表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/349

184話 魔術師と召喚師

 のってきました、戦闘?回。

純粋な戦闘にならないのはもう、諦めました。はい。


少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。


途中、ディルの独白が少しだけ。




 凄まじい音が世界を揺らす。



 濁った水溜まりに吸い込まれ続ける雨粒も、一片の明かりも見えない鈍く重い空も、ひりついた空気すらも……全て震わせるような轟音だった。

一瞬どころか周囲一帯を数秒照らし出した光と音に私たちは出来るだけ早く、大地を蹴る。


 私の左右には表情を険しくしたケイパーさんとラクサ。

前には鮮やかな赤を纏うベルと巨大な鉄球を振り回すカルンさんの後ろ姿。

数歩前にはリアンの後ろ姿が見えている。



「ディル、大丈夫かな…っ?」



はっと短く息を吐いて息継ぎの合間に問いかけた声は想像以上に大きかったらしい。

隣にいたラクサがニカッと笑う。



「大丈夫ッス。ああいう性格のヤツが死ぬときはもうちょっと往生際悪く足掻くンで!」


「……悪ぃな、嬢ちゃん。こいつ、身内になると途端に口悪くなる分類らしくってよぉ」


「あはは。大丈夫です、なんだかちょっと納得したので」



不安を吹き飛ばす言葉にはラクサがディルを心配している気持ちが少しだけ込められていて、気が軽くなる。

 グンッと速度を上げると隣の二人が少し慌てた。



「嬢ちゃん! あまり飛ばすと体力が」


「まだ全然元気なので大丈夫です。雨も弱くなってきたし、地面の状態にも慣れてきたので」


「……ラクサ。嬢ちゃんらを見てっと錬金術師のイメージが」


「あ、それ今更ッス」


「おめーも大変だなぁ、オイ」



隣から聞こえてくるやり取りはかなり声が大きい。

多分ベル達にも聞こえているだろう。



(聞こえてる、じゃなくて聞かせてるんだろうけど)



雷が鳴ってからあからさまに移動速度が上がって空気が張り詰めたのは、私でもわかった。

恐らく焦っているのは今まで穏やかだったカルンさんだ。


 ある程度空気が戻った所で前方から「速度をあげます」と声が上がる。

幸いだったのは森に木々はあっても、腰まである様な草が生えていない事だろう。

移動中に見受けられるのはどれも立派な木か背丈ほどの木ばかり。


 草は生えているモノのどちらかと言えばコケに近い性質を持っているようだった。

体に打ち付けるような雨はしっとりと包み込むような、服の上を撫でていくようなものに変化している。



(にしても、ミルミギノソスの死体に交じって結構ギフトートバードもいるなぁ)



蟻に交じる様に焦げた鳥らしき死骸。


 鮮やかさが辛うじて焼け残った羽からうかがえるけれど、大きさはかなりのものだ。

小さいって聞いていたんだけどな……と思いつつ翼を広げると四、五十センチ程だろうか。

胴体自体はあまり大きくない。

走りながらギフトートバードの捕食方法を思い出す。



(鋭い嘴で突撃して、蚊みたいに血を吸うんだっけ。絶対痛いよねこれ)



