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185話 女王蟻の最後

 注意!前回に続いて虫表現あります。


たぶん、ぐろ……いのかな?わからないけれども、生々しい感じの……すっぱり言うと解体描写アリです。お気をつけて下さいませ!



 音が、消えていく。



 魔力が回復し、前線に駆り出されたミルルクさんとディルの働きはすさまじかった。

今まできちんと理解していなかったけれど『魔術師』と『召喚師』を国が率先して召し抱えようとする理由がとてもよく分かる。


「すっご……い」


 口からはありきたりな表現の言葉しか出てこない。

カルンさんを除く全員が武器を持ったまま立ち尽くしている。

ベルはギラギラと目に闘争心を宿して、ラクサは呆れたように、リアンは難しい顔で。

ケイパーさんは面倒そうな顔をしつつもディルの動きを目で追って「なるほどな」と小さく呟いていた。



「あんなに沢山いたのに……もうほとんど動かなくなった」



 何も考えずに零れ落ちた声にケイパーさんが息を吐く。

のっそりと私の横に立ってニヤリと笑った。



「魔術師も召喚師も魔力さえありゃ、歩く兵器さ。どうだ、怖ぇだろ」



 顔は確かに笑っているのに目だけが真剣なケイパーさんに苦笑する。

少ししかこの人とは一緒にいないけど、ラクサが大人しく教えを乞うているだけのことはあると思った。



「ケイパーさんは、いいひとですね」


「……あ?」


「怖くはないですよ。だって、ディルはディルだし、ミルルクさんはミルルクさんで。ご飯食べなきゃ力が出なくてしょんぼりしちゃう、面白いお爺ちゃんと大切な私の家族みたいな友達だから」


 ケイパーさんは怖いって思ったことあるんですか?

と興味本位で聞くと彼は目を丸くして、そして困ったように笑った。



「あるさ。敵には回したくねぇと思ってる……ああ見えて、国を一つ潰そうと思えば潰せる力を持ってるんだ。特にミルルクの爺さんはな」


「へぇー……ディルも強いってわかってたけど、凄い人の所で勉強してるんですね。もっと色々便利な術とか使えるようになるってことですよね? ディルが自由な時間が取れる内にもっと色んな所に行っておかなきゃ勿体ないかも……?」



 ディルがいると、皆がとても助かるし賑やかだ。

私も落ち着くし安心する。

小さい頃にディルと冒険した時のことを思い出して少しだけ楽しくなった。



「嬢ちゃんは―――……いや、なんでもねぇ。なるほどなぁ。癖が強けりゃ強い程、嬢ちゃんと付き合うのが『楽』だと思う訳だ。居心地の良さじゃオランジェ様より上だな」



 そんなことを言いながら私の頭をポンポンと優しく叩くケイパーさんの視線は柔らかい。

何か特別なことを話したわけでもないのにな、と思いつつ有難く撫でられておく。

気持ちいいよね、人に撫でられるの。


 暫くすると、轟音も止んでミルルクさんやディルが口喧嘩を楽しそうにしながら戻ってきた。

賑やか過ぎたので二人に大きなウインナーを挟んだパンを押し付けると大人しくなる。



「……爺さん、すっかり胃袋掴まれてるじゃねぇか」


「熊のシチューは絶品だったからのぅ。いやぁ、あんなに美味い熊料理は初めて食うたわ」



 ふふん、と何故かミルルクさんの隣で胸を張って私を褒めているディルに苦笑しつつ、視線を周囲へ向ける。

生き物が焦げたような、焼ける様な嫌な臭いは雨でかなり抑えられていて意識しないと分からない程だ。

 雨も悪い事ばかりじゃないな、と思っていると今まで聞こえなかった種類の音が聞こえて来た。




  ズッ ズズッ パシャ 




 音は、何かを引きずる様な音だった。

それが聞こえた瞬間に、空気がピンっと張り詰め各自が武器を構えるのが目に入る。

慌てて私もポーチに手を入れたんだけど、ゆらゆらと遠くの方から明かりが見えてきた。


(どんどん近づいてくる)


