15.屏風を運ぼう
滝沢 侑也……主人公。神の種を宿してる。
仲野 千鶴子……主人公の幼馴染。人類代表の超人。
キリコ……警察庁特務係。班長。
チャコ……警察庁特務係。キリコの部下。影使い。
モニカ……精霊代表。雷の精霊。
林 さやか……滝沢の中学校の先輩。裏世界のことも知っている。
和久 妃美香……日本文化研究部、部長。兼、女子剣道部。
倉多 葉菜……日本文化研究部。
古橋 真由……日本文化研究部。
ボランティア部の部室で五人で昼飯を食べた日の放課後、予定通り屏風を運ぶために昇降口まで集まっていた。
昼休みのうちにさやか先輩には連絡をして今日は仲野を借りることの了解を得ていた。モニカは事前の予定通りさやか先輩と生徒会の手伝いに行くことになったが、モニカの身体だと重い荷物を運ぶための戦力にはなりそうにないのでそれは構わない。
俺と仲野、それと日本文化研究部の三人が集まって待っていると、和久家のトラックが校門から入ってきて昇降口近くまで寄ってくる。
トラックには和久農園の文字が書いてある。普段は本家の農業で使っているものなのだろう。
「お嬢様、例の物をお持ちしました」
トラックからガタイのいい男が降りてきた。現代の日本でお嬢様と呼ばれる人種が近くにいるのは驚きだ。仲野の表情を見ると俺と同じような感想っぽいが、倉多と古橋はこの前聞いたとおり、小さい頃からの仲だから当然普通にしている。きっと昔からこういう場面をたくさん見てきたのだろう。
「じゃあ、これ、ここ置いておきますね」
その男は軽々と荷台から屏風を下す。しかし、とても軽々扱えるものじゃなさそうなのだけど、やっぱり農業をやっている大人の力は違うのだろうか。
「うむ、ご苦労だった」
「それじゃあ、あっしはこれで」
そう言って屏風を運んできた男はトラックに乗って帰っていってしまった。あんなに軽々扱うなら5階まで運んで欲しかったが、きっと他にも仕事はあるのだろうし無理を言うわけにはいかない。
「では、これを5階までよろしく頼む」
「はーい、了解です」
倉多は和久先輩の言葉に手を挙げて元気に返事をしている。
「それにボランティア部から助っ人に来てくれた仲野君だったか、大変な仕事だと思うけどよろしく頼むよ」
和久先輩にそう言って肩を叩かれた仲野はまんざらでもない顔で頷いている。その気持ちは分からないでもない。
俺も和久先輩と目が合った時に、無言で頷いた。先輩もそれで頷いてくれたので気持ちは伝わったのだろう。
「私は剣道部の方へ行くから。怪我だけはしないようにくれぐれも気を付けてくれ」
和久先輩はそう言って颯爽と去って行った。なんだか、ああいうのはかっこいいな。
「じゃあ、運びますか」
滑り止めの軍手を着けて、汗対策でタオルも準備している俺に隙は無いのだが、
「タッキー、やる気だね!」
と呑気に言っている倉多は軍手すら着けてない。
「和久先輩に怪我だけはしないようにって言われたんだから軍手くらいはしっかり着けてくれよ」
予備で持ってきた軍手を倉多に投げて渡す。
「えっ? これってタッキーからのプレゼント?」
「いや、えっと……」
「これ、今日のためにボランティア部の部費でセットで買ったんだから終わったら返してよね」
俺が言い淀んでたところを仲野がフォローしてくれた。
「はーい、わかりました」
投げやりな倉多の返事が聞こえたところで先に進む。
「じゃあ、元々の予定通り俺と倉多で運ぶとするか」
「それならなんで仲野さんが来てるのよ」
「二人でこれを運びきるの無理だろ?」
屏風は六曲一双という形で保管や移動のために二台に別れるらしい。よくドラマとかに出てくるのはこのタイプだ。それにしても一台で20キロ近くあるらしい。それを5階まで二回上げないといけないのだ。
普通ならかなり大変だろうが、今回は仲野が来てくれている。どこかでさりげなく俺と仲野に変わればそんなに大変じゃない──と思いたい。
「せーの」
俺の合図で俺と倉多は横に倒した屏風の端と端を持ち上げる──はずだったが倉多が持ち上がらない。
「おーい、大丈夫か? もう一回やるぞ、せーの」
俺は力を入れると持ち上がるが倉多の方は全然上がらない。
「む、無理……」
そう言って倉多は倒れ込む。
「ハナさん、この状態で二人で5階まで運ぶつもりだったんですか?」
思わず敬語になってしまう。昼休みに決まったハナさん呼びになっていたのがちょうどいい感じになっている。
「だってこんなに重いなんて思っていなかったんだもん」
もし仲野がいなかったら俺一人でこれを担いでいかないといけなかったのだろうか……恐ろしい。いや、その前に和久先輩はこの二人で5階まで上げるつもりでいたのだろうか……それが一番恐ろしいのだけど。
「仕方ない、じゃあ、仲野。俺たちで運ぶぞ」
そう言って仲野に呼びかけたのだけど、
「私もお願い聞いて欲しいんだけど」
なんか言い出した。
「何言ってるんだよ、ボランティア部の仕事だよ、仕事! お願いとか言ってる場合じゃないでしょ?」
「大丈夫だって、そんな大したことじゃないから」
「そういう問題じゃなくて──」
「ユウくん、いつの間にか私のこと苗字で呼ぶようになったでしょ。倉多さんが名前で呼ばれるの不公平かなぁ、と」
「はぁ?」
「だから、昔みたいにチーちゃん、って呼んで欲しいんだけど」
「それって幼稚園の頃の話でしょ?」
確かに幼稚園の頃はチーちゃんって呼んでたけど、大きくなるにつれて恥ずかしくなって距離感も変わるし苗字で呼ぶようになっていたけど。
「やっぱりチーちゃんは無理だよ」
「じゃあ、チーは?」
ここら辺が妥協点だろうと思い俺は頷く。
「じゃあ、二台もあるしとっとと運ぶぞ」
俺がそう言っても仲野が動かない。
「おい、聞こえてるだろ、運ぶぞ」
「まだ名前呼ばれてないんだけど?」
めんどくさい状態になっている。
「チー、屏風運ぶぞ」
「うん、頑張っちゃおうかな!」
仲野は満面の笑みで近寄ってきた。
「分かってるよな?」
近くに来たタイミングで声をかける。
日本文化研究部の二人には仲野が超人なのは秘密なのだ。
力加減について再確認しておく。
「分かってるよ。ユウくんがやってるフリしてるだけで大丈夫なようにしてあげるからね」
仲野はそうやって小声で囁く。少しドキッとしてしまった。
「そういうのじゃないんだけど──まぁ、とりあえずやるか。せーの」
俺と仲野で持ち上げた屏風は先ほどと違いすんなり持ち上がった。
というかほとんど仲野が持ち上げていて俺は手を添えているだけの状態なんだけど、これならなんとか運べそうだ。
お読みいただきありがとうございます。
15〜20話程度(元々は20〜25話を考えていましたが少し短くなりそうです。申し訳ありません)を予定しております。
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