 嫌だな、と空を見上げるけれど、この辺りには飛んでいないようだ。

最初にギフトートバードの死骸を見つけた時点で口布をつけ、顔を完全に覆っている状態なので暫くは問題なさそう。

念の為解毒剤はそれぞれに渡している。



 走って。走って。走って。

様子が変わってきたのは、10分経った頃のこと。

少しずつ生きている蟻が増えてきた。



「近い、ですよね?」


「だな。あっちの方だろう。見てりゃわかる、時々光が走るからな。ありゃ、ミルルクの爺さんの仕業だ。だが、設置型か……いよいよマズそうだな」



面倒掛けやがって、と言葉だけ受け取れば冷たいケイパーさんだったけどその顔にも声にも安堵が滲んでいる。


 遠くの方で時折白く光る場所を目指して私たちは、走っていく。

ある程度見える所までくると私以外の人が全員戦闘態勢に。



「……とりあえずコレ構えておこうかな」



よいしょ、と散布機のノズルを持って構えておく。

軽いから片手で持てるし、と感心していると戦闘が始まった。


 ベルとカルンさんが前方のミルミギノソスを弾き、潰し、一掃する。

攻撃範囲が広いカルンさんが凄い勢いで敵を弾き飛ばし、あっという間に数十体が動かなくなっていく。

ベルはマイペースかつ確実に数体ずつを薙ぎ払いカルンさんのフォローをするように立ちまわっているのが見える。


 中間地点にいるリアンは主に私たちの上空を飛び、こちらを襲う機会を狙っているギフトートバードを鞭で叩き落としていく。

時々小型の槍のような物を投擲しては、柄の先に着けられた鎖のような物を引いて回収し、綺麗なギフトートバードの死体を作っていた。

 勿論、コチラににじり寄ろうとするミルミギノソスは状況を見て別の鞭で薙ぎ払ったり、刻んだりと忙しそうだ。



「オレっちの傍を離れないように。殺虫液は最後まで取っておいて欲しいんスけど……状況に応じて使って欲しいッス」


「うん、わかった。任せて! ぴゃーって殺虫液かける練習は少ししたから平気」



隙間なく標的がいるので外しても無駄にはならないだろうと返事をするとラクサが困ったように笑う。



「それもそうなんスけど、やっぱ緊張感ないッスねぇ。オレっちもヘラヘラすんなって言われることはあったんスけど……リアンやベルが過保護になるのが分かる様な」



ブツブツと何かを呟きながら、魔力を込め直した金札で結界のような物を張ってそこから雷撃を飛ばしていく。



「こんな使い方があるんだ……すごいね」


「この使い方は結構魔力消費するンであんまりできないんスけど、傍にアンタがいるから出来るんスよ。回復薬も飲めるとなりゃ大盤振る舞い! あ、乾燥果物口に入れてくれないっスか」



わかった、とラクサに近寄って口布をずらしてくれたところに乾燥果物を咥えさせる。

周囲を警戒している上に武器も持っているので、口に運ぶのは私の方が効率がいいそうだ。



(まして、相手にしてるのは毒や蟻酸持ちだもんね。接近戦はしてないと言っても手袋が駄目になってたことを考えると迂闊に手は使えないし)



ケイパーさんはラクサとは反対側の後方部分から詰め寄るミルミギノソスを的確に潰して行っている。

 時々、めんどくせぇなと言いながら頭を蹴り飛ばしているのが見えた。

こっちも大概とんでもない。


 周囲にいるミルミギノソスは、増える気配がない。

ホッとした所で私は何か、青いものが地面に落ちているのが見えた。



(え、なにあれ)



目を凝らすと、木の根元にぴったりとくっつくようにして小さな青色の蜂がいる。

ここから3メートルほどの所で、後方に位置しているから生きているミルミギノソスには囲まれていないけれど怪我をしているのか動かない。



「……ラクサ、ケイパーさん! あの、どっちでもいいんですけど少しついて来てもらっていいですか?」


「俺はちょっと無理ッス。オッサン、行けるなら護衛頼ンます! あ、ライムが怪我したら漏れなくキュッといかれるんで」


「わかってら! 嬢ちゃん、採取じゃねーんだな?」


「はい! 流石にこの状況で採取はしないですよ。あの、あっち木の方まで……って、うわ!?」



行きたいんですけど、と口にする前に体がふわりと浮いた。


 驚く私を余所にケイパーさんは私を肩に担いで小走りで指定した木の方へ進んでいく。

薄く硬いミルミギノソスの外殻が潰される音と微かな振動にひえ、と顔が引きつる。

ズンズン進むケイパーさんは私がなぜ、その木を指さしたのか分かったようだった。



「……水蜂か」


「はい。まだ生きてるみたいだったから」



 降ろしてもらった私は素早く蜂を柔らかい布で包み抱える。

青い蜂は大きな目で私を観察していたけれど動くことができないらしく小さな羽を一度震わせた。



「ごめん。窮屈かもしれないけどちょっと我慢してね。あそこにいたら鳥とか蟻にやられちゃう―――…ケイパーさん、この蜂って確か魔石を食べるんですよね?」


「だな。だが、ここまで弱ってると……ダメ元で、食わせるなら食わせてやれ。嬢ちゃん、いいか? これから戻るがいざという時はソイツを捨てて自分の身を護るんだ。優先順位を間違えるなよ」


