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113話 中級ポーション

一人での調合。

今回はびっちり調合してます。

次回も引き続き調合です。

アイテムが一気に増えた…きがする。



 ベルやリアンが帰ってきて【研磨液】を作る時の為に、磨き砂を擂り潰す。




 ゴリゴリという音を聞きながら、乳鉢の横に置いた『図鑑』を読み進めていく。

図鑑の横には、ベルが採取旅の最中に書いてくれたこの辺りにいる魔物の名前一覧。


 古い図鑑を捲りながら、メモ用紙に大事だと思ったことを書いていく。

あと一時間くらいでオヤツの時間になる。

だから、それまでは時間のかかる下処理をすることにした。



「ベルは装飾品の調合に興味あるみたいだし、『磨き砂』だけ下処理しておけば、時間の短縮にもなるよね」



 この辺りにいる魔物やモンスターから剥ぎ取れる素材と作れるアイテムを書き出して、ひたすら乳棒で擂り潰していく。

均一に擂り潰す作業位なら見なくてもできるし、大事なのは不純物が入っていないきめ細かい粉末にすることだから手元を見てなくても問題なし。



「首飾りは夕食後に作るとして……中級ポーションに挑戦してみようかな。レシピは教科書に載ってたし、どの道調合できるようにならないと」



 他にもよさそうな回復薬がないか探してみたけど、材料とか手間を考えると中級ポーションから手を付けるのがよさそうだ。


 個人用の黒板に調合したい物を書き出してみる。

擂り潰す作業はちょっと飽きてきたので少し休むことにした。



「ゴリゴリ擂り潰すのって飽きる」



粉が飛ばない様に紙を被せた上に布巾を乗せておく。

 本とか腕とかをぶつけないような位置へ乳鉢と乳棒を移動させて、黒板とチョークを持って教科書を捲ってみる。



「まずは【中級ポーション】だね。あと、忘れちゃいけない【結晶石の首飾り】の二つは絶対に調合して……あ。ベルの【辛いミートパイ】と【アリルのパイ】は材料だけ計量しておこうかな。調合は最悪明日でもいいだろうけど、材料だけ計っておこう。パイは持ち帰りできるから、ミントにも持たせてあげたいな。辛くないミートパイなら子供も食べられるだろうし、お肉っていっても使っちゃおう。ただ、教会関係はベルとリアンに確認してから調合した方がいいか。すぐできるし。あとは、魚の包み焼きにサラダ、スープはマトマのスープにして……うん。メニュー表みたいになってきたから止めよう」



 ただの予感と希望でしかないけど、お肉は増える気がする。

ベルとかミントとかが張り切って夜間訓練のついでに狩ってきそうだし、肉は惜しまず使おうと思う。


明日のご飯の目途がたったから、教科書の流し読みに戻ることにした。



「爆弾はベルがいないとまだ自信ないし、材料無駄にするのは嫌なんだよね。作ったことがなくて……役に立ちそうなもの、役に立ちそうなもの……レシピ帳も見てみるか。こっちはおばーちゃんのレシピばっかりだけど」



ポーチから手帳を出して捲っていく内に一つ、作れそうなものがあった。

 材料も余裕がある、というかお店で買えるものばかりだ。


【蜜月の酒/ミード酒】 調合時間:二時間 最大調合量:3回分(3リットル)

