117話 鑑定商
とりあえず、何とか完成!
淡々と、でも割と順調に進んでいます。
次も会話と説明回になりそうです……
結果として、二人に作った【結晶石の首飾り】には有用な効果が付いていた。
ベルは嬉しそうに首飾りを眺めながらいつか自分も、と息巻いている。
調合に使った研磨液について色々聞かれたので材料や魔力の注ぎ方、注意点などを紙に書きながら話す。
へぇ、と興味深そうに研磨液を観察する顔は真剣だ。
「それにしても【研磨剤】は知っていたけど、液体があるなんて思わなかったわ。使い道というか使う対象によって使い分ける必要があるのよね?」
「私も液体にポチャッと入れた方が簡単だって思ったんだけど、そうでもないみたいなんだ。どっちかって言うと【研磨液】の方は小さな原石とかクラスターみたいな複雑な形をしている、手では磨き難い物に使うみたい。【研磨剤】は自分で原石を動かして好みの形に磨けるから、宝石を削らないで磨けるんだって。あと、堅い岩に鉱石が埋まってる場合は、石とか岩を砕きつつ、研磨剤で磨くのがいいと思う」
「宝石は綺麗ですけど加工となると神経を使いますわね……ライム、明日でもいいのだけれど、一緒に原石の見極めをしてくれないかしら。ジェムクラスの結晶石で作ってみたいの」
「それなら、多分あると思うよ。明日明るいうちに水で洗って、仕分けしてみようか。水洗いするだけなら品質に影響はないし」
「天気もいいでしょうし、雫時が来ない内に済ましてしまいたいわね」
あと二月くらいかしら、とお代わりの甘酒を飲むベルに私は首を傾げる。
“しずくどき”という単語は首都モルダスに来て初めて聞いた。
どういう意味なのか聞くとベルは少し目を見開いて、不思議そうな表情だ。
「貴女が暮らしていたところにはなかったのかしら……長い時でひと月ずっと雨や曇り、という時期があるのよ。晴れても数時間とかだから、あまり家から出る人はいないわね。この時期外に出るのは騎士団や冒険者くらいだけれど、冒険者は雫時に入っていない所へ移動して稼ぐのが一般的だから数も少ないわ。露天自体も減るから、雫時の直前までは市場なんかも活発になるんじゃないかしら」
「へぇ……じゃあさ、私たちも採取とかに行く? お客さん来ないんだよね?」
「! そうね、それはいい考えだわ。雨の時期にしか現れないモンスターもいるでしょうし、ちょっと遠くに行くのもいいわね。リアン、貴方はどう思―――……リアン?」
パッと地図を取り出してテーブルに広げたベルが楽しそうに笑う。
私も雫時のことについて調べようと思ったので、細かく聞きたいことを考える。
メモ紙に雫時と書いて“雨の日に採れる採取物”“希少”“珍しいもの”など思いつく限り聞きたいこと書き記した。
自分で書いたメモを読み直した所でリアンに話しかけたベルが、大きく息を吐いたのが聞こえてきた。
顔を上げるとリアンが難しい顔で研磨液と首飾りを手に持っている。
「――…ライム。コレを作る時に使ったのはこの研磨液でいいんだな? 他の素材は」
「さっき教えたとおりだけど、何か問題でもあった?」
「ミントの首飾りについていた効果を見た時、そして初めて君が作った調和薬に『緑の祝福』という効果が付いていた時にも思ったんだが……君が作るものは時々、想定外の効果を持っている。今回使った原石がいくらジェム品質に近いものだと言っても、こんな上位効果が付くこと自体あり得ない。精々、『導き』か『祝福』がいいところだ」
つられて視線をリアンの首飾りへ向けるけれど私としては、どうして凄い効果が付いたのかさっぱり分からない。
リアンがしつこい位に材料を確認した理由が分かって、複雑な気持ちになりつつ黙り込む。
私に答えられることじゃないのだ。
「リアン。そういう細かいことを気にするのは癖なのかもしれないけれど、好意で贈られた物にあれこれケチをつけるのはどうかと思いますわよ」
「は? 僕はそういうつもりで聞いているわけじゃ」
「だとしても。ライムがどうしてそういった効果を付加できたのかなんて、本人にも分からないでしょうよ。色々調合してるから忘れそうになるけれど、ライムだって私たちと同じ一学年……学院に入ってまだ数か月しか経っていないのよ?」
