169話 五人の集落代表者
ちょっと早めに更新!やった!!!
休みばんざい。
個人的にカリカリ豆を凄く食べてみたいです。
たぶん、おつまみパックにある、ココアピーナッツみたいなイメージ。
ココア味じゃないけど。
※【ゼーレフックの実】の味として『ピーチェとアリルを足して二で割ったような味』という一文がありますが、アリルは果物の一種で現代で言うリンゴのようなものです。
リアンの弟も『アリル』という名前ですので、ちょっとややこしいかなと注意として記載しておきます。
私たちの到着を待っていた五人は、まとめ役のような立場にいるんだろう。
挨拶を口にすると集落長だという人以外がキョトン、と目を瞬かせて顔を見合わせている。
私と言えば、驚くようなことをした覚えがなくて戸惑う。
叩かれたところを撫でながら偉い人っぽい彼らの様子を窺ってみることに。
五人いる内の二人はフード付きのローブを被っていて、顔が出ているのは三人だけ。
その中の一人は包帯グルグル巻き、もう一人は仮面をつけていた。
(こんなに厳重に体を隠す必要があるってことは見せたくない何かがあるって事だろうから……火傷の跡とか病気の痣が残ってるとかそんな感じかなぁ。人の目を惹きつけちゃう何かがあるんだろうな、全員。見られるのにウンザリしてるのは間違いなさそう)
ちなみに、リアンに叩かれても痛みはない。
あるのは衝撃だけなんだよね。
「何も頭叩くことないじゃない。初めて会う人に挨拶するのは普通のことでしょ」
「だとしても、だ。状況と相手を考えろ。これから交渉をする相手に敬意を払わないでどうするっ」
「敬意払っているから挨拶したんだけど。それより、私の頭パシパシ叩くのやめてよ。私はリアンの頭に届かないんだからッ! 頭を叩かれて馬鹿になったらどうしてくれるのさ」
「叩いたくらいで知識が飛ぶようなら、その程度の頭だったということだ。諦めるんだな」
「首席で眼鏡だからって、そういうこと言ってるといつか後悔するんだから」
それは楽しみだ、と淡々とした声で言い返されてムッとしたので足を踏んでやった。
ふーんだ。
プイっと顔をそむけると呆れたようなヨギに見下ろされていて、うっかりいつもの調子でやり取りしていたことに気付く。
慌てて笑ってみたけれど、彼らには効果がなかったらしい。
真ん中に立っていた人が咳払いをしたのでそちらへ視線を向ける。
すると、彼はスッと長い袖を動かし入り口の横にある小さな建物を指さした。
一階建ての大きな建物だった。
柱やなんかは全て木でできているようだ。
屋根は光沢のある黒っぽい煉瓦で光沢はあるんだけど上品な艶。
でも一番変っているのは、壁の代わりに布が壁の役割を果たしているところだろう。
壁の代わりに光の加減で淡く輝きながらも壁としての役割をきちんと果たしているらしい。
不思議なのは、屋根と床には十センチ程度の隙間があること。
床は土台となる石と木を組み合わせているらしいんだけど、強い風が吹いたりしたら土埃やゴミ、雨なんかが入ってきそう。
(雨に関しては結界の中には入って来なさそうだから、問題ないのかもしれないけど)
珍しい建物だったこともあって、つい身を乗り出す様に覗き込むように観察していたらしい。
ライム、と呆れたように名前を呼ばれて慌てて姿勢を正した。
「ご、ごめん。ああいう感じの建物初めて見たから。すごいね、布もだけど、使われてる素材がぜんぶ高品質で私が見たことないものばかり! 壁が布っていうのも凄い。冬は寒そうだけど」
そんなやり取りをしていると小さく息を吐く音が。
慌てて口を押えて視線を向けると……五人組の真ん中に立っていた人が私の横を通り過ぎて、中へ入ってくる。
建物の入り口は広く、中の様子が何となくだけど外から見える。
ぞろぞろと入っていく五人へ頭を下げていたヨギが行くぞ、と声をかけてくれたことで、漸く我に返った。
