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130話 イズン湿地での採取物

何とか書き上がり。

ごちゃっとしていてスイマセン……読み直して、違和感があれば修正する予定です。

一応目は通しているのですが、忙しい時間にチェックすると色々抜けるっていう……orz




 作業台に山積みになった植物を見て、手袋を交換する。



普段使っているものから毒物用の革手袋に交換した後、同じく革製のエプロンをつけた。

イズン湿地は図鑑を見ていたので、毒を持つ生物や素材が多いことは知っていたから。



(触るだけで肌に異常を起こすものも結構あるし)



 採取をするときには採取用の手袋をする最大の理由が『身を護る』だったりする。

勿論、素材を傷めないっていう目的もあるけど、採取している自分の体を壊したら元も子もないしね。


 念の為にベルとリアンにも声を掛けて、革製のエプロンや手袋をつけるように伝えておく。

リアンは鑑定があるけどベルは私の言葉で危険性に気付いたらしく、お礼を言われた。



「さてと……まずは見慣れたやつからだね」



 採取された物の中には、アオ草、エキセア草、魔力草、苦草などがあって、雑草も混じっていたので分けていく。

雑草は作業台下に置いたバケツに入れて、使い慣れた薬草などは状態を見て使えるものと使えないものに分類する。


 高品質のものは少ないけれど、メモを千切ってその上に乗せておいた。

それ以外は10束ずつに分けて紐でまとめるか、小さな麻袋に入れておく。



(ニガ草は雑草と間違ったのかな。草刈りの要領で刈ったっぽいけど……手でちぎってないから良し、と)



アオ草なんかは色んな所にあるとは言っても、使用頻度が高い素材の一つなのでとても助かる。

一つ希少な素材をもらうより、十の使用頻度が高い素材の方が嬉しい。


(希少な素材は勿論嬉しいけど、使用頻度が高い素材の方が必要なんだよね。希少なのって気軽に使えないし)



いざという時の金策兼調合用として大事に取っておくしかできない。


 やれやれ、と思いつつ視線を作業台に戻す。

まずは大きく分類分けすることにした

手前にあった葉っぱを手に取って左、次に手にしたものは真ん中、三番目に触れたものは右。

その調子で手当たり次第に分けていくと、エルがワクワクした顔で私に話しかけてきた。


 念の為、というかちゃんと作業台からは一定の距離を保っていたり、物珍し気な同級生に注意している辺りが流石だ。



「ソレ、なにしてるんだ? 三つに分けてるみたいだけど」


「大雑把に分けてるだけだよ。毒・麻痺・その他でとりあえずね。毒は種類が多いし強さも違う、その上量も多いから。麻痺関係は種類が少ないけど量はあるでしょ? あと、他のものと混じってるから別にした。それ以外は手当たり次第大雑把に分類してる」


「ずいぶん速ぇな……知ってはいたけど、採取とかそういう素材に関する知識どうなってるんだ?」


「どうって言われても、することが少なかったから暇なときは図鑑持って庭だとか森だとか、色んな所に生えてる薬草とか落ちてる石とか掘った土とか片っ端から調べてただけだよ」



日常生活を営む上で必要なこと、行商人に売る品物は作っていたから観察は一日数種類って所だったけどね。


 あと、実験もしてたなぁなんて考えているうちに分類が終わった。



「さてと……あとは、種類・品質別に分けるくらいかな」



さっさと終わらせよう、と同じものを更により分け、品質別に分けていく。

感心したように眺めていたエルは、少し視線を彷徨わせてから私に話しかけてきた。



「煩かったら言ってくれ。とりあえず、俺らの近況報告だ」



 分かった、と返事をしながら毒草をさらに詳しく分類していく。

種類ごとに分けたら毒性の強さだろう、と記憶を頼りに分け始めた所でエルが騎士科に戻ってからの話を始める。


 ちらっと視線を薬草からエルに向けると、エルは勿論だけどその後ろに行儀よく立っていた他の生徒も神妙な顔をしていた。



「―――……演習終了ごとに評価をつけた用紙が掲示されるんだ。騎士科の大ホールの所にでっかい掲示板があってさ、そこに貼り出された俺らの班の評価はなかったんだよな。失格でもないし、って不思議に思って聞きに行ったらまだ協議中らしい。一応、それ以外のことは書いてあったけど、重傷者は0人になってたんだよ。死者数はちゃんと書いてあったのにさ」


