147話 手ごたえと要望
書き上がったのでとりあえず投稿。
更新速度上げたいけど、空いている時間に書くしかない……から休みの都合に振り回されそうです(苦笑
お客さんとの会話を書くのがじわっと好き。
お店やってみたいけど、現実でやるのは難しいだろうなぁ……
開店する前に店の掃除をしようと外に出ると、既にお客さんがいた。
店から出てきた私を見て会話を止めた集団は、Aランクの冒険者パーティー『タイマスの王冠』だった。
そして、彼らと会話をしていたのは笑顔の第二十四番隊のミルフォイル副隊長と見覚えのない人。
「よう、錬金術師の嬢ちゃん。野暮用が済んで今日朝イチでモルダスを発つことになってな。運が良けりゃアイテムを売ってもらえねぇかと思ったんだが」
どうしよう、と一瞬考えたけど【乾燥袋】や【聖職者のお守り】を売るのには丁度いいと判断して、彼らを店に案内することにした。
他にお客さん……というか通行人自体いないし。
「丁度紹介したいものもあったので、どうぞ。ちょっと早いですけど、アイテムの陳列は終わってるので大丈夫ですよ!」
看板を出し、開店準備はしたけれど柵は彼らを招き入れたら鍵をかける。
そして手頃な場所に『準備中』と書いた黒板を置いておく。
これでお客さんは入って来られない筈だ。
敷地内に入った五人組と副隊長さんは顔を見合わせていたけれど、特別待遇ですねとどこか嬉しそうに私の後をついてくる。
「そんなに嬉しいですか? 皆さんなら色んなお店で特別扱いされてると思うんですけど」
不思議に思ったので失礼かなーと思いつつ聞いてみる。
彼らは私の質問にキョトンと目を丸くしていたけれど、すぐに破顔した。
「俺らにも『歓迎されたい店』ってのはあるんでね。応援すると決めた店に特別扱いされて気分を害する奴なんざいねぇだろ。なぁ、騎士隊長さん?」
ニヤニヤと笑う『タイマスの王冠』のリーダーに、ミルフォイル副隊長の横に立っていた男の人がガッハッハと豪快に笑った。
その声で作業をしていたベルやリアンが驚いたように店舗側へ移動してきたが、メンバーを見て私の考えを察してくれたらしい。
リアンはお釣りの入った箱、ベルは作業をしているラクサに声をかける為パタパタと走って行った。
「おおっと、なんかワリィなぁ。開店前だったんだろ、錬金術師」
気にしないで下さいと笑ってカウンターの中へ。
ちょっと狭いですけど……とカウンターへ近寄ってもらってから【乾燥袋】を並べていく。
木のカウンターの上に鎮座する鮮やかな赤と黒の袋に、彼らは興味深そうに商品へ視線を向けた。
「これは、なんです? ただの袋ではないのでしょう」
神経質そうな印象を受ける冒険者がマジマジと袋を見つけて口を開いた。
私はそれに頷いて、麻と綿で作られた四枚ある袋を一枚ずつ冒険者と副隊長さんへ手渡す。
「商品名は【乾燥袋】です。たまたま素材があったから作ってみたんです。効果は名前の通り、この袋の中に入れたものを乾燥させることができるんですけど……乾燥と同時に臭いを吸収して消してくれるので、雫時が近いこの時期には便利かなぁって」
組み合わせによって乾燥させる対象への影響も話し、価格を口にする。
一枚金貨六枚は高いって言われるだろうなぁと思っていると、彼らは意外なことを口にした。
「おい、嬢ちゃん。これで金貨六枚ぽっちか。客の俺が言うのもなんだが、お前さん達ちゃんと儲けは出てんのか? 使い切りって訳でもねぇんだろ?」
「そうですね。これで金貨六枚は少なすぎます。もう少し金額を上げるべきです。見た所、あるのはコレだけのようですし……購入制限を設けているのでしょう? なら、金貨十枚……とまではいかなくとも七枚位には値上げしましょう。構いませんね、リアン殿」
