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第96話 神樹の枝……毛?と恋の味??



「アンタ、一体何?」


「なにって聞かれても……『農家』?」


私の問いに青年が首をかしげる。

なんだ、コイツ。ふざけている。


「なんで声をかけてきたのよ」


「なんでって……難しい顔してたからさ」

そう言って首にかけたタオルで汗を拭く。


「ガキが難しい顔してるときってのは、腹が減ってるくらいなもんだろ」


「はぁ?」


「ジャガイモしかないけど、蒸かしてやるから食ってけよ」



私は切株に座って待った。


目の前では男が火に鍋をかけている。

鍋に入れたジャガイモを蒸し煮にしているのだ。


「ちょっと待ってろよぉ」


私はその様子をぽけーっと見ている。


「お前、名前は?」

「人に尋ねる前に、自分から名乗りなさいよ」


「あ~」

そう気のない返事をする。


「俺は『岩崎陽斗いわさきはると』だ」


「いわ、さきは…るーと?」

「変な切り方するな。いわさき・はると、だ」


「ふぅん」

「『ふぅん』じゃねぇよ。こっちが名乗ったんだからお前も名乗れ」


「アンジェ」

「アンジェな」


そう言って「イワサキ」は鍋の中を見る。

「水、ちょい足りなかったか」

そう呟く。


「水、出してあげる」

私は鍋を指さす。


『来たれ、水よ(ウェニ・アクア)』


ほんのちょっとだけの水を鍋の中に生じさせる。


「お~、お前『魔法使い』だったんだ。さっすがエルフ」


その言葉に私は身を固くする。

コイツも、他の奴らと同じ……


「すっげぇなぁ、一度でいいから『魔法』つかってみたいなぁ。せっかく『ファンタジー世界』に来たってのに、やってること元の世界と全然、変わらねぇ」


「つか、なんだよ。せっかくチート能力で無双できるとか思ってたのに」

なんだかブツブツ文句言ってる。


「アンタさ、何なの?」

「さっき、名乗ったろ。岩崎陽斗って」


「イワサキは、何者なの?」

「何者か……フフフ」

笑い出す。コイツ、もしかしてヤバい奴なの?


「俺は岩崎陽斗、異世界から来た!転生者!」


あ、やっぱりヤバい奴だった。



「異世界?転生者?何言ってるの?」


「フフフ、興味あるだろ?」

「いや、あんまり」


「そこ、興味持てよ!」

「あ~、じゃあ聞いてあげる」


「上から目線だな……まぁ、話せば長く」

「手短に要点だけをお願い」

「お前なぁ~」


それから「イワサキ」は説明してくれた。

こことは違う世界で「自宅警備員」というのをしていたという。


夜に「コンビニ」という店に行こうとしたところ水路に落ちて……

―――自力で這い上がったらしい。


その後、「トラック」とかいう荷車に轢かれそうになって……

―――辛うじて身をかわして助かった。


「アンタ、話長い。もっと短く」


「いや、気づいたらここに来てたんだよ」


……身もふたもない話。


「普通さ、転生ものってさ、こう、何?神様みたいなのからチートな能力とかさ、特典貰えるわけじゃない?」

なんの「普通」よ。


「それなのに、魔法も使えない。身体能力もそこそこ。知識も『あっそう』って感じ。言葉通じるってだけ」

あ、そう。


「しょうがないから、近くにあった小屋に助けを求めたわけ。そしたら気の良い爺さんが『いっしょに畑やるべ』ってさ」

渇いた笑い。


「それで、こうやって『農業スローライフ』満喫中ってわけだよ」


そう言っているうちに芋を蒸かし終わったみたい。


「おお、いいできじゃん」


そう言って私に「熱いから気をつけろよ」って芋を渡してくる。

あっつぅ!?