 ごくり、と生唾を飲んだ瞬間に聞こえたのは聞き覚えのある声だった。

姿は見えないけれど聞き間違え様のない声に私はホッと肩の力を抜く。



「みなさーん! いいものを持って帰りましたよー」



 声と共にぬぅっと暗闇からカルンさんが姿を現した。


 朗らかな顔のカルンさんに頭を引きずられるような形で巨大なソレは、私たちの目の前に現れる。


 一見、巨大なミルミギノソスだった。


 でも、カルンさんに頭部をがっちりと小脇に抱えられたソレには羽があった。

胸部の背中側から灰色の羽根が生えていて、羽を広げるとかなりの大きさだろう。

体の色は黒で目だけが赤紫色をしている。


 ずるり、ずるりと泥と土を引きずるような音を立てて近づいてくるソレ。



「か、カルンさん……?」



 ミルミギノソスを指さす自分の手が小さく震えているのが見えた。

雨が降る暗い森の中をぼんやりと照らす携帯型の魔石ランプだけがゆらゆらと揺れている。

近づいてくるにしたがって淡い光に照らされるカルンさんの顔は、暗闇に浮かび上がった。

 その様は、まるで昔聞いた幽霊のよう。



「びじんだから、余計にこわい」



 思わず小声で呟いた声に反応したのは左右にいたベルとリアンだ。

小さく「そうね」「言うな。夢に見る」と同じく小声で感想が返ってくる。

アンデッドより怖いものを見つけたな、と考えていると彼は私達の前で歩みを止めた。



「コレで最後です。ギフトートバードやそれを狙っていた大型の鳥も確認できませんでしたから」



穏やかなカルンさんの声に私は何を言うべきか迷って、そっと口を開いた。



「あの、その大きなミルミギノソスって」


「この個体は《女王蟻》です。他の蟻と比べても大きいですし、なにより羽がありますからね。生きている状態で額の魔石を外すと少々変わった特性を宿すと聞いたことがあったので生け捕りにしてきました。足は全て捥いできたのですが、羽は何かに使えるかもしれないので持ち帰ろうと思います」



 もし興味がないならこのまま頭をぎ取りますが、と話す彼は日常会話をしている時と何ら変わらない表情と声のトーンだった。


 どうしますか、と聞かれて咄嗟に言葉が返せない。

すると数歩後ろにいたベルとリアンが私に囁く。



「ら、ライム? あの、ほら、無理しなくってもいいんじゃないかしら」


「そうだな。あの大きさの魔石は珍しい。特性がなくとも十分に価値はある」



 私の肩を掴むベルと腕を握るリアン、そして背後から慌てた声でラクサが



「うっかり噛まれたり蟻酸を吐かれると困るッス! ほら、万全を期して首を捥いでからでも遅くないっスよ」



 と言いながら駆け寄ってくるので振り返ると何故かディルも一緒に歩いてくる。

ディルは妙にニコニコしながら腰からナイフを取り出していた。



「俺が替わろう。生きたまま石をくりぬけばいいんだろう? 割と得意なんだ」



 任せておけ! と胸に手を当てるディル。

ベルとラクサが同時に「得意ってなんだ!?」と食って掛かっていたけれど、ディルは機嫌良さそうに近づいてくる。

 全員が顔を隠すように布で覆っているので表情は分からないけど想像は簡単だった。



「大丈夫、私にやらせて。女王蟻の蟻酸もとりたいし……噛まれないように口に石突っ込んでおけば時間稼げるでしょ?」



 足元に丁度良く落ちていた子供の頭程度の大きさの石を持ち上げる。

ずっしり重いけど持てない訳じゃないから止められないのを確認して女王蟻に向き直り、威嚇する様にカチカチと動く口の部分にグイッと押し込んだ。



「よし! うまくいった。昆虫や動物でも石をかみ砕くのって大変だろうし時間がかかるでしょ? だから、その間にパパッと魔石をとるね。抜いた後どうなるのかもちょっと気になるし」



