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101話 リンカの森で採れるもの

 お待たせしました。

採取とちょっとした小話(情報?)の話。


 見習い騎士組とはこんな感じの距離感。




 第二区間近くにある採取場所を全て回り終えたのは、昼過ぎだった。




 採取ポイントは全て採取し終えていたけれど、スライムの核が全然足らない。

帰る前に少しでも集められたらって考えた私たちは、泉の周辺を通って帰ることにした。



「どうせ暫く来れないし、水とかも採取しちゃおうかな」



 泉の周辺では『エンリの泉水』を始めとする【リンカの森】で採れる素材が満遍なくとれる。

第一区画はモンスターも弱いし魔物が出る確率が殆ど無いから、水だけ汲みに来る冒険者や薬師なんかも多いみたい。


 この周辺に生えている薬草もついでに採取されることが多いから、期待はできない。

ま、繁殖力が強いものが多いから、すぐ生えてくるんだけどね。



「あ。どっちでもいいんだけど、余裕があったら泉の中にあるこの白くて穴が沢山開いた軽い小石拾ってくれる? これ、浄水石っていう素材で、調合に使えるんだ」



今のところあんまり使わないけど、店を開いて忙しくなったら採取には来られない。


 だから、出来る限り素材は集めておきたいのだ。

水の中にも一応モンスターがいるって聞いていたから二人に頼めないか聞くと、エルが何の躊躇もなく靴を脱ぎ始める。



「俺が行ってくる。イオ、そっちはどうだ?」



 泉の周辺はそれなりに整備されているので、見晴らしはいい。

休憩するためのスペースとしても使えるから冒険者も多いんだけど、今は誰もいなかった。



(人を警戒しながら採取って疲れるからありがたいけどね。突然襲い掛かってくるような人はいないと思うけど、用心しとけってベルやリアンにも口煩く言われてるし)



 フードを被り直す。

この目立つ髪はこういう時に不便だと心から思う。

ザッパザッパと豪快に水をかき分けていく音を聞きながら、私は料理に使える香草を仕分けしながら採取していく。

 イオは、警戒役をしてくれてはいるけど、ある程度の距離を保って採取の手伝いをしてくれている。



「あまりよくないですね。スライムの数も少ないですし……ここで待っていても成果はあまり見込めません。ライムさんさえよければ、僕が泉の周辺を探してくることもできますがどうしますか?」


「探してくるってスライムを?」


「はい。警戒はエルだけでも事足りますから。あと、薬草の類も見かけたら採ってきます。採取の仕方は知っていますし、ライムさんの横で見ていたら嫌でも覚えられますからね」


「あー……うん。問題ないならお願い。代わりと言っては何だけど、コレとコレあげる。品質がC+だからお店に置けなくてさ」


「初級ポーションとアルミス軟膏……って、ホイホイ人に渡しては駄目ですよ。リアンさんにも言われているでしょう?」



「リアンに言われてるのは“おばーちゃんが作った”もの、だから大丈夫だって。もし使わなかったら使わなかったで取っといて。あれば何かの役に立つかもだし」



だからスライムの核をよろしく、と言えばイオはため息を吐いて、一先ず道具入れに薬をしまった。

 代わりに、あの布を顔にぐるぐる巻きながら息を吐く。



「―――……二時間を目安に戻ります。エル、それまでは頼みますね。絶対に怪我はさせない様に」


「おう。任せとけ」


「気を付けてね。怪我したり、疲れたら戻ってきてよ」



はい、と頷くと、この場所で採れたスライムの核を私に握らせて、イオは森の奥へ姿を消した。

動きが早いことは知っていたけど、走るのも速くてあっという間に見えなくなった。


(障害物や整備された道のない森は歩きにくくて、走りにくい部類に入る筈なんだけどな)


イオの身体能力に首を傾げつつ、採取した薬草を麻袋に仕分けしながら入れていく。



「アオ草は大きな麻袋一つ、中くらいの麻袋に半分くらい……か。根こそぎ採るわけにもいかないからなぁ。一つの採取場所からは、採取しても大丈夫なギリギリの量を採ってるけど、大丈夫かな。他の人の分、もうちょっと残しておくべき? でもなぁ」



