137話 『たかが 回復薬。されど 回復薬!』
とりあえず、伸ばし伸ばしになっていた回復薬問題。
なかなか話が進みませんが、次は新キャラの事情を少し。
調合までかければ御の字。
いつもより少しだけ早い更新です。
『アトリエ・ノートル』の登録印申請を出す為に、私たちは『商人ギルド』へ訪れていた。
手続きの方法はいずれ自分でしなきゃいけないから、私とベルも見ておいた方がいいと言われて、リアンの解説を聞きながら確認した。
隣で工房を開いている細工師のラクサもリアンの解説を聞きながら、自分の登録印申請を窓口に提出。
登録完了までに時間がかかるみたいだから、購買を覗いてみることにした。
「商人ギルドの中にも購買があるんだね」
「それはそうだろう。商人は勿論、職人や特定のアイテムが欲しい人間も多く足を運ぶからな」
錬金術に使えそうなものもある筈だ、と言うリアンの言葉の通り購買にはかなり色々なものがあるみたい。
かなり広いカウンターには三人の職員がいて、そのうち二人は接客中。
端っこに立っていたお姉さんと目が合ったのでそちらに行ってみた。
「いらっしゃいませ。何かご入用ですか?」
「こんにちは。えっと、錬金術に使えそうな素材って何かありますか? 出来ればあまり高くないもので、気軽に実験とかできそうな素材がいいんですけど」
「オレっちは、安い宝石の原石とかがあれば見たいんスけど」
リアンがベルに散財しないようきつく言い聞かせているのを背中で聞きつつ、ラクサと二人でカウンターに立つ優しそうなお姉さんに話しかける。
お姉さんは私たち二人の話を聞いて、少し考えた後に口を開いた。
「気軽に実験できそうな、高くない素材……ということはある程度数があって、安価なものをお求めですね? 錬金素材は多くないのですが、今あるものはコチラになります。また、宝石の原石でしたらコチラになりますが、原石よりも鉱石の方が安く取り扱っていますよ。ただ、鉱石の場合は『何が』入っているのか分かりません。結晶石だった、ということもありますのでご了承くださいませ」
お姉さんは大きな木のトレイに素材を一つずつ並べたものを私とラクサの前に置いた。
ラクサの前には磨かれていない石が三つ、鉱石が五つ。
私の目の前には見覚えのあるものが数種類と、初めて見たものが一つ。
「あの、コレって何ですか?」
標本みたいに並べられた素材から初めて見たモノを指さす。
小さなその石は一見黒いんだけどよく見ると小さな白い点が無数に浮かんでいる。
表面はツルッとしていて形も角がなく丸い。
(川で見るような角が削れた小石、だけど)
「こちらは【分解石】と呼ばれるものです。最近発見されたので使い道がないので価格が安いのです。有用な薬や道具に使用する薬草などであれば高く引き取れるのですが、発見したばかりな上、薬用ではないものは比較的安価での取引となります」
「なるほど。ちなみにこれっていくらですか?」
「提示させていただいているものは全て鉄貨五枚~銅貨一枚ですが、そちらは鉄貨六枚になります。在庫は三十ほどありますが」
「銅貨一枚と鉄貨八枚か……うん、三十個下さい! あの【分解石】ってどういう特徴があるのか分かりますか? 分かってるなら教えて欲しいんですけど」
ダメ元で聞けばお姉さんは笑顔でほほ笑んだ。
そして背後にある沢山の棚から一枚の用紙を取り出す。
「用紙を持って帰ることはできませんが、メモをすることは禁止しておりません。他にご入用なものはありますか?」
「んー……あ、コレって【火樹の皮】ですよね? 湿気ってもいないみたいだし、どうしてこんなに安いんですか?」
「こちらの物は取扱期限が近づいていたり、数が半端であったり……雫時が近いので処分したいという商人ギルドの意向ですね。雫時にはお客様が減りますし、こういう“火”の気質を帯びたものは品質が下がってしまうことが多いので」
なるほど、と頷いてその場で【火樹の皮】【黒い石】を買った。
かなり安かったからね。
お姉さんが商品を揃えている間に、分解石について分かっていることをメモする。
メモって言っても……分かってることがかなり少ないからあっという間に写し終わった。
【分解石】物質を溶かす性質がある。
発見されたばかりであまり詳しいことは分かっていない。
