111話 警備結界
調合が、調合が……!!!
とりあえず警備結界について、です。
別名:執事の回
魔道具についてもそのうち詳しく書けたらいいなぁって思って……たんだけどなー。
あまり進んでいないです…ハイ
護衛のエルとイオにお礼を言ってから工房の前で別れた。
二人は途中で昨日の貴族騎士を拾って騎士団に戻り、鍛練と訓練をするらしい。
エルが嬉しそうに笑いながら「ベルやリアンと手合わせするのが楽しみだ」と話してたけど、私もイオも曖昧な笑顔を浮かべるだけにした。
(騎士団を出てから結構経つし、リアンとサフルは使い物にならない状態だと思うんだけど。ベルがどうなのかはさっぱりわからないけど、楽しそうにしてるんだろうな)
やれやれと息を吐いてポストを覗き込んだ。
普段はリアンが郵便物の点検と仕分けをしてくれている。
朝一番に私は畑に行って、リアンはポストの中身を確かめに行くっていう習慣があるんだよね。
普段しない事をするのは少し緊張するけど楽しい、と思いながら工房に入る前にポストの蓋を開けた。
中には五通の手紙。
「おお! すごい、五通もある。こうやって届くんだ」
リアンとベル宛てが二通ずつと学院から一通だった。
私に手紙をくれるような人はいないから時々羨ましく思うけど、大体厄介ごとが書いてあるらしい。
手紙を取ると十回に七回は眉を顰める二人を見慣れると、欲しいとも思わなくなった。
ポストの中から手紙を取り出して、一度ポーチに仕舞い込んだ。
入り口の簡易柵を閉めて、古い錬金煉瓦と同じ大きさに整えられた古い石煉瓦の上を歩く。
雑草の類いはサフルが抜いてくれたらしい。
古い石畳も磨き上げられているし、畑から要らない石を運んで並べたらしく敷地の区別がしやすくなっている。
店の前には花壇と工房までの道、木が植わっているだけの何もないスペースといった感じ。
その三カ所が分かりやすいように区切られているのを初めて見た時は、凄く驚いたっけ。
私だけじゃなくてサフルにも厳しかったリアンやベルも驚いて、感心していた。
工房の古いけれど綺麗に磨き上げられたドアノブを捻りながら「ただいまー」習慣で挨拶をして直ぐにピタッと足が止まった。
目の前には、完璧に磨かれた黒革の靴と黒いズボン。
視線を上げていくと白い手袋と白いシャツ、黒い服。
「おかえりなさいませ、ライム様」
恭しく頭を下げるその人は若い男の人だった。
クローブとマリーの話を聞いてからすっかり忘れてたけど、そういえば留守番してくれているって言ってたなぁ、と考えながら彼に頭を下げる。
「ええと、お留守番有難うございます。食材が届いていたと思うんですけど」
キッチンや作業台を見てみるけれどそこに木箱は見当たらない。
外にもなかったし、と首を傾げる私に執事さんはにこりと綺麗に笑う。
「誠に勝手ながら地下の保管庫へ運び込んでおきました。お嬢様はいませんし、ライム様のような女性にあのような重たいものを運ばせるのは執事以前に、男として失格ですから」
「あー、ありがとうございます。ええと……とりあえず、お茶でもどうですか? 魔道具のこととか聞きたくて」
「そうですね……ではお茶の準備は私に任せて頂けませんか。お茶菓子をお持ちしていなくて申し訳ありません。今度こちらへ来る際には持ってまいります」
「お茶菓子なら常に持ち歩いてるので大丈夫です。じゃあ、適当にお茶を淹れてください。私ちょっと作業しておくので」
「承知いたしました」
綺麗に一礼して無駄な動きも動作もなく、キッチンへ向かう背中を目で追いつつリアンとベルの作業台に手紙を置く。
地下から素材を持ってこようと思ったけど『他人』がいる状況で調合はしちゃダメ、って契約をしたことを思い出して諦めた。
私が食器棚から茶菓子用の小皿を出す。
キッチンで紅茶を入れるためのお湯を沸かしている執事さんの横で、ポーチからスコーンを取り出して二個ずつ載せた。
甘さは殆どないからジャムを添えようとポーチから持っているジャムを出して並べる。
量が少ないもの、半端なモノ、沢山あるものなど量は色々で色も一つ一つ違う。
並べると綺麗だなぁ、と思いながら好きなジャム二種類を自分の皿に適量掬って完成だ。
「執事さんはどれがいいですか? 量が少ないのでも多いのでもなんでもいいですよ」
瓶にはタグをつけてあるので何のジャムなのかは見ればわかる。
執事さんは少し目を見張って、直ぐに真剣な顔で瓶を眺めた。
「―――……では、コチラの『キャロ根のジャム』と『アリルのジャム』をお願いします」