そうは思うけれど体は薬草を見つけると息を吸うように刈り取って、仕分けをしてる。


だから、意識しないといけないんだけど、今は私たちが一番薬草とかアオ草とかを欲してると思ってるから中々止められないんだよね。

 個々の薬草とか香草を採ったら、気晴らしにレッドベリーでも採取して帰ろう、と考えながら一度立ち上がる。



「この辺りにパッと目につく薬草とかはないし、気分転換でもしようかな」



 んーっと大きく伸びをしてから、私はトランクに手をかける。

中から樽やロープを取り出したところで、水を汲もうとしているのが分かったらしいエルが笑顔で手を差し出した。



「え、水なら私でも汲めるよ?」


「いーから任せとけって。あれだろ、出来るだけ遠くから汲んだ方がいいんだよな?」


「それは、まぁそうだけど」



 裸足になってズボンをまくり上げていたエルは、そのまま少し深いところまで進む。

限界まで捲り上げられたズボンが濡れないかソワソワする私を他所に、ロープ付きの樽を遠くにぶん投げてくれた。


 面白いぐらい飛んだ樽に驚いていると、あっという間に用意していた樽をいっぱいにしてしまった。



「え、すごくない? ち、ちょっと試しに浄水石投げてみてよ! すっごく飛びそう!」


「久しぶりだから遠くに飛ばないかもしれないけど、笑うなよ」



 そう前置きしてから投げられた小さな浄水石はかなり遠いところへ飛んで行った。

着水する時の音が微かにしか聞こえないくらいには、飛んだ。


 流石に驚いて固まってたら、照れ臭そうに、小石を投げる遊びは結構昔からやってたんだ、と言う。

なんでも、見習い騎士として騎士団にいた時によくやってたんだって。



「泉っていえば、第二区間の一部で釣りができる場所があるのは知ってるか? 駐在所から近い場所で、決められた餌しか使えないし、警戒料ってことで銀貨1枚払わなきゃならないんだけどさ」


「魚釣りに銀貨1枚……金ぴかの高級魚でも泳いでるの? この泉で」


「いやいや、そんな魚がいたら騎士辞めて釣り人になってるっつーの。まぁ、綺麗な水にしか棲めないっていう美味い魚が沢山いるのと、時々だけどホウジュ貝が食いつくらしい」


「……ホウジュ貝って何? 美味しいの?」



植物や鉱石とかならある程度知ってるんだけど、貝や魚って家に辞典が無かったから知らないんだよね。


 古書店で水産物系の素材辞典がないか探してみよう、と考えながら持ってきた樽に水を詰め終え、トランクに入れていく。


 それが終わったら周辺でスライム探しだ。

数匹ずつなら私にもスライムは倒せるし。


 エルと一緒にスライムを探しながらホウジュ貝についての話を聞いた。


「ホウジュ貝っていうのは、手のひら大の貝で綺麗な淡水の水でしか育たないらしい。味は貝の味が濃くて美味いって話だぜ。育てて売ってる地域もあるらしいけど、モルダスに入ってくるのは大体干し貝柱とかになったやつだ。だから、生の貝を食べられるって言うのは珍しいかもな。川シジミとかなら、割と近場にあるにはあるが……資源保護ってことで、そこもある程度管理されてる所がほとんどだからなー。まぁ、そういうのがない所もあるけど、代わりにモンスターが結構いる」


 川シジミっていうのは親指の爪くらいの大きさの黒い貝だ。

割と繁殖力が強くて、すぐに増えるんだよね。

 スープの具に使うのが一般的なんだけど、一晩しっかり水に漬ける必要がある。

砂抜きって言うんだけど、それをしないと泥とか砂とかが残って美味しくない。



「へー……川シジミかぁ。夏に何度か村の川で採ったっけ。美味しいよね、砂抜きとかしなきゃいけないけど。でも、手のひら位大きい貝なら丸焼きが一番かな」


「火を通すと味が濃くなるって先輩たちが言っててさ、一度だけ食べさせてもらったけど結構美味かったぜ。売ると高いらしいんだけど、数取れないから自分で食べるか家族と食べるらしい」



エル曰く、第二区間の釣り場を利用したいがために、冒険者になる人もいるんだって。

色んな人がいるんだな、と感心する私にエルは口を開く。



「筋金入りの釣り人って、割と多いんだ。中年ならまだしも仕事を引退してから釣り好きになる人もいるな。最初は近場でモンスターの少ない場所からスタートするらしい。で、気付いたら護衛雇ってまで釣りに……ってのも珍しくないそうだ。引退した冒険者とか騎士にも釣り好きなの多いから、ある程度値引いて引き受けるってのも割とある話だぜ。なにせ、俺の叔父さんがそのクチでさ ―――…今釣り人専門の護衛冒険者をやってる」