いつの間にか隣にいたリアンが笑みを深めた。
提示された値段に上げるのかと思った私を余所に、リアンは緩やかに首を振る。
「そうですね、値上げについては今ある商品を売り切ってから考えようかと」
「売り切ってから考えるということは……ここにある商品は金貨六枚のままってことか?」
「ええ、そのつもりです。僕らは『売れる』『役に立つ』と思って商品を並べていますが、購入されたお客様がどのような評価を下すのかまでは読めません。商品がきちんと機能するか確認はしていますが、十分に検証もしくは確認したかと問われれば何とも言えないので」
検証に充てる時間もありませんし、そもそも冒険者や騎士の方でも使い方は勿論『どういう場面で使うのか』が分からないとリアンは続けた。
それを聞いて思う所があったのか、提案をしてくれた二人だけじゃなく、その場にいた全員が考え込むような表情を浮かべる。
それを見てリアンは苦笑を顔に貼り付けた。
(私、知ってるもんね。これ相手を説得する時にする“苦笑”だって)
リアンは交渉の時に時々、驚くくらい表情豊かになることがある。
あとで聞いたらこれも“交渉術”の一つだな、といつも通りの不愛想な声で言われた時は、私もベルも二人で顔を見合わせたっけ。
懐かしいな、と思いながらやり取りを見守る。
こういう時に変に口出しするのは良くないからね。
「―――…言い方は悪いのですが、試験販売のようなものだと考えて頂ければ。どのみち、量は作れませんし素材が特殊なので今後販売するかどうかはわかりません。販売対象はBランク以上の冒険者で騎士は副隊長以上としています。販売金額も販売金額ですし」
新人冒険者や役職付きではない騎士では買えないでしょうから、と付け加えたことでその場にいた全員が確かになァとそれぞれ頷いた。
「俺らも新人の頃は金に困ってたから良く分かるぜ。良い装備や武器が欲しくっても、その日の飯代を稼ぐので精一杯っつーこともあったっけなァ」
「ありましたね、確かに。あの頃はまだ酒も覚えていなかったから良かった」
「ほんとほんと! でもま、アタシら全員酒に強くって良かったんじゃない?」
「飲み勝負を仕掛けてきた輩もいましたけど、全部返り討ちにして飲み代が浮いたのは両手では足りませんものねぇ」
賑やかに話をしだした冒険者グループ。
楽しそうに思い出話を語る彼らの横で、ミルフォイル副隊長が体格のいい男に何やら笑顔で毒を吐いていた。
「新人の頃、初めて分けられた部隊に貴方がいたのが運の尽きでしたね。毎回血の気の多い馬鹿どもの無茶振りや厄介ごとの後始末、尻ぬぐい……おかげで私たちがいる部隊は弁償金の所為でいつも予算が足りず、冒険者登録をして資金稼ぎをしたこともありましたね。私が悪い訳でもないのに、毎回毎回計算ができるからという理由だけで連れまわされ……ッ!」
「そんなこともあったような気がするな。ま、過ぎた話だ。細かいことを気にするから嫁の一人も来ねぇんだろ」
「どの口が言ってるんですか?! アンタが仕事を俺に押し付けて家に帰るせいで恋人を作る時間がないんだよ!」
「いーじゃねぇか。お前、魔力が多いから長生きできんだろ? その長~い人生の中で可愛い嫁さん貰えるって」
「無責任の極みたいなアンタとどうして結婚しようと思ったのか、一度アンタの嫁に聞いてみたい」
温度差が激しすぎる二組のお客さん。
このまま放って置いても収拾がつかなくなりそうだなーと途方に暮れていると、背後から足音が二人分。
振り返るとベルとラクサが商品を抱えてこちらへ向かっていた。
「リアン、ライム。一応人数分は揃えられたから持ってきたわよ。カウンターに置いていいのかしら?」
「ああ、すまない。ラクサ、守り袋に入れる金札の説明は頼んだぞ」