言われた通りのジャムを乗せてジャムの瓶はポーチに入れなおす。
先に準備を終えた私はテーブルについて、レシピ帳を取り出してみる。
(まだ時間もかかるだろうし『研磨剤』だけ調べたいんだよね……時間とかも気になるし)
取り出した手帳を捲っていく。
どのあたりだろう、と薬や食品以外を見ていくと『調合素材』という所に目的のものを見つけた。
【研磨剤】成功度:高 所要時間:一時間 最大調合量:2回分
磨き砂+油素材+粘土
下準備:磨き砂を擂り潰して粉末にしておく
粘土は細かい目の網に入れ、水をかけ粘土とそれ以外に分けておく。
1.粘土と磨き砂(半分)を同時に釜に投入し魔力を込めずに混ぜる
2.均等に混ざったら油素材を入れて艶が出るまで魔力を込めて練る
3.残った磨き砂を入れて魔力を込め10分・込めずに10分、仕上げに魔力を込めて5分混ぜたら完成
使用法:伸ばした研磨剤の上で魔力を込めながら、原石を転がしていく。
鉱石が石などに埋没している際に有効。
また、カッティングの際にもよく用いられる
【研磨液】成功度:高 所要時間:一時間 最大調合量:2回分
磨き砂+調和薬+水素材+酒の素
下準備:磨き砂を擂り潰して粉末にしておく
1.磨き砂に調和薬と水素材を入れて高温で一気に魔力を加えて混ぜる
2.混ぜたら火を完全に止めて冷めるまでゆっくり魔力を緩やかに加えながら混ぜていく
3.温度が30℃になったら酒の素を入れて、酒の素が同化するまで一気に魔力を注ぐ
(この時、混ぜずに魔力を流し込むこと)
4.淡い黄金色の液体ができたら密閉容器に入れて完成。
使用法:容器の中に直接鉱石を入れる。
液体に触れている所しか削れない。
基本的にクラスターや小さな原石の研磨に向く
使用時には少しずつ魔力を注ぎ、様子を見ながら研磨する必要がある。
削りたい部分のみ浸けて魔力を込める必要がある
取り出すごとに水で流して確認する必要がある
※効果がなくなると透明な水になる
やることが多い、と思ったけど今回調合するのは【研磨液】にした方がよさそうだ。
クラスターや小さな原石の研磨に向くと書いてある。
どのくらいの量ができるのか分からないこともあって、最大調合量で二回調合をすることに決めた。
よし、と手帳を閉じた所で目の前にカップが音もなく置かれる。
視線を向けるとほんの少し口元を持ち上げた執事さんと目が合った。
「ありがとうございます。あ、座って食べて下さい。食べながらベルの言ってた『魔道具』について教えてください」
「かしこまりました。それでは、失礼して……―――ふむ。お嬢様が絶賛していた通り、ライム様の料理は素晴らしい。まずは、そうですね……今回使用する『魔道具』についてお話ししましょう。お嬢様からはどのように聞いていらっしゃいますか?」
戦うの大好きなベルがお嬢様って言われていることに妙な違和感を覚えつつ、紅茶を一口。
ベルの淹れるお茶も美味しいけど、執事さんは本職でもあって凄く美味しい。
「うわ、紅茶美味しい。えーっと、ベルからは『警備結界っていうのを張って、外から誰も入って来られないようにする』っていうのと『ベルが戻って来ないと解除できない』って聞きました」
「概ねその認識で問題ありません。詳しい説明は『魔道具職人』や研究者ではないライム様には不要でしょうからここでは省かせていただきます」
そういうと執事さんはどこからか、高さ二十㎝くらいの長方形のランプに似た形の箱を置く。
高そうな細かい装飾に、透明な錬金硝子で作られた箱型の中には子供の拳大もある魔石があった。
「これ、高い奴ですよね。魔石の大きさが、なんか見たことない大きさ何ですけど」
「そこそこの値段ではありますね。貴族の屋敷であればごく当たり前に置かれているモノです。城の警備結界であればもっと大きな魔石が使用されていますよ」
値段のことは考えないことにしようと心に決めて、私は大人しくスコーンを齧った。
まとめて作り置きしてるお菓子って結構あるけど、作った傍からなくなるんだよね。
オヤツとして毎日食べてるからかもだけど。
「注意事項とかありますか? その、警備結界とやらを使ってる間」
「ええ、勿論。これは単純な機能しかないので、その為に私が『留守番』をしていたのです」
そういうといつの間にか空になっていたお皿を除けて、一枚の羊皮紙を私に差し出した。
受け取って目を通してみるとそこには『魔道具使用中の注意事項』と書かれている。
『魔道具使用中の注意事項』
1.魔道具の持ち主は『ベルガ・ビーバム・ハーティ』であり魔力契約済み。
