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96話 副隊長さんは(色々と)怖いかもしれない

とりあえず、アップです。納得いかなければ……書き直す予定。

眠気と戦いながら書いてもろくなことにならないのは分かってるんだ…(白目



 二杯目の紅茶を淹れてくれた副隊長さんは、にこりと笑う。



 綺麗な顔をしているのに、隈の所為で妙な迫力があった。

積み上がった書類の横には、新しく栄養剤が入った大きなカップ。

そして、売って欲しいと頼み込まれた乾燥果物が渡したまま瓶で置かれている。



 売って欲しいと言われた時、瓶込みだったから販売価格が付け難かったんだよね。

腕を組んで悩んでいると、副隊長さんは財布から金貨を一枚を取り出して渡してきたのだ。


やり取りを見ていたリアンが「多すぎる」と言ったんだけど、副隊長さんは「無理を承知で売ってもらっているんだからこの位はね」と疲れた顔で笑った。


 そしてそのまま、瓶を撫でながらぽつりと一言。



「これであと二日くらいは徹夜できそうだ」



うっとりした顔で乾燥果物を眺める副隊長さんに私たちは全員そっと視線を外した。

見ちゃいけないものを見た気がする。


 エルとイオが居心地悪そうにソファの上で体を小さくしているのが見えた。

その視線は、落ち着きがなくて……助けを求めてるみたいに、出入口のドアをチラチラ見ている。

リアンは素知らぬ顔で何やら書いてたけどね。


 私は二杯目の紅茶を美味しく飲んで気にしないことにした。



「さてと、契約についてちょっと話をしたいんだけどいいかな。こういうことは早く決めておかないとね」


「はい。今回の契約は専属という形ではないので、先ずは契約期間を設けさせてはいただけませんか? この期間で必要な品物や数をある程度、把握しておきたいのです。販売形態によっても需要が違うでしょうし、そもそもあまりにも数が多いとアイテム作成が追い付かないので」


「言われてみると確かにそうだよね。お店で売る分もあるし、そもそも素材を前もって仕入れておくとかそういう手配も必要になるもん。採取に行けるのが一番いいけど……大量注文だと工房に籠って大量調合しないといけないし、アイテムによっては時間かかるのも結構あるから。ここで適当に決めると、いざってとき用意できないってことになりそう」



 オーツバーは比較的短時間で大量に作れる。

けど、乾燥果物はそういう訳にもいかないし、素材の問題も出てくる。


 回復アイテムだって種類によっては複雑な工程が必要だったり、素材の調合自体に時間がかかったり、まとめて作れる量が少なかったりするんだよね。

そりゃ、アルミス軟膏みたいに短時間で作れるのもあるけどさ。

 思わず腕を組む私にリアンが小さく頷いた。



「まず契約期間は三年と考えているのですが、更新制にしますか?」


「いや、三年契約で頼みたい。あと、契約を結ぶにあたって譲れない条件があるんだ」



なんでしょうと笑顔で返答するリアンに副隊長さんは口を開く。

大丈夫だろうか、と二人を見比べているとリアンが小さく私を見て頷いた。



(大丈夫なのかな? 何か妙に自信あるみたいだけど)



「契約を三年で結びたいと言ったのは、他の部隊からの引き抜きや勧誘を避ける為だ。二十一番隊以降の部隊はどこも専属の錬金術師がいない。予算の状況も似た様なものだからね ―――……君達が実際に作ったアイテムは実戦や実務で充分使えるものだ。価格は勿論文句のつけようがない。条件は細かいものが幾つかあるけれどコレは規定通り。それとは別に、他の部隊にアイテムを売らないでほしいんだ。勿論、店で個人的に他の部隊の人間が買いに行くのは止めないし、問題ないけどね」



購入制限も設けているんだろう? と何処か愉しそうに話す副隊長さん。

どうして制限かけてることが分かるんだろうと驚いていると、リアンは当然といった風に頷く。



「その条件ですが、僕の方からもお願いしようと思っていました。芋づる式に契約部隊が増えても、僕らの手に負えませんからね……今回僕がこちらへ話を持ち込んだのは友人であるエルやイオが所属していて、そこに属する騎士の方たちの事がある程度把握できるからです。軽く評判を調べましたが取引先として申し分ないと思ったので」