「はい。あ、邪魔にならない様に括り付けておきます」


「いや、そーじゃねぇんだが……まぁ、いいか」



ひょいっと蜂を抱えた私を今度は横抱きで抱えてケイパーさんは戦列に戻る。

ひとまず安全地帯に戻った私は早速、ポーチから水色魔石が入った瓶を取り出す。



(無駄になる、と嫌だからクズ魔石からちょっと食べさせて食べるようならちょっと小さい普通の魔石を食べさせてみようかな)



他の餌は何だろう、と思いつつクズ魔石の少し大きい粒に魔力を注いで蜂の口元に持っていくと短い触角を動かして虫独特の口を開ける。


 挟めるように差し込んでやれば、器用に前脚を使って魔力を吸い取っていく。

みるみる色がなくなる魔石に苦笑して普通サイズの魔石……の中でも小さいモノを同じ要領で与えてやった。


カチカチ ブブ ブブ 


と顎と羽を鳴らした水蜂は器用に私の腕から頭の上に移動し、そこで落ち着いたようだった。

時折、位置を直す様にあっちへきたり、こっちへきたり。

くすぐったい。




「……いや、何で蜂を餌付けしてんスか」



 ちょっと可愛いと思っているとラクサが半目で振り返っていた。

口元がヒクヒク引きつっている。



「木の根元で弱ってたから拾ったんだよ。この蜂って美味しいハチミツ作るっていうし、色も綺麗だし、齧らなそうだから」


「そーじゃないッ! そーじゃないんスよ! もうリアンとベルに叱られ……いや、でもハチミツの為なら仕方ないような気も」


「希少で高いみたいだよ」


「でかしたッス!!」



オレっちも食べさせてもらえるんスよね!? と言いながら張り切り始めたラクサも中々だと思う。


 ふわふわのパンケーキでも焼こうか、と言えば嬉しそうな声をあげて今まで以上に積極的に攻撃し始めたので驚いた。

そのやり取りを聞いていたらしいケイパーさんが大声でベルやカルンさんにも届く声で「戦いが終わったら嬢ちゃんがふわふわのパンケーキ焼いてくれるってよぉ」と叫んだのでベル達の撲滅速度が恐ろしい程上がった。コワイ。


 いつも通りのやり取りをしているのに何故か行動に無駄がない。

散歩する速度でミルミギノソスの軍勢を潰しながら雷を発する場所へ私たちは着実に近づいていた。

 近づくにつれてミルミギノソスもギフトートバードの攻撃も激しくなってきてるけれど、皆はそれを全く感じさせない安定感で雨降る暗い森を進む。



(大分近くなってきた。あと、もうすこし!)



 ずっと雨雲が空にあるせいで周囲は夜かと思う程に暗い。

それでもお互いの姿が光って見えるし、各自腰などに明るく調整した小型の魔石ランプを下げているので問題なく戦えている。



「やっぱ、視界って大事っスねぇ。夜目は利く方なんスけど、雨が降ってるから明かりがあると戦いやすいッスねー……目標まではあと数分ってとこッスか?」


「だろうな。嬢ちゃん、そろそろリアン坊の方に行って待機しておけよ」



はい、と返事を返すとケイパーさんが声を張り上げる。


 内容は私をリアンの横につけ、合流を急ぐというもの。

他にもディル達を目視できる距離に着いたら、リアンが護衛をし自分たちはディル達をぐるりと円状に囲み、ミルミギノソスを各自迎え撃つことなどを話していく。



(カルンさんも指示に慣れていたけど、ケイパーさんは司令塔って感じ)



