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157話 馬車での過ごし方

遅くなりましたが、とりあえず同乗している冒険者たちが出てきました。

書くかどうか迷ったんですが……移動に時間がかかると必要かなぁって。


 さっくり飛ばすかどうかちょっと悩み中。

次は美味しいものを食べて、ちょっとお話しして、また美味しいものを食べる予定(爆




 ガタガタ、ごとごと。




 馬車が出発して景観が草原から山へ変わった。

まだ木々が生い茂る緑豊かな一般的な山だったけれど、進めば進むほど岩が多くなって、三日目にはほぼ岩肌というような景色に変わるらしい。


 岩肌が目立つ山、と言えば『忘れられし砦』で採掘をした場所がパッと思い浮かぶ。

あの場所で見た光景は中々忘れられないしね。

何か採取できるかな、と考えつつ周囲に視線を向けてみる。



(私たち以外の人に『新人』がいないのが一番嬉しいな。こんな事“新人”冒険者で半人前錬金術師の私が思うのもおかしいかもしれないけど)



 ベルとフォリア先輩が他の冒険者のリーダー役と夜番をする際の話をしている。

クッションに座りながらぼーっとしていると隣にいるリアンが妙に満足げなのが少し気になった。

色々考えて思い浮かんだのは一つ。



(機嫌がいいのは多分、新人冒険者がいないからだよね。出発前に愚痴ってたし)



「ねぇねぇ、乗っている人が全員新人っぽくないのって“予約”のお陰だったりする?」


「良く分かったな。今回は『新人冒険者を同乗させない』という対応を取ってくれたみたいだな。これは正直助かる」


「前の旅と、私はエルやイオと行った採取のお陰で『新人冒険者』にはあんまり良い印象がないんだよね。私たちも冒険者としては新人だけどさ」



 メモ帳に何かを書いて、小さな封筒に何かを書いた後、銀貨を3枚入れて御者さんの後ろにある開閉できる木製の窓を数回叩いた。


 すると、窓が開けられて二人いる御者さんの内、若い方の御者さんがひょこっと顔を覗かせる。

其処にリアンが封筒を差し出すと首を傾げながら封筒を受け取って、再び扉が閉まった。



「リアン、今のは何?」


「礼だな。基本的に馬車の管理やどういう配慮をするのかは予約者が乗る御者が調整するんだ。配慮が気に入ったら礼を言ったり、余裕があれば銀貨2~3枚を渡す」


「気に入ったら、でいいの?」


「ああ。僕としては、感謝はしっかりと伝えるべきだと考えている。御者だって客を運ぶだけが仕事ではないんだ。懐に余裕がなくても、礼は伝えて『手持ちに余裕がないので謝礼は払えないが、感謝はしている』というべきだ。出せるなら銅貨でも銀貨でも可能な限り渡すべきだ」


「忘れそうになるけど、忙しい合間に予約したお客さんのこと考えて準備してくれたんだもんね。時間と手間がかかってる分、見返りはある程度あった方が報われるし、次も良くしてくれるかもしれないってことでいい?」


「……君は本当に馬鹿なのか賢いのかわからないな。どっちなんだ?」


「少なくともそれが誉め言葉じゃないことくらいは分かってるつもりだけど」


「ふむ。君も学習できたんだな」


「久々に失礼じゃない? 別にいいけどさー」



じろりと横目で睨んでみるけど普段通りの涼しい顔だ。


 ディルとラクサはそれぞれ話していて、サフルは静かに私の後ろで待機中。

時々笑い声が聞こえるくらいには打ち解けている二人に少し驚いた。

だってディルはベルやリアンと馴染むのに少し時間がかかってたからね。

 今こうして二人が楽しそうに会話しているのは、ラクサって初対面の相手との距離の詰め方が凄く上手いからだと思ってる。



(にしても、凄い人たちと一緒になったみたい)