ハチミツ+こうぼ粉+水

 結婚式で必ず出される酒。

新婚夫婦が寝る前に飲むと元気(健康)な子に恵まれるという言い伝えがあり、女神の美酒とも呼ばれる。

 素材が少ない分、品質が大きく反映される。

追熟が必要ない珍しい酒。

※水の品質が一番重要。B品質以上推奨



 そのページの後には別のお酒のレシピが載っている。



【ビアー】 調合時間:45分 成功率:低

ビアーの素+甘味 or ビアーの素(乾燥)+甘味+水

 ビアーの素が液体の場合は糖分を加え、少量の魔力を込めて混ぜるだけでOK。

クリアな色の液体とオリの二層になったら、魔力を一気に増やして混ぜる。

すると、小さな気泡が生まれビアー独特の泡となる。

魔力の注ぎ方と加える糖分の種類や品質により味が変わる。

 乾燥させたビアーの素を使う場合は糖分以外に水を加えなければならない。

作り方自体は同じ。


【ビアーの素】 調合時間:15分 成功率:中

麦+ホップ+酵母+水。

 麦とホップ、酵母を釜に入れて混ぜ、全てが粉になるまで一気に魔力を注ぐ。

粉になったら水を加え、火を弱めて三十分~一時間ほど煮つめる。

消毒した瓶などに詰めて完成。


【ビアーの素(乾燥)】 調合時間:20分 成功率:中

ビアーの素+スライムの核+渇きかわきすな

 ビアーの素にスライムの核と渇き砂を入れて魔力を加える。

どれも一気に魔力を注ぎ、液体が全て砂に吸い込まれ砂の色が白からビアーの素

の色に変化すると、完成。



 おばーちゃんのレシピで一番多いのは、きっと食べ物系だ。

皆手作りだったって思ってるみたいだけど『錬金術』で作った物だったんだよね、おばーちゃんの料理って。



(家に“お客さん”がいる時は手料理だったっけ。それも、私が料理覚えてからは殆どおばーちゃんの料理って食べてない気がする。あの時は単純に『私』の料理をおいしいと思って、好きだから料理を任されてるって思ったんだけど)



この工房でリアンやベルと生活するうちに、おばーちゃんがお客さんがいる間に料理を錬金釜で作らなかったのは、『レシピ』を守る意味合いが強かったんじゃないかって思ってる。

 調合釜は玄関から入って直ぐの所にもあったけど、実はおばーちゃんの部屋にもあったんだよね。



「お客さんに渡す商品の調合してたらご飯だって作る時間ないもんね。薬が殆どだったから時間も繊細さも必要だっただろうし……何日かかけてようやく完成した依頼品も多かったっけ」