そうでもしなきゃ、私は暫く夢中で周囲を観察していた筈だし。
結界の外とは違う、乾いた土の上を歩いて建物の中へ。
入り口で靴を脱ぐように言われたので懐かしく思いながら、靴を脱いで揃える。
「……随分慣れているな」
「おばーちゃんと暮らしてた時はそうだったから」
なるほど、と頷いたリアンは私より半歩先を歩く。
リアンも靴を脱ぐことには慣れていない筈なんだけど、とそこまで考えてこの集落に行きたいと言ったのが彼だったこと思い出した。
(そりゃ、知ってるよねぇ。私からしたら珍しいものばかりだけど)
適温に保たれた過ごしやすいその部屋の中には、不思議なものがいくつも在った。
私達が建物に入ると陽が昇っていないのにもかかわらず、相手の顔や表情、細かな装飾品までしっかり判別できる明るさだ。
「―――……まず、ヨギ。報告を」
重々しく告げられた言葉にヨギはパッと足を折り畳んで床の上に座り、両こぶしを膝の真横へつけ頭を軽く下げた。
(昔おばーちゃんにきいた土下座ってのに似てる)
でも、ヨギから伝わってくるのは真っすぐな尊敬みたいな、憧れの人に自分の言葉を聞いてもらえるという喜びのような感情。
忠誠心っていうのを形にしたらこうなるんじゃないだろうか。
ヨギの報告は、結界に関することから。
原因がディルの召喚獣であること、召喚理由が『理から外れた者たちの宴』であり、確認したアンデッドの数は百を優に超えて三百にも上ること、アンデッドたちの進行方向が『雨霞の集落』がある方向だったこと等私たちの知らない情報も口にしていて少し驚く。
その話を聞きながら暫くしていない『正座』という両足を折りたたんで座る方法をとったことを少し後悔し始めていた。
この座り方って長く続けると足がビリビリするんだよね。
痺れない様に、バレない程度に足の指を動かしてみるけれど、たぶん、痺れるだろうな。
リアンは普通に足を組んで座っている。
私も足を崩せばよかった、と思いつつおばーちゃん直伝の正座でヨギの話に耳を傾けた。
(そういえば……あの鳥はどうするのかな。工房で育てるなら鳥の巣をつくらなきゃいけないよね)
話を聞きながら、サフルに預けたギフトートバードの幼体について思い出す。
リアンがいない間面倒を見てくれ、と言って預けていた筈。
元気かな、と考えつつヨギの低い声を聴いているうちに眠くなってきたことに気付かない振りをして報告が終わるまで耐えた。
私、偉いわーと半分眠りかけていた私は、リアンが立ち上がったことでハッと我に返る。
一瞬意識が飛んでいたらしく、慌てて周囲を確認すると呆れた目でリアンが私を見下ろして首を横に振った。
「ベル達を入れてもいいということになった。君も迎えに行くか?」
「え? ああ、いや、私はここで待ってる。どうせみんなここに来るんだよね。挨拶もしなきゃいけないだろうし」
「………ここに残るのか? 一人で?」
「そうだけど。だってリアンの知り合いで、話し合いも大体終わったんでしょ?」
報告は終わったが、と言葉を濁すリアンに首を傾げるとヨギに『二人で行動した方がいい』と言われたので立ち上がる。
足は、ちょっと痺れていたからよろけたけど、それ以外は普通だ。
ひょえ、と小さく悲鳴を漏らした私の移動速度にしびれを切らしたらしいリアンがグッと腕を引いて歩いていく。
「では、少々お待ち下さい。サブの武器は持ち込んでもいい、代わりに召喚師にこの腕輪をつけてきます」
そういうと迷いなく集落の入り口へ向かって結界の外へ。
大きな二つの大樹を結ぶ不思議な飾り付きロープを眺めていたけれど、考えても分からないので早々に諦めた。
集落の入り口にいるように言われたので、周りをうろつくこともできないし結構暇だ。
手首の縄は早い段階で外されたのでいいとして……どうせなら採取できそうなものがないか見て回るくらいはしたかった。
大きな木にもたれ掛かって欠伸をしているとポトリ、と頭に何かが当たる。
「? なにこれ」
