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183話 無いものねだり、終了!

 長々と、参りましょう!!


ディルとミルルクさんもうちょっとがんばってー(他人事

この回から、戦闘に関してのライムの立ち位置が少し変化します。

私が忘れなければ(ぁ


※虫注意です。いますぜ、やつが。蟻だけど。



 現実は、どうしてこう上手くいかないんだろう。



 雨の降り方が変わった。

より一層、激しく強くなったのだ。

私達がケイパーさん達と合流して二交代制で戦い、後ろからカルンさんが合流した直後のことだった。


 木の下でモグモグと口を動かすカルンさんは現在休憩中で、私たちの周りには殆どミルミギノソスがいなくなっていた。


 周囲に散らばる沢山の死骸。

後方から群れを潰してきた彼にホットワイン入りのヤカンを出してカップに注ぐ。

空いている方の手にはオーツバーが握られていて先程からザクザクと豪快な咀嚼音が聞こえてくる。


 今、前方で戦っているのはベルとケイパーさんだ。

中距離にリアン、私とカルンさんが休めるように打ち漏らしを片付けていくのはラクサで


―――…私は、アイテムによる回復と支援。


 時折上がる戦闘中独特の殺気と緊張感に満ちた声にソワソワと立ったり座ったり、ポーチから回復薬を取り出してはしまう、というのを繰り返していると隣から穏やかな声が聞こえてくる。



「戦闘の合間にこうして温かい飲み物と甘いものを口にできるのは有難いですね」


「え? あ、はい。ビトニーさんが作ってくれた服のお陰で体は濡れてないですけど、気温が低くてちょっと寒いですもんね。ホットワイン以外にお酒もありますよ」


「では、これに少しワインを。ああ、ありがとうございます―――…通年であればここまで気温が落ちることはないのですが、今年はアンデッドが多いので仕方がないとはいえ、いざという時の為にも、ライムさんも体を温めておいてください」



 そういわれて、渋々カップを出してホットワインを半分だけ注ぎ、一口。

温かい液体が口の中から喉、そして胃へ流れじんわりと体を内側から温めてくれるのが分かった。



(交代の度に暖かい飲み物は出してるけど、私はまだ何も食べてなかったっけ)



 カップを少しずつ傾けながら両手を温めるようにぼうっと白く霞んだ光景に視線を向ける。

ベルもケイパーさんも、リアンも、ラクサも泥にまみれて真剣な顔をしている筈だ。

時々不敵な会話をしていることは聞いているので、余裕はまだあるんだろうけど……直接確認はできていない。

戦いの際に生じる雑音の所為で私の元に届くころには意味をなさない音に変わってしまうからだ。



「役割分担、という点で納得はされているんですね」


「え?」


「思い違いでしたら聞かなかったことにしてください」



 私を見ることない穏やかな表情と声色に驚く。

フードを被っているけれど、私の方が視点が低いから、彼の表情はしっかり両目に映る。



「あまり、焦らない事です」



ギュッと心臓が締め付けられた。

思わず息をのむ私をみて彼は困ったように笑う。



「貴女は十分やれていますよ。長期戦や消耗戦になるといかに上手く休むかが重要になります。どんなに強い人間でも『限界』は必ず訪れますからね。長く戦う為には休息が必要です――……戦闘中はどうしても、気が猛りますからこういう風に落ち着くことで狭くなった視野や興奮を冷ますことができる。どちらも、命を落とす要因になりかねないものです。勿論、優位に働くこともありますが消耗戦では致命的なので」



理解ができずに固まる私に彼はそっと教えてくれた。


 消耗戦で、頭に血が上ることは『疲労』することであり、疲労は『ミス』を誘発し、最終的に怪我をするリスクが高まることを。



「でも、私はポーチのお陰で」


「所有者はライムさんで、貴女しかアイテムを出せず、その上様々な状態を見越して必要だと思うものを用意している。温かい飲み物も食事も冷たい食べ物も、手軽に食べられる美味しい食べ物も――…ほかに必要なものもすべて。小さな荷物で大量のものを持ち運べるのは一種の才能です。後方支援は立派な『戦闘要員』ですよ」



