122話 工房名決定
これで、他の工房の関係はとりあえず終わり。
その内また出てくると思いますが、ごたごたが解消されてそれぞれ一から(下手するとマイナスから)スタートする、かなぁと。
朝日と共に目が覚めたので、日課の水遣りを済ませる。
ベルに割り当てたスペースには花を植えることになったんだけど、世話はサフルがすることになった。
サフルはサフルで、世話を引き受ける代わりにベルに戦闘訓練を頼んでいたけどね。
強制的にリアンも参加することになったけど、リアンはリアンで体力をつける為に自主的に朝走ることにしたようだ。
「サフル、武器は持ってきてる? 教会で聖水を貰うついでに裏庭でスライムがいないか見てみよう。あと、薬草もあれば採取するから一応警戒お願い」
「承知いたしました」
急で長い坂道を登りながら会話をする。
教会までの道を走るようになってから、私も前より調子が良くなってきた気がするんだよね。
坂を上りきると、シスター・カネットが丁度教会のドアを開け放って空気の入れ替えをしている所だった。
裏庭に行く旨を伝え、軽く採取と野良ネズミリスやスライムを数体倒し、工房に戻る。
帰り際には忘れずに聖水を貰って帰ってきた。
走って帰ってきたこともあってか、まだベルは起きてきていなくて、リアンは応接用ソファで何か書き物をしている。
「ライム様、朝食の準備を手伝わせていただいてもいいでしょうか」
「うん、手伝ってくれると嬉しいかな。サラダをお願い。ドレッシングは作っておくから」
「手伝ってくれるみたいだし、ご飯炊こうかな。リアンー、朝は魚のムニエルと味付きのご飯でもいい?」
少し声を大きくして離れた場所にいるリアンに聞けば、すぐに嬉しそうな返事が返ってきた。
白いご飯にしようかとも思ったけど、昨日学長に貰った金貨で割と高級品の【バタル】を買ったんだよね。
【ルブロ】はもったいなくて買わなかった。
その代わり、砂糖も買ったし、サフルの短剣も買ったんだよね。
余ったお金はお酒や魚、香辛料に化けた。
地下に食材を取りに行くと、サフルがチラチラ手元の食材を気にしているのに気付く。
「【バタル】をたくさん使って作る、炊き込みピラフっていうのを作るんだよ。味は濃い目に作るからご飯だけでも結構食べれちゃうんだよね。大きめの鍋で二つ分作っておこうかなって思ってるんだ。一つは食べて、もう一つは忙しい時にすぐ食べられるようにしておけば便利だし」
「沢山作っておいても地下に置いておけば痛まない、んでしたか?」
「そうそう。便利だよねー。スープストックも沢山作ってあるから、サラダ作って手が空いてたら野菜を炒めてくれる? 焼いたお肉も入れちゃおうかな。具沢山スープって腹持ちいいし」
台所に立って調理をしているとあっという間に時間が経過する。
炊き込みご飯を作っている鍋から良い匂いがしてきたところで、リアンが台所にやってきた。
「何か手伝うことは?」
「サフルがいるから特にない……あ、あった。暇ならコレでクリーム作って」
「……………まさか、遠心分離機か」
「ううん。それは面倒だから、調合釜でいいよ。全部材料入れて魔力込めながら中火で一生懸命かき混ぜると五分位でできるんだ。パンに付けて食べると美味しいんだけど、魔力も回復するから便利なんだよね」
手渡したのは【レシナカード】の材料だ。
「レシナを丸ごと入れるのか?」
「あ、そっか。使うのは【卵】と【バタル】【砂糖】【レシナ】の四つ」
また作ることもあるだろうということで、簡単に説明をすることにした。
レシナを綺麗に洗って、皮を削り、黄色い表皮が無くなったところで二等分。
果汁を絞ると面倒なので皮と一緒にしておく。
「調合釜じゃなくても作れるんだけど、煮詰めるのに少しかかるんだよね。それに投入順番もあるから、パパッと作るなら調合釜が一番なんだよ。全部入れてグルグルグルっと混ぜればすぐにできるからさ。完成はトロッとしてきて、上に浮いてくるから全部掬って保存瓶に入れてね」
難しい顔をしていたリアンだったけれど、手伝うと言ったからなのか文句を言うことなく、材料を持って錬金釜の方へ歩いて行った。
「……そういえば、ライム様。昔は失敗ばかりしていたとお聞きしたのですが、料理にも調合釜を使われていたのですか?」