緊張しつつもしっかり頷いたラクサが私の横に座った。
それを確認してリアンが小さく息を吐く。
チラッと横目で確認すると商売人の顔になっていた。
「皆さん、新製品は【乾燥袋】だけではなくもう一点あります。こちらは期間限定の販売にする予定なのですが、雫時の前には丁度いいかと」
リアンの声は不思議と良く通る。
ピタッと会話を止めたお客さん達は一斉にリアンの手元に注目した。
流石だ。
「こちらは【聖職者のお守り】というアイテムです。比較的知られているアイテムではありますが、アンデッドが増える雫時ですし如何でしょう? 中身は別売りで一つ銀貨五枚になっています。錬金術で作ったものなので、持っていると物理攻撃が通らない幽霊の類いにも攻撃が通るようになります。効果はあくまで装備している人間だけなので、注意が必要ですが」
特に興味を示した女性冒険者二人に色とりどりのお守り袋を差し出す。
お好きなのを選んでください、と言いつつ同じものは一つもないと、さり気なく伝える辺り抜け目ない。
物珍しそうにお守り袋を眺めている副隊長が口を開いた。
視線が店内を探るように動いている。
「中身を入れていない、ということは中に入れるようなものも取り扱っていると?」
「ええ、御察しの通りです。中に入れるのは購入したお客様が思いを込めたものを入れて利用することもできますし、コチラの細工師が作った金札を入れて使うことも可能です」
「金札というのは初めて聞きましたね」
興味を引いた所でラクサの名前をリアンが呼ぶ。
それを合図にラクサが持ってきた木製の箱を開く。
木箱の中は木の仕切りで分けられていて、中には数種類の金属の板が。
「小さな金属板に特殊な細工を施すことで特定の効果を発揮するようにしてあるッス。一つにつき一つの効果で、上の段から中段までが品質Aで銅貨三枚、品質Sが銅貨五枚になるんスよ―――…肝心の効果はこんな感じになってるンすけど、要望があれば新しく彫ることもできるッス。金札は、お守り袋の中に入れれば【聖職者のお守り】の効果を消さずに効果を上乗せできるッス」
ラクサが見せたのは効果一覧だった。
効果は、魔除けや厄除けのような効果が多い。
他にも恋愛運上昇、金運上昇などがあった。
「どれも元々持ち主の運を引き上げたり、感覚が鋭くなったり、元々ある力を強めたり補助する感じッスね」
大したことないと思うかもしれないっスけど、と言い淀むラクサに冒険者も騎士も真剣な顔で金札を吟味していた。
驚くラクサに冒険者の一人が不思議そうに首を傾げた。
「何故、そのように驚いていらっしゃるのですか。細工師殿」
「あー、いや……故郷では“気休め程度の効果に金を払うやつの気が知れん”ってよく言われてたんっスよ。それで、貴方達みたいな強い人が興味を持つのが意外だったンで」
ラクサの言葉に眉を顰めつつ口を開いたのは副隊長さんと一緒にいた人だ。
箱の中にあった銅貨五枚の金札を三つ選び、お守りも三つ手に持った。
「これと乾燥袋をくれるか。細工師の兄ちゃんよ、絶体絶命の危機に陥った時に必要になるのが、運と『縋るもの』や『支え』だ。兄ちゃんを馬鹿にした奴らはそういう事態に陥ったことがねぇんだろ。ある程度の実力がありゃ、嫌でも実感するしそういうのを分かってる奴は分かってる。安心しな、腕は悪くねぇしこの工房の錬金術師が認めたんなら、その内名も売れるさ」
懐からお金の入った袋を取り出してキッチリお金を出した。
幸運上昇(大)と書かれた物を三つ、そして【聖職者のお守り】も三つ選んでいる。
その内二つは可愛いものと綺麗なもの。
こっそり「妻子がいるんですよ……騎士団の中でも有名な七不思議です。本当に何故なんだ」と恨みがましく呟く副隊長さんに苦笑していると、注目がラクサと色々な説明をしているリアンに集まってるのを確認したらしい副隊長さんが、私の目の前に移動してきた。
