154話 馬車での旅
忘れそうになるので色々必死です。
細かい設定が多くて、もう……覚えきれない(爆
旅になるとシリアス度が増す気がします。
平和なのか厳しいのかわからなくなるけど、現実も似たようなものですし、まぁいいか!!
遠くの空が白み始めた頃に私たちは『馬車乗り場』にいた。
トライグル王国の『馬車乗り場』は四カ所ある。
東西南北にある大きな門の横には、少し離れた所に馬車専用の出入り口があった。
その出入口は、馬車が並んで一台と人が数人通れる位の広さだ。
門の出入り口では左右に分かれて、人のいる小さな受付が2つ。
左側の窓口には『馬車受付』と書いてあって、右側の窓口には『出入国受付』と書かれている。
それぞれの馬車の受付には御者さんが列を作っていて、出入国受付には沢山の冒険者や旅人、商人などがずらり。
「凄く混んでる……結構早い時間に来たから空いてるかと思ったのに」
「これでも空いてる方だ。遅くなると貴族が利用するから、面倒ごとを避けたい人間はこの時間帯に集まる。ライム、入学の時に着けていた腕輪と冒険者カードを用意しておけ」
「冒険者カードをよく使うのは知ってたけど、腕輪っているの?」
ポーチから腕輪を取り出して身に着ける。
外にいる時は出来るだけ着けておいた方がいい、って言われたのを思い出した。
(でも冒険者カードで『だれ』なのかって証明にはなるよね。職業にも『錬金術師(見習い)』って書いてあるし)
「出会う人間にカードを見せるわけにはいかないからな。この腕輪をしていれば『錬金科の生徒』で『錬金術師』になる資格を所有していることが分かる。受付では腕輪を見せた上で行き先、目的を採取の為と言えば面倒な書類を何枚も書かなくて済む。服装を見ても僕らが錬金術師なのは分かるだろうし、手間取ることはないさ」
リアン曰く、錬金術師はとても分かりやすいそうだ。
身に着けている錬金服が冒険者や騎士とはまるで違っているから、らしい。
完全オーダーメイドで本人に合わせた、おおよそ冒険には向かない服であることが最大の特徴なんだって。
感心している私を見たベルが続ける。
「特にライムは肌の露出が多いし明るい色が多いわよね? 夜には目立つし、場所によっては敵に居場所を特定されやすいから冒険者は避けるのよ。そういう色。でも、錬金服は下手な鎧より丈夫だから問題がないといえばないわ」
「言われてみると……確かに」
「錬金服自体が売られている鎧や装備よりも高い。冒険者が錬金服を着ていない大きな理由がそれだ。なにより君の身に着けている服は付加されている効果が桁外れだからな」
前にいた集団が受付を終えたらしい。
お次の方、と呼ばれたので受付に行くと護衛らしき騎士が私たちを見て驚いた様子だった。
「身分を証明するものを提出し―――…ああ、錬金科の学生でしたか。念のためギルドカードなどの身分証明ができるものがあれば提出を。無ければ腕輪を見せて頂きます」
淡々と受付業務を進める役人の人に言われるがまま、必要なものを見せていく。
すると、横で話が途切れたのを見計らったように騎士が声をかけてきた。
「君たちが噂の錬金術師様か。二十四部隊の奴らが腕のいい『錬金術師』と契約したって聞いてウチの隊長と副隊長が悔しがってたんだが、まさか本当に学生だとは……もう契約はしないんだよな?」
「ええ。ですがアイテムは工房に足を運んでいただければお売りできますよ。購入数は決めさせていただいていますが、代わりに良心的な値段で販売していますので雫時が終わった頃にどうぞ」
商売用の笑顔を浮かべたリアンを呆れた目で見つつ、直ぐに許可が下りたので窓口の前を通って門をくぐった。
「こっちも、すごい……! 馬車がいっぱいある」
門を出るとそこには沢山の馬車が並んでいた。
大小さまざまで、屋根には色とりどりの掛け布。
行先が書かれた組み立て式の旗と共に、行先を首から下げた馬やランニングホースもかなりの数いるようだ。
