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第97話 自宅警備員の芽吹きの時。星霜の刻を洗う一撃!



ファングボア(牙猪)が暴れている。

不思議なことにコイツラの体には黒い粘液のようなものが貼りついていた。


「くそがっ、なんだよ。有名アニメのキャラかよ!」


ロッシェが叫んでいる。


「祟りじゃあ、山の神の祟りじゃぁぁぁ」


変なおじいちゃんが膝まづいてわめいている。

あ、あれがロッシェの言っていた「爺ちゃん」?


「どうすりゃいいんだよっ」


ファングボアは畑の上を走り回り、芋畑の芋を齧ろうとしている。


「せっかく育ってきたってのに」


ロッシェの悔しそうな声。


こうなりゃ、私が……


「ウェニ、イグニス(来たれ炎よ)、デヴォラ(貪り食え)、アドウェルサリオス(仇名す者を)……」


私は魔術を編む。

炎が私の周りを渦巻く。


あとは、狙いを定めて―――――


『彼を助けて』


ささやく声。


……え?


足元にいるのは「土の精霊グノームス」。

地中を魚のように泳ぐ精霊。


『彼は救いを求めてきたの』


私はファングボアを見た。

あのドロドロしたのが「瘴気」だって?

それにしては、密度が濃すぎるでしょ。


懸命に土を掘り返して「芋」を探している。

そして、一心に齧っている。


齧った後、少しだけ「瘴気」が剥がれ落ちる。


……そういうことか。


「神樹の枝(毛)」は「瘴気」を浄化する。

それで耕された土地の、そこで育った作物。


本能で自分を浄化してくれるものを探し出したのか。


それなら、やることは「死」を与えることではない。

それは、「彼」への救済ではない。


「ロッシェ!」


「何だよ、アンジェ」


「力を貸して」


「貸せって、どうやって」


「その『棒』を振るうの」


「はぁ?」


私の見立てが正しければ、ロッシェがこの世界に呼ばれたのには理由がある。


彼がそれを無自覚に回避しても、「執拗に転移をさせた」何者かがいる。

そして、その意図こそ、彼に与えられた「魔法」が示している。


確かに、誰にでもわかるような「チート」や「無双する力」はない。

けれど、この魔法は「世界を覆す」ものだ。


過去現れた「秩序」をもたらす「マクスウェルの悪魔」と対になるもの。

彼は「変化」を促し「循環」を促す、「流転の悪魔」。


それは()の悪魔とは似て非なる力。


「ロッシェ、あなたは『魔法』が使える!」


「え?マジっ!?俺、魔法使えるの?やった!これが王道の『ピンチに覚醒』ってやつか」

ロッシェは「ひゃほーう」と飛び跳ねる。


「つーことは、あれか?アンジェは俺を導く『ヒロイン』ってことか」


なっ!?


「なななななな、何言ってのよっ、このジャガイモ!」

「俺はジャガイモじゃねぇ、『ジャガイモ農家』だ」

「うるさい、うるさい。『自宅警備員』なんて土の中にいるみたいなもんでしょ!」


「うるせぇ。好きでやってたんじゃねぇ」

あ、怒らせちゃった。


「ゴメン、でもそのおかげで『闇の中で蓄えた力』が今、『芽吹くとき』なの」


「……なんだよ、それ」


「今、あなたは芽吹くときを迎えた。その『毒』で外敵を追い払うの」

ロッシェの表情が変わった。

やる気になってくれた。


「私に合わせて」

ロッシェが頷く。


「『棒』を構えて。振りやすい、好きな形」

ロッシェが右手に持った棒を水平に構える。


「私が言ったのと同じ言葉を言って!アイツに向けて振るうだけでいい!」


そう、ロッシェの「魔法」と神樹の枝の「浄化」が世界を変える―――


「いい?じゃあ、下っ腹に力を込めて、こう叫んで!」



――――――【星霜(エトス)洗滌カタルシス】!




「ま、そういうことよ」

何がそういう事なんですか?

そんな、「こいつ察し悪い」って顔されても。


「あ~、だから、この『棒』は魔術とか消すんですね」

「そういうこと」


「でも、僕は『魔法』の名前知らなくても消してましたよ?棒が触れるだけでセルフっぽく」


それを聞いたアンジェさんはばつが悪そう。

「どうしたんですか?」


「いや、別に何も言わなくても、ロッシェが棒と体の一部を接触させていたら『自動で発動する』の」


え?ちょっと待て。

じゃあ、ご先祖さまがカッコ良く決めてたのは?


「やっぱり、技名叫ぶのとか、盛り上がるからさぁ」

ケラケラと笑うアンジェさん。


この人も大概だよな。


「と、いうことで分かったっしょ?」

「はぁ……?」


「私と、『アナタの先祖』との馴れ初め」

……うぉぉぉぉい。


ということは、あなたは僕のひいおばあちゃんか何かですか?


「あ、勘違いしないでね。血縁とかそういう関係ないから」


あ、安心したぁ。


「だからって、アタシに言い寄らないでよ、ハル」

「え?ああ、はぁ……」


「元カレの話をしたのはケジメをつけるため」

そう言って寂しく笑う。


「だって私は……」

そう言って遠くでいまだに響く剣劇に目を向ける。


すごく、寂しそうでいながら、どこ切なさそう。


「【死の十字星グランド・クロス】!」

「【輝く神王のクラウ・ソラス】!」

「【千々に炸裂する閃光ブリューナグ】!」


閃光と爆音。

火柱が上がった。

いつの間に、そんな神話級の戦いになってんの!?

本気で世界を焼き尽くしかねないよ!


森が火に覆われる。


あ、あれ?

ざわざわと木々がうごめいて焼けたところへと枝を伸ばす。


『ぎゃーーーーーー!』


三人の悲鳴が聞こえる。


「バカねぇ、神樹の御膝下で、火器使えば制裁加えられるってのに」



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