159話 冒険者のうわさ話とアレの動向
大変遅くなりました!ぎ、ぎりぎり一週間……ッ(震
モンスターについての話があります。
鳥と虫。虫は再登場です。
ありさん。ありあり。
冒険者のフィニさん曰く『美味しいご飯は生きる為に必要不可欠な要素』らしい。
わかる、と頷いたのは意外にもBランク冒険者全員だ。
私達が顔を見合わせると彼女は自分たちの経験を踏まえた話をいくつかしてくれた。
彼女たちが話し上手っていうのもあるんだろうけど、錬金術師とは違った視点で語られる経験談は新鮮で凄く面白かったんだよね。
行ったことのない場所の情報が得られることも楽しいけど、それ以外にも為になる話が多くてリアンは熱心にメモを取っていたし、ベルは感心したように頷いていた。
暫く馬車に乗っている全員で会話をしていると虫嫌いの青年が最近聞いたという噂について話し始める。
「雫時にだけ見える光景って結構多いって聞きますね。僕らはまだ見たことないんですけど……そういえば、今年のミルミギノソスは地上に出たっていう話をチラっと聞いたんですが何かご存じですか? 多くは聞いていないので、デマかとも思ったのですが」
ミルミギノソスってなんだっけ、と考えているとディルが耳元で蟻型のモンスターだと教えてくれた。
「聞いたことある。えーっとなんだっけ、いっぱい蟻が出てきて……出てくる場所によってその年の雫時に増えるモンスターが分かるんだっけ?」
「ああ、その認識で間違いない。集合地点は基本的に森で餌が豊富にある場所だ。雑食性ではあるが毒虫を特に好むことから沼地などに多く集まる習性がある。あとは、毒キノコ等が多い場所にもよく出るな」
そういわれてハッとする。
昔、雨が少し降り続くと時々大きな黒い虫がキノコを食べているのを見たことがあるのだ。
目的のキノコを食べてたから近くにあったでっかい石ぶつけて、手ごろな枝で思いっきり何度も叩いたから間違いなし。
硬い殻みたいなのが砕けるまで頑張ったら動かなくなったけど。
もしかしてそれかな、と思ってディルに話したら頷いてた。
隣にいたリアンが頭を抱えて、ベルが顔を覆って天井を見ているのが目に入った。
「あー……ライム嬢。あまりそういうことはしない方がいいよ。昆虫の類いは仲間を呼ぶものも多いからね」
「分かりました。そうですよね、その時は一匹しかいなかったから、両手で抱えられる程度の岩持って上手く頭に落とせたから良かったですけど……運よく岩があるとも限らないし、頭じゃなくて、胴体にぶつかってたら仲間を呼んでいた可能性もあったんですね。知らないって怖いなぁ」
「いや、オレっちは普通に岩と枝で結構デカい蟻を初見で殺せるのが凄いとおもったんスけど。殺意高すぎじゃないっスか? 普通逃げるんじゃ」
「え、でも目当てのキノコ食べられてたらそのくらいするよ。キノコの取れ高は冬の食糧事情に直結するし、本当に大変なんだから」
何言ってるの、と首を傾げると危ないことはしないでくれと真顔でディルに怒られた。
反射的に頷いたけど確約はできないんだよなぁ、と苦笑する。
「けど、ミルミギノソスについてはオレっちも確かめたいことがあったんス。アレは複数の場所に出るっていうのは知ってるんすけど、聞き込みしてもイマイチ情報が少なかったンで通年通りなのかと……そーゆーことで、何か知ってたら教えて欲しいッス」
参りました、と頭を掻くラクサを見た虫嫌いの魔術師 ナスタさんが頷いている。
どうやら彼もラクサと同じように情報が集まらなかったらしい。
彼は続けた。
「僕が地上に出たかもしれないって聞いたのは行商人の方からだったんです。その人も確信は持てないらしくて……通りがかったボロボロの冒険者が仲間内で話しているのが聞こえて来ただけだったそうで。詳しく聞こうと思ったようなんですが、怪我が結構酷くて回復薬も使い切ったらしく……かなり切羽詰まっていた様子だったので声が掛けられず真偽のほどは」
