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98話 急ぎ足でリンカの森へ

 お待たせいたしました。

短い上に採取あんまりしてません。

騎士科の二人とだらだらーっと話してるだけです……。




 あと三時間位で陽が落ちる時間に、モルダスの正門を出た。



 一般的な冒険者はまだ街に戻る時間ではないみたいで、街道を通る人はいない。

人といえば、時々草原で野良ネズミリスやスライムを倒している新人冒険者と指導をしている壮年の冒険者がいるくらいだ。



「冒険者ってああいう風に指導もしてくれるんだね」



何組目かの冒険者たちを横目に思わず呟けばトランクを背負ったエルが振り返る。



「ん? ああ、あれは依頼の一つだぞ。登録したばかりの新人や希望者を対象に、一定以上の腕と実績がある壮年冒険者が指導してるんだ。その方が死ににくくなるし、いざこざも防げるからな。受けるかどうかは新人次第だけど、まぁ“まとも”な奴は皆受けてると思うぜ? 俺とイオは冒険者になる前に騎士団にいた時に教えてもらったから受けてないけど」


「冒険者だけじゃなくて、騎士団でもそういうの教えてくれるんだ」



それならどっちで教えて貰っても同じかな、と呟けばエルが首を横に振った。

何で首を振ったのかが分かららずにいる私に彼は言いにくそうに口を開く。



「キツイのは騎士団の方だからな、一応言っておくけど。冒険者っつーのは大体が自己責任。でも、騎士団は『国』が雇い主になる。だから教えてくれるっつーか一番最初に覚えさせられるんだよ。討伐遠征と野営は切っても切り離せないし」



覚えさせられると教えてもらうの違いは、なんとなく私にもわかる。


 私はおばーちゃんに必要最低限の家事と採取法を覚えさせられて、錬金術はちょっとだけ教えて貰ったから。

何とも言えない表情になった私にイオが補足ですけど、と一言付け足した。



「向き不向きはありますけど、一通りのことは貴族でも教えられますよ。いざとなった時に、何も出来ないと困りますから」



 騎士団が出来たばかりの時に『貴族だから野営の準備なんてできなくても問題ない』と言った人もいたらしい。


 けれど、任務を重ねるにつれて野営に関する知識や経験がないとマズイという事実を嫌というほど実地で理解することになったそうだ。

だから、新人の時は貴族も庶民も身分関係なく、先輩騎士たちが一丸となって後輩に叩き込むらしい。

ヘタすると全滅するからな、ってエルは笑ってたけど内容はあんまり笑える内容じゃない気がする。



「幾ら備えた所でどうにもならないこともあるので、最後は運も必要になってきますね。死ぬ者と生き残る者の差は単純に運によるものが多いでしょう。まぁ、地道な備えも多少関係しているとは思いますが」


「なんだかイオらしくないね。備えが一番って言いそうなのに」


「今までは“そう”でしたが、今回の件で色々と考えが変わったんですよ ――――……エルが五体満足でいられるのは、ライムさんと知り合っていたからですし。知り合った切っ掛けがどうであれ、出会いは運ですから」



運頼みというのはあまり好きではないのですが、と小さく呟いてからイオは口を開いた。



「……騎士や冒険者が縁起を担ぐのは、運を味方につけて生き残りやすくなるようにっていう願掛けもあります」



そういってイオが髪を避けて、隠れていた耳を出す。

 耳にはカフスが左に一つ、右に三つ付けられている。



「左は護る人という意味があって、基本的に自分の誕生石や家紋などが刻まれたものを付けるんです。右は護りたい者を表すものを付けるのが一般的に広く知られています。僕も、家族の瞳の色と同じ石を付けているんですよ……騎士科の生徒とは言え、先の事は分からないですから」



感心しつつ耳に着けられたカフスを見ていると、エルが服の中から小指の長さ程の金属板を取り出した。



「俺の御守りはこれだな。オヤジとお袋が作ったんだ……騎士ってさ、いつ死ぬか分かんねぇだろ? だから、その家族は死んだ時に簡単に持ち帰れる物を持たせることになっててさ。俺んとこはコレだったけど、コインだったりカフスだったり、腕輪、指輪……まぁ、色々あるな」


