150話 砂糖の宝石
ちょっと短め。
説教が吹っ飛んだ人と知らずに説教スルー出来た人。
※文章の一部を改訂しています。氷石糖の価値の部分です。
また貨幣の価値を金貨1枚1万に訂正。
ちょっと地に足がついた値段になりました……改定前の値段はゼロが一つ、多かった…反省。
眩しくて瞼が震えた。
ぼうっとしたまま目を開くと天井と――…明るくなった部屋の中が視界に飛び込んできて、暫くぼうっと辺りを見回す。
ああ、自分の部屋だなぁと思いながら閉まっていたカーテンを開ける。
普段とは違ってしっかり陽が昇った外の景色が見えた。
「……あ、あれ?」
ちょっと待って、と慌ててベッドから転がり落ちるように窓に縋りつく。
動揺で震える手やら体やらをどうにか立て直そうと窓を開けたけど、聞こえてくる音は昼の付近のものだし、暖かさや風の匂いも朝特有のものではなかった。
「―――……おひる」
嘘でしょ、と呆然と呟いて数秒。
慌ててドアに駆け寄って思いきり開くと、補充の為に地下へ向かおうとしているリアンと目があった。
手には注文用紙と出庫表。
「…………ッ! 服を着ろっ」
「え? 服? 服なら着て……え、これ誰の服?」
魔力切れで寝落ちしたのは窓の外を見た時に思い出したんだけど、着替えた記憶が全くない。
そもそも、錬金服のまま寝かされてると思っていたから驚いた。
リアンに言われて初めて、肌触りが良くて丈の長いシャツを羽織ってることに気付いたんだよね。
びっくりする私を余所にリアンが私の腕を引いて、部屋のドアを開けその中に私を押し込んだ。
驚いたものの、このままでいる訳にはいかないので錬金服に着替える。
「もしかしてリアンが着替えさせてくれた? ラクサの服じゃないよね? これ。ほら、ラクサってボタン付きの服着なさそうだし」
「僕が着替えさせるわけがないだろう! ベルが調合釜の前で倒れた君を運んで着替えさせた。僕はベルの服が君に合わないから服を貸しただけだ」
「あーそっか。ベルにもお礼言わなきゃ。ごめん、面倒掛けて……部屋までは持つと思ったんだけどなぁ」
むぅ、と唇を尖らせつつ服を着替える。
私の着ている錬金服は装飾とかが少ないし着るのが楽だからいいけど、ベルやリアンは装飾品が多いから大変だと思う。
二人とも休みの日は装飾品外してるしね。
いつもの服に着替えているとドア越しにリアンの声が聞こえてくる。
どうやら待っていてくれているらしい。
「昨日のことだが、君が倒れた後に僕らは予定していた分の調合を終えて休んだ。昨日の君は魔力は勿論、体力も使い果たしていたから午前中は起きられないだろうとラクサにも話しておいたから、混乱もなく通常通りの開店ができた。商品の売れ行きは順調。お守り袋の再販を望む声が多かったから、今日は店を閉めてミルフォイル副隊長との商談を済ませたら、お守り袋を買いにウォード商会へ行く。ラクサもついてくるとのことだったから、それが終わったら戻ってきて夕食だ」
「そっか……ごめんね。前は倒れてもいつもの時間に目は覚めてたから……朝ご飯は大丈夫だった?」
「地下から持ってきた。僕としては君が倒れてくれたから、早朝訓練が免除になって少々助かったが」
その点を考慮すると君には毎日倒れてもらった方がいいかもしれない、なんて真剣な声で言うものだから慌ててドアを開けると、普段通りの無表情で腕を組んで立っていた。
出てきた私を頭からつま先まで確認して漸く息を吐き、クルリと踵を返す。
「――……その服は君が持っていてくれ。君のことだ、どうせまた同じように魔力と体力を切らして昏睡する筈だ。その際、ベルに部屋に戻って服を見繕えと言われるのは面倒でしかない」
「え、いいの? 着心地よかったから助かるよ。これ、高い生地だよね? 金貨一枚とか?」
ベルが身に着けているものは勿論、リアンが身に着ける物も高いものが多いのでポーチから財布を出そうと手を入れる。
高いものをタダで貰うのは色々と嫌だし。リアンが相手だと特に。
「いらない。僕の為でもあるんだ、そのままでいい。君には首飾りを貰っているし、それと比べると大した額にもならないからな」
「あー………分かった。そういうことなら」
首飾りと交換ってことだね、と言えばリアンが渋い顔をしたけど、息を吐いて地下へ。