ずらりと並ぶ馬車の前を歩きながらキョロキョロしていると、ベルに呆れた顔を向けられた。
「あまりキョロキョロしないで頂戴。ほら、もう少し深くフードを被って」
「そんなこと言っても……ねぇ、フード外してもいい? 景色だってもっとよく見たい」
「ダメよ。街の中ならいいけど、外ではフードを被って頂戴」
「危ないかもしれないっていうのは分かるけど」
隠れてるみたいでヤダ、と呟けばベルは小さく息を吐いてリアンの名前を呼んだ。
コレだけでリアンはベルの言いたいことが分かったらしい。
先頭を歩いていたリアンがベルと位置を替わった。
隣を歩くリアンが声を潜め、口を動かさない様に話し始める。
「―――…冒険者の中には素行が悪い・評判が芳しくない人間もいる。首都は警備が厳重だから、危険は少ない。だからこそ気を付けるべきなんだ。君の髪は目立つし腕輪のこともあり『アトリエ・ノートル』の錬金術師だと推察するのは容易い。僕らの工房が評判になっているのは知っているな?」
念を押すように言われて頷く。
それは買い物中にも、店での接客中でも、良く視線を感じるようになったから実感がある。
私の反応を見たリアンは無表情のまま小さく頷いて話を続けた。
「双色の髪を持つ人間は世界で恐らく君一人だ。希少性がある人間は立派な商品になり得るし、貴族ではないことは知れ渡っているからな。大きな後ろ盾もない。あるのは珍しさという希少性と錬金術が使えるという有益性、そして君が女性だという変えることができない事実だけだ―――……悪だくみをする人間は目立たない」
どういうこと? と聞けばリアンが静かに話し出す。
周囲の騒めきが少しだけ大きく聞こえた。
「悪意を隠して近づいてくる。僕もベルも価値はあるが、君ほどじゃないんだ。君は、稀有な存在だ。奴隷になったらいやでも分かるぞ、君を買うために多くの人間が金を積む―――……守りたくても僕らでは守り切れないこともあるだろう。だから、自衛するんだ。煩わしいのは分かるが、実力を身に付けて君を自分のモノにできないと相手が理解するまでは耐えろ」
「強くなれってこと、だよね」
「そうだが、違う。戦闘能力だけが力ではないからな。僕は商会の息子、ベルは有名な貴族だ。今後合流するディルは有名な召喚師の家に養子に入ってベルと同じ上位の貴族にあたる。ラクサは強く顔が広い……―――君がしなくてはいけないことは一つだ。騎士団も、冒険者も少なからず君と君が作り出すアイテムに恩恵を受けている。学生である内に君自身の評判を高めるんだ。価値を上げろ」
何が言いたいのか分からなくて戸惑っている私に、リアンはニヤリと口の端を上げて嗤う。
その視線の先にはコソコソと馬車の陰に隠れる数人の集団。
パッと見たところ、駆け出しの冒険者のようだった。
「理解できない馬鹿どもにも分かるような有名人になるまでは、耐えるんだな。僕も一流の錬金薬師になるという夢がある。君もなるんだろう、君にしかなれない何かに」
頷くとリアンは笑う。
小声で先ほど姿を隠したのが、悪だくみをしていた駆け出しだと教えてくれた。
「君に話しかけてくる人間に気をつけろ。いいな」
リアンが言う事もベルの心配も分かっているのでフードを深く被り直して、小さく息を吐く。
(私といるとベルもリアンも面倒じゃないのかな)
私なら御免だ、と思いながら歩く。
せめて大きく見えるように背筋を伸ばして、胸を張った。
「二人の邪魔にならないように頑張るけど……こうやって顔を隠してると悪いことをしてる気分になるから好きじゃないんだ」
「まぁ、君の性格からしてそう感じるのも無理はないか。目的の村につくまでは耐えてくれ。フードを被っていても看板は読めるだろう」
乗合馬車を探してくれと言われたので『首都モルダス⇔ケルトス合流地点行き』の馬車を探していると、大型の馬車を見つけた。
あった、と指さすとリアンとベルが私の指先を辿り、目を細める。
