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14話 買い物と敵情視察?【後】

 本っ当に久しぶりの更新です。

ブックマークしてくださっている方、お待たせしました。そしてありがとうございます。


 フォリア先輩と道具屋を後にした私は、見覚えのある武器屋に向かう。



人通りが減って歩きやすくなった分、少しだけ余裕を持って周囲を見渡せるようになった。

 一度入店したことのある『ガロス武器店』は『リック・ハーツの道具屋』からあまり離れていない場所にあった。



「武器屋と防具屋って併設されているところが多いんですね」


「スペースの問題と利便性を考えてのことみたいだね。基本的に武器や防具を利用するのは冒険者や騎士が殆どだからまとめた方が時間もかからないんだ。店自体は結構数があるから、店同士の競争は激しいみたいだけど腕の悪い職人はすぐに淘汰されるから新しい店ができたら少し観察してから利用する方がいいよ―――まぁ、この店を最初に選んだなら他の店に乗り換える必要もないだろうけどね」



ここは歴史も腕もある店としてちょっとした有名店なんだよ、とフォリア先輩は嬉しそうに笑った。

 店内は一度来た時とあまり変わってなかったけれど、今回は初めからカウンターにおやっさんと呼ばれていたガロスさんがフォリア先輩と私を見て目を丸くしている。



「おぉ?なんだなんだ、まさかもう武器が―――」


「壊れてませんよ、流石にね。もう知っているとは思うが、彼がガロス・オロス氏だ。おやっさん、で通っているからそう呼ぶといい。おやっさんはある程度知っているとは思うけれど、彼女が庶民の錬金術師ライム・シトラール嬢。ほんの少し前に道具屋で“認定カード”を貰ったから一応顔合わせに寄ったんだよ…――――アーロスはいるかな」


「なるほどなぁ、もしかしたらとは思ったが…カードを貰ったか。宜しくな、ライム!武器も防具もうちなら割引が効くから精々有効活用してくれよ」



ニカッと笑ったガロスさんだったけれど、すぐに短い髪をガリガリ大きく太い指で掻き始めた。

どこかバツの悪そうな表情を浮かべている。



「アーロスの奴なんだが、実はさっき納品と材料の発注に行って貰ってんだ。多分、夕方くらいになるな」



流石に待てないだろ、と言われたので肯けば話だけはしておいてくれるとのことだったのでそのまま挨拶をして店を出た。



「じゃあ、残りは『雑貨屋』と『新古書店』だけだな。挨拶を終えてから食事をしにいこうか」


「はい。あ、できれば買っておいた方がいい物を教えてもらえれば嬉しいです。消耗品なんかは買わなきゃいけないんですよね…まだ作れない訳ですし」


「私は寮生活だったからそういった助言ならいくらでもできるぞ。ああ、ただ今年から新しい制度が始まるらしいから本当に必要なものだけにしておいた方がいい」



 方針が決まるとそこからは早かった。

お昼で飲食店が混む間、他の店は比較的客足が途絶えていたっていうのも大きいだろう。

 まず、少し道を戻ってから『ジール雑貨店』で店主のジンゲロンさんと看板娘だという二十代前半のローリアさんに挨拶をした。

ここでは生活に必要な物をフォリア先輩から聞いて購入。


 次に『オグシオ書店』に行ったんだけどそこの店主はオグマ・クファシンというお爺ちゃんだった。



「ほぅ、双色の髪を見たのは初めてじゃが、綺麗なもんだのぉ」



ひどく楽しげにカウンターから私を見て店主のオグマさんは微笑んだ。

 店内の窓はカウンターの横に小さいのがあるだけで、明かりはもっぱらランタン型の魔力灯を使っているらしい。



「オグ爺、こちら錬金科に入学が決まったライム・シトラール嬢だ。先ほどリック店主から“認定カード”を貰ったから買い物と紹介をしようと思って寄ったんだが…」


「シトラールといえば、オランジェの孫か何かかの?まぁ老いぼれには関係のないことか…お嬢さん、ええと、ライムといったか。ウチでは主に古本を扱っておるが、新書もあるぞい。欲しい本があれば取り寄せることもできるが、前金は貰うから受け取りに来るのを忘れんようにな」