「ねぇ……もしかして『結晶石の首飾り』って御守りになる?」



 結晶石の首飾りは、駆け出しの冒険者が良く買う装備アイテムの一つ。

首が太くても細くてもチェーンや皮紐で調整すればいいから、誰にでも付けられる。

後、素材原価が安くて、デザインも比較的自由に出来るから多く出回っているんだよね。


 腕のいい細工師や結晶石が綺麗で宝石に近いものは多少高くなるけど、それでも銀貨1枚から銀貨2枚くらいで買える。



「なるぞ、勿論。小さい子供だとあんまり大きい石が見つけられねぇってことで、パン屑くらいの大きさのをたくさん集めて小指くらいの小瓶に入れて渡すらしいな。で、その瓶に紐とか結んで持ち歩いて護符代わりにしてるってのもよく聞くぜ」


「後は、そうですね……結晶石以外に、磨いた岩塩を小瓶に入れて渡す人もいるみたいです。何かあった時に塩と水があれば何日か生き延びられますから」


「ただ、護符にするなら教会で祈ってもらう必要がある。一回、銅貨2枚くらいでやってくれるって聞いたな。シスターの力量によっては、アンデッドを退ける位の力があるとかないとか聞くけど……それがどうしたんだ?」



作り方なら教えられるけど、と首をかしげるエルに私は誤魔化す必要もないか、と口を開いた。



「忘れられし砦に採取に行ったのは知ってるよね。そこで結晶石がたくさん取れたんだ。そのうち装備系のアイテムも作ってみたいし、手始めに『結晶石の首飾り』作ってみようかと思っててさ」


「ああ、なるほどな。それなら、革紐とチェーンの二種類用意しておくといいぞ。女用と男用、あと子供用だな。革紐自体は道具屋か細工屋で買えたはずだ。安いとこっつったら……どこだ?」


「そうだね『リック・ハーツの道具屋』か『ジール雑貨店』が無難かな。もっと安く、って言うなら二番街の職人通りで革製品を扱う細工師を探してみる方がいいかも。リアンさんがいれば下手な物は買わなくて済むだろうし」


「ありがと、参考にしてみる。まぁ、お店を開いてちょっと落ち着くまでは難しいだろうし、調合できるのは少し先の話だけど」



正直言うと調合は好きだけど、同じものを作り続けるのは飽きるんだよね。

 むぅ、と頬を膨らませているとエルが突然走り始めた。



「え?! え、ちょ、エル?!」


「ああ、大丈夫です。先に行きましょう、スライムを見つけただけなので」


「え、スライム? 私見えないんだけど……っていうかイオも見えてる?」


「あの辺りですね。草が不自然に揺れてるのわかりませんか」



指さす方向に視線を向けると、丁度エルが剣で何かを薙いだ所だった。


 二回ほどその動作をしていたので多分スライムは二匹いたんだと思う。

直ぐに座り込んで何か探し始めたので、私も走って近くへ。

近づいてみると剣を軽く振って鞘に収めたエルが不思議そうに首を傾げつつ戻ってきた。



「悪い、スライムはいたんだけど核はなかった。とりあえず、見つけたら倒してはみる。ただ、ある程度のデカさがないと核持ちのには ―――……ん? どうした。すげー顔してっけど」


「ライムさん、あの距離でスライム見つけたことに驚いてるんだよ」


「は? あー、なるほど。錬金術師からみると珍しいか。実はコレ、訓練すればできるようになるんだぜ」



なぁ、と当たり前のようにイオに同意を求めるエルも大概非常識なんじゃ、と思ってると申し訳なさそうにイオも頷いた。



「うっそだぁ……だってあんな遠くから見えないよ普通」


「慣れればある程度分かるようになるんだよ。モンスターや魔物は動くから音や姿が見える。それが無くても呼吸や存在感みたいなので違和感があるから、ある程度分かるし。俺は普通に見えたけど、そういう小さい違和感に気づけるようになったら見つけやすくなったぜ」


