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124話 お店を開く前日の話(中)

前後で終わらなかった……です。すいません


調合が入ってくると文字数が多くなりがち。

気を付けます、ハイ

また、更新が遅くなってスイマセン。



 開店の為にすべき準備は、意外と多かったらしい。



 商品の配置場所を決める時はベルが先頭に立ってくれたから助かったけどね。

ベル曰く『店というのは一目で分かりやすい、覚えやすい、利用しやすいのが一番大事』なんだって。


 いろんな店があるし、商品の置き方にも色々あるみたい。



「私たちの工房ですけれど客層で分けた方が分かりやすいでしょうね。大きく二つに分類できますもの」


「分類って……大人と子供、男と女、みたいな?」


「そうよ。錬金アイテムが必須になる『騎士・冒険者』と『その他』の客に分けられるわ。だから左右で配置を分けるのがいいと思ってるの」


「なるほどな。一般市民の利用は少ないかもしれないが、分けて置けば騎士や冒険者も気兼ねなく入店できるだろうし、そうするか。左右の通路を主な商品棚、真ん中のスペースは空けて店を出る為の通り道にしたほうが、客の流れも停滞せず無難だろう」


「ですわね。冒険者や騎士は武器を持っている方が多いですし、少し広さを設けた方がいいと思うの。棚を少しずらしましょう」



 均等に設置されていた棚を動かして、武器を持っていても通れるくらいの通路幅を作る。



「右は窓側……日当たりもいいし、ポプリや花を置いて少し華やかにするのもいいと思うわ。ただ、左側には実用的なアイテムを少しでも並べる方がよさそうね。あとは、効果や効能を書いたボードや木の板なんかを設置すると、態々“錬金術師”に聞く手間も省けるでしょ」



 騎士科だけでなく、冒険者や正規の騎士ですらも“錬金術師”にはいい感情を抱いていないのは私も分かっている。


 この国では、高圧的な貴族そのものを連想させるのが『錬金術師』だからだ。

ふんぞり返って偉そうに命令し、必要以上の『技術料』を商品に上乗せする。



(おばーちゃんの所に来た人の半分以上が貴族じゃなかった理由が、なんだかやっと分かった気がする)



 家の扉を叩いた人たちの顔は強張って、どこか鬼気迫るものがあったっけ。

病気の子供や妻や、夫を助けて欲しいと涙ながらに訴えて―――……小銭交じりの“大金”を渡してきた人も多かった。

 おばーちゃんはパッと見てうんうん、と頷いて直ぐにお金をしまっていたけど、たぶん足りていなかった筈だ。



「―――……そのうちでいいから、商品説明とか気軽に私たちに聞けるようになればいいのに。そうすれば、ちょっとは『錬金術師』が騎士みたいに身近で相談しやすい職業だって思ってもらえるかもしれない」



商品棚のすぐ傍にある窓から外を眺める。


 広がる庭は正面からも見える場所なので、いつの間にか綺麗な花が植えられていた。

色とりどりの花と元々植えられていた樹木。

教会へ続く石畳やそれに沿うように建てられた家や倉庫。


 目を細めてその景色を見ていると、青いマントがふわりと視界の端で揺れた。



「ライムが語るような印象を広めるには、まだ『数』も『実例』も足りない。人の心に焼き付いた印象って言うのは中々消えないからな……嫌な思いをすることだってある。店を構えて商売をするということは、入り口のドアをくぐってくるまで客が『だれ』で『どんな』相手なのか分からないものでもあるからな。金が絡むと人間の嫌な面も多く見ることになるし、あまり理想を持ち過ぎない方がいい」