私はご飯を食べてから店番をして欲しいと言われたので、ポーチに入れていたパンを口に入れてからお店へ。
「お。ライム、もういいんスか? にしても、魔力と体力使い切って半日で回復するって、見かけによらずタフなんスねぇ」
普通は丸一日寝たきりだ、とお客さんを見送ったラクサが笑う。
店の手伝いをしてくれたことと、朝食を作れなかったことなんかを謝ると笑いながら、気にするな、と言われホッと息を吐く。
カウンターに置いてある椅子に座った私に、ラクサが苦笑したまま続ける。
「それと、ベル達には『ごめん』じゃなくって『ありがとう』の方が正しいッスよ。ホントにアンタの事を心配してたンで。特にリアンとサフルは酷かったッスね~」
「ありがとうって……迷惑かけたのに、なんで「ありがとう」なの? いや、色々してくれたから有難うなんだろうなとは思う、けど……」
「いいんスよ。ありがとう、で。親しくない相手なら『ごめんなさい』で正解ッスけど、好意で世話した相手に謝られると気まずくなるもんなんス。だから、ここは『ありがとう』で正解」
なる、ほど?と分かったような、分からないような気持ちで頷いて、丁度二階から降りてきたベルに駆け寄った。
「あのっ、ベル! 昨日は『ありがとう』。服を着替えさせたり運んだりしてくれたって聞いたんだ。部屋まで行けると思ってたけど思ったより動けなくて……だから、助かったよ」
「構わないわよ。あのくらいは手間の内にも入らないわ。驚いたから、あまりしないで頂戴。面白いものも見れたしね。ただ、倒れるような調合をするなら休みの前日で頼むわ―――…朝の訓練に行けなくなるもの」
(あ、リアンが言ってたのはコレか)
うん、と頷くとベルの声が聞こえていたらしいラクサが笑顔で固まっていた。
冷や汗が一筋たらり、と落ちるのを見た気がする。
それからは一般のお客さんの相手をして、授業終了と同時に店に押しかけて来たディルの相手をする。
何処から聞いたのか私が倒れた、ということを知っていて驚いたけど……お見舞いの果物を一杯買ってきてくれたので有難く貰った。
具合は?とか死んだりはしないな?とか何度も確認して満足したらしく、私がいるのを確かめるみたいにギューッと抱きしめて、ベルに頭を叩かれていたのがやけに印象に残っている。
ラクサは遠くの方を見つめながら、「緑の大国」にいる貴族って癖が強いんスね、と呟いていた。リアンは静かに頷いていたけど、私からするとリアンとラクサも中々癖は強いと思う。
ディルには果物のお返しに熊シチューを渡した。
金貨を置いていきそうだったので工房から追い出したけどね。
うん……シチューに金貨って。
「あれって、ディルも心配してくれたってことでいいんだよね?」
「心配っていうかもう、あれは病気ね。ああ、手紙を送ったのは私よ。後でガタガタ言われても嫌だし。にしても果物沢山貰えてよかったわね。コレなんか輸入でしか手に入らない割と希少な果物なんだけど、美味しいもの。夕食に食べましょ。人数分あるし」
しれっとそんなことを言いながら、機嫌よく地下へ果物を運び込むベルを見送って『貴族って凄い』と改めて思う。
何ていうのかな。
転んでもただでは起きない?って言うんだっけ。
そんな感じ。
◇◆◇
いつも通りの午後の営業を終えて、店を閉める。
午前中にミルフォイル副隊長から工房宛てに手紙が届いていたらしい。
内容は『午後五時三十分ごろに一人で伺います』とのことだったので、対応の為に応接用のソファなどを軽く掃除したり、お客様のお出迎え準備を整えた。
ラクサも可能なら同席したい、とのことだったので許可を貰えたら一緒に居てもらうことに。
「ラクサは何か売り込みたいものでもあるの?」
「騎士団って色んな所に行くんスよね? だから、俺っちの彫刻が役に立つんじゃないかなーと思っただけなんスよ。今まで接触することもなかったからツテができたらダメ元で、って考えてて……」
錬金術とは違って細工師は狙った効果を装備や防具、武器等につけることができる。
失敗するっていう可能性もあるけど、魔術みたいに回数制限がないから、一度つけてもらうと細工した部分が削れない限りはずっと有効なんだって。
ラクサの言葉を聞いてベルやリアンも副隊長さんが許可すれば問題ないだろう、ということに。