初めて見る木の実。
上を向くとどうやら、大樹から落ちてきたようだ。
これから集落長の所に戻るのでその時に聞くことにした。
「それにしても見たことのない木の実だな。薄桃色の房ってか花みたいで綺麗だけど、ちょっと硬いし……食べられるのかな?」
匂いをかいでみたけど、木の皮っぽい匂いがするだけだ。
反対側の大木を見上げてみるけれど、同じような木の実は見当たらない。
上を見上げながら木の幹周辺をグルグル回っていると、外で待機していたベル達の姿が見えた。手には畳んだ雨除け布があったので駆け寄る。
トランクを開けられるのは私だけだからね。
洗っておいた、というディルにお礼を言って乾燥布に雨除け布を突っ込む。ギリギリ入った。
「今、荷物を仕舞うのでちょっと待っててください。あ、リアン丁度いいや。これ持ってて。ついでに鑑定宜しく。私、その木の実見たことないんだ」
「は? お、おい!」
慌てたような声が聞こえるけど、私はトランクの中にモノをしまうのに必死だ。
集落の人達を待たせるのも良くないだろうからね。
鍋やトレイ、武器などが入った袋や道具入れを預かってトランクへ。
そもそもトランクは私にしか開けられないから、少し不便だけど知らない人に中身を取られる危険がないのでこの位の不便は許容範囲だ。
「よし、終わり。乾燥袋は持ち歩かなきゃダメだよね……中に入れたら乾燥機能が止まっちゃうだろうし。サフル、話し合いが終わるまで持っててくれる?」
「お任せください」
嬉しそうにトランクと乾燥袋を受け取ったサフルは私達に一礼して静かに私の後ろへ。
どうやら私の後ろに立つのがお気に入りらしい。
サフルにお礼を言ってから立ち上がると、ベル達は興味深そうにリアンの手にある謎の木の実を眺めている。
駆け寄るとリアンが呆れた顔でため息を一つ。
「もしかして食べられないヤツ? もしくは、錬金術の材料にもならないとか」
だったら嫌だな、と思いつつ話しかけると木の実を渡された。
「目を離すと君は直ぐにどこからか素材やら食べ物やらを持ってくるが、一体どうなっているんだ」
やれやれ、と返されたそれを受け取ってポーチに入れようとしたけど、ポーチはトランクの中だ。
持って歩くしかないか、と諦めてヨギの後ろを歩く。
「で、結局なんだったの? これ」
「珍しい果物だ。名前は【ゼーレフックの実】というが、【フックの実】とも呼ばれている。この皮を剥けば食べられるようだが、味は分からないな。食べたことがない。錬金術に関係するのは、種。強力な毒にも解毒薬にもなるようだ」
「美味しいのかな。ちょっと聞いてみよっか。美味しいなら人数分あるし寝る前に食べよう」
ワクワクしながら木の実を大事に抱えて歩く。
やっぱりベル達がいると落ち着くし、楽しさが増えるなぁと思いながら不思議な建物へ戻る。
ただいまー、と言いかけて何とか飲み込んだ私はとりあえず偉いと思う。
建物に入る時、ベル達に『靴を脱ぐんだよ』と言えばベルだけが戸惑っていた。
ラクサも特に驚いた風もなくあっさり靴を脱いだのだ。
ディルはおばーちゃんと暮らしていたことがあるから、私と同じで靴を脱ぐのに抵抗はないってわかってたからいいんだけど……かなり意外。
例の五人は私達が出て行った時と同じ格好で座っていた。
「座りなさい。これから集落に入る資格があるか見定めさせてもらう」
そういうと座るように促されたので近くにあった座布団っぽいところへ腰を下ろす。
もちろん正座だ。足痺れるけど仕方ないもんね。
私の左右にはリアンとベルが。そしてディルはベルの横、ラクサはリアンの横へ座った。
サフルはヨギと同じ討伐隊の人に、奴隷なので主人と一緒に座る訳にはいかないという言葉が聞こえてくる。
私の正面には、顔を出している唯一の集落の人がいる。
高い背に、薄い褐色の肌と黒に近い茶色目。
けれど、左の眼が白く濁っているから見えていないんだろう。
