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16話 教会と初めての女友達

新キャラが予想外に登場です。

主人公は逞しい系女子。



 辿りついた教会は、今まで見たことのない大きさの建物だった。


白い外壁に高い天井は手入れが行き届いているものの所々に修繕の跡が見られて、大切に使われていることがわかる。

 真紅の絨毯は祭壇まで続いていて、年老いたシスターは祭壇付近、若いシスターは入口付近に立っていた。



「お祈りですか?祈りの儀は午後二刻目の鐘からになってます」


「いえ、あの実は宿を営んでるルージュさんから裏庭の話を聞いてきたんです。今日と明日の二日間、出来る範囲になるんですけど草刈りと野良ネズミリスの退治をしたいなと思って」


「まぁ、いいのですか?少し待っていてください!シスターに報告してまいりますので」



嬉しそうに笑ったシスターはパタパタと祭壇付近にいるシスターに早速相談しに行ってしまった。

返事がすぐにでも欲しかったし、わざわざ戻ってきてもらうのも悪いと思ったのでシスター二人に近づくと穏やかな印象が強いシスターが私をみて少し驚いていた。




「まぁ、貴女が裏庭の話をきいて下さった方ですか?」


「はい。ライム・シトラールといいます。明後日が入学式なので明日までしか手伝えないんですけど…ギルドを通さなければ手数料分安くなるし、私は草刈ついでに素材を集められる上に野良ネズミリスの討伐部位をギルドに提出すればお金が手に入りますから」


「教会としてはとてもありがたいのですけれど…その、素材を欲しがっているってことは貴女は錬金科に入学する予定があるのではないですか?錬金術師様にこんな雑用頼んでもいいのかしら」



不安そうに表情を曇らせたシスターに若いシスターがひどく驚いた表情で私を見ている。


 多分というか私が錬金科の生徒になるとは思わなかったんだろう。

エルやイオ、フォリア先輩から聞いた感じからすると錬金術師ってどうにもフィールドワーク…つまり、自分で素材をとってくるっていう発想があまりないっぽいし。



「れ、錬金術師様だったのですか?!し、失礼いたしました…ッ」


「いや、あの謝らなくても…私から手伝いをお願いしてるんですよ?それに、貴族じゃないので気軽に話してくれれば嬉しいです。私、入学してからできるだけ早く調合できるようになりたいので前もって素材を集めておきたいんです。実は、かなり田舎から出てきてるので…資金も心もとなくって」



あはは、と情けないものの懐事情について話をするとようやく私に向けられていた緊張感のようなものが消えていく。



「そういう事情があるのでしたら、こちらとしても手伝っていただけると助かります。私はこの教会の管理をしているカネット、こちらは去年正式にシスターになったミントと申します。教会では孤児の保護もしているのでどうしても周囲の環境を整えるところまで手が回らないのです。元々冒険者ギルドに依頼を出す予定でしたので、報酬として考えていた分の料金は明日、お支払いいたします。ただ、その最低でも半分は片付けて欲しいのですが…」


「報酬貰えるんですか?!うわ、嬉しい…ええと、報酬の金額は最終的な状態を見て判断してもらえればそれでいいです。最悪貰えなくても素材目当てだったので全然問題ないですし。あ!その、素材はもらってもいい、でしょうか」


「素材、というのは具体的にどのようなものをいうのでしょうか…?錬金術師様の知り合いがいないのでどうにもわからなくて。裏庭にあるのは雑草やよく見る草花ばかりですし」



うーんと頬に手を当てて首をかしげるシスター・カネットに私は少しだけ素材について話をすることにした。

 教会ってあんまり親しみないけど孤児の保護をしているなら大変だろうし、知っていて損はないと思うんだよね。



「アオ草とかニガ草、あとはアルミス草なんかも素材として使います。他にもいろいろあるんですけど、とりあえず私はアオ草とアルミス草が欲しいんですよ。どこにでも生えてるってわかってはいるんですけど…外に一人で行くのはまずいかなって」


「アオ草とアルミス草なら沢山生えていますし、どこでも採れるので好きなだけ持って行って構いませんよ。護衛もなく錬金術師の方が外に取りに行くのは危険ですし、貴重品もありませんので」