「ん? あー、それが家には『料理用』の調合棒って言うのがあったの。多分それには魔石が使われたんだと思う。だから料理する時に失敗はほとんどしなかったんだよね。最初は加減が分からなくて駄目にしちゃったのもあるんだけど、材料を無駄にすると後で困るから自然と……餓死とか嫌だしさ。保存食なくて」
不思議そうな顔をしつつも、サフルは「そうだったのですか」と静かに頷いた。
リアンが調合を終えて後片付けを始めた頃には、丁度炊き込みピラフが炊きあがった。
軽く混ぜて器に盛るよう指示を出してから、下準備を終えていたムニエルをフライパンに乗せて焼き上げる。
じゅわぁ、と良い匂いが立ち込めて、塩や胡椒を振りながら手の空いたサフルにレシナの輪切りを指示。
お皿に焼き上がったムニエルを乗せて、レシナを乗せた所で細かく切った香草を振りかけたら完成だ。
ベルは完成したと同時位に降りて来たので、私とサフルは顔を見合わせて笑った。
片付けを終えたリアンがレシナカード入りの瓶と使用済みの皿を持って戻って来たので、テーブルに着いて貰う。
お皿は後でサフルが洗うそうだ。
「ずいぶん豪華ね……凄く美味しそうだわ」
「まぁ、昨日臨時収入があったから沢山【バタル】を買ったでしょ? それでね、ちょっと張り切っちゃって。あと、教会でシスター・カネットが小さいけどスライムの核を二つくれたよ。時々畑に出てくるんだって、スライム」
「裏庭でもスライム一体と野良ネズミリス三体を倒しましたが、コチラは収穫なしです。ギルドに提出するために討伐部位は切り落としてあります。また、ライム様は裏庭周辺で薬草を数種類採取されていました」
報告を兼ねて話をすると、ベルは感心したように頷いた。
私とサフルの報告が終わると、口の中のものを飲み込んだリアンが話し始める。
「僕の方は翻訳作業を始めた。少し時間はかかるが、材料だけは読み解いたから食後に教える……走るのは、今日の予定を決めてからだな」
分かった、と頷いて食事を再開。
ここからは暫くご飯の話題が続いた。
食事を終えて、後片付けや話し合いの準備をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
ベルがいち早く工房のドアへ向かったので私たちは構わず、自分の作業を続けているとドアが開く。
視線を向けると、顔色があまり良くないワート先生が立っていた。
バッチリ目元に隈があるので、昨日は眠れていないのかもしれない。
「あー……朝飯終わったのか」
「終わりましたわ。朝食を食べに来たならお帰り下さいまし」
「悪い悪い。昨日は夜通し教員で工房制度の見直しと今後について話をしたんだ。その報告に来たんだが、時間を貰えるか」
「そういう事なら構いませんわ。リアン、ライム、少し早いですけど食後のお茶を淹れます。何か出してくださいませ」
「じゃあ、昨日焼いたパウンドケーキでいいかな」
「お。あの美味そうなやつか……助かる」
飯も食ってないんだ、と項垂れる先生は本当に疲れているみたいだった。
ちょっぴり疲労回復の効果もあるレシナカードを添えて出すことにする。
私たちはオヤツで食べるからね。うん。
ベルが紅茶を淹れて、私はお茶菓子を準備。
その間リアンは話を聞く為に応接用ソファに先生を座らせて、メモを取る準備をしていた。
サフルはさり気なく工房内で『貴重品』がないか見回し、遠くも近くもない位置で待機。
「お前らの工房はホント……なんというか、無駄がないな」
「それは褒められていると受け取って良いでしょうか」
「もちろん褒めてるさ。受け持つことになった時はどうなることかと思ったが、こうして実際に運営しているのを見ると安心感が凄い」
良かった、と遠くを見て笑う先生に、ベルが気味悪いものを見るような目で一瞥した。
紅茶と茶菓子が全員に行き渡った所で、先生が口を開く。
「まずはお前らが一番気になってる『工房制度』についてだが、これは引き続き継続することが決定した。今後何かしら問題があっても卒業生を一定数出すまでは続けることになった。国からもそのようにしろという指示が出たとのことだからな」
ほっと緊張を解く私とは反対にベルやリアンの表情は変わらない。
じっと話を促す様に先生を見つめている。