(それにしても、ベル達は良く警戒できるなぁ。この集落ちょっとおばーちゃんと暮らしてた山の雰囲気に似てて懐かしいんだよね)
山に張っていた結界と同じような種類なんだと思う。
強い魔物除けと認識阻害の魔術が組み込まれてるとか何とかって言ってた筈だし。
詳しいことは今よりずっと子供だったから、覚えてないけど。
のんびりしていると私たちの前にお茶が出された。
湯気を立てる暖かそうなお茶は喉が渇いていたので有難い。
出された器を手に取るとじんわりと指先が温まってくる。
(凄いなこれ。ベルがよく使ってる陶器のティーカップに勝るとも劣らないって感じ。装飾がないけど、シンプルでこっちの方が好きだな。仮に、装飾なんかしたらすさまじい値段になるだろうし……ただでさえ、凄い品質なのに)
器の中身を零さないよう注意しながら眺めていると、左右から小さく名前を呼ばれて慌てて、ソーサーの上にカップを置いた。
うっかり飲みそうに見えたのかもしれない。
飲まないよ! たぶん。いろんな人に毒がどうのって言われてるし。美味しそうだけど。
いい匂いなのになー、と残念に思っていると目の前の人物がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「―――……これからいくつか質問をする。問題がなければ滞在を許可しよう。武器に関しても許可をするが、集落の住民に一度でも向けたら命はない」
なんだ、そんなことかと息を吐く私を余所にベルの警戒心は膨れ上がっているようだった。
怖い顔してるなぁと暢気に隣にいるベルを横目で眺めていると、お茶についての話になった。
「その茶には毒は入っていない。代わりに、自白剤を薄めたものが入れてある。効果は三十分。ああ、リアンは以前飲んでおるから淹れてはいないぞ」
リアンはコレを知っていたのか頷いていた。
少しだけ漂っていた緊張にピリピリとした息苦しさが加わったけれど、中に何が入っているのか教えてくれるのは親切だな、とカップに口をつけてグッと半分ほど飲んでみる。
「温度丁度いいよ。味は煎茶の渋みを抑えた感じかなぁ。良い茶葉使ってるんだと思う。少し甘く感じるし、香りもいいから」
自白剤は、嘘を言えなくなる薬だということは知っていたし、それに毒性がないことも理解できていたから安心できた。
リアンが頷いていたことを考えると毒も入っていないみたいだしね。
「美味しいのに……飲まないの? 冷めたら勿体ないよ」
初めて飲んだ自白剤入りのお茶は飲みやすくて美味しい。
自白剤が無味無臭で良かったと思う。
どうせ飲むなら少しでも美味しいか、味がしない方がいいもんね。
「ちょ、ライムッ! あんた、自白剤入りだって聞いてよく飲めるわね?!」
喉が渇いていたこともあって、ついでにお替り貰えませんかと聞けば討伐隊のお姉さんが慌ててた。ちょっと申し訳ない。
どのくらいで薬が効くのかは分からないけど、私だって考えてることくらいあるのだ。
「自白剤って嘘が言えなくなるだけでしょ? 錬金術のレシピ聞かれたら困るけど、そういうことは聞かれないと思ったから平気だって。レシピを聞くような人だったら、リアンが自白剤入りの飲み物出していいよっていうとは思えないしさ。効果はたった三十分なんだから問題ないと思う」
平気だって、と隣にいるベルの腕を叩くと信じられないものを見る視線を向けられる。
そんな変なこといってる?と驚いていると、ベルの横から楽しそうな声。
「ライムらしいな。俺も家の事や手持ちの召喚獣のことを聞かないと魔術契約してもらえるなら茶を飲もう」
どうする、とディルが並ぶ五人に視線を向けると彼らはその提案を受け入れた。
ベルやラクサもそれぞれ譲れないという条件を書いて契約を結んでいるのを眺めながら、お替りのお茶を貰って飲む。今度はお茶菓子もついてきた。
「自白剤は入れてませんが……」