一番端の同じく大きな青い掛け布の横にそれはあった。
「……いや、なんでこの距離から見えるんだ」
「ホントね。しかも本当にあってるわ」
「え? 見えるよね」
「見えないだろ」
「見えないわよ……あら、でもアレはラクサかしら」
速足で近づくとベルが見かけた人物がラクサだってことが分かった。
顔馴染みらしい冒険者と話をしていたラクサが私たちに気付いて嬉しそうに手を上げる。
「あ、来た来た。早かったッスね。ディルは先に馬車の中っスよ~」
「ディルも到着してたんだ」
早いね、と言えばフード姿の私を見て納得したらしい。
イイ判断っす、と言いながら先ほどまで話をしていたらしい冒険者を紹介し始める。
強面ではあったけれど気のいい人たちで、私たちの店のお客さんでもあった。
「この時期は冒険者の移動が多いからなぁ……変な輩も多少紛れ込んでる。ただ、俺らはモルダスを拠点にして長くやってるからある程度、噂や情報は把握してる。安心してくれ」
「俺らの錬金術師様方に何かありゃ、俺らは袋叩きどころじゃ済まねぇしな。それほど時間がかかる訳でもないから、今のうちに肩の力を抜きな――――……この馬車には上流貴族が乗ってるってことで、周りの奴らには話しておくし御者にも了承は取れてる」
「それなら安心ですね……お手数をおかけいたしました。助かります。僕らも旅はまだ二回目で、皆さんの知恵をお借りできると非常に有難い」
そう言って笑うリアンから私はそっと距離をとった。
ベルが呆れたような顔をしているのが見えたけど、直ぐに扇子で顔を半分隠していたので表情の変化に気付いたのは私とサフルくらいだろう。
あれは売込みする気だな、と思いながらベルの傍へ移動。
ベルはリアンに「先に馬車に乗っている」と言って歩き始めた。
リアンを置いて、乗車できる裏側に回る。
基本、馬車の乗り降りは馬車の後ろだ。
例外は貴族が乗る馬車。
貴族の馬車には側面にもドアがついているらしい。
襲われた時や護衛の際に側面のドアを開けて迎撃したり逃げたりする為のものだ、と歩きながらベルが小声で教えてくれた。
今回私たちが乗る馬車は大型の乗合馬車。
一般的な造りだけれど、手入れは行き届いているようで汚れてはいなかった。
「大きい馬車って窓がついてるんだ」
「ええ。外から窓を狙われない様に鉄網がついているけど、日光も風も入ってくるようになってるわ。危ない時や雨が降ったらカーテン代わりに布を掛けるの」
木製の馬車には、鉄網がついた窓が全部で左右に4カ所つけられていて中々大きい。
矢じりが入らない様に考えられていることに感心しつつ視線を馬車の中へ向ける。
木製の板と鉄の骨組みで作られた頑丈な造りだってことは分かっていたけれど、中は結構広かった。
ただ、椅子などがないので床に座ることになる。
少しでも人を載せるスペースを確保するためだったり、荷物を運ぶこともあるからこそ椅子をつけていないんだろう。
物珍しさで馬車の中を見回す。
「随分珍しそうに見るのね……特急馬車に乗ったじゃない」
「乗ったけど……色々と観察する余裕がなかったって言うか、他にも気になることがいっぱいあったからよく見てなかったんだ。それに、窓があるなんて気付かなかったし」
「ああ、窓は塞がっていたから仕方ないわ。盗賊が出るって話があったし、狙われた時のことを考えて薄い板を張ってあったのよ」
そう言いながらベルは馬車の中に視線を向ける。
見回して、息を吐いたベルはさっさと馬車に乗り込んだ。
迷うことなく馬車の奥、御者に近い位置で座っているフードの男に歩み寄る。
「ディル、随分早いのね。ライムを連れてきたから、ちょっと見ていて頂戴。私は少し外で情報を仕入れてくるわ。サフル、アンタも来なさい」
ベルの一言でパッと俯いていたフードの人物が顔を上げる。
綺麗な紫の瞳が私を映した。
◇◆◇
「わかった。助かる」
そう、短く礼を言ったディルは静かにベルとサフルが立ち去るのを待っているようだった。