「―――……工房生の組み合わせについてだが、工房の生徒は配置換えをしないことで話がまとまった。まぁ、あの男子生徒だけの工房は新しい生徒を一人受け入れて割り当てることになったが」
「まぁ、妥当ですわね。その割り当てられる生徒は庶民ですの? それとも」
「上流貴族だ。ヘンリー・サックル・アグリモニーと言えば分かるか。複数の希望者がいたんだが、組み分けの箱を使った結果、彼が選ばれた。幸い実家は中立派で過激な思想も持っていない。代わりに、座学が壊滅的でな……実習なら割と普通に作れるんだが」
「ああ、アグリモニー家は筋金入りの騎士家系ですもの。錬金術師が家から出るのも初めて―――……加えて、あの家は兄弟が多いからロベッジとは違うわ。性格も少々脳筋気味な所はあるけれど“マトモ”な部類に入るわね。騎士として幼い頃に兵舎生活もしている筈だから、妙な貴族意識もない筈よ」
詳しいな、と先生は苦笑しつつパウンドケーキにかじりついた。
口に合ったらしくレシナカードを付けてあっさり食べ終わった所を見ると、本当にお腹が空いていたらしい。
「ハーティーのいう通り、顔合わせもしたがホアハウンドもヘッジも問題なく受け入れていた。まぁ、あのタンジー家の末息子と表面上でもやっていけていたんだから、問題はないだろうな」
「担当教員は誰ですの?」
「アーティ・カント先生だ。本来なら女子生徒の工房を引き続き受け持ってもらおうと思っていたんだが、まぁ……そちらにはフラン・サマルバ・マレリアン教授が就くことになった」
何処かで聞いた覚えのある名前だな、と思っているとリアンが苦虫を噛み潰したような表情になった。
「その人員配置で大丈夫ですか? カント先生と言えば一度女子生徒の工房で失敗をしているでしょう。それに、マレリアン教授は薬師用のレシピをそのまま使用しても問題ないと断言するような教員ですよ?」
「あー……あの人は『男子生徒』にはそんな感じだが、女子生徒や女性が相手だといい加減なことはしないから、ある意味適任といえば適任なんだ。カント先生は、どうも上流貴族のクレインズと相性が悪かったようだ……はは。すまないな、こっちの都合で振り回して」
「私たちの工房は引き続きワート先生が担当してくれるんですよね?」
ああ、と頷いた先生にリアン達もそれならいいと口を噤む。
私たちは工房制度がなくならなかったこと、三人で工房生活を続けられることに安堵した。
(私はこの三人で今まで通りやっていけるなら、それでいいや)
ふぅ、と冷めた紅茶を飲んで気を緩めていると、テーブルの上に先生が一枚の用紙を取り出して置いた。
「それと―――……工房制度の評価法が変わった。一年時には二度、学院が指定したアイテムを作ってもらうことになった。二年になると前半で一度、後半は合同演習があるから合同演習で作ったアイテムを提示。三年になると卒業の一か月前に提示してもらうことになっている。こっちは指定したものが一つ、個人で選んだアイテムを一つの計二つを提出してもらうことに決まった」
後で学院からの通知も来るだろう、と締めくくって紅茶を煽った。
飲み干されたカップに新しく紅茶を注いだベルが何かを考えるように目を伏せて、首を傾げる。
「と言うことは、そろそろ一度目のアイテム提出があるということでよろしいかしら」
「本来ならばそうなるが、今回は新年までに『アルミスティー』と『フラバン』を作って見せてくれればいい。ただし、一人一つずつ俺の前で調合してもらう」
「不正防止の為ですわね。分かりましたわ。私達はどちらも調合出来ますから―――……調合に使う素材はコチラで集めるという認識でよろしくて?」
「ああ。素材を集める所から生徒が行うことになってる。学院側が指定するアイテムは、その学年で『調合出来なくてはならない』と国で定められた一定レベルのアイテムだ。一般的な錬金術の進級試験でも指示されるものだから、コレができなければ問答無用で工房生から学院所属に戻ってもらう。その場合は、一定基準を満たした生徒の中から、欠員を補充するという形になるな」
ワート先生によると『工房生』は割と人気があるらしい。
学院で勉強をしていく内に『もっと調合したい』と思う人も多いようで、そういった人が時々工房制度について聞きに来たり、空きはないのかと尋ねてくるらしい。