馬車の中央で冒険者数人とフォリア先輩、ベルが何やら難しそうな話をしている。

冒険者は各パーティーのリーダーだ。

驚いたのは全員が自分の冒険者カードを見せていたこと。


 興味が湧いたので見に行ってもいい、と指をさすとリアンが小さく息を吐いて頷く。

揺れる馬車の中は揺れる。

だから立たずに這って近づくと私に気付いたベルが振り返った。



「あら。丁度良かったわ、今呼ぼうと思ってたのよ」


「私に用事ってなに? 何かできそうなことある?」



ベルがフォリア先輩の間に座る場所を作ってくれたので座ると視線が集まった。

三組から一人ずつ出てきているらしい。


 一番若そうな人は20代後半の落ち着いた雰囲気の人。

右側に剣を置いているので剣士なんだと思う。

仲間は恐らく弓使いと魔術師か何かだ。弓と杖が傍にあるからね。


 今馬車にいる人の中で一番体格がいいのは、三十代後半の剣士だ。

大剣が傍に置いてあるけど違和感がない位にしっかりした筋肉と体つきで大きい。

ただ、気の良さそうな人といった印象が強いから怖くはない。

 後ろには槍と短剣の手入れをしている仲間らしき同年代の冒険者がいる。


 今回の馬車の中で一番目立つのは、40代くらいの優しそうな女の人だ。

私達に一番近い場所にいる四人の仲間も全員女性で同じような年齢みたい。

目があった何人かはお辞儀をしたり小さく手を振ったりしてくれた。

話し合いに参加している女性の傍らには杖。


(きっと魔術師、か何かだよね。仲間の人は短剣、薙刀、剣、刀か)


 珍しい武器は薙刀と刀だろう。

エルとイオが教えてくれたから覚えてたんだよね。

それ以上に女性の冒険者だけのパーティーって言うのが珍しい。


 フードを被っていたおかげで私の視線には気づかなかったらしいその女性が口を開いた。



「料理をしてるっていうのはこの方?」


「ええ。錬金科の生徒で『アトリエ・ノートル』を営んでいる錬金術師の一人です」


「お。その店なら知ってるぜ。同業者の間でも評判だって聞いてる。雫時が明けて首都に戻ったら行ってみるつもりだったんだ。ってことは、もう一人は後ろの眼鏡の兄ちゃんが錬金術師か」



頷くと人懐っこい中年のおじさんがニカッと笑った。


 俺にも同じくらいの娘がいるんだ、と話しながら冒険者カードを私に見せた。

ランクはB。

女性の方も冒険者カードを私に見せた。

コチラもBランクだ。

青年の方はこの若さでCランクは中々のモノだと褒められて照れくさそうに笑っていた。



「私達は採取に行くために馬車に乗っていますの。戦闘は出来ますし、身も護れますわ。けれど、今呼び寄せたこの子は戦闘が全く駄目なので外して頂いてもいいかしら。代わりに、そうね……何か作れそう?」


「温かい飲み物でいいなら作れるよ。いろいろ持ってきてるし」



頷いて提供できそうなものを思い浮かべてみる。


 果物を予め絞ったものは大瓶に5つ、何種類か持ってきているし足りなければまた絞ればいい。

お茶は香草を組み合わせて私好みにしたものが。

ミルの果汁を絞ったものもあるし、ワインもある。


 これもケルトスで買った。

ワインは苦手であまり買わないんだけど、リアンに安くて美味しいものを選んで貰ったから料理に使ってるんだよね。

小さな樽に白と赤を三つほど買ったから使い切っても問題なし。

料理酒にするだけなら二番街でも十分手に入るし。



「夜の番ってことは眠くならない方がいいんですよね?」


「その方がありがたいわねぇ。一応、寝過ごしたりすることはないけれど」


「あと、雨が降ってきたらやっぱり夜は寒いのかな……えーと、温かい方が飲みやすいでしょうか」



冒険者の人達にそう尋ねると頷いた。

個人的に飲み物を作るのは別に問題ない。

 問題はないんだけど、飲み物って割とすぐ飲み終わるんだよね。

お茶とかわりとトイレが近くなるし。


(雨が降ってくる可能性を考えると体が温まるジンジャールを入れたいな。野菜と違って果物って割と体冷やすものが多いから組み合わせるの難しい)


