11話 新たな出会いの予感?
お久しぶりです。
久しぶりすぎて書き方が前と違う気もします(汗
『リンカの森』からルージュさんの宿へ素材と一緒に無事に帰って来た。
仕分けは後回しにしてご飯を食べるために賑わう夜の街に繰り出す。
向かう先は、ホップさんのお店『緑の酒瓶』だ。
夜の商店街は沢山の人で溢れていて凄く賑やかでお祭りの日みたい。
魔法灯が足元や店の看板を照らして灯りが届く範囲はまるで昼間と変わりなくみえるけど、圧倒的に冒険者と下級騎士や見習い騎士が多い。
「こんなに人がいたなんて…冒険者とかもこの街にいるんでしょ?ほんとに凄いよね、首都って」
「そんだけ宿屋があるんだ。それに、今くらいの時間ならまだ少ない方だぜ?代わりにギルドは大忙しで職員はみんな殺気立ってるけどな」
「そんなに混んでるなら皆先にご飯食べればいいのに」
「まぁな。けど、とった獲物の報告やら報酬は早ければ早いほど金になる。だから飯よりも報告を先にするのが冒険者の常識なんだよ。それに、人が多ければ生きた情報が手に入るし、勧誘だってしやすいってことで凄く混むんだ。中でも売買をしてる買取所は戦争だな、うん。ギルドの職員も冒険者も殺気立ってるから近づかない方が身の為だぜ」
「そういう理由があるので、ライムさんも夕刻からはできるだけギルドに近づかない方がいいですよ。騎士が巡回しているとは言っても酔っ払いが多くなりますし、貴女は目立ってしまいますから」
「そだね。この髪の色だと何しても目立つから忘れてたけど」
何気なく髪を摘む。
相変わらずの黄と鮮やかな緑という双色をしている。
少しだけ意識を広げてみると道行く冒険者や騎士、そして街の人たちが小さな声で私の髪のことを口にしているのがわかった。
大体が珍しいモノを見るような反応で否定的な感情は感じられないから放っておいてもそのうち飽きるだろうけどね。
人の興味なんて結構アッサリ移り変わるものだし、学園に通う間この色を見てれば見慣れもする筈。
(注目してもらえるうちに成果を出さないとね。第一印象って大事だし)
道行く人の顔は皆が皆楽しそうで明るいとは言い難いけれど、生き生きとして今を生きていた。
ほんの数日前にココへやってきた私ですら外から帰ってきてあの門をくぐった途端に肩の力が抜けたのがわかる。
だから、私よりもはるかに危険な命のやり取りをしてきた冒険者たちにとっては物凄く安心できる場所なのだろう。
そんなことを考えながらエルやイオとはぐれない様に慣れない人の波を掻き分け、ようやく『緑の酒瓶』にたどり着いた。
店の扉を開けると質のいい鉄で作られた鈴が控えめに鳴り響くけれど、店内の賑やかな声や音にかき消される。
カウンターから元気な店員の声とホップさんの視線を受けて思わず口元が緩んだ。
一方的なんだけどエルが紹介してくれた人は皆、親しみがもてるんだよね。不思議。
がやがやと満席に近い店の中を歩いて、不自然に開けられたカウンターの三席に向かう。
店の中は混んでいてカウンターもこの三席以外は埋まっているので首をかしげているとイオがこっそり耳打ちしてくれた。
「マスターは僕らが帰ってくる日と大体の時刻を伝えておくと好意で席を取っておいてくれるんです。ライムさんも外に出かける時は伝えておくといいですよ」
なるほど、と頷いてお茶目にもウインクをしてくれたホップさんにお礼を言ってから席に腰掛けた。
今日のオススメという料理を頼むと同時にレシナ果汁入りの水を受け取る。
少しの苦味と程よい爽やかな酸味が冷たい水と一緒に体に染み込んで思わず一気に飲み干した。
「ぷっは!美味しー」
「オヤジくせぇぞ、ライム」
「いーのいーの。そのくらい美味しいんだって。やっぱ、泉の水もウチの地下水もいいけど、人の手が加わるとなおさら美味しくなるよ!」
「…やっぱり地下水と泉の水が同類扱いなんですね」
水は水だよ、と言いそうになるのを堪えて周りに視線を向ける。
入った時よりも多くの人で溢れかえる店の中には冒険者や騎士の姿が多く見られた。
こういった店に来るのは庶民出身の騎士ばかりらしく、冒険者とも親しげにお酒を飲んだり料理を食べたりしている。
「お待たせ。ああ、そういえば少し小耳に挟んだんだが今年から錬金科で新しい制度を設けたらしい。優秀な生徒を集めた実験的な制度だと言っていたが…ライム嬢もその候補に入ってるかもしれない」
「そうなんですか?試験の時には三日後に入学式があるって言われただけですよ」
「ふむ。まだ公開していない情報らしいから話していないだけなのか…まぁ、あくまで噂のようなものだから気にしなくてもいいさ。長々と悪かったね、食事を続けてくれ」
私たちは顔を見合わせたものの、目の前のお皿から立ち上る食欲を猛烈に刺激する匂いに負けてフォークを手にとった。
香ばしく焼かれたパンもジューシーな鳥肉も新鮮野菜のサラダも魚のスープも美味しかった、とだけ言っておく。
だってお腹すいてたんだもん。
食事を終えた私はエルとイオに宿まで送ってもらって、夢も見ないくらいぐっすり朝まで眠った。
…お腹一杯になって物凄く幸せな気分で眠った私は翌日の朝から必死に仕分けに励む羽目になるんだけどね。
◇◇◆
「お、おわったぁー!!」
