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第91話 芋煮鍋、病み鍋、地獄鍋……黒猫クロエの宅急便


「みんな、いったいどうしたのさ」


僕は急に空から降ってきたフィンたちに尋ねた。


「いや、さ……」

フィンレーが答えようとしたときだった。


ぐ~


どこからともなく腹の虫の鳴る音がした。


「あはははは」

コリガンくんだ。


「ご飯にしようか?」

僕は提案する。

「やったー、ハルのご飯だ」

「助かったぜ、ホント。魔力切れの上にボロカスにやられたからさ」

「うむ。かたじけない」

なんでリムアン東洋の剣士みたいな言い方してるのさ。



僕は寒いエーレンブルグの屋外なので「芋煮鍋」にしようと提案した。

みんなはこれに賛同してくれた。


「もちろん、ハルのジャガイモ入れてくれるよな?な?」

フィンレーがおねだりしてくる。

これが、とんでもなく嬉しい。


「もちろん」

返事をすると「やったね」ってみんなが喜んでくれた。


火おこしはルーダが手伝ってくれるという。

「さ~て、お立会いぃ、このマナメタル製の棒を付属のプレートでひと擦りすると……」


シュバッ


火花が飛び散り、松ぼっくりに着火する。

「おお~、すごい」

僕が歓声を上げると、彼女は照れくさそうに鼻を掻いた。

「へへ~ん、いいだろぉ、ハルには特別に、タダでくれてやってもいいからな」

「え?いいの」

僕が喜んでいるとリャナンがルーダの肩に手を置いた。


「るーちゃん、そういうの、良くないよ?」

なんか、笑顔が怖いんですけれど。


「揉めてないで、ちゃんと火おこししてよ」

オーレが種火に枯草を加えて火を大きくする。



寒空の中、天に向かって湯気がほこほこと立ち上る。

僕たちは丸太に腰かけて鍋を囲んでいた。


僕たちの中央には特製「芋煮鍋」がある。

僕の作ったジャガイモはほくほく。

ニンジンやキノコ、リーキ(長ネギ)が入り、滋味深くなっている。

タロイモ(里芋)も入っているので、ジャガイモとは別のねっとり感がクセに。

豪華、牛肉が入っていることでコクと食べ応え満点に。

僕はソイソース(醤油)の甘辛味が好きなので、今回もその味付けで。


「ほぁぁぁ」

皆で声を上げる。

「はやく食べよ!」

リャナンが急かす。


僕は器に注いでみんなに配る。


『いただきまーす』


みんなで手を合わせてからいただく。


「あひぃ、あひぃ……」

「うま、うま~、はふはふ」


寒い中での鍋料理は最高だ。

空気は冷たいのに、みんなでぽかぽか温まり、汗をかく。


「ふう~、ふぅ~」

あ、リムアン猫舌だったね……ずっと冷ましている。



その頃、帝国の弓将、ランドルフ・エッガーはというと―――――


「あ、あれ?え?ええ?どういうこと?」


頭に「?」マークを浮かべて森をさまよっていた。


「俺、『どーーん』ってやったよな?」


重力の矢を放ってフェンリルナイトたちを圧潰したはずだ。

逃げ場はなかった。

黒い重力波に飲まれる様子を目視していた。


木々が薙ぎ倒され、地面がクレーターのように陥没している。

不発ということはない。


「わけがわからん」


頭を抱えた時だ。

寒風が吹く。


「ひ、ひ、ひぇっくしょ~い」


寒さに身を震わせる。

(さ、さむぅ~、あったかいお鍋が食べたぁい)