 念の為、と古いぼろ布で石が外れないよう女王蟻の口を石ごとグルグル巻きにしておく。

 感心したようなカルンさんにもう少し頭を下げられるか聞くと笑顔で頷いてくれた。

大きな虫の目が私の前に差し出される。



(離れてみると女王蟻が私にお辞儀してるみたいに見えるんだろうな)



 そんなことを考えながら足元に転がるミルミギノソスの死骸の上に乗って作業しやすい高さに調整して魔石から5ミリくらいの所にナイフを突き立てる。

羽が激しく動いたのが分かったんだけど、カルンさんが羽の付け根から全て捥ぎ取ってしまったので問題なし。



「ライムさん、上手く取れそうですか?」


「はい。思ったより殻が薄いみたいなので、力加減を間違うと悲惨なことになりそうですけど、力加減さえわかっていれば問題ないですよ! あと、しっかり固定されているので剥ぎ取りやすいです」



 時間を掛けるのは鮮度が落ちそうだったのでサクサクと一周ナイフで縁取る様に切れ込みを入れる。


 体液が噴き出す可能性を考慮してぼろ布で魔石部分を包むようにそっと取り出してみた。

布は降る雨で直ぐ濡れてしまったけれど魔石のあった場所から体液が滲む。

取り出した後は布をそのままに女王蟻から離れる。



「では、邪魔な頭はとってしまいますね。蟻酸は腹部なので必要ないでしょうし」



 お願いします、と返事をすれば作物の収獲でもするように首を曲がらない方向に曲げて、切り離しポーンと遠くに投げたカルンさんは毟り取った羽を大きな収納袋を広げてその中に収納していた。

 雨をはじき返す薄灰色の羽根を眺めつつ腹部へ移動する。



(大きさは違うけど場所は一緒だよね。きっと)



 大きいので中身を掻きだすのは諦めて蟻酸のある辺りの殻を大きめに切り取ることにする。


 雨の中とは言え、雨自体は穏やかな降り方に変わっているので大きな問題はなさそうだ。

女王蟻を倒した後は動くものは私達だけになっていたので手分けして沢山の石や蟻酸を回収した。



「さて、次は……ライムさん。女王蟻に殺虫液をかけて下さい。腹に卵があるでしょうから腹部には念入りに」


「蟻ですもんね。普通の蟻ですら卵をしっかり処理しておかなきゃ増えて大変なことになるのに、こんな大きいのがウジャウジャ出てきたら嫌ですよね」



 思い出すのは庭によく巣を作っていた蟻。


 基本的には無害なんだけど、種類によっては害虫になるんだよね。

私達の都合で悪いなって思ってもやっぱりいられると困るので駆除していたっけ。



「キクイアリは殲滅しろって言われて失敗した毒薬とか流し込んでましたね。巣穴に」


「一度はやりますよね。わかります」



 うんうん、とミルミギノソスの死体の山を踏んだり避けたりしながら進む。

私は補給で動いていたとはいってもあまり疲れていなかったので、先頭を歩くカルンさんの数歩後ろを歩いている。


 雨の音が静かになってきたから会話もしやすい。



「虫退治も終わったし、あとは帰ってご飯食べて寝るだけですよね」


「ああ、その事なのですが……一つお願いしたいことがあります」



 申し訳なさそうな顔をするカルンさん曰く、今回の殺虫液は強い虫よけ効果があると教えてくれた。



「そのまま捨てるのは勿体ないので、集落の周りにある個人結界の外にも撒いて頂けないかと……集落の周りには定期的に撒いているのですが」


「錬金術で作ったものは高いですもんね」


「言えば作って下さるのですが、量があると対価が希少な素材になったりするので農作業の合間に調達するとなると中々」



 集落全体の益になる場合は破格で依頼を受けてくれるとのことだったが、あるものを無駄にするのは忍びないというカルンさんの言葉に全員が頷いた。



「あ。ちなみに今回ライムさん達が使って下さった錬金アイテムや食事の代金はミルルクさん持ちですよ。私の農園から無断で許可なく盗み食いした希少な果物のお金も問答無用で徴収しますので金策がんばってくださいね」