わかっています、と言う代わりにカップを傾ける。

無理やり飲み込んだワインは味がしなくてただ熱を帯びた液体が体の中に落ちていく。



「若い冒険者や騎士には、武器を持って敵を殺すことのみが戦いだと言い切る人がいます。でも、ライムさんの周囲にいる仲間は違うでしょう? リアンくんもベルさんも、ラクサくんも貴女を認めています。戦闘能力の代わりに貴女は彼らの『戦う意味』になりつつある」


「戦う、意味……?」



パッと思い浮かんだのは戦えないから守らなくてはいけないという、多分世間一般の認識。


 強い人が弱い人を護る、というのは割と広く理解されている考え方の一つだと思う。

私はそれが嫌だった。




「護られるのは嫌ですか」



疑問ではなく確認だった。

顔をあげると真っすぐに私を見下ろす優しいけれど強い瞳。


 唇が戦慄く。

声にならなくて、何とか首を小さく縦に振った。



「理由を聞いてもいいでしょうか。ああ、近くにいるラクサくんですら何を話しているのか聞こえませんよ、雨音が遮ってくれるので」



思わずラクサがいる方へ視線を向けると戦闘真っただ中。

 表情には余裕があるし怪我をしているようには見えなかったのでそっと息を吐く。



「護った人が怪我をして、死んじゃったら意味がないんです。人ってあっさり死ぬから。私も戦えれば、私が……戦えたら。きっとベルやリアン、ミントやディルだって、ラクサだって私の事を考えないで自分のことと目の前の相手だけに注意を払えばいい。そうしたら怪我も減るとおもうんです。もし、危ない時は置いて逃げればいいんです」


「うーん、彼らは仲間を置いて逃げるってことはしないタイプだと思うのですが」


「かもしれないですけど、戦える人を残すのとそうじゃない人を残すのとじゃ違うと思うんです」



戦えるということは死ぬ確率が減るってことだ。


 私がいると皆の行動がどうしても制限される。

今までの旅でもそうだったし、街の中でもそう。


 なにせ、私が一人にならない様に必ず誰かがいてくれた。

どこで何があるかわからないからって、リアンなんかは庭に出る時もついてくる。



(情けないし、こういう足の引っ張り方は嫌だ。私は、皆と仲間でいたい。友達でいたい、から対等じゃなきゃいけないのに)



 だからこそ、戦える皆には言えない。

話せば気を使うか怒られるか……あとは呆れられるかもしれないから。



(皆、見切りをつけるのあっという間だもんね)



 折角できた友達を失うのは嫌だ。

ぎゅっと唇を噛む私の耳に声が入ってくる。

武器を振るい、戦うみんなの後ろ姿は頼もしくて、どうしようもなく不安になる。


 ベルとケイパーさんそれぞれの背後から数体のミルミギノソスが近づいてきていることに気付いて慌てて立ち上がるとリアンがあっさり鞭で切り裂いた。

それだけじゃなくて立ち上がった私をちらりと見て首を大きく横に振る。

 立ったままだと集中できないだろうと考え、再び切り株に腰を下ろす。



「――……人は、確かに呆気なく死んでしまいます。けれど、『生きる』ことを諦めていない人は割としぶといものですよ」



死にたいと口に出している人間でも、そうやすやすと死ねないのはそういう事です。

 そう笑ったカルンさんは酷く穏やかで眩しいものを見るように目を細めていた。



「でも、負担がかかり続ければ誰だって嫌になるって……っ」


「関係が出来上がっていない場合はそうかもしれませんね。でも、ライムさん。貴女がいることでベルさんもリアンくんも、そして他の人も協力するという選択肢を積極的に選ぶことができています。恐らく出会った頃の彼らと今の彼らでは随分違うのではないですか?」