入学してからすぐに工房で生活を始めたので色々と忘れがちになるけれど、ベルが言う通り私たちがこうして工房で調合するようになってそれほど時間は経っていない。
そう言われれば初めの頃は色々あったな、と甘酒を飲んでいるとバツが悪そうな顔をしたリアンと目が合った。
気まずそうに視線を私からそらしたので思わず笑った。
「……なんで笑うんだ」
「リアンらしいなと思って。私の方こそ一方的に渡してごめん。要らないなら要らないでリアンならお金に出来るだろうし、あげたものだから好きにしていいよ。ベルも使うかどうかは好きにして。どうして上位効果が付いたのかは……正直私も分からないんだけど、ベルとリアンの二つは凄い勢いで魔力吸われたからそれも関係あるのかもね」
「魔力を吸われた? どういうことだ」
「ミントの首飾りとは違いましたの?」
「作り方は同じ。素材はちょっと違ったし、品質も違ったかもしれないけど……素材のレベルが高かったのは二人の奴だと思う。ただ、なんて言うか……効果が高いものができる時って心なしか魔力の減りが多い気がするんだよね」
調和薬の類いは簡単な調合だったからか殆ど変わらなかったんだと思う。
だけど、今回の首飾りは話が別だ。
元々消費する魔力が多かったこともあって余分に吸い取られたんじゃないかな、って今更気づいた。
「作ってる時も二人の役に立つようにって考えてたのと失敗しないように必死だったから、ほとんど覚えてないんだ。今度時間あったら検証してみる? 私だけじゃなくて二人も同じように上位効果付くんじゃないかな」
とりあえず、この話はおしまい!と大げさに話を打ち切るとベルやリアンも分かった、と頷いた。
この二人は切り替えが上手いんだよね。
お互い少なくなってきた甘酒を数口飲んだところで、提案したいことがあったので口を開いてみる。
緊張しているのは、うまくごまかせていると思う。多分。
「あのさ、相談してみるって言ってた見学の話についてなんだけど、アレ……明日の午後とかにできないかな」
「ずいぶん急ですのね」
「うん。開店の関係もあるから前日はちょっと嫌だなって。それに……急いだ方がいい気がしたんだ。工房制度がなくなるのは困るし、上流貴族が悪い変なのばかりじゃないってベルを見て分かってもらった方が早いと思う」
「変なのって、貴女も言いますわね」
「私は貴族に関してさっぱり分からないし、好きじゃない。だから、ベルが普段この工房でしてる振る舞いとかが貴族らしくないって思われるものでも……なんて言うか、分からないしオカシイって思わない。でも、そういうのって実際に見たり体験しなきゃ分からないでしょ? ベルはそもそも、騎士団で生活してた経験があるから抵抗がないのも分かってる」
此処でベルがそうね、と複雑そうな顔で頷く。
リアンは確かになと少し感心したように私の話を聞いていてくれた。
「ライムが言う事ももっともだ。貴族の感覚で生活されていたら生活自体がままならない」
「そうなんだよね。使用人とかそういう人たちがいなくて、自分でやらなきゃいけないことがいっぱいあるって、上流貴族の人は分かっていないといけない。それが分からないなら工房生から外れるとか、そういうことをしないと今後この制度って続かないと思う」
生活をするって言うのは大変だ。
ご飯を作るのも洗濯をするのも掃除をするのも。
時間も手間もかかるし、苦手だからとか嫌いだからって手を抜けないものが多い。
掃除は少ししなくても死なないけど、病気になりやすくなるみたいだし。
お店を営む以上はある程度汚くない恰好をしていないと、お客さんが嫌な気持ちになる。
ご飯は食べないと死ぬ。
次々に言葉にしながら、上手く伝わっているかどうか分からなくて心臓がどきどきしてきた。
自分の考えをこうやって詳しく人に話すって行為自体、こっちに来てからするようになったから。
上手く伝わっているのか、伝えられているのか正直不安だったりする。
「―――……明日の午後は調合しない。その代わり、結晶石を洗ったり、料理を作るの手伝って貰ったりしようと思う。晩御飯を作る位までは見ててもらってもいいんじゃないかなって思うんだ。朝からでもいいけど……鑑定商にいったりするんでしょ?」