最初に発見した人が分解石と名付けた理由は不明。
会計を済ませた所で注意が終わったらしいリアンとベルがカウンターに並んだ。
ベルが何か注文しているのは聞こえて来たけど、リアンは難しい顔で悩んでいるラクサに気付いたようだ。
「宝石の研磨を練習したいらしいんだけど、鉱石って何が入っているか分からないから迷ってるみたい」
「……なるほどな。すみませんが、天秤計りを貸して頂くことは可能でしょうか」
「ええ、構いませんよ」
そう言ってほほ笑んだお姉さんは、古いけれどしっかり手入れの行き届いた天秤計りをリアンの前に。
リアンは礼をして手袋を嵌めなおし、鉱石を二つある皿に一つずつ乗せていく。
鉱石自体の大きさはほぼ同じだ。
何の抵抗もなく左の皿が下がったのを見てリアンは軽い方の重さを量り、少し考えた後、
重たい方の重さも計測。
そうして鉱石五つの内三つをラクサの前に置き、軽い二つは木のトレーへ戻した。
「―――…この三つは【結晶石】ではない可能性が高い。まぁ、中身がただの鉄鉱石である可能性がない訳ではないが」
「あ、そっか。宝石って重たいんだっけ。結晶石って鉱石の中でも軽いもんね」
「その通りだ。ジェムクラスになると少し重みが増すが……結晶石のジェムクラスが入っている可能性は低いだろう」
「ちなみに、コレっていくらですか?」
「十センチ以下の鉱石は一律銀貨一枚です」
「う゛……銀貨一枚っスか」
「私、これ一個買います。研磨液試してみたいし……装飾品の調合は今後する機会増えそうだから」
「言われてみると確かに。僕も一つ買っておくか」
「うぬぬ。お、オレっちも一つ買います!!」
三人でそれぞれ気になった鉱石を購入した。
ベルは店員さんに高そうな金のトレーを差し出されていた。
其処に乗っているのは宝石の原石。
詳しくない私でも一目で『あ、これ宝石』って分かるようなものが多かった。
「べ、ベル……? そ、それ買うの?」
「ええ。ジェムの品質としてはそこそこですけど、練習用としては良さそうじゃなくって? 鉱石も買うべきかしら……」
「こ、鉱石だけで良くない? あとはチェーンとかブローチにするなら土台になる台座」
「チェーンもブローチの台座もオレっちが作れるッスよ!!」
「それでしたら、貴方にお任せしようかしら。どうせこの後工房を見せて頂くわけですし」
「了解っス。いやァ、久しぶりの客っスね! すいませーん、加工用のインゴット見せて下さいっス」
意気揚々と店員さんに注文をして商品を吟味し始めたラクサの懐具合が心配になったけど、まぁ、人の懐事情に口出しできるほど偉くはないし……と見なかったことに。
(でも、チェーンとかを隣で買えるなら楽かも。結構二番街も遠いんだよね)
必要なものだけを買った私とリアンは、店員さんの後ろの棚に置いてあった沢山の本に視線を向ける。
色んなタイトルがあって、分野も細かく分けられていた。
錬金術関連の物も沢山あったので珍しいモノがあれば買ってみるのもありかな、と考えているとリアンが私にだけ聞こえるように囁いた。
「ライム。回復薬の価格が上がっていることを話したのは覚えているか」
「え? ああ、うん。なんか騎士科の人達が回復薬買い占めてるとか、いないとかっていうやつでしょ?」
「そうだ。直ぐに落ち着くと思っていたんだが、色々な要素が重なって長引いている。帰りに冒険者ギルドに寄って少し話を聞いて行こうと思っているが、構わないな?」
勿論、と頷いた所で二人の買い物が終わったらしい。
品物をそれぞれしまい込むのを見計らったように、今度は窓口から呼び出しがかかる。
窓口では無事、登録終了したという言葉と共に『作成者登録書』と『登録カード』が渡された。
私たちの場合は連名だったからか、三人分。
コレで料金は同じだというのだからお得だと思った。
後で聞いた話だと、同時登録できるのは五人までなんだって。
「ラクサの工房へ行く前に冒険者ギルドへ寄って行こうと思う。確認していなかったが、冒険者登録は?」
「勿論。お三方も登録済みッスよね? 接しやすい庶民の錬金術師がいるって噂になって、色々探り入れてる奴も多かったんス。ま、『アトリエ・ノートル』が開店してからは、商品が安くて品質がいいとか、錬金術師の店なのに“他の店”と変わらず買い物ができるって話題になってる位ですし? オレっち、客が来ない陽と陰の日は冒険者として活動して小金稼ぎしてるンで、冒険者の噂話は割と仕入れてるッスよ」