パッと見だと興味深そうな隊長さんに場所を譲ったようにも見える。
けれど、副隊長さんは視線をリアン達の方へ向けたまま、一枚の紙を私の前に。
音もなく口元に人差し指を当てて内緒にして欲しい、と合図を受けたので頷いて紙を開いた。
その紙には『乾燥果物の定期購入は可能でしょうか。言い値で買います。また、他にも甘いモノが欲しいですが、何かありませんか』と書いてある。
ちらっと視線だけ向けると無言で私の返事を待っているようだったので、少し考えてみる。
(んー、要相談……だけどなくもない、んだよね)
カウンターに置いてあるインクとペンを取り出して、メモ用紙に『明日の閉店後』と書いて再び副隊長さんに渡して、何喰わぬ顔で商品を入れる袋を準備する。
副隊長さんとのやり取りに気付いている人もいるんだろうけど、と思いながらオーツバーを薦めてみる。
「オーツバーですか。アレはいいですね。美味しいですし、買いましょう。あとは回復薬を頂けますか。他にもお薦めがあれば買いたいのですが」
「騎士団に持って行ってないトリーシャ液はどうですか?」
「トリーシャ液はまだ使ったことがないですね。噂には聞いているので興味はあるんですが」
なるほど、と二人で話をしていると冒険者の女性二人が何かを思い出したらしい。
男性陣は話が長くなりそうだから、とアイテムを見ることにしたようで店内にばらけている。
「トリーシャ液と言えば……自分の好きな香りの商品を作ってもらう事ってできたりするかしら? 今ある香りもいい匂いで好きなんだけど、どうせならね」
「そうそう! このトリーシャ液って女性冒険者の間で大注目な上に凄く話題になってるの。で、その度に自分だけの香りがあればって話してるのよ。あと香りについてなんだけど、年配の男性冒険者は香りがなくなるようなものがあればって言ってるみたい。冒険者の男って汗をかくから特有の臭いがキツいんだって。で、結婚していて年頃の娘がいると嫌がられるから、どうにかしたいってよく酒場で愚痴ってるわ」
これを聞いた私とリアンが顔を見合わせる。
考えたことがなかった訳じゃないけど、実際にお客さんに言われると重要度が上がってくるんだよね。
こういう小さな要望って『できなくはない』んだけど、限度を設けないと大変なことになるってことを私は知ってる。
「ちょっと待ってもらえますか? ベルー? ベル、ちょっとこっちに来られる?」
店の奥に声をかけると補充の為に地下から木箱を運んできたらしいベルの声が聞こえた。
お客様がいるからお嬢様らしい口調だったけど、それ以外はいつも通りだ。
手には複数の回復アイテム。
中級ポーションが三本程あったので、念の為に持ってきてくれたんだろう。丸薬もあるようだ。
「ライム、なんですの? あら、いらっしゃいませ」
「実はお客さんの好きな香りの商品を作れないかって相談を受けたんだよね。消臭効果についてはリアンと相談してみようと思うんだけど、お客さん別に香りの違うトリーシャ液を作るっていうのはどう思う?」
質問にベルは首を傾げた。
少し考えてそうね、と言葉を選ぶように言葉を紡ぐ。
「できなくはない、けれど……そうね、調香に凄く時間がかかるから―――…正直、難しいですわ。意見も聞きながら香りを決めて、使う素材も厳選し『決定』するまで何度かやり直しをしなくてはいけませんもの」
「言われてみれば確かに。現実的ではないよね、気持ちは分かるけど」
トリーシャ液自体の調合は簡単だ。
だから、体臭を薄めるような効果をつけたものを作り出すのは、レシピさえできてしまえば問題なく生産できる。素材が特殊じゃなければね。
