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102話 まずはお腹を満たしてから

 遅くなりましたが、とりあえず書きあがったので……。

読み直して不足や気に入らない所があれば加筆修正します。


ご飯食べてる話です。はい。

調理の工程に移る前に、解体の工程を描写しています。

苦手な方は見なかったことにするか、頭空っぽにして下さると幸いです。想像しちゃダメ。


※20/3/16 にイオの護衛料について加筆修正。

 エルの護衛料については書いていましたが、イオの分について書いてなかったので……。




 工房に帰って、私が真っ先に頼まれたのは仕分けでも報告でもなく料理だった。



 トランクを開けられるのは私しかいない。

魔力認証付きだと開けられないんだよね、本人じゃないと。



「薬草がかなり多いんだけど、水の入った樽もあるからちょっと手伝って」


「分かったわ。それにしても……ずいぶんな量ね。これ」


「エルとイオが普通なら行かないような場所教えてくれたんだよ。ほら、人があんまり入らない場所ってあっという間に薬草増えるから」



繁殖力が強いのが多いしね、と大きな麻袋を取り出す。

ベルも二人が騎士団で働いているのを知っていたから納得したらしい。


 次々にトランクから採取の成果を渡すとベルが全部運んでくれる。

リアンは乗せられた素材の中身を確認し、メモ紙に何かを記録しているのが見えた。

最後にポーチからスライムの核を取り出して手渡しでベルに渡す。



「これが最後だよ。スライムがあんまり見つからなかったんだよね」


「モンスターに出会えるかどうかは運による所が大きいし、仕方ないわ。私も空き時間にトレーニングを兼ねて街の外を軽く走ってるのよね……で、その時にスライムは見つけたら倒してたから、少しだけど素材はあるの。リアン! ちょっと部屋に戻ってスライムの核持ってくるわ。ライムも自分の素材を出したりしてるから問題ないでしょ」


「ああ、助かる」



ため息交じりに返事をしたリアンは、何やら難しい顔をしていた。


 声をかけるか迷ったけど優先すべきは夕食の支度だ。

いや、だってベルとリアンが「仕分けと後処理は任せておけ」って言うんだもん。


 料理の手伝いが欲しかったので、サフルを連れて台所へ。

トランクを持って、中から一頭分の鹿肉を解体していく。



「流石に流し台には乗らないよね、これ」


「よろしければ、床に木箱を置いてその上に清潔な布を敷きましょうか」


「うん、それしかないかも。えーっと布はこれでいいか。木箱はどこに……」


「ライム様はここでお待ちください、用意は私がしますので」



そう言うと優雅に礼をしてパッと消えた。

 直ぐに木箱を持ってきて、並べた後シーツを敷いてそこに鹿肉を乗せる。



「こういう状態の肉を解体できるなんて凄いですね」


「住んでたのが山の中で、粗方一人でしなきゃいけなかったからね。下手だけど、椅子と机くらいなら作れるよ」


「……え。作るんですか」


「うん。木を切って板にしなきゃいけないから手間かかるんだけどね」


「まさかの木から板を作る所からなんですね……そうか、そこからなのか。俺にできるんだろうか……どうしよう、やっぱりリアン様にお願いしてどうにか流れだけでも……いや、それだと手伝いができない……手伝えないってことは、使えない奴隷として売り払われても文句は―――……くっ。商会で習わないことが沢山あるから自分で勉強できるようにしないと……冒険者ギルドで雑用を……」



 ブツブツ言いながら項垂れるサフルに首を傾げつつ、解体の準備を進める。

手に持ってるのは包丁じゃなくて、採取兼解体用のナイフを使う。

こっちの方が切りやすいんだよね。



「一応、解体の仕方教えておくね。見てて」



 基本的に放血して、内臓摘出も匂いが出る前に抜いてあるし、持ち運びがトランクだからね。



「イオが仕留めて来たんだけど、放血もちゃんと終わってるから、私がするのは解体と料理だけ。普通に仕留めると結構処理が大変なんだよね……木に吊るすのも結構重労働でさ」