 その間、おばーちゃんが調合部屋から出てくることはなかった。

時間がかかる調合は部屋に入る前に「ご飯は要らないからね」って言ってたし、トイレもあったから外に出る必要はなかったっていうのもある。


 そこまで考えて、懐かしさと良く分からない感情で胸の辺りがモヤモヤした。

食べ過ぎたわけじゃないのにな、と首を傾げて気づく。



 独りきりの工房内は静かだった。

聞こえる音といえば錬金釜がグツグツと煮える音と開いた窓から聞こえる鳥や風の音。

後はどこから微かに聞こえる生活音。



「都会って賑やかだと思ってたけど……静かだったんだ」



生活音以外は全て前に住んでいた家と変わらない。


 というか、前の家とは違って『私以外』のモノがあるから少しだけ変な感じだ。

握っていたチョークと書きかけの黒板を置いて、意味もなく工房の外に出てみる。

そよそよと穏やかな風が吹いて私の髪を揺らした。



「って、ぼんやりしてる時間が一番勿体ない! 魔力もちょっと回復してきてるみたいだし、さっさと下準備終わらせて、それで作れるもの作っちゃおう」



工房の玄関先でハッと我に返った私は踵を返した。


 向かうは作業台。

途中だった「磨き砂」の下処理を再開しつつ【中級ポーション】のレシピを確認する。

やるべきことは沢山あるし、やっておいた方がいい事なんて数え切れない程あるんだから、“昔”のことを思い出してる時間なんてない。


 途中で放り出してしまった作業を再開しながら、書かれた文字を目で追う。



【中級ポーション】調和薬+アオ草+リラの花+水素材。

・リラの花は乾燥させたものを使うこと。

下処理:リラの花は細かく擂り潰し、粉末にする。使用部位は花弁のみ

    アオ草は1㎝に切り、枯れた葉や変色した葉は取り除く


調合手順

1.粉末にしたリラの花に、調和薬を三分の一入れ魔力を込めながら練り合わせる

2.アオ草と残りの調和薬を入れてアオ草が半分ほど溶け5㎜の大きさになるまで中火で魔力を流しながら煮る

3.一度火を止めて1と水素材を入れて、火をつけずに余熱で魔力を一気に込めながらアオ草が溶けるまでかき混ぜる

4.アオ草が溶けたら火をつけ、沸騰直前まで加熱

※沸騰直前の目安として釜の中の液体が均一な濃い橙色になるので注視すること

 過熱しすぎると色が黄色味を帯びる

5.沸騰直前に残りの水素材を入れて火を止め魔力を注いで、濁りのない橙色になったら完成



 薬の調合で一番多い下準備が『粉末にする』作業だ。

下処理とか下準備は色々あるけど、個人的にはコレが一番疲れるし、難しいと思う。



「もういっそ、魔力を込めると素材が粉末になって出てくる魔道具とか誰か作ってくれないかな。絶対買うよ、錬金術師なら絶対買う」



 磨き砂に続いて、今度は乾燥した花を一つ一つ外し、乳鉢の中へ入れる。

乳棒を動かしながら少しずつ細かくなっていくリラの花を観察。

硬い「磨き砂」とは違って擂り潰しやすいのは擂り潰しやすいけど、これはこれで大変だ。


 今回使った花は薄い橙色で統一した。

素材になる花の中には、種類が同じでも色が違うものが多く存在する。

中級ポーションの素材である『リラの花』も同じ。



(花の色が違っても効能は変わらない……って世間では言われているんだよね。でも、急いでいたり材料が少なくて困っていない時は出来るだけ同じ色で揃えて使う方がいい、って言ってる人も割と多いんだよなぁ)



勿論、詳細鑑定にかけたり、色々調べた人もいるらしい。

結果は『同じ』だったらしいんだけどね。



「測定器とかでは測れない影響があるかもしれないから、って言ってたけど……どうなんだろ。なんだかんだで“良く分かってない”ことが多いんだよね、錬金術って」



リアンに言われた通り、購入した花は完全に乾燥していて、花が崩れていないものを選んだ。


 乾燥しても割と丈夫なんだけど、雑に扱うと粉々になるから要注意。

安いからって確認しないで購入して、開けてみたら花も茎も葉も殆ど崩れていた……っていう失敗談もよく聞く。



「次はアオ草か。これは、どうしよう。祝福付きじゃないのを使った方がよさそうだよね。品質が良くなりすぎても売れないし……取り置きのアオ草でいいや」



便利な地下空間のお陰で劣化はない。


 採取の段階で枯れている葉を落としたりはしてるけど、念の為よく見直しして軽く水で洗い、乾いた布で水気をしっかり吸い取った。



「あとは決まった大きさに揃えて切って……と。下処理は他に何かあったっけ。道具も準備しておかないと」



 用意する道具は中級ポーション用の瓶と漏斗、漉し布、お玉。

専用のレードルもあるらしいんだけど、お玉で充分。

錬金術の道具も魔力を通さなくていいものは代用可能だったりする。



「肝心なのは手順と魔力の注ぎ方かなぁ……タイミング見間違わないようにしないと」



材料を揃えて、そして手帳を二度ほど確認。


 手順と注意事項を繰り返し口にしてから、私は調合釜の前に立った。

初めての調合はやっぱり緊張する。


ドキドキしながら、リラの花の粉末を釜に入れて、調和薬を三分の一投入する。

直ぐに魔力を少しずつ馴染ませるような感覚で杖を動かす。

練り合わせる、とのことだったので円を描くように全体をかき混ぜるんじゃなくて、上下に満遍なく動かしながら、均一に魔力が行き渡るように注意。



「よし、全体的に混ざって来たみたい。次はアオ草と残りの調和薬を入れて……アオ草の長さが半分になるまで、煮込むっと」



火力は中火、とブツブツ言いつつ火の調整をしながらゆっくり円を描くように釜の中を混ぜていく。


 薬の調合をする基本は『均一に』だ。

ムラがあると効果が上手く引き出せなかったり、品質が下がったりする。



「半分、半分……ううーん。液体の中でグルグル動くから判別が難しいかも。じっと見てたら目が回りそうだし」



大きな錬金釜の中でクルクル踊るように舞うアオ草の長さを判別するのは、中々に難しい。


 眉間に皺を寄せつつ観察を続けた。

アオ草の薄い若草色とリラの花の橙色がムラなく混ざった頃―――……がアオ草5㎜の判定基準だった。


 一度魔力と火を止めて、水素材である井戸水を加える。

品質のいいエンリの泉水でもいいかな、と思ったんだけど大量に作る必要があることを考えると今後も用意しやすい素材を使って品質と効能を確認する方がいいと考えたんだよね。



「で、あとは火を付けないで魔力を一気に込め、て……うぁ。結構、持ってかれるなぁ」



慌てて乾燥果物をポーチから一つ出して口に入れる。


 少し魔力が回復したなと思う傍から杖を伝って吸い取られていくので、2つまとめて口に乾燥果物を入れ無心でかき混ぜていく。



(アオ草が全部溶けたら、火をつけて……沸騰直前まで加熱。沸騰直前になると、濃い橙色になるから―――そこを見極める、っと)