リアン、と名前を口にすると窓の外から視線を私に移動させた。

表情は変わらないし声色からも何を考えてるのかさっぱりわからないけど、『無理だ』と明確に否定はされない。

それが少し意外で驚いていると、リアンが怪訝そうに眉を顰める。


「なんだ。何か言いたいことがあるなら…――――」


「いや、なんでもないよ! なんでもないけど『無理だ』って言わないんだね」


「……無理なのかどうかは、やってみないと分からないからな」



ふんっとやや強引に視線を窓の外に向けたリアンの耳が少し赤く染まっている。

ポカン、と口を開けていると反対側に赤が映り込んだ。


「リアンにしては良いコト言うじゃないの。ライム、私も現状を変える為の努力はするつもり。けれど、三年後―――……私たちがこの工房を出ていくのは変えられない現実。それまでに少しでも『貴女自身』を知ってもらうしかないわね。大きな変化は望めないかもしれないけれど、何もしないよりはずっといいわ」


そう言ってほほ笑むベルは相変わらず綺麗だった。

二人の言葉を受けて頷く。

 否定されないことが嬉しくて、口元が緩んでいくのが分かった。


「そう、だよね。うん、難しく考えてもどうにもならないし、やれることを全力でやるっきゃないか! まぁ……やることって言ったら採取・調合・販売だけど」


「ずいぶん簡略化したな。まぁ、確かにその通りなんだが」


「分かりやすくっていいじゃない。私は賛成よ。戦闘・遠征・訓練ね!」


「それは錬金術師ではなく騎士だ」


「大して変わらないわよ。その後に採取やら調合やらがついてくるだけでしょ」


「素材が先か調合が先か、それが問題って事かな」


「それもそれで違うだろう」



軽口を叩きながら、それぞれ気になる所に向かって配置や説明書きの確認を行う。


 食べ物の類いは明日並べることになったから、この作業も直ぐに終わったけどね。

入り口から順に点検して、気になるのは商品の少なさだった。



「うーん。やっぱり商品増やしたいよね。私たちがもう少し色々調合できるようになれば、相談事にも乗れるようになるんだろうけど……できなくて断るのは嫌だし」



一般的な錬金工房がどういう商品をどのくらい置いているのか、と腕を組んで悩んでいると作業を終えたらしい二人がカウンター前にいる私の左右に立つ。


 同じように店内を見回して同じような感想を抱いたらしい。

二人とも真剣な顔をしている。



「開店してすぐは無理よ。素材にだって限りがあるし」


「相談に関してもいったいどれだけの人間が『学生』である僕らに依頼して来るか、だ。良い顧客を掴めることができればいいが、そうでなかった場合が悲惨だな」


「やってみるっきゃない! って思ってはいても考えちゃうよね……って、そうだ! 素材って言えばそろそろ騎士科の人達も帰ってくるよね。代金の代わりに素材でもって話あったけど、どうなってるのかな? アレの費用は一応工房の売り上げに入るんでしょ」



思い出した!と手を叩けば二人も忘れていたらしくハッと顔を上げていた。

リアンが時計に視線を向けて諦めたように息を吐く。



「直接取りに行くにしても、あちらの予定とどのくらいのモノを持ち帰っているのかが分からないからな」



可能なら今すぐにでも素材を確認したい、と呟いたので私たちは頷いた。



「そうだよね、鮮度命な素材もあるし」


「ですわね。素材によってどんなモンスターが出たのかも分かりますし」


「……二人とも性格が嫌でも分かる答えだな。まぁ、いい。エルには手紙を送っておく。開店時に持ち込まれても困るから時間は指定しておいた方がよさそうだ。早朝が妥当か」


「早朝なら私かリアンのどっちかが起きてるし、いいんじゃないかな。追加素材何かいいのがあるといいけど……毒とか状態異常って嫌だし解毒薬系もあるといいよね―――…話が変わるんだけど、お会計の仕方とか教えてもらっていい? 実際にちょっとやってみようよ。商品適当にとってさ、袋詰めとかもあるし……騎士団での販売した時みたいに順調に捌ければ、混雑も少なくて済むでしょ?」


「そうね。実際にやってみて向き不向きも分かるでしょうし、リアン教えて頂戴」


「分かった。じゃあ、まず会計の方法だが…―――――」



開店準備が終わったのはこれから一時間後の事。

丁度お昼になるかどうかといった所で、リアンが合格点を出した。



(わかってはいたけど、お金と商売が絡むとリアンから『容赦』とか『配慮』が吹っ飛びがちだからな)