完全に姿が見えなくなって足音が周りの賑やかな声や音に紛れた頃に、ディルが動き出す。
フードを取ってゴソゴソと懐から『魔術布』らしきものを取り出して、柔らかそうなクッションを隣に置いた。
座ってくれ、と言われたので大人しく隣に移動して腰かけると、ソファに座ってるんじゃないかと思うような柔らかくてしっかりした弾力が帰ってきて驚く。
「衝撃吸収できるようにしてみた」
「凄いね、なんか錬金術師みたい。あ、そうだ……コレ、食べる? 前に作ってディル用に残しておいたんだ」
レシナのタルトをポーチからお皿ごと取り出す。
(ディルと会う時は大体リアンやベルがいるから出しにくかったんだよね)
一人分しか残ってないから、と言えば頷いて豪快にかじりつく。
こういう所は昔と変わってなくてホッとする。
一口食べて、ディルの表情が緩んだ。
「美味いな、やっぱり」
「へへ。そういえば昔一緒に作ったよね、レシナのタルト。おばーちゃんを驚かせようってコッソリ夜中に」
「―――…懐かしいな。結局、暗くて焦げすぎて……失敗したのを『苦い』って言いながら二人で食べて、水飲み過ぎたせいで腹も痛くなって」
「そうそう! で、呆れた顔でおばーちゃんが腹痛の薬をくれたんだよね」
懐かしい、と呟いてディルはあっさりタルトを食べきった。
それから昔のことを思い出して話していると突然ディルが口を閉じて、出入り口の方へ視線を向ける。
「もしかして誰か来たの?」
「ああ。ライムは顔を隠して置け。ベルやリアン達が来たら話してもいいが……気配からすると、魔術師の奴隷を連れたパーティーのようだな」
そこまでわかるの?と言えば、頷いて小声で話し始める。
視線と警戒は出入り口に向けられたままだ。
「―――……召喚師と魔術師は基本的に魔力を探る能力に長けている。分かりやすく言えば、ある程度相手の魔力量と質が分かるんだ。ほとんどの人間が少なからず魔力を有している以上、どこに何がいるのか分かると考えるといい」
「全く魔力がない人間もいるし、極端に少ない人間もいるから過信は出来ないけどな」
「ディルって芸達者だよね。召喚師の仕事って便利なものを取り寄せたり呼び寄せるのが仕事だと思ってた」
「取り寄せる仕事……まぁ、間違ってはいないけどな。どちらかといえば、戦闘職だぞ?」
ライムにかかると随分平和になるな、と感心したような言葉を吐いてうんうんと頷いているディルの横で『召喚師』についてもう少し色々知りたいと思った。
(だって、召喚布を作れるんだよね。ディルが特別なのかもしれないけど……便利な冒険アイテムを一つ作ったって事には変わりないし)
オリジナルアイテムだ、と呟く。
錬金術師だけがアイテムを作れるわけじゃないのを改めて思い知らされた。
「ディルはすごいよね。私なんかまだまだだよ……一流の錬金術師になりたいっていうのは変わらないけど、本当になれるかな」
「―――……ライム?」
驚かしてしまったらしく、ディルが顔だけ私の方を向いた。
ギィという木のきしむ音で我に返り、気にしないでと伝えるけれどディルは私の方に意識を傾けたままだ。
「自分でもよく分からないんだ。今まで通り、やれることはやってると思うんだけど……足りない所が多すぎて焦ってるのかも。ディルが沢山努力して、私が想像もつかないような苦労とか大変な思いをしたのも、何となく分かってるつもり……けど、変だよね。なんだかもやもやするの」
けれど、それだけだし、体調が悪い訳でもないよ! と笑えば、ディルが私を隠す様に座る位置をずらした。
かつて茶色だった髪と私より小さかった体は、今じゃ私よりも大きい。
(わかっていたけど、ディルも昔のままじゃないんだよね)
小さい頃から変わっていないのは多分、私だけだ。
ギュッと拳を握り締めたのを見計らったように賑やかな声が耳に飛び込んでくる。
ディルの肩越しに声の方へ視線を向けると、若い冒険者たちがこの馬車に乗り込むところだった。