「え。でもエルのあの状態はどう考えても重傷だよね?」


「ああ。こっちも調査中だからって書いてないらしい。俺の事だってすぐ分かるだろうし、腕を治療した薬なんかについて広めたくないからだろうな。こういうのを書いてるのって貴族騎士の教師だから、少しでも自分たちに都合の悪いコトは隠したいんだろ」



 ただ、その後良かったこととして「貴族教師が強奪した解毒薬や回復ポーションの金は、学院側が返してきた」とのこと。

そのお陰で少し財布に余裕ができたことから、今日、授業を終えた後に素材を納品に来たらしい。



「そうそう、俺の方の薬代も問題を起こした貴族と教師の給料とかから支払われることが正式に決まったんだ。他にも色々決まったけど、関係者だけに説明するから他言無用で頼むってさ。ま、口止め料要求したら金貨一枚もらえたけどな!」


「ちゃっかりしてるなぁ」


「こちとら死にかけたからな。このくらいは要求してもいーだろ? あ、イオも口止め料貰ってたぜ。この金は騎士科の貴族教師からせしめたから良心も傷まないしィ。『俺』と『イオ』はなーんにも言わねぇけど、噂って広まるの速ぇからな」



 他にも、色々と正式に処分が決まったらしい。

エルを見捨てる判断をした教師は責任を取る形でクビを言い渡され、偉そうなことを言っていた教員も減給と一部権利のはく奪、謹慎処分。


 それだけか、と思わず眉を顰めた私にエルが苦笑する。



「今回の場合は当事者で生き残ったやつらは全員、勘当されてる上に貴族側の班員はほとんど死んでるし―――……今回みたいなのは昔からあった事なんだよ。俺は『錬金科』のライムたちと知り合いで、その上薬まで使って貰えたから運が良かっただけ。最近、学院の体制が変わったとかで教師も好き勝手出来なくなるだろうってさ」



へぇ、と相槌を打っているとリアンが手を止めてこちらを見た。



「少し前に学長と騎士科の代表から処分に関する手紙が来ていたな。伝え忘れていた」


「珍しいね。そういうのしっかりしてるのに」


「店の準備で忙しかったからな。金は『ウォード商会』に届けられている筈だから、用事があった時に確認する」



 この場でリアンが私に「支払われた金を渡すから一緒に商会に行く」と言わないのは、エル以外の騎士科の生徒がいたからだろう。

うん、と頷いたのを確認したリアンは、再び視線を作業台へ戻した。



「あと最初の演習では死者や重傷者などが出るのは当たり前だから、俺もイオも他の奴らもある程度の『覚悟』はしてたんだ。ここだけの話だけどさ」



 演習前の授業は過酷らしい。

担当の教師は、小さなことに対しても厳しく指導し、徹底的に粗を無くそうと接する。

剣を持つより先に徹底的に受け身や回避、危険な場所や土地、条件や天候状態の見分け方なんかも勉強するんだって。



「あと、第二学年に上がるまで貴族の死亡率って結構高いんだよ。学年が上がれば“要領”が良くなるらしくて、庶民の方が死にやすくなるんだけどな。とりあえず、関係者の処分も事後処理も終わって……購買の品物がすげー少なくなってること以外は今まで通りだな」


「品物が少ないって、ウォード商会との契約が切れたから?」


「おう。それが一番の理由だな。まあ? 俺らは元々購買でアイテムあんまり買わなかったから何の問題もなし。普段は、節約の為に中古品とか消耗品は一番街、二番街で手ごろなのを選ぶのが庶民の常識だ。ま、ウォード商会と取引している間は比較的安く買えていたから値上がりした感覚になるけど、元々の値段が安かったから元に戻っただけなんだよ」



やれやれ、と肩をすくめた。

エルが言いにくそうな顔をして視線を彷徨わせる。



「で、だ。学院なんだけど今結構ごたついてるし、頻繁に学院へ顔を出すのはやめておいた方がいいぜ。明日、工房生以外を集めて全校生徒に『違法薬物』の使用について説明があるらしいから、例の話題で持ちきりだしな。しかもそれが原因で、今騎士科と錬金科の仲は最悪だ」



 最後の毒草を置いて、次に麻痺を引き起こす薬草を分けながら考える。


 普段私たちは学院に立ち寄ることは少ない。

商店街で買うより品質のいい素材や専門器具、レシピなんかを買ったり、学院の掲示板で依頼を見るくらいだ。



(そもそも学院の生徒との接点がほぼ無いんだよね。学院で会ったのはディルくらいだし)