パッと思い浮かんだのは高慢な貴族の娘丸出しのベルと神経質で嫌味なリアン。

 今はそうだった理由も元々の性格も知っているし、特に嫌いになる要素が見当たらない。

言われてみると……そう思って、頷けばカルンさんはニッコリ微笑んだ。



「貴女と関わったからそうなったんだと思いませんか? 彼らは貴女を大切に思っています。貴女が彼らを大切に思っているように。それぞれのやり方で護ろうとして、そして貴女に知らない内に護られている」


「ええ? 私何もしてないですけど。ご飯作って調合して採取して、えっと」


「自分では分からないものかもしれませんね。少し気になったのですが『負担がかかり続ければ嫌になる』と言ったのは誰ですか」



誰、と言われて口に出した名前を聞いたカルンさんの表情が曇る。

 目頭を押さえて何とも言えない表情で言い淀んだ。



「なる、ほど。幼いころから言い聞かせられていたなら『戦わなくてはいけない』と思い込むのも分かります。いいですか、戦う必要はありません。回復や支援をしてくれる人がいるだけで、安心して戦える。怪我をしても、疲れていても気を緩めて息をつける時間があると分かっていれば踏ん張って戦うことができる―――…まして、護ると決めた人がいればなおさらですよ」



貴女もそうでしょう、と言われて首を傾げる。

ピンと来ていない私の様子を見てカルンさんは小さく笑う。



「貴女が普段『ベルが好きだから』『リアンの好みはこっち』『ディルはこれが好き』『ラクサはこれが食べたいって言ってた』と言いながら料理をしたり、そこにはいない仲間の分の採取や作業を頑張っているのと同じです。どこかしら、自分ができる範囲で相手のことを考えて力になりたいと思っている……それで十分だと思いますよ」


「で、でも採取と戦闘は」


「違いますね。確かに違う。でも、彼らは貴女が自分達のことをどれだけ考えて行動してくれているのか分かっている。だからこそ、護ろうとするし安全な所に居て欲しいと願う。戦えないことを揶揄うことはあっても、強く非難することはない筈ですよ。無理に武器を持たせて前線に送ることもしなかった筈―――…どうでもいい相手にはそういったことを平気でするタイプです、貴女の仲間は」



それはちょっとわかる気がします、と引きつった顔で返事をすれば空になったカップを差し出してカルンさんは楽しそうに武器を手に持った。



「貴女がケガをすると立ち直れなくなる人間もいると理解しておいてください。分からなくてもいい、納得できなくてもいい……貴女以上に貴女を想っている人は必ずいます。貴女が仲間を想うのと同じように」