それぞれが納得した所で、私はふと先生に聞きたかったことを思い出した。
立ち上がりかけた先生の皿に追加のパウンドケーキを乗せると大人しく座り直したので、ここぞとばかりに口を開く。
「先生、『雫時』にしか採れない特別な素材はありますか? 私のいた所には『雫時』ってなかったのでイマイチ分からないんですけど、お客さんも来にくくなるって聞いて」
モグモグとパウンドケーキを頬張っていた先生が、私の質問に一瞬咀嚼を止めた。
そして何かを考えるように目を閉じてから、紅茶を一口飲む。
「確かに『雫時』は店を開いている店舗は少ないな。四六時中雨が降りっぱなしだから、商品が濡れたり品質の劣化があるから、屋台なんかもほとんど出ない。一番街や二番街の店舗持ちの店は営業しているところも多いが、冒険者の数が減ったり活動が鈍くなるから錬金術の店に足を運ぶ者は少ないかもしれないな」
そこまで話してもう一口ケーキを食べた先生は、懐から使い込まれた羊皮紙を取り出した。
器用に片手で広げられた羊皮紙には見覚えのある街の名前や簡単な道、山などが書かれている。
「トライグルの地図だよ。簡易版だけど、持っていると便利だ。『雫時』は一か月弱雨が降り続く―――…有名な場所は『常水の池』と『常水の村』の二か所だな」
この辺り、と地図を指さした。
近くの街まで馬車があるのでおよそ一週間もあれば辿り着く、らしい。
「まぁ、雫時になる前に冒険者が各地に移動するから、馬車の手配は早めにしておくといい。僕はあまりフィールドワークが得意じゃないから詳しくないんだけどね」
そう言って地図をしまおうとした先生が何か思い出したように、『常水の村』とは反対側の場所を指さした。
「割と有名だけど、ここに行くのは止めなさい。優秀な護衛を付けるならいいが、あそこはBランク以上の冒険者を三人以上雇うべきだろう。騎士科の連中を使うなら、上級生の成績優秀者でなければ安全とは言い難い……らしい」
「らしいって。でも、ここ『ジズン鉱山』って書いてありますけど、鉱山ならまだ鉱物が取れる可能性があるんですよね?」
金属を調合したいと話し合っていたし、よく見ると周囲には森や池がある。
近くには小さな町もあるみたいで中々条件は良さそうだ。
「廃鉱山になってはいるが自己責任ってことで採取は出来るな。まぁ、本当に危険な所は入り口を閉じているから、閉じられていなければ大体は問題ない筈だが……問題は、この鉱山前にある『ジズン廃鉱山のトートマーシュ』だ。Bランクの冒険者が必要なのもこの場所があるからだ」
なにそれ、と目を瞬かせる私とは対照的に、ベルが何かに納得したようにマジマジと地図を見る。
「へぇ、ここがそうでしたの? いずれ行ってみたいとは思っていますけれど、私たちには難しいわね……【オーサーペント】釣り目当ての冒険者が多くて、厄介ごとも多いと聞いているし、私達がBランクになるのが先」
「珍しいね。ベルなら行こうって言うかと思ったのに……強いのと戦いたいって言ってるしさ」
「強い相手と戦いたいと思っているのは変わりませんわ。けれど、死にに行くつもりはさらさらありませんもの。モンスター自体は、まぁ対処法さえ分かっていてある程度慣れれば対処できるでしょうけれど、環境が最悪の部類に入りますの」
ベル曰く、【オーサーペント】という大きな蛇みたいなモンスターは、雫時が来ると交尾をして縦に長い穴に卵を産むのだという。
無数に開いた穴には粘土質の土と砂がびっしり詰まっていて、それが雨によって底なし沼と化すらしい。
「雨が酷いと普通の地面と底なし沼の区別が付かないらしいですわね。案内人を雇うという手もありますけれど、その人材も当たりはずれが大きいようですし……底なし沼に落ちて助けるのが間に合えばいいですわね。潜んでいた【オーサーペント】に食われる被害は後を絶ちません。よく、廃奴隷の墓場などとも呼ばれるようですし……財力に余裕がある者は奴隷を一列に並ばせて、餌兼罠感知として使用するとか」
「うん! 諦めよう、そんな物騒な所。鉱山は他にもあるだろうし!」
よし、と大きく頷いた私の横で地図を眺めていたリアンがそう言えば、と口を開いた。
視線は既にジズン鉱山とは別の場所に向けられている。
視線の先には小さな池のようなものが書かれた森と、その手前に小さな集落のようなものが書かれていた。