 どうしよう、と考えていてふと思い出したことがある。

おばーちゃんが徹夜で作業だって時によく野菜スープを食べていたのだ。

自分で作っていたこともあれば、私が作ったこともある。


 ただ、私としてはスープが夜の番に向いているのかどうかが分からないんだよね。

分からないことは聞いてみよう、と思って口を開く。



「飲み物だと、果実茶やグリューワインとかがいいかなーって思うんですけど、嫌じゃないなら野菜のスープも作れますよ。味はミソ味かマトマ味。どっちがいいのか分からないので判断して貰えると助かります」



 ポーチの中には新鮮な野菜もかなりの量を入れてある。

調味料に関しては遭難しても三年くらいは余裕でどうにかなる量を確保してあるので問題ない。

ちょっとした商売もできるんじゃないかなってコッソリ思ったのはここだけの話だ。



「いや、それだと食材がなくなるだろ。こっちの方面で商人の馬車とすれ違うことは殆どないぞ」


「北方面には北方面で、国が管理している大規模農場がありますからね。ここを通るのは宝石商や日にちが経っても品質が変わらないものばかりです。途中で購入するつもりでしたら、ほぼ不可能かと」


「そうね。食料はいざとういう時に大切よ。旅に慣れていないようだから覚えておくといいわ」



私たちの食糧事情を心配してくれる冒険者の人達にちょっとだけ驚いた。

 こういう風な心配をしてもらえるなんて思いもしなかったんだよね。

ほら、今まで関わってきた冒険者ってお店に来る人かチョット問題がある新人かの二択だったし。

想定外の返事に戸惑っているとベルが助けてくれた。



「それなら問題ありませんわ。便利な道具を持っていますもの……私としては野菜スープが食べたいですわね」


「私もベル嬢に同意だね。ただ、味はマトマの方がいいと思うよ。どちらも美味しそうだが、慣れた味の方が体調を崩しにくい。薬は節約したいしね」



そう笑うフォリア先輩に冒険者たちはお互いの様子を見て、フッと肩の力を抜いた。


 最初に笑い声をあげたのは中年の男性だった。

豪快に笑って、手を上げる。



「俺は是非野菜スープを頼みたい。ウチのパーティーメンバーは皆料理らしい料理ができなくてな。硬いパンと酒、干し肉を基本的に食って移動してんだ。不味いオーツバーは予備であるが、アレに手を出そうとは思わねぇ」



割と散々さ、と仲間がいる辺りに目を向けると全員が深刻そうに頷いていた。

 強くなっても食料が尽きそうになり、多少強引に危険な場所を通り抜けた経験が何度もあると笑っていた。

一応、食料を入れる袋は持っているが収納袋に入れるのは素材や戦利品、戦いに必要な武器や薬といった必要なものばかりで食料を持ち歩くスペースは極力減らしているそうだ。



「まぁ、水は便利な水袋をダンジョンで手に入れたから心配しなくていいんだがな。後は大概現地調達だ」


「貴方達よくそれで生きてるわね……私たちも野菜スープにしてもらえると助かるわ。グリューワインなら自分たちで作れるもの。それに野菜の類いは長期保存が効くものや乾燥させたもの、あとはその場で見つけるしかないから節約できるならしたいし」