「えぇ……?」



信じられないんだけど、と言えばエルは困ったように笑った。

それてしまった街道を歩きながら、私は先頭を歩くエルの隣に回り込んでじろじろ観察してみる。

 変わっている所はないし、特殊アイテムを身に着けているって訳でもなさそう。



「そうだな……ライムは、この辺りで錬金術に使える薬草見つけられるか?」



突然、エルはそういった。


 この辺、と指さされたのは前方の草原全体。

思わず足が止まった私とイオにエルは不思議そうに首をかしげて、置いてくぞーと一言。



「エルって大雑把ってよく言われるでしょ」


「大雑把と言うか、雑だとよく副隊長に叱られていましたね。戦闘だと微調整効くんですが、若干力でごり押しすれば勝てると考える癖があるみたいで。脳筋すぎて時々ぶん殴りたくなります……尻拭いさせられるのは大抵僕なので」


「………なんかごめんね」


「いえ。あ、リアンさんの事もうちょっと労わってあげて下さい。多分、似た様な系統の苦労してらっしゃるんで」


「そっか。リアンも細かいもんね、無駄に!」


「……言いたいことが半分も伝わらないってこういう事を言っていたんですね、リアンさん」



ふっと今にも消えそうな笑顔を浮かべたイオに首を傾げつつ、止まっていた足を動かす。


 私が追い付いたことに気づいたエルの横に並んで、前方に広がる草原を改めて眺めてみる。

晴れた空とどこまでも続くような草原は中々見ごたえがあった。

まぁ、暫くすると飽きるんだけどね。

ずーっと同じ景色だし。



「パッと見てわかるのはアオ草と薬草かな。あ、育ちすぎたアルミス草はあっち。大きい岩の所らへんに苦草っぽいのある。育ちすぎてるから使えないけど」


「薬草の位置なんかは俺らにはわからない。けど、そういう感じで俺たちは魔物とかモンスターが分かるんだ」



そう言って胸を張ったエルの言葉に私は納得した。


 感覚的なもの、なんだと思う。

私は小さい時から採取してたから知らないうちに身についてたんだけど、エルは騎士団に見習いとして仮入団したある日突然“良く見える”ようになったらしい。


 リンカの森に物資を届ける時に先輩騎士に周りをよく見て、違和感があったら『何』がいるのか良く見極めろって言うのを毎日毎日やっていたらしい。



「元々目は良かったし、冬になる前は小さい時からウルフとかにやられて堪るかっ! って、短剣もって警戒しながら薪集めしてたからかもな」


「なるほど。私の場合はおばーちゃんが結構盛大にモンスターと魔物除けの結界張ってたから、そういう心配したことないんだよね。盗賊とかもいなかったし」



そもそも田舎過ぎて盗賊が狙わない、と言えば何とも言えない表情で肩にポンッと手を乗せられた。



「とりあえず、敵意位は分かるようになっといた方がいいぞ。暗殺系のモンスターも場所によってはいるしな。まぁ、錬金術師ならそれ除けのアイテムも作れるんだろうけど」


「え、暗殺系モンスターって何」



何か物騒な話にギョッとしているとイオが苦笑しながら教えてくれた。


 場所によっては、姿を隠したり音を消したりしてこっそり忍び寄り、急所を狙ってくるモンスターや魔物がいるらしいのだ。


 鑑定持ちや特殊アイテムを使わないと分からないらしいから、あらかじめ出現場所や条件、状況なんかをギルドや酒場なんかで聞いておくのが一番なんだって。

というか、その位しか対策できないとイオは教えてくれた。


「あと、魔物やモンスターをまとめた図鑑を見ると、名前の前に“サイレント”や“スナイパー”っていう暗殺者を連想させる名前がついているのでわかりやすいですよ。ライムさんは錬金術師ですから『素材図鑑 ~魔物、モンスター一覧』という本がおすすめですね。かなり高価らしいんですが便利そうでした」