ちなみに、私が良く捌いたのは鹿とボアだ。

結構畑の野菜狙いに来てて、しょっちゅう罠にかかってたんだよね。



「お肉はタレに漬けて焼くよ。骨と足の筋はじっくり弱火で煮てスープにするつもりだけど、スープは骨から多めに作って時間止められる地下で保存するつもり。ベースにして味付けすれば割と美味しいのがすぐにできるから便利だし」



なるほど、と頷くサフルに臭み取り用の香草やスパイス、野菜なんかを教えた。

割と大事なんだよねー。骨から煮出すとどうしても独特の臭みが出るし。



(スープは魔力使うって手もあるけど……調合もしたいし温存かな。寝る前に魔力残ってたら使えばいいや)



スープの代わりはお茶、と考えながら、解体方法を教えていく。

切り分けた肉はすぐに用意した塩水に漬けこむ。



「部位ごとに切り分けた肉は、こうやって塩水に漬け込まないと独特の臭みが出るから、忘れない様にね」



はい、と頷く彼の手にはメモ帳があった。

 どうしたのか聞くと、リアンに貰ったと言う。



「メモをしておけば後で確認することもできますし、覚えるまでに何度も読み返せるので助かっています」


「なるほど。あ、解体はだいたいこんな感じね。ゆっくりでいいよ、多分ベルがこれから色々持って帰ってくること増えると思うけど」



 ちらっと作業台の方へ視線を向けるとベルとリアンが何か話しながら作業をしている。

エルとイオもそれを手伝っていて楽しそうだ。



「さてと、あの二人も早く家に帰してあげないとだし少し急ぐね」



サフルに野菜を持って来てサラダにしてほしいと頼み、私はさっそくコメを炊き始める。

エルやイオにも食べていって欲しいと頼み込んだので、食事は六人分だ。



「時間もアレだし、さくっとやっちゃおーっと」



ポーチから特製のタレを出して、追加で調味料を入れたら準備完了だ。


 塩水に漬けたばかりの鹿肉を揉みながら少しだけ魔力を込める。

無色だった水に血が溶けていき、お肉もいい具合に柔らかくなったので、軽く水気を拭きとってから調味液の中へ。


 全部肉を入れたら、後は再び魔力を込めながら肉を揉み込む。



(ふっふっふ。時間短縮しないとね。こうすると早く味が沁み込むし……スープ作るより肉に味沁み込ませるだけなら魔力もほんのちょっとだもん。食べたら回復するでしょ)