女性冒険者の言葉に確かに、と同じようなものを持ち歩いているらしい青年冒険者も頷いた。


 彼らも簡単な料理はするけれど、あくまで冒険の片手間。

味を楽しむとかそういうものではなく『体を温める』『死なないようにする』為のものらしい。

 それを聞いていたリアンがこちらへ近づいてくる。



「失礼、もしよければなのですが少しだけ僕らの工房で扱っているモノをお売りしましょうか? 勿論、気に入ったらで構わないのですが」



にこっと笑うリアンはパッと見、親切な人に見えなくもない。


 私たちに害がないと思ってくれているらしい冒険者の人達はリアンの言葉にそれぞれ困惑していた。



「商品ってどういうことかしら」


「失礼しました。僕らは錬金科の生徒で『アトリエ・ノートル』という工房を運営しているんです」



簡単に自己紹介を兼ねてリアンが自分たちの立場や個人を特定できるような情報を話し始めた。


 冒険者の人達は、最初こそ戸惑っていたがすぐにリアンの言葉に耳を傾けた。

後で聞いたんだけど情報の真偽を判断する能力も優秀な冒険者に必要な素養なんだって。

リーダー達がチラッと仲間の方へ視線を向けると彼らも何かを考え、そしてその中の数人が私たちの工房に関する噂を知っていたらしい。


 これが決め手になり、信用を勝ち取ったリアンは食料系のアイテムを紹介し始めた。

勿論、生産量が限られていること等を踏まえ数は少なかったけれど、料理が作れないと言っていたグループは喜んでくれてモルダスに寄った際には必ず買いに行くと握手までしている。


 この販売が切欠でリーダー以外の人達も私達への警戒心を薄めてくれたらしい。



「ここまで馴染んだなら隠しておく必要もないんじゃないっスか?」



 そこでそんな声が馬車の中に響いた。

振り向くとラクサがクッションの上に胡坐をかいて座り、首を傾げている。

視線が自分に集まった所でひょいっと立ち上がり、私たちの傍へ。


 ニコッと人懐っこい笑みを浮かべて冒険者カードを見せ、自己紹介を始めた。

ベルやリアンも大丈夫だと判断したらしく私の名前を小さく口にする。



「ライム。馬車の中では構わないが、外では忘れずにかぶってくれ」


「何かあっても、互いに身元が分かってるから問題が起こっても対処できるわ」



2人の言葉に頷いてフードを取る。

すると初めて会う冒険者の人達は全員、目を丸くして酷く驚いていた。

 やっぱり目立つんだな、と再認識する私を余所に、彼らも私がフードを被っていた理由を察してくれたようだ。



「こういう事情があったのね。でも、これからは最初に『髪色が目立つから』って伝えておいた方がいいかもしれないわ。フードで髪や顔を隠している人間って『話しにくい事情があります』っていう場合が多いから割と嫌がられるもの」



そう女性リーダーが話し始めると隣にいた同じパーティーのメンバー女性も口を開いた。


 冒険者は一般的に、年齢が上がれば上がるほど優秀だと言われる。

理由は『冒険者=死にやすい』からだ。

冒険者で年齢を重ねており、冒険者ランクもC以上だとベテランと呼ばれて経験を生かした仕事が多く振り分けられるそう。


 中でも女性冒険者は中年にあたる30代から40代までがかなり少ない。

子育てなどで冒険者を休業することが多いからだ。



「そうそう。例えば高位貴族のお忍びだったり、犯罪者だったり……お家騒動真っ最中の面倒な相手だったり……ま、色々あったわ。Cランクの冒険者は必ず一度はそういった相手と対峙したことがあるから、素顔を晒していない人間に良い印象を抱かないんだよね」


「盗賊なんかも顔を隠している場合が多いし、素行の悪い連中や評判の悪い人間は絶対にフードは取らないわ。貴方達だって顔を隠した相手が近くに居たら気になるし、警戒するでしょ? まぁ、天候なんかによってはそれに当てはまらないこともあるから一概には言えないけどね」