「有難い評価に感謝しないといけないかなぁ、これは。でも、評判だけなら他の部隊も似たようなものだと思うんだけど、僕の記憶違いかな。有名になりたいのなら、それこそ近衛部隊や遠征部隊と呼ばれる連中を選んだ方が効率もいい筈だ。その辺りはどう考えているのか聞いても?」



副隊長が言うことは私でも理解できた。


 お城や王族を警備している騎士団は目立つ。

だから、アイテムを販売していることが広まればお客さんもたくさん来るだろうし、評判にもなると思う。

評判になれば、目標売り上げを達成するのも簡単になるよね。



「こちらの事情を汲んだ上で、ある程度融通を効かせてくれるような部隊がいいと考えたのが一番の理由です。店の経営とアイテムの納品をこなすだけでは、学業が疎かになりかねません……工房の経営を安定させることは卒業や進学の条件ですが、他にも卒業の条件はあります。なにより、学生の時に出来るだけ様々な経験を積んでおきたいので――――……この二十四番部隊にはエルやイオの知人が多く、外部から来た騎士の方も定住している方や国籍を移している方が多いのが一番の決め手になりましたね」



定住者や国籍を移した人が多いと言われてもピンとこなかった。

首を傾げる私に、イオがちょっと周囲を気にしながら口を開いた。



「騎士で定住者や国籍を移す人間は、この国で生涯を終える決意をしていることの証明にもなります」



そういうことか、と納得したものの、どうしてそれが騎士団を選ぶ基準の一つになったのか分からない。

眉を顰めた所で副隊長さんがこちらを向いた。




「居心地がいい場所や、平穏で充実した生活を壊そうとする人間は少ないだろう? 国籍を移した人間が問題を起こすケースはかなり少ない。新しく人間関係を構築し、それが上手くいっているなら猶更だね」


「言われてみると確かに。なんだか色々あるんですね」



難しい、と項垂れる私に副隊長は新しい紅茶を淹れてくれた。

お礼を言って紅茶を飲んでいると副隊長が口を開く。



「君たちの要求は真っ当なものだ。此方としても、お互いいい落としどころを見つけたいと思ってるよ。学生だということで了承しているのもあるし、元々『錬金術師』とは縁がなかったから、期間が定められた契約だとしても助かるからね。防具や武器は勿論金がかかる。予算は少しでも多い方がいいし……錬金術師の作るアイテムによって戦闘が楽になれば、武器や防具の損傷も防げるだろう?」


「あ、そうか。そうだよね……確かに爆弾があれば先にダメージを与えてから攻撃することもできる」


「あとは解毒剤や万能薬、回復ポーションだね。これらはある一定数、国の規定で備えておかなくてはいけないんだ……その分だけ納品して貰えれば助かるよ。元々購入していた金額を考えると負担額は半分以下だ。余った分は他の所に回せる」


「備蓄アイテムですか。品数とアイテム名を教えていただいても?」



かまわないよ、と笑った副隊長は立ちあがり山の様に積み重なった書類の束から一枚の用紙を取り出す。

 提示された内容をみてリアンはしばらく考え込んでいた。

でも、気になる所があったらしい。

難しい顔である記述を指さした。



「この備蓄食料や遠征アイテムというのは?」


「名の通り、非常食だよ。遠征なんかに行く時に持っていくんだ。各隊である程度の数を購入して、それを野営なんかで食べるんだけどね……金をかけられる部隊は比較的マシなものを買える。けれど、そうでない部隊は携帯食料を無理やり飲み込む感じだね。あれ、腹は膨れるし安いから」



