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108話 検品


 まだ売れません……文字数があっという間に増える……。

説明回です。遅くなったのになかなか進まないっていう……すいません。



 夜空が淡い朝の空へ様変わりする午前五時。



 工房の前に借りてきた荷台を置き、工房内から商品を運び出すのはベルとサフルだ。


 リアンはお釣りと販売リストの確認、そして在庫表を見比べていくつかのアイテムを地下から持ち出していた。

 朝起きた時の動きは、寝る前に『誰が何をするのか』を決めていた。

それもあって約束の十五分前には直前準備が完了。



「こうやって見ると、結構な量の商品だね。購入制限もあるし、間違わないようにしないと」


「金額は大丈夫か? 一応まとめたものを渡したが」



勿論、と頷いてポーチに入れたメモ用紙を出して見せると納得したらしい。

 回復アイテムや食材系の購入制限について話していて、小さな疑問が湧いてきた。



「副隊長さんと話していた時は気付かなかったんだけどさ、私たちが作ったこのアイテムって騎士団だと『備蓄アイテム』と『備蓄食料』になるって話だった気がするんだけど……騎士団じゃなくて個人に売ってもいいの?」


「君も少しは学習するんだな。国に出すのは商品を販売した側と購入した騎士団の購入証書だ。今回は初めての取引で少し変則的な販売形態になっている」


「変則的って……え、普通に出張販売するんだよね? 個人購入なんじゃ」


「まだ国から補助金が下りるかどうか分からないからな。ただ、資金が国から各部隊に分配されるのには時間がかかる。それに、僕たちは初めて契約を結んだんだ。この早い時間に騎士団に行くのは、騎士団の運営資金を管理している部署の人間が品物を確認しに来るからだ。販売は確認と証書の確認及び提出が終わってからになるな」


「ごめん、ちょっと混乱してきたんだけどさ……個人販売じゃなくて、騎士団に『備品アイテム』を全部売ったことにするって事?」


「間違ってはいないが……個人が騎士団の購入費を立て替えていると表現した方が分かりやすいかもしれないな。いや、もしくは個人購入者が騎士団の購入補助制度を利用している、と表現した方がいいのか……?」



難しいことを分かりやすく説明しようとしてくれるのは有難い。

小難しいこと言いそうな顔とキッツい言葉の割りに親切だって思うのは本当だ。



(だけど、別に詳しく聞きたいわけじゃないんだよね)



隣から聞こえる難しい言葉を聞き流しながら、大人しくカップの中身を咀嚼する。


 リアン曰く、最終的に騎士団で購入したものを分配した形になるそうだ。

国としては『一部隊』に必要最低限の回復アイテムなどが行き渡っている、という状況になっていればいいんだって。


 過不足分の調整は『国』じゃなくて『部隊の管理能力』によるものとして処理されるそうだ。



「今回購入できなかった者は、開店したら店に直接来るだろう。エルとイオが所属している騎士科の生徒も買いに来るだろうから、回復アイテムはもう少し調合しておいた方がいいかもしれないな」


「ってことは、軟膏と初級ポーション……?」


「そうだな。出来るだけ多くストックは用意しておきたい。正直、僕もどのくらい売れるか分かっていないんだ。開店後しばらくは賑わうだろう。ただ、それだけでは少し『弱い』からな……余裕のある内に【中級ポーション】に挑戦してみようと思っている」