混雑を避ける為にあえて講義中に学院に足を運んでいるせいでもある。

それに、騎士科の生徒が店に来ること自体が稀だ。



「私たちの所には影響ないと思うよ。今も殆ど騎士科の人って来ないし」


「今は、な。庶民の間でライムたちの店が話題になってて、ここは安全だって広めてるけど貴族の連中が何するか分からねぇ。一応警戒はしといて損はない」


「もしかしてこれを言いに来てくれたの?」


「本命は素材の受け渡し。こっちはオマケみたいなもんだし」


「そっか。でもこういう情報には疎いから教えてくれると助かる」



ありがとう、とお礼を言えばエルは満足そうに笑ってそういえば、と腰に下げた道具入れから何かを取り出した。


 小さな袋に入ったそれが私のテーブルの前に置かれる。

なんだこれ?と首を傾げた所でスライムの核、とのこと。



「家にあったから貰ってくれ。大した数じゃないから、中身だけ貰って袋は返してくれるか?」


「スライムの核は嬉しいから買い取るよ」


「いいって。色々世話になったしさ。あと、これはイオから」



そういって別の布袋を取り出して渡してきたので開けてみると、瓶の中には苔が入っていた。


 濃い紫色と微かについた泥を見てわかった。

うわ、と思わず口から出た言葉にエルが首を傾げる。



「リアン! これ『泥中苔』じゃない?」


「なんだって?! ちょっと見せてくれ………本当だな……驚いた」



瓶を見ている私とリアンのすぐ近くで、エルが近付いてきたベルにそっと話しかけるのが見えた。



「なんだ、その泥中苔って」


「知らないわ。紫の不気味な草にしか見えないけれど」


「だよなぁ……俺もそんな紫のモサモサどうすんだ?って聞いた。イオは珍しい場所にあったから採ってみたって言ってただけで、要らなかったら捨てればいいよねって言ってたし俺らもよく知らねぇんだよな」



コソコソと話す二人に私は驚いた。


 この苔、天然物はかなり珍しいのだ。

なにせ『毒と聖なる水が混じった泥の中で育つ』のだから。

多分だけど、誰かが聖水か『祝福』の効果が付いた回復薬か何かを落として偶然に発生したんだと思う。


 毒の濃度と聖なる水の濃度によって苔の色が変わるんだよね。

人工的に作れるんだけど、養殖の苔だとどうしても濃い色に育たない。

だからこれほど品質のいいものは滅多にお目にかかれないのだ。



「うわぁ……この苔、結構な量があるし薬作りには凄く役立つよね」


「ああ。これは凄い。難易度の高い薬を作る時にこの苔があると成功率が上がる上に、品質も上がるそうだしな……まさか天然物にお目にかかれるとは。養殖しているものを仕入れているが、やはり天然物には劣る。エル、これも買取に入れて良いんだな?」


「え、あー……いや、それライムにやるって言ってたから別だと思うぞ」


「無理だって、こんなのタダでもらえない! リアン、買い取って!」


「もちろんそのつもりだ。ああ、これ一つで解毒剤の費用がすべて賄えるぞ。それどころか他の素材もあるし、小遣い程度にはなるんじゃないか? どうする? イオに代金を払うこともできるが」


「あー、いや、これも取引と一緒にしてくれ。こういうものを採取できたのは、他の奴が警戒したりモンスターの対処をしていたからだしな」


「分かった、そういう事なら査定の項目に足しておく」



ちょっと待っててくれ、といそいそと鑑定に戻ったリアンを騎士科の人達が口を開けて眺めていた。

 私も機嫌よく残りの仕分けをした所で他のアイテムを見てみる。



(泥、粘土、えーと、モンスターの体の一部……あ、何かの毛皮もある)



一番多いのはカマキリの鎌や毒々しい色の虫の羽や甲殻。

数が多いようでこっちの鑑定に時間がかかったらしい。



「ふむ……計算するとこういう額になるな。各素材の買取金額も書いておいたから確認してくれ。それと、毛皮の類いはギルドか革職人に持っていくべきだ。その方が高くつく。処理もいいしな」