さて、とココで話を切った彼はラクサに声をかけた。



「ラクサくん! 僕が前線に出ます。前にいる三人は後方に下げますので警戒だけしてくださいね。貴方もしっかり休息をとって失った魔力や体力を回復しておいてください」



そういうとパッと走り出してしまった。


 ラクサは手の届く範囲まで戻ってきて周囲を見回している。

ひらひらと手を動かしていたのでよく見ると手の甲部分が溶けているようだった。

溶け方を見ると何らかの液体がかかって溶けた、というところだろう。

調合中の液体がかかって運悪く溶けたらこんな感じの痕が残るんだよね。



「ラクサ、とりあえずその手袋外して。溶けてる」


「げ。あちゃー。うっかりしてたみたいッスね」


「あ、手袋の予備なら私結構あるから今出すよ。まとめ買いした方が安いってことで沢山買ったんだ」



ホットワインをカップに入れて、クッキーと乾燥果物を渡す。

周囲を警戒してはいるものの近くにいる敵はカルンさんが敵対しているので終わりらしい。

 木のカップには薄い木の蓋を乗せてるんだけど、器用に少しそれをずらして中身を飲んでいる。



「っはぁああ……沁みる。うっめぇ……そーいや、さっきカルンさんと何話してたんスか?」


「私だけ戦闘に参加しないのが気になるって話をしてたんだけど、ラクサは嫌じゃない? 一人だけ安全な所にいるんだよ、私」



思い切って聞けばラクサは少し驚いたように目を見開いた後、眉を寄せて肩をすくめた。

ラクサならしれっといつも通りの顔で「そうっスね」って返事をすると思っていたので驚く。

 不機嫌そうな表情を隠しもしないで唇を尖らせる。



「誰っスか、ソレ」


「え、だれって何が?」


「アンタのことを悪く言ったやつッスよ。直接武器持って戦うだけが『戦闘』じゃねぇってわかってない人間の言う事なんざ気にするだけ無駄なんスけど、言われっぱなしだとやっぱ問題があるじゃないっスか」



そう言って笑ったラクサは普段通りだったんだけど、細められた目も吊り上がった口角もどこか嘘っぽい。

あれ、と温まっている筈の体が冷える感覚に首を傾げつつ何とか言葉を紡ぎだした。



「ご、護衛対象がいるとやりにくいって……騎士だったおじーちゃんと冒険者だった両親、あと錬金術師のおばーちゃんが話してるの、小さい頃に聞いたの覚えてて」



確か珍しく両親がいて、普段は目が覚めない夜中に目が覚めたのだ。


 部屋から出て、驚いた顔を見たくなってそうっと灯りが漏れている部屋に近づいた私の耳に入ってきた会話だった。

もう声は思い出せないけど、内容だけは妙に記憶に残っている。



「その場にいた全員が『戦えないと一人で旅は出来ない』『いざという時戦えないと死んでしまう』って言ってて、私が大きくなったら稽古をつけて強くしようって話してたの。まぁ、その年の秋に親は死んじゃったし、数年後にはおじーちゃんも病気で死んじゃったけどね」



 口に出すと心の中にあった焦りの原因が分かってきた。

おばーちゃんも『外は危ない』って言ってたもんね。

だから余計に戦わなきゃって思うんだと思う。



「だから、かな。ただ安全な所で必要なアイテム渡すだけってどうなのかなぁって。私に出来る事って言ったらそれくらいしかないんだけど」


「なるほど、負い目に思ってるんスね。堂々と守られてりゃいいと思うのは……オレっち達の都合なンで、この状況がキツイってのは分かる気がするッス」



それなら、とラクサを見るとまだ難しい顔をしていた。

 サクッと小さな音を立ててクッキーが半分彼の口の中へ消える。

ゆっくり咀嚼をしてからようやく口の端が持ち上がった。



「けど。オレっちにとっちゃ、アンタに怪我されるのが一番困るんスよ。飯しかり回復薬しかり、雰囲気も最悪どころか地獄にしかなんねーッスもん」


「地獄って大げさな」



彼らしい冗談だなと笑う私とは裏腹にラクサは笑顔を消して真剣な顔で前方を見ている。


 視線の先には軽口をたたきながら戻ってくるベル達三人の姿が。

雨のカーテンで白みがかって見えるけど身長や体格なんかはしっかり分かるから間違い様がない。



「少なくともあの二人は大荒れッスよ~」


「そりゃ同じ工房生だしいなくなったら困ると思うけど、私の代わりなんていくらでもいるでしょ」


「……ソレ、あの二人の前では絶対言ったら駄目なヤツ。オレっちも聞かなかったことにするんで」



 そんなに変なこといったかな、と思いつつポーチから出したアルミス軟膏をラクサの手に塗りこんでおく。

使ったものはそのまま渡して自分で作ったやつだからお金は要らないって伝えておいた。

品質が良くなりすぎて店にはおけないんだよね、コレ。


 手袋を二組渡せば大げさに喜ばれる。

戻ってきたケイパーさんやベル、リアンにもホットワインとそれぞれに応じたお茶請けを渡し許可をもらって、手袋を嵌めなおしたラクサと共に近くに転がっているミルミギノソスの額から石を外す。