フルフルと首を横に振ったナスタさんに今まで黙って水袋の水を飲んでいたガレーノさんが、眉を寄せた。
彼はBランクパーティー『雪獅子の鬣』のリーダーだ。大剣使いで、腕力補正っていう才能があるようで大剣を二本使った戦闘を得意としているらしい。
片方の剣で攻撃、もう片方は盾や武器としても使っていて攻撃は重く、それでいて早いとベルが興奮していた。
「ウチではそういう話は聞いてねぇな。ミルミギノソスより今年は鳥害が酷ぇって話しばかり聞くぜ。鳥が増えた原因はいくつかの“例外”が重なったからだ。なんでも、赤の国で鳥の卵を食う蛇系のモンスターが少なかったらしい。こっちは、多かったり少なかったりを繰り返してるからある程度想定してたんだが……今年になって、どっかの王族が気紛れに冒険者の真似事なんぞを始めたとか、山の資源の調査をしてるとかで思う様に討伐ができなかったそうだ。結果として鳥の卵が回収できず、鳥が増えた」
そのお陰で鳥の羽なんかは割と高く買い取ってもらえるぞ、とガレーノさんは続けた。
私はあまり詳しくというか、さっぱり知らなかったんだけど今赤の国では『後継者』を決める儀式の準備をしているらしい。
国王はまだまだ元気だけど、元気なうちに次の国王候補を育てるんだって。
「基本的に鳥系のモンスターは渡りと定着のどちらかに分類されるんだが、今回は質の悪いのがいるらしくってな……アンタらも気を付けた方がいい。大部分が大して問題のない鳥だが、厄介なのが一種類確認されてる」
「鳥で厄介、というと【ギフトートバード】でしょうか。確か毒鳥の中でも一番厄介なモンスターだった筈。他の毒鳥は中型ばかりだから狙いやすいし、毒は限られた部位にしかないから厄介とまではいかない」
にこっと微笑んでフォリア先輩が【ギフトートバード】について説明してくれた。
掌に乗るくらいの小さな鳥で見た目は可愛らしく、円らな紫の瞳と黄色の鮮やかなクチバシ。
黒い頭と胸とは真逆の黄色に近いオレンジの翼と黄色と紫の尾羽。
派手であまり見かけない配色は暗闇でもうっすらと発光するらしい。
「ドラゴンですら食べないと言われてる鳥としても有名なんだ。天敵は毒を無効化できる特定の蛇とアンデッド族くらいかな。鳴き声くらいだよ、毒がないのは」
「全身が毒ってことは、毒を抽出すれば色々作れる……?」
「死骸を回収できたら煮てみるか。毒があれば解毒薬が作れるかもしれないな。まぁ、猛毒用の解毒剤もしくは万能薬で毒は消せるしやってみるのも良さそうだ」
「私には必要ないですけれど、仕込み毒としては中々有用そうですわ」
見たことのない毒をもつ鳥の利用法について普段通り話していると、冒険者たちが何とも言えない顔で私たちを見ていることに気付く。
どうしたんだろうと首を傾げると言いにくそうにフィニさんが口を開く。
「ううん、いくら良い子でも『錬金術師』なんだなと思っただけ……で、えーとモンスターの目撃情報についてだけど私達『レッドクローバー』はある程度知っているから教えておくわ。リーダーからも許可は貰ったしね」
情報料は、とリアンが口を挟むといらないと断られた。
あくまで推測の域を出ないかららしい。
証拠はないし、話半分に聞いておいて欲しいと告げられた。
「まず。ミルミギノソスだけど地上に出ている個体が数体確認されているみたいね。ただ、駆除が上手く行っていたところ以外という注釈がつくの―――……恐らく、だけど過去に討ち漏らした個体が上位種へ進化するためにより多くの餌を求めて地上に出てきたんでしょう。実際戦った冒険者や騎士は“あれは普通のミルミギノソスじゃない”って言っていたみたい」