思わず薬草に伸ばした手が止まった。


 ちらっとエルの方を見るけど、のんびりと周囲を見回している。

時々離れて何かを倒しては討伐部位を袋にしまってはいるけれど、話しながら倒せる程度の敵らしい。



「ちなみに叔父さんと結婚した叔母さん、釣りにハマって冒険者免許取って今じゃBランク冒険者な。冒険者になったのは確か……えーと、四十歳超えてた頃だったか」



元々戦闘のセンスがあったらしくて今では『釣り人専門の護衛業』を生業としていろんな国や地域へ釣りに行っている、んだとか。


(もしかして、エルの親戚とかも色々と凄い人多い……? だから身体能力とか、ベル並みなんじゃ)


 薬草よりも魚や貝なんかの方が見分けやすい、とエルが話すのを聞きながら海辺とか湖がある所に採取へ行く時はエルを護衛にしようと決めた。



「あ。その叔父さん達からホウジュ貝の事聞いたの?」


「おう。で、そうそう……そのホウジュ貝の中に時々、パールが入ってるらしいんだよ。入ってたら運が良かったくらいの認識らしいんだけどな」



 パールといえば、宝石の一種として人気がある。

形が歪だったり小さい物は砕いて薬の材料になったり、安い値段で装飾品にされるからちょっと変わった素材でもあるんだよね。


 魔力を込めるのが難しいことでも有名なんだけど、その性質を利用して特殊な薬液や半永久的に使える特殊魔術具の素材に使われることでも有名だ。



「へぇ、それはちょっと興味あるかも。美味しくて副産物でパールも取れるって優秀な貝だね。釣りは私もちょっとやってたから、そのうち釣り竿とか作ろうかな」



お店開いて、落ち着いたら作りたい物沢山あって困る、と思わず呟けばエルが笑った。



「予定が立て込むほどやりたいことがあるのは、充実してるってことだろ? 満喫してるのな、ライムは。あー、でも素材も自分たちで出来るだけやり繰りするんだよな。俺が手伝えることって言ったら、演習のついでに薬草見つけて採ってくる位しかなさそうだけど、それでもいいなら協力するぜ。腕の件もあるし、少しずつできることで返させてもらうわ ―――……ライムは要らないっていうだろうけど、俺もしてもらいっぱなしじゃ落ち着かないんだ」


朗らかに笑っていたエルが困ったような顔をして私を見る。


 対等であろうとしてくれているってことが嬉しくて、私は素直に頷いた。

反対するようなことでもないもんね。

素材が少しでも手元に入るなら助かるし。



「わかった。暇なときに採取してくれたものに関しては遠慮なく貰うね。ただ、見たことない素材とか、普段手に入れられない希少な素材に関してはリアンが判断するってことで」


「おう。俺も装備とか整える金は要るしな。そうしてくれると助かる」



 結構きついんだよ、遣り繰り……と若干大げさな身振りで項垂れるエル。

冗談めかして伝えてはくれたけれど、今後どうなるのかなんて誰にも分らない。

慰める訳じゃないけど腕をポンポンと叩いた。



「お腹空いて死にそうだったらご飯食べにおいでよ。多分、エルならベルとかリアンも怒らないよ」


「だといいんだけどな……ライムの飯って美味いから『取り分が減る』って睨まれるような気が」


「考え過ぎだって。二人とも美味しいとは言ってくれるけどさ、ベルは貴族のお嬢様でリアンはお金持ち庶民だよ? 美味しい物なんて食べ慣れてるだろうし食い意地張ってないって」



私たちは他愛ない話をしながら、泉の周辺に出るスライムをチマチマ倒し、香草や薬草を採取した。


 ある程度薬草を採取し終えて、レッドベリーを摘みに行こうかと話していた時だった。

何か引きずるような音が聞こえてきたのは。



「ライム、下がってろ」



咄嗟に私を背後に隠したエルは音のする方に視線を向け、じっと森の奥を観察していた。

でも、数分後には息を吐いてトランクを背負い始めた。



「イオが帰ってきた。なんか獲物引きずってるから、見に行こうぜ。レッドベリー摘みに行くんだろ?」



驚いて音のする方へ視線を向けると、薄暗い森の奥から見慣れた色合いの人物が歩いて来る。

何か、引きずっているように見えるのは間違いではないらしい。




「………鹿?」


「スライム探して鹿狩ってくるってどうなってんだよ、あいつ」



呆れたようなエルのため息と言葉に驚いていると、優しく腕を引かれる。


 結局、レッドベリーが採れる辺りで私が採取している間にイオは鹿の解体、エルも採取を手伝いつつ周囲の警戒をして、予定よりも少し早く森を後にした。



 夕日を背に、橙色に染まった街道を歩く。

太陽が濃い色へ変化していくのを周囲の景色で確認しながら、ひたすらに足を動かす。

トランクの中には大量の薬草とエンリの泉水が入った樽、割と貴重なスライムの核の他に、鹿一頭分の肉と立派な角が入っている。



「そういえば私がモルダスに来て初めて二人と採取に行ったけど、その時とはまたちょっと違って驚いたよ。なんだか二人とも逞しくなってるっていうか、強くなったっていうか」


