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156話 優秀な同行者

ちょっと早めにup。

少し短めです。

次回は飯回が入りそう…



 その人はスッと目を細めて静かに微笑んだ。



私のことが分かったらしく、腰の剣に添えられていた手は頭に移動。

フードが取れない様にポンポンと優しく頭を叩かれて我に返る。



「ご、ごめんなさい。久しぶりに会えたので嬉しくて」



御者さんの驚いた顔を見て流石に不味かったかな、と謝るとその人―――…フォリア先輩は穏やかに微笑んだ。



「いや、嬉しかったよライム嬢。まさかここで知り合いに会えるとは思わなかったからね……君たちは旅行、かな?」



背後へ視線を向けた先輩はベルやリアンを確認してディルとラクサにも視線を向ける。

 へぇ、と感心したような声に首を傾げつつ質問の答えを口にした。



「錬金術に使う素材を採取しに行くんです」


「なるほどね。それにしても、召喚師が護衛以外の人間と旅をするのは珍しいな。召喚師は殆ど自分の科から出てこないし、街中でも見かけない。会うとしたら学園の合同実力証明演習で会う位だ―――…一年の時から他の科とのつながりがあるのは後々有利だしいいね」


「有利……あ、そっか戦闘向けなんでしたっけ。召喚師」


「そう。だから、国家資格で戦争になった時逃げられない様に貴族籍を与えるのさ。他の国も王族の考え方で、国家資格や三大職業が決まるんだよ。我が国は知っての通り、騎士・召喚師・錬金術師だけど……騎士以外は才能が必要だからその分色々手厚いのさ。有事の際はかなり大変だろうが、命を落とす危険性は少ない」



 御者さんがそっと私たちの傍から離れたのを目で追っていると、フォリア先輩は優しく微笑む。

見守る様な安心する笑顔に少しずつ肩の力が抜けていくのが分かった。

難しい国の話を分かりやすく教えてくれたことに感謝しつつ、一つの疑問が浮かぶ。



「召喚師ってよくわかりましたね。私は召喚師と錬金術師の服装の違いがイマイチ分からなくて。リアンとディルの服装って似てるじゃないですか」


「言われてみると確かにね。見分け方にはある程度コツがあるんだ。召喚師は雰囲気が少々特殊だからそのうち分かるようになるさ―――……さて、君たちもこの馬車ならご一緒してもいいかな?」



どうだろう、と敵意はないと示すように両手を広げて私の後ろへ視線と言葉を投げかける。


 リアンやベルは会った事があるから大丈夫だろうと思った。

 険しい顔をしていたのはディルだ。

少し意外に思いつつ様子を見ていると「名前は」と口を開く。


 ラクサはそっとリアンとベルに近づいて誰っスか、と耳打ちしていた。

ソレが聞こえていたらしくフォリア先輩は声を上げて笑った後『騎士の礼』をしてみせる。


 騎士科の準正装と呼ばれる服だったこともあってかなり様になっている。

優雅に一礼したフォリア先輩はディルを真っすぐに見ながら口を開いた。



「失礼いたしました。私はフォリア・ドラード・エキセアと申します。卒業後はエキセア家の領地を治める領主として着任する予定なので、今後社交界でもお会いするかと」


「エキセア家の次期領主か……なるほど、失礼な物言いをした。ご存じかもしれないが、ディルクス・フォゲット・ミーノットだ。俺も次期当主になる予定なのでよろしく頼む。領主ということは当主になるのはご子息か」


「その辺りは現当主が決めることですからね。私たちの国は女領主や当主が多いのでやりやすいですよ―――……それより、私はこれからこの馬車でシュツルへ行くから目的地が一緒なら嬉しい」