思わず両手を上にあげ、そのまま床に倒れこむ。
目の前には種類は勿論品質ごとに分けられた決して少なくない素材達。
今回は劣化のあまり関係ない植物ばっかりだったから品質も効果も落ちてなかったけど、傷みやすいものもあるから本当は帰ってきたらすぐに仕分けにかかりたかったな。
…昨日はお腹いっぱいだったのと疲れてた所為でぐっすり寝ちゃったけど。
「結構時間かかっちゃったし、もしかしたらエル達仕事終わってるかな」
鐘の音も聞こえないくらい集中していたみたいで時間がわからない。
仕方なく、錬金服についたゴミを落として軽く掃除をしたあと一階に向かう。
まだ入学もしてないのに錬金服を着ているのは私が錬金術師の卵であること(歳から考えて一人前じゃないってわかるしね)を皆に知らせる為。
おかげで冒険者や騎士の間で少し話題になってるってルージュさんがこっそり教えてくれた。
なんでも、ルージュさんの宿に泊まってることを知って何人かが私について聴きに来たそうだ。
護衛や執事が傍にいるわけでもなく一緒にいるのは庶民出の見習い騎士。
これを見て『もしかしたら珍しい庶民出の錬金術師』なんじゃないかと気づいた人が何人かいて顔合わせをしておきたいと言ってたんだとか。
「ルージュさん、お疲れ様です。今何時かわかりますか?選別に熱中してて鐘聞き逃しちゃって…そろそろエル達も仕事終わる頃だと思うんですけど」
「ふふ、ライムちゃんもお疲れ様。ついさっき十一刻目の鐘がなったわよ。そうだ、出かける前にこれ食べていきなさいな。急に帰っちゃった子がいて一食分余ってるの」
「ありがとうございます!実はお腹ぺこぺこで…美味しそー!」
カウンターに座った私の前に置かれたのは湯気をまとった美味しそうな野菜スープと今朝焼いたばかりだと思われるパン、そして野菜や干し肉の切れ端を卵でとじたオムレツ。
ルージュさんの宿の料理は塩や香辛料がしっかり使われてるから凄く美味しいんだよね。
塩も香辛料も結構高い。海が近くにあるわけじゃないし、岩塩山や洞窟もないんだよね。
(それに外で食べるのも程々にしとかないと…最近外食ばっかだから安いとは言え財布には優しくなかったんだよね)
ありがたく味わいながら料理をあっという間に平らげた私は台所まで食器を運んでお水を一杯貰って飲み干してから少しだけ急いで宿を出た。
外に出ると穏やかな陽の光と賑やかな声が商店街の方から聞こえてくる。
そして、近くからは子供達が笑って駆け回りながら遊んだり、主婦たちが洗濯や食器洗いをしながら会話をする平和な日常が飛び込んでくる。
「あ!!お姉ちゃんの髪すごーい!」
「うわ、ホントだっ!ねぇ、なんで二つも色あるの?なんでー?」
近くで遊んでいた子供がわらわらと集まってきて好奇心でキラキラした目を一斉に私の髪へ向ける。
中には本物かどうか確かめようとして手を伸ばす子もいた。
それに気づいた世間話真っ最中だった主婦たちの数人が慌てて駆け寄ってくる。
顔が真っ青なのは私が腕輪をしていることと錬金服を着ているからだろう。
「それ、ほんもの?ねえねえ、どうやったら二つの色になるの?」
「この髪は生まれつき。綺麗でしょ」
駆け寄ってくるお母さんと思われる人たちにも聞こえるように少し大きな声と笑顔を浮かべて言い切ると子供たちは顔を見合わせ、うん、と頷いた。
私の答えを聞いて満足したのか手を振って先程までしていた遊びに戻っていく。
お母さんたちが慌てて頭を下げていたけど気にしないように伝えてから、待ち合わせ場所の『緑の酒瓶』へ向かう。
足取りは重くないけど、改めて自分の髪色が珍しくって人の注目を引くことを認識した。
近所の人とかはそのうち見慣れると思うけどね。
住民街の道を出て、門の前から長く伸びる商店街と呼ばれる商業区に足を踏み入れる。
昼に近い時間になると至るところから客引きの為の声がたくさん聞こえてきて、ものすごい活気だ。
門の方からはひっきりなしに冒険者や荷台を引いた商人、騎士らしき人々が歩いてくる。
「昼時っていえば騎士の人とか冒険者が戻って来るって言ってたっけ」
待ち合わせ場所は『緑の酒瓶』だけど、せっかくだから検問所に顔を出してみることにする。
時間的にまだ検問所にいるかもしれないんだよね、二人とも。
(こんなに沢山の人がいる道を歩くのも少し不安だし)
門に二人がいなければ待ち合わせ場所に向かえばいいだけだ。
人の流れに逆らって門の方へ向かう私を見て、商店街の方向へ歩いていく沢山の人達がひどく驚いた顔をしてすれ違っていく。
どうやら、髪の色と腕輪を見て驚いているらしい。
仲間がいると何やら私を指差して耳打ちしたりしてるけど、大体錬金術師だとかなんだとかって話だと思う。
人の間を縫うように歩いていくと、門の入り口付近で二人が誰かと話しているのを見つけた。
=アイテム=
【魔法灯】光の魔法石を硬い鋼鉄と煉瓦で囲った灯り。
こちらで言う街灯で、大きさはこちらのポストと同じくらいの高さ。
これがあることで夜でも多くの観光客や冒険者が道を歩くことができる。
魔力は朝になるとなくなるので昼間に専門の作業員が魔力補充を行う。
読んでくださってありがとうございました!
徐々に登場人物が増えていく予感…人の名前って覚えられないんですよね…(ボソッ