 雨の中でもカルンさんの声は良く響く。

ミルルクさんの顔色が悪くなったのがフード越しにも分かるけれど、私たちは無言でカルンさんの後に続いた。






◆◆◇






 集落の周りには、結界によって意図的に隠された場所が点在するそうだ。




 その中でもカルンさんが所有している『研究畑』と個人菜園の周りに薄めた殺虫液をぐるりとかける。

結界の外を歩きながら原液を撒く。


 集落の周りは雨が一年中降っているから原液でも問題ないらしい。

それ以外の場所では使う時に薄めるのが基本だとしっかり注意されたけどね。



「ライムさんは、随分と手慣れていますね。収獲もそうですがこういった作業もかなり色々知っていて驚きました」



 殺虫液がかからない様にということで私の一メートル先を歩くカルンさんが感心したような顔で振り返った。


 背後でケイパーさんやラクサがベルとリアンに何か話しかけているから中々賑やかだ。

ディルとミルルクさんは二人で賑やかに言い争いをしている。



「自給自足の生活をしていたので自然と。それにお金を稼ぐのには薬草とか保存の利くものを適切に採取して、傷まないように保存しなきゃいけなかったので」


「なるほど。生活の知恵のようなものなのですね」


「はい。おばーちゃんが死んじゃってからは一人で色々やらなきゃいけなかったので、上手くいかないことも結構ありました。種しか採れなくて、食べる分がないっていう状況も何年かありましたし……安定してきたのは、三年目くらいだったかな」



 初めてなった野菜は三つだけ。

全滅しなかっただけよかったと思いながら食べるに食べられなくて、美味しそうな色になるのを指を咥えて眺めた二年。

 三年目にはやっと標準量収獲できて、泣きながら収獲した野菜を食べたっけ。


 殺虫液はストックが一年目分しかなかったので二年目からは虫との戦いだった。

虫は苦手って訳でもなかったから、苦じゃなかったけど苦手な人だと心が折れていたかもしれない。



「あ。種ちょっと分けましょうか? おばーちゃんが作ってた野菜って少し珍しかったから」


「いいのですか?! 是非! あの、もしよければ種を全て預けて下さい。数を増やしてお返しいたしますし、作物が実ったら品質の良いモノを送らせていただきます。収獲の、そうですね……二割程を頂ければありがたいのですが、難しいようでしたら種を少し頂ければ」



パッと声のトーンが一段階上がったカルンさんが近づいてきそうになったので慌てて



「散布中ですよ!?」



と言えば彼は、そうでした、と何とか踏みとどまった。



「私としては有難いです。畑にかかりっきりになる訳にもいかないし……戻ったら覚えている育て方とか説明しますね。もう知ってるかもしれないですけど」



 そんな話をしながら一ヵ所目、二ヵ所と薬を撒いて三ヵ所目に行くことになったんだけど、事前の説明があった。


 場所は集落から少し離れた場所で、他の場所とは景色が少し違っている。

木よりも岩が沢山あった。

ゴロゴロと転がった岩とすぐ傍にある切り立った岩肌。

周囲には背丈の低い木々とコケと草が合わさったような植物が大地を覆っていた。



「ここ、随分変わってますね。温泉があるのは分かるんですけど」


「ずっと昔から温泉が湧いていたので、集落の人間が利用できるように整備をしました。中には休憩小屋があって泊まることもできますよ。食料は持ち込みですが」


「お前らを案内できるのは……この様子だと三日後くらいか?」


「―――……ミルミギノソスの発生を考慮するともう少しかかるかもしれんの」



カルンさん、ケイパーさん、ミルルクさんの三人の言葉に私たちは顔を見合わせる。


 てっきりこのまま温泉に入って帰るのかと思っていたから、残念さがどうしても顔に出てしまう。



「多少荒れていても気にしないですわよ?」


「荒れている、というか……『効果』を最大限に得るにはもう少し待ってもらってからの方がいいのです。ライムさん、此処の殺虫液ですがここからここまでは撒かないでください」