お茶請けは普通のパウンドケーキになった。
副隊長さんが到着したのは約束の五分前。
予め外で待機していたサフルが店の扉を開け、カウンターから応接用ソファへ。
裏口からだと庭を経由して工房内に入らなきゃいけないから手間なんだよね。
「いやぁ、参ったよ。もっと早く出ようと思ったんだけどね……隊長がここに来ることを知っていてついてこようとしたんだ。執務机と椅子に監視付きで拘束して来たし、仕事も積んできたから逃げられないとは思うけど」
ハハハ、と爽やかに笑いながら紅茶のカップを傾ける副隊長さんに、笑顔が固まるのを自覚した。
隊長さんってこの間お店に来た……?と思い出していると、副隊長が身を乗り出して私へ視線を向ける。
「時間が惜しいので早速ですが本題に―――…乾燥果物ですが、定期的に買い付けは可能なのか返答を頂きたいのですが」
じぃっと此方を見つめる副隊長さんに苦笑してリアンを見ると、笑顔を浮かべて一枚の用紙を差し出した。
契約書だと気づいたらしい副隊長さんは早速目を通し始める。
「ふむ。なるほど……私が事前に買いに来られる日を知らせて、用意できるかどうか知らせてくれるのですね」
「ええ。仕事が多い副隊長という立場のミルフォイル殿には申し訳ないのですが、僕らも長期の採取に出ていたり学院の試験などの都合もあります。その上、店の商品の補充など色々なことがあって、確約してしまうと守れない……ということにもなりかねません。まして、学年が上がると学院の行事なども関わってきます。こちらの事情で商品が用意できないので、とお断りするのは非常に申し訳なく、不誠実ですからね。できる範囲で検討した結果このようになりました。季節によっても用意できる果物とそうでないものもありますし」
何より、材料の中に手に入れにくいものがあるので……とリアンが説明すると副隊長さんは納得してくれた。
「分かりました。そういう事でしたらコチラも納得できます。それで構いませんよ、アレが食べられるならいくらでも待ちましょう。いつ手に入るか分からない、という希少性も価値の一つですからね」
「あ、あはは。それに、店に『頼んでいた商品、取りに行かなくてはいけない』って言えば、執務室から出てちょっと気晴らしに来られますよね? 凄く忙しい時は無理かもしれませんけど、買い物に来る途中とかでご飯も食べられるだろうし」
「言われてみると、良い口実になりますね。隊長は『家族』を理由にしょっちゅう帰っていますから、私もこの程度は許されるでしょう。では、今後は足りなくなってきたらお伺いの手紙を出させていただきます。騎士団ではなく個人の取引ということで直接手紙を渡します」
宜しいですね? と言われたので頷く。
満足そうな副隊長に私は用意しておいた中瓶を机の上に。
「コレ、今回用意しておいたものです。売れるのはこの中瓶に入る量ってことになります。この条件でいいなら。あと、値段なんですけど金貨一枚、小瓶であれば銀貨五枚で」
「買いましょう。金貨一枚でいいのですか? もっと出せますよ?」
直ぐにテーブルに金貨を置いた副隊長の目が怖い。
口元は笑顔だから余計に怖い。
「い、いえ……金貨一枚、で大丈夫です。それで、あの……新しい『甘いモノ』なのですが、ちょっと問題があって」
乾燥果物の瓶と金貨を交換すると、副隊長さんは嬉しそうな顔で瓶を腰に下げた道具入れに仕舞う。
騎士の人もこういった道具入れは良く腰に下げてるんだよね。
嬉しそうにしていた副隊長さんは、私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げた。
話しにくかったんだけど仕方なくポーチから商品を出す。
中瓶と小瓶の間といった大きさの瓶にはキラキラと輝く氷石糖。
それを見た副隊長さんはギョッと目を見開いていた。
「え、こ、これですか?」
「ハイ……これはオヤツ、にはならないですよね」
「なります。なります、が………これを売っていただける、と?」
いいの?というような表情と声に私が驚いた。
てっきり『これは菓子にはならない』って言われるかと思ってたのに。
はい、と頷けば副隊長さんはポーチから袋を取り出し、テーブルに置く。
チャリン、ではなくドンッという音がした。
「―――……足りますか。これには金貨五十枚ほど入っています」