「あっても無くても大丈夫です。ありがとうございます。ところで、これってなんてお菓子ですか? 初めて見たんですけど」
取り合えず全員分のお茶菓子について聞くと、炒った豆に砂糖やハチミツなどをまぶして固めた『カリカリ豆』というお菓子らしい。
へぇーと感心して一つ口に入れると砂糖の甘みと、香ばしくいられた豆の食感が中々癖になる。美味しくて、もう一粒……と手を伸ばした所で雰囲気がピッと引き締まった。
慌てて背筋を伸ばして正座をしておく。
(皆真面目な顔してるし、私も真面目に答えないと。いつも真面目だけど)
何を聞かれるのかは分からないけど、と思っていると―――…他の四人がそれぞれ顔などに巻かれた布やフードを外し始める。
ポカン、と口を開けたまま固まっている私の前で隠したがっている筈の場所を晒した四人に大量の疑問符が浮かんだ気がした。
ただ、彼らの表情も声も真剣で茶化していいような雰囲気ではない。
雨の匂いを含んだ柔らかい風がフワリと建物の中へ入ってきて、私たちの頬を撫でた。
「コレを見てどう思った」
え、どういうこと?と咄嗟に返してしまって慌てて口を押える。
自白剤って怖いわ。全部声になって出てくる。
凄い効果だーと感動しているとベルが息を吐いて淡々と言葉を紡ぎ始めた。
「集落を『隠している』理由は、恐らく『容姿』による迫害などによるものが原因なのだと思いましたわ。あまり見ない特徴を持っていらっしゃいますもの。貴族や権力などが絡む世界では生きづらいでしょうし、生まれ育った環境によっては地獄のような、私達には想像もできない様々な経験をされてきたんだろうな、と。けれど、完全武装解除は警戒しすぎなんじゃないかしら。戦闘能力がないと舐められそうですもの」
ベルは話している間、じっと集落長の目を見ていた。
堂々とした発言に感心していると、次はディルが指名される。
ディルは無表情で一言。
「ライムと俺に危害を加えないならどうでもいいし興味もない。色々と聞いたり探った挙句、面倒ごとを背負うことになるのは御免だ」
とだけ。
ディルらしいなぁと思いながら、小さく腹が減って来たなと呟いたので間違いなく本音だな、と自白剤の効果の高さを思い知る。
次に、ラクサへ視線が向く。
「周囲の奴隷紋持ちに『犯罪奴隷』はいないようだし、雇い主の一人が『安全』と言っているのだからある程度は信用できる。が、コレだけ警戒しているなら関わらないのが一番いいんじゃないかと判断した。高度な技術が用いられた『集落』を作るくらいだから、実力は相当だろうし、戦闘になったら護衛としてどこまでやれるかわからねぇな」
いつもの口調じゃない、と思いつつ皆難しいことを考えているんだなと感心していると私の番が来た。
質問の内容を思い出した瞬間に口が動く。
「私みたいに注目を集めるのが嫌になって、自分達が住みやすい集落をつくったんだろうなぁって思っていたから、予想が当たって嬉しい。それより、建物とか集落のあちこちに使われてるのが凄く気になってて……作った人本当にすごい。全部見たことないし、知らない素材やらアイテムばっかり。見たことのあるものも凄く凝ってるし」
あ、本当に本音が出てる。
おお、と自分の喉を押さえてみるけど効果はなさそうだった。
私だけかもしれないけど、お互いに考えていることが分かって肩の力が抜ける。
大体みんな同じようなことを考えていたらしい。
「集落長。僕が連れてきた『友人』は、聞いての通り『基本的に』人の容姿にあまり興味がありません。ベルやディルは貴族ではありますが、かなり変わっていますし、ラクサも周囲の状況を見て、周りを利用しながら立ち回る性質で血気盛んな性格ではない。ライム―――…『双色』の髪と瞳を持つ彼女に至っては、この通りです」
危険といえば危険ですが、自白剤入りのお茶をお替りするような人間ですから警戒するにも値しません。とキッパリしっかり言い放った。