意外と言えば意外だと思いつつ、リアンに呼ばれたので走り寄る。

リアンは少し息が上がっていたので口に回復ポーションを咥えさせ、それを飲み終わったら即座に乾燥果物を押し込んでおく。



「すまない。助かった。ギフトートバードが予想より多い。ちらほら、ギフトートバードを食う大型の鳥も見かけた。そいつらは、僕らを見て逃げて行ったが……急いだ方が良いな」


「うん。ベル達にはクッキーと回復薬突っ込めばいいよね」


「名前を呼ばれたら近づいて声をかけて、回復をして欲しい。最優先はディルとミルルクさんの回復だ。まずは二人に魔力回復薬を飲ませてくれ。状態にもよるが、本人に確認できるなら『欲しいもの』を聞いてからの方が良い」



 わかった、と返事をして機会をうかがう。

ジリジリと近づく時間が一番じれったいけれど、焦ると碌なことがないのは分かっていたので大人しく仲間の動きを観察する。

 怪我をしたら素早く近寄って回復できるように、と言い聞かせているとパッと前方が開けた。




 そこには、青い顔をして周囲を憎々し気ににらみつける殺気塗れのディルと顔色があまり良くないミルルクさんがいた。





◆◆◇


ディルside




 雨と泥と蟲に囲まれたその場所で、俺は歯を食いしばっていた。



 どうしようもない屈辱感に唇を噛む。

視界が霞み、足どころか体に力が入らない。

眠気が襲ってくるが寝ない様にきつく歯を食いしばる。

脳裏をよぎるのは、大事な幼馴染の顔だ。



(ライムの飯を食い逃すなんて、ありえない)



 やっと逢えたのに。

やっと強くなったのに。

やっと多くを手に入れたのに。


 どうして肝心な時に俺は傍にいられないのか。

このまま死ぬのだけは御免だ、と左の薬指に嵌めた指輪に意識を向ける。



「ディル。それは許さんぞ」


「……黙れクソ爺。膝笑ってんじゃねぇか」


「目までイかれたか、若造。心配せんでも救援は間違いなく来る。それまでに魔力を回復させておくんじゃな――…無様な姿を好いた女に晒すのか?」


「ッ……くそじじい」



盛大な舌打ちは雨音に呆気なく掻き消され、俺はただ、自分の未熟さとふがいなさを噛み締めながら血の味がする唾液を飲み下す。




 雨の音が煩い。






◆◆◇




 ディル、と名前を叫ぶ。



 すると、虚ろだった目に光が戻るのがみえた。

雨の中でも驚いた顔で瞬きしているのが見えて嫌なざわめきが消えていく。


 ディルが普段通りになったのを見てリアンを呼ぶ。

そっと静かに頷いて周囲を一瞥し、小さく舌打ちをしたのが聞こえる。



「まだ、交戦中で何より雷の結界があるので迂闊に近づけないな。もう少し堪えてくれ。絶対に結界には触るなよ」



 ケイパーさんがミルルクさんに結界はまだ解除するな、と叫んでいる。

顔色は悪いけれど彼はしっかりと立っていて一安心だ。



 ベル達が結界を囲むように配置につき、押し寄せる虫と鳥を片っ端から倒し始めたのを見て、結界が静かに形状を変えていく。

半球型だったものがジワリと広げられて頭上に天井のような雷のネットを作り出す。



「まずは蟻をどうにかしてくれ。数が多くて面倒でな」



やれやれ、と息を吐いた彼にリアンがそっと背中を押してくれたので駆け寄る。

ディルも心配だけど、まずは一番の戦力になるであろうミルルクさんが先だ。



「体力回復薬、魔力回復薬、食べもの、飲み物どれにしますか?」


「……? そうさな、まずは食い物と飲み物が欲しいところではある、が」



それを聞いてどうする、と訝し気なミルルクさんにホットワインを淹れたカップとボリュームのある具材を挟んだパンを渡す。



「まずはこれ食べて回復してください。魔力に余裕がないなら『氷石糖』を出しますけど」


「……うぬ。氷石糖はそっちの坊主に食わせてやってくれ。ただ、あっちはまず体力回復用のポーション、魔力回復薬を飲ませてから飯が良いだろう。魔力も体力も使い切った召喚師なんぞ荷物にしかならん」