スープはかなり大きな鍋に作って、色んな料理のベースにするつもりなんだよね。


 そこからはサフルに手伝ってもらって炊き上がったご飯に焼いた肉を乗せ、サラダと口の中がさっぱりする柑橘系の果物を出した。


お茶を淹れて持って行くとすぐにお代わりがあるか聞かれたので、大量に焼いた肉とご飯をテーブルに置くことに。

いや、この方が楽だしさ……私が。



「とりあえず、これで全部かな。イオとエルは焼いてない漬けダレに漬け込んだお肉、家族の分くらいはあるから持って帰って。元はと言えば、イオが仕留めた鹿の肉だし」


「いいんですか? 嬉しいです、ありがとうございますっ」


「俺にもくれるとか、なんか悪いな。でも運が良かったぜ、すっげー美味いし。俺、お代わり」


「僕もまだ食べたいです」



お客さん的な立場の二人は手を伸ばしづらいだろうと思って、二人の器にご飯を盛り付けて渡す。


 するとすぐにベルとリアンに器を差し出された。



「次からは自分で入れてよねー。もー」


「どのくらい盛ったらいいのか判断しにくいんですもの。仕方ありませんわ」


「だな。それにしても……鹿肉がここまで美味くなるとは。臭みもないし、さっぱりしていて食べやすいな。一気に掻き込めて、腹に入れられるのも効率的でいい」



一応令嬢らしく綺麗に食べてはいるけれど、かなりの速さでご飯を平らげていくベルに、騎士科の二人が驚いている。

 まあ、お嬢様って言っても肉体派だからね。



「サフルはお代わりいる?」


「え……あ、その、頂けるのでしたら」


「ご飯くらい遠慮しないで食べてよ。お代わり分が無かったら聞かないからさ」



一応『奴隷』のサフルが自分でご飯を盛るのは色々やり難いだろう、と空になった器に二杯目を盛り付けて渡せば、嬉しそうに頭を下げて食べ始めた。



「……ライム。もし次に採取へ行く必要が出たら、ベルとサフルが行くそうだ。君は残って調合をしてほしい」


「分かった。リアンはいいの? 採取に行かなくて」


「……僕は調合の技術を上げたいからな」



なるほど、と納得して頷く。



 そもそもリアンとベルは『自分が目指す錬金術師』像がしっかりしてる。

リアンは、薬に特化した錬金術師を目指しているだけあって、調合に時間を割きたいみたいだし、理論とかそういうのもすごく大事にしているんだよね。


 ベルは……ちゃんと聞いたことないけど、リアンとは違って戦闘重視って感じ。

今のところ合同演習を見据えて、ある程度危険から身を守れるようにしたいって考えが強いみたい。

調合するアイテムも攻撃アイテムや戦闘なんかで役に立つ物、野営に使える物なんかを重視してるみたいだしね。



(私は、なんかご飯ばっかり作ってる気がする)



おばーちゃんみたいな錬金術師になりたいっていう目標は、変わらない。

でも、具体的にどういう錬金術師になりたいのかって聞かれると凄く困るんだよね。



(薬の調合が特別得意ってわけでもないし、戦闘能力があるわけでもないし、体力と魔力はあるけどそれだけって言えばそれだけだもん。採取だって、習慣で身についたものだから自慢できるような事じゃない)



うーん、と思わず唸ってしまった私の意識を切り替えたのはベルだった。

ふんっと貴族らしい笑い方で注意を引いた後、意地悪そうな笑顔を浮かべる。



「調合云々もあるんでしょうけど、一番の理由はライムのご飯よ」


「は? 私のご飯?」


「そう。貴女の作ったご飯が食べられないのがよっぽど堪えたみたい。まぁ、私もだけどまだ我慢できるもの」


「いや、流石にそんな単純な理由で居残りするとかないよ。だってリアンだよ?」


「………」



ねぇ、と同意を求めて本人に確かめようとしたんだけど、リアンは普段通り無表情でもぐもぐとご飯を食べていた。

 一気にそれを見てエルとイオの視線が生ぬるいものへと変化する。



「貴女が採取に行った日は良かったの。でも、食べる物が無くなったから、夜に食べられる物を買いに行ったんだけど……私もリアンも舌が肥えたみたいで、色々物足りなかったわ。それでも、私とサフルは普通に買ってきた物を食べたんだけど、リアンは面倒だって言って栄養剤を飲んで終了」



うわぁ、と思わず心の声が漏れた。

ケラケラ笑いながら食事を再開したベルと無言で食べるリアン。


 それに耐え切れなくなったのか、エルとイオが慌てて口を開いた。



「ま、まぁ……気持ちは分からないでもないぜ。ライムが作ってくれた飯、なんか妙に美味いんだよな。アレに慣れると今まで食べてた飯とかちょっと味気なくなるよな」


「で、ですね。肉串やチーズと自家製ベーコンをパンに挟んだものも、凄く美味しかったですし。ああいった食事を食べられるなら、僕らも喜んで護衛を引き受けたくなりますよね」



まぁまぁ、二人が場を和ませるように話し始める。



「……なにそれ」

「……チーズと自家製ベーコン……?」


「二人とも怖い。まぁ、食べたいなら明日の朝作ってもいいけど」



どうする、と聞く前に二人は頷いた。


 メニューが決まっていると楽なので私としては、助かる。

一番初めに食べ終わった私は、食器を台所に持って行って見習い騎士二人にお肉を渡した。


 嬉しそうに受け取った二人を工房の外まで見送る。

すっかり日は落ちて、気持ちいい夏の風が肌を撫でた。


 工房が賑やかな商店街から離れた所にあるから、割と静かなんだよね。

耳を澄ませると虫の鳴き声まで聞こえてくる。



「晩飯食わせてもらった上に土産まで悪かったな、すっげー美味かったからウチのやつらも喜ぶぜ。あ、母さんが青の実もう少しで収穫できるって言ってたから、採れたら持ってくわ」