「ふぁ?! いや、五十枚?! 金貨?! り、リアンちょっとこれどうなって」
「落ち着いて下さい二人とも。ミルフォイル副隊長殿、これは小瓶ですしそんなにしませんよ。贔屓にして頂いていますし、色々と融通してもらっていますから金貨二十枚で構いません」
間に入ってくれたリアンにホッとしたのもつかの間、告げられた言葉にギョッと目を剥く。
どうなってんの?!止めてよ、とベルやラクサに視線を向けるけど二人ともパッと私から顔を背ける。
呆然とする私を余所にリアンが商談を進めていく。
もう、私には悪徳商人と被害にあっている騎士にしか見えなくなっていた。
「こんな素晴らしい品質の『氷石糖』を金貨二十枚で良いのですか? 幸い私は金に困っていませんし、もう少し値上げをしても……」
「問題ありません。ただ、コチラは今回限りになりますね。作る側の負担がシャレになりません。これを作ったライムは魔力と体力を使い果たして、昼まで眠っていましたから」
リアンの言葉でパッと副隊長が私を見て体調などを聞いてきた。
もう完全回復してます、と答えると感心したように頷いていたけれど、特に異論を唱えることなく袋から金貨二十枚取り出して、氷石糖を受け取っている。
色々な角度から眺めて、美しい、と目を細める姿はやっぱり危ない人にしか見えなかった。
「あの、副隊長さん。『氷石糖』って他の所でも金貨が平気で飛ぶ値段で売ってるんですか?」
お店で売っているのを見たことがなかったのでいい機会だと思って聞いてみる。
氷石糖ってウォード商会でも扱ってないみたいなんだよね。
調味料の所にも回復薬の所にも置いてなかったし、道具屋なんかでも見なかった。
ニヴェラ婆ちゃんの所でも置いてなかった。
(見えない所に置いてあったのかもしれないけど、どの店の棚にもなかったな)
一応、買い物をしている時に満遍なく商品を見るようにはしてる。
視察って大事だし、配置の仕方とか参考に出来るかもしれないからね。
そう思って聞いたんだけど副隊長さんは漸く何かを理解したらしい。
「魔術を扱う者と創り出すライムさん達では感覚が違うのかもしれませんね。『氷石糖』は私のように魔術を扱う者にとっては、見つけたら身に着けている武器と回復アイテム以外を売ってでも手に入れたい代物なんです。持ち運びも便利で味も良く、見目もいい。それに、これは喉に良いので詠唱を短くする効果もあるんです。魔術限定のようですが」
「詠唱短縮効果? ああ、本当ですね。しっかりついています。魔術師・魔術限定のようですから僕たちには効果がないようですが。なるほど、道理で……時折、ウォード商会にも『氷石糖』の取り扱いはないのかと問い合わせが来るのです。こういう事でしたか」
「詠唱短縮はとても重要です。暗記もしていますし定期的に詠唱の見直しなどもしていますが、戦闘になるといかに早く詠唱するか、が勝敗を分けるカギになりますから……魔力を回復する薬は基本的に飲むものが多い。それだと一時的に詠唱が止まってしまうんです。液体ですし、飲み過ぎると胃も膨れますし」
あれは結構きついんですよね、と苦笑する副隊長さんが『乾燥果物』を金貨一枚で購入した理由がやっと分かった。
食べて魔力を回復する手段はいくつかあるが、その中でも『氷石糖』は有名らしい。
「ミルフォイル副隊長さん、失礼ですけど『氷石糖』以外にも魔力を回復する食べ物は在りますわよ。錬金クッキーとか」
「ああ、それは存じております。ついでに買ってきてくれと遣いを頼むこともありますから。この店は本当に素晴らしい」
そう話しながらウットリと販売スペースを見る副隊長さん。
元々、整った顔立ちだからか絵にはなるのかもしれないけど、内容が内容だからね。
盛大に残念な人だと思う。
よく分かっていない私たちの為なのか、副隊長さんは分かりやすく説明をしてくれた。
錬金術で食品を作って売っている店自体が少ないそうだ。
オーツバーとか錬金クッキー、簡易スープみたいな感じの商品が人気なのは、美味しく食べられて少しお得な効果があるからみたい。
食べるだけでちょっと魔力が回復したり、体力が回復するって不思議といえば不思議だもんね。
