしないと思ったの? だって、ちゃんと威力とかタイミングとか相手を見ないと素材全部吹っ飛んじゃうかもしれないし、品質どころか採取どころじゃなくなる可能性が凄く出てくるじゃんっ」


「あ、ハイ、納得ッス。ブレないっスねぇ」


「ライムはライムだな」


「そうね。多分この子は一生そのままよ」


「……サフル、これ私褒められてるって考えた方が良いかな?」


「………私はライム様がいて下さればそれで」


 にこっと微笑んだサフルはそれ以上何も言わなかった。

何とも言えない気持ちになりつつ、私は重たい体を引きずって乾燥袋の口を開けた。

まだかな、と思って開いてみたんだけど想像以上に乾燥袋は優秀だったらしい。



「やった。出来てるっ! リアン、今時間ある? あのね、これ鑑定して欲しいんだけどっ」



 これこれ、と乾燥袋ごとリアンのいる机に向かう。

私達は調合する前にレシピを最初から最後まで確認するんだけど、リアンはその確認作業を三回くらい繰り返すのを知ってるから声をかけたのだ。


 ベルは一度読んで、そのまま調合。

私も一度目を通して大丈夫そうなら調合するけど、不安な場所があればそこだけ読み返す。



(調合する前の行動をみても性格って出るよね)



 リアンは自分で組み立てたレシピから顔を上げて私と手に握っている乾燥袋を見て呆れた顔をしている。



「構わないが、測定器を使ってもいいと言われているんだぞ? 使った方がいいだろう」


「う。忙しいならそっち使うけど、リアンに聞いた方が分かりやすいんだもん。無意味に安心感があるっていうのかな」


「無意味な安心感……それは褒められていると認識すべきなのか悩ましいんだが」


「えー。褒めてるとかじゃなくて素直な感想なんだけど」


「全く君は……まあいい。しっかり聞いておけ」



 はい、と返事をするとリアンは新しいメモ帳に何かを書き始める。

紙の上を滑っていくペンは神経質そうな綺麗な字を残して次々に増えていく。



「アイテム名は【爆発粉】品質A+ 効果は威力増強・火属性・燃えやすい、といったところか。乾燥袋を使ったことで、短時間で乾燥が出来た結果、品質が上がったんだろう。乾燥袋は自然乾燥より水分を飛ばしやすい……ただ、量が凄いな」


「センカさんが爆弾の素材になる爆発粉は多く作って保存瓶に入れておけば便利だって言ってたし、何より最大調合量で作れって言われてたから作ったけど、調合はキツイ。腕というか全身でかき混ぜなきゃいけないし魔力注ぐのがしんどい。魔力切れにはならなかったけどある程度の魔力がないと厳しいよ。あと体力と腕力」



 アルミス軟膏よりキツイ、と言えば酷く嫌そうな顔で眼鏡の位置を直した。

他には、と聞かれたのでコツなどを話す。

リアンはそれを聞きながらサラサラとメモ帳にまとめていく。



「どう?」


「共通レシピとしては十分な情報量だな。僕が作る【薬の素】は失敗しても考察などを書き込んでおくから、コチラも参考程度にはなるだろう」



 頷いて、メモ紙に品質と効果、アイテム名を書いて瓶に括り付けておく。



(作る炸裂弾は一つだから集中して……気を付けて作れば大丈夫なはず。ベルに教えてもらってるうちに爆弾作る時の見極めのコツみたいなのも分かって来たし)



 なんでもそうだけど、魔力を切るタイミングの見極めが肝心なのだ。

私の場合は『ここだ!』っていうのがパッと浮かぶんだけど、人によって感じ取り方は違うみたい。

 リアンにお礼を言って作業台へ戻り、材料と手順を確認してみる。



【炸裂弾】

 固い殻(なんでも可)+火の粉薬+鉄の雨(小さな鉄の玉・砂等)+爆発粉+赤の魔石粉

魔力を込めて投げ、相手や何かにぶつかることで破裂し、中に入れたものが周囲に飛び散る。

十分に距離をとること。中に入れる物によっては被害が甚大に。

過去に爆弾の中に生の果物を入れて、使用するのを忘れ、数年後使用した際に腐った果汁塗れになった人がいるので生ものは避ける事。

 威力を弱めるとチョットしたお祝い道具にもなるとかならないとか。

〈下準備〉

 ①固い殻に詰められる重さを計る(砂などを詰めて確認しておく)