釜の内部で揺蕩う小指の爪よりも小さなアオ草の欠片が消えた瞬間、魔力を止めた。

そして間を置かず点火する。



(沸騰するまで魔力は注がない、で正解だとは思うんだけど)



魔力を注ぐ必要があるならレシピに書いてある筈だからね。


 グツグツと静かに温度が上がっていくのを温度計と釜の状態を確かめながらじっと待つ。

錬金術というのはちょっと不思議で、低い温度だったのが急に高温になったりもする。

調理に使う水とは違うので最後の最後まで気は抜けない。


 少しずつ上がっていく温度。

その時は60℃を超えたのを確認した数秒後に訪れた。


 いつでも投入できるように瓶を手に持っていたので慌てず、濃い橙色に染まった溶液に残った水素材を入れて火を止める。


再び魔力を注いでいくと、曇りが晴れるように濁った橙色が澄んだ液体へ変わった。


 ドキドキと煩い心臓と震えそうになる手。

用意していたお玉を握って一度深く深呼吸をしてから、一回分の分量を掬い上げて漉し布をセットした漏斗へ注ぐ。


さらさらと入れる容器の中へ溜まっていく液体を眺めつつ、最後の一滴まで瓶の中へ閉じ込めた。



「はぁぁぁぁあ……っできたぁ」



ああ、緊張したと息を吐いた私はしゃがみ込んだまま完成したアイテムに視線を向ける。


 濁りのない綺麗な橙色の液体。

品質は多分Cくらいあるだろう。


これがC品質なら作り方やコツを二人に伝えることができる、と思いながらメモ帳に急に温度が上がったことや、魔力を結構使うこと等をメモしておく。



「実際に調合してみないとわからない事って結構あるしね……細かくメモしておけば調合する時にドキドキしたり失敗したらどうしようって考えなくて済む」



メモを取り終わったら使った機材を洗って、乾かす。


 綺麗で柔らかい布の上に伏せて、調合した【中級ポーション】はポーチの中へ。

少し休もうかとも思ったけど魔力はまだあるし好きに調合出来る機会が少ない事もあって、調合を続けることにした。



「んん、食材系調合しちゃおうかな。息抜きに」



店売りじゃないアイテムの調合は肩の力が抜けて丁度いい。


 ついでに出来上がったのを味見すれば、夜のご飯も用意しなくていいから楽できる。

そう決まれば食材の下準備だ。



「調合する食べ物は【辛いミートパイ】【ミートパイ】【アリルのパイ】【蜜月の酒】って所かな。辛いミートパイは一つでいいでしょ。【ミートパイ】と【アリルのパイ】の最大調合量は三つだからどっちも三つ作るとして、えーと……下準備の時間を入れて二時間くらいみておけばいいや。【蜜月の酒】は二時間かかるのか……うーん、まだ明るいしいけるいける! 最悪、魔力が足りなくなったらベルから貰った魔力回復ポーションで回復すればいいし」



 明日は少なくなってきた【乾燥果物】を作っておきたい。

スライムの核をベルたちが持ち帰ってくれることが前提だから、もしなければ教会の裏庭でスライムを探してみるしかない。

食材はオーブンで温めてから出せばより美味しく食べられるから、そうしようと思う。


 自家用だから一つでも手に入れられれば問題なし。

 疲れた時とか食べるから結構消費が激しいんだよね。



「とりあえず素材取ってくるか。えーと、肉と小麦粉、調味料とマトマ……アリルと香辛料の類いは台所にあるからいいとして、ハチミツと「こうぼ粉」とエンリの泉水ってところかな。油は……バタルにしよう。ルブロは高級品だからいっぱい使うの嫌だし。バタルも高いけど、買えなくはないし」



少し迷って、バタルの入った器を持っていくことにした。


 大きな籠に食材を入れた後、小麦粉を運ぶ。

そこからは分量を量って、小分けにしていくだけだ。



「パイの調合は簡単に皮剥きと小分けにするくらいだもんね。味は調味料で決まるから、気を付けなきゃいけないけど」



辛いミートパイの調味料は別に避けて、普通のミートパイから調合を始める。

パイの調合は三十分で作れるから、時間がある時にまとめて作っておくのもいいかもしれない。

切り分けたらすぐ食べられるし、結構おなか一杯になるんだよね。



(何よりパンばっかりだと飽きる。ご飯炊くのもいいけど、火加減見てなきゃいけないし、まとめて同時に炊けないから時間と余裕がないと厳しいし)



