第92話 エルフからの『心のこもった』お届け物
外は寒くとも青空が広がる昼下がり。
復興の合間のひと時。
旧王家の五将のうち、三人が椅子に腰かけくつろいでいる。
エリーゼ・カナン・マクスウェル。
ティア・シュトゥーテ・フライン。
ガレット・グランハート。
過去の功績を知る者が見れば、それは壮観なものであったろう。
そんな彼女たちが広間で茶を楽しんでいた。
コレットも同席しており、焼き菓子おいしそうに食べている。
「お嬢様、おかわりを」
そう言って副官のジャンヌがティアのティーカップに紅茶を注ぐ。
「うむ」
ティアは頷くとシュガーポットを手にする。
ザザザザザザザザ
おもむろにシュガーポットをひっくり返してカップにぶちまける。
嫌がらせのような量。
もはや砂糖がカップから零れ、紅茶なのか砂糖の山なのか判別がつかない。
それをティースプーンでザクザクと混ぜる。
辛うじて個体から粘性のある液体に近づいた。
「ふむ」
表情を変えることなくティアはカップを手にし、口にする。
「うむ、よい茶葉だな」
(ちげーよ、そこじゃねぇよ!味わかってんのかよ、お貴族様よぉ)
ガレットが内心突っ込みを入れる。
エリーゼはと言うと、酒瓶を取り出した。
ドバドバとティーカップに注ぐ。
「うん、いい香りですね」
(いやよ、量!多くねぇか?そういう飲み方あるけどよ)
この二人の奇行にさしものガレットですら頭を抱える。
(コレットがまともすぎて安心するわ)
ため息をつきながら彼は専用のシェイカーを取り出す。
紅茶を移し替えてプロテインを投入する。
シャカシャカシャカシャカ
それから喉を鳴らして飲み始めた。
「ゴールデンタイム、逃すところだったぜ」
その三者三様をコレットは盗み見して思った。
(ガレット様、『類友』です)
ドアをノックする音がする。
◇
「なんかさ、荷物届いたんだけどさ」
フィンレーが広間に入ってくる。
エリーゼたちのところへ歩み寄る。
「あら、誰から?」
尋ねるエリーゼに答えず、視線を泳がせる。
「な、中にさ、その……手紙が入ってた」
フィンレーが震えながら手紙を差し出す。
「人の荷物を勝手に開けるのはマナー違反ですよ」
そう言って、差し出された手を見る。
手に妙な蔦が絡まっている。
「それ、どうしたの?」
「なんか、手紙から出てきた」
その言葉に全員が戦慄する。
蔦がさわさわとフィンレーの手を撫で続けている。
「こいつ、剥がそうとすると必死に絡みつくんだ……」
半泣きで言う。
「時々笑うし」
彼が言ったとき、葉を擦りあわせて「ケケケケ」と笑い声のような音を出す。
それから執拗に、愛おしそうに彼の手をさわさわ撫で続ける。
「こわいよぉ、他に何もしてこないから特にこわいよぉ」
全員が怖れ慄いているなかで、エリーゼが立ち上がる。
無言で近寄り「【浄化】」と浄化の法術を使う。
謎の蔦は塵のように消えた。
「ありがと……母ちゃんって呼んでいいっすか?」
尋ねたフィンをエリーゼが引っ叩く。
「で、このおどろおどろし怨嗟の念を放つ手紙は何?」
「呪いのアイテムか?」
みんなで開封する。
差出人はアンジェだった。
◇
前略
私は今、療養のため故郷に戻っています。
久しぶりの故郷はとてものどかで、静かで気持ちが良いです。
くしゃみをしてもひとりってどこかの詩人みたい。
ひとりさみしく過ごしていて、だあれも来てくれないの。
そんな私は、毎日お花とお話しして過ごしているわ。
とても心が洗われるよう。
だって、私を放置して楽しく過ごすあなたたちみたいな汚い心はないんだもの。
ね、先日はお手製のフラン(プリン)をつくったの。
お前たちの分もな。
とってもいい出来だからとっておいてあげるね。
こいつが腐る前に食べに来いよ?
全員の口に突っ込んでやるから。
あなたたちに会える日を毎日毎日、夢見ています。
勢いあまって生霊飛ばして呪ったらメンゴ。
草々
ハブられて寂しい
アンジェ・フラン・スカーレット より
追伸 ハティは何してるんだ?
こっちにも考えがあるぞ
◇
手紙を読んで全員が震え出した。
「やややや、ヤバい」
歯の根が合わない声でティアが言った。
「どうしてアンジェがいないかと思っていたら行き違いになっていたなんて」
「間が悪すぎだろ、ハティのヤツ」
ガレットも頭を抱える。
最強の将軍三人そろって怯えている。
「と、とにかくハティを連れてエルフの里に行かないと」
「そうだ、国が滅びる」
「共和政府など後回しだ。アンジェに比べれば塵芥も同じだからな」
◇
三人がバタバタとハティが寝ている部屋に入って行く。
「ハティ、起きろ!寝ている場合じゃないっ」
「アンジェが―――――」
言いかけた時だ。
「なに?僕の蕾神、アンジェが待っているだって?」
ハティがムクリと起き上がる。
アンジェ(天使)という名前なのに「神」とかややこしいことこの上ない。
しかも、魔力を使い果たして昏睡状態だったはずだ。
「ああ、エルフの里にいたのか。ならば、マイスイートホームだな」
ベッドから何事もなかったかのように起き上がる。
「どうしたんだい?みんな」
「あ、いや……なんか」
身支度を整え始めたハティにガレットが引いている。
「ハティ、もう大丈夫なのか?」
ティアの問いにハティは首をかしげる。
「それは愚問だよ」
「は?」
「蕾のためなら冥府からでも帰って来るのが、この僕さ」
爽やかに笑う。
「お姉ちゃん、時々ハティのそのタフさを見習いたくなる時があります」
エリーゼまでもが呆れている。
「はっはっはっ、姉上に褒められるだなんて光栄の至り。これは幸先いいですねぇ」
何も知らないハティは朗らかに笑みを浮かべる。
そう、この後彼を襲う悲劇など、微塵も想像していない―――――
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日1日、何かに頑張れた方。
今日1日、のんびり過ごした方。
今日1日、いつも通りの方。
生きてるだけで、ヴィクトリー!
本日、150pvを越えました。
覗きに来てくださった方々。
本当にありがとうございます。
また、本作をいつも読んでくださる方々、皆さんの支えで作者は頑張っております。
フィンくんに張り付いていた植物のように頑張りますので、よろしくお願いいたします。
さて、次回からは【エルフの森編】に移ります。
投稿は12:20と19:00の2回。毎日更新ですので、よろしくお願いいたします。