ふふん、と鼻で笑ったミルルクさんは大きな口を開けてパンに齧りつきパッと表情を明るくした。



「こんな美味い具入りのパンは初めて食うたわ。お嬢さん――…いや、ライムちゃんや。この爺さんにいくつか同じものを恵んでくれんか。腹が減ってなぁ」


「熊シチューにパンを入れて渡します。なくなったら取りに来てください。まずはこれ」


「おお、すまなんだ。ほっほー……これもまたうまそうな」



 機嫌よく、というかあっという間にパンを平らげたミルルクさんは子供みたいに目を輝かせて私の手からパンにホイップしたクリームと果物を挟んだパンを受け取ってぱくつき始める。

ホットワインは既になかったのでお替りを注いで、熊シチューを入れたカップにパンを入れているとあっという間にクリームをサンドしたパンも食べ終わったらしい。


 嬉しそうに熊シチューを受け取ってチビチビ食べ始めたのである程度お腹が膨れて来たらしい。何かをブツブツ呟くとその場に四角い箱が現れる。

其処に座って、のんびりカップを置いたミルルクさんは空いた手で片手間とでもいうように幾つもの雷を落としていく。



「ワシはもう大丈夫じゃ。腹が減ったらライムちゃんに声をかけるから、あの若造を頼むぞ」


「っはい!」



平気だ、というミルルクさんに返事をして木にもたれ掛かっているディルに近づく。

顔に泥が跳ねていたから、道具入れから布を取り出して拭きつつ、空いている手でポーチを漁る。



「ディル、体力回復ポーション飲める? ちょっと体起こすね」



小さく頷いたのを見て口元にコルクを抜いたポーション瓶を近づけると噎せることなく一気に中身を飲み干す。


 すると体が動くようになったらしく深く息を吐いた。



「次、魔力ポーション。初級一本じゃ足りないよね? 中級魔力ポーション渡すから飲んで。これでも足りないだろうから、とりあえずご飯食べて、戦う時に『氷石糖』渡すから」



「ライム……すまな」


「いいから飲む!!」



ほら、と口に瓶を突っ込むとディルは大人しくなった。


 大人しく回復薬を飲むディルに食べやすいように握った肉そぼろ入りのオニギリを持たせて、ホットワインにワインを少し足したものを渡す。



「うまい。もっと」


「ちゃんとあるから詰まらせないようにホットワインも飲んで。次は照り焼きチキンを挟んだパン。そのあとはホイップと果物挟んだ甘いやつ、最後は熊シチューにパンを突っ込んだやつだけど足りる?」