難しそうな話をしている隙に他の馬車利用者がいないか観察していると先輩に話しかけられた。


 ベルとリアンに視線を向けると頷いてくれたので、一緒に行動することに。

後で二人から聞いたんだけど、同行を許可した理由は身元がはっきりしているからなんだって。

あと、先輩が優秀だっていうのはエルとイオから聞いているし、知り合いでもあるので警戒しなくてもいいというのは凄く魅力的だったらしい。


 馬車に乗り込もう、と言った所で思い出したように先輩がそういえば、と口を開いた。



「エルやイオから聞いた話なんだが、ライム嬢の作る料理はとても美味しいと聞いた。もし、材料に問題がないなら食事を買わせてもらえないだろうか」



食事を買う、と言われてどう返事したものかと迷っているとリアンが私の横に並ぶ。

私としてはかなり多めに作ってきてるから一人増えたくらいでは問題ない。



「私としては問題ないです。元々、多めに作ってきてるし……あ。好き嫌いとかありますか?」


「いや、なんでも食べられるよ。苦手なものは元々ないし、好みじゃないとかそういうことを言う時点で騎士にはなれないからね。直ぐに死んでしまうよ、そんな甘い認識じゃ」



ははは、と爽やかに微笑むフォリア先輩にミントが重なった気がした。

 そ、そうですか……と辛うじて返事をしたんだけど、フォリア先輩は続ける。



「毒に対する耐性もあるから虫でも平気だよ。栄養になるなら大体食べられるからね」


「虫食べるのって騎士なら当たり前なの? ベル」


「当たり前というか……一通り食べられるように訓練はしますわ。配属先によっては食べるものがないところもありますし、思う様に食糧確保ができないことなんてザラですもの」


「そ、そっか」



皆虫食べるのか、とショックを受けているとリアンとラクサ、ディルがそっと目を逸らしているのが見えた。


 私も食べようと思えば食べられるけど、いい思い出はないから出来るだけ食料は持ち歩くようにしてるんだよね。



「交渉はライム嬢ではなくリアン殿とした方がいいのかな。ざっと、そうだな…一週間で七回分、とすると金貨1枚あればたりるだろうか」


「ちょっと待ってフォリア先輩。え、一週間で七回ってどういう」


「? 昼か夜のどちらかを食べるんだろう?」


「一日三食と夜中に起きて警戒する人には飲み物と軽く摘まめるものをだしてるんですけど」



フォリア先輩が冗談を言っているようには聞こえなかったけど、一日一食なんて緊急事態でもない限り有り得ない。


 まぁ、私が道具に恵まれているのもあるんだろうけど……旅の間だからこそ食べられるものって楽しまないと損だよね? 



「そんなに食べられるのかい? それなら、金貨3枚あれば足りるかな」


「待ってください、どんなに高く見積もっても金貨1枚です。錬金アイテムも使用していますし、食材費、料理をする手間賃を考えてもそれが妥当でしょう。食事の管理を一任しているライムが問題ないと言っているので、金貨一枚で僕たちが下りる『スールス』までの食事をこちらで持ちます」



いいのかい?と申し訳なさそうな顔をしながらリアンに金貨を渡し、まだ納得がいかなそうな先輩はパッと何かを思い出したらしい。

 道具入れから小さな袋を取り出した。



「そうだ。これを受け取ってくれないか。実は授業で行った遠征で質のいい香木を拾ってね。大部分は売り払ったんだが、お土産にしようと思って取っておいたんだ。錬金術師は香りのある素材を使うこともあるんだろう? 役に立つといいのだけれど」



使わなければ、金策として売り払っても構わないと私の手に袋を握らせたフォリア先輩は私の手をそのまま握り、ベルにも視線を向ける。



「実は私個人としても親しくしているライム嬢や優秀なベル嬢とはもう少し仲良くなりたくてね。個人契約をしている錬金術師もいないし、良ければ今後も仲良くしてくれると嬉しい。ああ、錬金アイテムに対する下心がないとは言い切れないけれど、それ以上に『女友達』に憧れているんだ」



 家族に女は自分と母親しかいなかったから、と苦笑しているのを見てベルも何か思う所があったらしい。

リアンを押しのけるようにして私とフォリア先輩の前に割り込んできた。

驚く私の肩をしっかり掴んで、もう片方の手は握手しているフォリア先輩と私の手の上に重ねる。



「そういう事なら私からもお願いいたしますわ! あまり、社交界で仲のいい方がいなかったの。家柄もそうなのですけれど、騎士としての訓練をある程度しているから話についていけないことが結構あって」



困ってましたのよ、と息を吐くのを見てフォリア先輩の目が輝く。


 そして深々と頷いて目を細めた。

多分私の知らない貴族としての生活を思い出してるんだと思う。



「私もあまり社交は得意じゃなくてね。大体、騎士科の女性騎士で固まって話していることが多いんだが、上流貴族になるとあまり女騎士になる人が少ない。ベル嬢のような素敵なご令嬢と色々な話ができるなら息の詰まる社交界も悪くない」



