17話 お手伝い=採取です
久々の更新です。
次は入学式と新キャラ祭り。まつり?
教会から帰った私は久しぶりの肉体労働で心地いい疲労感を味わいながら就寝した。
翌朝、自然と太陽が昇る頃に目が覚めたので準備をして宿を出る。
朝独特の清々しさと人通りの少なさに鼻歌を歌いながら、教会へ向かった。
今日の持ち物はルージュさんから大きめのスコップを借りたのでそれをポーチに収納して持っていく。
「おばーちゃん特製ポーチって便利だよね。ある程度大きくても収納できるし」
流石にタンスとかは入らないけど、スコップや武器なんかは楽々入るので今後も重宝しそうだ。
昨日通った道を駆け足で進んでいけば、三十分程で教会についた。
教会の扉はまだ閉ざされているものの人の気配はするのでシスター達はみんな起きているらしい。
挨拶は後回しにして早速裏庭へ行くと、昨日退治したのにも関わらず野良ネズミリスが四匹とプルプルしたゲル状のモンスターが一匹。
「ここにもいるんだ、スライム」
ちょっと感心しつつも物音に敏感な野良ネズミリスから退治を済ますことにした。
まぁ、退治って言っても武器に魔力込めて振り下ろすだけなんだけどね!
えい、やぁ!と一撃で野良ネズミリスを退治した私は、ゆっくり地面を這うように草をとかして食べているスライムに近づく。
スライムの動きはあまり早くないものの、体当たりをして倒れた獲物に覆いかぶさり、ゆっくりと溶かしていくある意味一番イヤラシイ攻撃をしてくるので注意が必要なのだ。
(まぁ、家の庭にしょっちゅう出てきておばーちゃんの実験材料やら素材にされてたけど)
注意さえしておけば、スライムは子供でも倒せる。
音にはあまり反応しないと分かってはいるものの、出来るだけ音を立てないように近づいて魔力を込めた武器を振り下ろした。
「うっわ、飛び散った!もうちょっと魔力少なくていいってことだよね」
飛び散ったゲル状の体は暫く残るけれど時間が経てば消える代物なので慌てて核を探す。
なんとか直径五センチくらいの核を見つけたのでポーチへ収納する。
スライムの核ってほんと万能なんだよね。
吸水性が抜群だから頻繁に使うし。
「あ。そうだ、忘れずに血抜きしとかないと」
倒した野良ネズミリス四匹の皮と内臓を剥いで、適当に掘った穴に埋めて処理。
肉は昨日と同じように木に吊るしておく。
「邪魔モノは排除したし、続いて昨日と同じ採取…じゃなくて、草刈りを開始だね」
武器を短剣に持ち替えてサクサク雑草と素材を刈り取っていく。
普通の雑草と調合できる素材の見分け方は慣れと言えば慣れなんだけど、数をこなせばすぐにわかるようになってくるものなのだ。
一般的に雑草ってただの草だし、何の特徴もないからわかりやすい。
無心で識別をしながら草刈りを二時間程続けて行くと結構な量が溜まってきたので一度素材たちを仕分けして、ポーチに収納してしまうことにした。
「品質が悪そうなのは雑草でいいか。数は結構あるし…これだけあれば調和薬もかなりの量練習できるはず」
むんっと両手の拳を握りしめて調合意欲を燃やしていると背後から名前を呼ばれた。
「ライム?おはようございます、随分早くに来てくださったんですね…!まぁ、もうこんなに!」
「おはよう、ミント。朝露があれば採取したいなーと思って早くに来ちゃった。どうせ宿にいてもすることないしね。教科書読むにしたってどーせ授業でやるだろうし」
「ふふ、ありがとうございます。でも、朝露…ですか。お水でしたら聖水でも構わないですか?沢山あるので少しなら融通できますよ」
「せ、聖水くれるの?!あれ、一回分で銅貨三枚するのに?!」
嘘でしょ、と思わず手に持っていた薬草をその場に落としてしまうくらいには驚いた。
聖水はいろんな用途に使える万能水素材なんだけど、入手先がかなり限られるので殆ど使った記憶がない。
時々おばーちゃんを訪ねてくるシスターが聖水を持参して料金の代わりにと結構な量を置いていった。
定期的において行ってくれていたのでおばーちゃんは割と惜しみなく聖水を使っていたっけ。
「教会では聖水が沸く聖杯が必ずあるので、魔力さえきちんと注げば聖水がなくなることはないのです。といってもお渡しできるのは…中瓶三本分くらいなのですが」
「是非!すっごく欲しいっ!聖水って万能水素材なんだよ」
食付き気味の返事にミントは目を白黒させていたけれど、すぐに柔和な笑みを浮かべてほかのシスターに話しておきますと返答する。
