第96話 神樹の枝……毛?と恋の味??
「アンタ、一体何?」
「なにって聞かれても……『農家』?」
私の問いに青年が首をかしげる。
なんだ、コイツ。ふざけている。
「なんで声をかけてきたのよ」
「なんでって……難しい顔してたからさ」
そう言って首にかけたタオルで汗を拭く。
「ガキが難しい顔してるときってのは、腹が減ってるくらいなもんだろ」
「はぁ?」
「ジャガイモしかないけど、蒸かしてやるから食ってけよ」
◇
私は切株に座って待った。
目の前では男が火に鍋をかけている。
鍋に入れたジャガイモを蒸し煮にしているのだ。
「ちょっと待ってろよぉ」
私はその様子をぽけーっと見ている。
「お前、名前は?」
「人に尋ねる前に、自分から名乗りなさいよ」
「あ~」
そう気のない返事をする。
「俺は『岩崎陽斗』だ」
「いわ、さきは…るーと?」
「変な切り方するな。いわさき・はると、だ」
「ふぅん」
「『ふぅん』じゃねぇよ。こっちが名乗ったんだからお前も名乗れ」
「アンジェ」
「アンジェな」
そう言って「イワサキ」は鍋の中を見る。
「水、ちょい足りなかったか」
そう呟く。
「水、出してあげる」
私は鍋を指さす。
『来たれ、水よ(ウェニ・アクア)』
ほんのちょっとだけの水を鍋の中に生じさせる。
「お~、お前『魔法使い』だったんだ。さっすがエルフ」
その言葉に私は身を固くする。
コイツも、他の奴らと同じ……
「すっげぇなぁ、一度でいいから『魔法』つかってみたいなぁ。せっかく『ファンタジー世界』に来たってのに、やってること元の世界と全然、変わらねぇ」
「つか、なんだよ。せっかくチート能力で無双できるとか思ってたのに」
なんだかブツブツ文句言ってる。
「アンタさ、何なの?」
「さっき、名乗ったろ。岩崎陽斗って」
「イワサキは、何者なの?」
「何者か……フフフ」
笑い出す。コイツ、もしかしてヤバい奴なの?
「俺は岩崎陽斗、異世界から来た!転生者!」
あ、やっぱりヤバい奴だった。
◇
「異世界?転生者?何言ってるの?」
「フフフ、興味あるだろ?」
「いや、あんまり」
「そこ、興味持てよ!」
「あ~、じゃあ聞いてあげる」
「上から目線だな……まぁ、話せば長く」
「手短に要点だけをお願い」
「お前なぁ~」
それから「イワサキ」は説明してくれた。
こことは違う世界で「自宅警備員」というのをしていたという。
夜に「コンビニ」という店に行こうとしたところ水路に落ちて……
―――自力で這い上がったらしい。
その後、「トラック」とかいう荷車に轢かれそうになって……
―――辛うじて身をかわして助かった。
「アンタ、話長い。もっと短く」
「いや、気づいたらここに来てたんだよ」
……身もふたもない話。
「普通さ、転生ものってさ、こう、何?神様みたいなのからチートな能力とかさ、特典貰えるわけじゃない?」
なんの「普通」よ。
「それなのに、魔法も使えない。身体能力もそこそこ。知識も『あっそう』って感じ。言葉通じるってだけ」
あ、そう。
「しょうがないから、近くにあった小屋に助けを求めたわけ。そしたら気の良い爺さんが『いっしょに畑やるべ』ってさ」
渇いた笑い。
「それで、こうやって『農業スローライフ』満喫中ってわけだよ」
そう言っているうちに芋を蒸かし終わったみたい。
「おお、いいできじゃん」
そう言って私に「熱いから気をつけろよ」って芋を渡してくる。
あっつぅ!?