芋煮鍋を平らげると、僕は改まって聞いた。

「どうして空から降ってきたの?しかもみんなボロボロじゃない」


「ああ、俺たち『エガちゃん』に襲われたんだ」

「うえ!?」


忘れもしない、僕の手に大穴開けてくれたヤツ。

勝手に僕を「農家代表」として「猟師」との代理戦争の宣戦布告をしてきた。

そして迷惑にも「ライバル」認定まで。


「つうかさ、あんな化け物、ハルはよく撃退したよなぁ」

スヴェンが言う。


「ジャガーノート様だもんね」

アルセイスが茶化す。


「冗談きついよ!死にかけたんだから」

「そうだった。手を射抜かれたんだっけ……」

顔をしかめながらアルセイスが「ゴメン」と謝ってくる。

アルセイスって飄々としているようで実はかなり気にするタイプ。

隣でコリガンくんとオーレが青い顔をしている。


「でも、どうやって撃退したの?」

「う……」

僕は言い淀んだ。


「なんかあるのか?」

「いや……」

「言いたくないなら、無理に聞かないけれど」

「あ~、う~、大丈夫」


僕はそう言ってみんなに白状した。

ハティさんから貰った「団員証」。

それのおかげで、一時的にとはいえ、ハティさんの力を借りて倒したことを。


そうしたら、みんなで笑った。

「なんだ、それなら俺たちと同じじゃないか」


「ええ?」

「今回はコリガンが親父の力を借りて逃げることに成功したんだ」

「え?そうなの?」

僕はコリガンくんを見る。

「う、うん……」


「凄いよな。俺たち『こりゃ、死んだわ』って覚悟決めてたんだけどさ」

そう言ってスヴェンがコリガンくんを見る。

「なんだっけ、なんだっけ、コリガンっ最高にカッコいいヤツ」

フィンレーがコリガンくんをつつく。


「え、えっと【失墜した規範ロスト・パラダイムからの隠遁者アブスコンド】」

コリガンくんが言った途端、みんなで手を叩いて歓声を上げた。


「コリガン最高!」

「凄いよね!異空間に転移して現実リアルをシャットアウトするんだから」

「しかも、そっからの【逃避エスケープ】」

「空間転移のおまけつきだからね!」

「最強の防御と逃走スキル」

「コリガンらしいったら、らしいよ。『現実逃避』の具現化ってところがさ」

「よっ、無敵のひき……じゃない『自宅警備員』!」


ひゅ~ひゅ~とはやし立てながらコリガンくんを持ち上げる。

みんな、本当にいい奴なんだよな。


「ハルは、いつもの耕作か?」

「うん……まあ、ね」


「俺たちはハルと合流できてラッキーだったけどさぁ、こんな寒い中一人でって風邪ひくぞ?誰も手伝ってくれないのかよ」

フィンレーが言う。


「いや、まぁ……」

僕が一人でいる理由は言い辛い。


「ん~?なんか、怪しい」

リャナンが僕の顔を覗き込んでくる。

僕は咄嗟さに顔を逸らした。


けれど、その先にはリムアンがいて、彼女も僕を見ている。

反対に顔を向けた。


「おい、ハル。何があったんだ?」

ルーダも僕を見て、問い詰める。


「う……、その~、実は~」

とうとう逃げられなくなって僕は事情を話した。



ぱしゃぱしゃぱしゃ……


――――え?

頭に水をかけられる。

顔を上げると、冷たいリャナンの目にかち合う。


「これが、熱湯でなかったことを幸いと思え」


冷酷な声。

マジギレしている。

以前、ルーダに聞いた話からもこの手のことは彼女にとって鬼門だ。


「オレも、本気で引くわ……」

ルーダが自分の胸を隠すようにして離れる。


「あ、あの……」

僕が助けを求めようと周りを見ると、リムと目が合う。


「なに?『犯罪者』のハル君」


ああああああああああああ


僕は、もう、社会復帰できないのかぁ


フィンレーとスヴェンが僕の肩に手を置く。

「あ……」

やっぱり君たちだけは僕の味方なんだね……


「罪を償って出直すんだな。『知り合い』のハル・ロッシェくん」


うわ~~~~ん


「み、みんな待ってよ!そんな酷いよ」

コリガンくんがみんなに食って掛かった。

ああ、君って奴は!

真の友達だよ!

マブダチだよ!

心の友よぉぉぉぉぉ


「確かにハルは罪を犯したよ!」


え?してないって。なに聞いてたの?


「寝ている女性にイタズラしようとした『変態』だ!」


おい。誤解だって言っただろ。


「未遂とはいえ、その罪は償わなければいけない!」


いや、ちょっ……


「でもさ、言うだろ!『罪を憎んで人を憎まず』って」


……


「『変質者のハル』でも、見捨てずに『更生』させて、『再犯』しないようにするのが、人道的なんじゃないのかっ」


もう、もうやめてくれぇぇぇぇぇっ


『コリガン……』


コリガンくんの演説にみんなが涙ぐむ。


「そうだな、お前の言う通りだ」

「いくら変質者でも、見限っていいわけじゃない」

「ここで排除しちまったら、よけい悪い方にいってしまうかもしれないからな」

「更生の機会を与えるんだ!」

「去勢しちまえ」

「僕らはたとえ変態でも見捨てないぞ!」

「ハル、大丈夫だよ。僕たちが真人間にしてあげるからさ!」

いや、ありがたいんだか、誤解で暴走しているんだか……

ん?ちょっと待て。途中誰か非常にヤバいこと言ったような―――


草を踏む音がする。


あれ?この人……


「ちわ~、『クロネコクロエの宅急便』っス」


クロエ、だよね?

首都(王都)以来だけれど、語尾の「ニ」がなくなってる。

もしかして、キャラがブレてる?


深緑の色をした帽子と手袋。

「あ……はぁ」

フィンたちも何があったのかと首をかしげていた。


「お荷物、預かってきましたぁ」

そう言って一抱えある箱をよこしてくる。


「あ、ここに受け取りのサインお願いしまっス」


そう言って紙切れを渡してくる。

「え?あ、ここでいいの?」

フィンが手渡されたペンを使ってサインをした。

……え?いま、クロエ、笑った?

「ニヤッ」って。

怖いよ……


「ども、ありがとうございます~」


そう言って足早にクロエは去っていった。


「クロエ姉さん、何だったんだ?」

「エリーゼさんの部下になったんだよな?だったら合流してもおかしくないだろ」

「バイトしてるの?」

「ヤバいバイトじゃなさそうだけれど……」

「地道に稼ぐのが一番だよね。楽して大金は手に入らないよ」

「冒険者やってる僕たちが言う事じゃないな」


なんか、みんな適当なこと言ってる。


「この箱、どうする?」

ルーダが言ったときだった。


カサカサカサ……


箱の中から音がする。

「え?なに、これ、怖い」

リャナンが身を引く。


「送り先がエリーゼさんになってるな。んで、送り主が―――――」

フィンレーが固まった。

そう、そこには転移魔術でいなくなった「あの人」の名前があった。


「みんなにハブられて寂しい アンジェ・フラン・スカーレットちゃん から愛をこめて」


なんか、インクが滲んでいて、おどろおどろしい筆遣い。

しかも普通、送り状に書く内容じゃないよね?


……所々についてるあの染みって何?


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