 はい、と頷いて散布を再開。

不満気なベルに苦笑しつつ滞在している間に必ず一度は案内すると約束をしてから離れた。



「俺の所も頼む。鉱石を食う虫が出るからな」



 カルンさんに続いてまだ殺虫液が余っていると知ったケイパーさんがそう口にした。


 私たちは森の中を移動し、真っ黒な岩ばかりの場所へ移動する。

殆ど木々や草は生えていないけれど虫は来るのだろう。

この辺に、とケイパーさんの指示を受けながら殺虫液を全て使い切った。



「やることをやったら、案内してやるさ。宝石の原石が割と多く出てくるし、錬金術には宝石を使った調合もあるんだろ? 旨い飯も食わせて貰ってるしな、宝石は綺麗なだけの物じゃない。希少で見目のいい宝石には『魔物』が群がる。貴族の嬢ちゃんや商家出身のリアン坊ならわかってるだろうがな」


「まもの……? 洞窟に出るんですか?」



思わずそう尋ねるとケイパーさんはガハガハと笑って私の頭を撫でた。

 やっぱり、小さな子供に父親がするような動作だ。



「嬢ちゃんはそのままでいいと言いたいんだが、錬金術は業が深い。闇も光も知っておくべきだ。人の欲望っちゅーんはな、どうしようもなく醜いが時に宝石を、武器を、文明を『次の段階』へ引き上げる。上手く付き合う――……いいや、使いこなすことだ」



 どういう事だろうと首を傾げる私に優しく、包み込むようなケイパーさんの低い声が慰めるようにそっと寄り添う。



「困ったことがあればこの集落に逃げてこい。大丈夫だ。俺もカルンもミルルクも……ビトニーも何よりセンカの婆さんが力になるさ」



 そうならないといい、とケイパーさんの独り言のような呟きを聞いてラクサがギュッとこぶしを握り締めたのが視界の隅に映った。


 最後の散布を終えた所だったので、散布する所を古布で覆って更に布袋で覆う。

穏やかな雨と降り注ぐ恵みを受けてシャンと茎を伸ばすコケのような草を確認するためにしゃがむ。

指先で優しく突けば雨粒がハラハラと零れ落ちた。



「ケイパーさんの言うことは良く分からないですけど、暗い事ばかり考えるのはお腹が空いてる証拠です! 早く戻ってご飯食べて寝なきゃ。難しい話は朝とか明るい内の方がいいですよ。あ、そうだ。この草少しだけ持って帰っても良いですか? この草初めて見たんですっ」


「あ、ああ。ただの雑草だから好きにしてもいいぞ。根こそぎ持っていくとバランスが崩れるとかなんとか言ってたが」


「ありがとうございます! 図鑑に載ってるかな、これ」



見比べられるように成長具合が違うものを一本ずつ採取して保存瓶に保管していく。


 いくつか土も採取して私は大満足だ。

結界の中に入れなくても集落の周りには良くあるようで、初めて見るものが沢山ある。

今まで強い雨の所為で良く観察出来てなかったんだなと気付かされる。



「虫だらけだったもんね。ディルも心配だったし……もうちょっと周り見ていれば色んな素材見つけられたかも」



 思ったことを口に出すとディルが私の所に近づいてこようとして、ベルとリアンに止められていた。

両手を広げてたけど、どうする気だったんだろう。



「俺の事をそんなに心配して……!」


「いや、今採取と同列扱いされてるッスよ? いいんスか、それで」


「ライムにとっての採取と同列なら悔いはない」


「……ディルって相当ヤバいっすね」


「今知ったの? 私は初めて会ってコイツがライムに抱き着いた瞬間から騎士団に突き出すべきだと今も思っているわ」


「え。初対面の女の子に抱き着いたんすか?」



 パッと賑やかになった仲間たちの声を聞き流しながら、採取物をポーチに仕舞って口布を外す。どこに何が生えていたのか、生える場所によって大きさや色合いなんかが違うのかが凄く気になるけど、皆疲れているだろうしまた今度にしようと心に決めた。