「……ぎりぎり」


「オニギリもう一個食べる?」


「たべる」



凄い勢いで飲み下される料理に呆れるやら感心するやら。


 もぐもぐと口を動かしつつも、ディルも私も周囲の状況はしっかり見ている。

ほんの少しベルが疲れているみたいだったのでオーツバーの用意をしておく。

ついでに、隣にいるカルンさんにも押し付けてくるつもりだ。


 顔色が良くなって来たディルにホッと息を吐けば、警戒していたディルが私をみて目を見開いた。



「ライム。その頭の上に乗っている羨ましい虫はなんだ」


「ああ、水蜂だっけ? 木の根っこの辺りに落ちてたから拾って魔石あげてみたんだ。割と可愛いよ、色も綺麗だし」


「……なるほど」



害はなさそうだ、と小声でつぶやいたのを聞き流しつつ苦笑する。

ディルに口布を巻くように伝えると静かに従った。

 手渡した食べ物は既にない。



「ライム、その」


「あ。カレーならちゃんと取ってあるから戻ったら食べてね」


「! ありがとう。そういう事なら早く帰らないとな」



スッと立ち上がったディルは私を見下ろして、徐に再会を喜ぶようにハグをした。

甘えるように首元に頭を擦りつけて颯爽と何やら真っ黒い石を取り出す。


 これから『召喚術』を使うのが分かったので近づいて観察したかったんだけど、私には役割がある。

ディルもミルルクさんも無事だったことに安堵して、私はベルの名前を叫ぶ。


 合流してしまえばこっちのものだ。

仲間の屍を踏みつけ、乗り越えてくる波のようなミルミギノソスと上空から矢のように降り注ぐ数多のギフトートバードも怖くない。


 人数がいるから、とかそういうんじゃなくて信頼している人たちの中にいること。

そしてなにより自分ができる役割を自覚できたからこそ、なのかもしれない。



(ただ、なぁ……人数がいればいいって訳じゃないのは分かった)



チラッと視線を左右に向ける。


 左にはミルルクさん、右にはディル。

お互いオニギリの具についてあれこれ言い合いながら、的確に魔術を展開したり、召喚獣を操っている。



「皆みたいに戦わなくていいの?」


「魔術師は後方支援が基本。前衛はほれ、カルンとケイパーがいる上に若いのもいるから問題なし。それより、ホットワインを貰えんか? このスパイスの加減、絶妙じゃな。店でも開かんか? 集落長の権限で一番いい所に店をつくってやるぞ」


「黙れクソ爺。ライム、俺と一緒に行こう。色々と見せたい召喚獣がいるんだ。アンデッド以外にも色々いるから楽しいぞ」


「いや、あの、そうじゃなくて」



戦おうよ、と口にする前に雷とディルの放った召喚獣の咆哮。


 これはもう何を言っても無駄だな、と適当に二人の話を聞き流しながら前線で戦う仲間とディル達の魔力を気にしつつ補給を続ける。

なんだかなぁ……と呟いた声はベルの怒鳴り声とカルンさんのうすら寒くなる様な叱責で終わりを告げる。


 若干青くなったミルルクさんと笑顔のカルンさん、モグモグと口を動かしているディルが殺気立ったベルと立ち位置を替わった。

後衛向きだという二人を前に出していいのかと困惑していると休憩しに来た二人はいい笑顔で



「誰の所為でこんなことになったと思ってるの? 使えるものは使い倒すだけよ」


「毒にやられても死なないでしょうから問題ありませんよ」


そう言い放つ。


 種類の違う圧に私は無言で二人の好物を差し出したのは正解だったらしい。

カレーをソース代わりにしたパンを嬉しそうにカルンさんが咀嚼し、ベルは機嫌よくホイップと果物を挟んだパンに舌鼓を打つ。



(とりあえず、食欲がすごいってことだけはわかったかな。食べるの大事だ)



ねぇ、と頭の上の水蜂に指を差し出すとスリスリと頭らしきところを擦りつけてくる。

癒しだ。




(雨は上がらないけど、でも、よかった)



 ミルミギノソスが、ギフトートバードが、減っていくにしたがって緩やかになる雨足に目を細める。

上空を旋回していた鮮やかな色の鳥は雷によって丸焦げになりゆっくり雷ネットの上に落ち、焦げ臭い臭いを放っていた。






 ここまで読んで下さって有難うございました!

なんとか、一週間以内の更新……はぁあ、楽しかった。

この回は何故かスイスイ書けて、おどろき。

 ディルもですが、ラクサも絶好調です(苦笑


誤字脱字変換ミスなどありましたら、教えて下さると幸いです!

誤字報告ですとパパッと修正可能なのでひじょうにたすかったり……あ、でも発見して教えて下さるだけで充分助かっています。あと、毎度毎度申し訳ない。本当に。

 感想、ブックマーク、評価などじわじわ増えてとても有難いです。

いつも読んで下さって有難うございます。そして、今後もよろしくお願いしますっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 暫く余裕のない感じが続いていたので(それも物語として必要なのは理解してます)調子の戻ってきた皆の戦闘になんだかホッとしたと言いますか戻ってきたなーって感じがします。 皆がライムのご飯大好き…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