感心する私たちに他の女性も口を開く。

 明るく話題も豊富な彼女たちは、冒険者としての経験か、私達の表情や動作だけで聞きたいことなどを推し量る能力に長けているようだ。



「貴方達はよく見ていれば『大丈夫』っていうのが分かるからそこまで神経質になることもないかもしれないけどね。普通に会話しているし、気配を消していないとなれば、犯罪者の可能性がグッと下がるから」



そう話して水袋の中身を空ける彼女たちはBランクの冒険者だけあって、様々な道具を持っているようだった。


 馬車の天井にフックのような物をぶら下げ、そこから魔石ランプを下げる。

私達の持っている魔石ランプは消してもいいと言われたのでランプを片付けたけど吊るされたランプのお陰で明るさは十分確保できそうだった。

まだ明るいので馬車の中は比較的明るいけどね。



「ああ、そうだわ。これも一緒に吊り下げて頂けません?」



 そういってベルがポーチから取り出したのはポマンダーだ。

冒険者たちもそれは分かっていたらしいが、キラキラと輝くポマンダーに数人が首を傾げる。



「これ、随分魔力が込められているけど……何かのアイテムかい?」



若い青年はベルが取り出したポマンダーを指さす。


 魔石粉のお陰でキラキラ輝くポマンダーは中々綺麗でいい香りもする。

女性陣が嬉しそうに笑いながら「いいわね、可愛いし香りもいい」と評価している一方で男性陣は錬金アイテムかもしれないと興味深そうに観察を続けていた。



「これは『虫よけポマンダー』ですわ。これを吊るしておけば馬車の周辺に虫は寄ってきませんの。これも私たちの工房で取り扱っていますわ」



この一言で若い男性冒険者の一人がパッと表情を明るくさせた。



「いやぁ、そんな便利なものがあるなら是非今度買わせていただくよ! 実は以前、虫退治の依頼を請け負ったことがあってね……色々悲惨だった。これがあれば安心して眠れるってことだろう?」



ええ、と頷いてベルが予備分のポマンダーがあるから買うなら売る、と言えば即決で購入していたのには全員が笑ってしまった。


 割と、男の人の方が虫嫌いって事が多いんだよね。

こんな雰囲気で私達は暫くお喋りをして、数度の休憩を挟み快適な馬車での旅を楽しんでいた。


 今回は乗客に恵まれたな、なんて事をコッソリ話しをしつつ開けた広場のようなところで馬車が止まる。

御者の一人が馬車の中を覗いて『ここで1時間半ほど休憩です』と声をかけてくれたので私たちは馬車の外へ飛び出した。


 ずーっと座りっぱなしって訳じゃないんだけど、それでもお尻は痛くなるし体も硬くなるからね。



「悪いのだけど、ディルを置いていくから昼食の準備を頼んでもいいかしら? 軽く手合わせをしてくれるっておっしゃって下さったから、打ち合ってくるわ」


「待て、僕は別に――――」


「リアンの旦那だけ逃がすと思ったら大間違いッスよ! 女性冒険者の方にも男性冒険者にも簡単な回復術が使える魔術師がいるらしいんで、多少の怪我なら何とかなるって言われたじゃないっスか」


「回復術が大前提なのが最大の不安要素なんだろうッ!? って、おい、引っ張るな!」


「ははは。俺っちとサフルだけが犠牲になるなんて冗談じゃないッス」


「ソレが本音か?!」



賑やかなリアンとラクサを見た冒険者の人達がお腹を抱えて笑っていたり、ベルが呆れた顔で二人を見ているのを眺めて、私たちは二人で昼食の準備に取り掛かる。


 ディルは、お手伝い要員だ。

そわそわしながら私の横で周りを見回して、他の人が一定の距離をとった瞬間に口を開いた。

トランクは既にディルが手に持っている。



「で、昼は何を作ってくれるんだ? 俺は何を手伝えばいい?」


「ピザでも焼こうかな。移動中は忙しくなさそうだし、ピザのついでにオヤツも作って置けば小腹が空いた時によさそうでしょ? 流石にピザだけだと脂っこいから、スープはマタネギで」



