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「冴えない眼鏡くん」と振った彼女に、僕が全部やっていたことを教えたら手のひらを返してきた

作者: AI之助
掲載日:2026/09/02

「……ごめんね、西条くん。私、やっぱり冴えない眼鏡くんとは付き合えないわ。もう話しかけないで」


 放課後の教室。学園のマドンナ・栗栖葵は、取り巻きの女子二人に挟まれながら冷たく微笑んだ。


「葵さんの言う通りよ! 勉強ができるだけの地味男が調子に乗らないで」


「黙っていれば少しはマシになるかと思ったけど、相変わらずダサいし」


 クラスの男子たちがクスクスと笑う。西条蓮は無言で眼鏡のツルを直し、短く息を吐いた。


「分かった。もう二度と関わらないよ」


「ふん、察しが良くて助かるわ。じゃあね」


 葵たちは踵を返し、意気揚々と教室を出て行った。


 蓮はポケットから文庫本を取り出すと、静かに目を通し始めた。


◇


 翌日。登校時間直後の教室に、怒声が響き渡った。


「ちょっと西条くん! どういうことよこれ!」


 教室のドアが激しく開き、葵が肩で息をしながら駆け込んできた。その後ろには青ざめた顔の取り巻きと、なぜか学年主任の教師まで立っている。


 蓮は本から目を上げた。


「何のこと?」


「何のことじゃないわよ! 今日の文化祭実行委員の資料、なんで私が全部やることになってるのよ! それに、私が提出したはずのテストの解き直しノートも、私の筆跡じゃないって突き返されたんだけど!」


 クラス中がざわつく。蓮は淡々と言った。


「当然だろう。今まで栗栖さんの課題も、実行委員の仕事も、全部僕が代わりにやって『君の名義』で提出していたんだから」


「な、なんですって……!?」


「『西条くん、私忙しいからこれやっておいて?』『断ったら口きいてあげない』と言われてやっていただけだ。振られた以上、君の世話を焼く義理はない。自分の仕事は自分でやれば?」


「そ、そんなの急に言われても困るわよ! 今週末が提出期限なのよ!?」


 学年主任が慌てて割って入る。


「西条! 栗栖さんは学園の広告塔なんだ! 彼女の成績や評価が下がったら学園の恥になる! 今すぐ手伝いなさい!」


「お断りします。教師が生徒の不正を黙認して、真面目にやっている生徒に押し付けるんですか? 記録は全部残っていますが、理事長にお伝えしましょうか」


「ぐっ……そ、それは……」


 主任が言葉に詰まる。葵は涙目になりながら蓮のデスクに両手を突いた。


「お願いよ西条くん! 今回だけでいいから! 私、あなたを見直すから! またお話ししてあげてもいいから!」


「僕の価値は、君に話しかけてもらうことで決まるわけじゃない」


 蓮はそう言うと、眼鏡をゆっくりと外した。


 ぼさぼさの前髪をかき上げ、胸ポケットのクロスでレンズを拭く。


 その瞬間、教室の空気が変わった。


 フレームの奥から現れたのは、思いのほか整った顔立ちと、少し目を引く二重の瞳だった。


 地味で目立たなかった「眼鏡男」の印象はどこにもなかった。


「え……?」


「さい……じょう……くん……?」


「嘘でしょ……、イケメンじゃない……!?」


 女子生徒たちがざわめく。男子たちは黙り込んだ。


 葵は口を半開きにしたまま、赤くなって蓮の顔を見つめている。


「西条……くん……? あなた、そんな顔……」


「眼鏡は乱視の矯正と、面倒に絡まれないための保護色だ。……もういいか? うるさいんだが」


 冷めた目で見下ろされ、葵の肩がびくりと震える。


「あ、あのね! 私、誤解してたみたい! あなたのこと、本当は――」


「見下していた相手が都合のいい顔と能力を持っていたからって、手のひらを返すな。みっともない」


 蓮は眼鏡をポケットにしまうと、鞄を片手で持って立ち上がった。


「栗栖さん。自分で散らかした後始末くらい、自分でやりなさい。二度と僕の前に出てくるな」


 葵は何も言い返せなかった。蓮はそのまま教室を出て行った。


 廊下を歩く彼の背中に、声をかける者は誰もいなかった。

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