私は割と早い段階で合格がもらえたんだけど、ベルが色々悲惨だった。

計算自体は出来るし計算するだけなら結構早い。


 お釣りを渡すだけなら何とかなるけど、接客と同時ってなるとかなり難易度が上がるみたいだった。

接客ってなるとどうしても『上流貴族のお嬢様』が出ちゃうみたいで、何度も何度もやり直しさせられてたんだよね。



(貴族令嬢が金の勘定も接客もしないよね。金銭感覚もかなりアレだしお嬢様モードのベルって迫力あるからなぁ)



疲れ切ったベルと達成感に満ちた顔のリアンに苦笑しつつ、出来上がったばかりの食事を食卓に。


 手伝ってくれていたサフルが疲れた顔のベルを見てスプーンを落としたのがかなり印象的だった。

夜間訓練から帰ってきた時も元気だったから驚いたんだと思う。

気持ちは分かる、と慌ててスプーンを洗いに戻ったサフルの背中を見て苦笑したのは、まぁ、ベルとリアンには見られてなかった筈だ。




◇◆◇




 昼食を終えた所でベルの作業台に集まっていた。


 目の前には【ポマンダー】の材料になる素材が並んでいる。

ポマンダーって言うのは、割と一般的な装飾品・お守りの一種だ。


 魔除けや疫除けの香りと効果を持つ香料を球状の金属容器に入れて、首とかベルトなんかに吊り下げるものを言うらしい。

まぁ、私たちが作るのはフルーツ・ポマンダーっていう果物をメインにしたポマンダーだけど。



「最初は金属細工のポマンダーを作ろうと思ったわ。でも錬金術で作るならこっちの方が楽だと思ったのよね。店先とかにたまにぶら下がっているじゃない? 貴族ならポマンダーは金属細工に香りを閉じ込めるアイテムが一般的だから分からなくって」



金属細工のポマンダーを見たことがなかったので首を傾げていると、ベルが腰のベルトから球状の金属細工を外して見せてくれた。

 細かい金細工に加えて魔石や宝石があしらわれたそれからは、ベルの香りがした。



「一般的に利用されているのはフルーツ……特に柑橘類や香りが強く劣化しにくい果物に、香草やスパイスなんかを挿して乾燥させたものを言う。通常であれば果物は腐ったりカビたりするものだが、防虫・抗疫作用のある香草やスパイスを挿すことできちんと乾燥して、ドライフルーツのような状態になるんだ。こうなれば何年も香りが消えるまで使えるし、新しく作るにしても元値が安いから、ある程度出費も抑えられる」



リアンの説明を聞きながらレシピ手帳を捲ってみる。


 よく探してみたけどポマンダーの作り方は書いていなかった。

家の軒先にはあったけどな、と首を傾げつつ作業台の上の果物を見る。



「果物はアリルとレシナのどっちか……かぁ。防虫効果があるのってレシナの方だよね」


「ええ、そうよ。でも、作り比べてみた方がいいでしょう? 香りには好みもあるし」


「なるほど。で、用意した香草とかスパイスも全部防虫効果があるやつなんだね。でも、このクズ魔石は? 粉になってるけど」



普通のポマンダーの材料にはないものがあったので首を傾げると、ベルが自信なさげに眉を寄せている。



「勘、みたいなものかしら。本来なら粉末にした香草とスパイスをまぶすんでしょう? でも、錬金術だとそれじゃあ『足りない』気がして……で、朝の訓練の帰りにたまたま通った魔石屋で廃棄されそうなクズ魔石の粉を見て“これだ!”って思ったのよね」


「クズ魔石か……費用もほとんどかからないな。一キロで銅貨1枚程度、下手するとタダか金を払うから持って行ってくれと言われることもある」


「クズ魔石かぁ。キラキラして綺麗だし何かに使えそうではあるよね。今度見に行ってみたいかも。それと、ベル……コレはなに?」



そういって指さしたのはクズ魔石(粉)の隣にある白いリボンと大きな麻袋。

麻袋の中には黄色い花が山のように入っている。

花の状態を見る限りでは、まだ新しいので2~3日以内に採ったものだろう。



「まさか、それは夜間訓練で採取したのか?! あの、時間も余裕もない中で一体どうやって」


「ちょっとリアン。あんなものまだ序の口でしょうに……何を言ってるの? それと、私一人で集めた訳じゃないわ。半分はミントも手伝ってくれたの。あの子の武器は大剣だからあっという間に集まったわ」