確かにリアンの言う通り、初級の回復ポーションは最低限の回復量しかない。


 分かりやすく言うと、ちょっと深い切り傷が二~三か所治る程度で、主に新人冒険者や子供に使われる。


 でも、一般的な冒険者や騎士が口にする『ポーション』っていうのは中級ポーションの事をいう。


錬金術師としても【中級ポーション】は、必要最低限調合出来なくてはいけないアイテムの一つらしい。

この中級ポーションは、基礎がいっぱい詰まってるんだよね。


 素材の下処理や調合手順、温度調節、魔力を注ぐ量が品質に現れやすい。

その分アレンジというか時短レシピなんていうのもあって、未だに研究している錬金術師も少なくないとか。

 ちなみに、これはリアンからの情報だ。

私は中級ポーションは初級ポーションよりお金になるって認識しかなかったし。



「実は、明日の午前に『精密天秤ばかり』が届くんだ。失敗する可能性もあるが、万が一に備えていくつか備えておきたい。購入するより作った方が安上がりだしな」


「だよね。中級からは魔力コントロールが大事って聞くけど、素材自体は一つ増えるだけだし、手順がちょっと複雑になるだけだもん」


「首都だけあって集まる冒険者も中堅以上が多い。新人もいるが、モルダス出身者なら最低限のマナーはわきまえている。問題を起こすのは外から来た冒険者がほとんどだ。特に、ケルトスから来る冒険者以下の連中だな……早い段階で中堅どころの固定客がつけば、そういった連中も悪さをしにくい」



真剣な顔で思案し始めたリアンの腕を叩いて、大きめのスープカップを指さす。



「難しい話は後にしてとりあえず、食べたらどう? まさか店の準備より朝ご飯頼まれるとは思わなかったけど、せっかく作ったんだから」



 朝、私がまずしたのは畑の水やり。

その次に料理だった。


 ベルとサフルは『訓練』の準備があるとのことだったので、先に渡してある。

リアンは積み込んだ商品の確認のために外にいたからスープカップとスプーンを渡して、私も玄関先で食べることにしたんだけどね。


 渡してから一向に減らないスープが視界に入ってくるから、どうにも気になって仕方なかった。



「……いや、そもそも僕に質問したのは君だろう。ライム」


「何となく分かったから大丈夫」


「その返答を聞くに、真面目に聞いていなかっただろう」


「聞いてたよ! 最終的に国相手に商売するのは面倒そうだし、手続きとか大変だから絶対したくないって気持ちになったけど」


「ライムらしいが、それでいいのか……君は」


「私が卒業したらおばーちゃんと暮らしていた所に戻るんだよ? 村にもその周りにも自警団みたいなのはあっても、騎士団なんて一人もいない上に、行商人だって滅多に来ないもん」



 手の中のスープカップを持ってぐっと飲み干した。

具は先に食べちゃったからね。




―――……正直、将来自分がちゃんと『錬金術師』になれているかが全く、分からない。



 でも、調合だけなら一人でだってできる。

昔は余裕がなくて、生きていくのに精いっぱいで、成功率だって低かった。

入学して、工房生になって……一年も経っていないからまるで未来なんて見えないけど、でも前より少しは生きやすくなっている筈だから。


 目の前にある積み上げられた商品を眺める。

荷台にびっちりと隙間なく積まれた木箱をみるだけで達成感を味わえるので、割と気分がいい。



「リアンの話は長いし、難しいし、くどいけどさ……勉強にはなるし、そういう考え方もあるんだなぁって思えるから聞くのは嫌じゃないよ。面倒になったら聞き流せばいいし!」


「はぁ……分かってはいたが、君はもう少し色々身に付けるべきだな。教養と思いやりを」


「思いやりなら私だけじゃなくてリアンとベルも勉強しなきゃいけないと思うな、割と真面目に」


「? 何を言ってるんだ。ベルはともかく僕はもう十分だろう、どれだけ譲歩してると思ってるんだ君は」



私は知っている、これは何言っても無駄なヤツだ。


 ふっと息を吐いて空になったリアンのスープカップを奪い取る。

なんだかなぁと息を吐いてそういえば、と周囲を見回してからコッソリ聞いてみた。



「ベルは、その……リアンには将来の目標とか話してたりする?」


「聞いていない。そもそも聞くこともないし、そういう話になることがない。ベルは貴族だぞ。僕らとはまた事情が違う」


「貴族と庶民だとさ、その……卒業後に会って話とかできなくなるのかな。やっぱり」


「一般的にはな。会う手立てがない訳ではないが、貴族の、それも上流貴族の女性は何かしらの利益を得るために嫁ぐのが当たり前だ。ましてハーティー家は、三姉妹な上に長女が家督を継いでいる。そうなると『嫁いで家を出る』か『貴族籍を抜いて自活する』の二択が一般的だろう。貴族の爵位を持たない君がベルに会うことは、あまり容易ではない」