「ありがとうございます。じゃあ、早速草刈始めたいんですけど…場所ってどのへんですか?」



場所がわからなかったので聞いてみるとシスター・ミントが案内してくれることになった。


 教会の正面から見て、丁度背後に位置する場所が仕事場の裏庭だった。

規模は二日頑張ればなんとか終わりそうなので少しホッとする。



「本来ならここに畑があったそうです。でも、教会にお勤めするシスターが減ったので手が回らなくて…」


「首都の教会なのに手が回らないんですか?」



これが小さな村や町の教会なら人手が足りないのはわかるんだけど、と思わず口をついて出た言葉を受けてシスターは苦笑した。



「ええ、そうなのです。首都の教会といっても本部ではありませんし、ここにいるのは皆長く教会に勤めているシスターが殆どです。首都ということもあって人も多い分、捨て子や孤児も多くいますから…どうしても手が足らないのです。十代のシスターは私だけ、二十代のシスターは二人、三十代は一人なので一日が教会のお勤めと子供たちの世話で終わってしまうのが現状です」


「それは確かに厳しいか。ちなみに教会って運営費とかどうなってるの?村だと自給自足と寄付で成り立ってたんだけど」


「一応、首都の教会なので多少は出るのですが…お恥ずかしい話切り詰めても足りないのが現状です。子供たちが自立するまでもう少しかかりますし、巣立って行っても新しく入ってくる子の方が多い年もあるくらいですから」



 私も両親がいないけれど、親がいない子どもっていうのは庶民だと珍しくはない。

親族が引き取ってくれなければ知り合い、それでもダメなら教会へっていうのが一般常識だからね。

 親がいない理由は、モンスターや盗賊、事故など色々あるみたい。



「この辺って物価高いしやっぱり食費結構かかるっぽいなぁ。時間があれば畑耕せるようにしておくね。私のことはライムって呼んで。歳も近いみたいだし」


「そう、ですか…?ふふ、私同世代の友人がいないので嬉しいです。私の事はミントと呼んでください。裏庭には野良ネズミリスの他に野犬が来ることもあるので気をつけてくださいね。鎌などはないのですが…大丈夫ですか?」