「鑑定商はいつでも――――……いや、これから行くか。学院に寄って話をしてくるのもいいかもしれないな。僕もいい加減貴族の連中が問題を起こして、僕らにしわ寄せが来たりこういう面倒なことを持ち込まれるのが我慢ならないと考えていた」
これから、と言われて思わず何時になったのか聞くと、ベルに昼から八度目の鐘が鳴ったと言われた。
一応成人してる年齢ではあるけど、夜に出歩くのは採取以外でなかったのでベルを見ると眉を顰めている。
「都会でも夜に出歩く……っていうのは一般的じゃない、よね? 夜に採取したことは何度かあるけど、明るくても夜って暗いし危ないんじゃないの。この時間に出歩いてる人いるのかな」
「自衛手段のないものは出歩かないのが賢明だな。この時間は冒険者や仕事を終えた男や旅人なんかが酒を飲んでることが多い。まぁ、まだ飲み始まって少し……といったところだろう。これから一時間程度なら問題ないし、三人で移動すれば問題もない」
「あ、そっか。冒険者が帰ってくるから鑑定商が開いてるのか」
「そうだ。まぁ、鑑定商は昼夜問わず開いているがな」
着替えたら行くぞ、と言われたのでそれぞれ部屋で錬金服に着替えなおす。
私は学院にも行くと言っていたのを思い出して、雫時について聞くのを忘れないようにメモを握る。
着替えに時間がかかるベルを待ちながらリアンに『雫時』について聞いてみることにした。
本当は聞く前に自分で調べた方がいいんだろうけど、本もないし気軽に聞ける人もいないんだよね。
「リアンは雫時にしか採れない植物とか薬草とか何か知らない? 初めて知ったんだけど、雨が降るからお客さん減る……みたいなことベルから聞いたんだ」
「雫時はあと二か月後くらいだな。君の住んでいる所にはなかったのか」
「山だったから天気は変わりやすかったけどね。ずーっと雨ってことはなかった。で、話が戻るんだけど、お客が少ないなら店を閉めるかサフルにお店番頼んで採取に行かない? それで、採取に行くならどうせなら希少なモノとか時期が限られるものを確保しておきたいなぁって。ほら、希少性のあるものっていざって時の金策にもなるし」
工房の入り口付近に立ちながら階段を見ているけど、ベルはまだ降りて来ない。
サフルが時々色々な荷物を持って廊下を行き来するのを眺めつつ、サフルには先に寝ているように言うべきか迷っていると、考えをまとめ終わったらしいリアンが小さく息を吐いた。
「まぁ……気は乗らないがその方がいいかもしれない。そういう事なら雨が降る前に多めに在庫を用意する必要があるな。店を閉めるのは得策ではないのでサフルに任せよう。護衛についてだが、ディルは連れて行きたいな」
「魔術便利だもんね。アレ、覚えられたらいいのに」
「錬金術師にも魔力はあるが……専門外だ。適性がないと無理だ。魔術を使うなら魔石に刻印をするなどの加工もしくは魔道具、あと値は張るがダンジョンで手に入るものを使うのがいいだろう。まぁ、ダンジョン産のものは見極めが難しい上に、使い手を選ぶものもある……僕の眼鏡なんかそうだ」
確か度が入ってるんだっけ、と聞けば頷かれる。
目が悪いのは知ってたけど……と眼鏡の奥の目を見ていると目をそらされた。
なんでだ。
眼鏡を指で押し上げつつ私から目をそらし、何かを思い出したらしい。
「ベル達には訓練の休憩中に話したんだが、君も覚えておいて欲しい。僕には一定の薬物に対する耐性がある。特に、痛み止めの類いや毒、回復薬の類いは効き難い。魔力回復の系統は摂取していなかったから通常通りだが……常用していた栄養剤や体力を増やす、免疫力を上げるといったものは効きが悪いんだ。毒も種類によるが、薬として利用できるものには大概抵抗力がある。麻痺・睡眠・催眠といったものも同様だ」
「え。それ結構大事なんじゃないの」
「まぁ……怪我をするような羽目になるとは思わなかったからな。夜間訓練やら早朝の走り込みで認識を改めた。死にかねん」
ふっと遠くを見るリアンからそっと目をそらす。
床を見ながら回復薬の系統が効き難い、と言われたので『もしも』の為に長期採取に向かう際は、常に十分な効力のある回復アイテムを用意することに決めた。