「え、何それ。ちょっとリアンに聞いてみる! 他にも金策……じゃなかった、採取に役立ちそうな図鑑知ってたら教えて欲しいな」


「今、金策って言ったろ、ライム」

「言いましたね」


「い、言ってないよ! 素材とか色々買いすぎて困ったときにこっそり売ろうとか思ってないっ! 幾つか余裕があるなら、まぁ……ウッカリ売っちゃうかもしれないけど」


「売るんかい。結局」

「まぁ、背に腹は代えられないっていう状況もありますもんね、たぶん」


「豊作じゃない秋とか……冬乗り切るのに必要な物買うのに持っておきたいもん。へそくり」



 少しずつ橙色の割合が多くなってきた太陽の下で、他愛のない話をしながら歩く。

途中で魔石ランプを出したけど、完全に陽が落ちる前にどうにか駐在所にたどり着くことができた。



 間に合う様に結構飛ばして歩いたし、時々走ったりもしたから間に合って当然だけどさ。





◇◆◇






 まず、リンカの森について直ぐ駐在所にいる騎士に挨拶をした。


 前にエル達と来た時にいた騎士の人はいなかったけど、エルとイオの顔見知りだったらしくて二人が錬金術師の私と一緒にリンカの森に来ていること驚いていた。

まぁ、日が暮れてから活動する人ってかなり少ないらしいもんね。


 夜になると活動が活発になるウルフや夜行性のモンスターも少なからずいるから、できるだけ明るくして、はぐれない様に固まって行動するんだぞと念押しされて私たちは夜の採取に向った。


 利き手には杖、空いている手には魔石ランプを持って進む。

先頭は夜目も効くエル、後ろは視野の広いイオ。

真ん中を歩きながら私は目を凝らして暗い森の中を見回す。



「うーん、月明りと魔石ランプのお陰で多少見やすいとは言っても、やっぱり昼とは勝手が違うね。あ、あの辺見たいからちょっと近づいていい? 今チラッとアオ草っぽい影が見えた」


「いや、普通夜にそんだけの量見つけられないからな。採取専門の冒険者何人か知ってるけど、夜にそれだけ見つけられる人を俺は見た事ないぞ」



駐在所から一番近いアオ草の群生地へ向かうことにした私たちは、少し大きめの声で話をしながら進んでいる。


 最初は小さな声で話した方がいいのかと思ってたんだけど、ベア系やウルフ系のモンスターが出る森では出来るだけ声や音を出した方がいいんだって。


基本的に此処にいるモンスターは弱いから、ある程度音が聞こえたら一定の距離を確保するらしいんだよね。



「でも、ホントに何もいないね。てっきりウルフとかに襲い掛かられるんじゃないかと思った」


「今は繁殖期でもないし冬眠前でもないから、こっちから仕掛けない限り襲って来ないんだよ。子供も巣立ってるし、寝る時も焚火さえ絶やさなけりゃ近くまでは来ないんだ」


「あ、それ知ってる! 獣系のモンスターって火が苦手なんだっけ」


「おう。ま、魔物除けの枝少し入れるからモンスターが苦手な匂いも広がるしな」



警戒なんかは任せとけ、と胸を張るエルに見張りは順番じゃないのか聞くとイオが驚いたような声を上げた。



「ライムさんに見張りなんてさせられませんよ、僕らは護衛なんですから。護衛が護るべき対象に見張りを頼むなんて、余程切羽詰まった状況でなければしません」



周囲を警戒しているようには見えないエルとイオだけど、時々足を止めてジィーッと木と木の間を見て、ランプの光を手で遮って合図のようなものをしていることがあった。


 後で聞いたら他の冒険者の斥候役が近づいてきてた、らしい。

あと、二回ほど様子を見に来たウルフがいたけど、個体が若かったのとこっちの方が人数が多いと分かってあっさり引いたから大丈夫だと言い切られた。



(騎士科の生徒って皆こうなんだとしたら、エルが腕斬られたっていうモンスター相当強かったんだろうな。まぁ、状況が状況だったみたいだし、どうしようもなかったのかもしれないけど)



 時々採取の為に足を止めて貰ったもののアッサリ目的地に着いた。

エンリの泉の縁からは結構離れている筈なんだけど、群生していたというアオ草は雑に切り取られていて思わず眉間に力が入るのが分かる。



「……エル、イオ。ここでは採取できないみたい。この採取の仕方、アオ草だから良かったけど繁殖力があんまり強くない薬草だったら全滅しかねない」


「確かに雑に切り取られてますね」



 踏み荒らされた所や土が見える位深く掘り起こされたような痕跡が見るに堪えなくて、そっとそれらを元の状態に戻してやる。

飲み水は補給出来たから予備の水袋を出して、掘り起こされたり踏み荒らされた場所に少量撒いておく。


 アオ草ならこの程度で直ぐに根を伸ばし、葉を茂らせるはずだ。



「こんな採取の仕方してるなんて絶対碌な奴じゃない。次に生えて来なくなったらどうしてくれるのさっ」


「リアンさんが言っていたことはこういう事だったんですね。こういうことをするのは大体新人冒険者の類なんですが……少し僕らも注意してみます」


「うん。もし見つけたら教えて」


「ライム、怒るのはいいけど注意は俺とイオがする。変なトラブルに巻き込まれても困るだろ? 店出すなら余計に気を付けないといけないし、俺らならある程度慣れてるからさ」