 ②鉄の雨は詰める爆薬(爆発粉+赤の魔石粉で作ったもの)の10~30%に調整しておく


 =調合=

1.固い殻と火の粉薬を調合釜に入れて火の粉薬を吸着し、浮き上がるまで魔力を込める

2.入れ物が出来上がったら、中身の調合。爆発粉と赤の魔石粉を混ぜながら魔力を込め、色が黒く光沢を放ち全て浮き上がるまで強火で混ぜ続ける

 ※加熱が未熟な状態であったり焦げている場合は品質と爆発力が低くなる。

3.浮かんだ爆薬の粗熱を取って冷ましたら、鉄の雨を混ぜ込み固い殻へ隙間なく敷き詰める

4.敷き詰めたら紐で固定し(分量外)調合釜へ入れて、魔力を表層にのみ注ぐ。火の粉薬が溶けて一体化する。

 ※紐で巻いた後、沈んだまま浮き上がらない事が多いのでしっかりと状態を確認しながら魔力を注ぐこと。混ぜる必要はないので、可能ならば直接調合釜に手を入れて爆弾を持ちながら魔力を注ぐと分かりやすい

 ※火力は必要ないため素手で爆弾に触れるのが望ましい


 これは、失敗=大怪我っていう分かりやすい調合例だ。

魔力を直接注ぐっていう過程がある調合はいくつかあるけど、まさか爆弾で、と初めて作り方を見た時に驚いた。

 センカさんはよくあることだと言っていたけどあんまりないと思う。



「じゃ、始めようかな……! とりあえず、手が汚れるみたいだから手袋用意して……と」



 紐は何かに使えるかなと思って買っておいた細い縄があったのでそれを使うことにする。

作業台に乗った素材や必要な量を確認してから私は調合釜に最初の素材を投入した。


 固い殻と火の粉薬はぷかぷか浮いていたんだけど、魔力を注いでみる。

ゆっくりと調合釜の底に向けて沈んでいく殻と粉。


 ちなみに、この固い殻……硬くて丈夫なら何でもいいらしい。

なので私が使っているのはミルの実の殻だ。

薄くて軽い上に頑丈なので爆弾にはバッチリだ。

 ちょっと大きいから片手では投げにくいけどさ。



「わ。魔力を注ぐと殻に吸収されるのか。てっきり粉の方に作用するんだと……、意外と魔力と相性いいのかな?」



 うーん、と首を傾げつつクルクル液体を混ぜる。

細かな赤い粉末がピタッと殻に吸い込まれていくみたいで面白い。

殻に付着した粉はジワリと水に溶けるように色が広がって、茶色の殻を少しずつ赤くしていくものだから、ついつい観察しているとあっという間に粉がなくなり真っ赤に染まった殻がプカリと浮き上がる。



「よし。これで器は完成……次は中身だね」



 完成したばかりの爆発粉と赤の魔石粉を入れて火力を強火に。

意外と減っていた魔力を回復してから、大きなヘラを使って満遍なく焦げ付かないように混ぜる。こういう作業は料理とあまり変わらないので難しくはない。



(注意しなくちゃいけないのは素材が食材じゃないってとこだよね。反応が突然起こったり、わからないくらいゆっくり進行してて気づいた時にはタイミングがずれてたってこともあるもん)


 調合をしていて目を離せない最大の理由がそれだ。

何度か作った事のあるアイテムでも、入れる素材によっては反応速度が変わることもある。

パチッと時折薪が爆ぜる様な音やジジジ…ッという低い音が聞こえてくる釜の中。


 しっかり調合釜を覗き込みながら混ぜ続けていくと混ぜ合わさった粉末が赤く発光して、そのうち白い煙が上がり始める。


(え、これ大丈夫かな?)