ピリッとしていた空気がなんともいえない空気になって、思わずリアンの服の裾を引いて睨みつける。
「ねぇ、リアン。私の紹介だけ凄く適当過ぎない?」
「自分の言動と行動を思い出してから物事を言え」
しれっと私の視線を無視したリアンにムッとして反対側にいるベルに同意してもらおうと声をかける。
「ベル、リアンが酷いッ」
「弁解の余地が一ミリたりともないから諦めなさい」
「ッスね。いつも通り過ぎて肩の力が抜けるッス」
「ライムは昔から変わらなくて俺は嬉しいよ」
前を向いたまま私を見ようともしないベルと、その横からひょっこり顔を覗かせるラクサとディル。
全員で肯定しなくても、と項垂れると並んでいた五人のうちの一人が突然噴き出して、空気がびりびりと響くような大きな声で笑い始めた。
何事かと思わず身構える私たちにその人はフードを外す。
この時初めて分かったんだけど、エルフ族のようにみえた。
判断に困っている理由は、片方の耳が長くないからだ。
けど、ニヴェラ婆ちゃんと同じような感じがするから合っているとは思うけど。
エルフの人の近くにいると森にいるような感覚になるんだよね。
ニヴェラ婆ちゃんは晴れの日に大木の木陰で休んでいるような感じの穏やかな森みたいだった。
(この人は、雨上がりの森の中を歩いてる感じ)
ただ、そんな人がどうしてお腹を抱えて笑っているのかが分からない。
彼の笑い声は少しずつ五人にもジワジワしみこむように伝わって行ったらしく、みんな大なり小なり笑っていた。
「ヨギ、今の笑う要素どっかに転がってた?」
私さっぱり分からないんだけど。
思わず助けを求めて視線を向けるけど、ヨギはヨギで太い腕を自分の口に当てて、背を向けて小刻みに震えながら丸くなっていた。
時々我慢できなくなったように噴き出すような音が聞こえてくる。
「……ねぇ、さっきまで真面目な話してたんじゃなかったっけ。私の気のせい?」
「アンタの所為でしょ」
「私の所為なの?!」
なんで!?と抗議したら、何人かの笑い声が大きくなった。
もうこれ何も話さない方がいいな、と悟った私は遠い目をして壁へ視線を向ける。
布製の壁からはいくつもの光が差し込んできていて、夜が明けたことが伺えた。
差し込んだ朝日は布を通して柔らかく変化し、私達を照らし出す。
私は、楽しそうな彼らを眺めながら冷めかけているお茶をぐっと飲み干した。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
最初こそ、シリアス展開になるんだろうなと思って真剣に書いていたのですが、途中でおつまみ昆布を食べ始めたからか、ほんわかしてきました。どうしてこうなった。
真剣な話し合いって飽きてくるし眠くなるから仕方ないかな。
誤字脱字・変換ミスには気を付けているのですが発見してしまった場合は、そっと教えて下さると嬉しいです。誤字報告だと助かります。「ポチッとな」って出来るので。
感想・評価・ブックなどとても有難く励みになります。お気軽にどうぞ!
が、読んでくださるだけでも十分すぎる程に有難く思っています。
長い上にゆっくりペースなのにお付き合いいただけて幸せですほんと。
次回も描き上がり次第upする予定です。が、大体一週間くらいを目安に見て下さると助かります。
=果物=
【ゼーレフックの実】
魂をひっかける実。フックの実とも。
三~九房までヘタで繋がっていて花のようにも見える。硬く薄い皮を剥くと薄ピンク色の実。
繋がっていない方の実の先端はフックのように丸まっている。
不思議なことに実をつけるタイミングが分からないが、とても美味しい。種は実の中に一つ。
一センチの楕円形。オパールのような遊色を持った不思議な種が取れる。
強力な毒であり解毒薬にもなる。半分にして装飾品にすることが多い。
実の味は人、ピーチェとアリルを足して二で割ったような味。
程よく甘く、外がさっくり中はトロリ。皮を剥くまで匂いはしない。