外殻の色も黒ではなく赤っぽかったみたいだし、と話して【ギフトートバード】についても話してくれた。
「で、ギフトートバードも同時に確認されてるわ。主食が毒虫や毒を含んだ木の実、キノコっていう鳥だから納得は出来るんだけど……食ったり食われたりしているうちに毒が強くなっていくみたい。互いにある程度消耗した所でまとめて叩くのが一番いいわ。鳥の方は素材を剥げないけど、ギルドに持っていけば一羽につき銅貨5枚になるみたいね。ミルミギノソスは額にある3センチくらいの石と胸部が高く売れるから剥ぎ取れるなら剥ぎ取った方がいいわ。知っているとは思うけど、口布とあるなら頭を保護する布、厚手の皮手袋は忘れない様に。肌の露出が多い場合は長いローブか何かを着るように」
ここまで詳しく説明してくれたのは多分、というか間違いなく私たちの為だろう。
初めて聞くことばかりだったのでお礼を言えば、フィニさんは嬉しそうに笑って腰を落ち着けた。
彼女たちは着替えなんかが入った袋をクッションの代わりにしているみたいだった。
結構なスピードが出ているのか馬車のガラガラという音がやけに大きく聞こえる。
チラッと外を見ると通り過ぎた道の向こう側は少し雲がかかっているように見えた。
雨雲っぽいけど風の向きを考えると今夜はまだ大丈夫だろう。
「―――…でも、雫時って物騒なんですね。私、今まで住んでた所に雫時なんてなかったからこっちに来て驚きました」
あはは、と笑えば冒険者たちは納得していた。
彼らは色々な土地に行っているからか『雫時』がない場所があることを知っているらしい。
どのあたり?と地図を開いてくれたからこの辺だった筈と指さすと遠いわ、と苦笑していた。
行ったことはないらしいんだけど、有名な錬金術師が住んでいた場所だって言われたんだよね。
多分おばーちゃんの事だろうけど。
それから森の中で気を付けた方がいいことなんかを聞いて、小休憩の後再び馬車が動き出す。
この頃には夜の為に寝る人たちもいたんだけど何かを思い出したらしいガレーノさんが私に小さな革袋を投げた。
何とか掌で受け止めた私にやるよ、と短く一言。
「若ぇ嬢ちゃんには珍しく虫の類いが平気みたいだし、使えるなら使ってくれ。処分に困ってたんだ。なんせ、今の冒険者は虫嫌いが多くてな」
開けてみろ、と言われて袋を開けると中にはきらりと光るものが見えた。
一つ取り出してみると虫の外殻――…背中にあたる部分のようだ。
「もしかしてこれってボタン虫ですか?」
ボタン虫っていうのは文字通りボタンに加工される虫だ。
美しい独特の光沢を持っていて硬さもあるので刻印を彫ることもできるみたい。
詳しい材料は覚えていないけど、ボタン虫は調合に使えたはずだ。
限られた場所に生える特定の葉っぱしか食べないから生息域は限られている。
おお、と一つ一つ取り出して眺めていると珍しい色ではないけど中々綺麗だ。
じっくり眺めている私を見て気分が良くなったのか、ガレーノさんはもう一つ私にくれた。
「沢山あるからこれも使ってくれ。嬢ちゃんみたいな錬金術師に使って貰えるならそれが一番いい」
大したもんじゃないけどな、と言われたので袋を覗き込むとそこには中くらいの瓶が入っている。
コルクがしっかり閉められていて見えなかったので取り出してみる。
瓶の中にはキラキラと輝く粉のような物が見えた。
何だろう、と考えていると思いあたるものが一つ。
「もしかしてコレって……」
「お。やっぱりわかるか。これは『ユーベルフライの鱗粉』だ。少し前にギルドから駆り出されて共同依頼を受けたんだが、その時にな。今年は蝶も大豊作で、大瓶で2つストックがある。この鱗粉は基本的に500gから取引できるんだが……これはそのあまりだな。貰ってくれっと俺らが助かる。こういうものの処分にゃ金を払わなきゃなんねぇんだ」