「そっか。うん……そうだよね、いくらお嬢様っぽくなくても貴族だもんね。ベルって」


「気持ちは分かる。が、ベルの前では言わない方がいいと僕は思うぞ」


「分かってるよ。夜の訓練に引きずられていくのは嫌だし」



二つのカップを持って、工房のドアを開ける。


 リアンは商品の見張りの為に外で待機だ。

二杯目らしいスープを注いでいるベルが私に気づいて振り向いた時、ちゃんと笑えているかどうか少し心配になったけど大丈夫だったみたい。


 また飲みたいわ、と機嫌よく催促されたからね。

カップを洗い、手を拭いている時に入り口付近に置かれた荷物を見て思い出す。



(今夜は誰も家にいないんだっけ……夜間訓練にベルとリアンだけじゃなくてサフルも行くことになってるし)



明日の昼までには戻ってくるって言っていたから、多めにご飯を用意しておいた方がよさそうだ。


 二人分のカップとスプーンを洗って、メモ用紙に帰り際に買ってくるものを書き出す。

一つは、イオに教えてもらった魔物やモンスターの素材について書かれている『素材図鑑 ~魔物、モンスター一覧』という本。


 今後も採取旅に出かけることもあるだろうし、ベルやリアンの見たことのないモンスターや魔物もいる筈だ。

そうなったら素材を確保し損ねる、なんてことにもなりかねない。



(他には何があるかな……あ、そうだ。革紐とかチェーン買っておかなきゃ。首飾り用の)



確かイオから買える店も聞いていたし、道具屋さんは一度行ったことがあるし迷わない。

古本屋も行ったことのある店だから問題なし。

 此処に帰って来るのは私だけだからって、今朝リアンから鍵を預けられたんだよね。

知らなかったんだけど、合鍵を作っていたらしい。


「今後別々に行動することもあるだろうから、念の為に作っておいた。失くすなよ。ベルにはすでに渡してある」



 メモをポーチに入れて、工房の鍵を閉める。

窓や裏口の鍵はベルとサフルが確認してくれたので、最終確認を三人で済ませて迎えに来てくれたエルやイオ、そして騎士団の人と一緒に東駐在所へ。


 荷台は騎士団の人が牽いてくれた。

でも、それを見たベルが小声で「準備運動になると思ったのだけど」って呟いたのには驚いたけどね。

直ぐにリアンに「貴族令嬢が荷台を牽くのは外聞が悪いぞ」って言われてムッとしてたっけ。


多分本気で荷台を牽くつもりだったんだと思う。

結構重い筈なんだけどな……騎士の人、二人で牽いてるし。


 駐在所までの道は早朝という時間にも関わらず、賑わっていた。

通り過ぎるのは商品を積んだ荷馬車が多い。


 行き交う荷台や荷馬車を眺めながら、ふと冒険者がかなり多いことに気付く。



(ギルドに張り出される依頼書って早朝に更新されるんだっけ。見た所、新人っぽい人は少ないみたいだけど)



「朝も早いのに凄い人だねー。冒険者の人とかは依頼を受けるのに早く起きてるんだろうけど、こんなに商人がいるとは思わなかった」


「朝市に間に合わせる為には、この時間帯から商品を並べる必要があるんだ。他にも、色々な準備をしなくてはいけない。基本的に、露天がある街の大通りは、早朝と夕方が一番混み合うぞ。モルダスは首都と言うだけあって、ある程度整備もされているし、商人たちも勝手が分かっているからトラブルは少ないが、ケルトスや他の市場なら多少物々しくなる。この時間帯にスリも増えるからな」