協力を頼む、と言われたので頷くと安心したのか小さく息を吐いている。
「備えておくに越したことはないが、君がくれた首飾りの効果で薬は効きやすくなるだろうな。込める魔術は回復系と攻撃系にしようと思っている」
「それがいいと思うよ。採取しに行って死んじゃうの、割と一般的だから」
「……それは、一般的なのか?」
「少なくとも私の住んでた所ではね。小さなところだったから数人で森に入ってたみたいなんだけど、夢中になっておばーちゃんの結界の外に出た人は大体死んでるから」
ギョッとしたようにリアンがこっちを見た。
割と普通のことだよ、と言いながら村での決まりを話そうとした所で扉を閉める音が聞こえた。
階段の上に目をやるとベルが私たち二人が待っているのに気付いたらしい。
あら、と目を見開いてカツカツと高い踵の靴で降りてきた。
「待たせて悪かったわね。本当に面倒だわ……外に出ると『ダレ』に出会うか分からないし、万全にしておかないと後で色々面倒なのよ」
「ああ、貴族関係? 良く分からないけど周りからの評判とか気にするんでしょ」
「醜聞の類いは直ぐに広まるから、ある程度外にいる時は気を引き締めないといけないのよね。まったく……私は三女で、その上家督を継ぐ姉が結婚しているから今の所問題ないけれど……卒業したら嫁ぐしかないのよね。相手がある程度自由に決められるって言うのはいいのだけれど、面倒極まりないわ。無難そうなのを捕まえて冒険者として活動できればいいのに」
チッと忌々しそうに舌打ちをするベルは、どこまで行っても私の知っているベルで少しほっとした。
隣で呆れたようにベルを見るリアンにベルが食って掛かるけれど、その賑やかな雰囲気のまま私たちはサフルに留守番を任せて夜の街へ足を向けた。
◇◆◇
鑑定商は一番街の門から冒険者ギルドに向かう道に在った。
出入口に近いのは、大きな物を鑑定する際に門の外へ行くこともあるから、らしい。
へぇ、と頷きながら日中とは違う街の雰囲気に思わず辺りを見回す。
ずらりと一定の間隔で店を照らすのは、魔石ランプの光だ。
淡いオレンジや黄色味を帯びた光が暗い筈の夜道を明るく照らし出している。
綺麗に敷き詰められた錬金術で作られた煉瓦の上を歩く。
すれ違うのは少し汚れた、でも満足そうな顔をした冒険者や騎士、そして旅人。
不機嫌そうだったり暗い雰囲気の人もいるけれど、どこか肩の力が抜けているようにも見える。
(やっぱり街の中だとモンスターが出ないから気が抜けるのかな)
完全に安全という訳じゃないのは分かるけれど、騎士の姿が多いのでそれも安心の一端を担っているんだと思う。
目が合うとニッと笑ってくれたり手を振ったり、会釈をしてくれる人もいた。
「挨拶してくれた騎士の人って二十四部隊の人達かな」
「多分そうね。最後に手を振ってたのは、三班の班長ね。あの人凄く強いわよ」
「………手合わせしたんだっけ」
「ええ、武器を吹っ飛ばされたから格闘術で対応したけれど、武器を捨てて拳で対応してくれたわ。騎士って言うのはある程度何でもできないとダメなのねぇ……元々、別の部隊にいたみたいなんだけど、子供が結婚して孫が生まれるからってコッチに移ってきたそうよ」
「……怪我とか」
「ああ、手合わせの後アルミス軟膏を塗ったから平気よ。回復薬も飲んだし……結果的に効果が証明されて、店に買いに行くって結構な人数が意気込んでたから暫く忙しいかもしれないわ」
夜の灯に照らされるベルの綺麗な横顔を見て引きつりそうになったけど、笑顔でどうにかやり過ごした。
リアンなんかどこか遠い目をして諦めたように足を進めている。
ブツブツと「もう二度としない」とか「絶対に用事を作って席を外す」とか言っているので何となく察した。
「そ、それにしても結構にぎやかだね。もうちょっと静かなのかと思った」
「酔っ払いが多くなる前だから静かな方だぞ。この時間に戻ってくる冒険者も多いからな。目立つ白に赤い×がついた旗が見えたら道の端に寄れ。けが人が荷台で治療院や病院に運ばれるという合図だ。大体死にかけているから、貴族でも道を開けるように周知されている。王令だからな」