「ご馳走様でした。また良さそうな獲物がいたら仕留めますので、負担にならない範囲で調理をお願いしてもいいでしょうか。僕の家の庭にもペカの木があるので、収穫出来たら持って来ますね。沢山生るのでいつも食べ切れなくて色んな所に配ってるんですよ」


「うわ、楽しみ! 青の実も助かるけど、ペカッツって美味しいよね。ペカッツで何か作ろうかな。あ、二人ともすごく強かったから安心して採取できたよ。次に採取行く時はまた宜しく」


「あの辺りじゃ強いも何もないんだけど、安心できたならよかった。俺もっと頑張るからな」


「僕もしっかり腕を磨きますので、何かあったら相談してくださいね。騎士団へ販売に行く際は、僕らが迎えに来ます」



分かった、と頷けば二人は手を振って玄関へ。

途中、小さな革袋を持ったリアンがイオに押し付けているのが見えた。

 何を渡したのかと首を傾げていると、今回の護衛料だそうで。



「そういえば無料なのはエルだけだ」


「言われてみればそうですわね」


「今回は緊急の護衛依頼ということで色を付けたが、イオは最低賃金でいいと言っていた。基本的には彼の意向に沿うが、相場より少し多め、だな。まぁ二人分払うよりはずっと安い。騎士科ならば、武器や防具、アイテムを揃える必要があるし、資金不足による準備不十分で死なれても困る」



なるほど、と納得してそれぞれの持ち場へ。

私はすぐに作業台へ向かい、サフルは慣れた動作で窓の戸締りなどを確認した後、食器を片付けてくれるらしい。



「ライムは湯浴みでもしてきたらどうかしら。それまでに仕分け終わりそうにないけど」


「僕たちは、君たちが帰って来る前に湯浴みを済ませた。食後直ぐ、サフルが準備をしていたから湯が冷めないうちに行ってきた方がいい」



そういうことなら、と頷けば二人は中断していた作業を再開する。


 黙々と作業する二人の横を通って、部屋に向かえば机の上に一枚の用紙が置いてあった。

紙にはサフルの文字。

どうやら、私がいない間の工房での様子が書かれているみたいだ。



「メモしてる時も思ったけど、文字覚えるの頑張ったんだなぁ」



最初出会った時は、まったく文字を書けないし読めないっていう状態だったのを思い出す。


 いつの間にか体にあった黒色の痣も無くなったし、表情も以前とは違って元気になった。

骨と皮だけだったのも少しずつ筋肉が付き始めてはいる。



(まだまだ、ガリガリだけどね。うーん、お菓子とか作り置きして持たせておいた方がいいかな)



そうすれば、自分のタイミングで食べられる。

 ご飯を用意できないこともあるだろうし、その時少しでも食べられれば小腹くらいは満たせる筈。



「……とりあえず、さっさと入って作る物作らないとね」



一体どのくらいの量を、どれだけ作れるのかなーと暢気に考えながら湯浴みに使う物をタンスから取り出す。

 ちなみに部屋の掃除はサフルがしておいてくれたらしい。

奴隷ってすごい、と思いながら洗い場へ向かう。

汗を流した私は難しい顔でペンを走らせるリアンと、優雅に紅茶を飲むベルに声をかける。


 ベルが新しくお茶を淹れてくれると言うので座る。

息を吐いて大きく伸びをしていると、サフルを連れたベルが戻ってきた。

手にはそれぞれトレーにポット、カップを持って。




「さて……紅茶を飲みながらでいいから聞いてくれ」



 ――――――……紅茶を一口、飲んだリアンが佇まいを直す。




 ここまで目を通して下さって有難うございます。

進みが……亀並みです……。くっ!


誤字脱字の報告、ありがとうございました。前回もありましたね……(白目

本当にお世話になってます。


=食材=

【ペカッツ】

ペカの木からとれる種実。

手でも簡単に砕ける外殻を割って、その中身である胚乳を食べる。

ミックスナッツとして酒場などでもよく食べられ、子供のおやつなどにも。

 一般家庭でも植えられることが多い。



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