その為破壊・売買はできない
2.魔道具の効果を切ることができるのは使用者と使用者が許可した一名のみ
3.警備結界を起動すると『外』から入ることはできず『結界内』から出ることもできない
4.工房敷地内から出られないので、用事は済ませ懸念事項があるなら解決しておくこと
5.結界展開中は『中』で何があっても外部からの助けは呼べない
羊皮紙の最後にはサインをするところがあった。
良くは分からないけど、読んで理解したらサインをしろって事だろう。
(他に変な記述もないしササッとサインしちゃおうっと)
ポーチからインクとペンを取り出して早速サインを!と思ったんだけど、何故か執事さんに止められた。
「お待ちください、ライム様。その契約書にサインをすると警備結界が展開されます。サインは最後に、まずは……そうですね先にしておくことはありませんか? ご友人やお知り合い、必要なものなどの購入があれば」
「必要なモノは全部揃えてますし、調合するのに不足はないですよ。食料も沢山あるし。友達っていっても……皆、ベルと一緒に夜間訓練っていうのに行くんで」
「夜間訓練、ですか。なるほど。サインですが、私が敷地内から出てからお願いします。サインをするまでの間、私がこの工房周辺に『余計なモノ』が入り込まない様見張っておりますので、サインをし終わりましたら安全確認の為工房から顔を出していただきたい」
特に異論はないので頷けばまずは、と彼が立ち上がる。
私も残っていたスコーンを口に詰め込んで紅茶で流し込み、立ち上がると申し訳なさそうに謝られた。
急がなくてもよかったらしい。
「折角ですし、設置に立ち会いますか?」
「設置……ですか? え、サインすればいいんじゃ」
「これと同じものを四カ所に設置しなくてはいけません。そうですね、今回の場合は庭の四隅に置くのがいいでしょう。この魔道具を順番通りに設置しておけば、魔道具同士が共鳴して結界を張る―――……といった所でしょうか」
「なる、ほど? とりあえず、この羊皮紙も持って行きますね。手帳とか下敷きにすればサインもその場でできるし」
ポーチにインクやペン、羊皮紙をしまって庭へ出ましょう!と工房のドアを開く。
昼にはまだ早いとは言っても、街に住んでいる人たちが活動を始める時間帯。
遠くから人のいる気配が聞こえてくる。
ドアを閉めてまずは裏庭へ、と歩いていてふと気になったことがある。
「結界を張ったら、外の音が聞こえないとか風が吹かないとか、そういうことにはならないんですか?」
「そういう効果がある『魔道具』もございますが、お嬢様が手配したこの『魔道具』にはそのような効果はありませんよ。音は勿論匂いや風なども感じられます。ただ『入れない』上に『いかなる攻撃』も跳ね返すだけです」
「はぁ……なんだか都会にはいろんな不思議道具があるんですね」
執事さんを裏庭に案内すると畑を見て「お嬢様も土いじりを?」と聞かれた。
手入れをしているのは私やリアンだといえば、その方がいいでしょうと頷かれる。
「お嬢様は植物を育てることに関しては『悪い意味で』一級品の腕をお持ちになられております。可能な限り畑の世話からは遠ざけた方がよろしいかと」
「……ベルのことで気を付けることってありますか」
思わず出たこの質問に執事さんの口数は格段に増えた。
息をするように出るわ出るわ、沢山の注意事項。
多すぎて覚えてないけど『畑の世話は枯らす確率を上げるだけ』『基本的に脳筋』『戦闘狂』ってことを色んな言い方で言われたことしか覚えてない。
(リアンが帰ってきたら畑の世話にベルを組み込まないように言っておこう。うん)
採取は覚えさえすれば出来るだろう、との事。
庭の四隅に『魔道具』を設置し、不審者や不審物がないか確認して庭先へ。
私は工房の敷地内、執事さんは敷地の外に該当する街路に立っていた。
「では、点検も終わりましたし早速サインをして頂けますか」
「はーい」
ペンにインクをつけて羊皮紙にサインを済ませる。
最後の一文字を書き終わって、顔を上げると妙な違和感。
「あれ……?」
何かがあるようでない、という妙な感覚に首を傾げる。
ちゃんと起動したのか確かめようと顔を上げると、満足げな執事さんが私を見て頷いた。
どうやらちゃんと警備用結界が張られているらしい。
試しに、私が外へ出ようとしたんだけど、見えない透明な壁みたいな物に阻まれた。
手のひらで触ってみると堅い金属を叩いているような感じがする。