「『氷石糖』は食べる錬金アイテムの中でも魔術師の間では有名なんですよ。美しく、持ち運びやすい上に口に入れたまま詠唱もできる。食べて回復した後でも一時間は詠唱短縮効果がありますからね。正直コレを金貨二十枚程度で手に入れられるとは……しかも、これを調合出来る錬金術師に巡り合えるとは思ってもみませんでした。ツテもありませんでしたからね……昔、一度『魔術』を教えてくれた師の氷石糖を盗み食……ゴホン! 味見したことがあったのですが、それ以来ずっと探していたのです」
契約しませんか、私と! 資産だけはあるので卒業後就職先がなければ私の所へ!と言われたのは冗談だと思いたい。
その後、ミルフォイル副隊長は機嫌よく紅茶を飲み、ラクサが持ちかけた提案を聞いてまた歓び、後日手紙を出すと満面の笑みで握手をして帰って行った。
パウンドケーキを持ち帰れないかと言われたので、紙袋に包んで渡した。一本分。
コッチは商品じゃないのに、金貨二枚置いて帰って行った。コワイ。
見送りはサフルに任せたのは言うまでもない。
「…………ミルフォイル副隊長ってちょっと怖い」
「金払いと理解の早い客は貴重だから失礼のない様に。まぁ、口止めできたのはよかったな。今の所彼がこの工房やライムにとって不利になる様な事態を引き起こすことはまずないだろう。あの喜び方を見るとな……一応、あれで売るのは最後だと伝えたが、売価をもっと吹っ掛けても良かったかもしれない」
詠唱短縮効果、か……そこまで気にしてなかったな、と真剣に悩むリアンについていけなくなったのは私だけじゃないらしい。
ぞろぞろと応接用ソファから離れる私たちは、無言で外出の準備に取り掛かることに。
外出してお守り袋(中身無し)を買いに行った帰りに、ついでだからと学院に立ち寄った。
ラクサも入って良い、と言われたので一緒に行ったんだけど……そこで先生から
「最近何を作ったんだ?」と聞かれたので氷石糖を見せた。
すると先生は想像もしていなかったらしく、ギョッと目を見開いて何度も「本当に作ったのか?」「買ったんじゃなく?」と聞いてくる。
どうして何度も確認するのか不思議に思っていると、深いため息とともに説明をしてくれた。
なんでも、一年の魔力量では到底作れる代物ではないらしい。
再度、本当に一人で作ったのかと聞かれたので頷けば、リアンとベルが一言付け加える。
魔力と体力を使い果たし倒れた、ってことを。
それを聞いた先生には魔力切れや体力切れに関する危険性をみっちり三十分説かれた。
自分が悪いのは分かってたからちゃんと聞いたけどね……素知らぬ顔でお茶とお菓子食べてた三人はズルい。
あ、一応錬金科の教師なら『氷石糖』は作れるそうだ。
卒業課題として出された、と疲れ切った顔で先生は話してくれた。
「氷石糖は調合と手順はそう難しくないんだ。ただ、魔力の量がな……」
魔力が多い人間には楽な部類の調合だ、と先生は付け加える。
何でも、元々の素質は勿論、ちゃんと授業を受けて毎日魔力を使う練習をしていないと総量が増えないし、時間にも気を配らなきゃいけないということで、下地がきちんとできているのか調べる為に、卒業課題の一つとして設定しているらしい。
調合中に『寒い』っていうのも作り手が限りなく少ない理由なんだって。
(わかる、私もできればもう作りたくない)
頷いた私に呆れた視線をむけて、先生は引き出しから四つの小瓶を取り出した。
「今回、氷石糖を作れたのは、魔力の量が元々多かったのと体力もあったからだろう。普通なら魔力不足で失敗する。足りていたとしても、手元が狂ったり時間がかかってこの透明度にはならない。品質E止まりだ」
これが初めて作ったやつだ、と見せられたのは透明度の低い氷石糖だった。
全部で四つある瓶のうち、一つ以外はすべて透明度が低い。
「やれやれ……手がかからないんだか、かかるんだかよく分からんな。お前らは」
ほら、帰れ帰れ!と疲れた様子の先生に研究室を追い出される。
買い物も済んだし、帰ろうと四人で歩きながら、一日で金貨二十五枚も稼げる錬金術という仕事が改めて怖いと思ったのは、ここだけの話だ。
まぁ、リアンやベルからは暫く『氷石糖』調合禁止令が出されたけどね。
私も可能なら作りたくない。寒いし。
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