無表情になったディルの背後でじっとしていると冒険者たちはディルに気付いて会釈をし、馬車の出入り口に荷物を置き始める。
「出入口か。まぁ、無難な選択だな」
「無難って……もしかしてこれも冒険者とかが言う“暗黙の了解”ってやつ?」
「ん。出入口付近は雨が入りやすいし、警戒の役割を担うことが多いから新人が割り当てられることが多い。代わりに逃げやすいというメリットもある」
「む、難しいね……!」
「上級貴族がいる場合、大概の冒険者は出入り口付近にまずは荷物を置く。揉め事を避けるのが最大の目的だな。窓がある中央付近には中堅冒険者が座ることが多い。真ん中にいることで外の様子も分かるし、出入り口の冒険者に指示も出せるからな」
なるほど、と頷きつつ観察していると冒険者は男三人、女二人の五人組のようだった。
この五人に奴隷印がなくて不思議に思っていると暗い目をした女の子が現れる。
薄汚れたピンク色の髪は肩につくかどうかという長さ。
全体的に草臥れているので思わず眉を顰める。
「―――……ああ、見たまま“使えない”方だったか」
ぼそっとディルの声が聞こえて、反射的にその顔を見る。
私の視線を感じたらしいディルは嬉しそうに視線をやわらげて口元に薄い笑みを浮かべた。
よく知っている表情だ。
「独り言だから、気にしなくていい。それより、ベル達が来たぞ」
親指でクイッと指した出入口付近から直ぐに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
出入り口で荷物を載せていた冒険者たちはベルの声を聴いて、場所を譲るように荷物を除け始める。
「狭い馬車には乗り慣れていないから助かりますわ」
「あー、ベル嬢は上級貴族ッスもんね。貴族って一人一台自分の馬車を持ってるって本当なんスか?」
「上級貴族なら所有しているのが当たり前で、馬も飼育している場合が殆どでしょうね。ハーティー家の場合は軍馬のリッターホースを飼育していますの。ですから、私も乗馬は得意な方ですわ。全速力で走らせると少し疲れますけど、かなり速くて便利ですし」
「リッターホースって、ランニングホースの上位進化したヤツだった気がするんスけど。全力疾走に耐えられるって……どんな体幹と握力してンのかちょっと知りたいような、知りたくないよーな」
「ラクサ、深追いするな。死にたいのか」
「……聞かないことにするッス。あ、ライムとディルは奥にいたんスね。今日は一般客の予約がないらしいんで遠慮なく奥を使いまショ」
ニコニコしながらベルをエスコートして、リアンを先に馬車へ乗せたラクサが周囲に会釈をして最後にこちらへ歩いてくる。
ベルは冒険者へ一瞥を向けてニコッとお嬢様らしい笑みを浮かべた後颯爽とこちらへ歩いてくる。
リアンは丁寧に頭を下げてお礼を言ってからこちらへ。
ラクサはパッと人懐っこい笑顔を浮かべて周りに挨拶と礼を言いながら、馬車の中を歩く。
ディルが無言で人数分のクッションを出した。
サフルの分もあってお礼を言えば嬉しそうに目を細めた。
そして、徐に緊張しているらしいサフルへ視線を向ける。
「ライムの大事な奴隷だ。今後も役立つつもりのようだし、この程度問題ない。サフル、“状況を見極めて”立ち振る舞える奴隷は重宝されるぞ。覚えておけ」
笑顔を浮かべて最敬礼をしたサフルは静かに私の傍に控えるよう腰を下ろした。
全員が座った所で、ラクサが話をしていた強面の冒険者たちが次に乗り込んでくる。
その時に入り口付近にいた若い冒険者に声をかけて何やら話をしていたんだけど、若い冒険者たちはホッとしたように肩の力を抜いたのが私にでも分かった。
「ああ、あの人たちスッゲー顔が広いんスよ。ギルドで指導の仕事を直接依頼される位には人望も実力もあるンで世話になった冒険者は多いッス。あの人たちは今の所『安全』ッス」
そう言って笑うラクサの荷物を受け取ってトランクに入れていく。