「うぅう、でも許せないんだもん! こんな採取の仕方してるとかっ」


「落ち着いてください、大丈夫ですよ。二度とこのようなことが無いようにちゃんと学んでもらいますから。何故「してはいけない」のか理解していない人たちがこういうことをするんです。まぁ、自分本位の考えしかできなくてする人もいますけど……そういう人であった場合の対処法も色々ありますから」


「店やるのはライムだけじゃないだろ? ベルとリアンのこと考えたら我慢できるよな」


「……わかった。我慢する。する、けど……文句は言ってもいい?」


「おう。後で幾らでも聞いてやるからとりあえず我慢だぞ」



納得いかないけれど、お店のことを持ち出されると知らん顔も出来なくて私は渋々、その場を離れた。


 幸い、他の採取場所は荒らされてなかったから良かったけどね。

アオ草を中くらいの麻袋に一つと薬草であるエキセア草を小袋に1つ、集めた所でとりあえず今日は野営することになった。


 二人には駐在所に戻ろうって言われたんだけど、テントもあったし起きて直ぐ採取したかったから無理を承知でお願いしてみたんだよね。

意外にも二人は少し周囲を見回して、頷いてくれた。



「え、いいの?」



てっきり反対されると思っていたのに、あっさり許可されたので思わず聞き返すと二人は小さく噴き出した。



「いいのって、ライムが野営したいって言ったんだろ」


「ふふ。この辺りなら大丈夫ですよ、魔物除けの焚火を焚いても問題なさそうですし、戻る労力を考えるならこの場所で野営した方が体力も温存できますから」



二人はそう返事を返しながらテントを設置し始めている。


 私は言われた通りトランクから必要な物を出してるだけだ。

瞬きする間にテントも、焚火も魔物除けだという設置式の結界も設置し終えてしまった。



「早いね、すっごく」


「そうか? 普通だぞ、この位」


「野営の準備と言ってもテントは小さいですし、大体皆この速度で設営できるよう訓練するので」



感心しつつ、私は自分の出来ることをと思って簡単だけど食事とメイズのスープを作って渡す。

二人ともスープを作る所を見て、飲んで、驚いていた。



「あの粉がこんな美味いスープになるのか。すっげぇな、錬金術」


「これ、あの、いくらくらいで買えますか?」


「お店で売る予定なんだけど、一回分で銅貨五枚なんだ。結構高いでしょ」


「値段だけ見れば高い。でも使い勝手と味考えたら全然安い」


「ですね。多分、と言うかこれ確実に売れます。売れなければ僕が買いに通います」



持って来た食事を食べ終わって、軽く口を綺麗に濯いだ後、採取をしないならもう休んだ方がいいとテントに押し込められる。


 戸惑っていると打ち合わせをしてから交代で休むと言われたので、大人しく寝ることに。

トランクに入れて置いた枕を二つ出して、畳んだ毛布の上に置いておく。

 ふかふかの枕に頭を乗せると、一日の疲れが押し寄せてきてあっさり瞼が重くなってきた。



「おやすみ」



と小さな声で呟けばエルとイオの声が返ってきて、思わず口元が緩む。

寝る直前に人の挨拶が聞こえるのは嬉しい。





ここまで読んで下さって有難うございました!

誤字脱字変換ミスなどありましたら教えて下さると助かります、お年玉上げたくなるくらい喜びます。

……誤字報告には毎回お世話になっております、ほんと。ここには神様がいっぱいいる…。

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― 新着の感想 ―
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[気になる点] イオのライムの呼び方について少し気になっています。 94話で『「ライムでいいよ。私も呼び捨てで呼んでる訳だし」「うん、わかった。ありがとう、ライム。大事に食べる」』とあり、今後呼び捨…
[良い点] テンポがよくて読みやすいです。 シリアスになりすぎないところも好感が持てます。 採取と調合と店舗経営と戦闘がバランスよく組み込まれていると思います。それらの間をうまく渡り歩いているためか読…
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