「流石ミントだ。でも、この花に防虫効果があるってよく分かったね。ベルはあんまり植物系の図鑑とか見てないのに」


「それなんだけど……シスターなら防虫や虫よけにも詳しいんじゃないかと思って、ミントに『防虫効果のある植物があれば教えて欲しい』って頼んだのよ。そしたら、たまたま染色にも使えて、防虫効果もある花が群生している場所があるって案内してくれて……まぁ、モンスターも少し出たけど【虫よけポマンダー】を作る為なら仕方ないと割り切ったわ。場所も覚えたし、あの花は繁殖力があるから多少多めに刈っても大丈夫ってお墨付きよ!」



ふっと笑うベルになるほど、と頷いて状態を確認する。


 頭の中に浮かんだのは草木染めの方法だ。

リアンも似たようなことを考えていたらしい。



「もしかして、私たちへのお願いってリボンを染めて欲しいっていう…?」


「そうなの。私、染められることは知っているんだけど、染め方は知らないのよね」



 作法とかあるのでしょう、と言われて苦笑した。

リアンを見ると染め物か、と言いながら懐から手帳を取り出して何かを探し始める。

何事だろうと思いつつ、私もレシピ帳で染め物について書かれているページを探してみた。



(載ってるのは『糸』の作り方が少し、くらいだね。染め物の手順は知ってるけど)



村では時々染め物をしていた。


 草や花を使ったものが殆どだったけど、煮汁に布を浸けて、水で洗う、煮汁に浸けるという工程を繰り返し布に色を付けていた筈だ。

どうやってたっけ、と考えているとリアンが手帳から顔を上げた。



「あったぞ。一つだけ翻訳を終えていたんだ。僕が知っているのは【媒染液ばいせんえき】の作り方―――……三種類ある内の一つだな。これは丁度、明るい色に染め上げる為に使用するものだから都合もいい」



リアンが近くにあった黒板を持ち出して、何かを書き始める。

相変わらず神経質そうな、でも読みやすい字だ。


「前に『魔除け』と『対アンデッド』用の【媒染液】を作るために、翻訳をしておくと伝えていただろう? その時に染め物に関することも調べたから説明する」



チョークで書かれる通常の染色手順。

その下には調合用のレシピが書かれた。



「染色レシピは単純だ。【布素材】+【媒染液】+【染色素材】を一つの釜に入れて魔力を注ぎ、一度水で洗ってから、再度釜に戻して溶液の色がなくなるまで魔力を込めて、水で一度、湯で一度洗い乾かしたら完成する」


「結構手間かかるね。まぁ、普通に染めると何度も煮て、洗うって作業しなきゃいけないからこの回数でいいなら楽かな」


「確か錬金術で染色すると使用した物の性質が付加できるのよね? 発色もいいみたいだし、もしよければどちらかに頼んでいいかしら」



そういうことなら、と頷いてリアンには中級ポーションの作成を頼むことに。


 ただ、作業前に作っておきたい『回復薬』の話をする。

リアンに断ってから【媒染液】のレシピを書き写そうと思ったんだけど、既にレシピ帳に書き込まれていたのには驚いた。


 ギョッとしつつ、手間が省けてよかったとレシピをメモしているベルの横で【薬草クリーム】のレシピを探す。

書き写した所で黒板を綺麗にして、新しくアイテム名と調合に必要な素材を書き出す。



「今書いてるのは【薬草クリーム】っていう、クリーム系の回復薬。丸薬もいいかなぁって思ってたんだけど、少し時間かかるからまずはコッチから調合した方がいいかなぁって……リアンに頼みたいんだけどいいかな。ベルには二種類のポマンダー作ってもらってから、【牧師の丸薬】を作って欲しい―――……コレが終わって、夕食の準備するから食べ終わったら【研磨液】の調合見せるね。素材はあるし」