 古びた木製のカウンター越しにワシの事はオグ爺と呼んでおくれ、と付け加えてからカウンター下から古本を数冊取り出して私の前に並べていく。



「今年の教科書で古本は二冊しかないんじゃ。他の物は入って早々に売り切れてしまってのぉ。ほれ、庶民でも受験はできるじゃろ?新品は高くて手が出しにくいが、古本なら少し頑張れば…ということでこの時期はよく売れるんじゃよ」


「あの、じゃあこの周辺の植物図鑑とかってありますか?できれば、あーと、銀貨二枚くらいで」


「ちぃと古いのでよければ何冊かあるのぉ」



少し待っておれ、とオグ爺は椅子から立ち上がって店の手前の方へ。

どうやらそこには日常使いができる本などが多く置かれているようだった。



「あ、本以外にインクや紙も売ってるんだ」


「ん?本屋には基本的にインクや紙、写本用の白紙本なんかは置いてあると思うんだが…ライムのところでは違ったのか?」



不思議そうなフォリア先輩の視線を受けて、思わず目が泳いだ。


 そもそも、本を買う習慣がなかったんだよね。

売ってるところなんてなかったし、文字が読めるってだけでかなり珍しかった。

おばーちゃんが時々村の子供や文字を覚えたいって人に教えてたけど。



「私が育ったのってここから片道一ヶ月かかる場所にあって、さらに山を登らないといけないので本屋ってなかったんですよね。本はおばーちゃんが持ってるのとか、おばーちゃんが書いた本くらいしか読んだことないし」


「ライムは随分遠いところから…いや、そうでもないのか。優秀な錬金術師になると学園側が判断した場合はどんなに遠方でも迎えに行くと言われているしな。実際、片道三ヶ月ほどの所からスカウトをしたという事例も過去にはあったと聞いたこともある―――…だが、まぁ、本屋がない村や町がないのは珍しくないのか。授業なんかで遠征をすることがあったが小さな場所では本屋はあまり見かけなかった気がする」



「基本的に本とは無縁の生活ですもん、村人って。流石に教会や鍛冶屋なんかだと一冊二冊は置いてあると思いますけど」



教会っていうのはどんな小さな村にも一つはあって、シスターや神官様は善意で文字や簡単な計算を教えている事もある。

まぁ、教会に行くのはお使いの時くらいだったけど。



「待たせたのぅ。銀貨二枚だとこの二冊じゃな」


「内容が錬金術師向けなのはどっちだかわかりますか?採取したり調合するときに詳しい内容が載っているほど助かるんですけど」


「それならこっちの『緑の大国・植物全集 上』がいいかのぅ。上巻であるコレには首都モルダス全域の草や花、木なんかについても書いてあるぞ。中巻と下巻はそれぞれ第二・第三首都全域を網羅しておる」


「じゃあ、これを買います。学園でどんなことを教わるのかもわからないし…くぅっ、必要経費の見通しが立たないってホント辛い」


「はは、実際、騎士科もそれなりに掛かるから備えておくに越したことはないだろうね」



財布から断腸の思いで銀貨二枚を出した私は古びた本を受け取った。

 紙自体は日焼けしているけれど、内容はきちんと読めるし状態はかなりいい。

高価なものだから雑に扱う人が少ないっていうのもあるんだろうけど、そもそも状態保存の効果付きだから論文とかレポートじゃない限り劣化はしないものらしいし。

あ、勿論おばーちゃんからの教えだけどね。


 無事に最後の買い物を済ませた私はフォリア先輩と食事をすべく、大通りを検問所側へ戻る。

冒険者もチラホラいるけれど、どちらかといえば住人の方が多いように見えた。



「食事だがどうする?といっても『緑の酒瓶』に行こうかと思っているんだが」


「同じ所に行こうと思ってたみたいですね。多分食事は暫く『緑の酒瓶』かなぁって…安いのに量もあるし二日後には入学式があるので散財はしないようにしないと」


「少し気になったんだが、その、何故ライムは金銭に困っているんだ?言っては何だが、オランジェ様の孫で英雄カリンの娘だろう。二人共有名だし稼いでいたんじゃないか?」



尤もなフォリア先輩の言葉に思わず苦笑してしまう。

そうなんだよねー、私でもそう思うもん。



「錬金術ってお金かかるっていうのは知ってますよね?おばーちゃんも結構色々作って売ってたりしたので入ってくるお金の方が多かったといえば多かったんですけど、研究の為に色々とお金を出して素材を買ったり、本を買ったりしてたんです」



