転生者は、カップ麺が食べたい。
なんでもあり。
自分が転生しているなと幼少期の頃には気づいていたけれど、とくに問題はなかった。
前世の記憶がうっすらあるだけで、私はここの世界の人間だったし、前世の何かが邪魔をするわけでも、この世界のことをあらかじめ知っているなんてこともなく。
適応して今日まで生きてきたつもりでした。
「ダメだ…、カップ麺が食べたい…!」
この国の食事ってあんまり美味しくないなぁと思うぐらいには舌だけ前世を引き継いだ、贅沢で繊細な日本人味覚だったらしい。
それでも、やっぱり困ってなかった。
こんなものだろうと思えば食べられたし、少し美味しいくらいの食事は別に以前とも大差ない気がする。
だけどっ…!!
歳を重ねれば重ねるほど、妙に恋しくなったのは、カップ麺だった!
なんでだろうね、夜食にする背徳感とか、外食も自炊も無理な時に食べちゃったあの罪悪感。
あれが、欲しい!
あの濃くて体に悪そうな最高の味、食べたい。
血液にしたいほど旨いあれ。
いつも食べていたわけじゃないのに、知っていると、急にふと食べたくなるあれ。
今日ぐらいいいかってなるあれ。
今、まさに!異世界で起きている!
あああ〜、どうしたらいいんだああ〜!!!
口がもう、カップ麺の口だよ〜〜〜!!
お湯沸かして、3分待つあの感じ。
つるつるっと喉を通っていく麺。
時間が経ちすぎるとふやけて、あんまり好きじゃないけど、貧乏時代は質より量で増やしたあの切なさ。
パサパサの乾燥ネギ。
あ〜、化学調味料の味〜。
食べたい!!!
食べないのと、食べられないとでは、話が変わってくる。
食べたいっ……!
よし、父様の貿易商の仕事についていって、身内贔屓してもらおう。
とりあえず、食材集めからか〜!?
何がいるんだ、麺作りからか?
前世時代に「へい、〇〇!カップ麺を自分で作る方法を教えて!」と聞いとけばよかった〜〜!
金持ちの家に生まれてよかったなぁと、つくづく思う。
使えそうな食材はだいたい揃ったし、家の厨房も端っこを貸してもらえることになった。
ここで、醤油ある!味噌ある!うれしい〜!ってなれたらよかったんだろうな。
異国の調味料が手に入ったというのに、そこまで感動はなかった。
舐めてみての一言目は「うわ、懐かし。実家の味がする」だった。
近くで聞いていた厨房の料理人に怪訝な顔をされた。
それはそうである、発言には注意しよ…。
そもそも前世の頃から、食に関心がある方ではなかった。
食べられればなんでもいいと思っていたしな。
だから、この世界にも適応できているんだろうけど。
映えるカフェより、ちょっといい店より、ファミレスや回転寿司だったし。
基本的には、パックのご飯食べてればいいと思ってたし。
腹が膨れたらそれでいい。
栄養があればなおよし、くらいだったから、今更何かを作ろうと思っても、たいした知識がない。
自炊程度のものは作れるけど、ラーメンを一から作るなんてしたことないし。
というか、食に興味がなかったから『カップ麺食べたい』に至る気もする。
異世界転生ものによくある知識でどうにかなる系、なんでネットや本で調べてないのに詳しいんだ?って、ずっと不思議に思っていたけど、こういう差か。
興味関心がないと身につかない知識を、私は持っていない。
な〜るほどね、何も考えずに生きてきたツケがここにくるわけね。
今世もまた勉強かよ〜とか思っていたの、ちょっと反省しよう…。
せっかく家庭教師までつけてもらっているのにね。
今世の知識が、次の時には役立つかもしれないし、もう少しこの世界のことちゃんと知ろう。
さて、とはいえ、まずはカップ麺作りだ。
うっすらしかない前世のことを思い出していく。
とりあえずさ、ノンフライ製法というものがわざわざあったってことは、麺は揚げるんだよね。
あと、前世でよく見ていた『一から作ってみる』タイプの動画配信者の映像を頑張って引っ張り出したので、ラーメン麺自体はなんとか作れそう。
自分でやってみたと、見ていただけでは、雲泥の差なのだが、やるしかない。
「やってみるかぁ」
その日から、カップ麺に近づける製作が始まったのだった。
あまりにも毎日厨房にきて、あまりにも毎回失敗して帰るから、とうとう我が家の料理人に声をかけられた。
「お嬢様、何かお手伝いすることはありますか?」
「えっ、いいの!?」
「はい、お嬢様が食べたいものを用意するのも我々の勤めですし」
「じゃあね!この肉の下処理してほしい、それで下茹でしてほしいな。それからね」
と、ほとんどの人数を面倒なスープ作りにまわして、私は麺の方に集中した。
「お嬢様、このパスタみたいなやつを本当にカリカリにするんですか…?」
「そう。すんごい乾燥させて、でお湯で戻すの」
「意味がわかりません…」
「だよねえぇ、私も意味わかんないもん」
「???」
全員にこいつ大丈夫か?みたいな顔をされたが、気にしていられない。
私はどうしてもカップ麺独特のあの味と口当たりと食感と匂いが欲しいんだから!
さすがプロというか、手際がよくて素人の私の指示でも、私ひとりがやるより質のいいものが出来上がっていく。
うん、この家に生まれてよかった、ありがとう神様か誰か。
今日も今日とて、麺を油に沈めて、麺が含む水分を飛ばしていく。
飛ばした水分のところに、お湯が入ってくるから、あの麺になるんだと思うんだよねぇ。
料理人にやってもらったら、いくらかマシな乾麺が出来上がった。
これは、いけるか…?
どきどきと期待を胸に、麺をスープにつけてみた。
醤油の追いダレも入れて、3分待った。
「お嬢様、これが目指していたものなのですか…?」
「たぶん…」
ふやふや〜と麺が柔らかくなっていき、醤油スープの透き通り具合から、ラーメンには見えている。
……食べてみるか。
フォークしかないので、ラーメンの皿にフォークを突っ込んだ。
麺を引き上げて、じっと見つめる。
黄色では、ある。
「…いただきます」
そう言ってから、口に含んだ。
そのまま勢いよくツルッと吸っていく。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
スープも一口ごくり。
「どうですか、お嬢様?」
料理人の顔が全員こちらを注目している。
こんなに期待の目に、私は言葉を選ぶしかない。
「うん、この世界クオリティかな」
「???」
「自分で作るよりずっと美味しくできたよ、食べてみて?」
私はもう遠慮したいという気持ちなど持っていませんという笑顔で、他のみんなに勧めていく。
「…っ!不思議な味ですな」
「パスタとは違う」
「薄味かもしれませんなあ」
料理人たちは研究しがいのある新たな食べ物に出会ったみたいな楽しそうな雰囲気だが、私は釈然としなかった。
なんだこれ〜〜〜、近づいたけど遠いみたいな!?
これじゃない感、もどかしい!
あああっ、こんなに素晴らしく材料だけは揃っているのにぃ!!!
「企業努力って、すごぉい…」
涙目になりながら、前世の簡単に買えたカップ麺に思いを馳せた。
こんなことになるなら、気持ち悪くなるまで前世でカップ麺を食べておくんだった。
食べたいのに、食べられない。
それが一番苦しいなんて…。
「あああああ、カップ麺が食べたいよおおお〜〜〜〜!!!!」
私の絶叫とともに、カップ麺手作り研究会は続いていくのであった。
了
お読みくださりありがとうございました!
毎日投稿150日目。