歩きながら話を聞くと、臨時でパーティーを募集している所によく行くらしい。
パーティー解散は割とよくあることなんだって。
新人冒険者は勿論、長年組んでいても怪我や個々の事情で冒険者を止めなくてはいけなくなったり、仲違いをしたりもあるみたい。
「より優秀なヤツを引き抜きたいから、抜けろってのもある……らしいんスけどね。あんま見ないっス。ぶっちゃけ、損する確率の方が高いんで」
「優秀かどうかの判断は人によって異なりますものね」
「コストの問題もある。浪費が激しかったり、武器種や能力によって報酬分配も考慮しなくてはいけないからな。実入りが減る可能性も十分考えられる」
「それに長くやってきた人と別れて新しい人ってなると、慣れるまでかかるよね。嫌な人だったら安心して採取できないし、ご飯だって作りたくなくなるもん」
「……分かってはいたッスけど、アンタらやっぱり面白いっス」
どれも大事な要素なんであながち間違ってはいないけれど、と言われて私たちは顔を見合わせる。
二人とも「え、一番大事なのはコレだよね」って顔をしてた。
ベルは戦闘力。リアンはお金。私は安心して採取できるかどうか。
冒険者ギルドが遠くに見えてきたところでラクサが軽く咳払いをして話を戻した。
「えー、それで、まぁまとまった報酬や目的の素材やアイテム、用事がある場合は臨時でパーティーを組むことがあるんスよ。細工師って意外と金がかかるンですよねぇ」
「錬金術師もお金かかるよ。素材もだけど道具だって金貨数枚が普通に消し飛ぶし。レシピも本を買って自分で読んで、手順を考えて……一発で成功すればいいけど失敗することも結構あるし」
失敗すると素材はなくなるし、手間も時間も消費する。
成功すればいいけど、見当違いでアイテムが完成しないってことも結構あるんだよね。
私もおばーちゃんがいた頃は思い付きで色々作ろうとしてよく爆発させてたし。
(おかげで『何となく』成功するかどうかは分かるようになってきたけど)
彼の話を聞きながら人混みを歩く。
改めてだけど、こうして歩くととても良く分かるのが彼の視野の広さだった。
貴族であるベルの少し前を歩いてさり気なく歩きやすい場所を通るようにしてくれているし、リアンの質問に答えながら時々知り合いの冒険者らしき人を見つけて手を振ったり会釈をしたり。
忙しないといえば忙しないけど、彼自身を苦手だと思う人は少なそうだ。
(リアンやベルとは違う……どっちかっていうとエルに似たタイプかな)
◇◆◇
昼を少し過ぎた冒険者ギルドは、のんびりとした雰囲気が漂っていた。
ギルド内にいる冒険者自体も数は少なくて、一人だったり二人組、三人組という少人数。
落ち着いた年代の人が多く、テーブルには何かの資料とワインといった軽い飲み物と食べ物がある。
「……下調べ、ってとこッスね。雫時が近いから、早めに計画立てて混雑する前に移動するってのも優秀な冒険者のやり方の一つッス」
なるほど、と頷いた私を余所にリアンは何かを考えながら依頼が貼り付けてある大きな掲示板へ視線を走らせ、直ぐに購買へ足を運ぶ。
何を買うんだろう、と思っていると従業員に話しかけた。
「こんにちは。回復薬はお幾らでしょうか?」
丁寧な言葉遣いと笑顔に従業員の男性は、数度瞬きをして直ぐに困ったような笑顔を浮かべた。
どうやら私たちを見て『だれ』なのか分かったらしい。
「市場視察、といったところかな。回復薬は毎朝入ってくるんだけどね、午前中に売り切れるんだよ。なにせ、価格が一定なのはギルドと一部工房くらいだから……錬金科からの入荷と契約している錬金術師からの分しか来なくてね。素材自体の取引も高騰しているから回復薬は売れても赤字なんだ。全く、雫時が近づくと価格が少し上がるのはいつもの事だから冒険者ギルドや冒険者も了承しているけどね……学院の騎士科も随分と質が悪くなったものだよ」
「騎士科の連中が何かしたのですか?」
初めて聞いた、とでも言うような表情で従業員に話しかけるリアンを見て思わずベルに視線を向けると、呆れたような感心したような何とも言い難い表情をしていた。
ラクサの方はリアンが何を知ろうとしているのか気になるようでじっと会話に耳を傾けている。