便利な道具を持っているのは『貴族』にとっては普通らしくて、ベルやディルが収納したと考えるのが普通だから馬車に乗った時点でトランクに入れろってリアンに言われていたんだよね。
トランクに結構な大きさの荷物が吸い込まれたのを見てラクサは目を輝かせていたけれど、大声を上げるようなことはしなかった。
小声で「助かったッス」と囁いて何事もなかったかのようにリアンに話しかけている。
隣に座ったベルが扇で顔の半分を隠したまま若い冒険者たちの奴隷を見ていたので、不思議に思って聞いてみた。
「あの人たちの奴隷が気になるの? ディルは魔術師だって言ってたよ」
「言ってたよって……ライム、貴女気づいてないんですの? リアンでも気づいてますわよ」
「私、ああいう髪色の知り合いはいないんだけど。お客さんにもいなかったし」
「……そういうタイプよね、貴女って。我が道を行くというか、興味がないことにはとことん疎いというか」
どういうこと?と、ベルに話の続きを促せば驚きの事実を告げられた。
聞いた直後にマジマジと奴隷の子を見たのは……流石に失礼だったかも。
「ギルドに受け渡したピンク髪の魔術師、ってホント? そりゃ、髪の色はピンクだけど……こう、もっと偉そうな感じじゃなかったっけ? 髪も長かった気がするし」
記憶にほとんど残ってはいなかったけど、薄っすら記憶の端には残っていたから思わず素直な印象が口に出ていた。
私の反応を見て首を傾げているのはラクサだけで、他の三人は「言いたいことは分かる」というような表情で小さく頷いてる。
サフルは馬車に乗った時から人形みたいに静かだ。
「あの奴隷と知り合いなんスか?」
話が見えない、と困ったような顔で私たちを見回すラクサにため息をついたリアンが静かに話を始める。
その途中で馬車が動き始めたんだけど、クッションのお陰で快適だった。
冒険者の人達も仲良く話しているし中々雰囲気がいい。
鉄網から見える外の景色と遠ざかっていく首都モルダスを眺めながら、リアンの話を聞き流す。
一通り話し終わった所で、ラクサが呆れたような顔でピンク髪の奴隷を眺めているのに気づいた。
奴隷についての話を前にしたことを思い出して、それが妙に気になる。
「ラクサ?」
「あー、大丈夫ッスよ。奴隷には何種類かいるんすけど、俺っちは“犯罪奴隷”と“借金奴隷”があんま好きじゃないだけなンで」
そう苦笑しながら話して、呆れたような軽蔑したような視線を奴隷へ向けた。
自業自得っスね、と笑いながら話しサフルを見る。
「ま、金さえ返せば自由になれるってだけで儲けモンって思っておかないと罰が当たるってもンだ」
やれやれ、と手を横に振ったのを見て私もサフルを見るけど、サフルは全く表情を変えない。
ラクサはその様子を見てから私たちを見て困ったように笑った。
「―――……俺っちの話はいいとして、この後の日程の確認しておきたいんスけどいいッスか?」
「構わない。どのみち、話をしておこうと思っていたからな」
そういうとリアンは自分の懐から地図を取り出した。
比較的新しい地図で小さな村や町の情報も書かれているようだ。
(今更、だけどラクサも人に馴染むの早いよねぇ。違和感がないもん)
無意識にポーチの中に手を入れていて、ディルとラクサに渡したいものがあることをこの時思い出した。
まだ、雨が降る気配はない。
ここまで読んでくださって有難うございます!
説明が多くて読みにくいかも知れません……あと、ちょっとシリアスっぽい雰囲気を突然漂わせるのが私の悪い癖ですね!!(爆
旅、はじまりました。
誤字脱字などがありましたら、誤字報告で教えて下さると嬉しいです。
また、何かありましたら感想や活動報告のコメントなどでお気軽に。
評価、ブックなどは励みになりますがアクセスして読んでくださるだけでも十分有難いです。
進みが遅く申し訳ないのですが、のんびり暇つぶし程度に呼んでくださると幸いです。