この場で書くレシピは二つだ。

 リアンも気になっていた薬の調合ができるからか、熱心に私が書くレシピを書き写している。



【薬草クリーム】薬草(エキセア草)+初級ポーション+シアブロック

軟膏とは違うクリーム状の回復薬。中級ポーション並みの回復力がある。

使い方は軟膏と同じで、内臓に達するような深い怪我には向かない。非食用。

 深い火傷も1週間ほど朝晩清潔にし塗り続けることで回復、美肌効果あり。

=手順=

・シアブロックを中火で溶かし、液状になったら弱火にして刻んだ薬草を入れる

・薬草の色に全体が染まったら火を止めて、少量ずつポーションを入れて混ぜる

・全体がもったりとし、淡い乳白色になったら完成


【シアブロック】

油素材+調和薬+香料

 材料を全て入れて溶かす。

全ての素材が混ざったら火を止めて、かき混ぜながら魔力を注ぐ。

白っぽくなったら容器に入れて固め、完成

※今回は獣油と【吸臭炭】を使って獣臭さを消すこと


【牧師の丸薬】初級ポーション+アルミス草+小麦粉+油素材

 飲み込むタイプの丸薬。じわーっと傷が癒える。他の回復薬との併用可。

ある程度の乾燥・湿気に強い。【司祭の丸薬】よりは効果が弱く、初級ポーションと中級ポーションの間くらいの効果。

=手順=

➀ アルミス草を粉末になるまで擂り潰す

② ➀の粉に小麦粉を加え、均等に混ぜたら、油素材を少しずつ入れてまとめていく。

③ 固まりになったら一口大に丸め、調合釜へ。初級ポーションを入れて魔力を込めポーションが全て浸透したら強火にして、余分な水分を飛ばす。

④ 浮いてきたら完成




 レシピ帳を見比べて、問題ないことを確認。

それぞれ作るものの素材を地下で揃えて作業台へ。


 私は【媒染液】の調合に取り掛かることにした。




【媒染液(黄)】銅+濃縮酢+水素材

材料を全部、釜に入れて魔力を込めながら混ぜる。

全て溶けたら完成。




(分かってはいたけど簡単なレシピだなぁ。良いけどさ)



素材の量も書いてあったし、銅に関してはケルトスでそこそこの量のクズ鉄や使い物にならない金属片を買っていたので、そこから出している。


 あの時はなんでこんなものを買うんだろうって思ったけど、金属の欠片を使う錬金素材は多い。



「素材を全部入れて混ぜるだけなら割と簡単だね。あ、ごめん。サフル……お水を用意しておいて貰っていいかな。リボンを洗いたいんだ」



洗浄用の水を準備するのを忘れていたことに気付いてサフルに声を掛けると、そう遠くない位置から了承の返事が返ってくる。


 作業台に水が置かれたのを確認してお礼を言い、すぐ調合釜に向き直る。

魔力は遠慮なく込めていたけど、どうやらそれが良かったらしい。



「大体10分あれば完成するのか……もっと量作っても良かったかな」



うーん、と眉を顰めつつ一回分の【染色素材】である花を調合釜に投下。

媒染液に沈んだのを見てリボンも入れた。


 今回はそのまま染色するつもりだったし、染色液は取り出さない。

省ける所は省くよ、勿論。

品質に影響がないことは分かってるし。


 釜の温度を上げて、グルグル魔力を込めていくと花とリボンが釜の中でクルクル回って少し楽しい。

長いリボンが杖に絡みつかないように気を付けながら混ぜていると、三分もしない内に花から色が溶液に滲みだす。



「反応早いのが錬金術って感じだよね」



グルグル混ぜて、混ぜて……花が完全に溶けた所で試しにリボンを引き上げてみた。


 淡い黄色に染まったリボンを見て、一度取り出して洗うことにする。

火は強火から中火。

溶液を煮詰めたかったので少しだけ火力を落としておいた。

 