 ピザって言っても二種類用意しておいた。

一つは焼いてあって、もう一つは生地のまま。

 今回は焼いている生地を使うつもりだったので、作業工程自体は少ないし火加減も比較的楽だ。

具をのせてチーズが溶けるまで、鉄板に載せて蓋をかぶせて蒸せばいいんだもん。


 早速、とトランクから鉄板を取り出した私を見てディルが薪をどこからか出しながら首を傾げる。



「ピザを作るなら、釜みたいな形に土を固めた方がいいか」



「………なんて?」



「? いや、ピザを焼くならピザ釜やオーブンみたいなものがいるんだろう? パンを焼くには釜のような物が必要だと家の料理長から聞いたが」



こういう形の、と近くに落ちていた木の枝で地面にガリガリとパン屋なんかで見かける石釜と呼ばれる形を書き始める。



「此処に薪をくべて、この場所で焼く。大きさは二枚並べられる広さでいいか。使用後は更地に戻せばいいし作り終わったら土に戻せばいいから手間でもない」



そういうと良さそうな場所は、なんて呟きながらある一点を指さした。

其処には丁度雑草も生えていない、岩が平らにならされたような場所がある。



「ま、魔力は大丈夫?」


「あれだけの実力者がいるんだ、滅多に魔力を使うような事態にはならないんじゃないか? なったとしても、問題ないぞ。俺の魔力量はライムより少ないがリアンより多い。この程度なら馬車移動をしている間に回復する」



何より以前の旅でも作っただろう? と言われて頷いた。

ただ、毎回凄いものをあっさり作るから不安になるんだよね。


 石窯を作ったらトイレを作るから少し離れるが、見える位置には絶対にいるから安心してくれと言われた。



「うん。ディルが近くにいるのは私も確認しながら作るし、見えなくなったら名前呼ぶから大丈夫。採取だったらウッカリ……ってこともあるけど、料理作ってる時ならチラチラ確認もできるし」



 ディルが地面に何かを書き始めたので私はトランクを開けてテーブルや椅子などを取り出す。

こういう作業は一人で出来るかどうか考えて買うんだよね。

椅子とテーブルを出して、作業用のテーブルを出した所で凄い音がした。


 びっくりして振り返るとさっきまでなかった立派な石窯が。

口を開けて固まる私にディルはさっさと離れた所へ向かう。

トイレを、と言っていたんだけどまた地面に何かを書いていたのでそっと目を逸らしておいた。



「離れてた期間が長かったからか、昔は分からなかった意外な一面が見えてきてビックリ箱でも開けてる気分になるから面白いな」



 食べものの好みが変わらない所や面倒見がいいところは相変わらずだ。

懐かしくて思わず笑ってしまった。

本人には見られていなかったと思うけれどせめてものお詫びに夕食は気合を入れようと包丁を手に持つ。



 まずはピザに乗せる具を用意しないとね。


 ここまで目を通して下さって有難うございます。

誤字脱字などがあれば、申し訳ないのですが誤字報告などで教えて下さると非常に助かります。

読み返しても、こう……読み飛ばす癖があるのか脳内変換補正が強いのか、さっぱり見つかりません(汗


 評価や感想、ブックは勿論、というか当然のように嬉しいですが、読んでくださるだけで十分有難いです。

拙い文章ではありますが少しでも楽しんで頂けていたら嬉しいです。


=新しい食材=

【ジンジャール】

現代で言う生姜。

生姜と呼ぶ国は少なく、一般的にはジンジャールもしくはジジャと呼ばれる。

 乾燥した地域に生えるものとそうでないものがある。

乾燥した地域に生える物の方が辛く、薬効が高い。

薬としても使われるがスパイス、香辛料としてよく利用される。

保存性が高く輸入・輸出がしやすいことから砂漠地帯では『神の気紛れ』と呼ばれる事も。


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