ちなみにコレは部隊で購入して余った携帯食料だよ、とポケットから赤黒いスティック状の固形物を見せられた。

 どんな味がするんだろうと思って見ていると彼は不思議そうに首を傾げる。



「そんなに興味があるなら食べてみるかい? 味は眠気と疲労が一瞬で吹き飛ぶ感じの強烈な味だけど」


「ミルフォイル様、ウチの食事は彼女が担当してるので、凄まじい刺激物は与えないでください。僕らの食事内容に影響が出るとたまったものではないので」


「ってか遠征の飯が携帯食料って……どんな地獄だよそれ」


「初めて聞きました。だから遠征が近づくと顔色が…」



青ざめる三人にミルフォイルさんは苦笑して、そっと固形物を片付けてしまった。

 皆がまずいと口を揃えて言う物を味見してみたかったな、とちょっと名残惜しく思いつつ疑問をぶつけてみることに。



「持っていく食糧って長持ちすればいいんですよね、やっぱり」


「まぁ、それが第一条件かな。あとはある程度栄養があること、腹が膨れる事が重要になる。金のある部隊は塩漬け肉やら野菜を持ち込んだりするんだけど……十番隊以上の部隊くらいかな。後は、乾パンや干し肉といった所だ。こっちの方は個人で購入して持っていくね」


「リアン、これなら……」


「そうだな。携帯食料を購入するより高くなるのですが、それでも良ければ丁度良いアイテムがあります。簡単にスープが作れる【メイズスープの粉】というものがあります。あと、携帯食料の代わりになるオーツバーという商品も」



価格はこの量で換算するとこの位になりますね、とメモ用紙を渡す。

それを見て少し考えこんだ後、実物を見て判断したいという返事が返ってきた。


 他のアイテムは大概作れる物だったから何とかなりそうだ。

特に珍しいものもなかったしね。



「他には虫よけ香っていう害虫を寄せ付けないアイテムも作っているんですけど、どうしますか?」


「場所によっては購入を検討させてもらいたい、かな。湿地や森何かだと色んな虫が多くてね。モンスターや魔物なら倒せばいいんだけど、小さな羽虫を見つけて殺すわけにもいかないから……個人購入になるけれど、試しに一つ持って来てくれないかい」



ニコニコ笑う副隊長さんに頷くと、リアンが粗方の価格と見積もりを書き上げたらしい。


 随分早いな、と驚きつつ目を通してた副隊長は見積りを受け取って目を通し始める。

読み進めるにしたがって、機嫌がよくなっていくのは見ていてもわかった。

……最後には満面の笑みを浮かべて何度も首を縦に振っていたくらいだし。


これなら問題ない、是非お願いしよう! とリアンと話してたのまでは覚えてる。

でも、気づけば魔力契約が終わってた。



(あれ、なんか気づいたら契約終わってたんだけど。おかしいな。っていうか、隊長さんに許可取らなくてもいいの? 隊長って確か一番偉いんだよね)



 あまりの展開の速さに驚きつつ、残っている紅茶を飲み干す。

商談がまとまって互いに握手をしているリアンと副隊長さんを眺めながら、ふと東駐在所に来る途中ですれ違った荷馬車の人達を思い出した。



「私とリアンだけじゃなくて、ベルも早めに契約結ばなきゃいけないよね? その時商品を持って売りに来ちゃ駄目なのかな。ほら、露天商とか行商の人みたいに」



今までの値段より安く買えるってわかれば、店にも寄りやすくなるんじゃない?

そう、軽い気持ちで口にしたんだけど副隊長さんは、キラキラした笑顔を振りまき始めた。



(え、怖い。私何かした? 不味い事、は言ってないみたいだけど……リアンも何か感心してるし)



困惑する私の横でエルとイオが私に話しかけてくれた。

この二人、もうこれからずっと一緒にいて貰えないかな。



「ソレいい考えだな! 今の時期はさ、ホントに忙しいんだよ。だから、昼休みとかにパパッと必要な物買えるとすっげー助かると思う」


「ええ、そうですね。予め『この日に売りに来る』というような旨を伝えて置けば、人も集まりやすいです。何より、錬金アイテムって最後の最後に渋々買うものなので、この早い時期なら間違いなく騎士団員も助かりますよ」



そうかな?と二人を見ると何度も首を縦に振っている。

ここまで褒められる事が無いので照れくさくなって、視線を彷徨わせている私に、エルとイオは追い打ちをかけてきた。


 多分、伝わってないと思ったんだと思う。

凄いだの、よく思いついただのと沢山言ってもらえて、嬉しさより恥ずかしさが勝ってきた所で副隊長が口を開いた。



「もしよければ、明日か明後日にでも来て欲しいくらいだ。場所は訓練場で、時間は……そうだな一時間程度。量はあればあるほどいいけど、そっちに任せる。どういった商品があるのかも見たいし、可能な限り店で売る商品を持って来てくれると助かる」