そういって笑うフォリア先輩にベルはとても嬉しそうに笑いかけて、そのまま御者の荷運びの手伝いをするとついて行った。


 ポツン、と取り残された私はそっと振り返って同じく置いてけぼりなリアンやディル、ラクサの顔を見る。



「えっと……とりあえず、私たちも馬車に乗り込む?」


「そうだな。ここにいると目立つし移動しよう。出発まであと三十分は在るから少しこの辺りを歩くのもいい」


「サフルは出発するまで雑事を手伝うらしいッス。準備が遅れると出発も遅れるンで」


「ライム、その辺を散歩するなら俺が護衛しよう。川に行ってみるか? この時間だと露店は殆どないからな」



 ディルが指さす方向へ視線を向けると少し歩いた所に川が見えた。

前回の旅でもこの場所に来たけれど、改めて広いと思う。

駐在所には数人の冒険者や商人の姿があって、その奥にはそこそこの広さがある川が朝日を反射してキラキラ光っていた。

すぐそばには雑木林もあって中々雰囲気がいい。



「リアン、ラクサ。ちょっとディルと川まで行ってくるね」


「あ、待って欲しいッス。俺っちも―――……あー、行っても良いっすか?」


「構わない。僕は自分の身を護れるし、近くにはベルもいるからな。少し、情報を集めているから出発の五分前には戻ってきてくれ」


「ライム、俺から離れるなよ。ラクサは周囲の警戒と先導を」


「ソレが一番良さそうっスね。ま、お貴族様がいるから人は寄ってこないでしょうケド」



 備えあればなんとやら、と言いながら颯爽と歩き始めるラクサの背中を追いかけて足を踏み出す。


 時間が限られてるんで少し走ってもいいか、と聞かれたので頷けばタッと地面を蹴ってラクサが走り出した。

結構早いなーと思いながら足を動かしていると涼しい顔をしたディルが私の隣に並ぶ。



「お。二人とも結構早いっすね。錬金術師も召喚師も体力があんまりないことで有名なんスけど」


「私は辺境の山で育ったから体力はあるみたい。リアンはあんまり体力ないけど最近は少しマシだよ」


「召喚師は危険地帯への派遣が多いから鍛えておかないと死ぬんだ」


「なんかもう……どこもかしこも物騒」




どうなってるの、と項垂れるとディルが小さく笑った。


 ラクサも物騒と言えば物騒だ、と笑ってる。

暫く走ると五分ほどで川についた。

息が上がっていない私を見てラクサがとても感心していたけれど、私からするとそれどころではない。


 覗き込んだ川には、ハサミ川エビがいたのだ。

一緒に川を覗き込んでいたディルと思わず目を合わせて、ハイタッチ。

周囲を警戒していたらしいラクサがビクッと小さく震えて何事かと近づいてきたので悪いことをしたとは思う。



「ど、どうかしたんスか?!」


「ラクサ、ほらみて! でっかいハサミ川エビっ!」



ほらほら、と川の浅瀬を指させばラクサの目もキラキラと輝いた。

 私が素足になった頃にはラクサも靴を脱いでズボンの裾をまくり上げて、何故か小さな金札を持っている。



「今からちょっと弱い雷をこの辺りに流すンで……あ、この範囲だけだから害はないっすよ。ハサミ川エビの他にも色々浮かんでくるんすけど、放って置いたら痺れが取れて動き始めるんで目当てのヤツだけ獲って下さいッス」