「えーっと……ここ、名前とかないみたいだけど」
「ワート教授。この地図は割と古いものですね?」
「あ、ああ。俺はフィールドワークに出ないからね。時々道を聞かれるから持ち歩いてるだけだよ」
「なるほど。ごく最近、というか店の者から聞いた話によると、この森は『浮き草の森』と呼ばれているらしい。地形の関係で、雨や霧といった天候が多いから独自に進化した耐雨性の植物が多いんだ。雫時になると、毎日のように雨が降るらしく、この池の水が急激に増えて普段は行けない場所に行けたりするらしい。モンスターも水辺で暮らすものが多く存在しているようだが、あまり凶暴なものは目撃されていない。調査団も一度入ったようだ」
「へぇ、それは知らなかった。この辺りなら……途中の『スールスの街』まで馬車で行けば一週間程度で行けるかな。雨が降る前に移動すればもう少し早く着く筈だ。工房生でなければこういった場所に行くこともできないだろうし、行くなら行ってくるといい。店の方は閉めることも可能だよ……雫時は殆ど人が来ないだろうからね」
それだけ言って、先生は地図を閉じて懐へ。
時計を見て時間を確認して慌てたように立ち上がる。
「もし何かあったら……いや、やらかす前にできるだけ報告もしくは相談するように。俺は大体自分の研究室にいるし、授業もあまり受け持ってないからね。他の担当教授も工房を受け持っている教員は軒並み受け持ち授業が減ったんだよ」
これは非常に助かる!と笑いながらドアへ向かう。
一応見送ろうと思って立ち上がった私たちに見送りはいい、と告げてはっと何かを思い出したように一言。
「そういや、お前ら工房名を決めて学院に三日以内に提出してくれ。他の所も今頃考えてる筈だ」
じゃあな、と手を振った先生は少し余裕ができたらしい。
来た時よりはまともな足取りで工房を後にする。
「………なんか、去り際にさらっと大事なこと言って行かなかった?」
「工房名か。全く頭にもなかったな」
「ですわね。とりあえず、今日は工房名を考える所から……かしら」
「だね。工房名……なんか適当でよくない?」
「適当に付けて後で恥かくのは嫌よ」
「同じく」
「えー、どうせ三年だけでしょ? 覚えやすかったらそれでいいんじゃないかなぁ」
それで成績決まる訳でもないし、と言いながら私たちは応接用ソファに再び腰を落ち着けた。
結局、工房名は『アトリエ・ノートル』になった。
意味は『私(僕)たちの工房』なんだけど、大層で大仰な名前を付けるのに抵抗があったんだよね。
この工房は三人で一つだからコレで丁度いい。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
誤字脱字などがあれば報告してくださると幸いです。
=地名など=
☆常水の池
常水の村という小さな村にある池。
雨の多い村で、そこにしか棲まないモンスター等がいる。
植物も水をたくさん必要とする植物が多い。
☆ジズン廃鉱山のトートマーシュ(ジズン廃鉱山の死沼)
廃鉱山前にある無数の砂と粘土質の土が混ざったような穴。
雫時になると砂と粘土質の土が雨で混ざり、底なし沼に変化する。
その沼の中には、オーサーペントと呼ばれる特殊な蛇が住んでいた。
うっかり落ちると食われて死ぬ。
オーサーペントは、雨が降っている間に繁殖し卵を産む。
土が乾くと夜に巣から出て川に移動し海へ。
廃奴隷の墓場という別称もある。
一列に奴隷を並ばせ、餌兼罠感知の囮として使うことも。
護衛の最低ランクはBランクが推奨されているベテラン向きの場所。
=モンスター=
【オーサーペント】
水蛇のモンスター。最低でも2mはある大蛇で胴は50センチ以上。
雨が降る雫時に繁殖し卵を産む。
土が乾くと夜に巣から出て、川へ移動し海へ。
大きな口で獲物を一飲みにする。
また、オーサーペントの皮には防水・撥水効果があり、一定の人気がある。
個体により色が違う。純白と漆黒の皮は特に高い。
肉は泥臭く食べられないが、毒牙と毒肝、額にある三枚の大きな鱗は売れる。
住んでいる場所がとても危ないので、ハイリスクハイリターン気味。
【進化の過程】
オーサーペント(水蛇)→メーアサーペント(海蛇)→ヴィアベルドラーク(渦龍)