「雑草の方はあと二時間あればキレイになると思う。で、その後畑耕しちゃおうと思うんだけど道具とかある?スコップはあるんだけど」
「鍬があったはずです。古いですけど、手入れはしているので使えると思います。でも、あの、本当にいいのですか…?」
「聖水も貰えるってなれば、このくらい全然余裕だよ。私結構体力はあるし、畑仕事は家でもやってたから慣れてるんだ。それから小石とか入れるのに古くてもいいから頑丈なバケツとか盥とかない?」
「それなら今持ってきますね。それから、昼食ですがどうしますか?落ち着いて食べるならこちらで食べるほうがいいと思います。食堂は少し騒がしいですし…よければ、私も一緒にこちらで食べたいのです。私、ずっと教会育ちなので外のことを知らないので」
不安と期待が織り交ぜられた視線を向けられたものの答えなんて決まっている。
「もっちろん、大歓迎!あ、そこにお肉あるから持って行って。血抜きは済んでるよ」
「ふふ、ありがとうございます。昨日頂いたお肉はとっても喜ばれたんですよ。滅多にお肉なんて食卓に上がらないので何かの記念日か、なんて聞かれたくらいです」
「まぁ、野菜の方が断然安いもんね。それにパンって買うと結構かかるし」
世知辛い話をしながら道具を取りに行くというミントについて、教会の裏口の近くにあった物置小屋から年季の入った鍬と薄汚れた桶を引っ張り出す。
そのまま裏庭に戻った所でミントは再びお勤めがあるとのことだったので、お昼まで草刈りを再開する。
草刈りって結構腰に来るんだけど、前後の差がわかりやすいから達成感があるんだよね。
聖水をどうやって調合で使うか考えながら無心で作業をして、予想よりも早く草刈りが終わってしまった。
昼食を持って再び裏庭に訪れたミントが山積みになった雑草と素材を見て目を丸くして本気で驚いているのを見て、達成感と心地よい疲労感を噛み締める。
◇◇◆
昼食は定番の黒パンと野菜のスープ、ゴロ芋の塩ゆでだった。
ミントは申し訳なさそうにしていたけれど、これが庶民には基本的な食事だって事くらい私でも知っている。
朝からオムレツやらお魚やらお肉やらを調理するおばーちゃんが大分例外だっただけで。
今思うとかなり豪勢な…下手すると貴族よりもいいものを食べていたような気もする。
「ごめんなさい、こんなものしか出せなくて…」
「こんなのって十分な昼食だよ。あ、このスープ美味しい。じっくり煮込んであるし、手間暇かかってるね」
「昨日お肉をもらったので、お肉も少しですけど入ってるんですよ。それでいつもより美味しいんです。子供たちもすごい勢いでおかわりしていました」
黒パンをスープに浸して丸かじりする私とは対照的に、ミントは手で一口サイズにちぎりながら上品に食べている。
私もマナーはある程度学んでるけど、お腹が空きすぎて我慢できなかった。
「そういえば、調味料だけど軒並み結構な値段するんだね。塩の値段もそうだけど砂糖の値段にはびっくりしたよ。村でも高かったけど、首都税みたいなのでもあるの?一人暮らしなんかすることになってたら確実に破産してるよ、私」
「海が遠いですし、岩塩の産地も結構距離があるので…お金が余りかけられないときはソルトリーフっていう塩味の強い木の葉を使うんです。教会でも育てているので塩はあまり買っていないんですよ」
このスープにも入ってます、と匙で掬って私に見せてくれた。
煮込まれてくったりとした白みがかった緑色の葉は私のカップにもまだあったのでそれだけ掬って食べてみる。
「煮ると味が溶け出すんだね。私の所じゃ見かけなかったなぁ」
「木自体は昔からあったようなんですが、食べられることが広まったのはほんの数年前なんです。それから一気に広まったんですよ。まぁ、広く使われるといっても貴族の方は知らないのでしょうけれど」
へぇ、と感心しながら昼食を食べ終えた私はソルトリーフからしょっぱい成分だけを取り出せるんじゃないだろうかと考えた。
まぁ、そのくらい誰だって考えつくだろうけどね。
「ご馳走様でしたっ!ふぅ、お腹いっぱいになったよ。お昼代が浮くだけでもかなり助かるから嬉しかったなぁ」
「あの、聞きにくいのですが…そんなに困っているんですか?」
「私が自給自足の生活していたのは話した? おばーちゃんも錬金術師だったんだけど、お金は入った分、出ていくって感じだったから手元に現金が残らなかったんだよね。代わりに、すごく便利なものとか入学に必要なものは揃ってたからかなり助かったんだけど…家を出たときの全財産が銀貨50枚、銅貨35枚なんだよね。今は…えーと買い物とかしたし残りは銀貨40枚と少しだね。入学してからどのくらい費用がかかるのかわからないし、入学料なんかはスカウト生だと取られないって言うから田舎から出てきたんだけどさ」