 ぐぐぐーっと背筋を伸ばせば緊張していた体と心が程よくほぐれていくような感覚が心地いい。



「カルンさん、帰り道の案内をお願いします!」



 めぼしいものは採取したし、戻って料理を作って食べたら図鑑を見て、分からなければセンカさんにも聞いてみよう。


 使えないなら使えないで、それはそれでいいし。

口布を取って息がしやすくなったなと雨と森が混じったような匂いで体内を満たす。



「彼らはいいのですか?」


「歩き始めたらちゃんとついてくるので大丈夫ですよ。それよりご飯のメニュー考えなきゃ。何食べたいですか?」


「リクエストを聞いて下さるんですか? そ、それでしたらカレー味の何かを……」



 分かりました、と頷くとカルンさんは機嫌よく歩き始める。

途中、足を止めて珍しい植物について教えてくれたり、採取したものについてあれこれ教えてくれたりしたので私にとってはとてもいい時間になった。


 ちなみにだけど、集落に戻る頃にはベル達はすっかりおとなしくなっていて、ミルルクさんとケイパーさんもどこか疲れ果てていたのが印象に残っている。



「蟻と沢山戦いましたもんね。あと鳥とも」


「鳥と言えば、ギフトートバードの幼体についていくつか分かったことがあるのですが食後にお話ししても構いませんか? あと、そこにいる水蜂の子供についてもお話ししておきたいことがあります」



 わかりました、と頷いて集落の入り口から大きな通りに出ると布を抱えたビトニーさんと回復薬を背負ったセンカさん、農作業で色々教えてくれた奥様方が私たちを迎えてくれた。


 驚いていると私たちの方へ駆け寄ってくる。

一番早かったのがセンカさんだった。



「アンタたち、怪我はないかい? ミルミギノソスがいる所に行ったんだってね? 傷は? かすり傷でも放っておくと大変なことになるんだ! 早く服を脱ぎな!」


「いやぁあああ!! 年頃のカワイイ子が泥まみれ!! 信じられない! ちょっと、ミルルク爺! パパッと魔術で倒しちゃいなさいよねっ!! ケイパーもカルンも何やってるのよ! 服が汚れない様に担いで移動するくらいの甲斐性みせなさいよねッ!」



 ワイワイ言いながら私とベルを連れて、ビトニーさんの家に連れていかれた。

 気づけば私もベルも服を脱がされお風呂場で全身チェックの後に「若い娘が体を冷やすんじゃないよ!」というセンカさんの一声でお風呂の中に。

ポカーンと口を開けているとドアの方からビトニーさんとセンカさん、奥様方が大変盛り上がりながら服を選んでいる会話が聞こえてきた。



「……ベル。私、ミルミギノソスが蠢いてる森の方が怖くないや」


「奇遇ね。私もそう思っていた所よ……気にかけて貰えてるのは有難いけど、これは、ちょっと。せめて貴族の皮かぶってる時にして欲しかったわ」



 私、他人に体を洗われるのって好きじゃないのよ、と乾いた笑顔を張り付けるベルに小さく頷く。



 お風呂は気持ちよかったけど、どっと疲労感が増した久々のお風呂だった。



 ここまで読んで下さって有難うございます。

誤字脱字変換ミスなどありましたら「あったどおおおお」って勢いで誤字報告など頂けると「みつかったどおおお!」っと羞恥心で悶絶しながら有難く修正させていただきます。

 感想・評価・ブックなども有難うございます。どうぞお気軽に!!

基本的に週一ペースで更新しております。頑張ってます!ハイ。


 皆さま暑い日が続きます。体調には十分気を付けて労わってあげて下さいね。

夏バテとか怖いですよね……ダメージがじわじわくる。

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