 

 直径2センチくらいで聞いていたよりも小ぶりだったんだけど、お腹の部分の色によって額の石の色も変わることが分かったのだ。

通常は薄い赤で、猛毒と呼ばれる真っ赤な髑髏を持つ個体は黒にも見える深い赤。



(実際に集めてみるとこういう発見があるから面白いよね。戦うのは嫌だしこんなにいっぱいデッカイ蟻がいるのはかなり嫌だけど)



目に見える範囲で石を集めた私は、途中で蟻酸の存在を思い出した。



「確か、お腹を割いて……先端部分の直ぐ横に小さい袋みたいなのがあるんだっけ」



頭を潰されたミルミギノソスは上手い具合にひっくり返っていたので試しに硬そうな腹に解体用のナイフを入れてみる。


 蟻の殻が硬かったけど魔力をナイフに通せばさっくり開けた。

昆虫独特の青臭さがある腹の部分を近くに落ちていた枝でそっとまさぐる。

筋肉だか内臓だか分からないぐちゃぐちゃの液体を慎重に避けていくと、目的のものを見つけた。

よくよく見ると髑髏がある側の真ん中ぐらい、丁度硬い殻に張り付くような形で赤黒い袋があった。

大きさはオトナの小指半分程。


 手に持っていた魔石ランプの灯りを強くして慎重にその袋を採取する。

傷つけると蟻酸が溢れて手袋を焼くだろうし、ナイフにもダメージがありそうだった。


 なので、殻を蟻酸袋の形に切り取って引きはがす。



「取れた! やった、ベルとリアンに見せに行くね。ラクサ、付き合ってくれてありがとう」



 みてみて、と私のやっていることを見ていたらしい二人の元へ。

後ろからラクサが「マジっすか」とげんなりした声で呟きながら追いかけてくる。

どうやら蟻のお腹の中を見たのが嫌だったらしい。



「これ見て! 蟻酸取ってみた!」


「とってみた、って」


「……腹を裂いたのか。良く蟻酸袋を破らなかったな。かなり難しい筈だぞ?」


「内臓掻きだして魔力を注いだナイフで殻ごと袋を外せばいけるよ! これで新しい毒とか作れないかな」


「作れる、だろうが……掻きだしたのか」


「ち、ちょっとソレを私に近づけないで!」



慌てて私から距離をとったベルに首を傾げつつ、蟻酸袋の先端がしっかり閉じられていることを話す。

それでも嫌だというので渋々、毒専用の革袋に蟻酸を入れてポーチに仕舞った。


 雨はまだ降り続いているけれど雨脚が少しだけ緩んできたのが分かる。

視界が少しだけよくなってきた。



「―――…雨が緩くなってきやがったな。ミルミギノソスの最後尾から潰して進めばいずれ合流できるはずだ、急ぐぞ。カルンもある程度倒し終えたみたいだから後に続け。後続はいないが、一応気を付けろよ。俺とベルは前、ライムの嬢ちゃんはリアン坊と進め。しんがりはラクサだ」



走るぞ、と言われたので頷く。


 雨が弱まったとはいえ視界はまだ良くはない。

でも走りながら【認識液】のことを思い出して、ラクサとケイパーさんにも渡した。

これで私達はお互いを雨の中でも見つけることができる。



「ミルミギノソスってもしかして後退できないんですか?」


「ちいせぇ蟻と体の構造は同じだからな。隊列を組むところも同じだ。基本的に虫は魔獣でもない限り『思考』することはない。本能と習性に従って行動する。行動パターンが変わるのは環境によるもんだ。にしても、間違いなく後退りはしてこねぇし間違いなく最後尾であることは変わりねぇ」