ただ、個人別に香りを作って調合するとなると、手間と時間がとんでもなくかかるのは目に見えているのでかなり悩ましい。
(それに誰かが『特別』で『専用』のアイテムを作ってもらった、って聞いたら自分も!ってなる筈だし)
際限なくトリーシャ液と回復薬を作り続けるなんて私は嫌だ。
旅にだって行けなくなるだろうし、色んなアイテムを手掛けることもなくなる。
うーん、と腕を組む私に冒険者の女性たちは慌てて「世間話だから」と言ってはくれたけど、私たちは揃って頭を下げた。
気まずい雰囲気を吹っ飛ばしたのは回復薬を手に近づいてきたリーダーの男性だった。
不思議そうな顔をしつつ、回復薬を購入上限までカウンターに置く。
「すまねぇが、他にも回復薬がある様なら売って欲しい。無理にとは言わん。初級だと回復量がちぃと足りんくてな。そっちは他の錬金術師から買ってるんだが、此処での買い物を知ってからどうにも利用しづらくって、出来るだけ錬金術関連はここで済ませたい。ああ、それと洗濯液っつったか? これも頼む。金属についた汚れも落ちやすいから助かってるぜ」
ドンっと大容量の洗濯液などを買い込んでいるので驚いたけれど、モルダスには年に二回顔を出すくらいでそれ以外は各地を回っているそうだ。
「買える内に買っておきてぇ。場所によっては錬金アイテム自体を手に入れるのが難しいトコもある」
この一言でリアンはああ、と何かを思い出したらしい。
あとで聞いたんだけど、冒険者ランクがB以上の場合は、ギルドから討伐協力を要請されることがあるらしい。
そういう事情を知っていたからか、リアンは回復薬を追加で売ると決めたんだって。
分かりました、と頷いてカウンター奥のテーブルから中級ポーションを二つ、丸薬を二セット持ってきた。
「購入者制限を設けている中級ポーションです。一つ銀貨十二枚で本来なら一つしか売らないのですが中々当店へお越しになれないようですので、特別にもう一本お売りしましょう。こちらは【牧師の丸薬】になります」
「回復アイテム、なんだな? 初めて聞く名前だが」
「一般的に出回っているのは『司祭の丸薬』ですからね。ポーションで言うなら、『牧師』の方は初級ポーションと中級ポーションの間くらいの効果になります。使い勝手はいいと思いますよ。戦闘中には向きませんが、戦闘後などに飲めばある程度の傷と体力が戻ります」
「ふむ。なるほど、使いどころさえ間違わなければ有用、という事か。面白ぇ、これも貰おう。小さいから運びやすいのもいい」
「水などで流し込めばさらに飲み込みやすいですよ。ポーションと併用も可能ですので、初級ポーションで【牧師の丸薬】を飲めば―――…そうですね、貴方なら体力の半分は回復するはずです」
深い傷がある場合はそちらに効果が集中するので、中級ポーションと丸薬を飲むことをお勧めしますが、と説明をするリアンはそれを隊長さん達にも差し出した。
驚く二人にリアンは営業用の笑顔を浮かべる。
「近々、騎士団の中で必要になる“行事”があるでしょう。もしよろしければいかがですか。こちらの丸薬は『小さい』ですからね。口の中に仕込んでおくことも可能です。相手方もあらゆる仕込みを行っているのですから、この程度の対策は命と騎士として今後働く為の自己防衛術だと僕は思います」
今なら、とリアンは続けてラクサが作った『小型薬入れ』を置いた。
その中に丸薬を入れて蓋を閉める。
サラッと小箱の効果についても口にしつつ、ラクサが作ったものをいくつかテーブルに並べた。
「こちらの丸薬は一粒銀貨十枚。三粒で少し割引し銀貨二十四枚になります。こちらの『小型薬入れ』は、丸薬の品質と効果を保つためにご購入をお勧めしています。S品質の薬入れならば早々壊れません。なにせ、細工師による『形状記憶』もしくは『完全防水』の効果が刻まれていますから。瓶などに入れるより持ちやすく、かさばらないので懐などに忍ばせておくこともできますよ」