「ラクサすごい! 私素手で獲ろうと思ってた」


「いやぁ、故郷でも良くやってたんで」


「ライム、俺もできるぞ」


「ディルは魔力温存しといてくださいよ……なんかあったらアンタの出番なんスから」



むぅ、と不服そうに腕を組んで仁王立ちするディルに苦笑する。


 最初靴を脱ごうとしてたんだけど、流石に貴族のディルが川に入るのは不味いと思ったんだよね。

ラクサの言葉を考えると私の考えは正しかったようだ。


 そうこうしている間に、ラクサは金札を水に沈めて小さく何かを呟き始める。

最後に小さな声で合図のような物をするとパチッという音共に一瞬川の水が光った。


 どうなったんだろう、と川の様子を見ているとぷかり……と一匹、また一匹とハサミ川エビが浮かんでくる。



「おおお~! すっごい、浮かんできた!」


「へへ。あ、もう触っても大丈夫っすよ。金札は何度でも使えるから便利なんス。この程度なら少し魔力を込めれば問題なく元通りの威力になるンで労力の節約にもなるし」



ささ、目を覚ます前に拾っちゃうッス!と張り切ったラクサに、大きめの水袋を取り出す。

 家で使っていたんだけど、川から魚とか生きたまま運ぶのに便利だったから持ち歩いてるんだよね。



「水なら俺が魔術で出す」


「ありがとう。ここの水は綺麗だけど、魔術で作られた水って美味しいもんね」


「良いっすね。あ、そうだ、この草入れておくとハサミ川エビの臭みが取れるんスよ」



草、というのは水辺に生えていた何の変哲もないギザギザした葉っぱの草だ。

 素材になるかも、と思ったんだけど使える気がしなくて首を傾げる。



「ちなみにこの草、何故かハサミ川エビの臭みを取る位にしか使えないんス。他の魚とかでも試したんスけど効果はナシ」



 なるほど、と頷いて浮かんでいるハサミ川エビを片っ端から水袋へ放り込む。

しびれてはいるけれど死んでいるわけではないらしく、ハサミが弱弱しく動いていたりするのがちょっと面白い。



「鮮度がいいし、大きいから焼いて食べるのもよさそうだね。たくさんいるし」


「愉しみッス。俺っちハサミ川エビなんてもう何年も食ってないんで期待してるッス。貴族のディルも食ったことあるんスか?」


「ああ、元々俺は孤児だったからな。いろんなものを食ったがこれは美味かったから人気だった。川まで遠かったから滅多に食えなかったが」



 美味いよな、とじっと獲物を見ているディルに思わず笑う。

一緒に暮らしている時には良く獲りに行ったんだよね。ハサミ川エビって繁殖力が結構あるから沢山とっても暫くすると復活してるし。


(ハサミ川エビを餌にする魚もいたなぁ。あれも大きくて食べ応えがあったっけ。久しぶりに食べたいけど、市場では見たことないんだよね)


昔を懐かしみつつ、ラクサと一緒に回収を進めた。

ふと青黒い皮のニョロっとしたものが数匹浮かんでいるのに気づく。



「お。川ヘビだ。大きいし食べ応えありそうだね」


「こっちも久しぶりだ。ライム、米を炊こう」


「だね。川ヘビと言えばあれだよねー。おばーちゃんも大好きだったっけ」



いそいそと新しい水袋を準備して大きな川ヘビを五匹ほど回収。


 小さなものは逃がすことにした。

次にここへ来た時また捕まえたいし、大きく育って欲しい。

その方が美味しいし、食べ甲斐があるもんね。


 川ヘビを入れた袋にディルがお酒を入れているのを見てお互いに頷く。

これで美味しいご飯が作れる。

満足して水袋の口を閉め、ポーチへ入れていると引きつった顔でラクサが固まっていた。



「え、アンタら川ヘビ食うんすか? 泥臭くて不味いし見た目も気持ち悪い上にヌルヌルしてて乾くと臭いのに」


「いやいや、大概の魚は時間経つと臭い出るよ。けど、泥臭いかな? 一度もそんな風に思ったこと……って、もしかしてそのまま煮込んでる? 何もしないで煮込んだら美味しくないよ。先に焼かないと。あと、塩で揉んで、内臓を傷つけないように捌かなきゃいけないからちょっと手間はかかるけど」


 川ヘビ自体は凄く美味しいんだよ、と説明する。

ラクサには凄く可哀そうなものを見る目で見られたけどね。

後で知ったんだけど、ラクサの故郷では『貧魚』って呼ばれていたらしい。

言葉通り『貧しいものが食べる魚』って意味で死ぬくらいなら川ヘビを食う、っていうかなりゲテモノ的扱いだったとか。



(うーん、砂糖とショウユ。あとはお酒……たったこれだけの調味料で劇的に美味しくなるのにな。まぁ、全部手に入りにくいというか高いから手を出すには勇気がいるかもしれないけど)



 私が暮らしていたところでは魚がなかなか取れなかったから、川ヘビはご馳走だったんだよね。

夜に食べよう、と言えば曖昧な笑顔を返された。

それからは三袋目に川魚を数匹回収して、乗合馬車へ戻る。


 足は拭かなくてもディルが魔術で乾かしてくれたので手間はなし。

機嫌よく戻った私たちは直ぐに馬車に乗り込む。

最初に乗った馬車よりも窓が大きかったから、程よく明るくて通気性もよかった。


 はーっと息を吐いてクッションをトランクから取り出し、簡易のソファーを作る。

同乗者は私達の他に三組。

三人組が二つ、五人組が一つだった。



(私達がフォリア先輩を加えて七人だから……全員で十八人も乗ってるのか)