完成したパイを置くお皿を三枚用意して、ボウルやバット、大きなフライ返しをセットすれば後は調合するだけだ。


 調合釜に入れて、生地になる小麦粉とバタルを入れたら後はまとまるまで大きくかき混ぜる。

パイ生地がひとまとまりになったら、一度取り出してボウルに入れ、次は具材。

 肉だけだと臭みが出るのでマタネギ、キャロ根、香草を少し入れ、塩コショウ、隠し味のショウユと砂糖を入れたら、マトマを投入。


杖で具材を炒めるように混ぜたら、パイ生地を入れてあとは魔力を注ぐだけ。



「完成した傍から浮かんでくるから分かりやすくていいんだよね」



パイは断然、手作りよりも調合の方が早い。


 何の失敗もなく、ミートパイとアリルのパイを仕上げ、ベル用のミートパイも作ってしまう。

これで、大体二時間だ。



「あとはお酒だけど……先にパイの味見しちゃおうかな」



どれどれ、と味見用に仕舞わずに置いたミートパイを切り一切れ食べてみる。

行儀は悪いけど立ったまま手づかみだ。


 サクサクのパイ生地と具材は肉とマトマの酸味が上手くまとまっていて中々美味しい。

バタルを入れたからかコクもあるし、香草のお陰で肉独特の匂いも消えていた。

もう一切れ食べちゃおう、と追加で食べながら【こうぼ粉】が入っている密閉瓶を取り出す。


 ハチミツは甘いものの調合に使おうと思ってケルトスで仕入れたものを使う。


 実はこのハチミツは訳アリだったりする。

品質は最高級に近くて、大瓶一つで金貨1枚はするんじゃないかって素晴らしいハチミツなんだけど……それを一つ銀貨五枚でリアンが買った。

売りに来ていた若い行商人が白目剥きかけてたもん。


 途中で買い付けに行ってた中年の行商人が戻って来なかったら、他の商品も『お買い得』な値段で高級品売る羽目になってただろうし。



(本当はハチミツを買う予定なんてなかったってあの行商人の人が知ったら、気の毒だよね。流石に)



 事の始まりは、ハチミツを扱う若い行商人だった。

彼の隣には可愛らしい女の子がいて、彼女曰く同じ行商人に教えを乞うている身、らしい。


 その女の子が私たちに目を止めて『錬金術師』を褒めたのが気に入らなかったんだって。

中年の行商の人に思いっきり拳骨落とされてるのを私は確かに見た。



「単純にゴタゴタしててリアンの機嫌が悪かったのもあるんだろうけど、あんなに人がいっぱいいる所で貴族が多い錬金術師に喧嘩売るような真似したんだからある意味度胸はある」



少し前のことを思い出して、苦笑しつつ大瓶のハチミツを作業台へ置いた。

 中年の行商人はリアンが『誰』なのか知っていたらしく、慌てて詫びとして品質Cのハチミツを私たち一人一人に大瓶で渡してきたっけ。



他にも、ベルやミントとお揃いでリボンを買ったこと、ディルと食べた美味しいものの事、ムルやラダット、チコの三人の故郷や今後の目標なんかを思い出しながら、私は【蜜月の酒】を調合すべく計量カップを手に取った。




 計量カップを手に何気なく視線を窓へ向ける。

工房の外の世界は、陽が傾いてどこか物悲しい茜色に建物や空が染まっていた。







ここまで読んでくださってありがとうございました!

一応、誤字脱字変換ミスのチェックはしていますが、見逃し・見過ごし・既読スルーがある可能性が高いです。

誤字脱字などが目に入ってしまった場合、おしえてくださると本当に助かります……毎度スイマセン。


=紛らわしい食材名=

【ルブロ】

シャーフ(無害化した羊の魔物)から飲み作られる高級バター。

庶民が口にするのは、ミルの実から作った植物性のパタル、牛や羊の乳から作るバタルが殆ど。

ルブロは貴族や王族が食べるものとして親しみ深くはないが憧れはある。

 価格はパタル100gで銅貨5枚、バタル銅貨6枚、ルブロ銀貨5枚といった具合。

【バタル】

パタルと同じ要領で、牛や羊の乳から作られる。

こちらは少し黄色みが買っており、パタルに比べると濃厚でどっしりとした味。

 香りも良いので主にお菓子作りに重宝される。

パンに塗っても美味しいし、料理にもよく用いられる。現代で言うバター。

100g銅貨6枚ほど。


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