ほんと、熱いっ!コイツ、ばかじゃないの。
「悪い悪い」
そう言って手袋を貸してくれる。
最初から渡せよ。
「ふふ~ん。ジャガイモって言ったらこれだよな」
そう言って近くのバッグから包みを取り出す。
「至福のきゃろりー(カロリー)。ぶぅわたー(バター)様、だ」
……普通に言いなさいよ。
アツアツのジャガイモの上にバターを載せてくれる。
熱でバターが溶ける。
なんだか、いい匂い。
「遠慮なく、食え、食え」
なんか嬉しそうに勧めてくる。
私は一口かじる。
「はふっ、あひっ、あひっ、はふっ」
アツアツのジャガイモを口の中で冷ましながら転がす。
しょっぱくて、ちょっと甘いような感じ……
―――あれ?
熱くて涙目になったからかな?
―――え?おかしい。
涙が、なん、で……
私は芋を食べながら、何でか泣いてしまった。
「イワサキ」は何も言わなかった。
私が泣きながら芋を食べるのをただ見ていた。
そうして、泣き止んだころ頭を掻いて言った。
「いやぁ、びっくり。まさか泣くほど美味いとはな」
違うって。バカじゃないの?
「また食いに来いよ『アンジェ』」
◇
「ねぇ『ロッシェ』」
私は畑を耕している彼に声をかける。
「イワサキ」というのは「岩」と「崎」という意味らしい。
あんまり馴染みがない。
だから「岩」からとって「ロッシェ」と呼ぶようにした。
「んだよ、あだ名じゃなくてちゃんと呼べよ」
「いいじゃない。変な名前よりか、こっちがいいって」
「変じゃない」
文句を言う彼を私は見る。
汗を流して黙々と働く青年。
変に気取らない。
気を遣わなくていい。
そして……私を特別な目で見ない。
「ねえ、ロッシェ、何か困ってることない?」
「特にないな」
「そう……」
「あっ」
「え、なになに?」
「そういえば、爺さんがさ、最近、畑荒らす害獣が出て困るって言ってたな」
なんだ、人の話か。
「俺もさぁ、アンジェみたいに『魔法』使えたらいいんだけどなぁ」
正確には「魔法」じゃなくて「魔術」なんだけれどね。
魔力さえあれば誰でも使えるような「術」として整えられた「魔術」。
世界が定めた「法」に則って限られた人しか使えないのが「魔法」。
ロッシェには魔力がない。
この世界の者にはみんな魔力があるのに、異世界から来たからなのだろう。
彼の元いた世界で「魔術」を使う人はいなかったらしい。
そして、ロッシェは気づいていない。
ロッシェは「魔法」を使えることに。
異世界から来た人を私たちは「悪魔」と呼んでいる。
それは、私たちよりも強い力を持っていたり、彼の言う「チート」を持っていたりする。
そして、「魔法」を使えるロッシェもきっと「悪魔」の仲間なんだろう。
◇
「はい。これあげる」
私はロッシェに「棒」をあげた。
「なに、これ?」
「土寄せにいいんじゃない?」
「あ~確かに。重さとか長さとかちょうどいいなぁ」
「でしょう?」
実は神樹の枝を拝借して作ってきた。
あ、ちゃんと「神樹」には「いらない枝ちょうだい」ってお願いしてきた。
本人(樹)も「じゃ、これならいいよ」ってくれたのがこの棒。
人間でいうところの「枝毛」。
枝だけに。
ちょっと荒れきていたから落そうと思ってたんだってさ。
とはいえ、「神樹」の一部だったものだから、「瘴気」など悪いものを浄化する力がある。
だから、これで耕した畑の作物は「神樹」の恩恵を受けたも同じ。
清浄な作物になる。
でも、これはナイショ。
気づいたロッシェがびっくりするのが見たいから。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日はどのような日でしたか?
体調を崩しやすい時期です。
体を大切に。
作中のアンジェさんみたいに、イヤ~なことも積み重なると疲れますよね。
皆さん、そんな時は温かいものを食べて、寝ちゃいましょう!