一時間後には荷台や荷馬車は倍になってる筈だ、というリアンの言葉を聞きながら足を動かす。



「よく見ると分かるだろうが、荷馬車に乗っているのはある程度経験を積んだ商人が多い。荷台を牽いているのは若い職人や他国のものが多い。それと、生鮮食品を扱っている店は荷馬車を使っているのが多いぞ」


「あ。ほんとだ」


「君はもう少し周囲の状況を気にかけるべきだな。集中力があるのは知っているが、一つのモノに集中しすぎる癖は直した方がいい」


「ですわね。戦闘中、そういった傾向がある者は直ぐに死にますもの。気をつけなさい」


「あ、あんまり物騒なこと言わないでよ」


「物騒ついでに、君の動向を窺ってる不審者が数人いたが気付いて……は、いないか。気を付けろよ、警戒心がなさ過ぎて目立ってる」


「いやいや、まっさか! 警戒心って言うけど騎士もいるし、こんなにたくさん人がいるんだから危ないことしないでしょ」



慌てて周囲を見回してみるけど、さっぱりわからない。


しばらく無言で歩いてみたけど視線どころか声を掛けられることもなかったので、小声でベルやリアンに聞いてみた。



「……嘘だよね?」


「嘘や冗談だと思うのはいいが、戸締りには気を付けてくれ。アイテムを盗まれでもしたら大変だからな」


「“運が良ければ何か盗れるかもしれない”程度で様子を窺ってる連中だから問題ないわ。騎士団に近づけば違う相手を探し始めるでしょ」



 リアンには鼻で嗤われ、ベルは我関せず。

慌ててポーチから武器を取り出し周囲を出来るだけ用心深く見回してはみたけど、皆怪しく見えてきて困る。



「あんまり脅すなよ、二人とも。ライムも街中で武器構えてたら余計目立つだろ。スリに狙われない様に俺らが護衛してるんだし、気にしなくていいって」


「それに副隊長からも、帰りは付き添うようにと念押しされているので、大丈夫ですよ。もし不安でしたら工房前で見張りでもしましょうか? 今なら融通が利きますし」


「流石に工房に来る人なんていないよ、まだ開店もしてないしさ」


「……そう、ですか? でも、少しでも不安に思ったら帰りでもいいので言って下さいね」



そう言いながらポーチに武器をしまうように言われたので大人しく従っておく。


 よく考えると今後取引先になるかもしれない騎士団に、武器を構えて乗り込むって結構失礼だよね。

東駐在所に到着する頃には、朝陽に街全体が照らし出されていた。



「この景色を見に来る観光客もいるんだ。すげー綺麗だろ、俺たちが護る国は」



そう言って誇らしげに胸を張るエルに、イオや騎士の人たちも揃って笑みを浮かべていた。


王城がまるで黄金色に光り輝いていて、私の知っている街じゃないみたいだ。


周囲の自然や街並みを含めて綺麗だと思いながら、何故か自分が生まれ育った何もない辺境の地を思い出した。





◇◆◇





 周囲の建物から見ても、頭一つ飛び出た大きな白灰色の建物。



トライグル王国の旗が高く掲げられた、東駐在所の正面の門は閉ざされていた。

五日前に来たときは、騎士や通行人などが沢山いたのに、と人気のない静かな建物の周囲を窺う。


 人の気配がない訳じゃないんだけど、本当に静かだった。

緊張感ではない静けさの前では、先程まで身近だった大通りの喧騒が少し遠くなったように感じる。

見張りの騎士と話を終えたらしい騎士がこちらへ戻ってくる。


その様子を見ていたエルが今後の流れを改めて口にした。



「今先輩たちが報告してくれた。こういう伝令はすぐに隊長か副隊長に伝わるんだ。先輩が戻って来たら俺たちは、これから搬入口へいく。搬入口は、あの角を曲がってすぐだ。デカい鍵がかかってて、中からじゃないと開かない造りになってるんだぜ。で、その搬入口を通れば、すぐに販売会場になる訓練場だ」