鱗粉に毒・麻痺・幻覚を引き起こす効果があるのは基本知識で、ギルドに処分料を支払って引き取ってもらわなきゃいけないんだって。
ウンザリした顔をしているので嘘ではないだろうと有難く貰うことにした。
「でも、いいんですか? これ私達じゃまだ採りにいけないし、少量でも欲しいって人はいるんじゃ」
「ああ、かまわねぇさ。これを欲しがるのは錬金術師ぐらいだからな。俺らも金になればと思って知り合いの薬師にも見せたんだが即答で『捨てろ』って言われちまって、金を払って処分するくらいなら貰ってくれた方が助かるってもんだ」
なぁ?と振り返った彼の仲間も全員頷いていたのでポーチに仕舞わせて貰った。
(けど、さすがにタダっていうのはなぁ。あ、そうだ。オヤツを作ったんだっけ)
申し訳なさより嬉しさが先に出ていたのは自覚があったけどガレーノさんは満足そうに笑って自分のいた所へ戻っていった。
そこでふとピザと一緒にパイを焼いたことを思い出す。
ここで出しても問題がないかリアンに確認して、自分達の分はちゃんとあって二種類とも食べられることを告げる。
貰ったものを見せると品質などを確かめたのか頷いてくれたので、ガレーノさんに話しかけた。
ガタガタという音が響くから少し意識して大きな声で話さなきゃいけないんだよね。
「あのっ! もしよかったらアリルかレシナのパイを食べませんか? 数があまりないので一切れとお茶くらいしか出せないんですけど」
私の声はしっかり彼らに届いたらしい。
驚いたように目を見開いていたけど、嫌ではなかったらしい。
「お。いいのか? 実はアンタらが食ってた昼飯が美味そうでな。良い匂いもしたし気になってたんだよ。あまりモンの鱗粉と虫で美味いものを分けてもらえるなら儲けもんだ」
そういって笑うガレーノさんにホッとしてトランクからまな板と焼きたてのアリルパイとレシナパイを取り出す。
揺れる馬車の中でトランクからまな板ごとパイを出すと香ばしい小麦とバタルの匂いと何とも言えない甘酸っぱい香りがフワリと広がった。
ごくり、と隣に座るディルが生唾を飲むのが聞こえて苦笑する。
「そういえば、レシナのパイってディルの大好物だっけ」
「ああ。久しぶりに食べる。レシナのタルトも好きだが、俺はこのパイの方がいい」
そわそわと落ち着きないディルに苦笑しつつ取り出した木の皿に切ったパイを一切れずつ載せていく。
二種類二つずつ焼いたので切れ目を入れて8等分したんだけど、私たちの分は既に確保済みだ。
ガレーノさん達はどっちを食べるかで少し悩んでいたけれどアリルパイ2つとレシナパイ1つ選んだので3切れ乗せた木皿を渡す。
お茶はカップを借りて補充しておいた薬缶から注いだ。
毒味は済ませているので彼らは安心してお茶を一口。
馴染み深い味だったらしく機嫌よくお茶を飲み始める。
レシナが残り8切れ、アリルが7切れになった所でフィニさんが何か袋のような物を持って私たちの前に移動してきた。
「ねぇ、コレって錬金術の材料になる? 最近行った所で手に入れた『ビジュフェザーの羽』なんだけど、半端でどうするか迷っていたの。これあげるから、そのパイ一切れずつもらえない? 足りないなら別の素材も出すからッ! 私、焼き立てのパイに目がないのよ。こんな黄金色でいい香りの、しかも食べたことがないレシナのパイなんて食べなきゃ損じゃない!!」
驚いて仰け反った私にフィニさんがいる方向とは反対からニュッと手がつきだされた。
今度は何だ、とフィニさんから視線を外すと虫嫌いのナスタさんがフィニさんにも負けない真剣な顔で私―――……の手元にあるパイを凝視している。怖い。