「問題なく結界を張れていますね。では、お嬢様がおかえりになるまでの間ご不便をおかけしますが、どうぞ安心してお休みください」
上品な仕草で私に一礼した執事さんを見送って、私はとりあえず工房内に入ることにした。
小腹も膨れてるし、作るアイテムも決まってるからまずは地下倉庫だね。
◇◆◇
工房に戻って使った食器を片付けてから、地下へ向かう。
今回作るものは【結晶石の首飾り】だ。
絶対必要なのは【研磨液】だからその材料になる『磨き砂』や『酒の素』『水素材』『調和薬』が必要なので、籠に必要な分を計算して『磨き砂』だけ入れていく。
「ケルトスでお買い得素材いろいろ買い込んでおいてよかった。流石リアンって感じだよね。あの街にいい思い出は今のところないけど、時間があればまた寄ってみたいな」
緑の大市場と呼ばれているだけあって、ケルトスの朝市ではこっちの市場で見ないものが沢山あった。
中には、学院の購買でしか買えない素材もあったんだよね。
品質が悪いものや量が少ないものが多かったけど、高品質すぎるものや扱っている商人が『把握していないもの』もあって、そういったものを買い取った。
購入方法は皆同じ。
欲しいアイテムもコッソリ相談して、交渉はリアンに一任。
リアンも渋々って感じだったけど商売自体は嫌いじゃないみたいだから、文句言いつつ全力で値切りにかかってたっけ。
項垂れてる若手の商人と苦笑してるベテランっぽい商人の人たちの顔は、今でも時々思い出す。
「気の毒だったなぁ、見習い商人さん達」
やれやれと息を吐いて階段を上がろうとした時たまたまアリルが目に入った。
思い出したのは、執事さんが話してくれたベルの好物についてだ。
執事さんが話してくれたベルのお屋敷での生活は中々、まぁ……色々と大変そうだった。
屋敷の人が。
(鉱石の調合に飽きたら『アリルのパイ』と『辛いミートパイ』を作るのもいいかも)
辛い物ってあんまり作ったことないんだよね。
確か『辛味』を足すための香辛料も少し買ってある筈だったし。
籠の中にアリルとミートパイ用の材料も入れておいた。
(リアンには『レシナのタルト』作ったし、ベルの好きなモノも作れればいいな。一回じゃ好みの味は作れないだろうし)
レシピ通りに作っても、作った人の癖ってどうしても出るんだよね。
だからこそ、ちょっとずつ修正して味を近づける必要がある。
前に作ってディルやミントに食べてもらおうと思ってた『レシナのタルト』もあるから、新しくアリルのパイは作っておこうと思う。
「ミントの好きなものも聞いてみようかな。あ、クッキーとか作れそうなものは作っておこう。時間、足りるといいけど」
身に着ける装飾品系の調合って、明るくて手元がしっかり見える時間帯じゃなきゃダメなんだよね。
何はともあれ【研磨液】を作ろうっ!
次回こそ、調合したい。ほんとに。
誤字脱字、変換ミスの誤字報告有難うございます。
助かっております本当に。
=調合レシピ(次回も記載する予定あり)=
【研磨剤】成功度:高 所要時間:一時間 最大調合量:2回分
磨き砂+油素材+粘土
下準備:磨き砂を擂り潰して粉末にしておく
粘土は細かい目の網に入れ、水をかけ粘土とそれ以外に分けておく。
1.粘土(半分)と磨き砂を同時に釜に投入し魔力を込めずに混ぜる
2.均等に混ざったら油素材を入れて艶が出るまで魔力を込めて練る
3.残った磨き砂を入れて魔力を込め10分・込めずに10分、仕上げに魔力を込めて5分混ぜたら完成
使用法:伸ばした研磨剤の上で魔力を込めながら、原石を転がしていく。
鉱石が石などに埋没している際に有効。
また、カッティングの際にもよく用いられる
【研磨液】成功度:高 所要時間:一時間 最大調合量:2回分
磨き砂+調和薬+水素材+酒の素
下準備:磨き砂を擂り潰して粉末にしておく
1.磨き砂に調和薬と水素材を入れて高温で一気に魔力を加えて混ぜる
2.混ぜたら火を完全に止めて覚めるまでゆっくり魔力を緩やかに加えながら混ぜていく
3.温度が30℃になったら酒の素を入れて、酒の素が同化するまで一気に魔力を注ぐ
(この時、混ぜずに魔力を流し込むこと)
4.淡い黄金色の液体ができたら密閉容器に入れて完成。
使用法:容器の中に直接鉱石を入れる。
液体に触れている所しか削れない。
基本的にクラスターや小さな原石の研磨に向く
使用時には少しずつ魔力を注ぎ、様子を見ながら研磨する必要がある。
削りたい部分のみ浸けて魔力を込める必要がある
取り出すごとに水で流して確認する必要がある
※効果がなくなると透明な水になる