「それは…確かに少々厳しいですね。錬金術は兎に角お金がかかると聞きますし」
「実際、機材一つ買うのに金貨単位で飛んでくんだよ。素材は自分で取りに行くにしても護衛代とかかかるし、そういう経費と技術料を含めてアイテムの値段を決めるわけだから安くはないんだけど。まだ市場調査してないからどのくらいで売られてるのか気になるんだけど、まだ売り物になるアイテム調合できるわけじゃないからそっちは追々調べるつもりなんだよね」
「錬金術師の作ったアイテムが高いのは有名ですけど、手間暇やアイテムを作る経費などを考慮すれば妥当な値段だったんですね」
「ある程度はね。でも貴族販売ってこと考えると色々と理由つけて値段を釣り上げてるんじゃないかなぁ?」
ミントは私の面白いとは思えない錬金術と田舎暮らしの話を聞いて、楽しそうにしていた。
シスターの生活も聞いてみたけれど、毎日規則的で特に変わったことのない日々を送っているから面白くないですよ?と苦笑される。
それでも、ミントのことを聞きたかったので聞いてみたんだけど、彼女は漸く乳離れしたくらいで両親がなくなったようでそのまま教会に連れてこられたんだそうだ。
それからはずっとこの教会で生活しているんだという。
軽い身の上話をしていると、鐘が鳴った。
うっかり話し込んでいたらしく私たちは慌てて行動を開始する。
目に見える小石を取り除き、畑を耕したんだけどこれも思ったより早くに終わる。
小石が少なかったのと元々ある程度手入れされていたのが大きいのだろう。
「―――…うん、いい感じ。畝もついでに作って置いたしミントも手間が省けていいんじゃないかな。よぉし、報告して冒険者ギルドだ」
使った鍬や半分ほど集まった小石を持って教会の裏口辺りに置いて、教会の正面入口へ。
昨日と同じ場所にミントが立っていたので周りに待っている人がいないか確認してから近寄った。
「ミント、終わったよ!確認してもらえる?借りた鍬と小石の入った桶は裏口のところに置いてある。確認って昨日のシスター・カネットがしてくれるのかな」
「そういう話になっているから、私から報告してくるわ。裏庭で待っていてもらってもいいかしら? この時間帯は教会に来る人も殆どいないからすぐに向かえると思うの」
申し訳なさそうなミントに気にしないで、と伝えて裏庭に戻るとそれほど時間をおかずにシスター・カネットが裏口から現れた。
「まぁ…! 随分綺麗にしてくださったのですね。あんなに荒れていたのにきちんと畑になっているわ。明日、早速子供達と野菜の種を植えてみます。本当にありがとうございました…冒険者の方でもここまで綺麗にはしてくださらないと思います」
そういって深く腰を折ったシスター・カネットに慌てて頭を上げてもらって、一緒に教会の中へ。
裏口から入って、すぐの扉を開けたシスターはそこから報酬として銀貨2枚と聖水の中瓶5本を渡してくれた。
「少なくてごめんなさいね、あれだけして貰ったのに…その代わりに聖水は中瓶3本分までなら無償でいつでもお譲りします。聖水が欲しい場合はシスター・ミントに言いつけてください」
「銀貨2枚も…ありがとうございます。私としては素材も貰えたし、聖水も貰えたのでかなり得してるんですけどね。あ、そうそう、畑に巻くお水なんですけど聖水を与えてみるといいと思いますよ。薬草なんかは聖水の魔力を受けて品質があがるって聞いたことがあるんです。もし良質の薬草ができたら、冒険者ギルドとか学園に持ち込めば結構な値段がつくと思いますし」
有り難く報酬を受け取って私はミントに軽く挨拶をしたあと教会を後にした。
聖水やお金、そして採取した素材たちは例の如くポーチの中に。
ルージュさんの宿に帰る途中で冒険者ギルドによって、野良ネズミリス13匹分の討伐部位を提示。
個別依頼はなかったけど、常時依頼で処理をしてもらって銅貨5枚を受け取った。
思ったよりたくさんの臨時収入になったし、私としては良かったけど…明日はいよいよ入学式か。
貴族だらけの場所に行くって思うだけで気が重いや。
=補足=
【スライム】ゲル状のモンスター。
体に核があり、それは素材にもなる。また、体のゲル部分も調合に利用でき、加工すれば食品にもなる。体当たりに注意し、直接素手などで触れなければ子供でも倒せる。