 戻ってきた騎士が再び荷台を牽いて、建物の形をなぞるように角を曲がった。

荷台や荷馬車がやっと一台通れる広さの路地を通って、大きくノックをした騎士が謎の番号を口にする。



「今のって何?」


「東駐在所でしか使わない暗号みたいなもん、だな。詳しくは言えないというか知らねぇんだけど、この暗号で人数やら規模やら目的が分かるようになってんだ」


「国の騎士団だけあってその辺りは厳しいんだな」


「はい、勿論です。それと既に監察官の方はいらっしゃっていると思いますよ。大体新しい取引先が来る時は立ち合いますから」



 エルやイオの話を聞きながら、徐々に開いていく大きく重たい扉を眺める。

ベルにあの扉開けられる?って聞くと少し考えて首を横に振った。


国の防衛などに関する施設に使われている入り口には特殊な仕掛けがしてある所が多く、才能が発揮できないようになってるんだって。


 重たい門を潜るとまず、訓練場にびっしり並んでいる騎士の人たちが見えた。

背筋を伸ばし、かかとをつけた状態で直立不動。


 以前の親しみやすい雰囲気はどこにもない。

静まり返った訓練場内はかなり異様な雰囲気で思わずベルの後ろに移動した。


チリチリとした緊迫感に耐え兼ねて騎士の人たちから少し体を隠す。


 そのまま成り行きを見守っていると複数の足音が聞こえてきた。



一人は副隊長さん。

彼は正装で、そして手ぶらだった。



「時間より早い到着、感謝します。商品のチェックを行いますので、代表者またはそれに準ずる方が検品にご協力いただきたい」


「分かりました」



柔和な笑みを浮かべて一歩足を踏み出したリアンは完全に商人モードだ。


 その背後にはいつの間にかサフルが控えていた。

手には魔法紙を丸めたものを複数持っている。



「――……まずは、商品の確認及び点検をさせて頂きます。商品の納品書もしくは一覧はお持ちでしょうか」



副隊長さんと並ぶように立っていた人から声が聞こえた。


 黒と白の体形が分からないローブを着て、頭をすっぽりと布袋のようなもので覆っている。

歩くたびにジャラジャラと音が鳴る所を見ると体のいたるところに魔具を付けているようだ。


 ぎょっとする私を他所に、リアンの顔色は変わらない。

それどころかベルも、エルやイオさえも表情が変わらないので私がおかしいのかと思った。



「納品書はコチラに。ミルフォイル副隊長殿には正式な商品一覧と控えをお渡しします。用紙に『トライグル国立レジルラヴィナー学院錬金科』の押印があるものは、正式な商品一覧ですね。また、納品しました商品ですが木箱ごとに種類を分けてあります。チョークで『A』と書いてある木箱にはアルミス軟膏、『S』と書いてあるものは初級回復ポーション、コチラの『C』と『O』は備蓄食料となっています」



 慣れているだけあってリアンの説明は簡潔だ。

商品別に積み上げられた木箱一つ一つに、チョークでアイテムの頭文字と入っているアイテム数も記載してある。


 説明を受けながら副隊長とその横にいた不思議な人が、木箱を覗き込んだ。

真剣な顔で数や品質をチェックしている三人を他所に私はベルの服の裾を少しだけ引いた。



「ねぇ、あの不思議な格好の人って」


「ライムは監察官を見たことがないのね。彼らは皆、顔や体型が分からない様にしているわ。声も魔道具で性別や個人が特定できない様に変えているし」


「顔は何となくわかるけど、ずいぶん徹底してるんだね」


「国の軍事に関わる仕事も多いし、小さなミスで他国との関係を揺るがしたり壊すこともあるからね。国と一番重い魔力契約を結んでるくらいだから………それにしても流石、商家の生まれだけあって用意がいいわ」