「ならば、是非! 私達にも分けて頂けませんか。ここには『塩石』の極上品が入っています。立ち寄った場所が塩石で有名だったので、多めに買い込んでいたのですが意外と使い道がなくって……これで足りなければまだ出せそうなものはあるのでお願いします」
何でこんなに必死なの、と聞きそうになったけど何とか言葉を飲み込んでリアンに助けを求める。
ベルは自分達がそれぞれの味を一切れずつ食べられるのが分かっているので、助けてくれるつもりはないらしい。
数は充分足りていたので、好きな方を選んで貰ってお茶と一緒にパイを渡した。
私達はもう一切れ食べられたんだけど、それはまた今度ってことでトランクの中へ。
―――……結局、『ボタン虫』『ユーベルフライの鱗粉』『ビジュフェザーの羽』『塩石(極上)』を貰った。
食べ終わって一息ついた所で、素材を鑑定したリアンが錬金クッキーを全員に、追加でパウンドケーキを3本だして渡していたので相場と比較してこっちがもらい過ぎだと判断したんだろう。
冒険者の人達はこんなに貰えないって言っていたんだけど、リアンが絶対に引かなかったので最終的にはホクホク顔で受け取ってくれた。
中でも錬金クッキーはかなり好評で、その場にいた全員が値段を聞いて絶対買いに行くと言ってくれた。
「もしよければこれを。Cランクでもないよりはいいと思うんだ」
青年三人組のリーダーを務めるルケットさんから紋章入りのハンカチを受け取った。
受け取ったハンカチをポーチに仕舞ったのはいいんだけど、前にもハンカチっぽいの貰ったなーと思い出す。
「このハンカチお店に飾ってもいいですか? まだ一枚しかないから並べたら綺麗だと思うんですよね。色も被ってないし」
「かまわないよ、そのつもりで渡してるからね。でも、そうか……紋章入りのハンカチってことは冒険者ランクC以上の冒険者に認められていたとは。随分早いね。店を開いて半年も経ってないって聞いたけど」
差支えがなければパーティー名を教えて欲しいと言われたので、リアンがパーティー名を告げると冒険者たちはギョッと目を見開いて二度ほど名前を確認された。
Aランクか、と呟いているのを聞いてちょっと驚いたけど、私は冒険者じゃないからその凄さがイマイチわからなかった。
とりあえず、ギフトートバードやミルミギノソスへの対応方法を冒険者たちに聞いてみることにした。
小腹が膨れて機嫌がいいらしい彼らは夜の見張りをする人以外、情報交換という名のお喋りをすることになった。
私はベルやフォリア先輩に誘われて『レッドクローバー』という女性だけの冒険者と話すことに。
ここでフィニさんをはじめとする人たちと夕食に作るものについて話をした。
主食になるものは自分たちで用意することにして、スープとメインになるものを作る。
何がいいかな、と考えつつ、一番簡単で人もいっぱいいるから串焼きにすることにした。
お肉のお金も払ってくれるらしいから気にせずに使う。
森が近いから夜の休憩場所に到着したらすぐに獲物を探しに行ってくるらしい。
獲れたら昼と夜にってことで話はしてある。
「にしても、大容量の収納があると便利ね」
「はい! 大きい鍋もいっぱい入るから助かってます」
「私たちもダンジョンにでもいって探してみる? 食材専用の収納袋欲しいし」
「欲しいって言えば【トリーシャ液】よね。アレ、凄くいいんですって?」
「ええ、サラサラになりますわ。私とこの子も使ってますの。ウチの看板商品ですし、特別にお譲りしましょうか? 旅先では商売はしないつもりだったので広めないで下さるなら……という条件付きですけど」
欲しい! と口をそろえた彼女たちに売ってもいいのか念の為リアンに確認したけど、今更断れないだろうと呆れられた。