「学院の生徒でも知らな……ああ、そうか。工房生だし君たちは錬金科の生徒だったね。知らないのも無理はない。今回の回復薬の高騰は、騎士科の貴族が原因らしいんだ。全く、同じ学院ってだけで色々言われることもあるだろうし、君たちもいい迷惑だろう」
リアンが詳しく話を聞いたから、『世間』でどういった風に噂が流れているのか知ることができた。
今回の『回復薬』高騰は、騎士科の貴族が企てたモノとして冒険者だけではなく騎士団の人にも広まっているらしい。
貴族主義の騎士科生徒が、親やお抱えの錬金術師や商人と共謀して回復薬や回復素材を買い占め、雫時前の大事な時期なのに市場価格が高騰していると。
リアンやベルの予測では『学院側』が早期に対応する、だったんだけど現在進行形で価格は上がっていて市場では品薄だ。
販売価格を目安として聞いたら、従業員から普段の三倍ほどの値段を言われて思わず変な声が漏れた。
「高すぎじゃないですか、それ。お金ない人買えないんじゃ」
「そう! そうなんだよ。ギルドでも困っててね……まぁ、一応ある程度の備蓄はあるけど、あくまで『有事』の際に使う為のものだから、ギルドでも何もできないんだ。そんな中で、君たちの工房は一定の品質で価格も良心的だって評判だよ。まとめ買いしようとする奴らもいない訳じゃないけど、購入制限はあるし……冒険者は自由だけど、回復薬の重要性は嫌という程理解しているから、冒険者からそういうことをする奴は早々いないと思うよ。何かあったら窓口で相談してくれれば対処させてもらうしね」
貴族籍を持っていない錬金術師の卵を護るのは当然だ、と従業員の男性は話す。
そして声量を落としてそっと囁いた。
声を潜めた辺りで『周りに聞かれたくない』話なのかな、とも思ったんだけど彼の表情は今の状況を楽しんでいるようにも見えた。
不思議に思って周囲に視線だけ走らせると、周りの人達も話す内容に心当たりがあるのか彼と似たような表情を浮かべていたり、あからさまに私たちから視線を逸らしている。
「―――…冒険者と騎士団は大丈夫だけど、騎士科の連中には気を付けた方がいいかもしれない。庶民出の子に『小遣い』を渡してまで回復薬を買う貴族もいるからね」
「ご忠告有難うございます。実は、騎士科の生徒に回復薬を販売するのは止めようかと思っていまして……冒険者の皆さんや騎士団の方の役に立つ方が嬉しいですしね」
そういって笑ったリアンを見て満足そうに笑い、頷くお兄さん。
私たちとしては嬉しい情報だったけれど、話しても大丈夫なのか気になって聞くと、彼は肩を竦めて事も無げに一言。
「本当はあまり褒められたことではないんだけどね。冒険者ギルドも貴族主義の貴族にはいい感情がないから構わないさ。普段の依頼も横暴だし、この程度の嫌がらせは問題ないよ。何かあっても君たちのことはギルド長も知っていることだから。あ、そうそう。店に嫌がらせされたりしたら、ギルドで委託販売するのはどうだい? ギルド長の提案なんだけど、僕は割といいと思うんだよね。勿論、ギルド専属の錬金術師になるっていう手もあるよ!」
楽しそうなお兄さんは何処か悪い笑顔を浮かべていて、貴族に対する鬱憤が凄く溜まっていることがこの短い時間で嫌という程分かった。
それから、とお兄さんが教えてくれたのは私たちにとって嬉しい情報だ。
「ここだけの話だから内密に頼みたいんだけど、そのうち回復薬の値段は例年通りに落ち着くと思う。商人ギルドと合同で調整することになってね。今回の一件は『国』の評判にも関わる可能性があるし、冒険者ギルドや商人ギルド、商会の代表者なんかが国王に謁見しているから―――……学院の方も落ち着く筈さ」
「回復薬の高騰って、そんなに不味いんですか?」
「今は平和だし戦争してないけど命に直結するものの扱いだからね。特に『緑の大国』であるウチの国は、資源が豊富だと近隣諸国にも知れ渡ってる。そんな資源豊かな国で貴族が回復薬を買い占めているなんて広がったら……色んな邪推をする人も少なからず出てくるし、観光客や冒険者も減りかねない。国益に影響を及ぼす可能性が大きいからね。今の国王は『賢王』としても名を馳せるお方だから……国益を損なうようなものは早急に取り除くんじゃないかな。貴族主義者の中にもマトモなのはいるって分かってるんだけどね、そうじゃないのが多いんだ。そういうのを一掃する機会にもなるし」