 一瞬ヒヤッとしたけれど、赤から徐々に黒くなっていく粉末。

魔力を注げば注ぐだけ鈍く光る黒い粉末に近づいてきた。


(ちょっと金属っぽい光沢になるんだね。サラサラだからか抵抗はないし、楽は楽だけど見極めが難しいかも)


 火加減は強火で統一されているから火力調整をしなくていいのは有難い。

火力が強い上に釜の中から立ち上る熱で暑さはあるけれど、じんわり汗が滲む程度だ。

魔力も結構注いでいるけど想像よりは使っていない。


 混ぜ続け、調合釜に広がる粉末から赤みが完全に消えた。

それと入れ違いになるように金属みを帯びた鈍い光沢を帯びてきたと思ったら一気に底にあったものが浮き上がってきたので慌てて魔力を切った。


 浮かび上がったものを掬い取ると少し離れているのにもかかわらず、熱を感じられる。

冷却用の金属板にそれらを散らして粗熱を冷ましている間に気付く。



「……コレ、重さが結構ある?」



 ずっしりとまではいわないけれど、最初の粉の状態より微かに重たい気がする。

少なくとも自然な風で飛ばない程度には。



(爆弾を作る時に必要な量だけでいいから、余った分は湿気らないように保存して……リアンに鑑定してもらおうかな。測定器でもいいけど)



 実を言うと私はイマイチ、測定器を信用していない。

最初に使った時に効果が全部出なかったって言うのが一番イヤだった。

 リアンがかけている眼鏡は『詳細鑑定』だから、一般的な鑑定や測定機よりも優れているっていうのは知識として……というより経験として知ってる。



(まぁ、リアンも魔力を使うみたいだから気軽に頼むのもどうかなぁって……こうやって魔力をたくさん使う調合をしてると思うけど)



 金属の性質があるのか冷めるのが早いのは嬉しい誤算だった。

天秤ばかりで正確にグラムを計って、残りを密閉容器に入れておく。

使用量はざっと三分の一。残りを使えばあと二つ作れる。



「次は鉄の雨だけど……これ、なんだろ」



 用意してくれたのは、キラキラした粒。

鉄でも金属でもないのは一目瞭然で、魔石かと思ったけれどどうやらそれも違う。


 はて、と首をかしげているとセンカさんがどこからか現れた。

外に行く時に羽織っていた服を壁にかけていたので、素材を持って近づいた。

キラキラと赤紫色に輝く光の粒は中瓶の中で光を乱反射して輝いている。



「センカさん、あの、これっていったい何ですか?」



 センカさんの小さく少しだけ曲がった背中に声をかけると面倒そうな表情でクルリと振り返る。私の顔を見て、小瓶へ視線を落とした。

んだけど、そのまま素知らぬ顔で背中を向けて、台所へ。

慌ててその背中を追いかける。



「リアン坊に鑑定してもらわなかったのかい」


「センカさんが準備してくれたものだから大丈夫かなぁと思って……測定器を使うことも考えたんですけど、素材名とかが分かって効果が分かっても『どういう風に作られた』のか『採取したものなのか』は分からないんじゃないかなぁって。測定器にかけたらわかりますか?」


「なるほどね。ライム、すこし測定器にかける癖を付けた方が良い。リアン坊と恋人だの結婚してるというなら必要ないかもしれないが、いずれ一人で工房を持つつもりならなおさらだ」



 確かにおばーちゃんの工房に戻ったらリアンもベルもいない。

頼り過ぎるのも良くないと改めて気付いて、頷く。



「さて……その素材だが、爆弾専用の【魔石粒ませきりゅう】さ。魔石粉を主原料にして作ったんだ。魔石の数だけ属性があって、その色の性質を帯びる。赤なら炎、青なら水。緑は風、黄色は雷、紫は毒といった具合だね。黒は呪いで白は浄化さ……もうあまり使わないから在庫処分するつもりで使っていい。丁度一回分だ。ただし、使う相手は付加した属性を弱点とするモンスターにしておきな。そうすれば効率よく倒せる」



 はい、と頷いた所で手の中の新しい素材を見る。



(こんなに綺麗なのに攻撃用の素材なんだ)


 と妙な感覚を覚える。

お礼を言って作業台に戻る時、センカさんが私を呼び止める。



「ライム。爆弾を作るのは怖いと思わなくなったら気を付けるんだね。使い方を、売る相手を間違えないようにしないと悔やんでも悔やみきれない事態になる」


「……はい」



 センカさんの真剣な目はおばーちゃんが『売る相手』を見極めろと言った時と同じだった。

脳裏によぎるのは、エルが腕を失いそうになった時のこととその後のアレコレ。

強いアイテムは誰かを助けるけれど、追い詰めることもあるし想定外の展開になることもある。

 ギュッと瓶を握った私を見てセンカさんは小さく息を吐いた。



「錬金術は金になる。力も生み出す。魔術も、他の職業も皆そういった一面を持ってるもんさ―――……だから、大事な友達が悪さしそうになったら止めな。溺れる質を持ってるもんが、お前さんの周りには集まるようだからの」