なるほど、と頷きギルドの前を通って、門のある方へ足を進めていく。
先頭を歩いていたリアンが足を止めたのは色々と凄い建物だった。
「ねぇ、ここ? 本当にここ? ここに入るの?」
「ライム、気持ちは分かる。分かるから……諦めろ」
「本当にいつどこで見ても趣味悪いですわよね、何考えて建てたのかしら。目立つ必要があるのは分かるけれど、本当に理解し難いわ」
壁が黄色だった。
屋根は鮮やかな紫で、窓枠は桃色。
扉はついていない。
腰が引ける私の腕を掴んだリアンとベルに左右を挟まれて、私は初めて鑑定商へ足を踏み入れる。
「あれ……? 意外と中は普通だ」
店内は凄まじい外観とは違って、上品な作り。
ただ、椅子が壁際に列になって置かれている事と受付カウンターがすべて仕切られていた。
受付の大きさは三種類。
一人掛けの椅子が置かれている所と、三人座れる椅子と少し大きめのカウンター、大きなパーティー用だと思われるカウンターがあった。
人数によって並ぶ場所が決まっているらしく、人がいなかった中くらいのカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。鑑定ですか?査定ですか?」
「鑑定書の交付を二件お願いします。品目は装飾品で、品物はコチラになります。携帯用のカードと国の押印が入った鑑定書に記載してください。鑑定書の方は持ち歩き易いように丸めて頂いて構いません」
「かしこまりました、少々お待ちください」
流れるように滔々と注文したリアンは首飾りが入った小箱を差し出す。
受付の人も笑顔を張り付けたまま、品物を受け取り受付奥にある作業スペースへ。
流れるような手慣れたやり取りに目を丸くしていると、営業用の笑顔を張り付けたリアンが小声で
「実家の商売柄、ココには良く来るんだ。まぁ、眼鏡があっても国の押印が入った鑑定書がないと証明書として認識されないからな。個人で使う分にはいいんだが、資格をきちんと取らないと証明書は発行できない」
と説明してくれた。
なるほど、と納得した所で割と早く鑑定結果が出たらしい。
手が空いていたらしい職員が二人がかりで作業しているから当たり前かもしれないけど。
「ずいぶん早いね」
「持ち込んだ物が小さいからな。宝石や宝飾品の類いの鑑定は割と多いんだ」
なるほど、と頷けば小箱が乗ったトレイを持った受付の人が戻ってきた。
お待たせしました、と綺麗に一礼して私たちに証明書を見せる。
ざっと目を通したリアンは直ぐにそれを懐にしまい込み、首飾りを小箱から取り出して確かめ、赤い方をベルに渡した。
「代金は金貨一枚になります」
ギョッとする私を他所に、動じることもなく金貨を支払ったリアンが立ち上がる。
ベルと二人でその背中を追いかけながら鑑定商を後にした。
店から出た後、そのまま学院へ向かう。
馬車を、とも考えたけれど待っている時間がもったいなかったので歩こうということに。
明るい道を歩きながら、リアンが携帯用の魔石ランプを手に取る。
魔石灯の明かりがあるとはいえ、学院迄の道は暗い。
学院自体は魔石灯やランプで明かりを灯しているので明るいみたいだけどね。
一番街を外れると住宅街に入る。
明かりが極端に少なくなったので暗いな、と見回していると直ぐにリアンがランプをつけた。
「夜警の人間に腕輪を見せろ。学院の人間であることがすぐに分かる。学生証は僕が持ってきているから問題ない。そのままワート教授の研究室に行くぞ。あの人が一番『話しやすい』からな」
営業用の笑顔を消したリアンが淡々と夜道を歩きながら話す。
背中で聞く賑やかな声や騒めきが遠ざかって、今まで漂っていなかった緊張感のようなものが、前方から生ぬるい風に乗って私たちの頬を撫でていった。
此処まで目を通して下さって有難うございます!
誤字脱字の報告も有難かったです。
出来るだけ自分で見つけようと読み直すのですが……みあたらないんですよ、かくれんぼかな。はは。
毎回の報告と訂正有難うございます。
誤字脱字変換ミスなどがありましたら誤字報告してくださると幸いです。
ブックマークや評価は勿論有難いです!読んで下さるだけでも十分ありがたい……もう拝むしかない…