ほんと、熱いっ!コイツ、ばかじゃないの。


「悪い悪い」


そう言って手袋を貸してくれる。

最初から渡せよ。


「ふふ~ん。ジャガイモって言ったらこれだよな」

そう言って近くのバッグから包みを取り出す。


「至福のきゃろりー(カロリー)。ぶぅわたー(バター)様、だ」

……普通に言いなさいよ。


アツアツのジャガイモの上にバターを載せてくれる。

熱でバターが溶ける。

なんだか、いい匂い。


「遠慮なく、食え、食え」

なんか嬉しそうに勧めてくる。


私は一口かじる。

「はふっ、あひっ、あひっ、はふっ」


アツアツのジャガイモを口の中で冷ましながら転がす。

しょっぱくて、ちょっと甘いような感じ……


―――あれ?


熱くて涙目になったからかな?


―――え?おかしい。


涙が、なん、で……


私は芋を食べながら、何でか泣いてしまった。


「イワサキ」は何も言わなかった。

私が泣きながら芋を食べるのをただ見ていた。


そうして、泣き止んだころ頭を掻いて言った。


「いやぁ、びっくり。まさか泣くほど美味いとはな」


違うって。バカじゃないの?


「また食いに来いよ『アンジェ』」



「ねぇ『ロッシェ』」

私は畑を耕している彼に声をかける。


「イワサキ」というのは「岩」と「崎」という意味らしい。

あんまり馴染みがない。

だから「岩」からとって「ロッシェ」と呼ぶようにした。


「んだよ、あだ名じゃなくてちゃんと呼べよ」


「いいじゃない。変な名前よりか、こっちがいいって」

「変じゃない」


文句を言う彼を私は見る。

汗を流して黙々と働く青年。


変に気取らない。

気を遣わなくていい。

そして……私を特別な目で見ない。


「ねえ、ロッシェ、何か困ってることない?」

「特にないな」

「そう……」


「あっ」

「え、なになに?」


「そういえば、爺さんがさ、最近、畑荒らす害獣が出て困るって言ってたな」

なんだ、人の話か。


「俺もさぁ、アンジェみたいに『魔法』使えたらいいんだけどなぁ」

正確には「魔法」じゃなくて「魔術」なんだけれどね。


魔力さえあれば誰でも使えるような「すべ」として整えられた「魔術」。

世界が定めた「法」に則って限られた人しか使えないのが「魔法」。


ロッシェには魔力がない。

この世界の者にはみんな魔力があるのに、異世界から来たからなのだろう。

彼の元いた世界で「魔術」を使う人はいなかったらしい。


そして、ロッシェは気づいていない。

ロッシェは「魔法」を使えることに。


異世界から来た人を私たちは「悪魔」と呼んでいる。

それは、私たちよりも強い力を持っていたり、彼の言う「チート」を持っていたりする。

そして、「魔法」を使えるロッシェもきっと「悪魔」の仲間なんだろう。



「はい。これあげる」


私はロッシェに「棒」をあげた。


「なに、これ?」

「土寄せにいいんじゃない?」


「あ~確かに。重さとか長さとかちょうどいいなぁ」

「でしょう?」


実は神樹の枝を拝借して作ってきた。

あ、ちゃんと「神樹」には「いらない枝ちょうだい」ってお願いしてきた。


本人(樹)も「じゃ、これならいいよ」ってくれたのがこの棒。

人間でいうところの「枝毛」。

枝だけに。

ちょっと荒れきていたから落そうと思ってたんだってさ。


とはいえ、「神樹」の一部だったものだから、「瘴気」など悪いものを浄化する力がある。


だから、これで耕した畑の作物は「神樹」の恩恵を受けたも同じ。

清浄な作物になる。


でも、これはナイショ。

気づいたロッシェがびっくりするのが見たいから。



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日はどのような日でしたか?

体調を崩しやすい時期です。

体を大切に。


作中のアンジェさんみたいに、イヤ~なことも積み重なると疲れますよね。

皆さん、そんな時は温かいものを食べて、寝ちゃいましょう!

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