「ありがとな。んじゃあ、これ以外全部引き取ってくれ」



分かった、と頷いてお金を取り出すべく金庫に向かおうと踵を返したリアンに、今まで黙っていた騎士科の生徒が声を掛けた。



「あ、あの! 俺の取り分をアイテムにしてもらうことはできますか?!」


「ええ、できますよ。あくまで取り分の分だけですが……構いませんか?」


「はい!! 初級ポーションとアルミス軟膏、あと携帯食料と魔法のスープを下さい」


「魔法のスープって……湯を注ぐだけで飲めるって言う?」


「マジで美味いって話だしさ、ここでしか買えないってギルドで噂になってるんだ。飲んだ人も何人かいて、もう一度飲みたいから金貯めるって意気込んでたらしい。あと何回か遠征訓練もあるし、ちょっと買いだめておこうと思って」


「それなら俺も! あの、俺もアイテムで!」



次々に名乗りを上げるのでリアンは少し困ったように笑ったけれど頷いて、言われたアイテムを用意し、お釣りを渡す。


 それ以外はお金で渡して取引は終了。

エルもアイテムで受け取っていたのでちゃっかりしてるなぁと感心する。



「俺ら、店が開いてる時間って大体授業中だから買いに来れないんだ。あと、騎士科と錬金科の教師が派手にやり合ったみたいで……生徒だけじゃなく教師の空気も険悪なんだよな。おかげで、今、錬金アイテムは購買では買えない。全く、何してるんだか。あ、悪い、イオの分も頼んでいいか?」


「なるほどな。そういう事なら分かった。ほら、イオの分だ。こっちは釣銭だ。落とすなよ」


「おう。何か聞きたいことあれば手紙出してくれよな」



じゃあなーと機嫌よく手を振って帰って行ったエルを見送って、私たちは素材の処理に取り掛かった。



「使用頻度の多い素材がいっぱいあってよかったねー! 正直、毒草より嬉しい」


「ですわね。本当に助かるわ」


「僕としては泥中苔が一番の収穫だな。これはいい」



三人で話してからリアンには改めて帳簿の関係を頼んで、私とベルの二人で素材を地下に運ぶことに。


 鎌は危ないからと言ってベルが慣れた様子でまとめて縛っていた。

正直カマキリの鎌の使い道は少ない。

虫の甲殻もだ。



「虫の部位はどうするの?」


「それなんだけど、リアンに言って買い取ってもらったのよ。カマキリの鎌とか固い虫の甲殻で鋼ができるって聞いたことがあるのよね。幾つか素材がいるんだけど、錬金術でその素材を作れたら、なんでも裁断できるハサミや斧ができるんじゃないかと思って」


「虫素材から作る鋼は確か『蟲鋼むしはがね』って言うアイテムだったと思う。おばーちゃんは虫が嫌いだったから作らなかったみたいだけど、軽くてよく斬れるからって愛用する人も多いって、昔冒険者の人に聞いたっけ。その人も蟲鋼の剣を持ってたんだよね」


「私は薬より武器や装飾品とかを作る方に興味があるから、そういう変わったものがあれば教えてくれない? 初級の教科書は読んでるけど、知らないアイテムばかりなんだもの」


「任せて! 私もモンスターのこととか色々分からないから教えてね」


「ええ、勿論よ」



地下に素材を全て並べ終わった後、私は夕食の支度にとりかかった。

ベルは錬金素材を調合するらしい。


 三日目の売り上げも順調で、ほんの少し販売にも慣れて来た。




(明日はもうちょっと色々売れるといいな)



自分達が作ったアイテムが売れて空になった棚を見るのはやっぱり嬉しい。

 新しい調合もしたいし、採取に行く場所もきちんと決めたいなんて考えながらグラタンを作った。

結構な量を作ったのに綺麗に全部なくなったのには笑うしかなかったけどね。


食べ始めて初めてお腹空いてたことに気付くんだよね、営業後って。




 ここまで読んでくださってありがとうございます!

誤字脱字変換ミスなどは、毎度おなじみお世話になっておりますが『誤字報告』してくださると幸いです。

 ……本当に、変換ミスの神様に好かれているようです……orz



=新しい素材=

【泥中苔】

泥の中で育つ苔。薄紫~濃紫。

毒性を帯びた泥に聖水や祝福の付いた液体や水が混じった泥穴で育つ。

 見つけるのは難しく、うっすらと紫色の苔が泥の中に見える程度。

養殖もされているが天然ものの方が品質がいいので高級素材の一つでもある。

 薬を作成する際に、粉末にしたものを入れるだけで成功率・品質が跳ね上がる。



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[一言] 普段、ライムたち工房生が学院へ行くことは少ない、の少ないけれど行く例に、リアンの講義受講や試験、ライムの図書館通いなどにもちょっと触れていてもらうと、後で学院生と図書館での関わりの話に唐突な…
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