「草刈りするってわかってたから短剣持ってきてるし、平気だよ。私も同世代の女友達がいなかったから友達になってくれて嬉しいよ。キリのいい所で止めても大丈夫?」


「はい。宜しくお願いします。私は先ほどの立っていた場所にいますので、帰る前に声をかけてくださいね」



本当はもっと話をしたかったけれど、時間も限られてる上にミントもシスターのお勤めがあるみたいだから早目に会話を切り上げる。

 紺色のシスター服が消えるのを見送ってから、裏庭へ向き直った。


 広さは畑二枚分といった所だ。

雑草は私の脛のあたりまで好き勝手伸びてるし、時々ガサゴソと野良ネズミリスが動いているのが見える。



「いよぉし、まずは先に野良ネズミリスをやっつけて端っこから雑草刈りだね」


念の為に持ってきた武器を構えて地面を掘り返している野良ネズミリスを片っ端から殴っていく。

 魔力を込める量の調節なんかも練習できたのは私にとってかなり嬉しい誤算だった。

野良ネズミリスを9匹程退治して討伐部位を切り取った後は念の為血抜きの為に近くの木に皮を剥いだ元野良ネズミリスを吊るしておく。

 なんか、食べられるっぽいんだよねー、このお肉。



「草刈り草刈りっと。あ!早速アオ草発見!」



武器を短剣に持ち替え草刈りをはじめたんだけど、これがまぁ捗る捗る。

 やったらやっただけ素材に出会えるんだから俄然気合も入るものだよ。

アルミス草を始め、アオ草や枯れたばかりのアオ草の塊茎もいくつか採取できている。

倒した野良ネズミリスから三つほどクミルの実も拾えたし、幸先はかなりいい。



「苦草も森側で見かけたから採取しておかなきゃ。あれのお茶美味しいんだよね…ちょっと苦いけど」



苦草からはセン茶っていう茶葉が作れる。

実はこれ、調合で作る以外に自力でも作成できるのだ。

 作り方は蒸して、干すだけ。

ちょっとだけど魔力も回復するし、おばーちゃん曰く風邪を引きにくくなるんだって。

独特の苦味があるけど慣れると美味しいんだよね。



「まだ私の腕じゃ抹茶は作れないけど…いずれ作れるようになって、抹茶のクッキーと蒸しパン作ってやるんだから」



それからは夢中で採取と草刈りをした。


 住んでいた場所が場所だけに自給自足には慣れてるんだよね。

当然、草刈りや薪拾いなんかも日常的にしていたし、そのついでに採取をするのは当たり前だったからこういう作業はお手の物だ。

 短剣でザクザク雑草を切りながら、素材を見つけてはおばーちゃんに教えてもらった通りに採取をする。

採取もモノによっては採り方によって品質や効果が下がることもあるから要注意なのだ。

…今採取してるのは殆ど雑草みたいなものだから適当に刈り取っても問題はないんだけど。


 そんなこんなで夢中になって草と素材を刈り取りまくった私は、響き渡る五刻目の鐘で漸く腰を上げた。

同じ姿勢で長時間草刈りをしていたので体中からバキバキ音がする。

 思い切り背伸びをして、刈り取った成果である雑草を森の近くに一まとめにして運び、残りの素材は持ってきた袋に入れておく。

勿論討伐部位も忘れずにポーチにしまった。



「大体三分の一ってところだし、明日は耕す位は出来そうかな。できれば朝露なんかも欲しいし、起きたらすぐに作業しに来よう。血抜きしたお肉は…ミントにあげよう。宿で調理してくれるかどうかもわかんないし」



素材も想像以上に集まったし、ついつい顔がにやけてしまう。

 早く調合したいなぁ、なんて思いながらミントに声をかけて今日の作業はここまでにして明日は朝早めに来ると言えば教会で作っているお昼ご飯を分けてくれることになった。

多分だけど、血抜きしたお肉がいい賄賂…ごほん、いい対価になったんだと思うんだよね。

お肉って買うと結構するし。

 昼食代が浮いたのが嬉しくて思わず抱きついちゃったんだけど、ミントは少し驚いただけで後はクスクス笑っていた。

 野良ネズミリスの討伐部位は明日仕事が終わってからだしに行くつもり。

数が多い方が報酬高いかもしれないし。



よぉし、頑張って小金を稼ぐぞー!





ここまで読んで下さってありがとうございました!


=登場素材達=

【アルミス草】

現代でいうヨモギに似た草。

独特の香りがあり、広く庶民に親しまれている。料理やお茶に使われる。


【センマイ草/苦草にがくさ】

苦草とも呼ばれる独特の苦味のある薬草。ライムの祖母が名づけた。

少し前まではただの雑草として扱われていた。

セン茶・ブラウンティー・アールグレイという三種類の茶葉になる。

セン茶から作られる抹茶は調合茶の中でも最高峰の難易度を誇る。


【セン茶】

センマイ草+スライムの核+浸水液。

独特の苦味がある、薄緑~緑色のお茶。調合で作成した場合は魔力が少し回復する。

尚、セン茶はライムの祖母オランジェのオリジナル。世には出ていないレシピの一つ。


【アオ草/ソウエン草】

ベル型の薄青~青の花を咲かせる薬草。使用部位は花びら。

花が枯れた三日間だけ地下に塊茎をつける。

花は初期の回復薬に、塊茎は上位の回復薬や薬に用いられる。

稀に白の花をつけるが大変貴重。アオ草の呼び名は雑草だった頃のもの。

雑草のときの呼び名が浸透している為、一般的にはアオ草と呼ばれる。


【クミルの実】

 野良ネズミリスが持っていたり、秋に良く収穫され料理やお菓子によく用いられる木の実。硬い殻を割って中にある種子を食べる。実は独特の香ばしさと食感があり大衆に人気がある。秋に収穫し冬に備蓄食材にも。現代でいうクルミ。



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[気になる点] 野良ネズミリスについて少々気になっています。 16話にて『なんか、食べられるっぽいんだよねー、このお肉』と『血抜きしたお肉は…ミントにあげよう。宿で調理してくれるかどうかもわかんない…
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