 不便で辺境といっても過言ではない場所に家を建てていたのは素材代を少しでも浮かすという目的があったとは聞いている。

 おばーちゃんってお金の使い方基本的に上手だったから、借金はなかったし。



「で、幸か不幸か持ち家を手に入れてから、ほぼ自給自足、自分で衣食住全部賄えていたので本っ当に必要な金額以外は全部素材と本に消えてたんですよね。あ、それに一年に二回荷馬車を借りて色んな街に作ったアイテムを持って旅行に行ってたので其れも結構な出費だったんじゃないかな…その旅でもお金のない人からはあまりお金をもらわなかったらしくて帰ってくる度に『今回も赤字だったわー』ってカラカラ笑ってました」


「オランジェ様らしいというか、今でもオランジェ様が民衆の心を掴んでいるのはそういった行いのお陰なんだろうな。あまり詳しくない私でさえ、色々と耳にするくらいだ」


「私も、まぁ悪いことだとは思わないんですけどね…おばーちゃんは私に錬金服とか本とか色々残してくれていますし十分すぎるほど貰ってるとは思ってます」



おばーちゃんはいつも楽しそうだったっけ、なんて考えて笑っているうちに『緑の酒瓶』へ着いた。

 酒場とは言っても、昼は食堂のようになるのでかなり賑わっている。

比率的には圧倒的に男性が多く、冒険者や傭兵、あと騎士の人たちなんかも多いようだ。

結構な視線を感じたのかフォリア先輩は店の中でも一番目立たなそうなところへ腰をかけた。



「私は日替わり定食にするがライムはどうする?」


「勿論日替わりで!色々食べてみたいけど…稼げるようになるまでちょっと我慢しないと。最悪持ってきた素材売っぱらわなきゃいけないんですよ。物価とか色々な勉強にはなるので悪いことばかりじゃないですけどね」



あははと笑って日替わりをオーダーした後、話の続きをする。

 だってこのまま軽口を叩いてたらフォリア先輩が財布を出しそうなんだよね。

いや、お金はないけどもう色々奢ってもらったし素敵すぎる情報も沢山もらってるからこれ以上甘えるのはちょっと気が引ける。

すっごくいい人だし。



「それでお母さんなんですけど、お母さんは豪快にお金を使う人だったみたいです。実はあまり家にいなかったので良くわからないんですよ。お母さんが使っていたものは全部、おばーちゃんが素材にして新しいアイテムを作っちゃいましたし…剣とか鎧とか誰も使える人いなかったですしね。この錬金服についてる魔石はお母さんの剣とか防具とかについてた物なんです」


「そう、か。なんだか済まないな、立ち入った話を聞いてしまって」


「両親がなくなったのは随分前ですし、そもそも職業が冒険者だって時点で覚悟は出来てましたから。おばーちゃんもおじーちゃんもいましたし、私は恵まれてると思うんですよね…一応、錬金術も使えるし。そうそう、フォリア先輩、実は私、調合するのに条件やら資格があるなんて全然知らなかったんです!もー、大変でした!」



少し強引だったかもしれないけれど話題を逸らした私に、フォリア先輩も乗ってくれた。

 しんみりした空気ってあんまり好きじゃないし、ね。

結局、この日は陽が沈むギリギリまでフォリア先輩とお茶をしたり世間話をして過ごした。

 騎士科での出来事を話してくれたんだけど、錬金科と召喚科がいかに私に合わなさそうなのかを実感したね。うん。



 でもまぁ、夢を叶える為にも頑張らないと!

明日は何をして過ごそうかなー


 次はどうなることやら…ストックないと辛いですね。

誤字脱字ありましたら教えてくれると嬉しいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

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