 どういうこと? と戸惑う私を見ていないのか、センカさんは真っすぐにリアンを見ていた。

リアンは調合釜の前に立って調合を始めている。



「女は強い。力がなくとも、揺らごうとも。男のことはよくわからんが『強く』なるには、過程があるらしい。リアンは『まだ』だと言っておったが―――……ふん、どのみち今を精一杯学んで、視て、知って、自分でしっかり『決める』ことだね」



 話は終わりだ、と蟲を払うように私を厄介そうに追いやったセンカさんにお礼を言いながら調合釜の前に戻る。



(うーん……よく、わかんないけど測定器のことは習慣づけた方が良いよね)



 調合が終わったらまずは測定してみるつもりだ。

よし、とまだ私が作れない【魔石粒】の瓶を眺めて、ジワリと脳裏に浮かんだ気持ちに気付かない振りをした。



 ここまで読んで下さって有難うございます。

珍しく筆がのりまして(時間というか休みがあった)日曜までに更新できました。

調合が半端なので次回も似たような感じになります。


 ブックマークや評価して下さった方が増えてきて、感想なんかも沢山いただけてやる気がみなぎっているのかもしれません! 質問や疑問があればお気軽に、そして誤字脱字があれば誤字報告などで教えて下さると嬉しいです。

 調合回、皆さん飽きてないといいけど……(汗

ここまで読んで下さって有難うございます。次回もお付き合いいただけると嬉しいです。


=新アイテム=

【爆弾魔の恋人】

 高魔力の砂+魔石核(青)+固い殻+油紙+魔法糸

高出力・高威力・広範囲の爆弾。

一点集中型で激しいのも良し。広範囲で派手にぶちかますも良し。

爆弾魔が頬ずりするほどの威力。

 危ないので人のいる場所や人のクラス場所、脆い遺跡では絶対に使用しない事。

綺麗さっぱりなくなっちゃうゾ☆

※投下する際は自分や大切な人に被害が及ばない様に防御を固め、遠距離投下できる武器等を使用すること。守らないと(物理的に)飛んじゃうゾ☆


【高魔力の砂】

 魔石粉+強化火薬(火の粉薬+火薬+油)

魔石粉に本来込められない量の魔力を無理やり閉じ込められた砂。

使う魔石の粉によって特定の素材を組み合わせると強力なアイテムになり、中~高難易度の調合によく使用される。


【魔石核】

 魔石+融和薬+液体粘土

①液体粘土に速乾の特性を持たせる為に品質をSにする。

②魔石は品質A以上推奨

③融和薬と魔石を調合釜で調合し浮き上がる直前で液体粘土を釜全体に流し込む

 ※液体粘土は魔石の形を留めるに必要。使用しないと消えるので注意


【融和薬】

調和薬(5)+分解液(1.5)+浸水液(2)+薬効油(1.5)

上記の割合でブレンドし正しい順番で投下。

 魔力を均一に注ぎながら一定の速度で混ぜ、泡立たせない・液体の流れを変えない・魔力を途絶えさせないことで完成。

魔石をあらゆる素材に調和・分解・浸食させる効果を付加する。

液体にも個体にも気体にも変化する。


【炸裂弾】

 固い殻(なんでも可)+火の粉薬+鉄の雨(小さな鉄の玉・砂等)+爆発粉+赤の魔石粉

魔力を込めて投げ、相手や何かにぶつかることで破裂し、中に入れたものが周囲に飛び散る。

充分に距離をとること。中に入れる物によっては被害は甚大。

過去に爆弾の中に生の果物を入れて、使用するのを忘れ、数年後使用した際に腐った果汁塗れになった人がいるので生ものは避ける事。

 威力を弱めるとチョットしたお祝い道具にもなるとかならないとか。



【爆発粉】

 バクダンキノコ+小麦粉+魔石粉(赤)+調和薬+油+吸水石

 バクダンキノコと小麦粉を調合釜に投下。

 ムラなく均一になるように混ぜ合わせたら魔石粉を入れて、混ぜ合わせ、調和薬と油を入れて魔力を加えながら混ぜる。

 均一に混ざり液体になったら吸水石を咥えて水分を全て吸い取り、浮いてきたものを掬い、乾燥させたら完成。


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