「リアン、どうする?」



思いついたことを言っただけの私には判断できない。

だからリアンに話を振ったんだけど、少し考える様に宙を見た後、首を縦に振る。



「三日ほど時間を頂けないでしょうか。店に出す商品は作り終わっているのですが、あまり余分に在庫を抱えているわけではないので」


「構わない、というか三日でいいのかな。此方からお願いしたい位だから、五日後でも構わないよ。開店は十日後みたいだし」



「――……では、五日ほど時間を頂けますか? 回復薬は恐らくアルミス軟膏と初級ポーションのみになります。解毒剤は調合に時間がかかってしまうので」


「構わないどころか、その二つを用意してくれれば充分だよ。準備もしたいだろうし、今日はこの辺で切り上げようか。何かあれば、手紙を巡回している騎士かこの二人に渡してくれればいいからね」



わかりました、と返事を返すと駐在所の外まで見送ってくれた。

 太陽の光と賑やかな通りの様子を見て薄っすら笑いながら



「外界が眩しすぎて辛い……栄養剤もう一本いっといた方がいいかな。無性に稽古つけたくなってきたし予算案とかもう適当で良くねぇか。毎年毎年、馬鹿の一つ覚えみたいにどうでもいい書類送ってくんじゃねーよ、仕事しろ。殴り込みに行くぞ、いい加減。ってことで隊長捕まえて運動不足とこのどうしようもない憤り発散するか。ほんとに何してんだあの野郎。人に一番面倒な仕事押し付けやがって」


なんて抑揚のない声で俯きながら薄ら笑いを浮かべていたので、お礼とお別れの挨拶を手短に済ませて私たちは逃走した。



「副隊長さん大丈夫なの? 何かすっごく怖かったんだけど!!」


「大丈夫じゃないけど大丈夫だ。この時期よく見るやつだし」


「おい、それ完全にダメなヤツだろう。労働環境改善したらどうなんだ」


「ですよねぇ。僕らが配置される頃には、多少でもマシになってるといいんですけど……栄養剤と携帯食料のコンボをキめるのはちょっと」


「ほんとそれな。俺も嫌だわ、そんな職場」


「でも錬金術師も大変みたいだよ。高レベルのアイテムって二~三日徹夜で調合することもあるみたいだし、栄養剤に慣れておかなきゃマズそう」



おばーちゃんも飲んでたなぁ、なんて呟けば凄い顔でエルとイオが振り返った。


 二人とも走るの速い。流石騎士見習い。

東駐在所が見えなくなった所で一度休憩し、飲み物を飲んでから工房に戻った。


 エルとイオの二人も一緒に帰って来たんだけど、凄く盛り上がったんだよね。

何ていうのかな、騎士団のことも錬金術師のこともお互いよく知らなかったから、意外な側面を知った! みたいな感じで。



「へぇ~。分かってはいたけど騎士団って大変なんだね」


「いや、錬金術師もヤバいだろ。ちょっと薬が高い理由とか分かった気がする」


「騎士団の給金と労働量が随分と……」


「まぁ、人数もいますしね。錬金術師も上手くやらないときついって今日初めて知りましたよ」



工房のドアを開けた瞬間、凄く呆れたような顔のベルと心配そうにオロオロするサフルに迎えられた。


 副隊長さんに会いに行く時は、色々と覚悟して行かないとだめかもしれない。

何か怖いんだもん。良い人だけど。

そうそう、五日後に出張販売するって話をしたらベルに凄い呆れた目で



「アンタたちを一緒に何処かへ行かせると、何かしらの仕事持ってくるわよね。どうなってるの」



って言われた。

大体リアンの所為だと思うよ、それ。




ここまで目を通して下さって有難うございます!誤字脱字変換ミスなどあれば教えて下さい。

たぶん、盛りだくさん。眠気って怖い。

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