お金は店売りと同じ値段で売る代わりにベルはちゃっかり同じ馬車にいる間は、手合わせをして欲しいと頼んでいたんだよね。
私にも何かして欲しいことはないかって聞かれたから、色々な話をして欲しいと頼んだ。
主に採取地について。
地図にも色々書き込んでくれたので私としては大収穫だ。
フォリア先輩は護衛みたいなものだから、とニコニコして見守ってくれていた。
他愛ない会話を交えて和やかに馬車に揺られること数時間。
天気が悪くないこともあって順調すぎるほどに進み、予定より一つ遠い休憩所まで行くことになった。
時々だけど、乗車している客全員の許可が下り、馬車の調子が良ければ予定を繰り上げて先に進むこともあるらしい。
「旅の基本は進める内に進む、なんだ。天候や人間関係、モンスターの出現状況で足止めをくらうことは多いからね」
良くあることだから覚えておくといいよと親切に教えてくれるフォリア先輩に尊敬の念を送りつつ、薄暗くなってきた窓の外を見る。
不思議と怖さを感じないのは、馬車に乗っている人たちの実力が確かで安心できる人たちだと思ったからかもしれない。
ベルにそう耳打ちすれば呆れた視線を向けられる。
「ライム、私が言うのもなんですけれど……貴女本当にいつか騙されて奴隷になりそうで怖いわ。卒業までに私かリアンの奴隷になっておいた方が色々安心できるわよ」
って真顔で言われる羽目に。
他の冒険者も私の言葉は聞こえていたらしく、笑っていたり嬉しそうにする人が半分、心配そうな視線を向けている人も半分くらいいた。
「いや、二人の奴隷になるのは嫌だってば……人使い荒そうだし」
「自分の奴隷なら遠慮なく使うわよ。まぁ、出来ないことは言わないけど―――……やっぱりリアンもやめておきなさい。絶対むっつりだから。鞭使いだし、色々細かいし性癖歪んでそうだもの」
「むっつり……? え、鞭使いだとダメなの? いや、奴隷になる気は全くないけど。あと、性格が歪んでるのは私も知ってる」
「いや、性格は歪んでるというか癖が強いというか……まぁ、いいわ。大して変わらないし。ライム、奴隷になりたくなったらいつでも言って頂戴。借金奴隷ってことで私が衣食住面倒見て差し上げますわ」
なにせお金と権力は有りますもの!と軽く胸を張ったベルにフォリア先輩も苦笑していたし、ディルは必要ならいつでも奴隷契約を結べるぞってどこから出したのか契約書を取り出してリアンに怒られてた。
暗くなって、魔石ランプが馬車の中を照らしている。
窓の外から馬車の走行音に交じって聞こえてくる虫の鳴き声を聞き流しながら、この日は結局二つも先に進んだ。
夕食の準備が少し遅くなったけど『レッドクローバー』の人達の活躍のお陰で想像以上に手間がかからず食事の準備が終わった。
お肉も大盛況で、焼肉の時に使うオリジナルのタレは冒険者達の口にもあったらしい。
美味い美味い、とお酒を飲みながら賑やかな歌や踊り、ちょっとした魔術を見せてもらって、見張りをする人の為のスープを作る。
ディルが入浴の準備をしてくれたので女性陣からはとても喜ばれ、ディルは見張りから外された。
寝床は馬車の中だ。
馬車の入り口には私たちのパーティーから一人。
ぐるりと馬車を囲むようにそれぞれのパーティーから一人ずつ見張りを置くことになった。
御者の人にも休むように伝え、休める内に休んでもらうことに。
どうやら冒険者全員が紋章持ちのパーティーだったことで信頼したようだ。
なんか、紋章は実績と人柄が認められた冒険者だけが使えるんだって。
寝やすくなる様に硬い木の床の上に長いクッション入りの布を重ねておく。
寝袋でもいいんだけど、あれだとパッと起きても抜け出さなきゃいけないから時間がかかるんだって。