 なるほど、と走りながらケイパーさんの声を聴く。

低くて張りのある声は良く響いて聞き取りやすい。

ガッハッハと笑う声は何処からどう見ても頼りになる大人だ。



「オレっちの探知能力は比較的高いンで安心して任せてほしいッス。体もワインであったまって小腹もいい具合に満たされてるんでバッチリ働けるッスよ」



ケラケラと明るいラクサの声が響いて、ポンッと小さく背中を押される。

私の左隣を走るリアンとは反対にいるラクサが楽しそうに口笛を吹いた。



「混戦状態になってもオレっちとリアンが護るんで安心して、吹っ飛ばされた二人を回収しまショ―――……本来ならオレっちやライム達がお勉強する貴重な時間を充ててるんで、色々さっくり払ってもらわなきゃ納得できないっス」


「確かにな。貴重な学習時間を削られているのは確かだ。その上、怪我や体調を崩すリスクもある。詫びの内容はキッチリ僕も交渉しよう」



機嫌のよさそうなリアンの声にベルもくすくすと笑う。

そうね、と迷いない真っすぐな声。



「私もこんな土砂降りの雨の中、大嫌いな虫と戦う羽目になった落とし前はキッチリつけて頂きたいと思ってましたの。お馬鹿さんと茶目っ気が過ぎる魔術師殿を早く確保しなくてはいけませんわね」



サクサク行きますわよ!という楽しそうなベルの声にリアンやラクサ、そしてカルンさんの楽しそうなそれぞれの返事が合わさった。


 戦闘で情け容赦なく蟻たちを吹き飛ばし、粉砕し、ゴリ押しで道を作っていくカルンさんと打ち漏らしを的確かつ豪快に排除するベルに色々な意味でドキドキしていると、呆れたようにケイパーさんが「体力配分間違えると悲惨だぞ」と緩い注意をした。



「何だろう。ちょっと前まで凄く悩んでたの、馬鹿らしくなってきた……おじーちゃん。私、今から鍛えてもベル達みたいにはなれないと思う。もう足手まといにならない様にとにかく逃げて回復して援護することにするよ。無理。色々無理」



 うっかり言葉にしていたらしい心情が聞こえたのは近くにいたリアンとラクサだけだったみたいなんだけど、左右から慰めるように頭や肩を叩かれた。



(私、ライム・シトラールは今日を持って戦闘能力を身に付けることを完全に諦めまーす……うん。コレを見て、隣に並べるようになろうって思える不屈の精神持ってないから絶対無理)



少なくとも武器を振り回して大型の蟻を吹っ飛ばしながら優雅に会話できるようになるとは到底思えないし。

 あ。ベルとカルンさんがうっかり木をなぎ倒した。

もうこれ、熊系のモンスター以上なんじゃ……?



ここまで読んで下さって有難うございました。

ギリギリ一週間以内の更新!!


 沢山の方がブックマーク、評価、感想などを下さっているのに改めて感謝を。

ありがとうございまーーーーす!! 読んで下さってるだけでも十分嬉しいのですが、直接感想や思ったことなどを教えて頂けて励みになったり、勉強になったり、ネタになったりと嬉しい限りです。


 ミルミギノソスさん、どんどん……設定が増えてきて恐ろしいことになってます(苦笑

正直、大型犬~中型犬くらいの蟻って気持ち悪いと思うんですよね……異世界こわい。


誤字脱字、変換ミスや意味の分からない文章(結構あります)を見かけた際は即通報、じゃなくて誤字報告やコメントなどで教えて下さると嬉しいです。

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[良い点] あぁ、この回は結構大事な話になりましたね! ずっと引きずっていた心のわだかまりが、ひとつなくなる。 やれる事を突き詰めた人間が、どれほど強いのか。 きっと成長できる希望に満ち溢れた回でした…
[良い点] 新鮮な更新だー [気になる点] 私「は」忘れなければ(ぁ 「候補」支援は立派な『戦闘要員』ですよ 後方 あとは、誤字ではないのですが、 打ちより討ち かも? [一言] 肉体的な武力が…
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