「騎士科に入ってるのに強くなってなかったら、そっちの方がヤバいだろ。ま、でも前よりは安全に護衛はできると思うぜ。イオなんか、だいぶ扱かれて人見知りと内気なのが分かり難くなってるしな」


「エルが貴族と関わり合いになりたくないって僕に対応を丸投げしたせいで、こうなったんです。まだ、初対面の相手と話すのは苦手ですが、切り替えはできるようになってきたので……色々ありましたし」



じろりと視線を向けられたのが分かったのか、エルは遠くの方にスライムが!と叫んで街道から外れた草原へ走っていった。


 その後ろ姿を見て噴き出せばイオが柔らかい笑みを浮かべる。



「―――…ライムさん。僕たちは死なない様に頑張りますから、時々でいいのでこうして一緒に採取へ連れていって下さい。騎士科で学ぶのは必要なことだって分かっているんですけど、やっぱり少し息が詰まるので」


「うん、二人とも強いから嫌だって言っても無理やり引きずってくから覚悟しておいてね! 私も杖の素振り始めようと思うし」


「む、無茶はしないで下さいね」


「大丈夫だよ。いざとなればベルとかリアンに怒られるだけだから」


「う、うーん……怒られないようにするのが一番だと僕は思うんですが、まぁ、ライムさんがそれでいいなら」



道を逸れていたエルがスライムの核を二つ持って帰ってきて、それから三人で色々と話をした。


 採取に行くと、普段できない話ができるから楽しいんだよね。

話しながら歩いていたこともあって予定より早く街へ戻って来られた。

門の前にできた検問の列に並びながら、街に明かりが灯っていくのを眺める。


(一人で暮らしてた時は、採取とかから帰っても家は真っ暗だった。そう考えると明かりがついてるってすごいことだよね)


エルやイオに挟まれるように、工房への道を歩く。

一日中歩きっぱなしだったけれど心も体も不思議と軽くて、調子もかなり良かったのには少しだけ驚いたけどね。



「ただいまー! たっくさん採取してきたよ!」



バンッと工房の入り口を開けると、ベルとリアンに『うるさい』って怒られたけどそれもなんだか嬉しくて、口元が緩む。



 咄嗟に握ったエルとイオの手は私よりも大きくて、暖かかった。





 ここまで読んで下さってありがとうございます!


誤字脱字変換ミスなどあると思うのですが、お気づきの際は誤字報告で教えて下さると幸いです。

ほんと……ありがてぇです……毎度毎度すいません。


 また、疑問などがありましたらお気軽に教えてください。

見直したり、加筆したりする良い機会になります。

書いてる時って必死なので色々と見落としたりするんですよね……はは…


=素材たち=

【川シジミ】

大体どこの川にもいる(極端に暑い・寒い場所にはいない)貝。

親指の爪程度の大きさで、黒い。

泥や砂を取り込んでいるので、一晩しっかり水に漬けて砂抜きをする。

 繁殖力が強い。スープの具に使うのが一般的。

【ホウジュ貝】

綺麗な淡水の水でしか育たない貝。手のひら大。貝柱を食べる。

火を通すと味が濃くなって美味しい。痛みやすいので大体はオイル漬けか干し貝柱になる。

成長過程で小石や貝の殻などが入ると、貝柱を傷つけないように貝は特殊な液体を出し、無害化する。

なお、無害化された物は美しい光沢と独特の特性をもつパールと呼ばれる宝石になる。

【パール】

宝石の一種として人気。

形が歪だったり小さいものは砕いて薬の材料にも。また、形が歪なものでも美しいものは安い値段で装飾品にも。

また、特性として魔力を込めるのが難しい。

その性質を利用して特殊な薬液や半永久的に使える特殊魔術具の素材に使われることでも有名。

色は様々だが、乳白色・黄金色・黒色・ピンク系の四つに大きく分類される。



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[一言] もう更新されてる⁈ 今回間隔が短かった気がして徳した気分です^ - ^
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