夜の番、最初はベルがすることになったので馬車の中にはディル、リアン、ラクサ、フォリア先輩がいる。
次の見張りをするフォリア先輩は出入り口付近で次の番をする人たちと話をしていた。
「ライム、そろそろ眠るといい」
私は一番狙われにくいという御者側の壁で布団にくるまって横になっている。
手前には少しラフな格好になったディルが横になっていて、ラクサ、リアンという順番だ。
「ん……そうする。馬車で移動するのって楽しいけど、眠たくなるね」
欠伸を一つするとディルもつられたのかクワァっと欠伸を一つ零して私の頭の下にある枕をじっと見つめる。
「……やっぱり腕枕をした方が良くないか」
「良くない。腕痺れたらいざって時大変だし、咄嗟に動けないからダメだってリアンもベルもフォリア先輩も言ってたからダメだよ。他の人も強いから安心だけど、外は危ないってディルだって昔から言ってたじゃんか」
「それは、まぁそうだが。そうか……腕枕は駄目か。じゃあ、手をつなぐくらいならいいか?」
まぁいいけど、と頷けばディルが喜々として手を握って目を閉じる。
良く分からないけどディルも馬車で寝るのは初めてなのかもしれない。
自分より強い人たちがいるって言っても、簡単に信用しちゃいけないみたいだし。
(なんだか旅って楽しいけど、相変わらず難しいや)
おやすみーと小声で挨拶をして目を閉じると直ぐに意識が遠くなっていく。
完全に眠りにつく前にラクサの「本当に手ぇ繋いで寝たんスけど、これ、え? どういう事っスか?」という声が聞こえた気がした。
手くらいなら邪魔にならないし問題ないと思うんだよねー。
ちょっと暑くて寝がえり打ちにくくなるのは問題だけどさ。
ここまで読んでくださって有難うございます。
いつもお待たせして申し訳ないです。ハイ。
比較的フォリア先輩は発言少な目ですが、『護衛』という任務中という意識が強いからだったり。
基本的には一番まともな人です(笑
誤字脱字などがありましたら誤字報告でお知らせいただけると助かります。
翌日の夜までには修正します。ハイ。
いつも読んで頂けて嬉しいです。たまたま目を通した、という方も有難うございます。
鈍足ではありますが少しでも楽しんで頂けるよう、何より楽しんで書けるようチマチマ続けようと思います。ハイ。
馬車は多くても2話くらいの予定です。
評価、ブック、感想なども有難うございます。
質問などがあればお気軽にどうぞ。
=モンスターや素材=
【ミルミギノソス】病気を運ぶ大型の蟻。
雫時(現代で言う梅雨)の数か月前に何処からともなく集まり、巣をつくる。
その際、巣を作る位置で雫時に増えるモンスターの傾向が分かる。
通常であれば巣は地下に作られる。
これは、動物系のモンスターや魔物に巣を荒らされない為と考えられている。
ただ、数年に一度地上に巣をつくることがある。
この場合は、毒を持った生物が多くなる。
ミルミギノソス自体が毒虫を好むことから、地上で捕食などを行う為だと考えられている。
また、ミルミギノソスを好物とする蛇や鳥系のモンスターも増える。
雫時が終われば、女王アリは死に、4~5体の小集団に分かれ餌を探しに移動する。
雫時に集まるのはあくまで繁殖の為。
毒虫を食べるので、ミルミギノソスは毒を持っていることが多い。
その種類も様々で、一番多く食べた毒虫の性質を帯びる。
額部分にある直系3センチほどの石が一番高く売れる。
また、胸部が硬く美しいのでこの部位も高く売れる。
【ギフトートバード】
別名:死毒の鳥。その名の通り全身に毒をもつ鳥。
頭と胸は黒。尾羽は黄色と紫。それ以外は黄色に近いオレンジという派手な外見。
クチバシは鮮やかな黄色で瞳は紫。夜でもうっすら発光する。
天敵は一部の蛇とアンデッド族。