合わせて銀貨三十枚、薬入れは一度買えばほぼ一生使えます、とリアンは笑った。
それから数分後、二組のお客様をお見送りした私たちは入り口のドアを閉める。
少しの時間しか接客していないのにどっと疲れた。
「うう、店を開ける前なのに疲れた」
「ほんとそれよ。リアンあんたねぇ……」
「雫時には店を閉めるんだ。ある程度利益を上げておきたいと予め伝えてあっただろう、忘れたのか?」
ふんっと言いながらもリアンは満足げに売り上げ金を整理していた。
【乾燥袋】が四枚売れたので残りは五枚。
ただ、アイテム自体の単価が高いので今日この時間だけで日頃の売り上げを軽く超えた。
今までの調合素材や細々とした買い取り金の殆どを賄えたと思う。
回復アイテムも売れたし、それ以外にもある商品を全て一種類は購入してくれたので、金貨二十四枚近い売り上げになったのは確実だった。
「まぁまぁだな。この後店も開くし、今週は稼ぐことに力を入れるか」
「もう、アンタに任せるわよ……一応、乾燥袋に使う染色液なんかも作っておいた方がよさそうだし、寝る前にそっちを少し作るわ」
疲れたから紅茶でも飲みましょう、とベルが台所へ向かいラクサがその後を追いかけた。
ラクサなんて順調に自分の作った商品が売れたからか、飛ぶように軽い足取りだ。
「ライム。ミルフォイル副隊長は君に何の用事があったんだ」
減った分の商品補充をしようとカウンター扉に手をかけた所でそんなことを聞かれた。
ぎょっとして振り向くと普段通りの不愛想な顔で帳簿に何かを書き込むリアン。
見てたの!?と驚きつつ、乾燥果物のことと甘い食べ物が欲しいと言われたことを話す。
「実は、甘いものの調合アイテムって結構あるんだよね。おばーちゃんが色んなもの知ってて……副隊長さんが『言い値で買う』って言ってたから原材料費少しかかってもいいかなぁって思って作ってみようかと。明日には出来るから明日の閉店後ってことで副隊長さんには伝えたよ」
旅にも持って行けるし、ついでに自分達が食べる分も作る予定だと言えば、リアンが原材料の確認をさせて欲しいと申し出てきた。
話そう、と思ったんだけど……ちらっと見えた時計があと十五分で開店という所まで来ていたので、閉店後に話すことに。
私たちは紅茶を慌てて流し込んで、開店準備の為、店内外を整える。
開店時間通り店を開くと、十分もしない内に冒険者や騎士たちが入店し、アイテムを購入していく。
忙しい朝の時間帯だったけど、ラクサがいたことで商品の受け渡しも順調だ。
嬉しい誤算だな、と客足が落ち着いた頃リアンが漏らすくらいには商売上手だったんだよね。
ラクサって。
【聖職者のお守り】は早々に売り切れ、ラクサの金札のみを購入していった冒険者や騎士もいたので、ラクサは始終嬉しそうだったっけ。
(どうして、今まで上手くいってなかったのか本当に不思議だ)
露店販売をするとほぼ完売状態にはなっていたってことだから、そういう所で鍛えられたんだとは思う。
今日みたいにサフルの手がいっぱいな時はラクサに手伝ってもらうのもありだな、と思ったのはここだけの話。
ま、同じ工房生じゃなくて外部の人ってことになるから気軽には頼めないけどね。
ここまで目を通してくださって有難うございます!
相変わらず誤字脱字がありましたら誤字報告などで教えて下さると嬉しいです。
ブックや評価、感想など有難うございます。
アクセスだけでも……というか目を通して頂けているだけで嬉しいです。
かなり遅いペースではありますが、今後も週一を目安に投稿頑張ろうと思います。