 リボンは引き上げて、すぐ用意してもらった水に浸けてみる。

心なしか色が薄くなったような気がするけれど、色がついていることは見るだけで充分分かる程度には染まっていた。


 ジャブジャブと揉み洗いをして、きゅっと固く絞って調合釜へ向かう。

リボンを入れる前に中火から強火に戻し、再度リボンを染める作業に戻る。

一度洗浄を終えたリボンに吸い込まれるように徐々に釜の中の液体から色が消えていく。


 再度洗って乾かすために水から取り出したリボンは、鮮やかな黄色をしていて思わず感心したような感嘆が漏れた。



「染色、面白いかも……! 溶液も簡単にできるし、布とか糸ができたら自分で染めるのもいいな」


完成したリボンを乾かそうと思ったんだけど、手っ取り早くアイロンをかけることにした。

水分を飛ばしてしまえばこっちのものだからね!

 アイロンを素早くサフルが用意してくれたので、サッと水分を飛ばし、測定器の上に乗せる。


「お、やったね! 品質Cで効果に虫よけって書いてある。名前は……うーん、わかりやすく『虫よけリボン』でいっか」


見事に染色媒体である花の防虫効果が付加できたらしい。

出来上がったリボンはクルクルッと巻いて、メモ紙に『虫よけ効果ついたよ。名前は分かりやすく『虫よけリボン』にした」と書いたものと一緒にベルの作業台に置いておく。


「片づけをしたら次の調合に入ろうかな。えーっと『牧師の丸薬』を作って時間がありそうなら、【薬用クリーム】の【シアブロック】に使う吸臭炭を作っておこうかな……材料はあった筈だし」



 手伝わせて欲しい、と片付けを手伝ってくれたサフルにお礼を言って、私は地下に向かう。

やっぱり調合は楽しい。

三人で並んで調合すると安心するって言うか、困ったことがあってもすぐ相談できるのが本当に助かるんだよね。

誤字脱字などありましたら、誤字報告などしてくださると幸いです。

きっと ある……!! ないといいのにな、たまに(ボソッ


 ブック、感想、ご意見などありがとうございます。アクセスして読んでくださるだけでも凄くモチベーションが上がっております。

気温が上がるのと同じくらいヤル気が上がります……あついですよね。毎日。


=新アイテム=

【薬草クリーム】薬草(エキセア草)+初級ポーション+シアブロック

軟膏とは違うクリーム状の回復薬。中級ポーション並みの回復力がある。

使い方は軟膏と同じで、内臓に達するような深い怪我には向かない。非食用。

 深い火傷も1週間ほど朝晩清潔にし塗り続けることで回復、美肌効果あり。

=手順=

・シアブロックを中火で溶かし、液状になったら弱火にして刻んだ薬草を入れる

・薬草の色に全体が染まったら火を止めて少量ずつポーションを入れて混ぜる

・全体がもったりとし、淡い乳白色になったら完成


【シアブロック】

油素材+調和薬+香料

 材料を全て入れて溶かす。

全ての素材が混ざったら火を止めて、かき混ぜながら魔力を注ぐ。

白っぽくなったら容器に入れて固め、完成


【牧師の丸薬】初級ポーション+アルミス草+小麦粉+油素材

 飲み込むタイプの丸薬。じわーっと傷が癒える。他の回復薬との併用可。

ある程度の乾燥・湿気に強い。【司祭の丸薬】よりは効果が弱く、初級ポーションと中級ポーションの間くらいの効果。

=手順=

➀ アルミス草を粉末になるまで擂り潰す

② ➀の粉に小麦粉を加え、均等にませたら、油素材を少しずつ入れてまとめていく。

③ 固まりになったら一口大に丸め、調合釜へ。初級ポーションを入れて魔力を込めポーションが全て浸透したら強火にして、余分な水分を飛ばす。

④ 浮いてきたら完成


【媒染液(黄)】銅+濃縮酢+水素材

材料を全部、釜に入れて魔力を込めながら混ぜる。

全て溶けたら完成。


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