その割に広く感じる、と考えていると私たちの荷物が殆どないから広いんだと気づく。

荷物って結構場所をとるんだよね。


 御者さんが席について『では時刻になりましたので【シュツル・スールス方面】へ出発します』と少し大きめの声で叫び、カランカランと出発を告げる鐘が鳴った。

 ゆっくり動き出した馬車は、前に一度通った街道を進み始める。


 私はあまり覚えていなかったんだけど『忘れられし砦』へ行く時に通った道のように見えた。

こっそり隣にいたリアンに確認してみたら静かに頷いた。



「このまままっすぐ進めば『忘れられし砦』に辿り着くが、直ぐに曲がって三十分程度進んだところで山道に入る。そこからはずっと森と山の中だな」


「なるほど。そういえば『忘れられし砦』の山道って使われなくなったんだっけ?」


「よく覚えていたな……その通りだ。新しくより安全な道を作ったんだ。元々、山道が狭く小型の馬車が何とか通れる程度の道幅しかなかったらしい。今使われている山道は大型の馬車がすれ違えるくらいしっかりした道幅がある。その上、渓谷を通るんだがかなり広く落石しない様特殊な魔術で地盤固定してあると聞いた」


「落石は怖いもんねー……土砂崩れとか雪崩もヤダな。アレ、逃げられないから巻き込まれないように気を付けてないと本当に危ないし」



 わかる、と頷いたのが意外だったらしくリアンは少し眉を顰める。

けど、自分が住んでいたところが山だったことに思い至ったらしく納得したらしい。

 ガタゴト揺れる馬車の中でご機嫌な私は、ポーチの中から暇つぶしができそうな図鑑を取り出した。



(まだニヴェラ婆ちゃんに貰った本、見てないんだよね)



 古い図鑑なのはわかったけれど、痛みは少ない。

保護の魔術がかかっているんだと思う。

エルフの本だって言ってたし、古い本って保護魔術が掛けられてることが多いって昔おばーちゃんからチラッと聞いたんだよね。



「その本はあの時貰った本、か?」


「古い図鑑みたい。リアンも見る? 暇つぶしにはいいし、これから取れそうな素材があれば教えてよ」


「……そういう事なら」



 クイッと眼鏡を上げて表情を隠したつもりかもしれないけれど、口元が少しだけ緩んだのはバッチリ見えているので割と無駄だ。

さて、と本を広げようとしたところでフォリア先輩が口を開いた。

 先ほどまで他に同乗している冒険者と話をしていたらしく、ベルも一緒だった。



「すまない、早めに夜の護衛番について決めたいと思うんだが構わないだろうか」




 この一言で私は本をしまうことに。

リアンが残念そうに溜め息を吐いて、隣にいたディルが何故か勝ち誇ったように小さく鼻で笑っていた……様な気がする。





ここまで読んでくださって有難うございます。

誤字脱字変換ミスなどありましたら報告してくださると嬉しいです。

また、アクセスやブック、評価などいつも感謝しても足りない……有難うございます。


新しい食材が登場したので下にペペっとはりつけ。


=食材=


【ハサミ川エビ】

中型~大型のエビ。現代で言うとロブスター的な感じ。

比較的どこにでもいて、焼いても煮ても美味しい。

成長速度が比較的早いのもあり、養殖されていたりも。

 ラクサの好物。


【川ヘビ】

現代で言うウナギ。雑魚として厄介がられる。

お金がない人が良く食べることから【貧魚】とも。泥くさい。

 ただ、お酒に浸け、調理前に処理をすれば美味しく食べられる。

処理1:塩で揉み、洗ってから内臓を傷つけない様に捌く。

調理の工夫;一度焼いてから煮込めば臭みがなく、ジューシーな魚肉に。

オランジェは好んで『かば焼き』にして食べていた。

ライムもディルも好物。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 料理の素材、味が 詳しく書かれていて、想像が膨らみます。 貴族とのやり取り、考え方、対応の仕方も面白くて 好きなところです。 安易なハーレム要素がない点もいいです。 [一言] 毎回更新を楽…
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