「ああ『膿みと病巣は早めに取り除け』ってやつですわね。王が動くのなら、私達の警戒もほどほどで良さそうですわ。まぁ、この情報は“知らない”ことになっていますから、対策は一応講じておくに越したことがないでしょうけど」
ベルの言葉を聞いた受付のお兄さんがニコッと笑って、またおいで~と和やかに手を振ったので私たちは一礼して購買を離れることに。
帰り際、そのやり取りを聞いていたらしい冒険者数人に囲まれた時は驚いたけれど、彼らは皆『店を開いてくれて助かった』と礼を口にして、困ったことがあれば気軽に相談しろと念押しされた。
目を白黒させつつ、ギルドを出た私たちは顔を見合わせて……照れ臭いやら嬉しいやらで何とも言えない顔のままラクサの工房へ。
歩き慣れた道を歩きながら、私は思いきり伸びをして深く息を吐いた。
「にしても、回復薬問題解決しそうで良かった。実はさ、ちょっと前にエルやイオと採取に行った時に新人冒険者がかなり荒い採取してたんだよね。ギルドに苦情入れようかとも思ってたんだけど、その場でキツめに注意したし、エルが周りにもちゃんと周知しろって釘刺してくれたから大丈夫だとは思うんだけど……そういうのもなくなるってことだよね?」
「そういうことは早めに言ってくれ。まぁ、エルがいたなら大丈夫だとは思うが……君は割と採取のことになると周りが見えなくなるからな。結果として採取場所が荒らされることは減るだろう」
「ですわね。もし今度見かけた時は容赦なくギルドに報告すべきですけれど。それに、騎士科の件も想像以上ですわ。まさか王が出てくることになるなんて思いませんでしたけど……騎士科にいる目の上のたん瘤たちもある程度大人しくなるでしょ。ふふふ、ザマぁないですわね!」
そう言いながら機嫌良さそうに笑うベルに私もリアンも苦笑する。
ギョッとしたようにベルを見ているのはラクサだけだったけれど、私とリアンが何も言わないので口を挟むことはなかった。
「ただ、エルやイオは大変だろうな。騎士科全体の評判が下がっている以上、向けられる視線は厳しい筈だ。あの二人なら大丈夫だろうが、問題を起こした場合の処罰は厳しくなるだろう」
「あら。そんなの当り前ですわ。甘っちょろいやり方で育てていては有事の際に真っ先に死にますもの。私が幼少期に入った騎士団の方がキッチリしていましたわ。一定水準に満たなければそれを満たすまで只管鍛錬でしたし、満たしたとしても手を抜いたら容赦なく指摘された上に矯正されましたもの。あそこでは身分なんてパン屑にも値しないものでしたし」
うわぁ、と明らかに引きつっていく自分の顔を自覚しつつ、妙に納得がいった。
ベルが最初から『貴族だから』と変に偉ぶらなかったのはその体験があるからだ、と分かったから。
(いいんだか、悪いんだか……私にとっては良かったんだけど)
複雑な顔で黙り込んだ私たちの頭上を、何も知らない小鳥が楽しげに囀りながら二羽飛んで行った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
誤字脱字などがありましたら誤字報告やコメントなどで教えて下さると嬉しいです。
アクセスして読んでくださってありがとうございます!
ブックマークや評価もとても有難く思っています。
少しでも楽しんで頂けるよう、遅筆ではありますが書いていきますのでお付き合いいただけると嬉しいです。
また、新しい素材もしれっと登場しております(苦笑
以下に記載。これも久しぶりな気がする…
=新素材=
【分解石】物質を溶かす性質がある。
発見されたばかりであまり詳しいことは分かっていない。
最初に発見した人が分解石と名付けた理由は不明。
【火樹の皮】
火樹と呼ばれる燃えやすい木の皮。燃やすといい香りがする。
発火しやすいので取り扱い注意。
なお、燃えやすいのは木の皮だけで、木自体は非常に燃えにくい。
草原や林、丘などに多く、森には少ない。
【黒い石】真っ黒でつやつやした石。比較的硬いが割れやすい。
割れた石は鋭く鋭利なので、指などを切らないよう注意が必要。
火山で多く輩出される為かよく燃える。
その為、鍛冶師は細かく砕いたものを炉に入れて温度を上げる。