「アイテム詰めるのも結構細かく指示出して、作ったアイテムも全部鑑定してたもんね。あの時は随分細かいなぁって思ってたけど、この光景を見ると納得した」



リアンは副隊長や監察官に質問をされて細かく答えている。


 私からすると「なんでそんなこと聞くの?」ってことばっかり。

それから暫く検品が続いたけれど三十分かかって全ての点検が終わった。

監察官が必要な書類をまとめた所で副隊長とリアンが見送るために正面玄関へ移動する。


 付いて行くべきか迷っていると、エルとイオが検品を終えた品物を訓練場の出入り口付近に積んでいく。

よく見ると、テーブルや椅子が置いてあって即席のカウンターが作られていた。



「見送りに行っている間に販売の準備に取り掛かるわよ。お金が入ってる箱はライムが持ってるんでしょ? それはリアンが来てからでいいわ」



商品を取り出しやすい位置に並べるのを手伝って、と言われたので積まれた商品を販売場所まで運ぶ。


 商品が壊れたりした時の為に、騎士の人たちには手伝いを頼めない。

後で面倒ごとに発展するのは嫌だしね。


 私やエル、イオが二箱持っている横でベルは涼しい顔で四箱軽々と運んでいく。

二か所に分けたカウンターそれぞれに同じだけの商品を振り分けた。

カウンター中央には商品の説明として、アルミス軟膏と初級ポーション、クッキー、オーツバーを並べてある。


店でも使う予定の商品説明用の用紙も一緒に添えてあるので、分かりやすい筈だ。


 騎士の人たちは、これまで一人も微動だにしていない。

置物かなにかかな?と遠巻きに観察していると副隊長さんとリアンが戻って来た。



「おや、随分と用意がいいね。驚いたよ……書類もそうだったけど、君たちには本当に驚かされる」



私が首を傾げると副隊長さんが嬉しそうに話してくれた。

 リアンは副隊長さんの数歩後ろを歩きながら、私たちが運んだ荷物の配置を確認している。



「リアン殿が用意してくれた書類は訂正する必要がなかった。その上、商品説明や質問にも的確に答えてくれたおかげで検品時間が最短で済んだ。準備ができていない、もしくは未熟な相手と取引をすると検品だけで最低一時間かかるから助かったよ」


「もしかして、検品時間を確保するために時間が早かったんですか?」


「到着も早かったし、予定よりかなり早く販売に移行できそうだ。準備ができたら私に声を掛けてもらってもいいかな」



はい、と頷いてからリアンにポーチから出した簡易会計箱を取り出して渡す。


 お釣りや売り上げを一つの箱にまとめたもので、かなり使いやすいんだよね。

硬貨ごとに分かれているからどこに何があるのかすぐわかるし、足りなくなったお釣りの補充も楽なんだよ。


 ウォード商会発足と同時に使われているもので、今では商人全体に普及している商品なんだって。

ちなみに、工房には店舗専用の会計箱が置かれる予定だ。



「商品も運び終わっているようだし、このまま販売に移行する。サフルは僕の後ろに。ベルはライムの後ろ、エルとイオは空になった木箱と在庫が入ったものを入れ替えるように」



分かった、と頷いたのを見届けてリアンが副隊長さんの所へ向かう。

これから五日かけて準備してきた商品を初めて人に『売る』ことになるんだ、と思うと不思議な気持ちになった。


 煩い心臓と高揚感、少しの不安と緊張感。

震えそうになる拳をぎゅっと握り締めて、私は少しでも冷静にいられるようにと軽く自分の頬を叩く。


 自分達が作ったアイテムを誰かに売るって言うのは、想像以上に緊張する。



ここまで目を通して下さって有難うございます。


細かい設定やらなにやらがいっぱいです……難しい販売関係。

誤字脱字など、常時チェックしていますが誤字などを発見した際は誤字報告などでお知らせしてくださると本当に助かります……毎度ホントスイマセン。助かります、助かってます本当にもう、ありがたい…!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『ウォード商会から借りてきた荷台』とありましたが、前話で『荷物は騎士団が所有している荷台に積むことで話がついた』と言っていましたよ…ね?
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